表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/830

PLAY68 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅶ(たとえ弱くても)③

「ちょっと――ごめんあそばせっと」


 ノゥマはずささっと急ブレーキをかけながら足を止めて動いた。


 少し上品な言い回しをしながら、彼は掴んでいたアクアカレンのことを――上に放り投げ。


「ほ、ほぁ?」


 と――アクアカレンは突然の光景に、ノゥマの行動に驚きの声を上げ。


『ッ!? カカッ?』


 と――ブルフェイスもノゥマの行動までは想定していなかったのか、ブルフェイスはその光景を見上げながら声を漏らした。


 ぽーんっ。と。


 恐怖と驚き、その顔に更に付け加えられた「え?」と言う理解できないという表情。


 その顔の状態で、アクアカレンはノゥマのことを見降ろしながらその光景を見降ろす。


 さながら何かによって吊り上げられてしまった子供だ。


 その光景を見ず、ノゥマはすぐさま迫り、剛腕の腕を振り下ろそうとしているブルフェイスに向けてノゥマは懐からあるものを取り出した。


 それは――手にすっぽりと納まるほどの大きさの……、瘴輝石。


 小さな瘴輝石で、それを片手に収まるようなそれを二つ手に持ってノゥマは強く握りしめる。


『かちゃ』と言う音と共にノゥマは言った。否――唱えた。


「マナ・ポケット――『レォット』」


 と言った瞬間、ノゥマの手から――瘴輝石が眩く光り出す。するとその瘴輝石から出てきたのは……、一丁の拳銃だった。


 その銃はフォルムは古いそれではあるが、それでも銃を愛するコーフィンがこれを見たら発狂するような回転式の拳銃だった。


 現代ではその銃のことをM一八七三と言う名で呼ばれているが、ここでの呼称は『シンガー』。


 一人でも戦えるというコンセプトでMCOで作られたスナイパー専用武器の……、回転式の拳銃である。


 それを片手に持ち、ノゥマはブルフェイスにそれを向けて、拳銃を持っていない手で肩に背負っていた『フェンリーヌ』を手を伸ばす。背に背負っていたその『フェンリーヌ』に手を伸ばしたノゥマ。


 その光景を見ていたアクアカレンは、目を疑いながらノゥマのことを見降ろして、こう思った。


 ――二丁の銃を使って何とかしようとしているのか? 


 そしてその思考はブルフェイスも同じで、ブルフェイスはその光景を見ながら首を傾げたが、すぐにはっと嘲笑うように鼻で笑いながら、彼は思った。


 ――こいつは正真正銘の愚か者だ。わざわざ二丁拳銃に拘ったのか。と……。


 確かに、二丁の銃さえあれば攻撃の連続はできる。


 しかしそれでも、狙撃に特化した『フェンリーヌ』と拳銃であり玉の数が限られている『シンガー』を両方使うことは不可能と、銃の知識がないブルフェイスでも理解できた。


 何故そう思うのか? それは簡単だ――『フェンリーヌ』が()()()()()()


 ギンロが持っている『デスバード』と比べたら比較的に軽いかもしれない。しかしそれでもノゥマの様な細い腕で、片腕でその『フェンリーヌ』を抱えることは不可能だ。


 だがノゥマはそれを片手で持とうとしている。片手に拳銃を持ったまま、それをうまく抱えようとしている。


 そうブルフェイスは思い、そしてノゥマのことを、真剣な目で己のことを睨みつけているノゥマのことを心底嘲笑いながら、彼はこう思った。


 ――とんだお間抜けだ! この男はとことん間抜けの様だ。


 ――どうせ、この狭い路地裏だから相手は避けないと思っているのだろうが、俺はそんな甘い思考など持ち合わせていない。銃を撃ったところでこの秘器(アーツ)の腕で己を守ればそれでいい。そして守って顔を見せたと同時に――この男に冷気をどっぷりと味合わせてやる。


 ――と思いながら、振り上げていたその手を一瞬の隙にひっこめ、そしてノゥマの攻撃が来るであろう銃の攻撃に備えて、ブルフェイスは剛腕の秘器(アーツ)の腕で体と顔を守る。その腕と手で顔と体を隠すように。


『カカッ! カカカッ!』


 機械質の声で彼はけらりと笑う。


 けらけらと笑いながら、彼はノゥマの攻撃をじっくりと観察しつつ、絶対に壊れない秘器(アーツ)の手で体を守りながら、彼は笑った。


 壊れないように改造を頼んだ『豪傑巨人手(タイタ・パワーダー)』は、ピステリウズのように封魔石など織り込まれていないが、それでも高い防御力を誇っている。


 弾丸など簡単に受け止めてしまうほどの防御力を持っているが故、ブルフェイスはノゥマが放つであろう弾丸を受け止めようとしたのだ。


 受け止めて、ノゥマに絶望を与えようとしたのだ。


 これまでブルフェイスは、色んな反逆者を秘器(アーツ)の手と口で屠ってきた。屠る前に攻撃を弾き返されてしまうという絶望を必ず与えるように、ブルフェイスはいついかなる時でも攻撃の前に防御をするようにしている。


 少しでも絶望を与えるように、少しで相手に希望がいとも簡単に崩れるさまを拝むために――


 ゆえにブルフェイスは内心慌てずにその銃の防御に徹したのだ。


『カカッ』


 ブルフェイスはその秘器(アーツ)の指の間越しにノゥマのことを見ながら、彼は次の一手を予測し、そして攻撃方法を思案する。


 内心邪悪な笑みを浮かべながら、彼は思った。


 ――弾丸の雨を繰り出するつもりだろうが、そんな単調な攻撃で俺を青せると思うな。


 ――俺はこの手で防御しながら、お前の弾切れを待つ。そして弾が切れた瞬間、俺はお前に急接近して、そしてすばしっこい手足ををこの『豪傑巨人手(タイタ・パワーダー)』で握り潰す。へし折る。


 ――それがうまくいかなくても、仲間である魔王族の首根っこを掴んで人質にし、そして相手を揺すった後で絶望に叩き落とす。


 ――最高の予測だ。これで俺はまた王に褒められる。軍団の株も上がる。


 これで――俺のことを認めてくれるに違いない。


 そう思ったブルフェイスは、今まさに撃とうとしているノゥマのことを、秘器(アーツ)の指の間から覗き見る。


 覗き、そして弾切れになったところを見計らおうとして――彼は防御に徹する。希望を打ち砕き、絶望を与えるために、彼はその時を待った。


 そんなブルフェイスの思惑などつゆ知らず――ノゥマは拳銃を持っていない手で『フェンリーヌ』をがしりと掴み、そのまま持ち上げて……。


 ぐぅんっと――その銃を遠い遠い天井に向けて、振り上げたのだ。


 旗揚げのように、ノゥマは『フェンリーヌ』の銃口を手に持って、引き金がある方を上に向けたのだ。


 銃の使い方を無視するように、()()()()()()()()()()、ノゥマは『フェンリーヌ』を構えた。さながら大槌士である。


 ……持っている武器は大槌でもなければトンカチでもない。使い方を間違えている銃なのだが……。


『は?』

「ほあ? これは……?」


 ブルフェイスとアクアカレンは、その光景を見て呆けた声を出してしまった。まぁ誰もがその光景を見たら呆けた声を出して、誰もが『なんでそんな使い方なの? 頭おかしいんじゃないの?』と言う目で見るだろうが、ノゥマはそれを見て、すぐに行動に移した。


 銃口付近をしっかりと持って持ち上げていたノゥマは、その『フェンリーヌ』を持っている手を、ブルフェイスに向けて、一気に振り下ろす。


 ぶんっ! と言う空気を繰るような音と共に、ノゥマはそれを振り下ろしたのだ。その光景を見て再度驚いているブルフェイスに向けて。


 ――ブルフェイスの頭上に向けて、その銃の鈍器を……、鈍撃を繰り出し、そして……。





 ――ごぉんっっっ!





 という、鈍器のような音が路地裏内に響いた。


『アガァッッッ!?』


 なんとも間抜けた声を出して、間の抜けた攻撃と音を聞きながら、ブルフェイスは予想の斜め上の攻撃を、頭のてっぺんで受けてしまったブルフェイス。若干、目に涙を溜めてしまい、白目をむきながらその攻撃を直撃で受けてしまった。


 漫画で描かれるのであればコミカルな描写で描かれるであろう。


 その光景を見ていたアクアカレンの驚いた目をしてその光景を見降ろし、そしてアクアカレンは驚いた目をしてノゥマのことを見ると、ノゥマは衝撃のせいで頭がふらついてしまっているブルフェイスのことを見ながら、ノゥマは冷静で、それでいてにこやかな音色でこう言う。


『フェンリーヌ』をすぐさま背に背負い直して、『シンガー』を向けながら、ノゥマは言った。


「人のことをとことん見下すような目。僕は好きじゃないし、あんたのことを受け入れるなんてことはできなさそうだね」


 と言って、ノゥマは『シンガー』の引き金を、躊躇いもなく引く。


 銃口を――ブルフェイスの口元に秘器に向けながら、ノゥマは銃撃を行った。


 ――ばんっ! ばんっ! ばんっ! ばんっ! ばんっ! ばんっ!


 と、先ほどの鈍器音とは違う乾いた音が路地裏に響き渡った。その音が響き渡ったと同時に……、『ガンガンガンガンガンガンッ!』という、金属特有に反響音が響き渡った。


 その金属特有の反響音は――ブルフェイスの口部分にある秘器(アーツ)に、弾丸すべてが当たった時に出た音だ。ブルフェイスはそれを受けて、ぐらんぐらんっと波のように揺らいでいる頭を抱えることもできず、成す術もなく、されるがままの状態で彼はそれを受けてしまう。


 防御も何もできない状態で、その弾丸を顎で受け止めてしまったブルフェイスは、その弾丸の僅かな威力に気圧されてしまい、背中からどさりと倒れてしまった。


 それを見て、ノゥマは――これで少しは時間を稼げる。そう思いながら下に落ちてくるアクアカレンを拳銃を持っていない手でしっかりと受け止め、そして抱えながらノゥマはブルフェイスのことを見降ろしながら冷静な面持ちでこう言った。


「それじゃ――このまま僕等はこの路地裏を脱出します。足掻きご苦労様」と、先ほどのブルフェイスの罵倒を罵倒で返すように、少し厭味ったらしく言うノゥマ。


 その言葉を言い終わりと同時に、いまだに驚いた面持ちでブルフェイスのことを見降ろしているアクアカレンを抱えて、ノゥマは駆け出した。


 駆け出して、どんどん路地裏の闇に溶けて消えていく……。


 仰向けに、狭い路地裏で大の字になって倒れて……、秘器(アーツ)の手をぴくりと動かしたブルフェイスのことを置いていきながら……、二人は広いところに向かって駆け出す。



 ◆     ◆



 たったったった……。と、ノゥマはアクアカレンを抱えながら狭い路地裏を駆け巡っていた。


 一体何分……、否。最悪何時間かもしれないような時間の中、ノゥマはアクアカレンを抱えた状態でスピードを落とさずに足を急かしなく動かして走っている。


 いつブルフェイスに追いつかれるのかわからない状況の中、ノゥマはその足の速度を落とさずに、一分でも、一秒でも早くブルフェイスから距離を置こうとするノゥマ。


 たまに背後を見て、ブルフェイスが来ていないかを確認していたノゥマは、ノゥマの腕の中で落ち込んでいるのか、無言のまま俯いてしまっているアクアカレンのことを見て、ノゥマは聞いた。


 その言葉は――仲間としてかける心配の声である。


「アクア――大丈夫?」


 アクアカレンは無言のまま俯きを深くして、姿だけでもわかる様な落ち込み方をする。


 その光景を見ながら、ノゥマはアクアカレンのことを見ながら続けてこう聞く。


「ねぇ。一つ聞いてもいい? これは僕なりの素朴な疑問なんだけど、言いたくなかったら無言でいいよ。だからこれは確認。もう一度聞くよ? ねぇ。一つ聞いてもいい?」

「………なんじゃ?」


 ノゥマの言葉に、アクアカレンは俯いたまま返事をした。返事をしてノゥマの言葉に対して続きを行ってくれと言う意思表示をした。


 それを聞いたノゥマは、走る速度を少しばかり落としながら、聞いた。


 きっと長くなるかもしれない会話に備えて、ノゥマは走る速度を落としながらアクアカレンに向かって聞いた。


「なんであの時、アクアカレンはそんな強大な力を持っているのに、その攻撃をあの兵士じゃなくて木箱に向けたの? あの状況なら、敵に向けたらすぐにノックダウンすると思うんだけど……」


 なんで? と、ノゥマは聞く。素朴な疑問として、ノゥマはアクアカレンに提示する。


 それを聞いたアクアカレンは、俯いていた顔を小さな手で覆い隠しながら隠し、その状態で、俯くようにアクアカレンは返答をした。


「……簡単じゃ。妾は加減が苦手なだけじゃ」

「……加減? 手加減的な?」

「……………そうじゃ」


 ノゥマの言葉にアクアカレンはコクリと頭を上下に動かして肯定する。


 そのままアクアカレンは続ける。なぜあの時攻撃をブルフェイスではなく、木箱に向けたのか。それをノゥマの向けて、ぽつり、ぽつりとした口調で話したのだ。


 はたから見れば、アクアカレンの行動は正当なのかもしれない。だがアクアカレンの行動がすべて正しいということにはならない。


 他にもっといい方法があった。他にあのやり方をすればきっとうまくいっていた。


 と言うように、一つの行動次第で未来は簡単に変わる。大きな未来を変えることはできないかもしれないが、それでも小石程度の未来ならばる変えることが可能かもしれない。


 だが――アクアカレンは己が持っている力を人に向けずに、木箱に向けて攻撃を放ったのだ。アクアカレンであれば攻撃するチャンスがあったはずだ。なのにアクアカレンはそれをしなかった。


 その攻撃を防御に転換して、フェイクとして放たれたそれを壊すという無駄な行いをしてしまった。


 そのことについて、アクアカレンはノゥマに抱えられながらこう言った。弱気な音色で言った。


「妾は昔から力の加減が苦手でな……。その加減ができずに、いつも『12鬼士』のみんなの迷惑をかけてしまっていた。火の魔祖を扱うと暴発したり、光の魔祖を使うと光が強すぎて一時的に視界が見えなくなってしまうなど多々あった」

「それ――多分誤爆では済まされなかったよね」

「………………………………いつもいつも……、トリッキーマジシャンやデュラン、あとはクイーンメレブに怒られていた。こっぴどくだ」

「ご愁傷様」


 ノゥマはまだ会ったことがないトリッキーマジシャンとデュラン、そしてクイーンメレブのことを想像しながら、その三人に怒られている姿を想像して、アクアカレンに向けて励ましの言葉をかける。


 そんな噂話をしている間に、エレン達と一緒に行動していたトリッキーマジシャンとショーマ達と一緒に行動していたデュランは風の噂なのかはわからないが、その時一際大きなくしゃみをしたとか、していないとか……。


 閑話休題。


 アクアカレンは続けてこう言う。


「だが――()()()()()()()。これが妾なのじゃからな……」

「……………? 仕方がない? なんで」


 ノゥマは意味深なことを言ったアクアカレンのことを見降ろしながら聞くと、アクアカレンは俯きながら言葉を続ける。


 自分にとってすれば仕方がないことと言い聞かせるような言葉で、アクアカレンは言った。


「妾はこう見えても、『12鬼士』の中でも最弱の鬼士なのじゃ……。しかも一人では何もできず、しかも味方に迷惑をかけることしかできない身だから、妾は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……、()()()()()()()()()()()()()()()()()のじゃ」

「………………出来損ない? 劣等生……? 僕みたいなハイエルフで普通の人よりかは銃の扱いに長けている身ではあるけど、アクアカレンの強さは折り紙付きだと思う。僕みたいなやつが言うとなんだか嫌かもしれないけど……、でもアクアカレンがそんなに弱いなんて思ったことは」

「だが」


 アクアカレンはノゥマの言葉を遮りながら、アクアカレンは言う。


 ぐっと、ノゥマの服を震える手で掴んで、しっかりと離さないように掴んだ後、脳裏に浮かぶ己のことを見降ろしている黒い影のことを思い出しながら――アクアカレンは続けてこう言った。


「妾は歴代の海王魔王族と比べて、そして歴代の『12鬼士』と比べたら、足元にも及ばん存在じゃ。どころか……、妾は歴代の汚れを言われておる。『12鬼士』になった後も魔祖の操作がまともにできん魔王族、『魔祖術』に長けている海王魔王族にとって、それを扱えない存在は妾だけで、そして魔王族の名を汚す存在なのだ。……。歴代の者達は容易く操れたのに……、妾だけは何もできんかった。どころかその操作の誤りで――シノブシの顔を()()()()()()()()()()()()。見ただろう? あのシノブシの顔。あの顔は……、妾のせいでああなってしまったのじゃ。仮面をつける魔王族の仮面を壊した妾のせいで、ああなってしまった……。間一髪へルナイトやユキノヘイが止めてくれたが……、それが相まって、妾は歴代の魔王族や『12鬼士』の面汚しと言われておるのじゃ」


「………………………………………」

「だから妾は……、この力を人に向けないようにしてきた。もちろん被害などない場所に向けていたのじゃ。そうすれば……、妾でも使い道があると言われるかもしれないと思って、必死になっておったのじゃが……、それも、あんな子供だましに引っかかるだなんて……。妾はやはり……、魔王族の――『12鬼士』の面汚し……。役立たずなのじゃ」

 

 ノゥマはアクアカレンの言葉を聞いていた。ただ黙って聞いていた。


 聞きながら、ノゥマはぐっと下唇を噤み、そしてアクアカレンを見ながら、昔のことを思い出す。


 生きることに縋って、何が何でも生きようとしたあの時のことを……。


 ノゥマの記憶にあるのは――ただ荒れている世界。荒れた世界で、荒れている真っ只中で、ノゥマは生まれ、ノゥマは生きるためにできる限りのことをした。生きるために生きてきたので、それ以外のことはあまり覚えていないことが事実だった。


 ただ死にたくないから、生に縋るためにノゥマは生きるために生きてきた。


 回想にするよな鮮明な記憶などない。ただ生きるために必死だった。そのくらい――ノゥマは生きてきた世界は……、人間で言う地獄に近いような場所だった。


 一つの油断が命取りになる様な世界でノゥマは生きて、生きて、生きまくって、生きるために戦ってきた。たとえ人に罵られても、ノゥマは生きてきた。何を言われようと、ノゥマはノゥマとして……。





 ()()は――生きてきた。





 だからこそ、ノゥマはアクアカレンの言葉を聞いて、思った。


 ――役に立たないって言われたから、『仕方がない』で終わらせるなんて、ばかげている。


 ――そんなの、関係ないじゃん。


 そう思ったノゥマは、歩んでいた足を止めて、そして俯いているアクアカレンのことを見降ろしながら、口を開いた。


「…………で? 役立たずだから戦闘に参加しないって言いたいの?」

「ほぁ? い、いや……」


 アクアカレンはもにょもにょと口元をしどろもどろに動かし、なぜなのかはわからないが、怒っているノゥマのことを見ずに……、アクアカレンは弱気な音色で言う。


「そ、そうとは……、言ってお」

「でも――アクアは言ったよね? 仕方がないって。自分がこうなのは仕方がないって言ったよね? それって……、『自分はこんなにも役立たずで、変わることなんてできないから仕方がない』って言っているのと同じなんだよ? 自分は変われないって決めつけているから、仕方ないって言う言葉で変わることを諦めているだけじゃん」


 ノゥマの言葉を聞いたアクアカレンは、まるで叱られてしまった子供のように俯き、無言になってしょんぼりと項垂れてしまう。


 だが――ノゥマはそんなアクアカレンに追い打ちをかけるように、続けてこう言った。


「アクア……、覚えている? あの兵士と初めて相対して、そして最初の攻撃を仕掛けたときのこと」

「…………………………………」

「あの時、アクアは火の玉を消そうとしていたかもしれないけど、加減なんてできなかったら僕にも被害が飛んでいたよね? そして兵士の人も氷漬けになっていたかもしれない。けど……、僕はぴんぴんしている。兵士も氷漬けにならなかった」

「………………………………」

「分かる? アクアあの時――無意識だけど制御できていた。僕が言うのもなんだけど、それでもアクアは制御できていると思うよ。そして――『仕方がない。だから自分は無理なんだ。役立たずなんだ』で片付けないでさ、少し前に出て戦って見たらいいんじゃないかな? 少し自分の心を強く持って戦えば、きっと制御だってできる。心が弱くても、気合で強く固めたら、それが普通になる」


 そう僕は思うよ。


 その言葉を聞いたアクアカレンは、俯いたまま何も言わない。先ほどから無言のまま俯いているだけだった。その光景を見ていたノゥマは、内心言い過ぎたかなと思ったが、すぐに首を横に振り、そしてノゥマはアクアカレンのことを見降ろす。


 ――でも、これでいいと思う。


 ――ずっと悲観的に考えても成長なんてできない。生きることに縋ってきた僕だからこそ言えるけど、一瞬でもやめようかなとかそんなことを思って、油断して命がいくつあっても足りない状況に陥ったことだってあった。


 ――結局、人間は強く意思を持たないといけないだと、僕は思っている。


 ――だから僕はここまで生きてきた。今も生きて、そしてこの世界に閉じ込められても、僕は諦める気なんてさらさらない。


 ――むしろ生き残ってこの世界から出てやるって意思でここにいる。


 ――生き残って、僕に声を掛けてくれたレンや、ボジョやセスタのために戦おうと思っている。


 死なせないために、僕はここで死ぬわけには、これからも死ぬわけにはいかない。


 そう思いながら、ノゥマはぐっと顎を引いて、気を引き締める。


 仕方がないから制御することを諦めていたアクアカレンとは違い、ずっと蔑まれて生きてきたアクアカレンとは違い、ノゥマはただただ生きるために、みんなと一緒に生きるために、諦めずにここまで頑張って生きてきた。


 復讐でも何でもない。ただノゥマは――生きてきた。


 生きることに、普通に生きるために、ノゥマは戦い、生きる。


 それは――過去も、未来も、今でも変わらない意思。


「………………。あ」


 ノゥマは辺りに広がる狭い道の路地裏を見回して、そして上を見上げた瞬間、ノゥマは声を漏らした。


 その漏らし方はまるで――そう言えばそうだった。と言うような、見落としてしまったかのような音色で、ノゥマはアクアカレンのことを呼びながら上を見上げていた。


 その声を聞いていたアクアカレンは首を傾げながらノゥマのことを見上げると、ノゥマの視線に首を傾げて真似をするように上を見上げると、アクアカレンも声を漏らしてその方向を見上げた。


 見上げた方向を上で、そしてその上には――何もない天井。路地裏の壁で気が付かなかったが、この路地裏の壁は所詮は()()()()


 ビルのように永遠に続く建物はない世界なので、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。というかできる。


「………今まで追われていたから、気が付かなかったな」


 ノゥマはその光景を見て呆れた目で見上げながら常に逃げ道があった上を見上げる。


 そう――逃げ道は通路の出口だけではない。普通に壁を伝って上って行けばすぐに出られたのだ。


 ブルフェイスから逃げることに必死になっていたのか、それがすっぽりと頭から抜け落ちていたのだ。


 アクアカレンも呆気にとられたかのような目をして、少しだけ恥ずかしそうに顔を押さえつけながら俯きを深くしてしまう。飛ばされていた時に見たのだろうと思いながらアクアカレンは顔を手で覆い隠す。


 手で微かに隠れていない頬が赤くなっているが、それを見ていないノゥマはその上を見上げ、アクアカレンのことを見降ろしながら彼女の名を呼ぶ。


 アクアカレンはそっと中指と薬指の間を開けてノゥマのことを見ると、ノゥマはアクアカレンに向かっていつもの冷静な顔で彼女は言う。



 これは――提案だ。



「アクア――ちょっと考えがあるんだけど、()()()()()()()()()()――()()?」

「ほあ?」


 その言葉を聞いたアクアカレンは首を傾げて、素っ頓狂な声を上げながらアクアカレンはノゥマのことを見上げた。


 ()()()()()()()を目論んでいるノゥマのことを見上げながら……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ