PLAY69 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅷ(抗う)④
「作る……? 何を言っておるのじゃ? 頭を打ってしまったのか?」
「おじさんに心配されるほど、私は頭も言っていないしあなたと違って比較的無傷よ。心配無用」
振り向いた虎次郎は、驚いた目でルビィのことを心配そうに見つめる。
そんな顔を見てルビィは失礼だろうと言わんばかりの目で虎次郎のことを睨みつけ、己の胸をとんとんっと手で叩きながら言う。
確かに――比較的無傷の状態でいるルビィに対して虎次郎はボロボロの状態。
虎次郎の言葉は虎次郎に向けてかける方が正論なのだ。ゆえにルビィはそんな虎次郎のことを見て……。
――あんたの傷も大概だけどね。
と思いながらルビィは頭に怒りのマークを浮かべながら言う。
そして彼は続けて虎次郎のことを見ながら、ドゥビリティラクレイムのことを指さしながら続けてこう言う。
「虎次郎さん。あなた……、忘れているのかしら? この世界は私達がいた元の世界じゃないの。この世界はゲームの世界にそった世界。いうなれば仮想の世界なのよ?」
「む、う。わかっておるぞ?」
「分かっているのならば丸腰で挑もうとしないわよ。少しは武器を以て戦いなさい。この世界で丸腰で戦うことは、レベルだけ上げて攻撃力だけで挑もうとする人と同じなの。命知らずの行為よそれは」
「ぬ」
「鎧着ないでトゲトゲの敵と相対する? それと同じなの。無謀の行為なのよ」
どんどん反論する言葉を失っていく虎次郎。
若干、真っ直ぐな背が猫背になりかけているが、それでも虎次郎は――腕を組んで虎次郎の言葉を待っているルビィに向かって、反論した。否――己の意見を押し通そうと言葉を紡いだ。
「いいや、この状況で成すべき真っ当なことは、儂が囮になって、助けを求めることが最善であろう。そのために」
「その自己犠牲はとてつもなく格好いいけど、すんごく格好悪いわ。囮になって私が終わっているであろう人のところに向かって助けを求めることは無謀。その間にあなたが死んでしまったらどうするの? 結局はこの場でなんとかしないといけないじゃない」
「ぐ」
「ぐうの音も出ないとはこのことね」
はぁっ。と……、ルビィはとうとう反論することができなくなってしまった虎次郎に向けて溜息を吐きながら頬に手を添えて言う。
日本にある諺を述べながら、彼は鼻で「ふぅ……」っと息を吐き、ルビィは虎次郎のことを見ながら腕を組み、肩を竦めると彼は言う。
自分が組み立てた付け焼刃の作戦を――
「いい? 私はこの場から逃げないわ。でも、これからすることはかなりの長丁場よ。正直なところ、武器が健在の私では、あの猛獣には勝てない。どころか負けることは確実」
「なら――っ!」
「でも、虎次郎さんの剣技があれば……、勝てる。絶対に」
「?」
ルビィの言葉を聞いて、虎次郎は目をひん剥かせて見開きながら、疑念の表情を浮かべる。そんな顔を見て、ルビィはすっと視線をドゥビリティラクレイムに向ける。
ドゥビリティラクレイムは「ぐるうううううううううっっっ!」と唸り声を上げ、会話をしているルビィ達に狙いを定めると地面に手をつけ、馬のように後ろ脚を『がりっ! がりっ!』と引っ掻きながら走る準備をしている。
さながら突進しようとするサイのようだ。
その光景を見て、本当の獣の様だ……。と思いつつ、ルビィは再度虎次郎に視線を向けながら続けてこう言う。
「『何を言っているんだ?』って顔ね。でも……、本当のことよ? 私、嘘はつかない主義なの。日本の諺にもあるじゃない。『嘘は泥棒の始まり』って。だから嘘はつかない。私は正直なことしか言わないわ」
「どういうことなのだ……? 儂ならば勝てるとは。先ほどの言葉と矛盾が生じておるようじゃ」
「ええ。確かに矛盾している。しているけど……、正常判断にして勝てると踏んだ判断。だから言ったのよ? 勝てるって」
「??」
とうとうルビィの言っていることが理解できなくなってしまったのか、はたまたはこんがらがってしまったのか、虎次郎は首を傾げながら腕を組んでしまう。
激痛に悲鳴を上げている手を組みながら、虎次郎は首を傾げる。
その光景を見て、ルビィは呆れた目で虎次郎のことを見ながら、彼は虎次郎に無目に向けて……。
とんっと、右手の人差し指を突き付ける。
「! ?」
「………わかりやすく言うと」
驚き、そして混乱して瞬きをしている虎次郎に向けて、ルビィはくすりと……、女性のように微笑みながら彼は結論を述べる。
至極簡単にして誰もがするであろうあることを、彼は述べる。それは――
「虎次郎さんの装備は、最初から初期装備。だからその装備を最新の最強のそれにすれば、勝てるって言いたいの」
「?」
「理解していないから首を傾げているのよね? なら……、今から証明してあげる」
ルビィが虎次郎の行動を見て溜息交じりに言葉を放った瞬間だった。
本当に、刹那と言わんばかりの一瞬の一場面。
ルビィは虎次郎の前を見て、虎次郎はその光景を見て後ろから真正面に視線を向けた瞬間、虎次郎ははっと息を呑んで、目を見開く。
目を見開いて、目の前に広がるドゥビリティラクレイムの鬼の形相を見て、虎次郎とルビィは即座にその場から離れる。
横に逸れるように離れる二人。
そんな二人がいた場所に向かって突進してきたドゥビリティラクレイムは、獣のような咆哮を上げながらどんどん突き進む。
二人に向かって――ではなく……、簡素に建てられた石の壁に向かって、彼は突進して……。
――どがぁぁっっ! と、激突する。
その光景を見て、ガラガラと崩れ落ちる石の壁だった破片を払いのけて立ち上がるドゥビリティラクレイムを見ながら、無傷で虎次郎達のことを狙って唸り、立ち上がったドゥビリティラクレイムを見ながら……、虎次郎は思った。
まるで猪だと……。そう彼は思い、もしあれに当たるようなことが起きてしまったらと想像してしまった瞬間、虎次郎は背筋に感じた寒気に驚きつつ、ごくりと生唾を飲む。
そんな虎次郎のことを見ない状態で、ルビィは激突した方向を見て――にっと、緩く緩く口元に弧を描きながら、ルビィは安堵し……。
「よし――」
と頷いた瞬間、ルビィは虎次郎に向かって叫んだ。
「虎次郎さん! すぐに作るわ!」
「っ!?」
その言葉を聞いて、虎次郎は驚きながらルビィを見つめる。そして虎次郎のことを見ないでルビィは手に装備していたフックショットを構える。
構えながら、ルビィは片目をきつく閉じ、狙いを定めながらもう片方の手でフックショットを支える。
支えながら、ルビィは向ける。そのフックショットの先を……、ドゥビリティラクレイム――
ではなく――
壁の向こう側に見えたそれに向けて、ルビィはフックショットを放った!
バシュゥッと放ち、ドゥビリティラクレイムの顔の横を通過して、狙っていないかのように通過させながら、ルビィは放つ。
「っ!?」
「グゥウウウッ!?」
虎次郎とドゥビリティラクレイムは驚いた目をして、フックショットが放たれた方向を目で追う。
空を飛んでいる鳥を目で追うように、二人は目でフックショットが放たれた方向を目で追うと……、虎次郎は再度目を見開き、彼は言葉を零した。
驚きの声を、零したのだ。
「あれは……っ!」
虎次郎が焼き付けたその光景。それは今しがたドゥビリティラクレイムが作った光景であり、今のドゥビリティラクレイムでは理解ができないことであろう。しかしドゥビリティラクレイムは、失敗してしまったのだ。
ドゥビリティラクレイムが壁に激突してしまったせいで、大きな穴が開いてしまい……。逃げ道と、その処刑場の近くにあって虎次郎たちに見せなかった家屋を見せることになってしまう羽目になってしまったのだ。
誤算とはまさにこのこと。
しかし今のドゥビリティラクレイムは理解できない。
動物と同じように、本能で動いている。
理性など一ミリもない状態なのだ。ゆえに今の彼がその光景を見ても、驚愕と愕然、そしてまずいと言う急速に押し寄せる不安など一切ない。
なのでドゥビリティラクレイムはその光景を見て、穴が開いた壁の向こうに向けてフックショットの刃を放ったルビィの行動に焦りなど見せなかった。見せないどころか、首を傾げて頭に疑問符を浮かべているだけだった。
その光景を見て、ルビィは内心思った。
――やっぱり。あいつは動物と同じような状態。知性や理性が欠け落ちている。今の彼は動物と同等の知能。だから止めようとしない。
止めないのならば好都合。
そう確信しながら、ルビィは狙った先に視線を向ける。向けて、ルビィは当たってくれと願いながら、支えていたその手をそっとフックショットから離して、懐からとある小さな鉱物を取り出した。
その鉱物は緑青色のガラス状の石で、空想上の世界にしかない鉱物でもあった。
それを手に取り、ルビィはフックショットの装甲の黄色く淡く光り輝くその穴の中に緑青の鉱物を『がこんっ』と入れ、続けてルビィは再度フックショットに目を向ける。
目を向けた瞬間、壁の向こう――フックショットが向かった先から金属音が突き刺さるような音が聞こえた。
『がきょんっ!』という、あまり聞かないような音が聞こえた瞬間、ルビィはすぐにフックショットの装甲の中の引き金を一気に引いた。
「――ぃよっと!」
叫びながら、再度反対の手でフックショットの装甲を掴んで、ぶれないように支えながら、ルビィはフックショットを引き戻す。
ギャルルルルルルルルルッッ! と、引き戻す音が虎次郎とドゥビリティラクレイム、そしてルビィの耳に響き、ルビィは突き刺さったそれを見て、再度ゆるい弧を口元で描いていく。
描きながら、得物と一緒に引き戻されていくフックショットの帰還を待つ。
「……………………………っ!」
「ぐぅぅうっ?」
がこんっ! ごんっ! とぶつかる音と共に、壁の向こうの世界から引き戻されてきた……、踊ってきたフックショットの刃。
そしてその刃に突き刺さっているそれを見て、ドゥビリティラクレイムは理解ができていないのか、首を傾げて、空中に向かってバウンドしたそれらを見ると、虎次郎はそれを見て、こう声を漏らした。
突き刺さっているそれを見て、虎次郎は驚きながら言ったのだ。
「あれは……! 盾、かっっ!?」
そう。フックショットに刺さっていたそれは――盾だった。
ボロボロでところどころ錆びてはいる。しかし使えないわけではないのだが、フックショットのせいで穴が開いてしまった――使えなくなってしまったそれを見上げて、虎次郎は混乱してルビィがいるその方向に目を向ける。
向けて、彼は混乱の渦に引き込まれながら思った。
――なぜ盾が!? いや、いやさそれはいいっ! そんなことどうでもいい!
――今はいい。なぜあの男……、るびぃがなぜあのようなボロボロの盾を突き刺して引き戻したのかが問題だ。
――なぜそれを手にしようとフックショットを撃ったのかが理解ができん……っ! 一体なぜ、あの男は使えなくなってしまった盾を……。
と思った時、ルビィはそんな虎次郎の思考を打ち壊すように、逆転の兆しを掲げるように、彼はフックショットの刃が『がこんっ!』と――元の鞘に収まったと同時に、刃からそれを乱暴に引き抜いて、緑青の鉱物を入れた黄色く光る穴にそれを差し入れながら、彼は叫んだ。
「術式錬成魔法――『武器錬成』ッッ!」
叫んだと同時に、ボロボロだった盾がその黄色い穴に吸い込まれていく。
掃除機で物を吸うように、どんどんとそのフックショットの中に吸収されていく盾。その光景を見ていた虎次郎は目を疑う。そしてそれが入った瞬間――フックショットの中から『ガコガコ』と音が鳴り響く。
Zの時と同じような音が『罪人処刑場』に鳴り響き、その音を聞きながら、ルビィは再度そのフックショットを構えて定める。
――虎次郎に向けて、ルビィはフックショットを構えたのだ。
「なぬ?」
驚いて見つめている虎次郎のことをしり目に、ルビィは何の躊躇いもなく、何の迷いもなく、彼はそのフックショットの引き金を――かちりと引いた。
「っ! グゥゥアアアガアアアアアッッッ!」
引くと同時に、ドゥビリティラクレイムも本能で何かを察知したのか、虎次郎に向かってまた突進を繰り出す。猪のように、四つん這いになって駆け出しながら――!
その光景と放たれたフックショットを同時に見て、虎次郎は驚きながら左右から迫りくるその光景を見つめ……、少々慌てる素振りをしながらルビィに向かって――
「ま、待てるびぃよっっ! 今すぐその武器を引っ込めろっ! と言うよりも早くそれを戻してくれ! 狙うものを間違えているぞっ! おい聞けっ!」と声を荒げる。
しかし……、ルビィはその声に対して聴く耳を持たず、放ったフックショットを虎次郎に向けたまま微動だにしなかった。むしろその軌道を逸らすことを、行為をしなかった。
それを見て、その真っ直ぐな目を見て、虎次郎はルビィの行動が本気のそれであることを確信した。確信して――彼は目の前に来たフックショットの刃と、そのあとを追うように追撃してくるドゥビリティラクレイムを見て、彼はルビィに対して怒りと戸惑いを抱く。
――なぜ、このようなことをっ!?
そう思った虎次郎は、腕で顔を守り、二つの攻撃から身を守ろうとした瞬間……。
「――虎次郎さんっっ! 受け取って!」
「!」
ルビィの大きな大きな声。
その声を聞いた虎次郎は目を見開き、そして無意識に、彼は目の前に迫りくるフックショットを避けたのだ。体を横に傾けながら避けたのだ。
「――っ! ぬ、っっ!?」
避けて、虎次郎は横目でフックショットを見る。
虎次郎の右頬を掠めるように通過していこうとするフックショットを、そのフックショットの刃から漏れ出す黄色い光の中から出てきた板を見て息を呑んだ。
それは光のせいで明確な詳細は明かせない。しかしその大きさは虎次郎よりも少し小さなもので、長方形の板の形で、彼の前に現れたのだ。現れた――のではなく、出現したのだ。
ルビィのフックショットの刃から――フックショットにつけられていた黄色い光の中から出てきたそれを、虎次郎は恐る恐ると言う形で、手に取る。手に取って、虎次郎は驚きのあまりに言葉を失う。
今起きている現象を見て――現実離れしたそれを見て、虎次郎は驚きのあまりに言葉を失っていたのだ。
勝った。そう確信を得た笑みを浮かべているルビィをしり目に――
「ぐぅうぅぅっっっ!?」
ドゥビリティラクレイムはその光る板を見て、ぎょっと顔を歪ませて驚いていたが、それでも彼は止まるという行動をせずに、そのまま虎次郎に向かって四足歩行の突進を繰り出し、虎次郎に急接近したと同時にドゥビリティラクレイムは大きな大きな右拳の攻撃を振りかぶる。
虎次郎のことを突き飛ばす勢いで、殴り殺す勢いで、彼は本能のままにその拳を振るう――!
「ぐぐうううううううがああああああああああああああああああっっっっ!」
声を強化剤のように使い、彼は叫びながらその拳を虎次郎に向ける。ぐるぅんっっ! と――腰を使ってドゥビリティラクレイムは攻撃を繰り出そうとした。
ぐおっっ! と、風を切るように振るう拳。
虎次郎は未だにその盾を見て唖然としていたが、その風を切る音を聞いて虎次郎は動いた。
手に持った板を己の前に突きつけて――彼は今しがた持った武器を片手に繰り出す。
「『しーるど・すたんぷ』っ!」
虎次郎は手に持ったそれを、ドゥビリティラクレイムが繰り出した拳に向けて突きつける。槍のように、板の面をドゥビリティラクレイムの拳に向けながら――彼は繰り出す。
繰り出して、虎次郎が持っていた板とドゥビリティラクレイムの拳が交わる。
ごぉんっっっ! と、鈍い音を立てて『罪人処刑場』中に響き渡り、振動が辺りを震わせた。
びりびりとくる振動の余波。
それを感じながら、虎次郎は手に持ったそれの性能を実際に体験し、そしてドゥビリティラクレイムを見る。ドゥビリティラクレイムは虎次郎のことを怒りの形相で見降ろしていたが……、少しずつ、本当に少しずつ、その怒りの形相に――曇りが淀み始めたのだ。
「う、ぐ、ぐ、お、ぐ、げ、ぎぃ……」
ドゥビリティラクレイムの唸り声が聞こえ、その板につけていた拳をゆっくりと、本当にゆっくりと距離を離しながら、ドゥビリティラクレイムは震える瞳孔で、何かを紛らわせるために呼吸を荒くして、彼は見降ろす。
虎次郎が持った板に向けて殴りつけた拳を――殴った個所から微量の血を流し、びりびり激痛の信号を放ち、折れていることを知らせている己の指の叫びを感じながら……、ドゥビリティラクレイムは……。
「あ、ぐ、アギエアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!?」
痛みを紛らわすために、叫んだ。叫んで、叫んで、叫んで、折れてしまった手をもう片方の手で覆いながら叫び続けた。
ずんっと、膝から崩れ落ちて、ドゥビリティラクレイムは怒りの形相から苦痛と恐怖、そして悲痛の咆哮を上げながら蹲る。
その光景を見て、虎次郎は再度、己の手にある板を見つめなおす。
虎次郎の手に収まっているそれは……、緑青の色が目立つ盾だった。
シンプルな十字架が彫られているデザインで、先ほどルビィが取り出した鉱物と同じ色の長方形の形の盾が虎次郎の手に収まっていたのだ。持ち具合も良好で、なおかつ軽いものであった。
「……………………なんという硬さ。このような盾、今まで持ったことも、使ったことも、拝んだことすらないぞ」
虎次郎はその盾の性能と硬さ。更に言うと盾の攻撃力に驚きを隠せずに見つめていると……。
「そういうことよ――私が言いたいことは」
「!?」
突然――ルビィの声が聞こえた。
その声を聞いた虎次郎はぎょっと目を点にして肩を震わせながらキョロキョロと辺りを見回し、ルビィを探すが、その場所に――『罪人処刑場』にルビィの姿はどこにもなかった。
どこにもいないルビィであったが、声だけははっきりと聞こえる。
その声を頼りに、虎次郎は辺りを見回す。ぐるり……、と、『罪人処刑場』を見渡しながら――
ルビィは言う。どこにいるのかわからない中、彼は言った。虎次郎に向かって――
「虎次郎さんの装備って、初期の装備で、初めて買ってから一度も変えていないでしょ? 刀もきっと……、お得意の盾も。普通の人はね……。強い敵と相対するときは準備をするの。アイテムを勝ったり、レベルを上げたり、武器防具の装備を強化したり――ね? 簡単な話だけど、虎次郎さんは今まで初期の装備で勝ってきたから武器を買う。装備を買うという概念が全くなかった。だから私は与えたの。あなたに前よりも格段に強いお得意道具を。そして――」
ルビィは言葉を区切る。
区切ると同時に――どこからか何かを投げる音が虎次郎の耳に届き、虎次郎はそれを聞いて、すぐにその音がした方向を見る。
見て――虎次郎はすぐに目の前に手をかざした。なんの疑いもなく彼はそれに向けて手をかざした。
盾を持っていない手を目の前にかざし、自分に向かってぐるぐると回りながら迫って来ている何かを、がしりと掴んだ虎次郎は、その全体を見て……「おぉ……っ!」と声を漏らした。
感動と安堵の声を漏らした。
かざした手に収まった――漆塗りの鞘に収まった、新しく生まれ変わった愛用の刀を見て、虎次郎は感動を声で表現し、そしてすぐに、それを腰に携え……。彼はドゥビリティラクレイムに向けて狙いを定める。
持っていた盾を背中に背負い――足幅を肩のところまで広げ、腰を落とし、捻りを入れながら腰に差した刀の鞘に手をかけて、虎次郎は――構える。
「ふぅー…………………」
息を吐きながら、虎次郎は精神を集中させる。その構えの状態で、虎次郎は静かにドゥビリティラクレイムのことを見上げ――睨みを利かせた。
ぎんっ! と――獲物を狩る獣のように、虎次郎は痛みで叫んで暴れていたドゥビリティラクレイムを大人しくさせようと睨みを利かせた。
その光景を見降ろしたドゥビリティラクレイムは、まるで母親に怒られてしまい委縮してしまった子供のように、肩を震わせ――「ぐぅっっ!?」と、上ずった声を上げて身構える。びくりと体を震わせながら……。
その震えをしたドゥビリティラクレイムは、己の中に何かが芽生えたかのような感覚を覚え、そして彼は本能のままに動くことを臆してしまった。臆した理由――それは己の本能が囁いたからだ。
虎次郎のことを見て――ドゥビリティラクレイムは直感した。悟ったのだ。
今目の前にいる虎次郎は、自分よりも強いと直感したから、ドゥビリティラクレイムは体を震わせて臆してしまうが――その場で降伏のポーズをするドゥビリティラクレイムではなかった。
「ぐぅ。ぐ。ううう、うううううううっっ! ううううううごおおおおおああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」
ドゥビリティラクレイムはあらんかぎり叫び、あらんかぎり声を上げて、その恐怖を声でかき消すように叫びながら、ドゥビリティラクレイムは折れていない反対の手を振り上げて握りこぶしを作り、その拳を虎次郎に向けて振り下ろす。
虎次郎のことを、今度こそ潰さんばかりに、ドゥビリティラクレイムは処刑軍団団長として、帝王のために拳を振る――おうとした。
だが、その前に虎次郎は体を左に傾けて、その傾いた方向に向けて小回りを利かせながら駆け出す。どんっと地面を蹴りながら、虎次郎は駆け出した。
「――ぬぅんっっ!」
刀を握っている状態で、姿勢を低くした状態で虎次郎は、ドゥビリティラクレイムの拳を避けて死角に入り込みながら駆け回る。
「ぐぁぁっ! ごああああああああああああああああああっっっ!」
その光景を見て、振り下ろしたその手を一旦止めたドゥビリティラクレイムは、虎次郎のことを目の端で捉えながら、その拳をほどいて、平手打ちでもするかのように、腰の捻りを使って大きく大きく振るい回す。
死角に入り込んではネズミのように駆け回る虎次郎のことを掴み上げようと、ドゥビリティラクレイムは折れた指の手も使って、虎次郎を追い回す。
ぐるんっ! ぐわんっ! ごぉっ――! と……、腕を振るう音が『罪人処刑場』に響き、その音を聞きながら虎次郎は避ける。避ける。避ける――!
まるで――キョウヤが槍を使って攻撃をするように、ボジョレヲのように全身を使って攻撃する様に……、虎次郎は踊っているかのように避けながら、ドゥビリティラクレイムの死角に滑って入り込んでいく。
脇に入り込んで、足の間に入り込んでは通過し、そして背中に回り込みながら、虎次郎はドゥビリティラクレイムを翻弄する。
そして――背中に回り込んだところで、虎次郎は静かに……、生まれ変わったであろうその刀を、『かちり』と引き抜き……。
――しゃりんっっっ!
と、抜刀する音と、切り裂く音が周りを包み込んだ。静寂を舞い込みながら……、その音は空気とと共に解けて消えていく。
「………………」
「良し」
「……………ふふ」
驚いて目を点にしているドゥビリティラクレイムをしり目に、虎次郎は刀を『すぅーっ』と静かに、綺麗な納刀の音を奏でさせながら、虎次郎はその刀を見てぽつりと言葉を零す。
その声を聞いていたルビィは、大穴が開いたところから覗き込むように、その壁に手を添えながらその光景を見て微笑んでいた。否――勝ちを確信した笑みで、安堵を浮かべ――ポツリと、虎次郎の言葉に耳を傾ける。
種を明かすと――先ほど刀を投げ渡したのはルビィだ。ルビィは使えなくなってしまった錆びた刀と、万が一の時を考えて忍ばせていた白銀色の鉱物を錬成して、それを虎次郎に投げ渡したのだ。
刀を錬成する時に使ったその鉱物は……、先ほどの緑青の鉱物――ミスリルよりも高価で強固な硬さを誇っているMCO内で最高級品として扱われている一級品。オリハルコンであり、それを使ってルビィは錬成をしたのだ。
オーバースキル――『武器錬成』を使って、此の世でたった一つしかない刀と盾を錬成し、それを虎次郎に託す。
倒してほしい。それだけの願いを込めて――
閑話休題――虎次郎は言った。
「性能、切れ味、何より掴んだ時に感じた共鳴するような感覚。まるで運命の巡り合わせのような感覚。全てに於いて良し。良しが多すぎて――儂が使っていいのか躊躇ってしまう」
と言うと同時に――ドゥビリティラクレイムが無防備に背中を見せている虎次郎に、折れていない手の拳を振るい上げようとしたと同時に――否……。
虎次郎が刀を抜刀した時点で、あの音が聞こえた時点で、すでにすべてが終わっていた。
「――っ!? っっっ! ぐうううううっっっ!?」
ドゥビリティラクレイムは体から迸る辛いような、冷たいような、それでいて電流のような何かを体から、腹部から感じ、ドゥビリティラクレイムはふと――自分の腹部を見降ろした。
見降ろして――彼はその光景を見た瞬間、愕然のその目を染めて見開き、そして…………。
「ぎゃああああああああああああああっっっ!」
甲高い声を上げながら、ドゥビリティラクレイムは後ろに向かって倒れていく。
倒れようとした瞬間――己の胸部から腹部に向かって駆け巡る激痛と、その激痛と共に出てきた鮮血を目にしながら、斬られたことを確信して、視界の周りに飛び散る金属の鎧を目に焼き付けて……ドゥビリティラクレイムは倒れていく。
どんどんと、だんだんと――背中から倒れるようにして、ドゥビリティラクレイムは、大きな音を立て、大の字になって……どぉぉぉんんっっっ! と、筋骨隆々の体から元のぶよぶよとした体つきになり、彼は気を失って……倒れた。
がらがらと、ドゥビリティラクレイムが身に纏っていた秘器が地面に落ちた瞬間――処刑軍団団長であり、『盾』の一人でもある彼の黒星が決定した。
体の切り傷から出る血は止まっていないが、幸い表面だけのそれであったが故、致命傷ではない。簡潔に言うと、生きている。
その光景を見降ろし、虎次郎はふぅーっと息を吐きながらルビィが作り、そして託されたその刀を鞘に納めて虎次郎は言う。静かな音色で彼は言ったのだ。
「まだまだ――儂は弱い。みみっちいくらいに弱すぎる。弱いがゆえに強くならねばならん。他者を守るためには、今以上の……、その二乗、いや、三乗……、否々――限りない強さが必要じゃからな」
虎次郎はその刀を鞘に納める。『ガチンッ』と言う音と共に彼は新しい刀を鞘に納め、その刀から手を離した。
勝ちを得た。そして残ったことに専念するために帝宮を見上げて――虎次郎とルビィは顎を引く。
きっとみんなが向かっているであろう――帝宮を見上げながら……。
◆ ◆
虎次郎&ルビィVSドゥビリティラクレイム――虎次郎&ルビィの勝利。




