PLAY74 BATORAVIA BATTLE LOYAL!FINAL(仮初の終り)④
ひぃっやっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっ!
どんどん最下層に向かって行く階段を下っている最中、そんな木霊が階段を駆け上るように響き渡っていく。
まるでスピーカーで大音量のそれを耳元で聞かされているかのように、鼓膜を揺らす。
ぐわぐわと揺らされ、それを聞いた私は走りながら耳を塞いでしまう。
肩にいたナヴィちゃんも顔を顰めて、うるさいというそれを表しながら「ぐぎゅぅ~……っ!」という唸り声を上げる。すごいしわくちゃな顔をして……。
前で走っていたコノハちゃんも耳を塞ぎながら「うーるーさーいっっ!」と言う声を上げて不快なもしゃもしゃを出していた。
ヘルナイトさんはいつもと変わらないけど、Drの木霊の声を聞いて顔を上げて走りを続けている。
内心……、うるさくないのかな? という疑念を抱えながら走っていると……。
その声もどんどん小さくなっていき、やっと耳に不快感から解放されてきた。まだ声は響いているけど、それでも不快と思えるような音量で無くなった。
それを感じた私は、そっと耳から手を離し、コノハちゃんも手を離しながら「うるさかったー!」と、ぷんぷんっと怒りながら頬をプクリと膨らませていた。
それを聞いていた私も頷き――
「そうだね……。耳が痛い……気がする……」
と言うと、それを聞いていたナヴィちゃんも『うんうんっ』と体を使って頷きながら鳴いていた。
私は最下層に向かうにつれてどんどん暗くなっていく階段の下を見降ろしながら、走る速度を落とさないで走りを続ける。走りながら私は小さな声で二人に向かってこう言った。
「……でも、この下には、きっとDr……、じゃなくて、コノハちゃんの、おじいちゃんが……」
「うん……。それは確かだよ。それにおじいちゃん、すんごく興奮している」
「……あれ、興奮の笑いだったんだ……」
「うんっ! しかも鼻血が出るほどの興奮だよ! あれだと誰の話も聞かないってお母さんが言っていた! お姉ちゃん――おじいちゃんのこと知っているかもしれないけど……、おじいちゃんっておじいちゃんなのに我儘なところとか自己中なところがあるし、他人の不幸がコノハが好きなプリンよりも大好物っていうくらい大好きな人だから……、よーちゅーいした方がいいよっ!」
「うん……」
「?」
コノハちゃんは振り向きながら私に向かって言う。
私のことを心配しての言葉を聞きながら (多分私の方が年上のはずなんだけど、そうだとすれば年下に心配されてしまう不甲斐なさを感じて、少し気持ちが落ち込んでしまったのは私だけの話……)、私は内心驚きと困りの気持ちでコノハちゃんの後姿を見る。
驚きはDrのあの笑いが興奮していること、そして……、コノハちゃんの心配をよそに、この帝国に入る前にDrに出会い、異常でただならない恐怖を植え付けられたことを言いたかったけどそれは一旦喉に通して、そのまま胃の中で言葉を消化した……。
言葉にして言ってしまったら――なんだか申し訳ないと思ったから……。ごめんね……。
するとそんな会話を聞いていたのか、ヘルナイトさんは凛とした音色で――
「この階段を下りた先にDrがいるならば、彼らの目的を私達が代わりに達成させなければいけない。それと並列して――ガーディアンの浄化もし、この世界を浄化しないといけない」
そうヘルナイトさんが言った言葉を聞いた瞬間、私ははっと息を呑んで思い出すと、その言葉に対して私はこくりと頷いて――
「はい」と、返事をした。もうここに来るまでの間、何度も決意を固めた面持ちで、私は言う。
そう。
この帝国に来た理由は――セレネさん達やボルドさんの目的達成のために、Drとアクロマの拘束をすること。
そしてこの国で企てている『秘器騎士団』を阻止するために、その核となる『疑似魔女の心臓』を私の『大天使の息吹』を使って浄化して、この国の偽りに彩られた平和を真の平和に戻す。
もちろん――当初の目的でもあるガーディアンの浄化もする。
なんだろう……、何か忘れている気がするけど……、気のせい、かな?
うん。気のせいだ。きっと色んな事がありすぎて忘れている気がすると認知しているだけだ。うん。大丈夫、なにも忘れていない……。
………と思う。うん。多分。
そう思っていると……、コノハちゃんが驚いた顔でヘルナイトさんのことを見上げて――
「えぇっ? おじさん達もおじいちゃんに何かされたのっ!?」
「――っ!?」
私は、驚いた顔でコノハちゃんのことを見てしまう。というか、あまりの衝撃的な言葉に、目を点にしてしまった。
きっと、私の顔は今――目が飛び出てしまうかもしれない衝撃的な顔だっただろう……。
ヘルナイトさんはコノハちゃんの言葉に対して驚いたそれを出しながら言葉を一瞬失っている。でも、私はそんなヘルナイトさん以上に驚きは大きすぎた。
コノハちゃんの言葉から出てきた……「おじさん」発言があまりに衝撃的だったので、私はなんて言えばいいのかわからないような混乱と戸惑い、そして違うよ。という否定をしどろもどろになりながらもにょもにょと言葉を濁してしまう……。
今まで聞いたことがない言葉だったから衝撃が大きすぎたのもあるけど……、初めて会った人に対して……、しかも年が違うかもしれないのに『おじさん』呼ばわりは……、ちょっと、失礼な気がする……。
と言うか――なんだろう……。
すごく否定したい気分が込み上げてくる……。うぅぅ……っ!
「~~~~~っ」
もんもんと、もやもやと頭の中を駆け巡る霧のようなもしゃもしゃ。
今まで感じたことがないそれだったので、私はどうしたらその霧が消えるのか、どうしたらそのもしゃもしゃがすっきりするのかを考えながら、コノハちゃんにかける言葉を模索していた。
でも思い浮かばないもどかしさを感じて頭を抱えながら器用に走っていると……。
「――私は何かされていない。ただ……、今協力をしている人が、君のおじいちゃんにひどいことをされて、心が傷ついてしまっているんだ」
「!」
ヘルナイトさんはコノハちゃんの言葉に対して、なんの焦りも驚きも、戸惑いも一切見せない雰囲気と、いつもの凛とした音色で返答をしたのだ。驚くコノハちゃんを見ながら。
その顔を見たヘルナイトさんは、少し考える仕草をしてから……、申し訳なさそうに「すまない。気に障ってしまったな。今回のことで一番悔やんでいるのは――孫でもある君なのにな」と言う。
それを聞いた私は、驚いた面持ちで顔を上げて、ヘルナイトさんとコノハちゃんの話に耳を傾ける。
というか……、この話ってまさか……。
駆け降りながら少しずつ、本当に少しずつ出始める神妙な空気。それを感じながら、私はコノハちゃんとヘルナイトさんの言葉に耳を傾けると……、ヘルナイトさんは言う。凛とした音色で。
「だが……、これは事実なんだ。知らないかもしれないが……おじいちゃん、Drの行いので一人の人間族の人生が狂ってしまった。大切な家族が殺され、復讐に身を染めてしまうくらい……、その人間族は心を病んでいった。そのくらい……、その人間族はDrのことを憎んでいる」
「――!」
その言葉を聞いた私は、はっと息を呑み込むように目をどんどん見開き、そしてあの時――この帝国に入る前に話したことを思い出した。
入る前、あまりに寝付けなくてセレネちゃんと話したあの時のことを。
それと同時に、私は察してしまった。
ヘルナイトさんはあの時――私達の話を聞いていたんだ。
そう言えば今思い出したけど、あの時、私達が寝ているところにアクアカレンちゃんいなかった……。あの時に気付けばよかったけど、そんな余裕と言うか、暗くて見えなかったんだけど……。あらら……。
そんなことを思いながら、内心どこで聞いたんだろうと思っていると、ヘルナイトさんはコノハちゃんのことを見降ろしながらこんなことを言った。
「その憎しみも、それだけではないかもしれない。もしかすればいろんな人達がその憎しみを抱いているかもしれないんだ。少数ではなく多数かもしれない。数多の可能性もある」
「………………」
「コノハ……、と言ったな? 君はここに来た理由に関しては、ここに来る前に聞いた。君はDrを止めるためにここに来たと言っていたが、最悪の場合――それが願わない可能性も高い。それを願わない輩が多いゆえに、その願いが蹴られる……、いや。叶わないかもしれない。止めることよりも、その人物を殺さないと気が済まない輩もいる。止めることができない、せき止めることができないくらい――あの男はしてしまった」
「………………」
「コノハ――君の願いが『止める』という意見に挙手をするのであれば、他の人達は『死んで詫びろ』という意見に挙手をするかもしれない。最悪――多数決で決められる状況で、それでもコノハ――君は、『止める』選択を押し通すのか?」
ヘルナイトさんは言う。コノハちゃんに向かって……、神妙に、そして言い聞かせるように、凛としているけど優しい、けど真剣さも含まれているような音色でコノハちゃんに向かって聞く。
……きっと、私とセレネちゃんの話を聞いているから――セレネちゃんの悲しみを聞いたからこそ……、コノハちゃんのその選択に迷いはないのかという質問なのかもしれない。私も、この帝国に入る前にヘルナイトさんから聞いた。
――ガーディアンを浄化し、そしてこの国の在り方を変えることは賛否に分かれるかもしれない。その国のやり方を快く思っていないものがいれば、国が変わることに対して喜びを感じるかもしれない。が……、反対に今の国在り方を快く思っているものに対して、反感を買うということにもなる。それでも君は――ガーディアンを浄化するかのか?――
それを聞いていた私は、ぐっと唇を噛みしめて、そのことと今回のことを重ねながら私は思う。
私の場合は私の行動次第で大勢の人達の人生を大きく変えてしまうことだけど、コノハちゃんがしたいことは、多くの反対意見の人たちの願いを捻じ曲げる……。
ボルドさん達やセレネちゃんはもう変わったと思うけど、セレネちゃん達のチームの人たちはどうなのかはわからない。
でも、その人達の願いを、思いを自分の思いで握りつぶしてしまうかもしれないと、ヘルナイトさんは言っているんだ。
私はそれでも、浄化して真の平和を照らしたいから、自分の意見を呑み込んだけど、コノハちゃんの場合は違う。
コノハちゃんがしていることは、下手をすればたくさんの人たちの反感を買うことになるかもしれない。
この世界はゲームの世界だけど、きっとDrの手によって不幸になってしまった人もいるかもしれない。
だからその人の反感を買ってしまうかもしれないと、ヘルナイトさんはコノハちゃんのことを気にしているんだと思う。
セレネちゃんの話を聞いていたからこそ、きっとその気持ちは強くなった……と思う。
もしかすると、あの時ヘルナイトさんが言った裏には、それが関係しているかもしれないけど……、真相は分からない。
でも、今はそれは置いておく。その話を聞いていたコノハちゃんは、真剣な音色ではっきりとした音色でヘルナイトさんのことを見ながらこう言った。
「――うん。『止める』選択一択だよ! それにね……、いろんな人達に迷惑をかけたことも、いろんな人達の幸せを奪ったことも、もう知っているよ。おじいちゃんのことはお母さんからよく聞いているし、お母さんのおじいちゃんも話してくれたから」
コノハちゃんは続けてヘルナイトさんと、そして背後にいる私のことを振り向きながらこう言ってきた。
きっと……、私よりも幼いと思う。それでも心はもう大人に近いような精神を見せながら、彼女は言ってきたのだ。
「おじいちゃんは色んな悪いことをしてきた。やってはいけないことをしてきたのに、怒られない。誰もおじいちゃんのことを怒らない。おじいちゃんのことを『法の裁きで裁いてほしい』ってお母さんのおじいちゃん……、ヒノじいちゃんは口癖のように言っていたの、今でも覚えているの。だからコノハ……、悔しそうにお母さんの元に逝ってしまったヒノじいちゃんのために、お母さんのためにも、コノハはおじいちゃんのことを殴るの。『いい加減にしなさーいっ!』って」
そう言いながら、コノハちゃんは「へへへ」っと満面ではないけど、それに近いような笑みを浮かべて拳を上げて、ジャブをするように振りながら言うと、「だから」という言葉を付け加えてから、コノハちゃんは言う。
ここに来た覚悟を私達に見せながら、強い面持ちの笑みを見せて――彼女は言う。
「それにね、ヒノじいちゃんは確かに『法で裁いてほしい』って言っていたけど、ばあちゃんだけは違っていた。おじさんの言うとおりだったよ。コノハがいるとき、ヒノじいちゃんとばあちゃんはそのことになると喧嘩ばかりしていたけど、コノハはどちらかと言うと……、死んでほしくないほうが上。それだけははっきりしている。だからコノハは――『止める』選択を推す。その方がおじいちゃんにとっていい薬にもなるって、じいちゃんも言っていたから」
「…………コノハちゃん」
「…………そうか、それならばいいんだが」
コノハちゃんの真っ直ぐな言葉を聞いて、私は私よりも年下 (まだ確定じゃないけど)なのにしっかりしている一面を見て、驚くと同時にコノハちゃんの大人らしいそれに開いた口がふさがらなかった。
ヘルナイトさんも少し驚いた面持ちでコノハちゃんのことを見て、一言言葉を返したところで、そのお話は終わった。
と思う……。
一応言っておくけど……、馬鹿にしているわけじゃない。
コノハちゃんのしっかりしている……、家族が迷惑をかけていることをしっかりと認識していること。それを止めようとしている真っ直ぐな気持ちに、私はコノハちゃんの責任感、覚悟の大きさを確認したから、私は開いた口がふさがらなかった。
……年下なのに、すごい責任を感じて、背負って……、それを何とかしようと努力している。復讐に身を染めないで正当な方法でなんとかしようとしているその姿に、私は年上なのに尊敬してしまいそうになった。
話が終わると同時に、コノハちゃんは私の方を振り向きながら天真爛漫なにこやかな笑みを浮かべて――
「だからお姉ちゃんとおじさん! コノハの心配なんてしなくてもいいから――そのジョーカ? に集中して! おじいちゃん相手はコノハが何とかするから!」
こっちには『豪血騎士』もいるから!
と、私達に笑顔を向けながら言うコノハちゃん。
それを聞いた私はその真っ直ぐさに対してまぶしいと思いつつ、言葉を汲み取ると同時に私は大丈夫かなっと思いつつ、コノハちゃんの意思を汲み取るようにこう言った。
そっと、コノハちゃんの見せてはいないけど、無くなっているその手に触れて……、ふわりとその手を覆うように小さな声で「――『部位修復』」と言ってスキルを発動すると同時に――
「うん。ありがとうね。でも無理だけはしないでね」
そう言って、私は微笑む。
コノハちゃんの驚きをしり目に、無くなっているその手を覆うように白い靄が覆い、どんどん白い手が形成され形を模したと同時に、その白い手がコノハちゃんの手となる。ううん。戻った。のほうがいいのかな……。
白い手が嘘のように肌色で、血が流れているような腕を治した『部位修復』を初めて見たのか、コノハちゃんは驚いた顔をしてぽかーんっとして治り、そして自分の手をグーパーグーパーし、そしてゴスロリの袖をたくし上げながら、治った手を見つめる。
見たことがなかったのかもしれない。それくらいコノハちゃんは驚きのあまりに無言になり、そのあとすぐに興奮した顔で私のことを見て……。
「すごぉい! 腕治ったっ! 魔法みたい! なんで? どうやったのっ? すごーいお姉ちゃん! 魔法使いだ! コノハの腕あっという間に治っちゃった! すごいよお姉ちゃんっ! すごいすごい!」
「あ……うん……。この世界ファンタジーだから当たり前と言うか……、私、一応メディックで『蘇生』まではできるから……、だからその、すごい鼻息……っ」
…………言葉通りなんだけど、コノハちゃんは興奮冷め止まぬという顔で高揚した顔でふんふんっと鼻息をふかしながら私のことを見て顔を近づける。
その気迫に押されかけた私は、驚いたというよりも、怖いというそれが勝っている青ざめた顔で、おどおどしながら言う……。すごい鼻息とらんらんとして輝いている目を見て、やっぱり年下なんだなぁ……。と思うと同時に、さっきの言葉……、ちゃんと有言実行できるのか心配になってしまった……。
でもなんだろう……、私自身もなんだか不安になってきたような……、というか何かを忘れているような……。気のせいだと思うんだけど、なんだか腑に落ちないような違和感……。
そんなことを思いながら階段を駆け下りていると――
「もうすぐ最下層だ」
「「!」」
ヘルナイトさんが私達のことを振り向きながら言ってきた。
それを聞いた私達ははっとして、すぐに目の前に広がるそれを見降ろす。
階段を駆け下りているので私達はその場所を見降ろす形になってしまっていたけど、確かに見降ろした先に広がっていたのは、とある場所に繋がる出口だった。
微かに零れる光が最下層の階段を照らしているだけで、その向こうまでは見えない。
出口を見たヘルナイトさんは視線をその出口に向け、声だけで私達に向かってこう言ってきた。
これがバトラヴィア帝国の最後の戦いになる。きっと凄まじい戦いがあることを諭しながら、ヘルナイトさんは言ったのだ。
「この先にDrと、もしかすれば帝王と、ガーディアンがいる。気を引き締めたほうがいい」
「おーっ!」
「………………っ。はい」
「きゅきゃーっ!」
ヘルナイトさんの言葉を聞いて、コノハちゃんは右手を振り上げて気合たっぷりの表情で大声を発して、私は緊張する面持ちで頷くと、ナヴィちゃんも私の肩でコノハちゃんと同じように気合たっぷりで鳴いた。尻尾を拳に見立てて立てているので、かなりやる気だ。
そんな光景を横目で見ていた私は、緊張して強張っていたそれがほんの少しほころぶようなそれを感じ、がちがちに固まっていた心が柔らかくなった気がした。
それを感じながら、気を引き締めて私は……、私達は階段を駆け下り、最下層の部屋の入り口に向かって足を急かす。
どんなものがあるのかわからない。そしてそんなことが起きるのかわからないような場所だけど、それでも自分の覚悟を心に留めて、私達はその足を急かした。
この先にいる――Drと帝王のことをどうにかし、ガーディアンを浄化するために!
確固たる思いを胸にして、ヘルナイトさんが先にその最下層の部屋に入る。側面に手をかけて、先に入って先制攻撃しようと大剣に手をかけた。
瞬間。ううん。瞬きした瞬間だった。
ぱちりと目を閉じて開けた瞬間――一瞬の間に、私が見た世界が、激変してしまった。
顔や体に来る風が私達に事態を知らせてくれる。一瞬のうちに激変して、驚愕に染まってしまい、言葉を失いかけた。それはコノハちゃんも、ナヴィちゃんも同じ。
一体何が起きたのだろう。それが一瞬の間に芽生えた心の声。
その心の声と脳内で巻き戻しをされて、再生されるフラッシュバック。脳内で響き渡る轟音。
その一瞬、それが一体何なのかがわからなかったけど、今になって理解できた。
簡単に言うと……、私達の前にいたヘルナイトさんが、何かによって横から薙ぐように叩かれ、一瞬のうちのその場所から飛ばされてしまったのだ。
バァンッッ!!
と……、聞いたことがないような鈍い音と風圧が私達を襲うと同時に、茫然とする私達のことを嘲笑うように……、ヘルナイトさんを吹き飛ばしたのだ。まるで……、軽い置物をはたき飛ばすように。
それを見た私は、驚愕の顔をしてコノハちゃんと一緒に最下層の出口から顔を出して、ヘルナイトさんが吹き飛ばされた方向に目をやると……、私は見てはいけないものを、見てしまった。
岩のような鎧を着た巨大な手によってはたかれ、吹き飛ばされているヘルナイトさんの姿を、私は見てしまった……。見たと同時に、私は柔らかくなっていた心が張り裂けるようなざわざわを感じて……。
「――ヘルナイトさんっっ!」
叫んでしまった。悲痛の声を上げてしまったのだ。
私のそんな悲痛の声を聞いてヘルナイトさんの光景を見てしまったコノハちゃんも慌てた様子で「おじさんっ!」と叫ぶけど、それをしり目に――その大きな岩の鎧の手は、上から下に向けてヘルナイトさんを叩き潰すように振り上げて……。
ぶわぁ! っと振り下ろす。
まるで蠅を叩くように、その手を振り下ろす岩の鎧の手を見て、私は手をかざしてヘルナイトさんに向けて『強固盾』を出そうと声を上げようとした瞬間……。
ヘルナイトさんの手が、わずかに動いた気がした。そう見えただけなんだけど……、それでも、ヘルナイトさんはその岩の鎧の手が振り下ろされると同時に――
ぐるんっと、空中で体をひねるように回転し、その回転の風を利用して迫り降ろされる岩の鎧の手を軽々と避けたのだ。マントを掠めずに、軽々と。
避けると同時に、岩の鎧の手はそのまま地面に向かって『ズタァンッ!』という音を立てて、地面に大きな罅割れとクレーターを作り、最下層の地面を大きく歪めた。
茫然とその光景を見て、唖然とする顔で見上げてしまう私。そしてコノハちゃんも、ナヴィちゃんに至っては、白目をむいて口あんぐりと開けている。ぽかーんっという効果音が出そうな顔で驚いた顔をしている。
私達の驚きをしり目に、ヘルナイトさんは空中で回転をやめて、地面にたたきつけた岩の鎧の手の腕に足を乗せると、そのままその場で壁に向かって跳躍すると、今度は壁に向かって足をつけて、何の苦もなく私達がいるところに向かって壁を蹴る。
ダンッ! という音が響くと同時に、ヘルナイトさんは私達の近くで『すたり』と着地して、驚く私達のことを見ながら「すまない」と、一言言っただけで終わり、そのまま大剣を引き抜いて、私達を背にしてその方向に大剣を向けた。
それだけ……? と、一瞬驚きに驚きを重ねてしまった私だったけど、その驚きもすぐに消えてしまった。
と言うよりも……、あまりの衝撃的な光景……じゃない。目の前に広がったそれに対して、私は『ひゅっ』と、空気を止めてしまったかのような声を上げてしまった。
コノハちゃんも「ひゃぁっ!?」という、素っ頓狂な声を上げて肩を震わせて大声を上げて、ナヴィちゃんもあんぐりと開けていたその口を更にあんぐりと開けて固まってしまっている。
ヘルナイトさんだけは、それを見て大剣を構えている。じっと、それを斬るような眼差しを表情に出しながら……。
私達が驚いた理由は明白で、目に前に広がった巨大なそれを見て、見たことがないそれを見た瞬間……、私達は言葉を失ってしまった。それだけ。
でも、目の前に広がっているそれは、私が見てきた巨大なものの中でも特に一際大きなもので、きっと、ドラゴンのナヴィちゃんでも小さい。三倍くらいの大きさがある……、岩でできた魔物だった。
見た目は重厚そうな鎧を身に纏って、ところどころに苔が生えている岩石の体。見上げても首が痛くなりそうな大きさで、腕や肩、指には機械の管が引っかかっている。そして私達を見降ろす、岩の鎧越しの鋭い眼。更にそんな体を取り巻く黒い靄。
それを見た瞬間、私は察してしまった。確信してしまった。
今私達の目の前にいる魔物は――魔物じゃない。神だ。
そう……、今私達の目の前にいるのは、浄化しなければいけない存在――
『八神』が一体――バトラヴィア帝国の守り神。
『土』の――ガーディアン…………ッ!
「コォ……、オォ…………ッ!」
ガーディアンの口から、鎧越しの口から白い吐息が零れ出し、それと同時に声を発すると……。
――クルシィ……ッ! クルシィ……!――
と、私の耳に何かが響き渡ってきた。ダイレクトに耳に入るようなその声を聞いた私は、びくりと肩を震わせて「っ!」と、殺すような声を上げて耳を押さえてしまう。
「どうしたの? お姉ちゃん」
コノハちゃんが私のことを心配して聞いてくるけど、その声に返事を返すほど、私は余裕ではなかった。ううん……。その声があまり聞こえなかった……。
耳に入る――ううん。ううん……っ! サラマンダーさんやライジンさん、リヴァさんの時と同様の脳に響くようなガーディアンの声が、大声で、ダイレクトに私の脳に入ってくるのだ。脳を針のように刺激し、激痛を促してくるのだ。
クルシイ。クルシイ。クルシイ。クルシイ。クルシイ。クルシイ。
その言葉がまるで呪いの言葉のように、どんどん音量を上げて私の脳に入ってくる。
脳の中に大音量のCDプレイヤーが入っているかのような大音量。それを聞いた私は耳を塞いでも聞こえてしまうそれを聞いて、頭がどうにかなってしまいそうなそれを体感した。
「え? えぇ? えええええっ!? もしかして……、このモンスターが、ガーディアンッ!? デカいしゴツイし! それに怖いっ!」
コノハちゃんは驚きと怖さを体現した声でワタワタしながら言うと、ガーディアンの声が、また響いてきた。皆にも聞こえる声と同時に――
「オォ、オォオオオオオオッッッ! オオオオオオオオオオオオオオッッッ! オオオオオオオオオオオオオオオオッッッ! オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!」
――クル、シィイイイイイッッッ! タスケテクレエエエエエエエエッッッ! トッテクレエエエエエエエエエエエッッッ! ハラッテクレエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!!――
雄叫びと叫びが二重奏のように聞こえ、その声を上げると同時に、ガーディアンは鉄でできた壁に拳や頭を打ち付けながら、暴れ出した。
「…………………っ!」
「ひぃえええっ!」
「きゅきゃぁーっ!」
「………………………これは……」
私、コノハちゃん、ナヴィちゃん、ヘルナイトさんがその光景を見て驚きを隠せずに見上げてしまう。でも、私はガーディアンの暴れる光景に、既視感と言うか、見たことがあると思ってしまった。
そう、見たことがある。つい最近、見たことがある。そう私は直感で思った。ガーディアンの暴れようと苦しいその光景が、何かと重なってしまった。
何か……、それは……。
「ほほぉ……。まだ自我を保って居るのかのぉ? ガーディアンよ」
「「「っ!」」」
突然来消えた声。
声がした方向に向けて、私達は驚愕のそれで顔を向けると、ガーディアンの傍で、腰に手を添えて首にも手を添えながら見上げているDrが、鬱陶しいという顔で顔を歪ませながら小さく舌打ちを零していた。
「おじいちゃん……っ!」
コノハちゃんの怒りの声が最下層の部屋に響くと同時に、Drはコノハちゃんのことに気付いたのか、コノハちゃんと私達のことを見て、くにぃいいっっと歪で狂気に歪みに歪んだ顔で私達のことを見ながら……、陽気な音色でこう言った。
「ほうほう! 来てくれたか! 良かった良かった! この実験のために来てくれて感謝するぞ」
「………実験? なんだそれは」
Drの言葉に、ヘルナイトさんは疑念の声を上げると、その声を聞いたDrは、『くにぃいいっっ』と歪んでいたその笑みを更に『くにぃぃっ』と歪めて笑みを作り――Drは「決まっておろう」と言い、ガーディアンのことを指さしながら、彼は言った。
衝撃的なことを、私達に告げたのだ。
「このガーディアンにいくつも付けた儂の詠唱――『永遠道化人形』の実験じゃよ。コリーン。お前さんはもう知っておるじゃろう? 死神の小僧を操ったあれじゃ」
「――っ! それって……っ!」
「そして――」
と、Drは驚愕に染めるコノハちゃんから一旦視線を外し、今度は私のことを、私とヘルナイトさんのことを見つめながら彼は言った。
歪んだ笑みを刻みながら、彼は言ったのだ。
「ボルケニオンを操った儂の詠唱の虫を――ガーディアンの体にいくつも張り巡らせた」
「「っ!」」
私達はあまりの衝撃に愕然としてしまう。
ヘルナイトさんは愕然と言うよりも、怒りの方が勝っているもしゃもしゃを出している。そんな私達の感情が面白いのか、Drはケラケラと笑いながら続けてこう言う。
右手を振り上げ、人差し指を天井に向けて差しながら――彼は言ったのだ。
「つまり……、こいつはもう儂の武器じゃ」
歪むような言葉。音色。その言葉は終わると同時に、Drは天井に向けて指さしていたその手を私達に向けて――ふっと、軽く振り下ろす。
本当に力なく振り下ろすと、その行動に反応してガーディアンが『びくり』と肩を揺らし、今まで暴れていたそれが嘘のように止まると同時に……、体をがくがくと震わせて私達に向けてその拳を振るい上げる。
強張る私達をよそに、ガーディアンは振るい上げた震える拳を私達に向けて振るう。ごぉっと殴るようにその拳を振るう。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!」
大きな大きな悲痛の叫びを上げて――私達に向けてガーディアンはその拳を振るった!




