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PLAY72 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅺ(やっと)④

※事前に言っておきます。


今回はダイヤの回想です。後味の悪い展開が含まれており、精神的に病んでいる傾向があります。そして作中に出てくることですが、これはダイヤの個性でありフィクションです。現実とは一切関係ありませんのでご注意ください。


『あーそう言うことね』と言う感じて見てくれると幸いです。

 セレネの忠実なるSPの一人ダイヤは意外にも、今の名前が好きな男である。


 現実の名――ダルチェと言う名に関しては消したいと思えるほど嫌いであり、名を口にした瞬間思い出したくなことが一気に思い出されるので、一番嫌いな名前でもあった。


 そんな彼だが、この時は思い出したくなくても思い出す。まるで己の過去を昔の映画のフィルムのように流して――だ。


 ジジジッと映画のフィルムを大きなスクリーンに映すように、ダルチェは自分の過去に起きたことを走馬灯の様に流した。いいや、回想したの方がいいのかもしれない。


 前に記したことがあるが、おさらいとしてもう一度話しておこう。


 ダルチェは昔――家族のためにマフィアの用心棒となり行動していたが、後にクゥエッゼルム家に引き込まれてしまった過去があると。


 そう記した。


 しかしその過去をは簡潔にしたもので、詳しくした回想は、過去は――あまりにも苦しいものであった。


 ダルチェの過去の中に楽しいという記憶はあまりない。むしろ苦しいという記憶しかない。


 その理由として上げるのであれば――環境だ。


 彼を苦しい記憶に満ち溢れさせた起因は、彼に関わった人物達であり、今の彼を長い間形成させた原因でもあった。


 一言で言うのであれば……、彼以外の人間が()()()()()()。と言うことである。


 なぜそう言えるのか?


 それはダルチェと関わった人達にとって……、ダルチェの家族にとって……、その時ダルチェは――()()()()()()()()()()()()


 人間ではない。


 これはその関わった人物達が言っていた証言であり、空想のような恐怖が混じっている。だがダルチェと関わった人にダルチェのことを聞いたら、誰もがこう言うのだ。


 ダルチェは人間の心を持っていない。悪魔だと……。


 だが――本人はいたって普通の人物と思っていた。


 ダルチェはみんなと一緒の普通の人物。漫画で言うところのモブキャラに相当すると思っていた。普通に友達との関係を持つ。本当に普通の人物だと、そう自信を持っていた。確信をしていたといっても過言ではない。


 ダルチェは元々アメリカの田舎に住む少年で、普通に学校にも通う普通の子供で、相手を信じることを大事にしていた心優しい子供だったが、ダルチェは普通の人とは違うものを持っていた。


 超能力? ではない。幽霊が見える? ではない。


 ダルチェは昔から()()()()()があった。ただダルチェはその人の目を見て、観察することに長けていただけ。それだけ。


 いうなれば鋭い観察眼のようなもの。


 そんな目だからこそ、彼はいち早くその人の心境を、その人の気持ちを目で見てきた。


 たった七歳で彼はその目を使って生活をし、無意識の中で生きてきた。


 ただ純粋な目で見て、思ってきた。


 この人はもう一度嘘をつく。この人は信じてもいい。この人は怖い。この人は何も考えていない。この人はあの人のことが好きなんだ。この人はこの人のことが嫌いなんだ。この人は今怒っている。


 と言った感じで、彼は色んな人のこと無意識に見て生きてきた。


 雰囲気で察するようなことでも、ダルチェは見てそれを察知しながら生きて、普通と思いながら生きてきた。


 最初こそ――両親も偶然だろうと思って見ていたが、その偶然も次第に恐怖に変わり、親はダルチェとの接触をなるべく避けていた。的確な指摘が相まって、まるで心を読まれているかのようなダルチェのことを、親は恐れたのだ。


 この時点で、『ダルチェの親は変』と言う声が上がるかもしれないが、それでも親にとってダルチェは――




 ()()()()()()()()()()()()




 と思ってしまった。


 観察眼が長けていたダルチェのことを、親は異常者と言う目で見ていたのだ。


 そんな風に見られていたダルチェだったが、あまり気にも留めずに普通に生活をしていた。


 大丈夫と……、心の中で確信していたから、信じていたから、気にも留めていなかったのだ。


 血の繋がった親子だから、きっと大丈夫。お父さんとお母さんは僕の味方。怖い目で見ることも少しの間だ。そう思いながらダルチェは自分なりの普通の生活を過ごしてきた。


 そんなダルチェの人生が少し傾いたのは――八歳の時。


 原因は、些細な喧嘩。


 その喧嘩が原因で、ダルチェは色んな人から恐怖の目で見られることになり……、親からも畏怖の対象として見られることになったのだ。


 その時――ダルチェは()()()仲がいい友達と一緒に近くの公園で遊んでいた。公園の遊具で遊んだり、その時流行っていた携帯ゲーム機を片手に遊んだりしていた。ダルチェもそれに加わりながら普通に遊んでいた。


 しかしその時偶然仲が悪いクラスメイトと鉢合わせてしまい、そのクラスメイトと少し口論になった。喧嘩のきっかけは些細なもの。


 そして()()()()()()()にもかかわらず、クラスメイトは()()ダルチェの友達に対して行ったのだ。


 クラスメイト――ダルチェはそのクラスメイトのことを『A』と()()()()()


 その『A』がダルチェの友達――通称『B』のゲームを見て、「そのゲーム面白そうだな。やらせろよ」と言って、『B』のゲームに手を伸ばそうとしたことがきっかけだった。


 それを聞いていた『B』は、そのゲームを胸に抱えながら「いやだよ」と否定をかけた瞬間、『A』はそれを聞いてむっとかを顰めると――


「んだと! いいじゃねえか少しくらい!」と言って、『B』の手を掴みながらその腕を引きはがそうとする。それを見ていたもうひとりの友達――ダルチェは『C』と覚えており、『C』は、『B』のことを助けようと、果敢に『A』に掴みかかる。


「やめろ!」


 そう言いながら『C』は叫ぶ。しかし『A』は『B』のことを離さず、「貸せって! いいじゃねえかよ少しくらい!」と、まるで餓鬼大将のようなことを言って『B』の手を引っ張る。


 そんな光景を見ていたダルチェは、無言の状態になりつつ……、『A』のことを見ながら彼は思った。


 ――またか。これ何回目だ? いい加減にしてくれよ。もう何回この話を聞いたんだろう……。


 と、ダルチェは八歳なのに、大人びた思考で『A』のことを見て、ダルチェはすぐに『A』が黙る行動を起こした。


 流れるようにダルチェは『A』の横に立ち、そしてそのまま後ろに向かって――


「やめろっ」と言いながらどんっと押した。


 ただそれだけ。


 それだけで『A』は転び、『B』と『C』はそんなダルチェのことを見てお礼の言葉を述べていた。『B』は泣きながら述べていたが……、ダルチェは「いいよ。大丈夫」と言いつつ、尻餅をついている『A』のことを見降ろしながら、ダルチェは言った。


「いい加減にしろよ。嫌がっていただろうが。何回もお説教を喰らって教育しないのか? やっいぇはいけないって言っていただろが。」


 今のダルチェとは思えないほどの純粋な音色。そんな音色でダルチェは聞いた。


 それを聞いていた『A』は、まるで図星を突かれたかのような真っ赤な顔をして――


「う、うるせぇっ! お前には関係ねーよっ!」と、左目の下瞼を指で少し伸ばし、真っ赤な舌をべーっと突き出しながら言う『A』


「そんなことをしたら色んな人から嫌われるだろう? 嫌われたくないだろう? ならこんなことしないで素直に『貸して』って言えばいいんじゃないか。なんでそんなこともできないんだ?」

「んだよその言い方っ! 優等生ぶりやがってっ! お前のそういうところが嫌いなんだよっ! 優等生になっていればモテるとか思っているんだろうっ!? 見え見えなんだよ俺は!」

「そんなこと一ミリも思っていないけど……。」


 ダルチェは『A』のことを見る。そして何とかして『A』の行動を止めないとと思った彼は、ふとあることを思い出して――『A』に向かってこう言った。


 これならやめる。そう思いながら――




「そういえば知っている? スクールメイトの『D』のこと。」




「え? 何突然言い出すんだ? なんで『D』ちゃんが出てくるんだよ……っ?」


 唐突にダルチェは言った。彼の横暴をやめさせるために、ダルチェはあることを言って治してもらおうと思い、彼は唐突にその名を上げたのだ。


 その引き金になる存在――『D』の名を上げて。


 その人物の名も忘れてしまったが、ダルチェと同じスクールメイトで、『A』が好意を寄せている女子で、スクールでも人気があったスクールメイトであった。


 そんなスクールメイトの名を上げられた瞬間、今まで横暴の雰囲気が嘘のような驚きの顔をして、きょどるような顔をしながら『A』はダルチェに向かって聞いてた。


 ダルチェはそんな『A』に向かって――この言葉を聞けばきっと彼は悪さをしないであろうという想いを込めて、ダルチェは言った。子供らしい胸を張るような笑みを浮かべて、彼は言った。


 彼が見た限りのことを、嘘偽りもなく告げた。


「お前『D』のことが好きだろうけど……、『D』はお前のこと好きじゃない目をしていた。お前のやり方が嫌だっていう目で見ていたよ。」

「はぁっ!? なんだよそれ! おまえふざけてんのかっ!? それを言って俺が諦めるとかそう思っているのかっ!? お前さては……、『D』ちゃんのことが好きなんだろうっ!? そうなんだろうっ!? そんな目で『D』ちゃんのことを見るんじゃねえっ!」

「違うよ?」


 ダルチェは言う。


 驚きながらも『こうすればいいよ』というアドバイスを込めた音色で、ダルチェは『A』にとって最も苦痛となるような言葉を、()()で返したのだ。



「俺は()()()()()()()んだ。『D』は『A』のことが()()()()()()っていう目で見ていたけど……、それはきっと『A』の行動に問題があると俺は思うんだ。それさえなければ『D』も『A』のことを見てくれると思うし、みんなだって………。?」



 ダルチェは首を傾げて『A』のことを見ると、首を傾げた。


『A』は顔中を真っ赤にし、目に涙をためて、食いしばった口から「ううぅぅぅぅぅうぅっっっ!」と言う唸り声を上げてダルチェのことを見上げていたのだ。


 なぜそんな顔をしているのか、自分は善意をもって言ったはずなのに……、なぜ『A』が泣いているのか、それがわからなかったダルチェ。


 一応言っておく。


 この言葉は、()()()()()()()


 きっと横暴なことをやめれば、その子も『A』のことを好きになってくれる。心底嫌いではない。好きになってくれると、ダルチェはダルチェなりにアドバイスをしたのだ。


 が――それは彼の運命を大きく傾けてしまった。悪い方向に、彼の環境を悪くしていったのだ。


「う、う、うわあああああああ~んっっ! うそつけえええええ~っっ! 『D』ちゃんが俺のことをそんな風に思っているわけがねええええ~っ!」


『A』は泣きながら走って行ってしまった。わんわん泣きながら逃げていく光景を見ていたダルチェは、首を傾げながら――なんで? アドバイスしただけなのに。と思って振り向くと、ダルチェは目を見開いた。


 この時初めて、ダルチェは驚いた。強張る顔で、彼は驚いて見た。


 今まで一緒に遊んでいた『B』と『C』が、ダルチェのことを恐怖の対象として見ていたのだ。顔中を青ざめて、がくがくと体を震わせながら、二人はダルチェのことを見ていた。


 ダルチェは平静を装いつつ、首を傾げながら二人のことを見て――


「ど……どうしたの?」


 と聞くが、そんなダルチェのことを見ていた『C』は、ダルチェに向かって……。




「こっち来んな!」




 恐怖をかき消すような怒りの声を上げた。否――これは虚勢だった。


 そんな目を見ていたダルチェはすぐに『C』の心境を見て、何に対して怖がっているのかを聞こうとした。歩みを一歩進めて聞く。


「な、何に怖がって……。」

()()()()()()()! ()()()()()()!」

「!」


 あまりに悲痛な声。それは恐怖そのものと対峙した時に発せられる音色。そして雰囲気。


 ダルチェの接近を許さなかった『C』は、ダルチェに向かって『化け物』と言い、ダルチェの進行を止めた瞬間、『C』は怖がっている『B』の手を引いて――そそくさとその場を後にする。


 そんな光景を見て、ダルチェは驚いたまま固まり、そして彼は言う。冷静な音色で、茫然としながら……。


「――なんで、俺のことを、モンスターって、言ったの……? 友達って思っていたのに、信じていたのに……。なんで……?」


 と……。


 この話を見て察したかもしれない。ダルチェは善意と認識して行ったことなのだが、はたから見れば、聞けばそれは異常なものだ。まるで人の心を読んでいるかのような言動が、普通の人からしてみれば常軌を逸しているように見えてしまったのだ。


 素早く相手を見切る力を持っていることも災いしたのか、その日からダルチェは友達がいなくなった。誰一人としてダルチェと一緒に行動することを拒み、そして陰でダルチェのことを『モンスター』と噂するようになった。


 そのモンスターの詳細は、こうである。


 人の心を読むモンスターで、その人の心を壊すことを最も望んでいる。


 と言う噂で、誰もがダルチェのことをそう例えていた。ダルチェの目がまるで人の心を読む目のように見え、『A』のようになりたくないという想いから、このうわさが流れてしまったのだ。


 これのせいで、ダルチェは卒業するまでの間――一人でスクールライフを送っていた。悪い噂の所為で、彼は嫌な思いをしていた。


 なにせ、ずっと信じていた友達が突然離れて、そして色んな人達から奇異な目と畏怖を込めた目で見られていたのだ。いやな思いをしない方がおかしい。


 ――なんでこうなったんだろう……。俺は言っただけなのに、なんでみんなは俺のことをモンスターって言うんだろう……。


 ――なんで『C』も『B』も『D』も、俺のことをモンスターっていうの? 二人は友達だったのに……、信じていたのに……。


 ――なんで?


 ダルチェは終始疑念を抱いたまま卒業し、そのままジュニアハイスクールを卒業し、ハイスクールに入学し、ダルチェはなぜこうなってしまったのかに対して、疑念を抱く日々を過ごしてきた。


 それから早六年が経ったころ……。ある時ダルチェの父は十八歳になり、ハイスクール卒業間近となった時に、彼はダルチェに向かってこう言った。





「出ていけ。この家から」





 その言葉を聞いた瞬間、ダルチェは一瞬耳を疑った。疑うのは無理もないだろう。


 今まで尊敬の意図して見ていた、一番信じていた父から告げられた拒絶の言葉。父のことを見ても――父は威厳のある目をしていたが、その目の奥底に宿っていたものは……、恐怖。


 俯き、ハンカチを手に持って泣いている母と同じ……、恐怖の対象を見る目だった。


 ダルチェに向かって、その目を向けた父は、もう一度ダルチェに向かって、録音のような音色と言葉で言うと、それを聞いていたダルチェは――茫然とした顔と音色で……。


「意味が分からない。」と言った。が――父はそんなダルチェの言葉に耳を傾けず、眉を顰め、怒りそのものをダルチェに向けながら、ダルチェの父は言った。


「いいから出ていくんだ……っ! もう私達を苦しめないでくれ……っ! ()()()()()()()()()()……っ!」


 父の言葉を聞いたダルチェは――言葉を失った。そしてすぐに母の方に目をやると、母はそんなダルチェの視線に気付き、恐怖そのものを見たかのような顔をし、肩を震わせながら……、母は言った。


「み、見ないで……っ! お願いだから見ないで……っ! もうその目で、私達の心を見透さないで……っ! お願いだから……、みないで」


 みないで。


 みないで――


 その言葉を繰り返しながら、母はダルチェのことを避けた。


 そんな母と父の言葉を聞いていたダルチェは、理解できないような顔と、慣れた目を使って、その気持ちが本心だと、自分に対して言いようのない恐怖を抱いていることに、ダルチェは気付いた。そして……。


 信じてたのに、そう思いながら――ダルチェは……、そのまま一人暮らしをすることになった。


 はたから見れば、薄情な親だ。敏感な人達だ。妄想が激しい噂だと。そう思う人は多々いるかもしれない。事実こんなことはあり得ない。そう思う人がいるだろう。だが――そのような思考ができないくらい、その近くにいた人たちはダルチェのことを恐れていた。


 何かされるのではと言う恐怖ではない。ただただ――人の心を見たようなダルチェのことが、怖かったのだ。


 ダルチェの超能力のような観察眼が、まるで悪魔のような力に見えて、恐ろしいと思ってしまった。それがきっかけで、それが肥大してしまった結果が、これなのだ。


 八歳の時――『A』が『D』のことに対して好意を抱いていることは、誰も気づいていなかった。そして『D』が『A』一個人に対して見ている目を的確に当てたことが災いして、ダルチェは普通から異常なこと言う認識が広まってしまった。


 これは不運が重なった結果。


 ダルチェは――不運の所為で人生を棒に振るってしまったのだ。


 それから彼は生きるためにアルバイトをしながらお金を稼いでいたが、それも長く続かなかった。続かなくなり、お金も底をつきかけた。いつぞやか話していたマフィアの用心棒もしていたが、その記憶も正直曖昧である。


 正直家族のために金を稼いでいたのも、彼にとってすれば関係ないことで、本当は一体どんなことを言っていたのかも覚えていない。だが口実として言ったことはなんとなくだが覚えている。


 そのくらい彼は生きるために金を稼いで、生きてきた……。


 マフィアでの生活も朧気だらけ。霜がかかってしまった窓ガラスのように、彼はその記憶が曖昧のまま生活をしてきた。ハイスクール卒業までははっきりしていた記憶も、今となっては虫食いだらけ。顔が思い出せないような記憶になっていた。


 そんな生活をしていたある日のこと――彼の記憶が色付き始めた。


 その日のことはダルチェも覚えており、彼ももう二十五となった時、彼はある男性とすれ違った。その日の天気は、雪。


 雪がさんさんっと降り注ぐ十二月。コートとマフラーが必要な時期、ダルチェはある人物とすれ違った。そのすれ違い様に、その男性はダルチェのことを振り向き、そして背中を見ながら――


「君――いい目をしているね」と言ってきたのだ。


 それを聞いたダルチェは、振り向きながらその人物のことを――目を見る。見て……、ダルチェは言う。


「…………いい目、とは……?」

「そのままさ。君はとてもいい目をしている。と言ったんだ」


 ダルチェは首を傾げる。いったい何を言っているんだ? と……、そして再度その人物のことを見ると、ダルチェはすぐに見切る。


 ――この人は、本心を語っている。


 凛々しい顔と音色で、その人物はダルチェのことを見てそう言ったのだ。それを見たダルチェは、踵を返し、行く道に向けて足を向けようとした瞬間、男性は慌てた音色で――


「あぁ! 待ってくれ! 話を聞いてくれないかっ!? 君はとてもいい目をしている! その目を使って私の手助けをしてくれないかいっ!?」と言ってきたのだ。


 それを聞いたダルチェは、足をビタリと止めて……、ゆっくりとした動作で男性の方を振り向いた。


 冷静さに隠された怒りをむき出しにしながら……、ダルチェは低い音色でこう言った。


「それは……、どういった理由で? なぜ俺がそんな人間だと気づいたんですか?」

「なんとなくだ。これは長年人のことを見てきた私の勘が囁いただけで、確信なんてもんは……、はっきり言ってない。しかしそう言うということは――君の目は鋭いということだな」


 観察の目が。と、男性は目元を指さしながら勝ち誇った笑みで言う。


 それを聞いた瞬間、ダルチェは目元をピクリ……。と動かした。動かしながら彼は……、こいつ、本音だ。本気で俺の目のことを察して、そして話を持ち掛けている。そう思ったダルチェは、凛々しい笑みでを浮かべている男性のことを見ながら、口をそっと開く。


「俺の観察眼が欲しい理由は分からないが、俺はもう一人で生きようと思っている。それに……、俺は人から『悪魔』と言われているんだ。悪魔に呪われたくなかったらこのまま立ち去った方が身のためだぞ?」

「悪魔か。ならば私はすれ違った瞬間にその呪いを受けてしまっただろう。ならばその呪いを背負って生きようか。もちろん――その呪いをかけた君にも責任を負わせようか」

「……………………喧嘩……。じゃないな……。お前――本心で俺に哄笑を持ち掛けているのか?」

「ああ。その通りだ。私は本音で君に話している。私の手助けをしてほしいとね」


 男性は凛々しい笑みでダルチェのことを――ダルチェの目を見ながらしっかりとした音色で、冗談を交えながら言う。


 ダルチェはそんな男性のことを見て、観察して見切ると……、彼は内心――驚きを隠せなかった。


 ――この男……、本心で俺に話しかけている。何の恐怖もなく、『悪魔』と言ってもそれを真剣に受け止めた後で、話しをしている。


 今までなかった光景。今まで見なかった人物。まるで見たことがない人物だと、ダルチェは思った。


 そんな男性のことを見ながら、ダルチェは男性に向かって……、肩を竦めながら冷静な面持ちで聞いた。


「手助けか……。だが……、俺は多分すぐに不採用だと思うぞ? マフィアの仲間が俺のことを『できるが空気を読んでいない奴』と言う認識で見ている。そんな奴を採用してもいいのか? もっと有能な奴が世界には多数」

「いいや――君がいいんだ」


 男性ははっきりとした音色でダルチェの言葉を遮り、ダルチェに向けて手を伸ばし、その掌を見せながら言った。凛々しい笑みで男はこう言ったのだ。



「私は仕事上何かしらと命を狙われることがあるんだ。その防犯対策として、君の目を私のために使ってほしい。そしてその命を私に預けてほしいんだ。悪くない話だ。それに……、それは君の()()。要は君の人間性だ。個性だ。私も妻から『だらしない』と言われている。人間良いところがあれば悪いところだってある。だが……、君の悪いところはいいところだと私は思っている。他人がどう思うのかはわからないが、私は――自分の意志を貫いていると、そう思っている」



 ダルチェは驚いたまま目を見開き、固まる。


 今まで言われたことがなかった。今まで自分のことを恐怖の目で見ていたそれではない。自分のことを人間として見ている目で言われ、ダルチェは驚きを隠せなかった。


 自分のことを――『悪魔』、『恐怖の対象』としてではなく……、『人間』として見ている。


 そうダルチェは、確信した。


 男性の言葉は真実だと、ダルチェは確信し……、男性の伸ばされた手を見つめた。


 さんさんと降り注ぐ雪の雫が、男の手に乗ると同時に、その手に小さな水の塊を残して形を変えていく。その手を見て、ダルチェは思う。


 ――この男は心の底から俺のことを必要としている。俺の目が必要だと思って、交渉している。


 ――今の職場に長くいる必要もない。未練なんてない。


 ――誰もが俺のことを恐怖の目で見て避けていき……、マフィアでは、最初こそ『使える目』と評していたが、次第にその評価も『恐怖』に変わって、今となっては昔と同じ避け方になっている。


 ――俺の目は呪われている。まるで心を見透かすようなその目が恐怖の対象となり、俺の口がそれを駆り立てていた。


 ――空気が読めていないことを口実に、誰もが俺のことを悪魔に仕立て上げようとしていた。


 ――でも、この人は違う。見たからわかる。


 ――この人は……、俺のことを『人間』として見てくれている。今も、見ている。


 ――親や友達、マフィアの仲間とは違う……。真っ直ぐで凛々しい目だ。


 ――今まで見てきた人達や、親たちとは違う目。信じていた人たちの恐怖の目とは違う。それよりも暖かくて、信じたいような目だ。


 ――この人の言葉を、信じても、いいのかもしれない……。いいや、信じてみよう。


 ――俺の目を信じろ。この人の心を信じろ。


 そう思ったダルチェは顎を引き――男性のことを見ながら、冷静な目で手を伸ばして言う。手を伸ばして男性……アーレントレンドラ・ルイ・グレッセンド・クゥエッゼルムに向けて、彼は言った。


「そう思うのならば、見極めてやる。全部。善悪すべて見切って――あなたのことを守ろうじゃないか。」

「それは楽しみだ。ついでに妻と娘。後は他の人物達のことを守ってくれると更に安心だ」

「………言われた通りにしましょう。」


 と言って、二人は互いの手を握り合いながら互いの顔を見つめる。


 さんさんと降り注ぐ白の世界で、幻想的な雪の世界とは不釣り合いなことをして――二人は交渉を成立させ、ダルチェは晴れてクゥエッゼルム家の使用人となった。


 マフィアの人達も清々しい顔でダルチェとの縁を切ったことはダルチェにとってすればやっぱりなと言う印象で、すぐにそのマフィアの顔も忘れた。強いて言うならそのことも忘れかけていた。


 そのあと彼は――アーレントレンドラと妻、そしてセレネのことをルビザ、フォスダーと、のちに入るガーナと一緒に守ってきた。


 空気が読めないことも、ルビザのアドバイスで観察眼を用いた目を使って話すことを学び、空気が読めない言動傾向は薄れていった。完全に治ったわけではないが、それでも前よりましになった。


 そんなみんなと一緒に、ダルチェは守ってきた。


 ずっとずっと……、自分のことを見てくれた三人のことを守ってきたが……、その観察眼が通じなかった時があった。それは――





 アーレントレンドラとその妻が、ドクトレィル・ヴィシットの手によって殺された時である。





 ダルチェもその時、右手を失ってしまい、驚愕と絶望の中、彼は絶句した。本当に冷静さがかき乱されるくらい、絶句して、思った。


 ――俺の観察眼が……、通じなかった?


 ――俺の的確な目が……、相手の本性を暴けなかった……? あの男の本性を、見てわからなかったということなのか……?


 ――いいや違う。すべては俺の未熟が招いた結果。俺の目は正常だった。なのに()()()()()()()()()()()。だから見抜けなかった。だからこんな結果を招いた。


 ――この観察眼をもっと鍛えていれば……、いいやその前に……俺があの時相手の本性を見抜けば……、もっと疑心になれば……こうならなかった。


 あの男のことを――Drと言う存在を一瞬見ただけの人格と信じなければ……、死なずに済んだ。失うことはなかったんだ……っ!


 ――守りたいものを、守ることができなかった。何もかも守れなかった。





         全部……、俺の驕りが招いた最悪の結果だ。





 そう思ったダルチェは、足を失ってしまったルビザと、重症のフォスダー。そして未熟ながら恐怖で動けなかったガーナを見ずに、彼は失ったその箇所をぎゅぅっ! と掴みながら、彼は思った。いいや――誓った。の方が正しい。


 彼は誓った。


 こうなってしまったのは自分の所為。


 自分の目の良さを驕ったせいで、二人は死んだ。信じてしまったせいで、失ってしまった。


 自分が最も信じたかった人を、見殺しにしてしまった。


 俺は他の三人とは違う。絶対的弱者。何もできない。目だけが取り柄の弱者だったんだ。そして――俺は母達の言うとおり……、悪運を招く悪魔だったんだ。


 もうこの最悪のケースを生み出さないために、これからは相手のことをもっと見定める。この目を鍛えて、セレネ様をあの二人のようにさせない。これ以上の犠牲を生まないために、俺は目を鍛える。そして誰も信じない。


 これだけしかできないが、俺にしかできないことで、守れる唯一の方法だ。


 もう――見誤ったりはしない。


 そう思いながら彼は今現在に至るまで目を鍛えている。相手のことを見定めて、見切り、敵か味方かを見極め、自分のことも見極めた。


 自分は弱者だと、自分は絶対的弱者で、信じた人を見殺しにしてしまった、親の言う通り悪魔だと罵りながら――大事な人を己の目の過信で殺してしまった弱者(呪われ者)。そう認識しながら……。


 自分の目も呪い。信じることも呪いと認識しながら、今もダルチェは生きている。悪魔の力と思えるような目と、そして人を呪い殺してしまうようなそれを兼ね備え――自分の所為で呪い殺してしまったことを悔やみながら……、彼は今もその呪いを背に生き続けている。


 誰かを信じたい。そんな悲痛の声に耳を塞ぎながら……。


 回想――終了。



 ◆     ◆



「はぁ?」


 今に戻り、アキはダイヤの言葉を聞いた瞬間、笑みを無表情に戻し、歪に吊り上がった頬を引くつかせながら言葉を上げる。


 その言葉を聞いたダイヤは、無言のままアキのことを見上げる。冷静な目で見上げながら……、ダイヤはアキの言葉を待った。が、その待ち時間もすぐに終わりを迎えた。


「あんた何言ってんだ? 俺が弱いって言いたいのか?」

「そうだ。俺はずっとこの目でいろんな奴らを見てきて、見切ってきた。」

「そんな妄想のようなこと、できるわけがない。と言うか弱いって決めつけんな。まだ本腰入れて戦っていないのに、なんで負けると確信してんだよ」

「見た結果だ。」

「そんな結果は信じない。可能性だってあるんだ。あんた何がしたいんだ? ()()()()じゃないか。思考回路がてんで理解できない。今は一時共闘なんだ。少しは俺のことを()()()


 滅茶苦茶。そして信じろ。


 それを聞いたダイヤは目元をピクリと動かしながら、瞳孔を少しずつ、本当に少しずつ揺らしながら、彼は……、ダイヤは、冷静を装った目で、震えるそれを消そうとしながら、隻腕の腕を握りしめてこう言った。


「滅茶苦茶……、なのは、俺も理解している……。ルビザも、フォスダーも、俺の所為じゃないと言っている。だがあれは俺の所為でなってしまった結果だ……っ。俺の所為で、あのお方たちは死んでしまった……っ! 俺が殺したようなものだ……っ! 俺の所為で全部が壊れてしまった……。俺が信じようとした結果……こうなってしまったんだ……っ! 俺の目の所為で……、こうなってしまった……っ!」

「……………………! 壊れてしまったって……」


 ぶつぶつと呟いて、俯いて頭を抱えてしまうダイヤ。

 

 ダイヤの言葉を聞いたアキは、あまりの変わりようを遂げたダイヤのことを見降ろし、ダイヤの言葉を聞いた瞬間、ふと思い出す。ダイヤが言ったあの言葉を。




 俺が言いたいのは、守ることに固執しすぎると()()()()()()()()()()()()()()()()()と言っているんだ。俺もそうだったからな。




 その言葉を思い出した瞬間、なんとなくだが、アキは察した。


 この人は――ダイヤは固執し過ぎた結果……、心の底から信じた人を守るために頑張ったが、その結果最悪の結果を生んでしまった。間接的ではあるし、そうでないかもしれないが、ダイヤはそう思っているに違いない。そして――


 それを責めているんだと、自分で自分を責めているんだと……、アキは察した。


 これはアキの憶測である。だが憶測であろうと、アキは思った。


 ――だから何だ。


 そうアキは思い、ダイヤのことを見降ろして、言葉を発しようとした。


 だから何だ? それだけで人のことを信じられずに、自分で見極めたことしか信じないのか? そんなの変な話だ。それはお前の所為じゃない。だから今は立て。


 そう言おうと口を開いたアキ。


 しかしダイヤはそんなアキのことを睨みつけるように見上げて、驚くアキをしり目に彼は立ち上がりながら荒げた声でこう言った。


「分かっただろう? これが真実だ。俺は弱い。お前も弱い。それは俺の目が今まで見てきた結果だ。ドクトレィルの時はだめだったが、あれ以来外れることはなかった。つまりお前の見切りも正解と言うことだ。わかるだろう? 無理なんだ。俺たちではあの男に勝てない。あとはほかの奴らに任せろ。」

「ま、任せるって……、なんで」

「理由は簡単だ。俺とお前は弱いから――戦っても()()()()()。」

「――っ!」

「無駄なことをする暇があるなら、今はすべきことを考えろ。俺はそう言いたいんだ。そして頭を少し冷やしてほしい。」


 ダイヤは驚いているアキに事を見ているが、そんなアキの感情を読み取るようなことをせずに彼はこう言った。彼の肩を掴んで――言い聞かせるようにこう言った。


 アキの脳裏に浮かんだ亡き父の言葉を思い出していることに気付かず、ダイヤはアキにとって大規模の爆弾を投下した。



「今の俺達では、()()()()()()――()()()()()。」

『お前は才能なしだな。()()()()()()()()()()()からな」


 

 そんな言葉を聞いて、思い出される苦い記憶を目で追いながら見ていたアキは、無言の状態でダイヤのことを見ていた。見ていたがすぐに――


「へ」


 引き攣った笑みを浮かべて首を傾げているダイヤのことを見上げながらアキは……、両手で頭を抱えると同時に――


 叫んだ。大声で、その怒りを吐き出すように――叫びまくった。

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