PLAY69 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅷ(抗う)①
その頃……、観戦席の混乱のざわつきを見ていたネテロデディアは頭を抱え……未だに応答が繋がらないDrに対して苛立ちを覚えながら彼は思った。
――どうなっているんだ……っ! この状況は……っ!
苛立ちが彼の正常な思考を阻害し、バグを起こし、彼に異常な行動を促そうとしている。
それを感じていた彼は怒りの矛先を実況と映像を映しているそれに向けようと手を振り上げたが、何とか怒りを自力で押さえつつ、踏み留まりながらネテロデディアはたった一人しかいない室内で――
「――っそがぁっっ!」
ネテロデディアはあまり発したことがない音色と言葉を吐き捨てる。物に当たらずに彼は吐き捨てた。
荒くなってしまった息を整えつつ、彼は苛立ちを空気にして吐き出しながら言葉を零す。
「……なぜ、なぜこうなった……? こんなこと、生まれて初めてだ……っ! なぜこうなったんだ……っ!?」
言葉を零しながらネテロデディアは言う。
震える声で彼は言った。困惑し、怒りを露にしながら混乱するのは――無理もない話だ。
バトラヴィア・バトルロワイヤルが始まり……、すでに三時間は経過しているが、現状は最悪のそれだった。最悪と言ってもハンナ達にとっての最悪ではない。
……帝国にとって、今の現状はあまり芳しくないそれであった。
最初こそ帝国側は帝国の圧勝と思って見ていたが、今になってその圧勝と言う希望が薄れてしまってた。諦めているわけではない。薄れてしまっていたのだ。
今あるのは……、負けてしまうのではないのかと言う……、一抹の不安。
今まで絶対的な戦力を誇っていたバトラヴィア帝国の『盾』
王の『盾』であり国の盾であり、思考の戦力を誇っている七人……、否、現在は六人である。しかしそれでも、彼らの敗北などありえない。
帝国にいた住人 (奴隷区と下民区の人は例外)はそう思っていた。それに今回は帝国の協力者として、『バロックワーズ』がいるのだ。
どこの誰なのかは知らない。しかし帝国のために協力を申し出たのだ。帝国の平和のために戦う――それは心強い味方であることは間違いない。誰もがそう思っていた。
だが……、それも夢物語だったのかもしれない。誰もが、実況兼報告をしているネテロデディアもそう頭の片隅で思い始めていた。
そう思い始めた理由は……、現在の戦況にあった。戦況の状況が彼らの希望を崩しにかかっていたのだ。
現在の戦況――
ハンナ&ナヴィVSボルケニオン……現在ハンナ逃走中であるが故、勝敗は未だになし。戦闘継続中。
アキ&ダイヤVSグゥドゥレィ……現在戦闘の真っ只中であるが故、戦闘継続中。
虎次郎&ルビィVSドゥビリティラクレイム・パーム……最初こそ劣勢になっていたが、ドゥビリティラクレイムが秘器を発動したおかげで優勢になりつつある。ゆえにこの戦闘の勝利はもう目の前であろう。戦闘継続中。
ボジョレヲ&セスタVSピステリウズ・ペトライア……暗殺軍団団長としての実力で押していたが、冒険者セスタとボジョレヲの詠唱の力に成す術もなく倒されてしまう。ボジョレヲたちの勝利。
ティズ&クルーザァーVSセシリティウム・アラ・ペティシーヌ……彼女もドゥビリティラクレイムと同様に秘器を発動して、相手を嬲っている途中である。彼等が倒れるのも時間の問題である。そして彼女の敗北はまずないと思いたい。戦闘継続中。
ノゥマ&アクアカレンVSブルフェイス・イラーガル……狭い路地裏。そして塵感覚を使っての追い詰めは確実であったが、ノゥマのことを侮り、そして小さい子供ではあるがれっきとした魔王族相手に、ブルフェイスは手も足も出なかった。簡単に言うとあっけなく倒されてしまった。ノゥマ達の勝利。
リンドー&ガザドラVSレズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッド……この勝敗はすでに決していたといっても過言ではなかった。時間を稼いでいたリンドー達には、敵であるネテロデディアも『あっぱれ』と言わざる負えなかった。つまるところ――レズバルダの圧勝。帝国側の勝利となる。
ヘルナイトVSスピカ&カスピ……こちらはレズバルダの逆の視点。最強の鬼神であり地獄の武神と恐れられているアズール最強の魔王族――ヘルナイトの前には敵も恐れてしまい、そして逃げることをすぐに選択してしまう。ゆえに彼女達はあっけなく敗れてしまった。邪魔者が入ったようだが、それでも敗北は敗北。なのでこの戦闘の結果は……、ヘルナイトの勝利ということになるのだ。
ボルド&ダディエルVSアクロマ……Drの言葉に踊らされた男であり息子であったが、更なる復讐を企てていた彼にとって、ボルド達の敵ではなかった。敵出なかったがゆえ……、アクロマは倒されてしまった。王道の罠にまんまと引っかかってしまい、ボルド達に勝利を渡してしまったが、ボルド達の勝利も呆気なく奪われる結果になる。
メウラヴダー&ギンロVSハクシュダ……ここの戦闘は崩壊が多く、映像に映すということは叶わなかったが、ハクシュダは二人を仕留めたことはネテロデディアも理解していた。ゆえに彼はハクシュダの勝利を旗揚げとして、この勝利を高く評価して実況していた。その一勝を掴んだと同時に、ハクシュダはボルド達を奇襲し、そして二勝を勝ち取った。何かを言っていたように見えるが、それでも二勝は大きかった。それゆえに彼はハクシュダとレズバルダが反逆者を倒すことを心から望んでいる。それは……、観戦している貴族や平民達も同じ気持ちだ。
ガーネット&シェーラVSクレオ……奇怪な攻撃方法をして相手を翻弄していたクレオだったが、その状況を逆手に取った二人の奇襲にまんまと引っかかり、クレオは負けてしまった。ガーネット達の勝利。
セレネ&紅VSスナッティ……スナッティと紅の戦いは長い間繰り広げられていたが、紅の言葉とセレネの行動、そしてどこから現れたのかはわからないが、シノブシの行動によって一気に劣勢になり、紅の額から生えたそれと同時に、スナッティは紅の殴り攻撃を受けて倒れてしまう。紅の額から出てきたそれは、ネテロデディアも知っているもので、その力のおかげで――セレネ達は勝利を獲得したといっても過言ではない。結果として――紅達の勝利で終わる。
フォスフォVSルシルファル……。大型魔物の戦い (怪獣同士の戦いと言っても過言ではない)の戦況は大型映像さながらの迫力であった。だが――結局はぬか喜びだった。ただの大型の魔物が神獣として恐れられている竜に敵うはずなどなかったのだ。事実……、ルシルファルは負けた。フォスフォに……、最強の存在――竜に負けてしまった。フォスフォの勝利として、その場は収まった。
レン&キョウヤVSレパーダ。そしてティティ&ガルーラVSパトラの戦闘はまだ継続している。
それらを踏まえて……結果――ハンナチーム七勝。帝国チーム三勝。
圧倒的な勝敗が……、帝国チームの惨敗状態が浮き彫りになって来てしまったのだ。あってはならないという事実が、今ここで起きてしまっているのだ。
最強と言われている帝国の『盾』が――二人も倒されてしまっている。
残っている最強格のグゥドゥレィとレズバルダは例外であるという事実も壊されてしまうかもしれない。
セシリティウムもドゥビリティラクレイムも、もしかしたら倒されてしまうかもしれない。
「っっっ!」
ネテロデディアは最悪の、考えてはいけないことがふと頭をよぎり、それをかき消すかのように声にならないような声を上げて首をぶんぶんっと横に振る。
そして彼は頭を抱えながら、血走る眼でこう思っていた。
――ありえない……っ! ありえるはずがないんだ……っ!
――まだだ、まだ大丈夫だ……っ! 大丈夫、大丈夫なんだ! 今はまだ成果こそ残していないが、それでもグゥドゥレィさまとレズバルダさま、そして『バロックワーズ』のハクシュダさまがこの状況をひっくり返してくれるだろう……っ!
――そうだ! そうだ……っ! 王との連絡が取れない。そしてDrとの連絡も取れない状態が何だ! こんなアクシデントは小さいものだ! きっと二人ともこの戦況に対して対策を練っているに違いない……っ! 信じるんだ……っ! 信じるんだ……っ!
信じる。
否――ネテロデディアはそう心に暗示をかけていたのかもしれない。厳密に言うと……、信じないといけない。
信じるしかないのだ。
王やDrから連絡がない状況の中、帝宮で何が起きているのかも知らないネテロデディアにとって、戦わない彼にとってすれば、今起きているこの状況は彼の精神状態を不安定にさせるのには最適な環境状態であった。
『盾』達のように戦えば、その気も紛らわせることができるかもしれない。
しかし彼は戦わない。戦う術を持っていない。戦えない。
だから彼は実況をすることしかできない。それでしか帝国の役に立たない。ゆえに彼は実況に力を注ぐしかないのだ。
たとえ不安が心を荒ませてこようとも、彼は実況に徹するしかないのだ。
徹して……、帝国の民に伝えることを責務として全うする。
戦えない身で、状況に不安を抱いたとしても……、彼はそれを押し殺して伝えないといけないのだ。
「………っ! やるしかない……っ!」
ネテロデディアは覚悟を決める。
ぐっと顎を引いて、そして実況のマイクの電源を入れるボタンに指を乗せて、彼は一度……、小さく深呼吸をする。
すぅーっ。はぁーっ。と……。
ネテロデディアは心を落ち着かせるために深呼吸をし、血走る眼で無数の映像が流れているそれを見つめながら、彼は『盾』と『バロックワーズ』の勝利……、強いて言えば帝国の勝利を最後まで、本当に最後まで願い……、彼はボタンの上に乗せていた指を――力いっぱい押し付けた。
◆ ◆
『た、ただいまの戦況をご報告いたします』
その声を聞いていた誰もが、放送越しのネテロデディアの声に耳を傾けた。
貴族、平民、下民、奴隷区の人達が。
『バロックワーズ』と『盾』が。
ハンナ達が、カグヤ達が、セレネ達が、紅達が、ティズ達が――その声を聞いて、その報告に耳を傾けた。戦いながら、走りながら、そして――逃げながら……、その報告に耳を傾けた。
ネテロデディアはごくり……。と固唾を飲みながら、彼は言った。今起きている現状を、今現在の戦闘経過を――彼は伝える。嘘偽りもない情報を……、帝国中に伝えた。
『ただいまの戦況……、正直なところ、私自身このようになることは想定していませんでした……っ! いいえ、今も信じられないです……っ! きっと、この情景を見ている帝王も、驚いているに違いない……っ! 違いないからこそ、私は嘘など言わずに、偽りなどない報告をしようと思います……っ! 現在……、『バトラヴィア・バトルロワイヤル』の戦況中間報告は……、帝国側が……、圧倒的に負けていますっ! 戦況として、反逆者十勝。帝国三勝という……。圧倒的な差がつけられてしまいました……っ! 更に言うと、暗殺軍団団長と、養成軍団団長の二人が倒されてしまいました……っ! こんなことがあっていいのか……っ!? そう思うでしょう……! 嘘だと思うでしょう……っ!? いいえ! 事実です……っ! これは事実です……! しかし! されどしかし! 私は信じています! 帝国が勝つことを! この状況を一変させることを! 逆転劇をくりだすことを信じています! 信じています! ゆえに今現在戦っている方々――どうか、どうか……っ! この戦況の悪循環を、止めてください! 私と、そして帝国の住人は、あなたたちの奇跡を信じています! どうか――帝国の未来に光を!』
実況の音が切れる音が聞こえて、ネテロデディアの実況も途絶えてしまった。
半分己の願望を口にしただけのそれであったが、誰もがそれを聞いて驚きを隠せなかった。
ハンナ達は――みんな頑張っている。みんな戦っている。すごい。自分も頑張らないと。そう思いながら、彼女達は己の闘志を鼓舞させる。ハンナも一刻も早くガーディアンを浄化しようと意思を固める。
帝国とバロックワーズは、純粋な気持ちで驚いていた。誰もがそれを聞いて――驚きを隠せなかった。ネテロデディアの不安が伝染したかのように、ネテロデディアの負の感情が移ってしまったかのように、彼らはそれを聞いて不安を心にこびりつけてしまった。
最初こそ勝てると思っていた状況が、一気に急降下して……、彼らの心を負の感情に彩りを入れてしまう。誰も頼んでいないのに、そう思いたくないのに、気をしっかりと持たなければいけないのだが、それでも誰もが思った。
負けている? つまり……、このままだと負けてしまうのか? そう思っている人は――大半だった。
一部を除いて……。
◆ ◆
「っほっほっほ」
その状況を聞いていた三宝軍団団長グゥドゥレィは、くつくつと喉を鳴らしながら笑っていた。老人らしい笑みを浮かべて、老人らしい不気味さを色濃く残しながら、彼は笑った。
その光景を見ていたアキは――手にライフル銃を構えながら苛立つ音色で――
「何がおかしいんだ? 今お前達すごくやばい状況なんだろ?」と言うと、それを聞いてグゥドゥレィは再度「っほっほっほ」と笑いながら言う。
「やばいか……。確かにやばいかもしれんのぉ。しかしそれでも逆転劇が巻き起こるかもしれん。巻き起これば儂はそれでいいと思っておるよ。なにせ秘器のデータが手に入るんじゃ。それはそれで儂の得なんじゃ」
「得……、お得に自分が得たい情報が手に入る。まさにこの状況は一石二鳥。そう言いたいのか?」
ダイヤはグゥドゥレィに向かって聞くと、それを聞いていたグゥドゥレィは、くつくつと笑みを浮かべていたその顔を一瞬のうちに消し、すっと目を細めてダイヤのことを睨みつけると――彼は低い音色と陽気な音色が合わさったかのような音色で……、彼は言う。
まるで――その言葉は正解だが、言われたくなかった。そう言いたいかのような雰囲気を出しながら……、グゥドゥレィはダイヤに見つめながら、今現在自分がいる場所から彼らを見降ろして言う。
アキやダイヤが手を伸ばしても届かないような帝宮の壁に尻尾の秘器を突き刺して、彼らを見降ろすように宙づりになりながら、グゥドゥレィは両手の爪の秘器を『カキキキキ』と動かし、ダイヤに向けて指をさしながら彼は言った。
「その通りだが……、それは正解ではない。半分正解で半分貴様の思い違いだ」
「……………………?」
「いや……、どう考えても正解だろうが」
グゥドゥレィの言葉にダイヤは目を細め……、疑念を込めた瞳でグゥドゥレィのことを見上げる。見上げて見つめていると、アキが呆れた音色で銃をそっと目から離し、そしてグゥドゥレィのことを見上げながら、彼は呆れた音色で言うと、続けてこう言う。
「秘器の開発をして、俺達に自慢げに話したんだ。あんたのような人は、自分の成果を自慢して、相手に『すごい』とか言われたいような性格なんだろ? 自分の成果を褒めてほしいから……、あんたは秘器のことについて自慢げに話した」
最初は――嘘を交えたそれだったけど……。
アキは肩を竦めながら駐屯医療所で起きたことを思い出し、グゥドゥレィから目を離して言う。それを聞いていたグゥドゥレィはアキのことを見降ろしながら目を細めている。
何も言わずに、ただただアキのことを見降ろしているだけのグゥドゥレィ。
研究者として、彼のことを観察しているのか。あるいは怒りで茫然としてしまっているのか。はたまたは不意を突かれて驚いて言葉を出すことを忘れてしまったのか、ただ黙ってアキのことを見降ろす。
そんなグゥドゥレィのことを見上げながら、アキは言葉の続きを口にする。
「だから今回のことだってそうだ。あんたは自分が作った秘器の性能を見つつ、完成度を見ながら優越感に浸りたいだけだ。完成して実物が動く姿を感動してみたいだけ。そうだろう? 結局は自分の得じゃないか」
アキの言葉を最後まで聞いていたグゥドゥレィは、無言になりながらアキのことを見降ろす。そしてアキの言葉と雰囲気を見て、聞いていたダイヤは、目を見開いて彼のことを見ながら開いた口が塞がらないでいた。
簡単に言うと――驚いて目を見開いていたのだ。
――そこまではっきりと言えるんだな……。この男は……。
アキの姿を見て、第一印象の『妹大好きなだめな兄貴』という印象から――『意外と考えている人』と言う印象に変わったダイヤの心境。
そんなダイヤの心境を一旦シャットダウン出せるように、グゥドゥレィは、鼻でアキのことを嘲笑いながら――彼は……。
「っは。『自分の得』? それは儂にとっての得? と言いたいのか? エルフだが、所詮は闇の森人――闇森人。『滅亡録』に記載されるほどの野蛮な思考を持っていることはよぉぉぉぉっく理解した。さすがは滅んでもいい種族じゃ。思考も野蛮じゃ」
「…………あぁ?」
グゥドゥレィの言葉を聞いて、アキは青筋を額に出しながら、低い音色でアキは言う。
『闇森人』の名を聞いて、アクアロイアで起きたことを思い出しつつ、あの時のトラウマのことを思い出してしまったアキは苛立つような音色になりながらグゥドゥレィに向けて銃を向けようとしていた。
それを見ていたダイヤはそんなアキの荒れる感情を鎮めるように、張り上げるような声でアキの名を呼ぶ。
「よせアキ君っ。今は落ち着け。」
「! わ、わかっています。すみません……」
その言葉を聞き、アキは怒りで忘れかけていた自我を再度取り戻しながら、納得がいかない。しかしそれでも自分の行いの浅さを痛感しながらアキは申し訳なさそうに謝る。
ここで感情任せの行動は命をとる選択となってしまう。
つまりは命取り。
ゆえにアキは自分の感情を鎮めてくれたダイヤに対して、素直な感謝を述べながら横目でダイヤのことを見る。
ダイヤはそんなアキのことを見て、納得したかのように頷きながら再度グゥドゥレィのことを見る。
グゥドゥレィはそんな二人のことを見降ろしながら、深い深い溜息を吐きながら彼は言う。
「はぁ……。全く……。お前さんが思い込んでいるような得で、儂が動くと思うか? 儂はそんな小さな得は動かん。たとえ王の命令であっても、儂は動かんよ。それならば儂は部屋で研究の没頭するよ。そのほうが得じゃからな」
「部屋に引きこもった方が得? となると……、お前がここにいる理由、そしてこの戦いに参加する理由は別にあるということだな?」
「そうじゃ」
ダイヤの言葉に頷き、肯定を示唆しながら――グゥドゥレィは『ぬにぃぃぃっ』っと、歪な笑みを浮かべながら彼は言う。己の本心を晒し、アキ達にその本質を晒しながら……、彼は言った。
「儂が得すること……、それは秘器の進化をこの目に収めること、それを記憶して次の糧として引き継ぐことじゃ」
「…………秘器の、進化?」
「――それは要するに……、機械の進化ということか? くだらない。」
そんなこと、ありえない。そんな非科学的なこと、ありえない。
アキの驚きの言葉を塗り潰すように、ダイヤはきっぱりとはっきりした音色でグゥドゥレィに向かって言う。
グゥドゥレィはダイヤのことを見降ろして、「はて?」と言う声を上げながら首の骨を鳴らして首を傾げると、ダイヤはそんなグゥドゥレィのことを見上げながら、言葉の続きを口にする。
「機械は成長などしない。機械は作られた人間の手の技術で決まるものだ。修正も調整も人の手がなければできないものだ。それを成長を見守る親のように言うのはどうかと俺は思うぞ?」
「………………そうじゃ。そうなんじゃ」
ダイヤの言葉に、反論に対してグゥドゥレィは、くつくつと喉を鳴らして秘器の手を『がちゃんがちゃん』と鳴らして拍手をしながら、グゥドゥレィは高揚とした笑みで言う。
その光景を見て、二人は目を見開いて混乱した面持ちでグゥドゥレィのことを見上げながら……、黙ってしまう。
理解ができない。
しかし……、「は?」と言う声が出せないほどの混乱を受けて、二人は未だに「けてけて」と笑うグゥドゥレィのことを見上げる。
黙った状態で、異常なそれを垣間見てしまったかのように、二人はグゥドゥレィのことを見上げる。
グゥドゥレィは「けてけて」と笑い、秘器の手を『がちゃがちゃ』と音を出して叩きながら彼は言った。
手を叩きながら、彼は高揚としたそれで長い長い言葉を口にした。
本当に長い長い……、この戦いに出ている理由を口にして――
「儂は秘器の生みの親。儂は秘器のために生き、秘器のために生涯を終える者。最初こそ秘器の開発を快く思ってなかったよ。帝王の命令であろうと……、意にそぐわないものを作ることはあまりしたくない。それが儂の性分であったが……、今となってはそれが儂の運命と思えてきたんじゃ。秘器を作るにつれて、秘器を作ることを生き甲斐と感じてきたのじゃよ……。いうなれば、親のような目で見ていたんじゃ……。儂が丹精込めて作った秘器が使われ、そしてどんどん成長していく姿を目に収める……。何という幸福な瞬間かと、何度も何度も思ったことか……。だから儂はこの戦いに参加したのじゃよ。儂は人生を終える前に、すべての秘器の進化を、成長を、すべてを記憶に収め……、最高潮を、最期を……、この目で収めて死にたいんじゃよっ! 秘器と言う武器を作った儂の宿命として、運命を見収めたいんじゃよっ! ゆえに儂は、この戦いの場で巻き起こる秘器の姿をこの目で収めたい! ピステリウズやブルフェイスは秘器を使いこなしていないかった。だから負けたんじゃ。だから儂の大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な大切な秘器を……、壊してしまった! 殺してしまったのじゃっ! じゃから儂は今すぐにでも向かわねばならんのじゃ。ドゥビリティラクレイムやセシリティウム、レズバルダの秘器がどれだけ進化しているのか。どれだけ性能が良くなっているのか……、それを確かめるために――儂はこの戦いに参加し、そして……」
長い長い己の願望めいた言葉を、子供のことを思う親のような言葉を綴りながら……、グゥドゥレィはダイヤとアキのことを見降ろす。
ぎろり……っ! と、射殺さんばかりに睨みつけて、壁に深く突き刺していた尻尾の秘器を勢いよく引き抜くグゥドゥレィ。
ずぼり……っ! と引き抜くと同時に、グゥドゥレィは支えを失った己の体を丸くして、尻尾の秘器を『ぶぅんぶぅんっ!』と振り回しながら、彼は重力に従うように落ちていく。落ちながら真下にいるダイヤとアキに向かって攻撃を繰り出す。
先ほどの高揚としたそれが嘘のような、激怒に彩られた表情を浮かべて、グゥドゥレィは叫ぶ。
「――儂のことを邪魔する輩をこの場で即殺してくれよう! 抗うことをしない方が美徳じゃ! 抗うとなると……、痛い目を見るからのぉっっ!」
「うっそ……っ!」
グゥドゥレィの激怒と臨戦態勢を見て、二人は構えを解きかけていたそれを再度構えて、咄嗟に抗う体制をとってしまう。取りながら二人は迫りくる――否、どんどん落ちて……、尻尾の秘器を振り回しながら攻撃の範囲を広げていくグゥドゥレィを見上げながら、二人は攻撃をしようと引き金に指をさし入れる。
勝てる。そう心で念じ、暗示をかけながら……。
◆ ◆
グゥドゥレィは言っていた。彼がこの戦いに参加する理由は秘器の進化をこの目で収めて、後の教訓として記憶したい。それが戦う理由であった。
秘器の進化。
それは人の成長を見守る親のように見たいのだ。秘器の性能、秘器を使う人の使い方を……、秘器のすべてを見たいのだ。
ゆえにグゥドゥレィはアキたちを速攻で倒して、残りの『盾』のところに向かおうとしているのだ。己の作った秘器の性能を見たいがために、彼は本気でアキ達を倒そうとしているのだ。
己のために、秘器のために、秘器を使いこなしているドゥビリティラクレイム、セシリティウム、そしてレズバルダのところに一刻も早く向かおうと、グゥドゥレィは老体でありながらその体に鞭を撃つ。
今現在戦っている三人の誰の元に向かおうかと悩みながら……。
◆ ◆
そして『罪人処刑場』では……。
「――っ!」
「うそ……でしょ……っっ!?」
虎次郎とルビィは、驚きの表情と声を上げながらその光景を目に焼き付けていた。否――焼き付けてしまった。の方が正しい。
ルビィはその光景を愕然とした表情で見上げ、そんなルビィを守るように前に出た虎次郎も、珍しい驚きの表情を浮かべて――目の前に広がるキラキラとした光の雫を見ながら瞳孔を震わせていた。
キラキラと光り、地面に向かって『かしゃかしゃ』と落ちて地面を彩る――否……、地面に落ちて散らばってしまう……、破片。
それを見て、虎次郎は己が持っていた――唯一の得物の姿を見る。
得物――それは虎次郎が持っていた刀であり、もう使えなくなってしまったそれを見て虎次郎は目を疑い、目の前にいるドゥビリティラクレイムを見る。
以前の彼の面影などない……、筋骨隆々のその姿で、地面に散らばってしまっている得物の亡骸の破片を……、ぐしゃり! と踏み潰しながら彼は――
「ウウウウウウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッッ!!」
叫んだ。
叫んで、叫んで、怒号に近いその声量を天に向けて上げるドゥビリティラクレイム。言語など忘れてしまったかのように、本能の赴くがまま彼は叫ぶ。
叫びを聞き、びりびりとくる威圧に屈服されそうになりながら虎次郎とルビィは委縮する。
かろうじて屈服されていない。しかしそれでも委縮してしまう威圧に、負けそうになっている。ルビィはともかくとして、虎次郎は初めて己の弱さを痛感して、そして思った。
――獲物がないだけでこの体たらくか……っ! 情けんっ! 情けんぞ虎次郎っ!
虎次郎は思う。虎次郎は己に叱咤する。
手に握る……、刀身が粉々になって使い物にならなくなってしまった刀の柄をぐっと握りしめながら……。




