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PLAY71 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅹ(麗奈と白)⑤

 ――え?


 レンは今起きている状況を飲み込めずにいた。


 茫然とした面持ちで尻餅をついた状態で彼女は、今の状況をゆっくりとした思考でなんとか把握しようとした。


 遠くには怒りを露にしているレパーダ。横には遠くで倒れていたはずのキョウヤ。


 そして目の前にいるのはここにいない存在で……、そして最も会いたかったが、それが今となっては躊躇いを感じてしまっている人物。


 ――なんで、ここにいるの……? 


 レンは思った。思いながら彼女は続ける。思い続ける。


 ――だって、私と会いたくないって……、言っていたのに、なんで来たの?


 ――もう、意味が分からない。どうなっているの? ねぇ……、豹田さんの言った通り、なぜあなたはここに来たの? 


 ――答えて。答えてよ。ねぇ……、なんでここに来たの……?


 そう思いながら、レンはハクシュダの現実の名を心の声で響かせながら言う。


 その声は文字通り心の声。ゆえにハクシュダには聞こえない。ゆえに彼は答えない。答えない代わりに、彼はレパーダのことを睨みつけていた。


 レンの方を見ずに、ハクシュダはレンのことを背に隠しながら彼は仁王立ちになっていた。


 まるで――自分とキョウヤのことを守るように、彼は立つ。レパーダに立ち向かうように、立ち塞がるように――彼はいた。



 ◆     ◆



「ハアアアアクウウウシュウウウダアアアアアアッッッッ! なぜここに来るんだぁあああああっっ!」


 レパーダの激昂が辺りに響く。それを聞いたハクシュダは肩を竦め――


「当り前だろうが。俺はもう終わったんだ。だから加勢に来た。それだけだ」

 と言って、ハクシュダはレパーダに向けて言う。それを聞いたレパーダは怒りを露にしつつ、ハクシュダのことを指さしながら彼は言う。


 納得できるわけがない。そんな言葉だけで。と言わんばかりに、彼は言ったのだ。


「加勢っ!? 何を言っているっ! 私への加勢はするなと言ったはずだ! それに他のところへの加勢はどうしたっ? 他への加勢をしに行ってさっさと殺してこいっ! ここは必要ない!」

「そうかよ。でもな――ここ以外の加勢は無理そうだったからここに来たんだよ」


 ハクシュダは言う。


 内心――嘘だけどな。と思いながら、彼は「な、なに……っ!?」と、驚いて目を見開いているレパーダに向けてこう言った。彼は知った現状を……、口頭で説明をした。


「バトラヴィアの兵士で残っているのはあのジジィとレズバルダっていうエルフ。んで、俺達『バロックワーズ』で残っているのは俺、あんたと……、Drのおっさんだけだ。事実壊滅だから、俺はあんたの加勢に来ただけだ」

「………っ! まさか……っ! クレオはっ!?」

「かなり前から倒されちまったみたいだ。外が一体どうなっているのかまでは分からねえ。でも……、中でも有力者だったボルケニオンと双子ネクロマンサー。あとアクロマは倒されちまった」


 しっかり見てきたからな。そう言いながらハクシュダは仮面越しの目の位置に指をこつこつと当てる。


 それを聞いたレパーダは、イラつく顔を更に深くし、大きな舌打ちを残しながら彼は――


「くそっ! クレオめ……っ! やはりパトラと一緒でなければダメか……っ! 力はあったが、それでもパトラのような精神的な攻撃は皆無……! いうなればただの自惚れ! 動かすことは容易かったが、結局あいつだけではだめだったか……っ! しかもボルケニオンとあの双子が……っ!? ボルケニオンにはDrが仕組んだあれがあっただろう……っ!?」


 と言うが、それを聞いていたハクシュダは苛立つような音色で首を横に振りながら、彼は呆れるように言った。


「知るかよ。でも負けたっつーか、もう洗脳されていないことは事実。そして事実上俺達は負けが確定しているんだよ。壊滅だ。壊滅」

「っっっ!」

「これでDrが倒され、この帝国の最下層にいるガーディアンが浄化されちまったら、この帝国は壊滅。んで、バロックワーズも事実上解散。そして、あんた達も永久監獄行だな」

「な、な、あ、な、な、んなん、なんだとおおおおおおおおお……………っっ!?」


 ハクシュダの言葉を聞いたレパーダは、もう理解ができないかのような面持ちで、レパーダは顔と頭をガリッと掻きながら困惑するその状況を理解しようとする。


 確かに。この事実は敵側にとってすれば愕然をするものであろう。


 よくある展開ではあるが、彼らからしてみれば勝てる要素が満点のバトルロワイヤルだった。


『バロックワーズ』とバトラヴィア帝国には――帝国一の剣豪にして最強格のレズバルダ。


 そして最古参にして秘器(アーツ)の開発の中心を担っているグゥドゥレィ。


『バロックワーズ』には洗脳しておいたボルケニオンと、一時的に協力を申し出てきた双子死霊族スピカとカスピ。精神的には壊れてしまっていたが、ビットの数で多大な戦力になるアクロマがいた。


 しかし――その強戦力を有している六人の内の四人が倒されてしまった。


 否――実際は一人倒され、一人洗脳が解け、二人は逃走なのだが……。


 それでも壊滅に変わりはなかった。事実上『バロックワーズ』は壊滅状態。残っているレパーダ。ハクシュダ。そしてDrが倒れてしまえば、『BLACK COMPANY』と同じ運命を辿ってしまう。


 更に――バトラヴィア帝国も有望な『(アイアン・ミート)』がいなくなってしまえば王は丸腰。


 何の武器も持たない存在となり、おまけにガーディアンが浄化されてしまったら……、帝国の偽りの平和と永劫の支配に幕を下ろしてしまうことになる。


 それは――帝国の崩壊を意味していた。


 二つの崩壊。それを招いたのは――『BLACK COMPANY』をたった一日で壊滅に追い込んだ徒党。


 カルバノグ。


 ワーベンド。


 レティシアーヌ。


 ローディウィル。


 そして……、名もわからない新参のチーム。最強のENPCを引き連れた新参。


 その五つの徒党によって、彼等はたった一日で壊滅に追い込まれた。


 たった一日。


 数日の激闘の末ではない。


 一日と言うスピード戦闘で、『バロックワーズ』とバトラヴィア帝国の二大勢力は……、いとも簡単に崩壊の道を辿って行った。


 ――ありえない……っ! ありえないぞ……っ! こんな事態はありえない狂い方だ! なぜこうなってしまった! なぜたった一日で壊滅に追い込まれてしまったっ!?


 ――本来なら我々が数日かけて嬲る算段だったはずだ! バトルロワイヤルと言うものはそういうものだ!


 ――当初はそう言う算段だったはずだ! なのに、なのになぜ……っ! 我々が追い込まれてしまっているんだ………っ!?


 レパーダは焦りを顔に出し、ばしりと顔に手をつけて狼狽しながら体中を震わせていた。


 がくがくと震わせ、今の状況を理解しようにもしたくないという気持ちを増幅させながらレパーダはぶつぶつと呟く。


 先ほどまでの余裕が嘘のような狼狽をして、彼はぶつぶつと呟く。


「こんなことありえない……っ! ありえないんだ……っ! もっと有利に事が進むと思っていた! なのになぜこうなってしまったんだっ? どこで狂ってしまったんだ……っ? なぜ、なぜ……? なぜなぜなぜなぜ?」


 レパーダはぶつぶつと目の前にいる三人のことを忘れてしまったかのように譫言(うわごと)を述べていくが……、そんな彼のことをじっと仮面越しで見つめるハクシュダ。


 何の感情も――ないわけがない。


 静かな怒りをふつふつと湧き上げ、ぎゅぅっと握りしめた指が掌に食い込むくらい、彼は怒りを抑えながら立っていた。


 そんな状態でハクシュダはふっと――背後にいるレンとキョウヤに顔を向ける。横目で二人のことを見たハクシュダ。


 キョウヤは体を震わせ、突き刺さっているそれを引き抜こうと必死になっている。体中を痺れさせ、ところどころから血を流しながら……。


 レンは対照的に、ハクシュダのことを見上げながら茫然としていた。顔中の泥と、目の周りと頬に残る痕を残しながら。


 そんな二人の痛々しい姿を見たハクシュダは、仮面越しですっと目を細め、すぐにレパーダの方に視線を戻しながら、彼は言った。


 レンに向かって――いつものように言った。


「レン――キョウヤの傷と状態異常を治せ」

「え?」

「頼む。今は俺の話を聞いて行動してくれ。あとでしっかり――話をする」

「………………………」

「お前の文句も聞く。キョウヤの文句も聞く。だから今は――」

 

 安心して、俺の後ろにいろ。


 ハクシュダは言った。真剣な音色で、二人のことを心配するように、彼は言ったのだ。


 レン、キョウヤと三人でいたときと同じ気持ちと、()()()()()を感じながら、レンは無言で、唇をきゅっと噤みながら――


 こくりと頷いた。


 声などなくてもいい。返事なくてもいい。なぜなら――ハクシュダはきっと返事を聞く前に行動する。ハクシュダはそう言う人だから。


 そうレンが思うと同時に、ハクシュダは彼女の返事をまるで予知していたかのように――行動に移した。


 ハクシュダは一歩、右足を前に出し、両手の指に装備していたワイヤーを『ひゅんひゅんひゅんっ!』と動かしながら、彼は攻撃する体制をとる。


 構えたハクシュダの姿を見たレパーダははっとし、尻餅をついて後ずさりをしながら彼は焦りの声を上げる。左手を前に突き出して――


「ま、待て! 待て待てハクシュダ! 攻撃をやめろ! 私達は仲間だろう! 仲間でもある私に攻撃するのかっ!? 早まるな!」


 と、よくあることを言うレパーダ。


 しかし。


「早まってねえよ。俺は正常だ」


 と言って、ハクシュダは指をクイクイと動かし、ワイヤーをしならせながら前へ、前へと足を進める。


 ()()でもあるレパーダに足を進めて、攻撃する意思を込めながら、彼は歩みを進めて行った。


 ハクシュダの指が動くと同時に、しなっていたワイヤーが地面を『ガリッ!』と抉り、建てられていた貯蓄庫の壁を深く抉る。


 抉るその光景を見て、レパーダは顔面を青くさせ、己の最悪の姿を想像してしまうと同時に、彼は徐に立ち上がってハクシュダに向かって言った。


「ま、待つんだハクシュダ! そんなことをしたら麗奈お嬢様にも当たるぞっ!? お前が最もと大切にしたいと言っていた……っ。()()()()()()と言っていたお嬢様を傷つけることになっても」


 その言葉を聞いた瞬間、レンは目を見開き、ハクシュダの背中を見上げながら驚きの顔を浮かべる。


 彼女が驚いた理由――それはレパーダが放った言葉であり、その言葉に対して彼女は矛盾と己の浅はかな理解力を知り、少しずつ、本当に少しずつ彼女は胸の奥から湧き上がる雷のような電撃を感じていた。


 赤く、バリバリとくる電撃を彼女は己の胸の内で感じ、それと同時にハクシュダから感じる同じ電撃とレパーダから感じる青くて弱々しい湾曲の電撃を感じ取る。

 

 それらを感じたレンは、レパーダが言ったことに対して嘘をついていないことを察し、先ほどの言葉が嘘ということを今しがた理解した。


 今彼女が感じている『びりびり』は、ハンナで言うところの『もしゃもしゃ』。


 セイントで言うところの『炎』。


 ボルドで言うところの『蒸気』という、彼女なりの感情感知を指しており……、レンはその感情を察知し、レパーダが()()()()()()()()()()


 目の前にいるハクシュダに恐怖を抱き、そして彼の口から放たれた言葉が員実であるということを感じ取ったのだ。


 今の言葉が本当。


 逆を表すのであれば――()()()の言葉は…………。




                嘘。




 ということになる。


 それを理解したレンは、今まで無気力と言う言葉が正しかったかのような顔が嘘のように晴れていき、レパーダに対して再度怒りを覚えていく。


 ――なんで、気付かなかったんだろう……っ! そんなこと、本人に聞かなきゃわからないのに……っ! 豹田さんの言葉に、信用性なんてないのに……!


 と、レンは若干レパーダに対して失礼なことを思いながらふつふつと込み上げてきた怒りを爆発させ――ずに、レンはぎゅっと目をきつく閉じてその怒りを抑え込む。


 今すべきことはそれではない。そう思ったから、レンはレパーダをハクシュダに託す。


 今はハクシュダに託されたことをする。それを最優先事項にしようと、レンは傍らで唸って動こうとするキョウヤに駆け寄り――


「きょ、恭也君……っ! ごめんね……っ! 大丈夫っ?」


 と、彼に手をかざしながら言うと、それを聞いていたキョウヤは唸る声と共に――レンのことを見上げながら言った。


 青ざめた顔で、虚ろな目で彼女のことを見上げながら――キョウヤは言った。


「大丈夫に見えるのか……? 矢ぁ突き刺さって、独で動けねえ状態が……っ」

「うん! 全然大丈夫じゃないからすぐに治すね!」

「だったら聞くな……っ! あと突っ込ませんな……っ! 毒回る……!」


 レンの言葉を聞いてか、キョウヤは満身創痍ながらレンに向けて突っ込みを入れる。


 彼らしいといえば彼らしいが、それで興奮して突っ込むと同時に、体中の毒が駆け巡りそうな恐怖を感じてキョウヤはレンに向かって突っ込みを入れないでほしいと願う。


 それを聞いて、レンは頷きながら――「うん! すぐに治すから!」と言って、彼女はキョウヤに向けた手に力を入れて、スキルを発動させる。


「『異常回復(リフレッシュ)』」


 その言葉と同時に、レンの手から白い靄がふわりと浮き出て、キョウヤの体に付着してキョウヤの体の毒素を中から溶かしていく。


 前にマドゥードナで、ハンナがキョウヤにかけたそれと同じスキルで、ゲームでよくある状態異常回復をレンはキョウヤにかけたのだ。

 

 それを受けて、体中の毒素が抜けていく感覚を感じたキョウヤは、すでに鈍痛になっている箇所に手を伸ばし、体に突き刺さっているその矢を――がしりと掴む。


 そして――


「レン――今から(コレ)を引っこ抜く! 引っこ抜いたと同時に『回復』スキルを!」

「! う、うん! わかった!」


 キョウヤの言葉を聞いたレンは一瞬驚くが、キョウヤのいつもの何かを固めたかのような眼差しを見て、即答の如く頷き、キョウヤが掴んでいるところに手をかざして、スタンバイをする。


 それを見たキョウヤは、下唇を噛みしめて突き刺さっている箇所を睨みつけながら――勢いよく引き抜く。


「………………………………っ!」

「『中治癒(ヒーリー)』!」


 体中の激痛と同時に、黄緑色の靄がキョウヤの激痛の箇所に落とされ、激痛が鈍痛に、鈍痛が無痛にどんどん和らいで消えていく。


 それを体で感じ、激痛の箇所が元の状態に戻ると同時に、キョウヤは急いで次の箇所に向けて手を伸ばす。


 それを少しずつ、本当に少しずつ行いながら、キョウヤたちは行動に移す。


 殺気を仮面越しで放っているハクシュダに、レパーダのことを任せて。否――一時的に任せて、あとで加勢しに行く勢いで、二人は行動を急かす。


 そんな光景を見ていたレパーダはまずいと心の声を拡張させながら、どんどんワイヤーをしならせて迫り来るハクシュダに向かって、彼は焦りを顔に出してこう言う。


 静止と、宥めの言葉を――


「おおぃ! 待て待てハクシュダ!」

「気安く呼ぶんじゃねえ」

「待て! おい待てハクシュダ! それ以上近づくな! そんなことをしてみろ。()()忘れていないだろうな? なぁ? 忘れたとは言わせんぞっ」


 約束。その言葉を聞くと同時に、ハクシュダは足を一瞬止め、体を一瞬強張らせる。


 それを見て、レパーダは内心良しと思いながら、彼は続けてこう畳みかける。自分の胸に手を当てて、こわばっている笑みを浮かべ、汗を流しながら、彼は言った。


「そ、そうだ……っ! 忘れていないんだな! ならば冷静になれ。『私に攻撃をする』こと。『『バロックワーズ』を裏切る』とどうなるのか、お前は忘れていないんだな? お前の大切な人をお前の目の前で葬ると告げたことも、忘れていないだな? ならば冷静になれ。お前がこれ以上攻撃を続行するのならば――」

「………………その減らず口は、どこから出てくるんだ? お前は三枚舌なのか?」

「え? っっっっ!?」


 が。その言葉に耳を傾けず、ハクシュダは低い音色レパーダに告げる。


 体中から迸る殺気をさらに強く放ちながら――!


 それを聞いたレパーダは一瞬目を丸くさせて驚きのそれを浮かべたが、すぐにその目を驚愕のそれに変えてハクシュダのことを見る。ぶるぶると瞳孔を震わせながら、彼はべらべら回っていた口を止めてハクシュダのことを見る。


 見ることしかできない状況で、彼はハクシュダのことを見ていると、ハクシュダはそんなレパーダのことを見ながら、歩みを再開して近付き、指をクイクイと動かしてワイヤーをしならせながら、彼は言う。


 低く、怒りがもう限界に達しているかのような音色で、彼は告げる。


 なぜ『バロックワーズ』にいたのか。なぜレンと別れを告げようとしたのか。それを彼は明かそうとする。


「お前は言っていたよな? 『レンを傷つけたくなかったら『バロックワーズ』に入れって。言っていたよな?」

「………へ? あ、えっと……」

「しらを切るのか? そしてこうも言っていたよな? 『ちゃんと麗奈お嬢様に『お前と俺は釣り合わない』ことを告げろ。さもないと麗奈お嬢様に危害を加える』って、お前は言っていたよな? それを承諾したら、レンには手を上げない。それが絶対条件の約束だったはずだ。だが……」


 だがな……。


 ハクシュダは動かしていた指を、ぎゅっと勢い良く握りしめる。


 すると――


 ガシュンッッ! と、あたりにあったコンテナに切り傷が走り、そのままコンテナの瓦礫をいくつも作り上げていく。


 ガコンッ! ガコンッ! と積み重なっていくいくつものコンテナの残骸。土煙を上げて崩れ落ちていくそれを見たレパーダは、顔中を青く染め、滝のような汗を流しながら彼はハクシュダのことを見る。


 そんなレパーダとは対照的に、ハクシュダはそんなレパーダのことを仮面越しで見つめ、片手でその仮面に手をつけながら、彼は言う。


 静かではある。しかし怒りこそは最高潮に達しているような音色で、ハクシュダはどんどん音色を大きくさせながら言った。


「もういい。もうお前らの非道な行動に加担することはやめだ。俺が犯したことは許されることじゃねえから、俺は『バロックワーズ』を抜けた後で罪を償おうと思う。だけど、その前にてめえだけはぶっ倒す」


 彼は仮面から手を離して、顔を上げて彼は叫ぶ。


 己の大切な人を――大切に、傷つけないようにしようと誓った()()()のことを思い出し、大切で、愛おしく微笑むレンのことを、麗奈のことを想いながら、彼はそんな彼女を体と心を傷つけたレパーダに向けて、彼は――叫んだ。




「レンを……、麗奈を傷つけた罪は重いんだよ……っ! お前がしてきたこと、()()許せねぇっ! これ以上麗奈や他の奴らを傷つけるなら、ここでお前を…………、ぶっ倒す!」




 その言葉を聞いて、ハクシュダは両腕を大きく広げて一気に振り下ろす。『ひゅるんっっ!』という音が空を切ると同時に、それはレパーダに向かって迫り来る――!


 それを見ていたレパーダは、息をすることを忘れながらハクシュダのことを見る。


 今まで手中に収めていた駒が、突然反旗を翻したかのような面を喰らった顔をしながら……。



 ◆     ◆



 と言うところで、唐突な回想に入る。


 これは――東大寺麗奈と言う存在に出会う前の、有栖川白の回想。


 親に告げられたことを心に刻んで生きる彼の半生を描く物語。そして――彼が己自身に誓った出来事を綴る半生。


 これは、有栖川白と言う存在を中心に描かれる寓話――


 東大寺奈緒と巡り合う前の出来事を、ここで簡単に綴ろう。


 彼の運命が動き出したのは――五歳の時。五歳と言っても、その話を聞いてぼんやりとしながら頷くだけの記憶である。彼はそんな小さな体で、己のことを見降ろしている二つの影を見上げた。


 一人はすらりとした長身で長居黒髪を一つに縛った角ばった男性。もう一人はそれより一回り小さく、凛々しい顔が印象的な女性。


 その二人を見上げた瞬間――白は理解した。


 男性は父親。そして女は母親だと、彼は理解し、そしてそんな二人のことを見上げながら、彼は耳を傾ける。傾けながら、厳しくも優しい大好きな親の言葉に耳を傾ける。


 男性――父は言った。厳しい音色で、彼はこう言った。


「白――お前に問う。お前にあるか? ()()()()()()()が」


 それを聞いた五歳の白は、首を横に振るう。ぷるぷると振りながら、彼は父のことを見上げる。


 それを聞いた父は「そうか」と、悲しい音色でもない、厳しい音色で言葉を零すと、母はそんな白に向かって凛々しくも優しさを帯びた音色で、母は言った。


「白――お父さんはあなたにこう聞いているのよ。白。あなたはお父さんとお母さんのこと――好き?」


 その言葉を聞いた白は、こくこくと頷くと二人の顔を見上げて子供らしい笑みを浮かべる。にっこりとした笑みだ。


 そんな笑みを見た母は口元を緩く緩ませ、微笑みながら続けてこう言う。


「そうよね。白はお父さんとお母さんのこと好きよね? 私も、お父さんも白のことが好きよ。大好きよ。お父さんが聞きたいことは――()()()()()()なの」


 母の言葉に耳を傾けていた白は、どういうことなのだろうと首を傾げて母のことを見上げると父は白の名を呼び、白のことを見降ろす。


 白はそんな父の声を聞いて、驚きながらも父のことを見上げて言葉を待つ。


 父は白のことを見降ろし、厳しい音色を保ったそれで、彼は言った。


「白――まだわからないかもしれない。まだ理解ができないかもしれない。だが、いずれその時が来る。お前は体が強い。それは俺の血を引いているからだ。お前は心が強い。それは母の血を引いているからだ。だが、所詮は人間。人間は弱い。お前は少し強いだけの存在なんだ。だが――そんな存在であっても、お前には『力』と言う――危ういものを有している。それは分かるな?」


 父の言葉を聞いた白は、こくりと頷いて己の小さな両手をぎゅっぎゅっと握り、胸を張る。


 その光景を見ていた父は「そうだ」と頷き――


「ならば――お前はその力をどのように使いたい?」


 五歳の白に向かって聞くが、小さい白はそれでこそ首を傾げて回答に困って唸る。


 それを見ていた父は厳しいそれを崩さず、白のことを見降ろしながら続けてこう言う。


 小さな彼に告げたいことを述べながら――


「その力の使い方は、まだお前には早いかもしれない。だが白――お前は強い。俺よりも、母さんよりも強い。お前のことだ――曲がったことが大嫌いなお前なら、その力を正しく使う。そう私は思っている。だからこそ、白――お前にも来るはずだ。()()()()()()()()()()()()が、必ず来る」


 と言う父の言葉に、小さい白は首を傾げながら黙ってしまう。


 先ほどから黙っているが、今は行動にも示さない。それくらい白は困惑していた。


 そんな白のことを見て、母は白に向かって――父に続いてこう言った。


「きっと来るはずよ。あなたにも来る。きっとその時が来る。だから白――その力を間違ったことに使わないで、誠実に、真っ直ぐに生きるのよ」


 そんな母の言葉を聞いて白は全く理解ができていない顔でいたが、母と父はきっと、自分が習っていることを間違ったことで使わないでほしいと願って言っていることなんだろうと理解し、自分もそんな乱暴な人間になりたくないという気持ちがあった。


 ゆえに白は――頷いた。理解は曖昧ではあるが白は頷いた。


 それを聞いた父と母はそんな白のことを十分理解し、二人は白のことを抱きしめた。


 そんな親の教えがあったからこそ、今の白の人格が形成されたのだ。真っ直ぐに、曲がったことが大嫌いな頑固者に成長していった。


 それは父と母にとっても嬉しいことではあった。しかし成長し、高校生になった白でも父と母が言っていた言葉が引っかかっていた。




 守りたい思い。




 それが一体何なのかが白にはいまいち理解ができなかった。ただその巡り合わせがなかっただけなのだが、それでも彼はそれが一体何なのかが理解できていなかった。


 はたから見れば鈍感なのかもしれない。しかしそれでも白は悩んだ。


 それが一体何なのか。それがわからなかった白であったが、彼は偶然にもその巡り合わせに直面し、運命が大きく動き出し、そして父と母が言っていた言葉が一体何なのかを理解する。


 東大寺麗奈との出会いが、彼の運命を大きく動かしていったのだった……。


 回想――一時閉幕。第二部へ続く。

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