PLAY08 昔話ととある男①
そして……MCOに時間を戻す。
□ □
あれからのことを口頭で、簡潔に話そうと思う。
サラマンダーさんの浄化が終わり、キョウヤさんとヘルナイトさん、そしてアキにぃと一緒にマースさんのギルドがある私が初めて目覚めたギルドに向かい、マースさんにゴーレスさん達のことを話した私達。
マースさんにそのことを話すと、複雑そうに顔を歪め、私達のことを見ながら一言――
「そうですか……、ですが、ここからは我らのお仕事。言伝ありがとうございます。あとは我々から伝えましょう。『もし彼らが戻ってきましたらギルド総出で復帰をお祝い致します。それまで時間がかかろうとかかるまいと、我々は彼ら冒険者達のことをお待ちしています』と」
と言って、マースさん私達のことを見てしっかりとした面持ちで言ってきた。
それを聞いた私やアキにぃ達はマースさんのことを信じて頷き……、マースさんの言われるがまま私達は私達ができることをすることに専念した。
その後は淡々と言うけど。
私達は準備を済ませてギルドを出てからダンジョンの前、そこは土系の魔物がいるところで、赤や黄色の地層が幻想的に見える岩山の地帯……『竜の通路』というところの前にある、駐屯地ギルドで私達は道具を取り揃えていた。
ヘルナイトさんはギルドの外で待機している。
曰く……。
『私は冒険者に毛嫌いされているらしいからな。村や町では一緒に入るが、ギルドの時だけは外で待機している。安心しろ。逃げたりなどしない』
とのこと……。
それを聞いたキョウヤさんはアキにぃをじっとジト目で見ていたけど、アキにぃはそっぽを向いていただけ。
アキにぃはアキにぃで、少しずつだけどヘルナイトさんを仲間として認めようと頑張っているみたいだ。
日は浅いけど、一言一言話しながらなんとか交流を深めていこうとしている。
それを見た私は我儘でこうなってしまったのに、アキにぃにはありがたい気持ちと、申し訳なさが込み上げてきた。
あ、そういえば話し忘れていたけど……、駐屯地ギルドとは、本来町にあるギルドの派生みたいなもので、ここでもクエストを受けたり、あとは道具を買うことができる。
町のギルドは休めるところもあるみたいだけど、駐屯地にはない。
そんな駐屯地で何かないかと探している時……。
ピンポーン!
と、私達の右手首についたバングルから音が鳴った。
私達はそれを聞いて、びくっと大げさに反応してしまう。
他の冒険者の人達は、お酒を飲んだり、ひそひそと話していたりとまばらだけど……、どうやら、この音はバングルを持っている私達にしか聞こえないみたいだ。
私達は大きなテーブルに座って、バングルをそれぞれ見る。HPとMPの帯が出ているところに、『CALL』のアイコンが大きく出ていた。
それを見て、みんなで頷きあう。
それは、押すの合図。
私達は、バングルの『CALL』アイコンを押す。
すると、HPとMPが出ていたそれが一瞬にして黒くなって、ブツンッというブラウン管のような音と共に、砂嵐が出る。
まるで古いテレビのように、ばちんっという音と共に映像が映った。
そこに映っていたのは……、監視AIだった……。
□ □
『お久しゅうございます。私は監視AI、冷静のレセでございます。さて、今日で三日。あ。申し忘れておりました。』
出てきたのは、レセだった。
レセは優雅に座りながら、お茶を飲みながら……、でも、口にカードを添えながら飲んでいるので、違和感しかない。
BGMも何かとクラシック……。レセはこっちに気付いたと思うと、手に持っていたカップをことんっとどっかに置いて、立ち上がったかと思うと、最初のセリフを吐いたのだ。
「なんでお茶……っ!?」
キョウヤさんは驚きながらも、苛立ちを募らせた音色で言う。
それはアキにぃも同じで、舌打ちが小さく聞こえた気がする……。
私はそれを聞きながら、レセの話を聞く。
レセは口元のカードの絵を狂気の笑みのそれに変えて、彼は目元も異常なそれに変えてこう言った。
『言い忘れておりました。今日で三日。それは正真正銘、現実の時間でございまして……、実を言うとですね、最初に飛ばした時に、こちらの不手際がありまして、あなた方を一日気絶させてしまっていたのです。ですので、あなた方がちゃんと活動したのは……、二日目。そして、今日が三日目なのです。これぞ……てへぺろっ! ですね。』
「……笑えない……っ!」
レセのまるで小馬鹿にしたような言い回しに、最後に口のカードを舌を出すそれにして頭を小突くレセ。
それを見てアキにぃは毒を低く吐く。
それを聞いていたキョウヤさんも頷いている。
私はそんな……、怒るようなものではないと、思う……。うん。うん?
そうしている内にレセはパンッと手を叩いて、紳士的に彼はこう言う。
『今日はなぜこのような場所を設けたのか。それはですね。言い忘れていたことがあったのです。』
後出しじゃんけんでごめんなさい。とぺこりと頭を下げるレセに、キョウヤさんは首をかしげて……、「言い忘れた、事?」と呟く。
するとレセは、カードを持っている手とは反対の手で何かを持った。
それは、今私達の右手首についているものと同じ……、白いバングル。
彼がバングルを見せながら、にこやかな笑みとカードにして言う。
『これ、今皆様が使っているバングルと同種のものです。これは便利なもので、皆様のHPとMP、そして私達のこの映像を見ることができる。そして死んだとしても『デス・カウンター』がでる仕組みが搭載されているものです。』
「……知ってるっつうの」
そうキョウヤさんは、レセの言葉に、うんざりしながら言うと、レセは『しかし。』と声を張り上げて、私達……、今この映像を見ている人に対して彼は言った。
『それが指すこと、それはこれがないと、HPやMPがわからない。映像が見れない。『デス・カウンター』が出ないということになってしまいますっ!』
「………………え?」
今、レセはなんて言ったの?
そう思っていると、レセはその同種のバングルを見せつけながら、口元のカードを邪悪な笑みのそれにして、目元も狂気に狂いに狂っているそれに変えて……、彼は言った。
『言い換えるのであれば、これが壊れてしまうと、そう! バッドエンド! 『デス・カウンター』が出ずに、ログアウト! となってしまうのです。』
平たく言いましょう。レセの言葉は至って冷静だ。
冷静なレセには、今呆然とそれを見ている私達は、一体どんな風に見えるのだろうか……。レセは手に持っていたバングルをぐっと握りしめて、そして力を込めていく。
ぴしぴしと罅割れるバングル。
そして、すぐに、バキンッと壊れてしまった。
ぱらぱらと砕けたバングルは、彼の掌から零れ落ちる。まるでそれは、雪のような、砂のような……、白骨のようなそれだった。
粉のように、パラパラと……。
レセは、邪悪な笑みに変えて、彼は言った。
『これは、あなた方の命そのものです。』
それを聞いてしまった私達……。ううん。きっと他の人達も聞いているだろう。レセは手についた破片をパンパンッとはたいて、彼は『今回のお詫びはこれにて終了です。さて、ここからが本題です。』と、レセは穏やかな笑みのそれに変えて、彼は言った。
『今回、たった一日で『八神』のサラマンダーを攻略したお方達がいます。』
その言葉を聞いて、私はどきりと、不安と興奮が混ざった、複雑なそれを抱いてしまう。
レセは続けて言う。
『攻略したのは……、おっと、お名前は伏せておきましょう。リアルで喧嘩になってしまうと心を痛めてしまいますので。今回攻略に参加したお方達には、一万L贈呈。そして豪華景品があります。後程お届けさせますので。しばらくお待ちを。』
レセの言葉に、私達は互いに顔を見合わせる……。
きっと、お方達というのは、私達のこと。
私達が、今回のMVPなのだろうか……。なんだろう、正直、そんな気はしない。むしろ、私は助けたい一心で行ったことだ。
一人なら、何もできなかったけど……。みんながいたから、私は、戦えたんだ。
そう胸に刻みながら、私はバングルに視線を戻す。
『そして私達は監視AI。皆様の、MCOの時に不正した、詐称したなどのデータがあれば、』
とレセは言って、くるっと口元のカードを変えた。
それは……、怒りを露にした犬歯が尖っているそれだ。レセは目元も苛立った目にして、彼は静かにこう言った。
『その場合は、こちらから赴いて、ペナルティを付与します。』
「ペナルティ……」
私は呟く。それを聞いたキョウヤさんは私とアキにぃに小声で顔を近付けながら聞いてきた。
「……お前ら兄妹って、何か詐称している……?」
「いいえ……」
「俺がそうしているように見える?」
「見えるよ。見え見えだよ。アキがすごく」
ハンナは違うから。そうキョウヤさんは付け加えて言う。
それを聞いた私は少し安心して、ほっと胸を撫で下ろす。
でもレセの説明は続いている。
『ペナルティの用途は様々。しかしこの世界はあくまでゲームです。節度と、ルールを重んじて……、遊んでください…………。』
と、邪悪に微笑みながらレセはすっと後ろに下がって、そして腕を振り上げて円を描くように回して、流れるように会釈をした。そしてレセは冷静に、切り上げの言葉を口にする。
『それでは、冷静のレセから、お詫びと報告。そして注意事項でした。』
それが言い終わると同時に、また砂嵐が画面を覆い尽くして、元のHPとMPの画面に戻ってしまった。