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PLAY07 月夜の約束③

 夜。


 その日は満月で、夜空も星がキラキラと輝いていて、その夜空を見上げて月見酒をしたいという人がいるかもしれない。


 でも、今まさにその状況が出来上がっていたのだ。あ、でも月見というわけじゃないけど……、それでも、今現在私達は――



 ――コォンッ!



 木で作られたカップとカップがぶつかり合う音が聞こえる。


 豪快に飲む音と笑い声。


 エストゥガのとあるところ。そこは天族サリアフィア様という人を崇めた像が立ててあるところで、鉱石族(ドワーフ)の人達はそこを『女神像広場』と言っていた。


 焚火を灯し、まるでキャンプファイヤーのようにその周りで酒を飲む鉱石族(ドワーフ)の人達。肩を組んで踊っている人もいた。嬉しさを体現しているそれはまさに復活を祝した宴には相応しいそれだった。


 その場所で今、私達はダンゲルさん主催の宴に参加していた。


 なんでも、サラマンダーさん復活と、私達のためにこの宴を催したらしい。


 ダンゲルさんは大きい樽一杯に入っているお酒を片手で持ってぐびぐびと飲んでいる。それを見て、負けじとという感じでダンさんも樽を抱えて飲もうとしたけど……、エレンさんに止められた……。


 それを見て、私は今、モナさんとララティラさんと一緒にお酒ではないマコロコという、スイカと同じ果物を磨り潰して絞ったジュースを飲んでいた。


 ララティラさんはお酒が飲めないので、物思いにふけながらジュースに口をつけていた。


 私はそれを見て、モナさんを見て聞く。


「モナさん」

「ん?」


 モナさんは飲んでいた木のコップから口を離して、「なに?」と聞く。


 私は聞いてみた。


「あの……、ゴーレスさんのこと」


 その話をした瞬間、モナさんは目を見開いて、そして前を向いて……。言った。


「あのね。ゴーレスさんはあの後、ポツリポツリとだけど……、話してくれたよ。あの()()()()()()()()()()

「……はい」


 宴が始まる前、少し聞いていたけど、ここでもう少し詳しく聞かないといけない。そう私は思って、モナさんに再度聞いたのだ。


 モナさんはそれを察してか――


「トゥビットって人は、あの蜘蛛を出した後、どこかへ行っちゃって……。行方は分からないって言っていた」

「……………………」

「残った何人かで、命からがらに抜け出したんだけど……、スライムでさえも強くて、何人かがログアウトになったんだって」

「……それって…………」

「……ギルドで聞いたんだけど、スライムって、物理攻撃が全く効かない。しかも悪食(あくじき)で、武器も、岩も、鉱物も、人間も……、何でもかんでも飲み込んでとかして食べるって言っていた」

「う……、それは……」

「スライムでも何でも、戦うってことは……生死の境目に立つこと」

「え?」


 モナさんは静かに言った。


 スライムの後の、戦うというところから言ったモナさんの目は、どことなく寂しさを帯びていて、そして、そのままモナさんは言う。


「その生死の境に立つということは、一瞬の油断も、悲観も許されない。そこで諦めた瞬間、お前はそこで止まってしまう。戦うことは、生きることだ。迷わず、己の道を信じ、突き進め」


 言い終わって、モナさんははっとしてから、パッと明るい笑顔になって「あはは」と笑いながら頭を掻いて言った。


「なんかごめん! 変なこと言って……」

「いえ……」

「でも、その言葉、すごくずしりとくる言葉やったね」


 私が大丈夫とジェスチャーをすると、ララティラさんは聞いていたのか、モナさんに聞いた。


「そう言った言葉って、普通の家庭だとあまり言わんし……、なんか、名門の人かなんかか?」


 そう言って、カップに口をつける。それを聞いたモナさんは……、うーんっと腕を組んで考えた後……。少し、恥ずかしそうにして。


「えっと、はい……。ちょっと、特殊な」

「なに? 特殊ってなんか英才教育的なあれか?」


 その特殊という言葉に、ララティラさんは食いつく。


 モナさんはそれを聞いて、慌てて手を振って「違いますっ!」と言って――


「英才教育というか……、なんというか……。そ、それを言うとっ! ララティラさんの大阪弁の方が気になりますっ!」


 あ、誤魔化した……。


 そう思ってララティラさんを見ると、ララティラさんはがちんっと固まったまま驚いた顔をしていた。それを見たモナさんは、畳み掛けるように言う。


「どうなんですかぁ!? 私のことを聞いたんですから、少しはその大阪弁を隠していた理由を聞かせてくださいぃっ!」

「なななななっ!? ちょっとのことでそんなだいそれて聞くんか!?」

「だいそれていませんよっ! というか結構前から気になっていたんですぅ!」

「そ、そんな大したことというかなんというかなぁ」


 それを見ていた私は、モナさんを宥めるように「もうやめた方が……」というと、モナさんはヒートアップしているみたいで「いや! これだけは知っておきたいもん!」とめげない。


 それを聞いていた私は、そっとララティラさんを見ると、そっぽを向いて、顔を手で隠しながら(カップは地面に置いて)小さく、小さく言った。


「……、その、()()()()、なんかな……?」

「「え?」」


 私とモナさんはそれを聞いてきょとんっとしてしまう。ララティラさんは小さい声でこう言った。


「あのな……、小学校くらいの時に、大阪から都内に引っ越してきたことがあってな……。そん時に、地域が違うって理由でいじめられとったんよ……」

「ええぇ?」

「ひどい……」


 ララティラさんの話を聞いて、私とモナさんは声を上げて驚き、そしてララティラさんの話を聞く。


「それで、よく大阪弁のことでいじられて、それからは標準語を猛練習して、なんとかなったんやけど……、気を抜いたらこんな感じで……。やっぱ、初対面には本性だしたくないんやわ……。今はそうじゃないんやけど……」

「そう、だったんですか……」


 私はそれを聞いて、申し訳なく言うと――


 モナさんも申し訳なく思ったのか、「すみません。古傷を抉るようなことを……」と頭を下げた。


「いやいや! そんな小さいことやって」


 そうララティラさんは言った。するとモナさんはそれを聞いたのか。


「私も、そう言った秘密はあります。人には明かせない過去とか」

「「?」」


 でも、と、モナさんは。決心したような顔をして、はっきりと私たちを見て言った。


「近いうちに必ず話します。()()()()()()()()()()()()()()、その前にでも――」

「「??」」


 モナさんはそう言うけど、一体、その時というのは、どういうことなのだろう……。


 それは、今の私達には、知る由もなかった。


 私は辺りを見回す。


 それは、この場にいなければいけないのに、いなかったのだ。


 なぜここにいないんだろう。そう思っていると、モナさんはくすっと微笑んで……、そっと耳打ちをする。


「もしかして……、ヘルナイト?」

「え?」


 唐突に、それでいて正解のそれを言われたので、私はぎょっと驚きながらモナさんを見た。


 モナさんはにやにやと、先ほどの真剣な顔とは打って変わって、私を見ては「ほうほう」と、意地悪な笑みを浮かべていた。ララティラさんの方を見ると、ララティラさんも自分の頬に手を添えて、「青春やなぁ」と和んでい見ていた。


 いったい……、何が何のことやら……。


 そう思って互いの顔を見ながら戸惑う私を面白そうに見て、モナさんは言った……。


「ヘルナイトなら、さっきどっかに行っちゃったよ?」

「へ?」

「なんか」


 と言いながらモナさんはすっと満月が出ているところ、岩の壁が出っ張っているところを指さして、私を見て言う。なぜにやけた顔で?


「あの月が出ている方角に歩いたから、きっと月見酒じゃないかなぁ?」


 私はそっと立ち上がって、カップをその場に置く。


 そして、その満月が出ている方角へと足を向けて――モナさんたちに向かって……。


「少し、涼んできます」と言って走って向かった。


 なぜだかわからない。


 でも、私はふと、不安に駆られた。


 突然いなくなることを、恐れたから?


 私にはわからないけど……、それが一体どういう意味を表しているのか、何もわからない。


 それでも、私は走る。


 その満月が出ているところに向かって……。


「「……青春だねェ~」」


 ……モナさんとララティラさんが、そんな私の後姿を見て、にまにまと口元を緩ませているなんて、知る由もなかった……。



 ◆     ◆



「っぷっぱぁー!」


 キョウヤはカップに注がれたお酒――ここではノードヴィというお酒で、いうなればビールに近いものだった。しかし仄かに甘味もあり、二十歳のキョウヤにとって飲みやすいほどこの上なかった。


 ……ただ、彼はかなりお酒に強い。


 今ぐっと飲み干したそれで、樽三つ分は飲んだだろう。


 それを見ていた鉱石族(ドワーフ)の一人は『あれはスゲー飲みっぷりだ! きっと族長ともいい勝負ができそうだ!』と、証言していたくらいだ……。


 キョウヤは飲み干して、大きく火柱を上げている焚火を見ながら――足を崩してみる。


 ――酒ってこんなにうまいもんなんだなぁ……。

 ――てか、社会人になったらこう言った付き合いも欠かせねーとか言っていたなー。

 ――大学じゃあそんなことできねーけど……。

 と思い、空を見上げるキョウヤ。


 夜空の星が、キラキラと光っているようにも見える。



 その夜空を見て、思い出すのは――このMCOをプレイしていた大学の友達と、その恋人。


 二人のことを思いながらキョウヤは小さく呟く……。


 その二人の安否を、生きていることを願いながら……。


「あの二人……、大丈夫かな……」

「なにがだ?」

「お?」


 急に上から声が聞こえた。その声がした方を見上げると、頭上には手にカップを持って自分を見降ろしておるコウガがいた。


「コウガ」

「お前、友達がいたんだな」

「え? なにその言い方。俺に友達がいないと思っていたの?」

「んなこと思ってねェよ」


 と言いながら、コウガはキョウヤの左隣にどかりと座って、手に持っていたカップに、マスクをそっと脱いで口につけた。


「口あったんだな」

「お前、はっ倒すぞ」

「冗談だって冗談!」


 それを見たキョウヤは驚きながら言うと、コウガはそれを聞いてじろりとキョウヤを睨む。それを見て、キョウヤはまずいと察知し、すぐに手を振って誤解を解く。


 それを聞いて、コウガは舌打ちをして、すっと、目を細めて、とある方向を見た。


 キョウヤもそれを見ると……。


 丁度、酔ったブラドとグレグルが酒が入ったカップを手に持って、それをアキに飲ませようとしている。二人の頬は相当赤いのでべろんべろんなのだろう。


 それを渇いた笑みを浮かべてみるキョウヤ。


 しかしコウガは……。


「お前、さっき言っていたあいつらって……、友達なんだな?」


 と聞いてきた。


 それに対しキョウヤは「へ?」と素っ頓狂な声を上げて、内心、あれ冗談じゃなかったんだ……。と思い、『あー……』と夜空を見上げながらキョウヤは考えて、そして言った。


「友達、だな……。大学の。でも一人はその友達の恋人」

「……リア充かよ」

「まぁ、そんなところ。でもお似合いなんだよ。すっごく」


 キョウヤは言う。まんざらでもないそれで、彼は言った。


「最初は、オレ一人でやっていたんだけど……、友達も恋人にせがまれて、仕方なくやっていて、オレが先輩として一緒に行動していたんだけど……」

「……このアップデートのせいで」

「ばらばらになった……。と思う」


 オレ一人だけ先に飛ばされたから。そうキョウヤは言った。


 ハンナと同様、ここに飛ばされて、二人のことが心配なのは当然なのだ。


 友達として、心配するのは当り前なのだ。当り前だからこそ、今どこで、何をしているのか。それは、ハンナと同じようなことを、キョウヤも思っていたのだ。


 それを聞いていたコウガは……。


「っち」

「舌打ちっ!?」


 めんどくせぇ。


 そうコウガは思い、舌打ちを聞いてぎょっと驚くキョウヤに思い切って言ってみた。


「そんなに心配なら、ここから出て探しに行けばいいじゃねえか」

「う……。それは、一理ある」


 コウガにそう鋭く指摘され、キョウヤは唸った。しかしキョウヤはその言葉に、うんという肯定の声を上げなかった。


「でもさ……、まぁ、どこにいるのかもわからねえのに……」

「なんで最初から悲観的になってんだ」


 と言って、コウガは目の前を指さす。その方向を見ると、キョウヤははぁ? と声を上げた。


 コウガが指を刺したその人物。それは――アキだった。


 すでにアキはブラド達により、大量のお酒を口に突っ込まれて、手足をびくびくとさせながら飲んでいる……。


 これは、一種の拷問ではない。たぶん……。


 それを見て、キョウヤはコウガに向かって「いやいやいや!」と反論した。


「もしかして!? お前が言いたいことはいやというほどわかった!」

「そうか。なら行け」

「いや! なに言ってんだこいつはっ! それにオレと、あっちのメリットがねえと……」

「メリットならある」


 キョウヤの反論にコウガははっきりと論破した。それを聞いてキョウヤはうぐっとまた喉の奥から唸り声を上げる。その論破の内容はこうだ。


「あっちは浄化のために、多分アズールの世界を旅する。そん時、お前のような槍の達人がいれば、きっとこの先の旅は安泰だろう。てかお前いなくてもいいから行け」

「きっと後半の言葉がお前の本音だろうっ!?」


 コウガの後半の言葉を聞いて、キョウヤは怒りながらコウガを指さして怒鳴る。しかしコウガはそれを無視し――


「そして、お前は友達が心配なんだろう? なら、自分から探しに行けばいいじゃねえか」


 一緒に行ってな。


 コウガはにっと口元に弧を描いて笑う。


 それを見たキョウヤは少し浮かない顔をしつつ、そして少し考える……。


「ここに愛着があるのか? なら安心しろ」と、コウガは言う。


 それを聞いて、キョウヤはコウガを見た。コウガは夜空を見上げて……。静かに言う。


「ここはもう、平和なんだ。安全なんだ。だからここのことはもういい。とっとと行け」


 それを聞いたキョウヤは驚きながら見る。


 コウガは内心柄にもないことを言ったことに、頭を抱える。何を言っているんだと思った。というか顔が熱い気がする。穴があったら入りたい。今のコウガはそんな状況だ。


 が……。



「うわ」



 いかにも気持ち悪いような、それでいてやばいといった感じの音色でうなった。


 それを聞いたコウガはびきっと頬に血管を浮き上がらせ……、じろりとキョウヤを睨むとどすの利いた声を上げて言う。


 先程までの体温は急激に下がり、逆に冷たい憤怒が吹き上げた。


「おいてめぇ……、なんだ今の唸り声は……、『うわ』ってなんだ『うわ』…………って?」


 コウガはキョウヤを見て、首を捻った。


 キョウヤは目の前の光景を見て、やばいといった感じで青ざめているのだ。


 コウガはそれを見て何でこんなに青ざめているんだ? と思い、ゆっくりと自分の前を見ると……。


 キョウヤと同じように青ざめてそれを見た……。

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