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PLAY70 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅸ(知りたくない事実)②

「元に……、戻ったんですね……。良かった。うわ」


 ボルケニオンのことを見て、前とは違うもしゃもしゃを感じた私は――ほっと胸を撫で下ろしながら安堵の息を吐いて、すとんっと尻餅をついてしまった。

 

 それはもう――『とてんっ』という音が出るような腰の抜け方をして……。


 その光景を見ていたヘルナイトさんは私の驚きの声を聞いてか、私がいる背後を振り向き――驚いた声で私の名を呼びながら私の背に手を添える。


 優しく手を添えて、ヘルナイトさんは私のことを見降ろしながら凛とした音色で――


「大丈夫だったか?」と聞いてきた。


 それを聞いた私はヘルナイトさんのことを見上げて、控えめに微笑みながらも、脱力したかのようなへにゃった顔をしてこう言った。


「えっと……、はい……。大丈夫です」

「………そうか。だが、それでも――無事でよかった」

「………えへへ」


 私の言葉にヘルナイトさんは私のことをじっと見て、一旦黙っていたけど……、すぐに頷いて納得してくれた。


 なんだか……、納得がいかないような音色だったけど、仕方がないのかもしれない。そう私は思った。


 なにせ――私は始まってすぐ走って逃げていたのだ。


 ……逃げていたじゃなくて、助ける方法を模索しながら逃げていたと言った方がいいのかもしれないけど……、結局は危ない賭けだった。


 服もきっと黒い汚れがついているし、転がったせいでボロボロのところもある。詰まるところ――平気では済まされない様なボロボロの姿をしていたということ。


 でも私はヘルナイトさんに心配をかけたくない。何に対して怒っているのかはわからないけど、それでも私はヘルナイトさんに心配をかけたくない一心で嘘を言ったのだ。


 正直な話……、安心した拍子に、今まで痛くなかったのに突然痛みを訴え始めたから、きっと興奮で痛みが緩和されていたのだろう……。そう思いながら私はそのことを隠して、嘘をヘルナイトさんに告げた。


 私は内心大丈夫かなと言う不安と、嘘をついてしまったという罪悪感を心に秘めながら私はヘルナイトさんのことを見上げて控えめに微笑む。少しだけ、安心した笑みを浮かべながら……。


 傍らでナヴィちゃんはぷんすこと怒り、「きーっ! きーっ!」と威嚇をしながらヘルナイトさんに向かって怒っていた。多分だけど……、ナヴィちゃん的には早く来てほしかったのだろう……。きっと人間の言葉に言い換えるならば……。


『おそい! おそいよ! 危なかったんだよ!』


 と言いたいのだろう。きっと……。


 その声を聞いて少し黙っていると――




 ――どすんっ!




「「?」」

「きゅぅ?」


 何かが落ちるような……、ううん。何かがその場で座り込むような勢いのある音が聞こえた。


 その音を聞いた私とヘルナイトさんは、首を傾げながらその方向を見る。


 その音がした方向は真正面で、その方向を見た瞬間、私は目を点にして……。


「ほえ?」


 呆けたへんてこな声が口から零れ出てしまった。そのくらい、目の前に広がった光景が異常に見えたから。


 ヘルナイトさんもその光景を見て驚いた顔を甲冑越しでして、ナヴィちゃんもつぶらな目を白くさせて驚いた状態で口をあんぐりと開けていた。


 私達三人が驚く理由――それは決まっている。というか誰もがこれを見たら驚く以外の選択肢なんてないだろう。


 私達が驚いて見てしまった理由――それは……。


 ボルケニオンが地面に正座で座り、両手の握り拳を地面に小突き合わせて、黒い血で彩られた頭を地面にこすりつけるように頭を垂らしていたのだ。


 いうなれば土下座。


 深々と土下座をして、ボルケニオンは私達にその後頭部を見せていたのだ。


「あ、あの……。どうしました……?」


 私はその光景を見て、驚きを隠せない状態でおずおずと手を伸ばすと……、突然ボルケニオンは頭を地面につけた状態で――こう叫んできた。




「――すまなかったっっ! 天族の女子(おなご)よ!」




「へ?」

「きゅ?」


 私とナヴィちゃんは、目を点にして唐突に言い放ったボルケニオンの言葉に首を傾げた。けど、ヘルナイトさんはそんなボルケニオンのことを見降ろしながら、ボルケニオンの言葉に耳を傾けている。


 私はボルケニオンの言葉に混乱しながら、ボルケニオンの言葉を最後まで聞こうと思って、恐る恐る耳を傾ける。大きな声だから、聞き漏らすことは絶対ないと思うけど……。


 そんな私達のことを一度も見ずに、ボルケニオンは地面に額を擦りつけながら大きな声で、独特な言い方をしながら続けてこう言った。


「操られていたとはいえ、某はこの地の者達をも守る使命を背負った魔王の鬼士! 鬼士の端くれが守るべき者達を傷つけてしまった……っ! この行為――某の気位に反する! 否ぁ! 某の鬼士道に反すっっ! この償い――万死で償うべきことであるっっ!」

「あ、えっと……、そんな大袈裟な」

「大袈裟ではないいいぃぃぃっっっ!」

「わ」


 ボルケニオンの言葉を聞いていた私は、そんなことない。操られていたから仕方がないといおうとした瞬間、ボルケニオンは私の言葉を上乗せする様に声を張り上げて叫んできた。


 それを聞いた私は肩を震わせてびくついてしまう。本当に突風のような声が襲い掛かってきたのだから、誰だって驚くと思う。うん。


 ヘルナイトさんも近くにいたからわかる。ヘルナイトさんも小さく驚いた声を上げていたから……。


 ボルケニオンは私の言葉を遮ると同時に、続けて自分の言葉を私達に告げた。張り上げるように、本当に申し訳ないというもしゃもしゃが溢れんばかりに出しながら、ボルケニオンは言ったのだ。


「某は最強の、鬼よりも強し鬼士団の一員。だがその心は鬼よりも弱い。それは某が一番よく知っている。己のことは己がよく知っている。ゆえに――その弱さに付け入られてしまい……、このような事態を招いてしまった……っ! これは某の弱さが招いた事態っっ!」

「………………」

「挙句の果てには――何の術を持っていない女子を甚振るようなことをしてしまった……っ! 某……、己の弱さに嫌気がさすっ! あの小柄の老人によって植え付けられた蟲のせいで、抗うこともできず、己の意志に反することを何度もしてしまった! 操り人形のように、意思を持っている状態で操られて、何度も情けないと思った! 今でも情けんと思っているっ! ゆえに某は――この手で……、切腹を」

「あわわわわわっ! 待って下さい……っ! そんなよく見る時代劇のようなことをしないでください……っ! 操られていたんですから仕方がないですよ……。逆らえなかったことも分かりましたから、懐から出したそれをしまってください……っ!」

「ききぇーっっっ!」


 長い長い会話が続く中……、私とナヴィちゃん、そしてヘルナイトさんはボルケニオンの話に耳を傾けていた。


 ボルケニオン自身すごい罪悪感を抱えていたらしく、私達のことを見ずに頭を垂らした状態で土下座をしており、頭を上げずにボルケニオンは自分の身に起きたことやその時の感情。そして傷つけてしまった後悔などを声の音量を上げながら喋り、私達に対して謝罪をしていた。


 私はそれを聞きながら、あの時感じていたもしゃもしゃは本物で、そして操られているとき自我を持っていたことを聞いた瞬間、胸の奥からちくりと小さな痛みが生じた。


 それは身体的な痛みではない。精神的な痛み。


 ボルケニオンのその時の状況を想像し、私だったら耐えられない苦痛だと思いながら、ボルケニオンの話を聞いていた。

 

 操られているけど、自分は自我を保っている。いうなれば糸に吊るされてしまった人形のような感覚だと思う。


 相手によって手を動かされ、そうしたくないのに無理やりそのように動かされてしまう。


 現実ではそんなことはないからこそ、余計に苦しいし……、そして嫌だと、私は思った。


 それを受けていたボルケニオンは、私が想っている以上に苦しかったに違いない。


 そう思いながら私は、尻餅をついていた状態から立ち上がろうとした時――ボルケニオンはどこからか出したのか、振り処に手をやった瞬間小ぶりの木の棒に包まれた短刀をしゅっと出して、それを腹部に近づけようとしたところを見た私は思わず叫んで制止をかけてしまった。


 まさかこんなファンタジーの世界で、時代劇でよく見る侍が白い着物を着て行うようなことをするとは思っても見なかったから、私は大慌てになりながらボルケニオンの行動を止めたのだ。


 ナヴィちゃんも慌てた顔になって毛を逆立てて、変な声を上げながらボルケニオンの行動に待ったをかけてくれた。それを聞いたボルケニオンはバッと素早く顔を上げて、私達のことを見ながら――


「なぜだっ!? それでは某がしたことへの戒めとならないっっ! 『すまぬ』と謝ればすべてが許されることではないであろうっ?」

「そうですけど……、傷つけたくないって思っていたことが分かればそれでいいんです。だから自分の体を傷つけるようなことはしないでください」

「それでは某の気が済まないのだっっ!」

「にゅぅ……」


 その行動を止めようとしない。どころか自分の気が済まないから、自分のせいでこうなってしまったのだからけじめをつけさせてくれと言わんばかりに言うボルケニオン。


 正直……、それだと後味も悪いし、それにそこまで怒っていないのだからそこまでしなくてもいいというのが本音だ。


 でもボルケニオンはそれをやめようとしない。


 と言うかこれ以上の言葉はエンドレスを巻き起こしてしまいそうなので、私は首を傾げながら腕を組んでどうしようかと思っていると……。


 突然、私の横で声が聞こえた。その声は――


「ボルケニオン――お前の気持ちはよく分かった」


 ヘルナイトさんだった。


 ヘルナイトさんは凛とした音色でボルケニオンのことを見ながら、続けてこう言ってきた。驚いて茫然とし、手を止めているボルケニオンに向かって。


「しかし――お前がしていることは正しいことではない。私からしてみれば……自己満足だ」

「ぬ……っ! ぐぅううう……っ。だが、某は鬼士としてしてはいけないことをしてしまった……っ! たとえ操られていたからと言えど……っ!」

「操られて、罪悪感を抱いているのならば――その判断は端的だ」


 その言葉には私も同文だ。


 そうヘルナイトさんは言ってきて、私のことをそっと見降ろしながらすぐにボルケニオンに視線を戻して、ヘルナイトさんはボルケニオンの言葉を待つ。


 待ちながらヘルナイトさんはボルケニオンのことを見つめる。


 私もそんなヘルナイトさんの行動を見て、真似をするようにボルケニオンを見ると、ボルケニオンは手に持っていたその短刀を握るそれを緩めながら、少しずつ、本当に少しずつ地面に落としそうになっていた。


 ボルケニオンから出ているもしゃもしゃも焦りが帯びているそれから、冷静になって静かに思案をしている……。落ち着いているけど困惑して、納得がいくようなことが思い浮かばないようなもしゃもしゃを出しながら俯いていた。


 そんな光景を見ていた私は、なんとなくだけど、ボルケニオンの人柄を察することができた。なんとなくだけど……。


 アルテットミアやアクアロイア、そしてバトラヴィア帝国を旅してきた。そして色んな人と色んな種族。色んな王様や色んな魔女に会って――何人かの『12鬼士』に出会った。


 ヘルナイトさんやキメラプラントさん、トリッキーマジシャンさんにデュランさん、キクリさんにボルケニオン……。色んな人と出会って、色んな個性を持っていることに驚くを隠せなかったこともたびたびあった。


 キメラプラントさんは弓矢の達人だけどマイペース。すごくマイぺース。

 

 トリッキーマジシャンさんは自慢げに、高らかに言う傾向があるけど、本当は素直じゃないけどいい人で、鬼士らしく相手のことを第一に考えている人。


 デュランさんはどうなのかはわからないけど、しょーちゃんとつーちゃんと一緒に行動しているから、きっといい人だ。私はそう思う。


 キクリさんは独特なあだ名をつけて相手をいじったりしているけど、一番常識がある人で、一番相手のことを考えている人だと私は思う。


 そして……、ボルケニオンは、真面目過ぎて、責任感を一番感じやすくて、更に言うと頭が固すぎていい方法を思案すると極端な方向に向いてしまう、少し融通が利かない……? ような人……。


 今回のことも責任を感じてどうしようと思った結果、あんなことに先走ってしまったのだろうけど……、あれはあれで、ある意味トラウマになりそうな光景ですよ……。うん……。


 そんなことを思っていると、黙っているボルケニオンを見ていたヘルナイトさんは「――ふぅ」と、ちいさく、本当に小さくため息を吐くと、ヘルナイトさんはボルケニオンのことを見ながら凛とした音色でこう口を開いた。


「……責任を感じているのならば、それを詫びとして行動に表すのではなく、()()()()()()()()でその責任の詫びを償え」

「もっと、簡単な方法で……とは?」

「……至極簡単なことだ」


 ヘルナイトさんはボルケニオンのことを見ながらため息交じりに言う。本当に頭が固すぎる人なんだなぁ……。


 そう思いながら私はヘルナイトさんのことを見上げて――その横顔を見つめる。久しぶりのその顔なのか……、どことなく新鮮なそれを感じてしまう。


 そう思いながら見ていると、ヘルナイトさんは真っ直ぐボルケニオンのことを見て――少し、ほんの少し私のことを支える手に力を籠めながら……、ヘルナイトさんはこう言った。


()()()()()()()()()()()()()()()。それだけだ」


「今までしてきたことを……?」


 その言葉を聞いた私はきょとんっとしながら首を傾げるけど、すぐにその言葉の意味を察して、内心『あぁ』と頷きながら納得する。


 確かに、ヘルナイトさん達が()()()()()()()ことで、わかりやすくて償いになるようなことだ。


 そう思いながらボルケニオンを見ると、ボルケニオンも気づいたらしく、はっとした面持ちでヘルナイトさんのことを見ていた。そして驚いた面持ちでヘルナイトさんのことを見て――


「それでいいのか……? それで某の償いは償えるのであろうか……?」と聞くと、それを聞いたヘルナイトさんは迷うこともなく頷いて――


「ああ、操られて、それで抗っていたのであれば心の底からその衝動にゆだねていたんじゃないだろう? ならばお前がするべきことは、バトラヴィア帝国の過ちを正すために、間違った認識を正すために、偽りの平和を打ち壊す。国の者たちを守りながら。これがお前がすべき償いだ」


 最も……、それはずっと前からしようとしていたころではあるのだが……。


 と言いながら、ヘルナイトさんはボルケニオンに向かって言う。前にもこうしたかったけど、できなかったという心残りを思い出したかのようなことを言って――


 それを聞いていたボルケニオンも、頭に手を添えながら小さい声で唸ったけど――すぐに頭から手を離して、ヘルナイトさんのことを見る。


 頭から出ている黒い血は止まっていない。けどボルケニオンはヘルナイトさんのことを見て、音もなく立ち上がると同時に、いつの間にか出していたその短刀を、いつの間にかしまうと (本当にどこから出したのかわからなかった……)、ボルケニオンは右手を握りこぶしにて――胸に向けて……。


 どんっと、叩きつけた。


 まるで――『任せなさい!』とでも言わんばかりの動作で、ボルケニオンはヘルナイトさんのことを見ながら張り上げるような声で、独特な言い方をしながらこう言った。


「それであれば、某はその償い――甘んじて受けよう! 団長殿の申しつけであればなおのこと! これより某ボルケニオンは……、この国の者達を守りつつ、この帝国の闇を打ち砕く作戦に参戦す! 不躾ではあるが、よろしくお願い致すっっ!」


「…………………はい。よろしくお願いします」


 その言葉を聞いた私は、くすりと微笑み――ボルケニオン……、ううん。ボルケニオンさんが元に戻ってよかったという安堵と、頼もしい人が加勢してくれたという心強さを体感しながら、座っていた状態だったけどゆっくりと立ち上がって、頭を垂らす。


 その最中、ヘルナイトさんは私の背と肩に手を添えながら、倒れないように補助してくれたので、よろめくことはなかった。だから私は頭を垂らしてお願いをした。


 それを聞いてか、ボルケニオンさんは「うむっ!」と大きな声で頷きを表現してくれたので、私はそっと頭を上げて、今まで忘れていたけど、ふと思い出したことをボルケニオンさんに聞いて見た。


 今まで走りながら思っていたことで、今になって確信したことを、私はボルケニオンさんに向かって聞いてみた。


 ボルケニオンさんの首元にくっついていたそれは金色に光って見えた。魔法系の詠唱ならばそんなものを作らなくてもできるし、あれは――十中八九秘器(アーツ)。帝国のイメージカラー (なのかはわからないけど、帝国の兵士たちはみんなそんな色の鎧を着ていたからきっとそう……。たぶん)で彩られた操ることができる秘器(アーツ)だ。


 そう私は確信した。


 もしかしたら、あれがいくつもあったのならば大変だから。出元でもある人を押さえないといけない。それを頭の片隅に入れながら、私はボルケニオンさんに向かって聞いた。


「あの、そういえば思ったんですけど……、ボルケニオンさんを操ってたあの虫って、秘器(アーツ)、ですよね?」

「? 虫……? おぉ! そうであった。某のことを操っていたあの虫のことだな!」

「はい。大変図々しいかもしれませんけど……、お願いがあります。私とヘルナイトさん、そしてナヴィちゃんはこのまま帝国のお城に向かおうと思っています。ボルケニオンさんは秘器(アーツ)の虫を壊してくれませんか? あの虫が大量生産されて使用されているのかもしれません。ボルケニオンさんのように苦しんでいる人がいたらすぐに」

秘器(あーつ)?」


 私の言葉を聞いたボルケニオンさんは首を傾げながら私のことを見て、腕を組んだと同時にボルケニオンさんは――


 私達にとって、衝撃の事実を告げたのだ。





「あの虫のことを言っているのであれば、それは違う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()




「きゅぅ?」


 衝撃にして、意味不明にして、理解不能の展開の言葉。


 秘器(アーツ)だと思っていたそれが、秘器(アーツ)ではない? そしてボルケニオンを操っていた人物が――帝国ではない? どういうことだろう……。いったい何がどうなっているのだろう……。


 そう思って首を傾げながらボルケニオンさんの話に疑念を抱いていると、ヘルナイトさんは私のことを支えていた手をゆっくりと離し、私が倒れないことを認識してから、ヘルナイトさんはボルケニオンの前に立って、真剣で戸惑いが少し零れているような面持ちで聞く。


「それは……、どういうことだ? まさかあれは秘器(アーツ)ではないのか?」

「ああ、そうだ。そして某にあの虫を仕向けたのは帝国ではなく、(ひと)……、否。二人の冒険者であった。今から何日も前……、否。何ヶ月も前だったか……」

「…………冒、険者……。詳しいことは分かるか? 思い出せるか?」


 ヘルナイトさんは何かを思い出したのか、頭を抱えて、顔を黒くさせながらボルケニオンさんに向かって問い詰める。それを聞いていたボルケニオンさんは頷きながら頭を抱えて、思い出しながらヘルナイトさんに告げようとしていた。


 その会話を聞きながら、私は小さな小さな不安のもしゃもしゃを自分の胸の内に感じ……、まさか……。と思いながら、そうであってほしくないと願いながら、私はボルケニオンさんの話に、慎重に耳を傾ける。


 ボルケニオンさんは言った。思い出しながら――ボルケニオンさんは言った。


「そうだな……。その二人は白い衣を身に纏っていたな……。小柄の老人と、眼鏡をかけた青年。その二人を相対した某は、その老人から感じ取った異常なものを察知し、その場で止めようと奮起しようとした瞬間、老人が持っていた圧縮球(コンプレス・キューブ)から……、あの機械の虫が姿を現したのだ。それが某に飛んだ瞬間、(うなじ)に感じた痛みと同時に、某は操り人形になった……。それ以来某は、その老人の傀儡と化してしまったのだ……っ!」

「…………冒険者が、虫を……。っ! ボルケニオン――その老人は何を言っていた? その虫を出す前に、何を言っていた?」

「何を……? なにを……? 何を……。……………………。そうだ! 思い出したぞ!」


 ボルケニオンさんの話を聞いたヘルナイトさんは、何かを思い出したのか――はっと息を呑んだ面持ちになり、慌てた様子でボルケニオンさんに聞くと、それを聞いたボルケニオンさんは何とか思い出そうと奮起する。そして少ししてから……、ボルケニオンさんは言った。


 ボルケニオンさんを操った元凶のことを――私達に教えてくれたのだ。




「――そ奴は言っていた! そうだ! ()()を放っていた!」




「! そうか……。それならば……っ!」

「………………っ!」


 ヘルナイトさんは冷静になっているけど、ボルケニオンさんから聞いたあることを聞いた瞬間、きっと、私と同じことを思い浮かべたに違いない。私もボルケニオンさんのことを聞いた瞬間、全身に迸る電流が私に最悪のことをいち早く映し出したのだ。


 ボルケニオンさんを操っていたのは冒険者。小柄の老人に、眼鏡をかけた人。


 老人はボルケニオンさんにあの機械のカブトムシを放って操った。それは今日と言う話ではない。何ヶ月も前。もしかしたら、閉じ込められた時から始まっていたのかもしれないし、少ししてからかもしれない。でも――ボルケニオンは長い間その虫を介して老人の手によって操られていた。


 そしてボルケニオンさんは言った。その時老人は――詠唱を放っていた。


 これらの情報を照らし合わせると……、私は、私とヘルナイトさんは、ある事実に行きついてしまう。


 それは――


 ボルケニオンさんを操っていた冒険者は()()()()()()()で、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。一日なんて言う甘い話ではない。


 その詠唱は何ヶ月も前に発動したもので、何ヶ月もの間操ることが可能。そして詠唱が使える回数は、()()()()()()()()()()()()()()()()


 つまり――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 当の本人がそれをしているのかはわからないけど……、それでも、()()()()()()()()()()()()()()()()? アキにぃや、キョウヤさんや、ボルドさんや、クルーザァーさん達……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――っ!?


「ハンナ――すぐに向かうぞ」

「あ、はい……っ!」

「きゅぅ!」


 ヘルナイトさんは凛とした音色で私のことを見降ろしながら言う。それを聞いた私も頷いて、ナヴィちゃんも頷くと同時に、私に頭に向かってぴょんこと飛び跳ねてから帽子の中に入っていく。


 その光景を見上げてから、私も走ろうとした時――ヘルナイトさんは私の横に回り込んで、流れるように、私の腰と膝裏に手を回してきた。片手で。


「わ、ひゃっ」


 私は驚きの声を上げて、ヘルナイトさんの行動に身を預けてしまう。と言うよりも――そのまま片手でお姫様抱っこをされてしまっただけなのだけど……。


 私は驚いた顔でヘルナイトさんを見上げる。ヘルナイトさんは左手で私を抱えた状態で前を見据えている。けれど私の視線に気付いたのか、すっと私のことを見降ろして――


「すまない。だがこの方が格段に速いんだ。少しの間――我慢してくれ」

「う、あ、はい……」


 私はその言葉を聞いて、それもそうだなと言う納得のそれと、この状態がいつまで続くのだろうという少しの不安定の不安を抱いてしまう。


 不安定の不安と言うのは、何と言うか……、こう……、どきどきというか……、そう言った興奮と不安が入り混じっているかのような、そんな感情である……。私自身、これが何なのかはわからないけど……。


「ボルケニオン。私達はこれから帝宮に向かう。お前は国民の避難を」

「了解ぞ!」


 ヘルナイトさんはボルケニオンさんがいる方向を振り返りながら言うと、それを聞いてボルケニオンさんは胸を手で叩いて頷く。


 それを見て、ヘルナイトさんは走ると同時に――「頼むぞ」と言って、駆け出す。私を抱えた状態で駆け出して、帝国の中央に位置している煌びやかなお城に向かって足を進めるヘルナイトさん。


 ヘルナイトさんのことを見上げながら私は、彼の腕の中であることを口にした。


 それは――私がついさっき思っていたことで……。私は意を決しながらヘルナイトさんに聞いた。


「あの……、さっきの言葉……。まさかと」

「まさかではない。ボルケニオンを操っていたのは――Drと言う男だろう」


 その言葉を聞いた私は、俯いて言葉を失ってしまう。やっぱりと思いながら……。そしてヘルナイトさんは走りながらこう言ってきた。私のことを見ないで、前を見ながら――


「そしてそのDrは、あの秘器の虫を出して、ボルケニオンを操っていた。『12鬼士』……。魔王族の者をいとも簡単に操る詠唱……。それを他の誰かに使うとなると大変なことになる……。この国の実力者でも、冒険者でも……。否……」




 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――肉体的にも、精神的にも……、脅威でしかない。




 それを聞きながら……、私は言葉を紡ぐようなことをせずに、ヘルナイトさんの言葉を頭に刻む。


 どんな人物――それはきっと、敵味方なんていう甘いものではない。どんな強敵であろうと、どんな異常な人物であろうと、Drの詠唱があれば操れる。


 そう言いたいのだろうと思いながら、私は顎を引いて、気を引き締めながら帝国のお城――帝宮を見据える。


 どうか……、誰か無事でいて。そう願いながら……。



 ◆     ◆



 そんなハンナの願いは虚しく、ヘルナイトの言葉が的中してしまったかのように――事態は大きくなっていた。


 否――彼らのいい方向の思考を叩き壊し、その事態は彼らの悪い予想を描いていた。


 まるで――絵画のキャンバスに殴り書きをするように、すらすらすらっ! と、描きながら……。


 事態が大きくなってしまった場所は……、帝宮。その場所に乗り込んで、Drに戦いを挑んでいたコノハ、ズー、カグヤ、航一は――





 内部崩壊と絶滅の危機に瀕していた。





 絶滅。それならば簡単にDrと颯に手によって彫るられそうになって全滅しそうになっているのであれば、それはそれでわかりやすい。しかし――そうではないのだ。


 彼らは今現在――内部崩壊と絶滅……、()()()()()に直面していたのだ。


「ひぃっやっははははははははははははっっ!」


 Drの哄笑が帝宮の謁見の間に広がる。それを聞きながら、よろけて立ち上がり、痛みのサインを上げている脇を支えながら立ち上がるカグヤ。


 その光景を見て苦虫を噛みしめてはいるが、それでも困惑が勝っているような歪なそれを浮かべているコノハ。


 航一は未だに颯と相対しているが、二人のことが気になってそれどころではない様子だ。


 その光景を見ながら、そんな混沌を見ながらDrは嘲笑っていた。


 嘲笑いながらDrは言った。


 目の前で、自分のことを守ろうとして鎌を構えている――苦しそうに顔中に血管を浮き出し、頭を抱えながら唸っているズーに向かってDrは命令を下した。



「行くのじゃ! 鎌の少年! 目の前の二人を真っ二つのぶつ切りにするのじゃ! 儂の命令は絶対! さぁさぁさぁさぁさぁさぁ――儂の駒となって、その感情を儂に見せるのじゃぁ!」



 その言葉に呼応するようにズーはブルブルと鎌を持っている手を震わせて、ゆっくりと……、本当にゆっくりとその鎌を持ち上げ、したくないのにその言葉に従おうとしてしまう体に苛立ちを覚え、Drに対して苛立ちを覚えながら……。




「あ、あぁっ! ああああああああああああああああ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!」




 ズーは叫んで、その鎌をコノハとカグヤに向けて……、振るった。

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