PLAY66 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅴ(強き者達)⑥
リンドー、ガザドラ、ギンロがカカララマの要求を呑み、地下にある秘器製造工場の破壊を心に決めていたその頃……。
地下はとてつもない破壊に満ち溢れていた。
とてつもない破壊。
それは言葉で表すと可愛いものではある。だがその場にいたら誰もがこう思うであろう……。
この場所にいたら確実に死に至ってしまう。
と……、誰もがそう思うであろう。
一言で言うと、地上の方がまだ優しかった。
それが事実であり真実なのである。
『バトラヴィア・バトルロワイヤル』が始まってからたったの三十分ほど。
それしか時間は経っていないが、それでも戦況はどんどん過熱し、時間でさえも忘れてしまいそうなほど白熱していた。
それは地上だけではない。奴隷区の者達が働いている場所でも白熱が伝播していた。
地下に広がる奴隷区の最も広く、豆電球でしか明かりを灯していない奴隷区の食事場所。通称『地べた食堂』に案内されたヘルナイトは今現在二人の死霊族を相手に――
圧倒していたのだ。
だがぁんっっっ! と――地下から聞こえてくる轟音に近い破壊音。
ガラガラと崩れる音と立ち込める土煙を掻い潜りながら……、二人の死霊族はその煙から這い出てくるように飛び出し、二人は土煙で見えないその空間を振り向いて、ぞっと顔を青ざめていた。
「「っ!」」
二人の死霊族は、顔を青ざめながらその光景を見ていた。
互いの顔が瓜二つで、黒いボブカットの髪に左目に大きな白い瘴輝石をつけている眼帯をつけた……、服に縫い付けた大量の瘴輝石を煌びやかに装飾し、ブレスレットやアンクレットにも瘴輝石をつけている、踊り子のような露出が高い服を着て手を繋ぎ、お互いのことを強く信頼しているのか、その二人――スピカとカスピは、同じことをずっと思いながらその場から逃げようとしていた。
己の命欲しさに死にたくないと……、死体の体を借りている身でありながら双子は思っていた。
死にたくないと。そう思って逃げていた。
――早くしないとだめだ! 早く逃げないと!
――早くしないとだめだ! 早く逃げないと!
双子だからなのか、言葉の揃えも同じであったが、二人の場合は心の声を盛ろっていた。
双子であるが故なのか……、はたまたは、偶然かもしれない。二人が同じことを思って逃げているのかもしれないが、この状況だ。誰だって一目散に逃げて戦いを放棄してしまうであろう。
「「っっ!」」
双子の死霊族――スピカとカスピは背後を見て、青くしていたその顔をさらに青くさせながら……、ゆらりと揺らめく土煙の波を見る。
ゆらり、ゆらりと土煙から黒い何かが這い出てこようと……、否。急速な勢いで土煙から出ようとしている人物が、スピカとカスピに向かって走ってきていた。
長い何かを手に持ち、金属音を出しながらそれは迫ってくる。
その光景を目にし、そして二人は同時にその光景を見て、畏怖を感じながら――二人は声を震わせ、叫ぶ。
「「なんで、なんで………っ!」」
二人はぶるぶると声を、顔を、目を、体を震わせ、その体全体で恐怖を体現しながら、土煙の向こうを――土煙に出来た人の形をした……、否。
鎧を着た人の形をした影を見つめながら、二人は言葉を発する。
正直、もう声など発せられないような恐怖を中てられて、逃げたいという意思と死にたくないという恐怖のせいで思考が滅茶苦茶になってしまっているが、それでも二人は思った。そして確信した。
自分達は戦う相手を間違えてしまった。侮っていた。そして……。
私達では、絶対に勝てない。と……。
そう思った瞬間――土煙の揺らめきが大きく変動し、そしてそれと連動して影がどんどん大きくなり、輪郭が鮮明になる。更にスピカとカスピ達に向かって迫りくる大きな足音も聞こえてきた。
ダダダダダダダダダダダダダダダッッ! と、どんどん加速しながら二人に近づいてくる大きな足音。固い地面に罅を入れて、そしてそのまま地面を見り上げて削り取ってしまう。
それくらい、土煙の中にいた人物は本気で二人のことを倒そうとして、そして、一秒でも、コンマ一秒でも早く――あの子の元に行かないといけないと、奮起していた。
躍起になっていた。でも正しい。
何せ――約束したのだから……。
その子のことを思い出し、そして約束を守るために、その人物は大剣を片手に猛進する。スピカとカスピを倒すために――
『12鬼士』が一人にして団長でもあり、『地獄の武神』と言われ、ハンナ達プレイヤーからは『最強の鬼神』と言われて恐れられている最強の鬼士……。
ヘルナイトはスピカとカスピに向かって駆け出した。
カイルやリョクシュの時に見せた、静かな怒りを膨張させて、相手を己が発した圧だけで殺してしまいそうなそれを出しながら、彼は駆け出していた。
まさに――鬼神と言われてもおかしくないような威圧だ。
「「――ひぃっっっ!」」
二人はそれを見て、ぞくりと背筋をは異常な寒気を感じ、全身の血が凍り付いてしまったかのような恐怖を感じながら、二人は同時に言葉を発しようと口を開き、そしてお互いの手を握りしめていたその手を迫りくるヘルナイトに仕向けながら――二人は叫ぶ。
その手の中に予め包んでいた――黄色い瘴輝石を向けながら、二人は声を揃えて叫んだ。
「「こ、こっちに来るなぁっっっ! マナ・イグニッション――『電光斧』っッ!」」
叫ぶと同時に、二人は握っていた瘴輝石を強く握りしめる。ぐっと、罅が割れるのではないのかと言うくらい、二人はそれを強く握りしめる。
握りしめたと同時に――その石から黄色い眩い光が、暗い地下の世界を明るく照らし、二人の握った手の前に電気で作られた大きな斧を作り上げていく。
「「はぁっっ! とりゃぁ!」」
バリバリと音を立てながら、二人は瘴輝石を掴んでいる手をぐぃっと上に振り上げる。二人同時にその手を振り上げて――一気に下に振り下ろした。声を上げながら二人は振り下ろした。
まるで――両手の拳で相手の胴体を叩きつけるように、二人は左右の手でお互いの手を握りながらそれをしたのだ。
その動きと連動されているのか、電気でできた斧も二人の動きに合わせるように、上に向かって振り上げたと同時に、迫り来るヘルナイトに向かって、勢いに任せるように刃を振り下ろしたのだ。
空中で、誰も持っていない中――二人の動きに合わせるようにして電気の斧は振り下ろされる。
ごぉっと吹き荒れる風と土煙、そして頭上に迫りくる電気の斧。喰らえばひとたまりもないだろう。
だがそれでも、ヘルナイトは加速をやめない。
むしろその頭上を見上げながら、ヘルナイトは反撃をしようと大剣を握る手に力を入れている。
その光景を見ながら――二人は思っていた。否――始まった瞬間のことを思い出し、そして、死体であるにも関わらず、二人はあまりの驚愕に心が折れそうになった。
◆ ◆
その時の回想を簡単に説明をすると――始まった瞬間、二人はイグニッションクラスの『聖なる両刃斬』をヘルナイトに向けて放った。
回転しながら迫りくるその両刃剣。それを見ながら二人は内心ほくそ笑みながら、二人はこの勝負の勝ちを確信していた。
まだ勝負が決したわけではないが、それでも二人は勝利を得たかのような笑みを浮かべて――このようなことを思っていた。
二人同時にこのようなことを思っていた。
――光属性相手にどう対処するのかしら? あなたの得意な属性は知っている。あなたの属性は『闇』の魔祖。つまりはそれを対をなす『光』の魔祖に弱いことをさしますわ。
――クロズクメ様から聞いています。耐性があまりないだけだと。
――であれば、その『光』の耐性が壊れてしまうような強力な光属性を放ち、そして一瞬にひるみがあればこっちのものですわ。
――怯んだ隙にカスピが持っているエクリションクラスの瘴輝石……『光遮蔽』を打ち付けて、その後でじっくりと攻撃をしていけば、いくら最強であろうと木っ端微塵ですわ。
――いくら魔王族であろうと、頭を使えばイチコロですわよ。
――クロズクメ様やエディレスは驕っていただけ。特にエディレスがそうですわ。私達はそんなおごりも何もしない。全力を尽くしてこの魔王族の鬼士を倒す。いいえ――殺しますわ。
――すべては……、死霊の王……、アルタイル様のために……。
と思いながら二人は忠義と新愛を込めてヘルナイトを見る。
この場で首を土産にしようと目論み、アルタイルへの献上品として差し出そうと攻撃を繰り出していた。
ギュルギュルギュルッッッ!
と、回転をかけながら回りだす光の両刃剣。
それを見ていたヘルナイトは、ただじっと大剣を構え――ることもせずに、チャクラムのように回転している両刃剣を見ながら立っていた。
攻撃の態勢も、防御の態勢もせずに、彼はじっとその場で、仁王立ちになっていた。
その姿を見ていたスピカとカスピは、一瞬目を点にして驚いていたが、すぐに彼女達は理解した。
――あぁ、やっぱり防げないと思って、諦めたのか。と……。その光景を見て、未だに折れていないヘルナイトのことを見ながら、双子の死霊族は言う。けらけらと笑いながら、同じ声で、同じ笑い方で、そして同じ言葉を吐く。
「「あはははははははっっ! やはりあなたのような武神でも、苦手の属性を前にしたら怖気づいてしまいますのねっ! そんなに怖いのでしたら一瞬で終わらせてあげますわっ! 首元を晒しておきなさいなっ! それであなたの出番は終わりっ! そしてこの世界はより私達が住みやすい環境に変わっていく……、アルタイル様やほかの死霊族のみんなが住みやすい環境になりますの! すべてはアルタイル様のために! そう! 愛しきあのお方のために!」
二人はかすかに赤く染まる顔で高らかに叫ぶ。
二人の感情から察するに、二人はアルタイルのためであればどんなことをしてもいいという感情で動いているのだろう。
絶対忠誠。そしてその中に入り混じる恋情。
どちらも引けを取らないような感情ではあるが、それはアルタイルと言う男に対し手にしか発揮できない。ゆえに二人は負けるわけにはいかないのだ。
王であるアルタイルのために、王の喜ぶ顔を見るために、二人は繰り出すその光の両刃剣を回転させながらヘルナイトに向ける。しっかりと――首元を切断する様に、それを仕向ける二人。
ギュルギュルと回りながら、少しずつヘルナイトの首に向かって飛んでくる。
誰もがその光景を見たら終わりと思ってしまうだろう。それはスピカもカスピも同じで、そしてそのままヘルナイトを亡き者にできると確信していた。
高揚とした笑みで、彼女達は思っていた。
が――
「終わりか?」
ヘルナイトは小さく、凛としているが怒りが勝っているその音色で、ヘルナイトは大剣を持っていない手を前に――首の前でその手平を向けながら彼は静かに言う。
迫りくるその光の刃を掴もうと、ヘルナイトは手を伸ばして言ったのだ。
「「っっ!? うぅぅぅぅぅぅっっ!」」
その光景を見ていた二人は、驚いた顔をしてヘルナイトを見たが、すぐに首を横に振って (二人同時に) 二人はその行動をハッタリと見て、彼女達は手に持っている瘴輝石の力を強めるために、強く握りしめながら攻撃を繰り出す。
握ったと同時に、光の両刃剣は回る速度を速めながらヘルナイトに迫っていく。
加速した状況でも、ヘルナイトはそれを見て、そして逃げることも、隠れることをせずに、彼は言う。凛とした音色で――彼は言った。
「終わりなのか。ならば――」
と言った瞬間、彼の指先に、光の刃が迫り、そしてヘルナイトの指を切断しようとした――
が……………。
――がっっっ!
と、何かが止まる音が地下内に木霊し、二人はヘルナイトを見た瞬間、光の刃を見た瞬間……、スピカとカスピは言葉を失ってしまった。
絶句しながら、その光景を見てしまった。
状況を簡単に説明すると……。
首どころか、指の先に触れた瞬間……、光の刃はその進行を突然止めてしまった。
光の両刃剣は消えていない、が――回転をやめた状態で、ヘルナイトの首の前……、否、首の前に突き出されたヘルナイトの人差し指と中指、親指がその進行を阻害していた。
簡単に言うと――その刃をたった三本の指で、止めていたのだ。
その光景を見ていたスピカとカスピは、先ほどまで見せていた余裕のそれを洗い落とし、ヘルナイトのことを見ながら彼女達は混乱の渦に呑まれていく。
光属性が弱い――耐性がないヘルナイトだが、そんな彼が光属性の攻撃を――ましてやたった指三本で止めてしまったのだ。
「っっ!?」絶句する双子。
青ざめながら止めているヘルナイトを見て、そしてぐっと瘴輝石を握る力を強めながら、その光の刃を動かそうとする。しかし……、光の両刃剣はびくともしない。ピクリとも動かない。
そんな状況を見て、どんどん焦りが募って行く中――ヘルナイトはそんな二人に焦りの種をばらまくように、彼は凛とした音色で――低くこう言った。
「…………これで、終わりなのか? ………………ならば、このまま速攻で終わらせる」
私は今――余裕がないんだ。
ヘルナイトは光の刃を止めた三本の指に――ぐっと力を入れる。止めていたその指に、さらに力を入れていく。
『ビキビキッ!』と、『ぴしぴし』と、光の刃に大きな亀裂を入れていくその光景を見て、二人はひゅっと冷たい汗と込み上げてくる恐怖を体で感じ、突然来た恐怖に驚いている隙に――ヘルナイトは……。
――バギィンッッッ!!
と、その光の刃を絶った三本の指で、いとも簡単に破壊してしまう。
「「あ、ああ………、な、そんな……っ! イ、イグイッションクラスの……瘴輝石の力を……、そんな三本の指で……っ!? あ、ありえませんわ……っ!」」
スピカとカスピはそれを見て、いとも簡単に光の刃を光の粒子の変えて、その刃が消える光景を見降ろしながら、ヘルナイトは圧を込めた目で二人のことを見る。
そして……。ずしゃりっ! と、歩みを進めながら、ヘルナイトは大剣を手に持って、ヘルナイトは静かな音色で、怯える二人のことを見ながら……、ガタガタと震えている二人のことを見ながら――ヘルナイトは内心申し訳ないと思いつつ、彼は言う。
内心――怖がらせてしまった二人に謝罪の言葉を投げかけながら、彼は言う。
「……言っただろう……? 余裕がないと。そして私は、急いでいる。すまないが――貴様たちの出番を終わらせよう」
ヘルナイトは一気に終わらせようと、ダっと――怯えて逃げようとしている二人に向かって駆け出した。
◆ ◆
そして――最初の場面に戻るということである。
その最中、スピカとカスピは逃げながら瘴輝石の攻撃を繰り出していた。
マナ・イグニッション――『散弾雨』
マナ・イグニッション――『氷結ノ鎌』
マナ・イグニッション――『風斬連撃』
そして『電光斧』
どれもイグニッションクラスのそれではあった。しかしヘルナイトはそれを、何も纏っていないただの大剣で薙いでかき消してしまったのだ。
もちろん――最後に放たれた『電光斧』もヘルナイトの大剣一振りでいとも簡単に破壊されてしまった。
「「――っっっっっ!」」
二人は委縮していた。畏怖を感じていた。
ヘルナイトという魔王に対して、二人は恐怖を植え付けられてしまった。止められたことがきっかけとなり、二人は少しずつ、少しずつ、知っていく。
距離をどんどん詰められながら、二人は背後にいる大剣を持った魔王に対して――二人は思っていた。同じことを思いながら、二人は必死になって逃げる。
――この男は……っ! 危険だ! 見誤っていた云々じゃないっ! 戦うことすら無駄なことだったんだ! 戦うということが無謀だった!
――勝てると思っていたことが驕っていたんだ! こいつは二つ名にふさわしいそれを持っている……っ!
――こいつに敵う奴なんて……、いないのかもしれない……。アルタイル様でも勝てないんじゃ……っ!
そう思った瞬間――走って二人に追い着こうとしているヘルナイトは、大剣を持っていない手をそっと前に掲げながら、彼は凛とした音色で――
「――『亡者蜘蛛の糸』」
と言った瞬間、足元から『ぞぞぞぞぞっ』とうねる黒い糸が彼女達の足元に出てきて、そのまま彼女達の体を拘束する。
ガーネットの影を拘束したように、ガザドラを拘束したように、今度はスピカとカスピの体を、手足を、掌と指を拘束する。
逃げれないように、そして攻撃する手段を与えないように――ヘルナイトは詠唱を放ったのだ。
「「え? やだ……っ! こんなことって……っ!」」
二人は驚きながら体中に拘束されている黒い糸を見て、慌てながらそれをほどこうとするが、びくともしない。
そんな二人の背後を見て、ヘルナイトは追うことをやめて足を止めながら、彼は思った。
――本当は、こんなことはしたくない。このような不意打ちは、鬼士としてしていいことではない。
――だが、死霊族はこの地を壊した……。あのお方が大切に守ってきたこの地を壊した……。
――許されることではない。だから、ここで倒さないといけないんだ。
そう思いながら、ヘルナイトは大剣を前に掲げながら、彼は小さく言葉を発する。
「――『影剣』」
その言葉と共に、ヘルナイトが持っていた大剣が二重になり、掌に黒い大剣が手に収まる。
そしてその二本の大剣をもう一度右手に持ち替えて、左手を空に掲げながら、彼は光る弓をバシュッと出した後――どんどん光を纏っていく二本の大剣を光る弓に装填しながら、彼は思う。
弱く、そして今にも崩れて泣き出してしまいそうな小さな背中を思い出しながら、彼は思った。
――すまない。約束を破ってしまい。
――すまない。一人にさせないと約束したのに、一人に……、させてしまった。
――すぐに行けなかったことを、許してほしい。
――すぐに君の元に行けなかったことを、許してほしい。
――もう君を、悲しませないと、君を守ると誓ったのに……、一人にさせてしまい、本当にすまない。
そう心の中で謝罪をしながら、ヘルナイトは光る大剣二本を装填し、そして光る弦をしならせながら、彼はその大剣の先を死霊族の二人の――胴体に向けて、彼は思う。
あの時――ユワコクで、蜥蜴人の里で泣いていた少女……、ハンナのことを思い出しながら、彼は誓う。
――今度は、君の傍にいる。
――君のことを守るために、私は君の鬼士になろう。
――アズールを守る鬼士として、君の愛する者達を守る鬼士として、そして……。
君を守る鬼士として。
「――『煌燐』」
ヘルナイトは二本の大剣の柄をそっと離し、その二本の大剣を矢のように――スピカとカスピの胴体に向けて、『――バシュゥッッ!』と放つ!
しなる音と放たれる音を聞いて、動けない身体で必死になりながらスピカとカスピ首だけでその音がした背後を振り向く。そして目の前に迫り来る光る大剣の矢を見た瞬間、二人は絶句する声を上げながら……。
その光る大剣の矢に成す術もなく、体を貫通されて、ランディのように上半身と下半身に分かれてしまい、二人はそれを感じて、そして衝撃を受けた腹部を見ながら、二人は呆けた声を出す。
ヘルナイトはすぐに戻ってきた大剣を手に持って、開いた手で指を『パチンッ』と鳴らす。
すると――二人の体を拘束していた黒い糸が闇の溶けて消えていき、そして支えていた二人の体を地面に落とす。
どさっ! どさっ!
「「あぅっっ!」」
上半身だけとなってしまったスピカとカスピは、そのまま地面に突っ伏して倒れこんでしまうが、下半身だけはそのまま力なく前の向かって『とさり』と倒れてしまう。
二人はその光景を見て、そしてヘルナイトのことを見るために振り向きながら絶望の顔を浮かべてがくがくと体を震わせる。
涙や鼻水は出ていないが、それでもヘルナイトは察した。
もう――この二人に戦う意思は残っていない。完全に戦意がない状態だ。
そう思いながらヘルナイトは一本となった大剣を背に戻し、彼は成す術もなく負けてしまったスピカとカスピに向かって、しかし二人に対しての言葉ではない言葉を小さく呟く。
今はここにはいない。そして一人で戦っているであろう――彼が守りたいと思っている少女に向かって、彼は心の声と同時にこう言ったのだ。
「あともう少し、待っててくれ……。ハンナ。これが終わり次第……、すぐに君の元に向かう」
――もう後悔はしたくない。
――もう失いたくないんだ。
――大切なものを、守るべきものを失いたくない。
――だから今度は、守る。私は『12鬼士』だ。
――アズールを守る鬼士として、サリアフィア様を守る鬼士として、そして……、
――ハンナ、君のことを守る鬼士としてすぐに向かう。
――だから、あと少しだけ耐えてくれ。
そう思いながら彼は歩みを進める。
もう戦う意思がないスピカとカスピの体の中にあるであろう――『屍魂』の瘴輝石を探そうと歩みを進めようとした。その時だった。
「――やれやれ。結局使えないやつだったか」
「――っ!?」
誰かの声が地下内によく響いた。




