PLAY73 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅻ(局面へ)①
半球体の帝国内で巻き起こる轟音の残音。
ガラガラと崩れ落ちる建物の残骸。
どこからか大きな建物がずり落ちるような音が聞こえ、その後すぐに聞こえた落下音と同時に大きな土煙が立ち込める。
その音を出した……詠唱を放ったダイヤは内心ほっと胸を撫で下ろしながら息をつき、地面に大の字になって口から泡を吹いて倒れている――変わり果てたグゥドゥレィのことを見降ろしながら、さな声で……。
「何とかなったか……。」と言う。
その声を聞くと同時に、グゥドゥレィの近くにいた魔物――ホロホロは黒い靄を身体中から吐き出し、どんどんとそれを外に放出しながら縮み、黒い煙を『ボフンッ!』と出すと、ホロホロは小さな布を被った可愛らしい幽霊に姿を変えて黒い煙の中から『ぽふり』と飛び出してきた。
三メートルの全長から、ナヴィくらいのサイズまで小さくなり、小さな鎌を下ろしながら「ホォ……」と、独特な鳴き声を上げて――ホロホロはダイヤの手元に向かって浮遊しながら飛んで行く。
そんなホロホロを手元に招いて乗せるダイヤ。ダイヤの左手に乗ると……、ホロホロは安心したかのようにダイヤの指に頬を擦りよせながらゴロゴロと鳴いている。
まるで猫の様だ。
そんな光景を見ながらダイヤはホロホロに向かって――
「よくやったぞホロホロ。お前ならあの攻撃避けると思っていた。………っ?」
ふと……、無意識に口から零れ出る言葉に、ダイヤははっと驚きのそれを浮かべる。
今まで信じなかった。
信じたせいで誰かが犠牲になったことを悔やんでいたダイヤだったが、辺りを見回し、思い出すと同時に再度認識した。
近くにいたアキは先に進んでいる。ホロホロも生きている。そしてグゥドゥレィも死んでいない。
ダイヤはその光景を見て、驚きを隠せなかった。だが不思議と軽い気持ちになった。
今まで重く背負ってきたそれが軽くなったような、肩の荷が軽くなったかのような感覚を覚え、そしてアキの言葉を再度思い出す。
こんな鋭い観察眼を持って生まれたせいで、今まで信じていたせいで不幸にさせた。不幸に導いてしまった自分のことを消し去りながらダイヤは思い出す。
――だから信じないという思考を今はやめてほしい。俺に協力して、信じてください――
その言葉を思い返しながらダイヤは小さな声で、己の手にすり寄っているホロホロのことを見降ろしながら小さく言う。
撫でる手はない。
しかしそれでも、撫でるような声で彼は独り言をごちる。
「………そうだな。完全に信じることはできないが……、この心地は、悪くないと思っている。むしろ久しい温もりだ。完全にそれの思考になることはできないが………、少しだけ、お前の言葉を胸に刻んでおこう。」
そうごちると、その声を聞いていたのか、ホロホロはダイヤのことを見上げながら首を傾げる。
『どうしたの?』と言わんばかりの首の傾げだ。
その傾げを見たダイヤはホロホロのことを見降ろしながら――
「何でもない。ただの独り言だ。」
と言い、ダイヤはその思考をいったん中断させ、いずれ来るであろうセレネ達のことを待とうと思い、彼はすぐさま行動に移す。
地面で大の字になって気絶しているグゥドゥレィの再起を阻止するために……、きつい拘束を施そうと辺りに落ちていたロープを手に取りながら……。
◆ ◆
同時刻――
ダイヤの『楯天使の怒り』の影響は――帝国中に響き、その場所にいる人たちを驚愕に染めて拡散していった。
轟音は、帝国内にいたハンナ達徒党チーム、帝国の国民。そして地下で大暴れ (と言う名の秘器破壊)をしていたみんなの耳に届いており、その音を聞いていたリンドーは、首を傾げながら地下で拾ったトンカチで秘器を壊しながら――
「何かあったんですかねー?」と、間の抜けた声で地下の天井を見上げながら言う。
その言葉を聞いていたギンロは「あぁ?」と、少しばかりイラついた音色でリンドーのことを一瞥し、手に持っている『デスバード』を一旦止めながら彼はリンドーに向かってこう言った。
「んなこと知るかっつうの! 俺達は脱落者なんだから関係ねえーだろうが!」
「脱落したとはいえ気になるものは気になりますよー。ギンロさんはそんなに心が狭いお方だったんですね……。ぼく、幻滅しましたよ……。よよよ」
「ウソ泣きヤメロ! あと俺は寛大だぜっ!? ハートの容量は広い方なの!」
「銃を片手に『ひやっはー』なんて言っている人のくせに、寛大って言われても信じられませんよー。見た目も相まって」
「リンドー……。あとでお尻ぺんぺん五十回」
リンドーとギンロはいつものような雰囲気で話をする。
大袈裟に動作をするリンドーに対して、ギンロは怒りからブチギレの突っ込みに、そして真剣な顔へところころと表情を変えながらリンドーに向かって言うと、それを聞いていたリンドーはけらけら笑いながら「冗談ですよ~」とトンカチをふらふらと揺らしながら笑みを浮かべた。
現在――リンドーとギンロ、そしてガザドラは地下にある秘器の工場の破壊作業をしていた。粉々に、修復不可能になるまで、彼らは秘器と、秘器の製造に使う秘器も、破壊した。
壊しまくった。
それはもう……、見るも無残な姿になるまで、三人は怖し続けた。
リンドーとギンロは少しストレス発散と言わんばかりに破壊を繰り返したが、本当の目的を忘れずに破壊を行い――ガザドラはこれ以上の被害と悲劇を繰り返さないでほしいと願いながら、秘器を破壊し続けていた。
帝国の野望でもある『鉄の魔人』――秘器騎士団を大量生産を止めるために。
王都を我が物にしようと、マキシファトゥマ帝国で行われていた『鉄の魔人』製造計画をアレンジし、現在進行形で執り行われている計画……。その力を使って、帝国はアズール随一の軍事力を有し、支配しようとしている。
それを止めるために、カカララマの言葉もあって、三人は現在進行形で秘器を壊し、秘器の製造機器を破壊している。その野望を阻止するために、カカララマの願い通り――この帝国を変えるために……。三人は破壊に奮起しているのだ。
カカララマの言う通り、グゥドゥレィの研究室の真下には確かに秘器の製造工場があった。その製造工場を壊す前に、リンドーたちはグゥドゥレィの研究資料をまとめて懐に入れ、研究所を壊し、あとから秘器の製造工場を壊して、現在に至っている。
「まぁ……、これで大体破壊できたな。使えそうな秘器は大方壊した」
「修理されているものも壊しましたし……、設計図は王都に渡しておくために残しておきましょう。何かと便利だと思いますしね」
「………腹黒いな。でもこれで秘器の製造はできねえだろう」
「ええ」
ギンロとリンドーは話しながら辺りを見回す。ボロボロになってしまった秘器の鎧や武器を一瞥しながらギンロが言うと、それを見ていたリンドーも頷き――
「あとはカカララマさんに」
伝えに行きましょう。と言いかけた……、その時だった。
「リンドー! ギンロッ! こっちに来てくれっ!」
遠くで破壊行動をしていたガザドラが、二人に聞こえるように声を張り上げて叫んだ。
その声を聞いた二人は、互いの顔を見合わせて、首を傾げながら頭に疑問符を浮かべる。
まだ秘器があったのか……。と思いながら二人は、ガザドラの声がした方向に向かって早足で向かう。
からん。からん。という秘器の破片の音が足元から聞こえるが、二人はその音を無視しつつ、ガザドラの声が聞こえた方向に足を進める。
明かりも半壊しており、使えなくなってしまっていたのか、通路の道が薄暗くおぼつかない足取りになってしまう。
「なんで電気も壊しちゃうんですかぁー? もう少し配慮して撃ってくださいよぉー……」
「うるせぇっ! 興奮したら目先以外のことなんて見えねえだろうがっ! それにあの電気だって秘器かもしれねえだろうが!」
「ふーん。あ、あそこにいるのって、ガザドラさんじゃないですか?」
「おい。今間があったような気がするけど……?」
と言う会話をしながら、リンドーは目の前にある場所を指さした。
リンドーの無言に驚いて、一瞬恐怖を覚えたギンロ。
しかしそんなギンロを無視しつつ、リンドーは少し遠くにある――青白い光がこぼれだす部屋を見つけ、その部屋の中にいるガザドラを見つける。
「おーい、ガザドラさーん」
「どしたー? そっちにも秘器があったのかー?」
二人はガザドラに向かって言う。呑気な音色で。
しかしガザドラは答えない。
青白く光っているその場所をじっと見つめながら、仁王立ちのまま立ち尽くしているだけ。
「? おーい。ガザドラー。聞いてんのかー?」
ギンロは歩みを進めながらガザドラに向かって言うと……、ガザドラはそんな呑気な雰囲気を壊すように、震える口で彼は――
「いいや……。秘器はなかった。しかし……思わぬものを発見した……っ!」
と言った。
震える口で、驚愕、愕然、混乱、色んな感情が入り混じる様な震える音色で、俯きながら彼は言ったのだ。
「「??」」
思わぬもの? 益々疑念がわく。一体何を見つけたのだろうと思いながら、リンドーとギンロはガザドラが入っている部屋の中を覗き込むように、ガザドラの背から顔を出してみる。
見て――二人は表情を固めてしまった。さっきまでののんきな雰囲気が嘘のように、凍り付いてしまったかのような無表情で、その部屋の全貌を目で見て、脳に刻んだ。
その部屋を彩るもの――それは……。
異常にしておぞましい、誰の部屋なのかがわかるかのような部屋の風景がそこにあった。
一目で見れば薄暗い部屋だ。しかし青白いそれが淡くあたりを照らしている。その照らされている光によって、部屋の 壁一面に張られている秘器のデッサンが描かれた紙。そして機能が記載された紙。更にはその人物と相性が合う秘器の製造工程の紙。体全体を秘器で纏っているデッサンが描かれている紙などなど……。いろんな秘器のことについて書かれた紙が壁を埋め尽くさんばかりに張り巡らされている。青白いそれに映されているせいか、壁の用紙が水色に見えるのは気のせいではない。
土で作られた机にはいろんな書物やボロボロになってしまった紙の束。何かの液体が入っている小瓶にすり減ってしまった鉛筆。机には殴り書きで書かれた用紙があるが、汚いせいか読めない。
そして――青白く光っているそれは電気ではない。それは……、何かを保存するときに使用する青白い液体が出る秘器のようなものだった。その数十二。十二の青白い液体が入った秘器がその部屋を照らしていたのだ。ごぽごぽと溢れる水の泡が部屋の青を濁らせる。
その中にあった楕円形の何か。赤黒く光るそれを見た瞬間、リンドーとギンロは察した。ここで察しない方がおかしいくらい、彼らは察した。
その青白い液体に入っている楕円形のそれが――前アクアロイア王が言っていた『八神の御魂』であり、グゥドゥレィが自慢げに言っていた秘器の核にして、自分の研究室に隠している『疑似魔女の心臓』だということを、二人は知った。
「マジかよ……。これが……?」
「これはやばいですね……。ていうかあのジジィやばい人なんですねー……」
それと同時に、この部屋が誰にも知られざるグゥドゥレィのもう一つの研究室と言うことを知り、リンドーとギンロは言葉を詰まらせ、混乱する顔を浮かべながらその部屋を見渡す。
そんな二人のことを見ずに、ガザドラは手に取ったある用紙をじっと見つめて口をきつく噤んだ。その用紙に描かれている人物を見ながら、彼は驚愕のそれを不器用に隠しながら――思った。
――まさか……、奴が……?
ガザドラが手に持っていた用紙に描かれている人物――それは爬虫類の片目に鉄でできたマスクと眼帯。黒い髪は伸ばしているが肩まであるそれで、前髪も無造作に伸ばしている。そのせいか、その紙の隙間から見える目は恐怖すら感じる人物像であったがガザドラはその人物のことを知っていた。
否――知っているというものではない。ともに行動をしていた元仲間なのだから、知らないわけがない。名前も同じなのだ。別人なわけがない。そう思いながら、ガザドラはその紙に書かれている名をもう一度見つめる。
間違いがないか、それを確認しながら……。彼はもう一度見つめる。
『鉄の魔人試作品一号――型番N00』の名を見つめながら……。
◆ ◆
その頃――帝宮・謁見の間。
ずるり……。と、響き渡る音。
それは――刃こぼれがひどい颯の刀が、航一の体から引き抜かれる音であり、その音と同時に激痛を感じた航一は、ズーの攻撃を防ぎながら痛みで顔を歪ませ……。
「いっ……てぇ!」と声を零しながら、彼はふらりと体をふらつかせる。
その光景を見ていたコノハは、すかさず立ち上がって航一の傷に向けて手をかざし――慌てた口調でスキルを発動させる。
「っ! 死滅時間操作魔法――『巻き戻し帰り』ッ!」
コノハの言葉が放たれると同時に、航一の傷ついた個所に白い靄が浮かび上がり、そのまま傷がどんどん修復されていく。まるで――ハンナの『小治癒』のように……。だが――その修復も途中で止まってしまい、完全に治る前にその靄も消えてしまう。
航一の傷も、体力も完全に回復しないまま、それは消えてしまった。
「っ!」
その光景を見たコノハは、うっと顔を苦痛に歪ませ、青ざめながら彼女は思った。焦りながらこう思った。
――航ちゃんの傷があまりにも深すぎる……っ! 体力もかなり削られている……! コノハが使うスキルだと完全回復できない……っ!
コノハの思う通り、コノハが使うスキルもとい……、エクリスターが使うスキルは万能ではない。言葉では時間を操作して傷をなかったことにするようなそれではあるが、それでも威力はさほど大きいものではない。
所詮は『小治癒』程度。エクリスターは元々は浄化に長けた所属で、回復に長けたメディックとは違って付け焼刃程度の回復しかできない所属なのだ。
ロフィーゼも回復系のスキルを使っていたが、彼女も『小治癒』程度の回復しかできない。しかもハンナのように『小治癒』で完全回復するほどの威力など有していない。
つまり――航一の傷を塞ぐほどの回復量など持っていないということ。
その光景を見ていたカグヤは航一のこと見上げながら――「大丈夫かっ!?」と声を荒げながら聞く。正直な話……、こんな話をしなくても見たらわかるであろうと心で囁きながら……。そんなカグヤのことを横mで見降ろしながら、航一は油背が浮かび上がる顔で、こう言った。
「お、おう……っ! ダイジョーブダイジョー……ッ!」
と言うと同時に、航一はすかさず片足を上げて、そのままその足を――ズーに向ける。
「――っぶ!」と言いながら航一は、どかり! と、壁を蹴りつけるように、ズーを蹴りつける。
「ウグゥ……ッ!」
唸ると同時に、ズーはその衝撃に耐えきれずに後ろに後ずさる。ががっと靴のかかとを鳴らしながら後ずさると、それを見ていた航一は大きく大きく息を吐くと同時に、膝に手を付けた。
「かはっ! あぐぁ……っ! はぁ……っ! はぁ……っ! うぇ……っ!」
大きく大きく息を吐くと同時に、航一は口から微量の赤いそれを垂れ流して赤いそれを残していく。腹部から出ているそれと一緒に、己の足元を赤い点々に染めていく……。
その光景を見たカグヤははっとして――コノハの方を振り向きながら彼は言った。
「カグヤ――もう一度! もう一度かければ傷も回復するはず! 早くっ!」
「あ、は……! う、うん……っ!」
カグヤの言葉を聞いたコノハははっとカグヤが言ったことに気付き、すぐに回復させようと手をかざす。一分一秒でも航一の傷を治そうと思いながら、彼女は必死になって手をかざす。
一度は回復させた傷だ。もう一度書ければきっと傷も塞がるはず。
そう思いながらコノハは必死になって手をかざすが……、それを遠いところで見ていたDrは……、ある方向を見て眼鏡越しで目を細めると同時に……。
くぃっ――と、首を上げた。
まるで――『ヤレ』と言う合図を送っているかのように……。否。本当にその合図を送ったのだ。Drは味方に向けてその合図を送り、航一の体力を完全回復させないように仕向けたのだ。
その合図を見たと同時に、少し遠くにいたその人物――颯は長刀を構えると同時に、ぐっと足に力を入れて、長刀を上に向けて大きく振るって――そのままだっと駆け出す。
駈け出すと同時に、彼は目標に向けてその刀を――空を切る音と同時に、ぶんっ! と落とした。
そして――それと同時に聞こえた斬撃音。
「え?」
コノハの呆けた声が零れる。カグヤの驚愕の横眼がその状況の緊急性を物語る。航一の胸騒ぎが大きくざわつき、Drの狂喜に笑みが――深く彫られていく。
航一はその光景を見るために、そっとズーから視線を外して……、その場所に向けて目をやった瞬間――航一は絶句した…………………、と同時に、目の前に広がった液体の影。
それを見た航一が、長刀を力強く振るい、先についていたそれを床にたたきつけるように、ふるい落とすように、その床を赤い点々に染めていく。
そして……、遠くで何かが落ちる音が聞こえた。
「あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ! いたいいいいいい! いたいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっっっ!」
コノハはかざそうとしていた手を片手で覆い、覆い被さりながら彼女は悲痛の声を上げた。
痛い。痛い! 痛いっ!!
そう叫びながら彼女は泣いているコノハの背を撫でながら、カグヤは「大丈夫かっ!?」と懐から回復薬を取り出し、それをコノハに向けて飲むように促す。
急かす気持ちはないが、急かすような音色でカグヤは慌てながら言う。
そのくらい――この状況に困惑していた。混乱していたのだ。
その光景を見ていた航一は、カグヤのことをこんな風にした張本人――颯のことを横目で見やみつけるように見ると、颯はそんな航一のことを見ながら――刃こぼれがひどい刀を肩に乗せながら――彼はこう言った。勝ち誇った笑みで、彼はこう言ったのだ。
「ははは! どうだ航一。こんな早業。お前にはできないだろう? 俺にしかできない技だ。俺にしかできない剣術。見えなかっただろう? 大振りでしか応戦できないお前には到底できない所業。俺だけの剣技だ。どうだ? 驚いて立ったまま腰を抜かしたか?」
「…………………っっっ!」
颯は言う。からからと、げらげらと、下劣に笑みを浮かべながら言う。
パトラが好意を抱いたその笑みではない。整った顔が少し台無しになってしまうような笑みを浮かべながら、颯は航一に向かって――
「しかし――お前も詰めが甘いな。俺は魔人族なのに、お前は魔王族。どちらかと言うと俺の方が弱いはずなのに、隙を突かれている。二回も! だ! 本当にお前は詰めが甘すぎるな……」
昔から。
と、颯は言う。まるで昔から知っているかのような言葉を――颯は航一に向けて吐き捨てる。
「――っっっっ!! は」
それを聞いた航一は急沸騰したかのように顔を真っ赤にさせて――颯のことを横目で見ながら航一は大きな刀を振るい上げようとした。が――
――ギャリィィィンッッ!
「っ!」
航一からして、左耳から聞こえてきた金属同士が鬩ぎ合う音。
その音を聞いた航一はすぐに目の前を見ようと、左目の横目でその光景を見ると――航一はぎょっと目をひん剥かせ、颯はその光景を見て「お」と少し小馬鹿にするような声を上げ、Drはその光景を見ると同時にほほぅと顎を撫でて唸った。
三人が見た光景――それは、敵からしてみれば意外な光景であり、航一からしてみればそれは……、驚愕の攻撃でもあったからだ。
航一の目の前で起こっていた光景――それは……。
「あ、グ、グゥゥゥ………………っ!」
「う、ぐ。ぐぅ、のぉ……っ!」
手に持っている鎌を航一に向けて振り下ろそうとしたズーだったが、そんな操られているズーの前に立って……、手に持っている鎖を盾のように持って鎌を防いでいるカグヤの姿を見た航一は、驚いた顔をしてカグヤの名を呼ぶ。
ぶるぶると、鎌に絡めるように巻き付けた鎖を持っているカグヤのことを見ながら――航一はカグヤの名を呼ぶと……、カグヤは震える手で防ぎ……、震える声で航一に向かってこう言った。
「こっち……、の……っ! こと、いい……からぁ……っ! はや……く……! あの刀野郎を……っ!」
「いや……それよりも……っ!」
「その方が……、いいんだよ……っ! それに、コノハには、回復薬飲ませたから……、心配しないで……っ! あいつを倒して……っ! 行って……っ! アタッカー……ッ!」
「………んな」
と言うと同時に、また航一の背後で巻き起こる『どごぉんっ!』と言う衝撃音。それを聞いた航一は、はっとして背後を振り向く。
内心、首が痛くなりそうな振り向き方だったが、それでも航一は振り向いた。すぐに振り向いた瞬間、再度驚きの顔を上げて、その光景を見ていたDrの表情がどんどん曇っていった。
「なんじゃ……、この展開は。こんなの誰も期待しておらん。何なんじゃこの展開は」
Drは吐き捨てる。毒を吐き捨てるように、心底気食わないような音色で――背後から来た颯の攻撃を『豪血騎士』の手で殴るように防ぐコノハを見つめるDr。
ふるい落としたその剛腕の手を見て、颯は舌打ちをしながら立ち上がる。内心――厄介な『影』だと思いながら、颯は再度足を前に出し、走り込む態勢を整える。
刃こぼれがひどいそれを突くように構えながら……。
その光景を見て、激痛こそなくなったが鈍痛が響いているその腕を反対の手で押さえつけ、そこから零れる赤いそれを拭い……、痛みに耐えながらコノハは航一に向かって叫んだ。
「航ちゃん! コノハは平気だよ! ズーのことはコノハたちに任せて! 今はあの人を何とかして!」
「っ! んなこと言っても、ズーがああなっちまったらどう対処する気なんだよっ!? カグヤもコノハも攻撃系のスキルあまりねーし! それにズーほどの攻撃力なら俺っちの方が」
「いいから――任せて!」
「…………っ!」
コノハの張り上げるような声が聞こえる。その声を聞いた航一はぎょっとしながらコノハのことを振り向き――コノハの言葉に、耳を傾ける。
耳を傾けたくない。今は加勢を優先にしないといけないのに、それでも航一はカグヤの言葉に耳を傾けた。その言葉を漏らさないように――じっと。
コノハはすぅっと息を吸い、腕からくる鈍痛に耐え、下唇を噛みしめながら彼女は顔を上げてこう言った。
「ズーのことは、コノハたちに任せて……っ! それにあの人、相当強いと思うから……っ! そんな人を倒せるのは航ちゃんくらいだよ……っ! それに航ちゃんズーにも言っていたじゃん。『任せろ』って。それと同じだよ。大丈夫だから。だから航ちゃん……っ! ズーとおじいちゃんのことはコノハたちに任せて……、航ちゃんのこと信じているから……っ!」
「んな」
「願っていたんでしょ? 悲願だったんでしょ? あの颯って人に会うこと。そしてその颯って人と決着をつけたいって、思っていたんでしょ?」
「………っ」
「だったら――それを済ませちゃおうよ! コノハの腕は戻らないけど……、でもダイジョブ! こっちのことは本当に平気だから! だから……航ちゃん。今は自分のことを優先にして」
コノハの言葉を聞いた航一はコノハの言葉を汲み取ろうと足をずっと動かす。
しかしそれ以上は動こうとしない。
否――動こうとした。しかし動くことを躊躇ってしまっただけのことだ。
このままコノハの言う通りに従い、自分は颯。ズーはコノハとカグヤに任せればそれはそれでいいのだ。
航一から見て、この場所で一番強い敵は――颯だ。
Drははたから見ればそれほど強い存在ではないことは見てわかる。アクロマと同様に『オーダーウェポン』に頼り、そして一日一回しか出せない詠唱に任せっきりの老人。その厄介な詠唱が今ズーに使われているのであれば、さほど脅威ではない。
そう航一は思い、消去法として彼は――颯のことを危険視した。
昔から知っているのだ。昔から颯のことを知っている航一にとってすれば、颯は『バロックワーズ』の中でも常軌を逸した危険人物。
航一は認識した。否――昔から認識していたので、もうわかっていた。だがそれでも迷いはある。大切な仲間のズーが操られているのだ。そっちを後にして行動するだなんて、航一にはできなかった。航一はすぐにコノハの言葉に否定を入れようとした。
だが――航一はその否定をコノハに向けて送ることが、できなかったのだ。
『ズーのことを優先にする』と言う判断を拒むように、真剣さと苦しさが合わさったかのような顔で、脂汗が浮かび上がるそれで航一のことを見上げながら……、カグヤとコノハは見上げていたのだ。
まるで――いいからいけ。そうきつく伝えているかのように、二人は航一のことを見上げていた。
そんな光景を見ていた航一は、後方から急速な勢いで迫ってくる颯を同時に見て、航一は思った。
――迷っている暇は……、ねぇ! なぁ!
そう思った航一は、すぐに思ったことを行動に移した。行動に移して、彼はコノハの横を通り過ぎる。
「――そんじゃ。すぐに片付けるから、待ってろ!」
「うん………っ!」
すれ違いざまに、航一はコノハに向かって言う。その言葉を聞いていたカグヤも頷き、二人は航一から視線を外して、目の前にいる――操られたズーに視線を向けて戦意を向ける。
ぎっ! と、あまりの激痛で頭がおかしくなりそうになりながらも、血走った目で二人のことを見ているズーのことを睨みつけながら……。
「っ! うぅぉ!?」
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっ!」
その光景を見ていた颯は、驚くと同時に、目の前に迫ってきた航一に再度驚き、急加速していたその足を止めて、『ぎぎぎぎぎっ!』と、地面を足で削るように滑りながら、彼は振るいあげた航一の刀を――
――ぎぃんっっっ! と受け止める。
颯の頭の上で響き渡る刀と刀のせめぎ合いの音。
その際――颯の刃こぼれがひどくなっている長刀から欠片がこぼれだしたが、そんなこと気にする余裕などない。颯は大きく振り降ろしてきた航一のことを見ながら、焦りが含まれるような音色で虚勢の笑みを浮かべながらこう言ってきた。
「な、なんだ航一……っ! そっちを優先にしなくてもいいのかっ!? お前のお仲間が死ぬぞっ? それでもいいのかっ!?」
「……確かに、あっちも気になるぜ……? けど、コノハとカグヤは言ったんだ……っ!」
颯の言葉を聞き、航一は踏み込む力を強くし、颯のことを押し潰さんばかりに腕の力を込めながら、彼は言った。
背後で繰り広げられている――カグヤとコノハの戦いの音と雰囲気を、肌で感じながら、航一は言った。
「あとは任せろって! あいつらは俺っちのことを信じてくれたんだっ! だから俺っちも最初のまま……、信じるだけだ! 心配なのはもちろんあるけどよ……。あいつらは俺っちのことを信じて、お前を倒すってことを信じて向かわせたんだ!」
「っっっ!」
航一の言葉を聞いた瞬間、颯の脳裏に浮かんできたのは砂嵐交じりのノイズ。
ザザザザッ! と鳴り響く脳内の音と灰色の砂嵐。
その砂嵐の中に映されたのは――這い蹲る幼少の時の自分。咳込みながら蹲り、その光景を見ていた初老の男性が幼少期の自分に向けて、手に持っていた竹刀を叩きつける。
声や音までは思い出せないが、それでも颯にとってすればその記憶は――嫌な記憶そのものだった。
その記憶がよみがえると同時に、颯は目の前にいる航一に向けて――
「ま、また……っ! またその言葉を俺に向けたなああ! こんの愚弟がああああああっっっ!」と叫び、颯は寄りかかるように詰めていた航一のことを右足で蹴り上げて、無理矢理引きはがす。
どすりと言う音が聞こえると同時に、航一はぐっと胃から込み上げてくるそれを耐えながら「げほりっ!」と咳込み後ずさるが、その後ずさりを隙として見ていた颯はえづきをしている間に航一に向かって急接近する。
「――っ!?」
驚く航一の視界に広がる颯の顔。その顔を見ながら、颯は長刀を大きく大きく右斜め下から左斜め上に向けて『ぶぅんっ!』と振るう。
その光景を視界の端で見た航一はすかさず自分から見て右斜め下に姿勢を落とし、そのままごろりと転がって颯の攻撃を回避する。
「ってっとぉ! アブねぇー!」
航一は驚きながら立ち膝をし、そのまま顎を伝った汗を手の甲で拭いながらほっと胸を撫で下ろす。
即座の行動したおかげなのか――颯の攻撃は航一に当たらなかった。服の一部を切っただけで航一自身にダメージを与えることはできなかった。航一にしてみればラッキーであったが、颯にとってすれば……。
その行動も、苛立ちの要因そのものだった。
「――っっ!」
颯はびきり……っ! と、頬に青筋を浮かべ、血走る眼で転がった航一の方を振り向きながら颯は振るい上げた刀をそのまま頭上で止める。止めた状態で両手で刀の柄をしっかりと持つと――そのまま転がって体勢を崩している航一に向けて……、刀を振り下ろす態勢になりながら颯は航一に向かって、怒りが込められた音色でこう言う。
「なぜ……、お前が存在しているんだ……っ! お前がいなければ、俺はあの場所で一番強い存在だった……っ!なのにお前はその座を奪った……っ!」
「――っ!」
「俺の立場を、居場所を奪った……っ!」
颯は言う。怒りを航一にぶつけるように振るい、上で止めながら彼は叫ぶように言った。
微かに颯が持つ刀が震えているが、それは恐怖の震えではない。殺意が膨張し、殺したいという意思が湧き出てきた衝動と思ってもいいだろう。
自分のすべてを奪った実の弟に対して、彼は怒りを殺意に変え、その刀を血の繋がった弟に弟に向けて振るい降ろし――彼は怒声と怒りの表情を航一にぶつけながらこう言った。
「お前は――疫病神だっっ!!」
俺を狂わす、人格が狂った化け物だ!
そう叫びながら颯は振るい上げたそれを、『ゴォッ!』と一気に振り下ろす。振り向いた航一の顔を傷つける――否、体ごと真っ二つにするかのように、颯はその刀を振り下ろす。
その刀が振り下ろされている光景を見て、驚きの顔を浮かべている航一に向けながら――!




