PLAYOUT REALPARTⅠ START(始まり)
今回のお話は外伝です。章の終わりにこの外伝は投稿されます。
リアルで起こった理事長の思惑や、色んな事が紐解かれるように書いています。
こちらも楽しんでいただければ幸いです。
サラマンダーの浄化を終わらせ、ハンナ達は次の目的地――『アムスノーム』へと足を進めている丁度その頃……。
今回はこの話から少し離れて、今現在――リアルの世界はどうなっているのか。
それを今から話そうと思う。
◆ ◆
現実世界では當間理事長の言うとおり、至って普通の時間が回っていた。
いつも通りの世界。
いつも通りの日常。
昨日ニュースにもなった『集団電脳昏睡事件』があったが、それはRCが責任を以て、誠心誠意に看病に勤しんでいるということもあって、その事件は朝報道され、昼少し報道されて――
終わった。
たった一日でそれは終わったのだ。
昏睡状態に陥った人達は、全員MCOをプレイしていた人達。そしてカウンセリングを行っていた人達だった。
それはある意味重大な事件に見える。
しかしそれをもみ消すかのように……、否。その事件を自分達の手で終わらせるかのようにRCは早急に対策し、実行した。
人は言う。
迅速な対応がすごいな。
人は言う。
流石は町を作り上げた創始者統括の会社。動きがよすぎる。
人は言う。
いい仕事をしてると……。
ほぼ全国、全世界がそれをいい方向に持っていき、安心し、認識し、誰かが目が覚めるのを待っているのだろう。
だが、ほぼの中にはそうでない人もいる。
それは、被害にあった家族や恋人、家族などがそれだ。
当たり前だ、大事な家族や肉親、恋人、子供、親が突然意識を失って、突然連れ去らわれてしまったのだ。心配しない方がおかしい。
RCに問い詰める人もいたそうだが、そのあとどうなったのか……。誰も見ていないらしい……。
そんな不穏が渦巻く現実世界。
ゲームの世界もそうだが、現実も現実で何かが起こっている。
それを今から追い求める二人が、今回の『REAL PART』の主役である……。
● ●
東京都内某所。
某所と言っても、僕にとってすれば都会の路地裏の、隠れバー的なところに、ひっそりと佇んでいる建物がある。ビルではない。強いて言うなら、そこは地下に続いている。
電光灯で明るくなる古い看板には、『B1 万探偵事務所』と、筆字で書かれていた。
僕はそれを見て、もう少しいいネーミングがあるだろうと思いながら、その地下に続く階段に、足を踏み入れる。
僕はそこでアルバイトとして働いている久郷改。
何とも豪勢な名前だろう。だが現実は稀有で、そして地味。
僕は階段を下りながら、自分の半生……という名の惨めでくそみたいな人生を語ろうと思う。
この階段無駄に長いし……。それに考えながら下りないと……、この地下の部屋はとある人が自殺をしてしまって、未練があるのか、いわくつきになってしまったところなので、考えないで歩くと何かが出てきそうで怖いから、僕は……、うん。そう。
考えをめぐらせて気を紛らわそうとしてるのだ。
では語ろう……。
僕はとある田舎……、と言っても、それほどど田舎ではなく、こそここ田舎なところで生まれた。
小さい時から僕はインドアで、いつも読書をしている子供だった。
中学生になった僕はパソコンに魅力を見ってパソコンいじりのネットヲタクに。
高校に入って、僕はそこそこいい人生を送っていたのだけど、ヲタクということもあり、同級生から根暗と言われ続け、高校入学1ヵ月……。引きこもりに。
そのあと僕は、パソコンの技術だけは達者で、いたずらで、いじめたやつらの個人情報をネットにばらまいた結果――捕まる。
当然の結果である。
そして僕は高校を自主退学せざる負えなかった。
そのあとは堕落した人生。というか……、ただパソコンをいじるだけの日々。
親は親で、僕のことを見損なったらしく……、捕まってから僕は家を出て行ったきり、連絡なんて取っていない。というか、僕自身、取りたくない。
めんどくさいし。
まぁ、そんな感じだった人生。しかしリアルな話……。金は必要だ。
ゆえに僕は就職先を探そうと思ったのだが、逮捕歴がある身で、パソコンが好きな僕は事務行に勤しもうとしたのだけど……、まぁ、履歴書を詐称しても、結局ばれる。
就職できない。あろうことがバイトできない。
そんな時、僕は万探偵事務所を見つけて、現在に至っている……。
長い長い階段。そして蛍光灯もついていない足場を、手すりなどない足場を壁伝いに歩きながら、僕は目的の場所につく。
おんぼろで、黴臭いドアの前に立って、僕ははぁっと溜息を零す。
それもそうだ……。僕はアルバイトで来た反面、こんなブラック企業みたいなところに、自給千五百円欲しさに入ってしまったのだ。しかも即採用。
そして即後悔。
何で僕はこんなところに入ってしまったのか……。あぁ、パソコンだけの生活に戻りたぃ……。
そう思いながら、ざらざらしている錆びつきすぎているドアノブを握る。
そしてきゅっと捻って――
――がちゃ。
「?」
――がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ。
――がちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃがちゃ!
……僕は、捻っても捻ってもびくともしないドアを見、ドアノブを見て……。
「――開かねぇッッッ!!」
と叫んだ。
幸い、ここの人通りは少ないから、思い切って叫ぶことができる。
だから僕はそれを見て、なんだこれ! というイラつく感情を爆発させて怒鳴る。
「なんだよこれ! 鍵かかってんのかっ!? もう仕事の時間だろうがっ! なんだこのオープニング! くっそどうなって……っは!」
僕は少しばかりアウトな発言をしてしまったが、すぐに思い出す。
こんな時、いつもあの人は……。
そう思ってすぐに降りていた階段を、今度は急いで駆け上る。
僕は体力には自信がなかった。しかしこんなことが何回もあったおかげで、体力はついた。
だから、普通に降りて三分のところ――上るのに一分三十秒しかかからず、僕はすぐに地下に続く階段の隣にある白いドアをどんどんっと叩いた。
そこは地下の探偵事務所の上の階の、正真正銘の、隠れバーのドアを叩いた僕。
どんどん叩いていると、ドアの奥から『はぁ~い』という、野太いけど猫撫でた声が聞こえ、ドアの鍵を開く音。それをきいた僕は、すっと後ろに引く。
白いドアを開けて、上についていたベルの音が聞こえる。『ちりんちりん』と、いい音がするベル音だ。
ドアから出てきたのは……。ピンクのティーシャツにきわどい黒いジーパン。真っ赤なピンヒールに薄ピンクのエプロン。料理をしていたのかはわからない。手にはおたまを持って小指を立てている。両手には赤いラメ入りのネイル。そして……、真っ赤な唇……。
まぁ、そこまでなら、少し化粧が濃い人という認識だろう……。
しかし……、ここはただの隠れバーではない。
その人は……。丸坊主で、目元パッチリのメイクをして、たらこ唇で化粧が濃すぎる……。
丸坊主オカマが営んでいる……。オカマバーのオーナーで、僕たちのよき理解者……。
「あんらぁ~! 改くんっ! 朝からいらっしゃいっ!」
うふっと微笑むオーナー……、元老院金継乃丸さん……。
本名です……。
そのうふっとしながらウィンクやめてください……。何度も見ているが、これだけは慣れない……。
そう思っていると、元老院さんは僕を見て……。くすくすと微笑みながら、何でも御見通しと言わんばかりに、お店の奥を指さして言った。ウィンクを付け加えて……。
だから気持ち悪……。
「うふふ! わかっているわよ。丁度呼びに行こうと思っていたの。あなたの上司、あそこで昨日の三時まで飲んだくれていたから」
「はい予想通りの展開! でもありがとうございますっ!」
ほらやっぱり!
こうなることは予想していたよ!
というか、仕事の報酬が入った後は、絶対に飲むからな!
この腐れ上司は!
そんなことを思いながら、僕はドア越しに机に突っ伏し、ぐーすかと豪快に寝ている上司を睨みつけて、元老院さんの間を通って、その人の腕を掴んだ。
そう。
この人こそ、僕の上司である。
足のかかとまである長くて黒い髪。顔は整っているけど性格はくず。くそ。最悪な人。
女帝ではなく悪女。ド悪女の時代遅れ。
言い過ぎかもしれないが、事実である。
この人こそ、『万探偵事務所』の所長である……。
蛇崩実地莉さんである。
● ●
事務所について、僕は先輩の懐から合鍵を取り出す。決していやらしいことをしているのではない。
こうでもしないと入れないのだ。
僕はドアの鍵穴に鍵を差し込む。今の時代だと目の網膜で鍵が開く虹彩認証。あとはパスワードの鍵に防犯性が高い新型の鍵が主流だけど、この事務所が使う鍵はそんな鍵ではない。
むしろそんなことに金をかけることができないので、ここだけは昔あった鍵を使っている。
いうなれば……、古すぎるアンティークキーのようなもので、ドアの奥から『かちゃん』という音が聞こえた。
ドアノブに手を添えて、捻ると――がちゃっと難なくドアが開いた。
「はぁ……、もういやだ……。こんな生活……」
ドアを開けて、事務所に入る。
そこは、今の時代なら、すごく古臭い印象のそれだ。
今の時代は、ハイテクが主流なのに、ソファや事務の机。ここまではいい。
今の時代ノートパソコンか、最新なら液晶版ノートパソコンが主流だ。しかし事務所に置いてあるのは、僕が昔小学校で使っていた業務用で、箱形のパソコン。
電話だって、スマホが古いっていうのに、なんだか電話ボタンがぐるぐる回る黒い電話。
室内も黴臭い。
そして仮眠室はもっと黴くせぇっ。
給湯室の設備は最悪。コンロなんて、古くても電気なのに対し、古臭いと言われても何とも言えないガスコンロ。しかもポットがなく、お湯はやかんで沸かす。
蛇口だって、タップでお湯か水を選択できるものがあるのに、ここの蛇口は捻ってやるそれ。しかも錆びている。
簡潔に言うと、古い事務所。
それだけの部屋だった。
「ん?」
僕の肩に担がれていた蛇崩さんが身じろきした。僕は蛇崩さんに「気が付きましたか?」と聞くと、蛇崩さんは頭を上げて、周りをきょろきょろと見る。そして僕を見て……。
「…………おぉ。お前どうした? 今日は」
「それ、飲んだ次の日のご定番のセリフですけど……、今日も昨日も、仕事で来ているんですけど……」
「ああ、そうだった」
蛇崩さんは、昨日まで飲んでいたということが、嘘のように僕の肩からするりと手を引きぬいて、腕を伸ばして「んんんんんんんんっ!」と、唸り声をあげていた。
蛇崩さんは、お酒にめっぽう強い。
この人と仕事を共にして、お酒で酔ったところなんて、見たことがない。それくらい強いけど……。
「久郷ぉ。今日の依頼はー?」
この人は……。
そう思いながら、僕は溜息と共に、仮眠室の近くにある自分の机にある最新式のパソコンを立ち上げて、メールのアイコンをクリックする。
ここは無線が効いていない。ので読み込みとか、そう言った動作が遅すぎるのだ。
「まだか~」
この人は……っ!
僕はたった今、給湯室の古ぼけた冷蔵庫に入っていた麦茶を取り出して、ごくごくとコップに入れないでそのまま飲んでいる。
それ、あとで僕も飲もうと思っていたのに……っ! あとで蛇崩さんのプリン、無断で食おう。
と思っていると、メールの画面になっていたので、僕は受信ボックスを見る。
カチカチっとクリックして……、見て……。
…………まぁ。
僕は蛇崩さんに言った。
「ゼロですね」
「えぇーっ! マジかよぉ!」
蛇崩さんはまた麦茶をごくごく飲んで、そして空になってしまったそれをことんっと置いて「作っておいて―」と、蛇崩さんは着ていたスーツの上着を抜いて、ソファに寝っころがって、足を組んで「どうしよーかなー? もう家賃やべんーんですけどー」と、さほど慌てや様子もなく大声で、わざとらしく言った。
よし、マジで後でプリン食おう。
僕はパソコンを操作しながら、蛇崩さんを見ないで言う。
「家賃って、いつも報酬受け取って、それをお酒に代えてパーにする人に言われたくないです。少しは自粛してください」
「飲みたいもんがあったら飲まないと損だろうが。人生損するとダメっていうだろう?」
「逆にあなたは損した方がいいと思います」
「なにそれ? まるで不幸になれって言っているようなもんだぞそれ。あー。お前後で地獄見るタイプだー」
「それは蛇崩さんです。仕事ないのならこの事務所掃除するとかないんですか?」
「めんどくせー。久郷願いシマース」
「シマセーン」
この探偵事務所は、いつも大赤字。
何時潰されてもおかしくないのに、今もなおあり続けている。
そして仕事など一ヶ月に一つか、多くても三つ。
しかもその仕事は犬や猫の捜査。
はっきり言って、割に合わない。
僕はこの仕事をして、はや三ヶ月。なのに給料は貰ったことなどない。
自給千五百円。労働時間は朝十時から初めて八時間。一日で一万二千円なのだ。三ヶ月で百八万円貰えるはずだった……。なのに、こんな大赤字生活。
僕はもう諦めている。こんな自堕落な先輩というか、上司なのだ。金など貯まらない。
貰えたとしても、すべてをお酒に注ぎ込んでしまう――金銭感覚がマヒっているくそ女なのだ。
そんなことを思いながら、僕はパソコンに目を通し、暇つぶしに無料動画配信サイト――UNOTUBEを開く。
そんな中、「なぁ」と、蛇崩さんはふと、突然こんなことを言い出した。
この人は、本当に突然言うのだ。
僕は今急上昇動画をクリックする。
蛇崩さんは言った。
「昨日の『集団昏睡事件』あれどう思うよ」
その言葉を聞いた僕は、今まさに、その渦中にいるRCの謝罪会見の動画を見ながら、僕は思ったことを言った。
「……別に、どうってことないですよ。ただその事件ってRCの不祥事でこうなったんでしょう? そのことを償うために、今まさに治療に励んでいるんじゃないんですか?」
「まぁ。それが普通の考えだ。久郷。お前のその普通脳みそがほしいぜ」
「褒め言葉として、受け止めないです」
パソコン以外普通ということは、僕も重々承知の上。そして受け止めている。
しかし蛇崩さんは「しかしだな」と言いだして、寝っころがりながら彼女は言った。
「なんかさ……、おかしいよな? これ」
「どこがですか?」
「女の勘が囁いている。これは事件だって」
「……何とも、へんてこな勘ですね」
そんなことを言いながら僕は謝罪動画を見る。
そこには、理事長でもある當間理事長がカメラの前で謝罪の言葉を言っている最中だ。
それを見るに、どこも異常なところはないな。というか、蛇崩さんの金欠が幻覚を呼び起こしたか、ここにいるという幽霊もどきに憑りつかれたか……、どちらかだろうな……。
すると――
びぃーっと壊れかけのブザー音が聞こえた。
それは、玄関にあるブザー。
「!」
「あ! 噂をすれば何とやら!」
と言って、蛇崩さんは上着を着替えて、珍しく自分から玄関に向かって行く。
今までは僕がその担当だった。それなのに、蛇崩さんはスキップを踏みながらドアノブに手をかけ、捻って開ける。
すると――目の前には……。
「え?」
僕は、あまりの登場に、あまりにも唐突に、あまりにも……、何食わぬ顔で現れたその人を見て、愕然……、いいやっ! 驚きすぎて放心しかけた。
「いやー! 来ると思っていましたよー。旦那」
「その旦那はやめてほしいのだがな。ここへは秘匿で来たんだ。あまり騒がないでほしいものだ。ん?」
「あ、気付いちゃいました? 実は助手を手に入れたんですっ!」
「……蛇崩くん。君、何か所主君に伝えたかい?」
「いんや! これからですとも旦那!」
「……まったく、君のそう言った大雑把なところ、直した貰いたいものだ」
……、なんだか親しげに話している……。そう思っていると、その人は僕を見て頭を下げた。
顔にできた大きな横一文字の傷は目の下にできていて、白髪交じりの髪にたくましい顎鬚。服装はスーツだけど、僕はよくニュースでこの人のことはよく見ていた。
その人は僕に向かって自己紹介をした。
「初めまして、助手君。私は警察庁長官の、霧崎源武だ」
……警察庁トップの……、霧崎源武さんが、今僕たち一般ピーポウの、圧倒的最底辺の僕らの前に、姿を現したのだ……っ!
● ●
「は、はいっ! 玉露ですっ!」
だんっと、お客様用の湯飲みに、この事務所では最高級のお茶でもある玉露を出した僕。それを見て、おんぼろソファに座っていた警察庁長ははははっと笑いながら――
「いいよ。そんな堅苦しい。私は今依頼人としてきているんだから」
と言った。
「し、しかし警察庁の総司令であり提督でもある貴方様がこのような黴臭くてあまりにも文明から取り残されているこの空間に、わざわざ足を運ぶなど思いませんっ! この自称探偵に弱みを握られたのですかっ!?」
「蛇崩君……、君はいったい彼に何を吹き込んだんだい?」
「これは彼があまりの情報量によってパンクしてぶっ壊れているだけです。気にしないでくださいな旦那」
……二人はいたって冷静に会話をしている……。
僕だけがまるで場違いなKY男みたいじゃないか……っ!
しかし、そんな中。警察庁長は所長机に座っている蛇崩さんを見て、こう切り出した。
「蛇崩君、君は昨日の『集団昏睡事件』を、どう思っている?」
「?」
あれ? なんだろう……。
なぜ警察のトップが、そんなわかりきったことを? そう思っていると、蛇崩さんは「そうですね」と言って、腕を組みながら椅子にもたれかかって……。
「きっと、何かがあると、私は思います」
近くで現場を見ていないのですが。と付け加えて、言った。
それを聞いていた警察庁長はふむっと言って……。腕を組んで考えてしまう。
僕は、こんなもう終わった事件に、なぜそこまで首を突っ込むのかわからなくなり、とうとう僕は警察庁長に言った。
「な、何言ってんですか……っ。その事件はRCがすべてを請け負うってことで、もう解決したも同然じゃないですか。最初から事件なんてないのに、なんでそこまで……」
「助手君」
警察庁長は僕の話を遮り、僕を見て聞いた。
その眼はさっきまでの穏やかな笑みではない。その眼には真剣さ、冷酷さ、そして、静かな怒りが込められている。僕はその眼を見て、たじろいてしまった。
警察庁長は僕に聞いた。
「君は、その事件のことを、どこまで知っているんだい? 言ってみなさい」
「は、は……、はい」
唐突に聞かれ、僕はおっかなびっくりになりながらも、思い出しながらぽつりぽつりと言う。
「えっと、RCで運営しているVRMMO……、MCOが、何らかのウイルスに冒されてしまいました。プレイしていた人達は、電脳化した精神データに異常なバグが入りこんで、精神データが肉体に戻らないという不具合が発生し、それに気づかないまま、MCOはおろか、カウンセリングを行っていた人達が昏睡状態に陥った。RCはその異常事態に気づいて、早急にRCの病棟に運んで、治療を行っている。でしょ? どこにも異常がないような……」
「いいや。いくつかあるだろうが」
蛇崩さんは言った。天井を見上げ、彼女は僕達に説明した。上を見上げているけど……。
「まず一つ。精神データに不具合。これはどういうことなんだ? 今までだってフルダイブ型のVRだってあったが、そんな不祥事はあまりなかった。人が使う=安全性が追及される。厳密な実験だって行われているんだ。それが天下のRCが、そんな不手際起こすと思うか?」
「そ、それは……」
そう言われると、蛇崩さんの言うとおりだ。
今の時代はVRが主流の時代。特に人気なのは、昔あったとされるMMOのリアルヴァーチャルバージョン。
それは人体にも影響を及ぼすとされ、法律でもそこは手を抜いてはいけないところだろう。
「二つ目」と蛇崩さんは言った。
「そんな不祥事に気づかないまま、カウンセリングを行っていた人も昏睡状態になる。カウンセリングって、誰かが必ず近くにいるはずだよな?」
「あ、ええ。言葉のキャッチボールのようにするところもあれば、監視としているところもあると聞きます……」
「そうだよな? それなのに……。誰も、何も気づかないまま、カウンセリングを行っていた人たちだけが昏睡? そんなバカげた話があるか? というか、その主治医だって昏睡状態になるのに、変な話だろう? カウンセリングを受けていた患者だけが、昏睡になるって」
「………………あ」
蛇崩さんに言われ、僕はだんだん疑問を抱く。
それもそうだ。
ドキュメンタリーでも、カウンセリングは一対一の会話で行われている。
それがVRの世界で行われていたのなら、主治医だって昏睡状態になるのは至極当たり前なのだ。
しかし――
いや、何かの間違いだろう……。
「も、もしかしたら……、報道の間違いなのかもしれませんよ……? もしかしたら、主治医だって昏睡状態になっているかも……」
「助手君。君は案外頭が固い。そして、簡単に受け入れないようだ」
浅いね。経験が。
と――警察庁長が僕を冷たいまなざしで見た。僕はその眼を見て、びくっと肩を震わす。
それを見た蛇崩さんは、僕を心配してなのか、はたまたからかっているのか、カラカラ笑いながら「旦那。勘弁してやってくださいな。そいつまだ三ヶ月しかやってないし、この仕事初めて」と言った。
ん? この仕事? 何を言っているんだ? 仕事は何回か手伝って……。
そう思っていると、今度は警察庁長が「三つ目の違和感は」と言った。
「RCの対応の早さ。だ」
「…………いや」
僕は首を捻って、警察庁長に不躾ながらこう言った。
大変失礼だけど、僕は言った。
「それは当り前でしょうが……。だって、集団昏睡になって、それで大変な迷惑をかけている。負い目を感じて病棟に連れて行くことが」
「あまりにも、タイミングが良すぎる」
「?」
ああ、もう頭がこんがらがってきた……。
僕はそう思いながら、警察庁長に聞いた。
「タイミングって……、なにが、ですか?」
「RCに緊急搬送するタイミングだ」
「緊急だから、それは至極当然なのでは?」
「……実はな」
と、警察庁長は腕を組みながら、俯きながら、重苦しい音色でこう言った。
「私の息子達が、MCOをプレイしていたんだ」
「あらま。初耳でっぜ」
蛇崩さんがふざけ半分で言う。それに対して怒ることもなく、「まぁ」という素通りをして聞いていた警察庁長は「そうだな。初めてだったな」と弱々しく零す。
そして――
「MCOをプレイし、二十二時頃だったかな? 部屋の明かりがついていたんだ。私は息子の部屋に入って、声をかけたんだ。『ゲームをする前に電気ぐらいは消せ』とな。しかし……、息子は……、翔真は何も言わなかった。私は何か嫌な予感を感じたんだ。息子のゴーグルをとった瞬間、目を疑った。まるで……、精神的に死んだような顔をして、私を虚ろな目で見ていたのだから」
それは、当事者にしか知らないことで、僕達にとってそれは初めて聞く情報だった。
警察庁長は続ける。
「その時だったんだ。家内と一緒に、息子達の目を覚まそうかと意見を言い合っていた時、突然上り込んできたんだ。黒スーツの、RCの社員が」
「「っ!?」」
その言葉を聞いた僕と蛇崩さんは、驚いてしまった。蛇崩さんに限っては、椅子から立ち上がっていたし……。すると、警察庁長はそのあとのことを話した。
「社員の者達は何も言わず、息子達を運んでしまった。有無を言わせず、まるで拉致するように」
「それは……」
警察庁長の言葉に、蛇崩さんは顎に手を添えながら言った。冷静に、分析しながら――
「タイミングというか、見ていないとできないことですよね?」
その言葉に、警察庁長は「ああ」と頷き、「もう一つある」と言って僕達に言った。
「當間市立汐乃路高等学校の体育教師――郷戸蔵臼という男がいたのだが、その日。カウンセリングの火の訓練をしていたのだが」
「火?」
「なんでも、彼は左太腿にはひどい火傷を残しているらしく……、そのために克服しようとしていたのだが、午後になって、郷戸は意識を失っていたらしく、午後からの体育の授業は自習となったそうだ」
「へ? 意識を? それって……」
と僕が言うと、警察庁長は頷き。
「……息子達と同じ現象になっていた」
と、重い口を開けるように、苦しい音色で言った。
そして……。
「そのあと、教師の一人が病院に電話して、救急車を呼んだそうだ。その救急車に乗せようとした時、とある一台の車が来て、郷戸を預かると言い出した。それが――」
「R、C……」
蛇崩さんの声が、ひどく……よく聞こえた気がした……。
それを聞いて僕の中の疑問が、だんだんしこりが大きくなった疑問に変貌を遂げていく……。
話を聞いているからに、明らかにおかしい。
それはまるで……。
「……こうなることを、想定していた……?」
蛇崩さんが核心をついた言葉で言った。
それを聞いて警察庁長が「そうだな」と言って、ぱんっと膝を叩いて、僕達に言った。
「依頼の内容、察したな? 万探偵事務所の二人よ」
警察庁長は僕達を見て、真剣に、それでいて便りは僕達しかいないようなそんな言い回しで言う。
「警察でも、RC関連の事件には手が出せないんだ。どうやらお偉いさんのバックに、RCと深くつながっている輩がいて、容易に手が出せない。ゆえに今回の不可思議な事件は、君達にしかできないんだ」
お願いだ。報酬は後でゆっくりと聞く。
そう警察庁長は言って……。深々と、頭を下げた。
「今回の『集団昏睡事件』。その真実を解き明かしてほしい」
それを聞いた蛇崩さんと僕。僕は蛇崩さんを見る。すると蛇崩さんは、今まで見たことがないような、にっと口元に弧を描いた、邪悪な笑みで、彼女はおもむろにパァンッと自分の両手と拳を叩きあい……。
「受けましょうっ!」と、豪快に言った。
● ●
それはまるで、警察ドラマのような物語。
僕と蛇崩さんは。警察庁長の依頼でもある……『集団昏睡事件』の真実を暴いてほしい。もとい……。
RCの闇を暴け。
そんなドラマみたいなことがアルバイト歴三ヶ月の僕に降りかかるなんて、今まで思ってもみなかった。
ゲームの世界ではない、リアルで奮起する僕達……。
圧倒的最底辺の屑人間コンビ。
パソコンヲタクで幽霊など信じたくないけど信じてしまうチキンボーイの戦力外通告の僕――久郷改。
そして、頭の中くそで悪女でヒドインでクソイン。金欠で女子力ゼロの蛇崩さん。
そんな二人で、僕達は創始者とも言われて、その人が築き上げた会社のすべてを明かす……。
僕は、思った……。
絶対無理だっっっ!!!