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PLAY07 月夜の約束②

 それを見ていると、後ろからこつんっと私の頭を優しく殴る誰か。


「う。?」


 私は変な声を上げて上を見上げると、そこにいたのは……。


「よぉ」


 キョウヤさんだった。


 キョウヤさんはにっと口元に弧を描いて、明るい笑顔で私に――


「浄化、ごくろーさんっ!」


 と、私の頭に手を置いて帽子越しにくしゃくしゃと撫でる。


「わっ! あ、あの……えっと」

「照れるな照れるな。ハンナとヘルナイトのおかげなんだ! 少しは嬉しがれって! さっきの嬉し顔どこに言ったんだ? へへ」


 そう言いながらキョウヤさんは私の頭を撫でる。髪の毛がくしゃくしゃになるくらい撫でる。あぁ。帽子取れそう……っ!


「アキお兄さぁん! あそこに確信犯もどきがいまーす!」

「よし処刑」

「んんっ!? どした!?」


 ブラドさんがキョウヤさんを指さして言うと、アキにぃは銃を構えて撃とうとしていた。それを見たキョウヤさんは私の頭から手を放してぎょっと肩を震わせていた。


 それを見て、私は控えめに微笑む。


 なんだろう……。色々と張り詰めたことがありすぎて、こんな和んだ空気を見るのは、久し振りな気がした……。


「いやー……大変だった……」

「こんな大変やったんやな……。なんか達成感がありすぎる……」

「なんだ? 何が起こったんだ?」

「「お前は話を聞けぃ」」

「うぜぇ」

「??」


 エレンさん達も疲れがどっと来たのか、尻餅をついたり座り込んだりして話している。


 そんな風景を見ていると、私の頭に重みが来る。


 上を見上げると、そこにはヘルナイトさん。


 頭に手を置いて、ただ私を見て……。


「……お前がいてくれたおかげだ。ありがとう」

「あ……はい」


 面と向かって……、お礼を言われた。


 それを聞いた私は、ただただ……、言葉にできない気持ちを抑えながら、できるだけ言葉にしてこくこくと頷く。


 それを見ていたヘルナイトさんは、首を傾げて見ているだけだった。


 その時だった。


 突然――ぐらっと、地面が揺れだした。


『!?』


 みんなが驚く中、揺れに耐えながらしゃがみながら……、エレンさんが叫んだ。


「な、なんだ!?」


 これは、驚きの声だろう……。


 それを聞いたみんなが、しゃがみながら揺れに耐えている。ララティラさんは青ざめて、もしかしてという最悪のことを思い込んで、引きつった笑みを浮かべながら、ララティラさんは言った。


「も、もしかして……、私が、あの水の詠唱を、打ち込んで……?」

「地盤云々だったらすぐに崩壊しているだろうがっ!」


 コウガさんはそれを否定する。


 そして、ブラドさんが大きな声で――


「早く出ようぜぇええええええええっっっ!」


 と叫んだ。


 それを聞いたキョウヤさんは慌てて「でもどうするんだっ!? 脱出アイテムなんてねーし! それにそれが使えるエンチャンターなんていねえ!」と叫ぶ。


「ならティラ!」

「ダンあんた知っとるやろっ!? 私は魔法と状態異常しか使えんって!」

「使えねえなぁ!」

「喧嘩売っとんかぁっっ!」

「二人とも! 今は喧嘩しないでくれえええええっ!!」

 混乱。パニックだ。私も何とかしてと思い、ふと、とあることを思い出した……。


「へ、ヘルナイトさんっ!」

「!」


 ヘルナイトさんは私を支えながらしゃがんでいる。私はヘルナイトさんを見上げて、聞いた。


「あの……、髑髏蜘蛛(スカルプ・スパーダ)に使った、あの技って……」


「! あれのことか?」

「はい」


 きっと、ヘルナイトさんも気付いたらしく、それを聞いて驚いた声を上げる。私は頷いて、聞く。


「あれって、もしかして……」


 それを聞いたヘルナイトさんは、すっと手を上げて、指を鳴らすように丸める。


 すると、地面が黒くなり、どろどろと、私達の体を底なし沼のように引きずり込んでいく。


「うわぁ?!」

「なんだこれっ!?」

「あぁ? メンドクセーなぁ! って……、纏わりつくなっ!」


 キョウヤさんとブラドさん、コウガさんは初めてだから、驚いてもがいていた。アキにぃ達はそれを見て、すぐにヘルナイトさんを見る。驚きと、不安の目で……。


 私はそれを見て、控えめに微笑んで――


「――大丈夫」それだけを言った。


 それを合図に、ヘルナイトさんは――



「――『死出の(カース・オブ・)旅路(リレビト)』」



 パチィンッ! と、指を鳴らしたその瞬間――私達の視界を黒く染め、そしてそのまま暗転の世界へと落ちていった……。



 □     □



 そして一秒しか経ってないのに……。


 エストゥガの『鉱焔洞宮(こうえんどうきゅう)』の入り口に立っていた私達。


 みんな一瞬ぽかんとしていたけど、すぐにその場所が、ダンジョンの外だということに気が付いたらしい。


「え、ええぇ!?」

「うそぉ!」

「ここ、外ぉ!?」

「おおおお! 出れたあああっ!」


 各々がそれぞれの言葉を言う中、ヘルナイトさんは私の肩をとんとんっと指で叩いて、私はヘルナイトさんを見上げる。すると――


「よくわかったな。あの技が、()()()()だということに」


 ……正直、詠唱だということはわからなかったけど……、私は「はい」と言って……。


「……、よく友達が言っていたので」

「?」


 ヘルナイトさんは私が誤魔化した言葉に対し、疑問符を浮かべていた。


 それもそうだ。その友達はしょーちゃん。


 しょーちゃんは昔、よくRPGゲームでとある呪文を覚えないでダンジョンに入ってひどい目にあったと嘆いていたことがある。


 とある呪文――それはダンジョン脱出系の魔法で、確か……、何々リレビトとかそんなことを言っていて、ヘルナイトさんの『カース・オブ・リレビト』もそれと同じものなのかなと思い、藁にも縋る思いで聞いた結果――案の定だっただけのこと。


 そう思っていると……。


「ぉぉおーいっ!」

「おーぃ!」

『!』


 遠くから声。


 その声がした方向を見ると、走ってこっちに向かってきた二つの影。


 だんだん近付いて来るにつれて見えてきた輪郭。


 私はそれを見て思わず声を上げてしまった。


「モナさんっ! グレグルさんっ!」


 向こうも私達を視認した時、モナさんはだんっと私に向かって突進して来て抱きつく。まるで猪の突進の如く。


「よかったあああああああああっっ!」

「わっ! わぅ!」


 思いっきり抱きつかれて、その衝撃に獲れなかった私は、後ろに倒れてしまう。モナさんと一緒に。


 グレグルさんはコウガさん達に近付いて安否を聞いていたけど、キョウヤさん達は大丈夫と言っているみたいに、明るい声で何かを言っていた。


 私は――


「大丈夫だった!? どこもけがしてないっ!? あのゴーレスさんから話聞いたよ! やっぱりあのエンドーって人が犯人だった! あの人変態なんだよ!? 知ってた!? しかも(たぶら)かしたとかなんとか!」

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ、あ」


 肩を掴まれて、ぶんぶんっと前後に振られる頭。


 声が漏れているけど正直答えることができない状況。頭がシャッフルされて、痛いのなんのって……。


 モナさんが心配なのはわかった。


 でも、もうやめてほしい……っ!


 頭が、ぐわぐわする……っ!


 あ、なんか頭の中シャッフルされて……、頭が痛いのか気持ち悪いのかなんかよくわかんなくなって……。


「モナちゃんストップ」

「あ! エレンさん!」


 モナさんの (善意による)安否確認を受けていた私は頭をシャッフルされたせいで、思考回路が変になりかけた。本当に意識が飛びそうになった。


 そんな時――エレンさんがモナさんを止めに入る。私は何とか頭はふらつくけど……、それでも意識が保たれた。でも、モナさんはエレンさんの肩を掴んで、私と同じようにぶんぶんっと振って慌てて説明していた。


 あ、ごめんなさい……。


 そう思っていると、ずん、ずんっという音が、遠くから聞こえた。


 その音を辿って見ると、それはダンジョンの上……、火山のようになっているところ。


 みんなもその上を見る。そして、目を疑った。


 ヘルナイトさんは、あまり驚かないで見ていたけど……、それでも、それは圧巻のある光景だった。


 標高が高い山を、ずん、ずんっとまるで壁伝いに上っているサラマンダーさん。そして山の頂上に来て、天を見上げた瞬間……。



「グォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!」



 と、大きく大きく叫ぶ。その叫びは、あの時瘴気に犯された声ではない。威厳のある咆哮。


 すると、サラマンダーさんは体中に赤い何かを纏って、それを一気に拡散させる。


 私達はそれを見て、防御をとったけど、それは痛くも痒くもない。強いて言うなら……、小さい焔のように、温かいそれだった。


 それは、エストゥガを抜けて、どこか遠くへと向かって、広がっていく……。


 それを驚いたというか、なんか言葉にできないような顔をして見ていた私達。


「なんだ……あれ?」


 アキにぃが呆けた声で言うと、それに答えるかのように……。


「あれは『八神』の力。『終焉の瘴気』に対抗するための力と、盾と言えばいいでしょうな」


『!』


 また声。その声はグレグルさんの背後から聞こえた。グレグルさんの背中から出てきたダンゲルさんは、かんっと石の大剣を地面に小突き、その背後にいた鉱石族(ドワーフ)全員で頭を下げて、静かに言った。


「サラマンダー様をお救いくださいまして……、誠に、ありがとうございます」


 その言葉を聞いて、誰もが言葉を発しない。


 照れたり、肩を竦めたり、そして浮かない顔や笑みを浮かべる人。


 それを見て、私はただ控えめに微笑むことしかできなかった……。


 そして私の隣にいる……。ヘルナイトさんを見上げて、私は言った。


「ありがとうございます。ヘルナイトさん」


 それを聞いたヘルナイトさんは一瞬きょとんっとしていたけど、すぐに凛とした声で。


「お相子。というものだな」と言った。


 それを聞いた私はくすっと微笑んで頷く。


「サラマンダー様をお救いくださった御方達よ」と、顔を上げるダンゲルさんに鉱石族の人達。


 ダンゲルさんはにっと豪快な笑みを掘り、私達にこんなことを言ったのだ。


「今夜は我々の気持ちとして、宴を催そうと思うのですじゃ! ぜひ! 心行くまでお楽しみいただければと思いますので!」


 宴?


 私はぎょっと驚きながら、みんなも驚いてその話を聞いていた……。

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