PLAY68 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅶ(たとえ弱くても)⑤
「一応作戦として、僕達はこの場所からすぐに出る。もちろん『でましたよー』っていう痕跡を残してその場から出た後、アクアはどこかに隠れて、囮として行動している僕の合図を待ってほしいんだ。僕はその間、相手の両腕を壊そうと思うから、それまで攻撃の準備をして待っててほしい」
「そ、それではノゥマが倒れてしまうのではないか……っ!? そんなことできんぞっ!」
「大丈夫大丈夫。僕はこう見えて生きることに対して執着がすごいんだ。生きることに対しては粘着質と言っても過言ではない。伊達に生と死と隣り合わせのような場所で生きてきたんだ。腕折られても足折られても攻撃の手を緩めることはしないから。それに――相手は気付いていないと思うからね……。僕のこと」
「? そ、それはまさか……」
「そう――僕が女の子ってこと、多分わかっていない。だってボジョレヲやセスタ、レンやアクアカレンが長い間気付かなかったんだもの。きっと誰も僕が女の子ってこと知らないし、気付いていないと思うよ」
「そ、それはそうだが……。っは! まさかノゥマ……っ!?」
「そう。帽子を脱ぎ取って女の子ですーっていう意思表示をして相手を混乱させる。これが本当の脱帽ー。なんてね」
「………冗談で言っているのか? 妾はそのようなことをしたくないぞ。ノゥマは見捨てるような行為……妾はしたくないぞ。それに、もしそれでノゥマがもし、もし……、もしも死んでしまったら……」
「だいじょーぶ。僕って意外と生きることに対しては異常ですので。生きる依存って思っていてよ。アクアの加減が崩れたとしても、その場から逃げる度胸もあるから心配無用だよ。んで……、話を戻すと……。そして相手を怯ませた後で、僕が持っている詠唱を使って破壊してから、アクア――そこからが君の出番だよ」
「ほ、ほぁ……っ?」
「君の詠唱を使って――相手を倒す。これで僕らの勝ちは確定だし、その詠唱でも手加減って言うことができるんだろ? だったらその詠唱を使って、相手を殺さないように攻撃すればいいんだ。攻撃できて手加減訓練できる。一石二鳥だよ。いい?」
「………う、うまくできるかはわからん……。だが、皆が頑張っておるんじゃ。妾も、妾が何もせんとなると、それこそ魔王族の面を汚す……。そして、『12鬼士』の名折れとなってしまう。だから、できる限りのことをしようと思う……っ! よいぞっ! 妾――頑張ってみるぞっ!」
「うん。よろしい」
これは、ブルフェイスが来る前に行ったノゥマとアクアカレンの会話。
会話にして作戦会議。
その時間はさほど経っていないものではあるが、それでもノゥマとアクアカレンは作戦を立てた。
ブルフェイスを倒し、アクアカレンの手加減訓練をして、アクアカレンの自信を取り戻すための、荒療治の作戦。
ノゥマなりの優しさでできた荒い治療にして荒い勝利方法。
ノゥマのことを囮にすることで、それは見事達成された。
己の体力を三分の二削った状態で、ノゥマは詠唱を放ち――相手のことを錯乱、神力を大幅に激減させたと同時に、アクアカレンの自信を取り戻させる必殺の一撃を繰り出すことに成功した。
結果はどうなのかわからない。しかしそれでもわかることはある。
ノゥマとアクアカレンは――ブルフェイスに勝った。それだけは確定した今であった。
◆ ◆
『カ、ガ、ハ、ギィ、ゴガ』
口と両腕の秘器から黒く焦げた煙を出し、八つの流星群を受けてしまったブルフェイスは、かふりと秘器の口から息を零し、ボロボロになった体を支えることができず、意識を失うと共に家屋の屋根に向かって体を傾ける。
膝から落ちて、すぐに屋根に突っ伏して意識を手放す。
その光景を見ていたノゥマは、折れているかもしれない……、否、もう折れているだろう。軋む音と体中を突き刺すような激痛が何よりの証拠だ。
ノゥマはその箇所を手で押さえ、銃を体が痛まないように背負いながら、彼女はブルフェイスに向かって歩みを進める。
そしてノゥマはブルフェイスの首元に近付き、そしてすぐにしゃがんでから――首元にそっと手を添える。
添えて、触れた手に神経を集中させながら、ノゥマはブルフェイスのことをじっと見降ろす。
白目をむいて、ボロボロになってしまったブルフェイスのことを見降ろし、じっと黙ってみるノゥマ。
その光景を見て、ノゥマ達のいるところに風の魔祖を纏って飛んでくるアクアカレンは、ノゥマのことを見降ろし、不安そうな顔を浮かべながらアクアカレンは聞いた。
「ど、どうなった……? どうなってしまったのじゃ……? まさか……、死んでしまったのか……っ!?」
アクアカレンの心配の声を耳に入れながら、ノゥマはその場からそっと手を引いて、屋根に降り立ってノゥマの近くにいたアクアカレンのことを見降ろしながら――
ノゥマはにこっと微笑み――
「うん。生きている。攻撃を受けすぎて死にかけているだけ。でも生きているから大丈夫だよ」
と、安心と言う言葉が出てこないかもしれないような言葉を投げかけて言うノゥマ。
それを聞いたアクアカレンは、言葉を失った顔をして顔中の色素を失いながら、彼女はガタガタと肩を震わせ、今にも泣きそうな顔をしながらノゥマの向かって聞く。
「そ、それはどういう……」
「要するに生きているってこと。かろうじて息をしているし、気を失っているだけだから大丈夫じゃない? ってこと」
「それは安心していいことなのか……? これで本当に良かったのか……? これでは結局」
「ううん。大丈夫だと僕は思うよ」
ノゥマはアクアカレンの言葉を聞いた後で、真っ直ぐな目でアクアカレンのことを見降ろし、首を横に振って否定のそれを示した後で、ノゥマは言う。
これでいいんだ。大丈夫だ。それを知らせるために、ノゥマは言った。
「アクア言っていたよね? 自分は魔祖の扱いがうまくないって。だからシノブシを傷つけてしまったって。魔王族は凄い種族ってことは知っているし、きっとアクアか言うそれは多分だけど、僕達のようなエルフ、人間族だと簡単に一捻りしにしてしまうような力だと思う。簡単に言うと巨人の手に捕まり、そのまま握りつぶされてしまう力のない人間。でも――アクアはブルフェイスを倒した。手加減をして、殺さないように攻撃をした。それってさ……、すごい進歩と思った方がいいんじゃないかな? それはいわゆる巨人が人間のことを握り潰さない。力を緩めることを学んだことと同じだしさ……。これは凄い進歩と思った方がいいんじゃない?」
相手にはすごく申し訳な……、くないかな? だって敵だし。
ノゥマはアクアカレンに向けて笑みを浮かべながら言う。
それを聞いていたアクアカレンはノゥマの言葉を聞いてか、顔の周りにふんわりとしたそれを――安心と少しだけ自信がついたかのような雰囲気を出して、喜びを顔中で表現しながら、アクアカレンはノゥマのことを見上げた。
嬉しい。それが一瞬でもわかる様な顔をして――アクアカレンはノゥマのことを見上げていた。
ノゥマはそれを見ながらアクアカレンの頭に手を置いて、優しく撫でながらこう言った。
「これからも精進だね。僕も、アクアも」
「う、うむ……っ! これからも頑張っていくぞ……っ!」
アクアカレンは嬉しさを噛みしめながら、それを表情に零してアクアカレンは頷く。
その顔を見てノゥマは微笑むが、ノゥマは先ほどの技のことをはたりと思い出し、あの技のことについてノゥマはアクアカレンに向かって聞いた。些細な疑問として聞いた。
「そういえば――さっきの流星群のようなあの攻撃……、あれってアクアの通常詠唱だよね? あれ、かなり強いほうなの? すご勢いだったけど……」
その言葉を聞いたアクアカレンは『はたり』と目を点にし、そして首を傾げながら頭に疑問符を浮かべた瞬間、アクアカレンは首を横に振って――
「違うぞ。あれは妾の詠唱の中でも弱い方で、海王魔王族が使う詠唱でも誰もが使える……、そうじゃのぉ……。異国で言うところの魔導士が『火』を習得するような簡単なものだぞ」
素直に、真っ直ぐに、正直に言うアクアカレン。
まるで小さな女の子が相手に対して正直に言うように、濁りの無い音色で彼女は言ったのだ。それを聞いたノゥマは目を点にし、体中を『カチンッ』と固めながら……。
「マジ?」
と聞き返すと、それに対してアクアカレンは「『まじ』……、と言う言葉はよくわからんが、妾は真の言葉しか言わんぞ!」と、腰に手を当てながら鼻息をふかす。漫画の効果音で言うと『ふんすこっ!』である。
そんな状態で、アクアカレンはノゥマのことを見ながら続けてこう言った。
「もう一度言うが……、先程の詠唱は『魔祖流星群』。妾達海王魔王族は使う中でも一番簡単な詠唱じゃ。広範囲に攻撃でき、八つの八大魔祖の流星を総計八万発撃つことができる技じゃ。本来なら八万だったが、手加減をすることで総計八百に留めるようにしたのじゃ。もしかしたら少ないかもしれんが……、まさか……、あれを特殊と思っていたのか? 妾の特殊詠唱はこのような狭いところで発動してしまえば……、帝国が塵になってしまう可能性もあるからのぉ……。一番被害が少ないこの詠唱にしたのじゃが……、どうした?」
「……そうなんだ」
長い長い説明を聞き、ノゥマは内心引きつりそうなそれを無理に作った笑みでかき消しながらノゥマはそっと倒れているブルフェイスの……、周りにできてしまった穴ぼこになってしまった屋根を見る。
屋根はすでに落とし穴がいくつも出来上がっている状態で、覗き込めば舌が丸見えと言う状態が出来上がっている。
その穴が出来上がっている中央にブルフェイスが倒れているという状態で、更に言うとブルフェイスの致命傷を与えないように、且つ逃げ場所を与えずに攻撃をしたアクアカレン。
つまりは逃げることができない状態で手加減をしつつ、且つ攻撃を与えたということになる。
「? どうしたのじゃ?」
それを知ったノゥマは、そっとアクアカレンのことを振り向き、首を傾げて疑問符を浮かべているアクアカレンのことを見ながら、ノゥマは思った。
――どんな環境で育ったとか、どんな状態で役に立たないと言われたのかは知らない。でも、それでも僕はこう思うよ……。
すっと目を細めて、ノゥマはアクアカレンのことを見ながら思った。思い至った……。
――アクアがいたところは……、きっと相当厳しい環境だったのかもしれない。と……。
魔王族であっても、その環境に厳しいや甘いということがある。
現実の世界と同様の状態、そしてアクアカレンの底知れない力を目の当たりにしたノゥマは……、ブルフェイスに向けた攻撃が通常であったよかったと、少し場違いながら安堵をしたのはノゥマだけが知っている話……。
何がともあれ……、ノゥマとアクアカレンはブルフェイスを倒し、勝利をつかみ取った。
色んなところでどんな激戦が起きているのかはわからない。実況と言う名の報告でしかその情報は知られない。と言うよりも、曖昧過ぎて報告と言えるのかすらも分からない。ゆえにノゥマとアクアカレンは、即座にするべきことを打算した。
「よし――、こいつはこのままにしておこう。今はボジョ達と合流して、それからやるべきことを決めよう」
「そ、そうじゃな……っ! ボジョレオ達ならば大丈夫じゃな! レンも一緒かもしれんしの!」
「そうだといいけど、あとアクア……、ボジョレオじゃなくて、ボジョレヲ。間違えやすいけど『ヲ』が正解だからね」
「あ、そうじゃった……。その名で言うとボジョレヲすごい黒い笑みで怒るからのぉ……」
「こだわりかもしれないね」
ノゥマは気持ちを切り替えつつ立ち上がり、そして帝宮のほうを見なたらノゥマは言う。
それを聞いたアクアカレンはこくこくと首を急かしなく縦に振り、そして拳を振り上げながら意気込むと、それを聞いていたノゥマは呆れた笑みを浮かべてアクアカレンのやんわりと注意を促す。
それを聞いたアクアカレンは、はっと顔を青ざめてうっかりと言わんばかりに口を手で押さえる。ノゥマは冷や汗を流し、脳裏に浮かんだ――思い出された黒い笑みを浮かべて憤怒のそれを笑みで隠しているのに、隠れていないそれで二人のことを見つめている光景を思い出してしまう。
二人は一瞬無言になって、それを一回脳裏からかき消すと同時に、ノゥマがアクアのことを見降ろしながら「それじゃ――行こう」と言って、アクアの力を借りながら地面に降り立ち、みんなが向かっているであろう帝宮に向かって駆け出す。
みんな――その場所に向かっていることを信じて……。
◆ ◆
その頃……。帝国の外。
何故帝国の外に視点をずらしたのか? 簡単な話……、『バトラヴィア・バトルロワイヤル』は中だけで行われているゲームではない。帝国の外でも行われているのだ。
だが……、外の攻防は中で行われているバトルロワイヤルではない。
厳密に言うと――足止めに近いものだった。
そして彼らをバトルロワイヤルの会場でもある帝国に入れてしまうと、甚大な被害な及ぶであろうと思い、Drは急ごしらえの策を練ったのだ。
足止めを引き受けてくれる輩をDrは探した。そして見つけたのだ。
セレネ達と一緒にいるドラゴンを殺せるかもしれない同じ魔獣族にして攻撃力のモルグが高い――ケルベロスの魔獣族……ルシルファルを見つけ、手を組んで――現在に至る。そして……。
◆ ◆
ざざぁ………………っ! と、帝国の外で吹き荒れる砂の風。
それは砂の国に住んでいるものにとってすれば日常茶飯事で、いつものことと言う認識で見過ごされるごく自然な自然現象。冒険者やほかの国の者たちは、それを煙たがるのだが、今回は砂の密度が多い。通常よりも多かったのだ。
砂の風が吹き荒れても、向こうの世界がちらちらと見えていたのだが、今回はそれが全く見えないような砂の風が吹き荒れていた。
その砂の風が吹き荒れたと同時に――
――どすんっっ!
と、辺りに響いた騒音。
そして……。
「「「がぁぁぁぁぁっっっ!」」」
砂の風からばふりと出てきた三つ首の犬の魔獣――ルシルファルは、砂地を駆け回りながら犬特有の呼吸をして『ダダッ!』、『ダダッ!』、『ダダッ!』と走る。走る。走る――!
まるで――何かから逃げている……、否、避けようと動き回っているかのようなジグザグの動きをしながら、ルシルファルは駆け回る。
駆け回って、辺りを三つの首を使って見渡しているルシルファル。
駆け回りながらその警戒だけは怠ることなく――どころか研ぎ澄まされていきながら、ルシルファルは走って辺りを見回す。
――どこだ?
――どこからくるんだ?
――どこからでも来いよ!
互いの脳で別々のことを思い浮かべながらルシルファルは駆け回り、そして――
背後に見える微かな黒い影を視界の端で捉え、ルシルファルはぐるんっと回って、影のことを見据えながら『だだっ!』、『だだっ!』、『だだっ!』と、その陰に向かって駆け出した!
駆け出すと同時に――影の方向から声が聞こえた。声と同時に……、『こぽこぽ』と言う水の音が聞こえる。その音とを発しながら……、影は言った。
『――『水竜斬』ッッ!』
その声と同時に、影の方向から出る『ばしゅっ!』と言う音。その音が発生されたと同時に、砂の風が周りに散布し、その世界を明るい世界に変える。
影の向こうにいたドラゴンの魔獣族――フォスフォがいるということを除けば、その世界は元の普通の世界だった。
フォスフォは翼の羽ばたきで放ったであろう水の斬撃五発を走って向かって来ているルシルファルに向けて繰り出すと、フォスフォは即座に口をがぱりと開けて、そしてその口の前に水の玉を溜めて放つ準備をする。
よくあるドラゴンが吐く炎の玉の水バージョン。
それを見て駆け出しながら、ルシルファルは……、三つの首の口元を、にやりと歪ませながら――ルシルファルは……哄笑した。
「「「あっはははははははははははは! 無駄だっつうの! 無駄だ! 無駄だ! 無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄っっ! むぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっっ!」」」
ルシルファルは三つの首でげらげらと笑いながらフォスフォに向かって駆け出し、そして放たれたフォスフォの攻撃を、何の苦もなく避ける。
ジグザグに、そして軽快なステップで避けながら、ルシルファルはげらげらと笑って確実に、着々とフォスフォに近づいてくる。避けたと同時に砂地に直撃する水の刃。それは砂を濡らし、渇き切ったそれを湿ったそれに変えていき、辺りを濡らしていく。
そんなフォスフォの攻撃を避けながら、ルシルファルはフォスフォがいるところに向かって駆け出す。『だだっ!』、『だだっ!』と――急かしなく四足の足を動かしながらルシルファルは駆け出し、そして――
だんっ! と、フォスフォの近くで跳躍し、三つの鋭い牙が生えている三つ首の口を大きく開けて、フォスフォにその牙を向ける。
「「「――かぁぁっっっ!」」」
犬特有の威嚇の咆哮を上げながら――ルシルファルは三つの首を使ってフォスフォに噛みつこうとしたのだ。
『ッ! ヌゥンッ!』
それを見たフォスフォは、すぐに大きな爪が生えた鉤爪の手を掲げて、迫りくる三つの首――の左右の首根っこを『がしりっ!』、と掴んで、指が食い込むくらいの力を入れながら、フォスフォはルシルファルの動きを止めようとする。
「ぐぎゅぅっっ!? ぐがああああっっっ! 」
「「このぉぉぉぉっっ! いてぇっつうの! 離せ! 離せトカゲモドキッッ!」」
それを受けてしまったルシルファルは、ぎょっと中央の首の目を見開かせて痛みを訴えながら、左右でフォスフォの首の締め付けから逃れようとぶんぶんっと首を振り回しているが、それを振り払われないようにしっかりと掴んで離さないフォスフォ。
『コノママ離サンゾ……ッ!』
フォスフォはその手を離さないことを胸に刻みながら、今目の前にいるルシルファルをどうやって気絶させようか模索していた。
彼自身あまり頭がいい方ではない。強いて言うのであれば――脳筋である。ダンのように後先考えずに突っ込むような戦闘狂ではないが、それでも彼は考えることはあまり得意ではなかった。
考えることが得意なのは――ルビィの方であろう。
ルビィはそう言った戦いの流れを予測して戦うことに関しては最も長けており、頭脳戦の戦いにおいてはルビィの方が圧倒的に強いのだ。
ゆえに、フォスフォはどうするか模索していた。どうしたらこの状況を打破できるか。そしてこの男を気絶に留めることができるのか。ただでさえ相手は本気で自分のことを倒そうと――あわよくば殺そうとしているのだ。
金のために――彼はフォスフォを倒そうとしている。
もしかしたら足止めだけでも報酬がもらえるのかもしれないが、それでも相手はこう思うであろう。追加のそれがあれば、相手はそれをこなそうと必死になるであろう。
追加の報酬がればそれ以上の功績を残して、報酬を得る。きっと彼はそう言った性格の持ち主なのであろう。
そう思ルシルファルのことを分析しながら、フォスフォは思った。
――コノヨウナ小サナ覚悟デ戦ウヨウナ男ニ、負ケルワケニハイカナイ。死ヌワケニハイカナイ。置イテ行クワケニハイカナイ。
――負ケテハイケナイノダ。私ハ負ケルワケニハイカナイノダ。
――アノオ方達ガ遺シタアノ言葉ヲ胸ニ、戦ワナイトイケナンダ。守ラナイトイケナインダ。
――現主君デアル、セレネ様ノタメニ――
そう思いながら、フォスフォは再度目の前にいるであろうルシルファルのことを見て、フォスフォはルシルファルを戦闘不能にしようと、掴み上げていた二つの左右の首を持ち上げようとした瞬間――
ぼぉっっ!
と、両端の視界に広がるメラメラと燃えるそれを見て、フォスフォははっと息を呑んでからすぐに止めようとしたが、すでに遅かった。
その炎はルシルファルが左右の首を使って放った火の玉であるが……、フォスフォはあまり使わない頭で考えすぎたせいで、目の前にいるルシルファルのことを一瞬、ほんの一瞬だけ――目を離してしまった。
それを見ていたルシルファルは、内心それを見て好機と見たのか、彼は拘束されている左右の首を使って、フォスフォの目を盗みながらその攻撃を放ったのだ。
己の世界に入りすぎた。それはフォスフォの失点。
その結果――フォスフォはその左右に放たれた火の玉を受けてしまう結果になってしまったのだ。
フォスフォの防御力が最も弱い箇所にして、最も部位破壊されやすく、ドラゴンにとってすれば壊されてしまえば攻撃手段が大幅に激減してしまう箇所――翼に向かって、その火の玉は放たれ……。
ドゥンッッッ! ドゥンッッッ!
と、フォスフォの両方の翼にその火の玉が直撃してしまう。めらめらと翼を燃料にし、フォスフォの翼を包み込むような火は、フォスフォの体を蝕み、体力を削りながら燃える。
『ガ……ッ! ウゴァ……ッ! グゥッッ!』
フォスフォはそれを受けて、背後の翼を見ながらなんとかその火を消そうと口の前に大きな水の塊を出す。『ゴポゴポ』と水の音を発生させながら、フォスフォは何とかして翼の消火をしようとするが……。
「――グアアァァァッッ!」
『――ッ!』
がぱりと大きな口を開けて、大袈裟な話だが……、フォスフォのことを食べようとしているのかと思うような口を開けて迫ってきたルシルファルを見て、フォスフォは『ハッ』と息を呑み、口に溜めていたその水の玉の狙いを消火から攻撃に転換し、その水の玉をルシルファルに向ける。
だが――ルシルファルはそれでさえも予測していたのか、彼は中央の頭を器用にくねらせ……、フォスフォの驚きを無視しながら、彼はフォスフォの首元に鋭く尖った牙を――深く深くフォスフォの首に突き刺す。
要は――噛み付いたのだ。
がぶりと――引きちぎらんばかりに、ルシルファルはフォスフォの首元に噛みつく。
『グゥ! ガッ!』
フォスフォはその痛みを感じ、翼と首の激痛のせいで、フォスフォは力を入れていたその手を――ルシルファルの左右の首を掴んでいたその手を……、緩めてしまう。
それを感じたルシルファルの左右の頭はその緩みをいち早く察知し、力の限りを使ってフォスフォの手を振り払った後――首元に噛みついている中央の首と同様に、左右の首もそれぞれ大きな口を開けて……。
がぶりと――フォスフォの両腕に向けてその牙を向けたのだ。
ぎりぎりと、噛みしめたまま歯軋りをするように三つ首はフォスフォの両腕と首元に噛みつく。微量の血を流しながらフォスフォは激痛に顔を歪ませていく。
『ゴゥ……、ノォ……ッ! 離レ……、ロォ……ッ!』
苦し紛れの声を出すフォスフォ。
しかしそれを聞いていた三つ首のルシルファルは、三つ首の噛みついている口で、三つ首の目でフォスフォのことを見上げながら……、彼等は言った。
下劣に笑みを浮かべて、欲望と言うそれが浮き彫りになっているそれを見せつけながら彼は……、否――三つの彼はこう言った。
「「「ふぉうふぁな、ふぃまふふふぁなふぇるほ (そうだな、今すぐ離れるよ)」」」
と言った瞬間、ルシルファルはすぐに離れた。
噛み付いていたそれから口を離さずに、肉を引きちぎるように、噛み付いていた左手を喰った状態で――ルシルファルは離れた。
簡潔に言うと――ルシルファルはフォスフォの首と右腕に大きな傷を残し、左腕を部位破壊してフォスフォから距離を置いたのだ。
『――ッッッ!!』
それを受けたフォスフォは大の大人らしく叫びを殺しながら部位破壊された左腕と、そして焦げてしまったが、幸い破壊されていない焦げた両翼の激痛に耐えながら蹲る。
その光景を見ながらルシルファルは三つの首を使って声を揃えながら彼らは――彼はこう言ったのだ。
げらげらとフォスフォのことを見降ろし、嘲笑いながらこう言った。
「「「あっははははははっ! 魔獣族でも最強の分類に入るのに情けねえなぁっ! それでよくここまで生きてこれたなあんた。部位破壊されただけでそこまで痛がるかよっ! でも――これであんたの行動範囲もかなり限定されるな――翼まで壊せなかったのは残念だが……、まぁいいか。だけどこれで攻撃も半減だ。そしてこのままあんたのことを嬲ることだって可能なんだ。悪く思うなよおっさん――これもな、金のためなんだよ。金のために俺はこの仕事を担った。それ相応の働きをして、報酬をいただかないとなぁ」」」
犬特有の唸り声で威嚇をするルシルファル。
それを聞いて、そして威嚇するその光景を見ていたフォスフォはなくなってしまった腕を押さえつけながら焦りを募らせていく……。
――ドウスレバイイ……。ドウスレバ……、コノ状況ヲ……、切リ抜ケラレルンダ……ッ!
ぱたぱたと――砂地を濡らす色のついた液体。激痛が体を蝕み、正常な思考が定まらない中フォスフォはふと……、頭の片隅に置いていた映像を取り出してそれを再生させる。
昔の映像を見ながら――フォスフォは思い出していく。
あの時――拾われた時のことを思い出しながら……。




