PLAY66 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅴ(強き者達)⑤
「ええええっ!? 前帝お」
リンドーが驚いた声を上げ、老婆――前帝王にして現在は『癒し』の魔女であるエルフの老婆……、カカララマに向けて指をさして大声で言おうとした瞬間……。
がつんっっ! と、リンドーの顔面に白くて大きな木の杖が迫り、めり込むように打ちつけられてしまった。
それを受けてしまったリンドーは「ふぎゅっっ!」と言う声を上げ、それ以上の言葉を紡ぐことができなくなってしまった。
否――許そうとしなかった。の方が正しい。
頭を抱えながらリンドーは唸って屈み、肩を震わせて痛みに耐えていると、そんなリンドーの頭に追い打ちをかけるようにカカララマは白い木の杖をリンドーの頭に向けて『ごんごんっ!』と殴りつけていく。
かなり強めに殴りながら、彼女は小さな体ではあるが、前帝王の威厳を保った胸を張った顔で言う。注意をするように――
「大きな声で儂の名を呼ぶ出ないわ馬鹿たれっ! 儂はもうこの世にいないような存在になっておるんじゃぃ! こんなおんぼろの家に隠れ住んでおるんじゃ。理解できんのか? その脳味噌に皺などないつるつるのそれなのかいっ?」
えぇ?
そう言いながらカカララマはリンドーの頭を『ごんごんっ』と、『がんがんっ』と殴りながら強めの言葉をかける。
それを聞きながらリンドーは顔と頭に来る激痛に耐えながら無言を徹した。と言うよりも痛みのせいで言葉を発せられない。これが事実である。
話を聞いていたガザドラは腕を組み、そして驚いた目をしてカカララマのことを見降ろしながら――
「この世にいない………? それは一体どういうことなのだ? 現にき……っ! あ、あなた様は」
と言いながら、ガザドラはカカララマのことを見降ろしながら聞くと、彼女は小さい体ながら鬼のように睨みを利かせながらガザドラのことを見て、すぐに彼に向けて白い木の杖を突きつける。
リンドーの殴りを一旦やめてから、彼女はその杖をまるで剣のように突きつけたのだ。同じ魔女でもあるガザドラに向けて、彼女は射殺すような目で突き付けた。
ずぃっと突き付けられたガザドラは、驚いて後ろに一歩足を動かしながらカカララマのことを見降ろし、その威圧に気圧されながら彼はカカララマのことを見降ろす。
年齢的にも実力的にも、ガザドラの方が上のはず。攻撃の面でもガザドラの方が強いのだが、それでも彼は気圧されてしまった。
単純に、その威圧に負けてしまったのだ。
カカララマはそんなガザドラのことをじっと見つめ、そして杖の先でガザドラの顎をとんとんっと突き、彼女は鼻で笑いながらこう言った。
「なんじゃ。そんなけったいな翼をもっているのに、こんな老いぼれ一人に気圧されてしまうのか。青い青い。そんなんで『六芒星』の幹部が務まったわい。蜥蜴竜族のガザドラ。ボロボのディドルイレスの手によって人生を狂わされた哀れな飛べない竜よ」
「っ! な……、なぜそれを……っ!」
ガザドラはカカララマの言葉を聞いて、目を見開きながら詰め寄ろうとした時、それを見ていたレズバルダは彼とカカララマの間に割り込み、詰め寄ろうとしたガザドラに向かって、彼は涼しい……、ではなく、冷淡な目でガザドラのことを睨みつけながらこう言ってきた。
「今はそのことを聞く時間などありません。そして聞いたでしょう? このお方はすでにこの世にいない存在となっている。今ここで公にされてはいけないのです」
「っ! どういう……」
「今はここでは話せません」
レズバルダはボロボロの家屋の方を見つめながら、彼はガザドラと頭を抱えて泣きそうになっているリンドーのことを見ながらこう言う。
傍らにいるカカララマの脇に手を差し入れ、小さな子供を抱えるようにしてから、彼は言った。
「今は理由を言う前に入ってください。詳細はこの家屋でお話をします」
そう言って、レズバルダはカカララマを抱えて家屋の中に入って行く。
「……………………………………」
「うぅ…………、あんなに殴らなくてもいいのに……。と言うかあのおばあさん」
リンドーは頭を抱えて涙目になりながらガザドラのことを見上げると、彼は少しだけ疑念を抱いたような音色でガザドラに聞いた。
まだ激痛が伴っている頭を抱えながら、彼は聞く。
「あのおばあさんはいったい何者なんでしょうか……。なんでぼくたちのことを助けて、そしてこんなところに連れてきて、更には話したいことがあるって……。何がどうなっているのか全然展開が予測できませんよ……」
「………………………吾輩も混乱している。そもそもあの者は本当に……っと」
ガザドラは口を滑らせそうになった単語を一回飲み込みながら口元に手を当てて「んんっ」と喉を鳴らす。
そして口元にやった手をどかして、そしてボロボロの家屋を見つめながら、彼は溜息交じりにリンドーのことを見降ろしてこう言った。
「何もわからない。だが何か重大なことを聞けるやもしれない。ここは相手のペースに乗るという方向でいいのではないか?」
吾輩達……、負けてしまったしな。
ガザドラは悔しそうに言う。すでに『バトラヴィア・バトルロワイヤル』に負けてしまった身で、このバトルロワイヤルが終わるまでは戦えない状況で、すでに負け犬に降格された身だ。
ゆえに彼は戦言えない状況をうまく利用して話を聞こうとリンドーに提案したのだ。
それを聞いていたリンドーは、納得していないのか……唇を尖らせてむすくれた表情を浮かべながら、リンドーは言う。
「……、ぼくの頭を殴ったことと、顔面クラッシュの件に関してはまだ忘れていませんけど……、負けてしまった身ですので、今はやれることをやってみようと思います」
「うむ! そうだな」
「それに……」
リンドーは頭を抱えて、にやりと黒い笑みをガザドラから見せないように表情に出しながら、彼は音色だけは普通で、表情を黒い笑みで染めながらこう言う。
はたから見れば……あくどい人そのものだ。
そんな顔でリンドーは言う。
「ぼく自身あの戦いで勝ちを獲得したらそのまま待機しようと思っていましたしね。だってあの時すでにMPスカンピンでしたし、戦うよりも隠れるほうが生存率高いですし」
「…………顔を伏せていて表情までは見えないが、吾輩でもわかるぞ。リンドー。貴様負けて自棄になっているな?」
「まぁ……。人間誰しも負けてしまった後は自棄になります。だからこそぼくは今やれることをやろうと思います。あのエルフに情けをかけられたままは嫌なんで」
「そうだな……。ならば――」
ガザドラは目の前の家屋を見つめ、そして開いているドアの向こう……、薄暗く、そして仄かに香る黴臭さを鼻腔に入れながらリンドーのことを見ず、リンドーに向かってこう言った。
「行くか」
「うぅ……。まだ頭痛い。はぁい……」
ガザドラの言葉を聞いたリンドーは、先に入って行ってしまうガザドラの後を追うようにその家に向かって入って行く。
敗北者となった二人は勝者でもあり何かを隠しているレズバルダの言葉に従うように、誰にも知られていないその家屋の中に入って、そして――一時期姿を消した……。
家屋の中に入った瞬間、二人は同時に咳込んだ。
「「――けほっ!」」
口を手で覆いながら二人は咳込む。
無理もないだろう。家屋の外もボロボロの外観で、今にも崩れそうな雰囲気を出していたが、内部も……、否、内部はそれ以上にボロボロ……、否――人が住めるような環境ではなかった。
腐りきってしまった木製の家具に緑色の苔が生い茂っている。そして何より内部の方が黴のにおいが異常で、鼻腔どころか喉にも支障が出そうなそれだった。そのせいで、二人は同時にせき込んでしまったのだ。
「「――げほっ」」
「! すみません。腐りかけているのでどうも黴が充満しているらしく……」
「こんな身なりで年じゃ。そんな掃除なんぞ出来んわ」
二人の追撃のようなせき込みを聞いたレズバルダは、申し訳なさそうに二人の方を振り向きながら謝罪を口にすると、彼は抱えていたカカララマをそっとかび臭いそれとは不釣り合いな少し豪華な椅子に座らせる。
カカララマはふんっと鼻をふかし、そして威張るような顔をしてから頬杖を突いて舌打ちが出そうな音色で言う。
それを聞いていたリンドーは内心口元に手を添えて猿轡をしながら彼は思った。口にしたらまた頭か顔面に白い杖が来そうだったので、それを回避するために彼は心の声で思ったのだ。
――なんて堂々としているおばあさん……っ! 仕事場の食堂のおばあちゃんとは全然違います……っ!
そう思いながら、リンドーは思い出す。仕事場の食堂で働き、ボルド達やクルーザァー達に温かいご飯を提供し、たまにおまけをつけてくれる『たらふくぽってり堂』のおばあちゃんのことを思い出していた。
頭の片隅で――あの人が作った回鍋肉定食……。おいしいんだよなぁ……、と思いながら。
そんなことを思っていると、ガザドラはそっと鼻を手でつまんで黴の臭いが鼻の中に入らないようにしながら彼は聞いた。レズバルダとカカララマに向かって、彼は聞いた。
「ところで……、先ほどから聞きたいことがあったのですが……。何故あなた様はこのようなところで隠れ住んでいるのでしょうかな……? 前帝王……で、よろしいのか?」
ガザドラの不安げな声を聞いたカカララマは、むっとした表情でガザドラを見た後、彼女はそっと頬杖を止めながら椅子に身を預けるように座り、ガザドラとリンドーのことを見ながら、彼女は言った。
しっかりと目の前を見据え、そして彼女から発生される威圧をびりびりと感じながら、二人は口元に手を押さえつけながら言葉を詰まらせてしまう。
まるで――息をすることすら許されないような気圧され。
それを肌で、空気で、そして視線で感じながら、二人はぶるりと肩を震わせてしまった。その光景を見ていたカカララマは呆れた目で二人のことを見て、そして首をふりふりと振りながら、カカララマは言う。
「そこまで肩の力を入れるでない。儂はこう見えてエルフじゃが、それでも取って食うような邪道はせん。儂は話がしたいがために、儂の側近レズバルダを使ってここに招き入れただけのこと。ゆえに肩の力を入れる出ない。青二才が」
「………………………っ」
「…………、失礼した……。前帝王」
カカララマの言葉を聞いたリンドーは安堵と緊張が迸りるような目でカカララマのことを見て、彼女の言う通りか他の力を抜く。
ガザドラも何とか肩の力を抜いた後、再度カカララマのことを見据えながら最初に謝礼を述べる。
深く、頭を下げながら――
そしてガザドラはそっと頭を上げて、再度彼女に向かって聞いた。今度は委縮しないように聞いた。
「それでは、再度お聞きしてもよろしいでしょうか? あなた様はなぜ、このようなところに隠れ住んでいるのですかな……? そしてあの時おっしゃっていました……。もうこの世にはいないような存在と言うのは……?」
「…………………ふぅ。確かに、儂がなぜこのようなところにいて、そしてなぜ儂はこの世にいないような存在なのか……。その辺はしっかりと話そう」
カカララマは椅子に腰かけながら二人に向かって言う。静かに、むすっとした顔つきのまま、彼女は順を追って話した。自分がなぜこのようなところにいるのか、そしてなぜ彼女はすでに存在しないという言葉を放ったのか……。
彼女は語る。彼女しか知らないことを……。
◆ ◆
「儂は確かに、昔はこの帝国を治めて、統治していた帝王じゃ。今統治している帝王の前の帝王じゃった」
「意外ですね……。この砂の国って人間至高主義の国家だから、てっきり人間族以外の種族が王になることなんてないのかと思いました」
「馬鹿たれ。そんなこと誰が決めたのじゃ? あのアルテットミアでも王様はエルフじゃ。そんな王様=人間族と言うルール。誰が作ったと言うんじゃ? えぇ?」
カカララマの言葉に驚いた顔をするリンドーであったが、カカララマはそんなリンドーのことを小ばかにするように、むすっとした面持ちで言葉の刃を突き刺す。
リンドーはそれを聞いて俯きながら無言になってしまう。と言うよりも、心のダメージが大きかったのか、これ以上傷つかないように無言を徹したのかもしれない。
その光景を見ながら、ガザドラはリンドーのことを初めてリンドーが後手に回っているような気がするが……、災難だな……。と思ってしまう。
そんなリンドーのことを無視して、カカララマは続けてこう言った。
「と……。まぁお前さんの言うことは概ね正しい。この国において人間族こそが至高なる存在。そして人間の王はまさに神。それはもうわかっておろう?」
「……まぁな。それは吾輩も知っている」
ガザドラは頷く。それを聞いたカカララマはよし――と頷きながら、続けてこう言う。
「じゃが、儂はエルフ。人間族ではなく森の一族。いうなれば異人じゃ。しかもこの地の人間にはない魔力を持った『癒し』の魔女。そんな儂じゃが、好き好んで王になったわけではない。儂は今の帝王がまだ子供だった時に、儂は代わりとして王になった代用品じゃ」
「代用……」
「そうじゃ飛ぶことすらできぬ哀れな混血よ。儂は前々帝王の命令によってその地位を一時的に手にしていた代用品なんじゃ」
「…………、前々帝王……ということはまさか」
ガザドラの言葉を聞いていたカカララマは頷いて続けて言うと、それを聞いていたリンドーは首を傾げて今自分が思ったことを口にしようとした瞬間、カカララマはその言葉を察したのか、彼女は頷いてこう言った。
「そうじゃ――今この地を治めている帝王の親……、ゲルディレルトロ・イディレルハイム・ラキューシダー王十二世じゃ。前々帝王は流行り病を患わせておった。儂の『癒し』の力をもってしても、治せなかった。正統後継者でもある現帝王もまだ子供。であったがゆえに、その穴を埋めるために儂が帝王になっただけじゃ。反感も多く、儂の元にいてくれたのはレズバルダだけじゃ」
「………………あのー。聞いてもいいですかー?」
リンドーはそっと挙手をしながらカカララマのことを見ると、カカララマはそんなリンドーのことをじろり……、と睨みつけながらカカララマは「なんじゃ?」と聞いてきた。
それを聞いたリンドーは内心、話を折られることが極端に嫌な人なんだな……。と思いながら、リンドーはカカララマに聞いた。恐る恐ると言う形で聞いてみた。
「えっと……、それって何年前の話ですか? 聞いた限りかなり長いような、帝王の年齢と比較すると……、何ですけどね……。あ、年齢は聞きたくない主義なんですけど、恐れ多くもカカララマさまって……」
「……………人間年齢だと百は超えておるが、エルフ年齢で言うとまだまだ若いほうじゃ。実年齢的には五百貯いかのぉ……。レズバルダが確か……、二百五十を超えているかそうでないかの年齢で、そこにいる蜥蜴竜族の小僧は千二百歳じゃが、人間年齢で言うと二十五歳じゃろうて。そんな感じの年齢じゃ。ゆえにお前さんよりはかなり長生きしておる」
「――ガザドラさん二十五歳っっ!?」
「……もっと年老いているように見えたか……?」
「失礼ながら……」
リンドーはカカララマから聞いた衝撃で驚愕の事実を聞いて驚きを隠せずにガザドラを見上げてしまう。
エルフの年齢も然りではあるが、ガザドラの年齢基人間年齢を聞いてしまったリンドーはその年相応ではない雰囲気やボルド以上の年齢を思わせるそれを聞いた瞬間、彼は目を点にし、そして失礼なことを言ってしまう。
ガザドラはそれを聞いて、ショックと同時に舞い込んできた少しばかりに苛立ちを覚えながら、ガザドラはリンドーに聞いた。すっと目を細めて、疑念を抱いたような目で彼を見降ろすと、リンドーは申し訳なさそうに、正直に言葉を発する。
その話を聞いていたレズバルダは「こほんっ」と咳込みながら二人のことを見て――
「お話を戻してもよろしいでしょうか?」と聞いてきた。
鋭い眼光で二人のことを睨みつけながら、レズバルダは聞いてきたので、それを聞いた二人ははっとして、そして今一度カカララマのことを見ると、カカララマは白い木の枝の杖を持った状態でふんっと鼻息をふかしながら、不機嫌なそれを出した状態で話を続ける。
「……帝王になった後のことはどうでもよい。儂は今は亡き前の帝王の繋ぎとして帝王になっただけであり、現帝王が育ち、そして現帝王が本当に帝王になったと同時に、儂は用無し。つまりは処刑される運命じゃったが、そうならぬ前に、儂はレズバルダに頼んで殺したことにしてもらったのじゃ」
「…………つまりは……、殺したと見せかけて実は生きていましたっていうことですね? なんでそんなことをしてまで」
「そんなことをしてまで? じゃと? そんなの簡単な話じゃ。儂は今は死ねぬ。そう思って行動しただじゃ。この老いぼれでも、生に執着して何が悪い」
カカララマは座っていた椅子から降りて、そしてとことこと歩みを進めながら二人に近づいてくる。小さな歩幅できる彼女を見降ろしながら、リンドーとガザドラは無言で彼女のことを見降ろす。
カカララマは続けて言う。否――聞いてきた。
「お前さんたちは、秘器騎士団のことを知っているな?」
「! それって確か、帝国がひそかに計画していることですよね? その野望を壊すためでもあり、ガーディアンの浄化のためにぼく達ここまで頑張ってきたんですから。って……」
リンドーは肩を竦めながらカカララマから聞いた言葉に関して、セレネから聞いたことを思い出しながら言うと、ふとあることを思い出す。
それを聞いたガザドラは首を傾げながらリンドーを見ると……、リンドーは困ったように乾いた笑みを浮かべて、彼はこう言ってきた。
こうなってしまったせいで、当初の計画が多き狂ってしまったことに関して、最初に自分たちがすべきことを、今更ながら思い出したのだ。
「そういえば……、ぼく達ここに入ったらまずアクロマの拘束をしないといけないでしたね……。こうなってしまったのですっかり忘れていました……」
「ううむ。不測の事態であったが故の災難だったな。秘器騎士団のことをあるが、今は拘束に住人の……避難……? は、済んでいるな。あとは『疑似魔女の心臓』がどこにあるのかを探らないといけん……。カカララマ殿よ。そのことについて聞いたということは、何かを知っているということで認識してもいいのですな?」
ガザドラはカカララマの言葉を聞いて追及すると――それを聞いて、カカララマは「うむ」と頷きながら、ちょこちょこと歩みを進めて、二人に近付きながら彼女は続けてこう言ってきた。
『バトラヴィア・バトルロワイヤル』になり、そしてそのまま殺し合いのような展開が繰り広げられて、当初立てた計画があえなく台無しになってしまったガザドラ達だが、カカララマはリンドーの言葉を聞いて確信を抱き、そしてこの先のことを任せようと思いながら――彼女は言葉を発した。
その言葉は――頼みだ。
「ならば話は早いな。儂はお前さん達に頼みたいことがあってレズバルダを使ってここに呼びつけたんじゃ。誰にでもできるようなことではあるが、それでもお前さん達に頼みたい。儂はこの場から動けん身。ゆえに頼みたいのじゃ。この家屋の地下に続く生産場所を壊してほしい。それさえ壊せば――秘器騎士団はおろか、まともな秘器など作れん状態になる」
「………………地下にある秘器工場?」
カカララマの言葉を聞いたリンドーは首を傾げながら素っ頓狂な声を上げて、そして黴臭い家屋の真下を指さしながら、彼はもう一度その言葉を繰り返す。
それを聞いて、カカララマは「うむ」と頷きながら――手に持っている白い木の杖で床を小突きながら彼女は言う。
「正式にはグゥドゥレィの部屋の真下にある研究施設と製造場を壊してほしいのじゃ」
「…………それは、まさか……」
「ああ。お前さん達が探しておる秘器の要となる『疑似魔女の心臓』の保管場所にもなっておる。彼奴はああ見えて疑心の塊で、己の研究資料を知られたくないから誰も知らない、そして誰も近づかない地下にその研究場所と製造工場を作っておるんじゃ。奴隷の者達を使っての……。それを壊せば、そして製造されている秘器をすべて破壊すれば、研究資料もろとも屑となる。秘器騎士団の完成も塵となる。ゆえに頼みたいのじゃ。動けぬ儂に変わって……、何もできぬレズバルダの代わりに」
「なる……ほど」
リンドーはいとも簡単につかめた秘器の要にしてそれを浄化すれば秘器の製造も止まる負の遺産物――『疑似魔女の心臓』の場所が分かったことに驚きながら、彼は目を点にして真剣に自分たちのことを見つめているカカララマのことを見降ろす。
その話を聞いていたガザドラは、腕を組んで「そんなところに……」と唸って、そしてカカララマのことを見降ろしながら彼は聞く。
「しかし……、よくそのようなことを知りましたな」
「ふん。こんなことは知りたくもなかったわ。王になって武器の確認をするために地下に向かった時に知ったのじゃ。秘器を使った心の無い魔人の騎士団のこと。そしてそれの原料などもな……」
秘器の原料。
その言葉を聞いた二人は、ぐっと腹部から込み上げてくる酸っぱい何かを感じながら口をきつく噤む。
あまり思い出したくない。そして力が欲しいという理由で多くの犠牲を生んでしまったそれの思い出して、二人は毒を吐きそうになる。なんて外道なことをするんだ。この国の王は――と。
そんな二人の顔を見上げながら、カカララマは白い木の杖で二人のことを指さし、驚いて目を見開いている二人のことを見上げながら――彼女は話を続ける。
「……そしてそれを知ったあと、儂は帝王を務めている間、帝宮にいる奴らに『このようなことをやめろ』と言ったのじゃ。あまりにおぞましく。あまりに異常なそれで最強の国を作り上げても、結局は地に濡れた勲章しかもらえんと。だが……、誰も聞く耳を持ってくれなかった。国の民たちも、己の保身のために多くの犠牲を生んでいる秘器の製造、そしてこんな政治を止めようとしなかった。それでも儂は止めようと必死になって声を掛けたが……、現帝王が成人になり即位し、そして儂が退位した後――彼奴は儂が邪魔になって、即位してすぐ――儂を処刑しようとした。最も信頼し、そして儂のことを絶望させたかったのか……、彼奴はレズバルダを処刑に向かわせたのじゃ。これが儂が死んでいる存在と言う理由じゃ」
「私はカカララマ様の忠実な僕です。ゆえにカカララマ様を殺すことなど絶対にしません。殺したという嘘と偽の情報を手に持って、カカララマ様を匿ったのです」
レズバルダは己の胸に手を置きながら軽く会釈をすると、それを聞いていたリンドーは内心――そういうことか。と、納得していた。
そんなリンドー達のことを見上げながら、カカララマは二人のことを見上げながら――彼女は言った。
真剣で、そしてこの国のことを一番に考えているような音色で、彼女は言った。
「……このようなことは、国出身の者達がすべきこと。そしてそれが国に生まれたものの責務と言うものなのじゃが、儂は何もできんかった。こんな大口を叩いたとしても、結局はこのような結果で終わってしまった。儂が生きていることを知られてしまえば――エルフの里の者たちも一緒に処刑されてしまうやもしれん。ゆえに儂は――今は出ることができんのじゃ。だからこそ、反逆者でもある貴様たちに、強き者たちに頼むことしかできん。こんなことを頼むことは変かもしれん。変かもしれんが……、それでも頼みたい。この国の歪みを……、治してほしい」
カカララマの真剣で、そして心の底から国のこと、そして祖国でもあるエルフの里のことを一番に想い、彼女は深々と、頭を下げながらガザドラとリンドーに向かって乞う。
この国を変えてほしいと願いながら――乞う。
その言葉を聞いていた二人は、一瞬呆気に取られて目を点にしてカカララマのことを見て、そして同じように頭を下げているレズバルダのことを見ながら……、リンドーは困ったように笑みを浮かべながらこう言った。
「……最初からそうするつもりでしたし、いい情報を手に入れたので早速行きますよ……。というかそれを聞いてしまったら断れませんよ」
「同文だな。吾輩もこの国のやり方には気に食わなかった。いうなればこれは国の浄化でもある。頼まれたのであれば吾輩はそれを全うしようではないか! 負けてしまったが、それでも壊せる力はある。更に言うと教えてくれて感謝する! 前帝王殿よ!」
リンドーの言葉を聞いていたガザドラも頷きながら腕を組んで言う。それを聞いていたカカララマは、一瞬安堵のそれを顔に出そうとしていたが、彼らに見られる前に気丈にして意地を張っているような笑みを浮かべながら――彼女は言う。
嫌味交じりに彼女は感謝を述べる。
「ならば――すぐに三人で行きな。道はレズバルダがあらかじめ記しておいた道標がある。それを頼りに行きな。頼んだよ」
「はいはい~。………って、三人? ぼくとガザドラさんと……、あと一人?」
リンドーはカカララマの言葉を聞いて、首を傾げながら「あれ?」と言う顔をしてカカララマのことを見る。その言葉に関してはガザドラも、そしていなかったレズバルダも驚いた目をしてカカララマのことを見降ろしていたが……。
「その三人目っていうのは――俺だろ?」
その声の人物はカカララマが座っていた椅子の背後から出てくるように姿を現した。その姿を見たレズバルダはぎょっと目を見開いて驚いていると、リンドーとガザドラはその人物を見て、目を見開いて喜びの顔を顔に出していた。
たった数分の間にも関わらず、まるで数年ぶりの再会をしたかのように、リンドーはその人物を見ながら、安堵の声で叫びながら言った。
「――ギンロさんっっ!」
「おう! 何とか生きているぜ」
声の人物――姿を現したギンロは手を上げてひらひらと振りながら笑みを浮かべて言って近づく。
彼の体にはところどころ包帯が巻かれており、包帯越しに見える痛々しい痕がギンロの戦況を――敗戦の状況を物語っていた。
それを見たリンドーはいつものように毒のあるような笑みを浮かべながらギンロに向かってこう言う。
「まさか負けたんですかぁ? しかもぼく達よりも先にぃ~。ダサいですねぇ~」
「うっせえっ! 傷だらけでメウラのおっさんを担いでここまで来たんだ。少しは褒めてほしいくらいだって!」
「………メウラヴダーが?」
リンドーの言葉を聞いて、ギンロは頭に血管を浮き上がらせながら怒鳴ると、その言葉を聞いていたガザドラははっと息を呑んでギンロに聞くと、その疑問について答えを出したのは――カカララマだった。
カカララマは椅子がある後ろの部屋に向けて指をさすと、彼女は事情を知らない二人に向かって簡単な説明をする。
「そのめうなんとかという男は、別の部屋で寝ておる。なぁに安心し。命に別状はない。が――すぐに動けるような体ではない。儂は『癒し』の魔女ではあるが、お前さん達のメディックのような力は持っておらん。傷口を塞ぐ程度の力しか持っておらんからの。今は大怪我をしてすやすやと寝ておるよ」
彼女は後ろのほうを指さすが、『見ろ』と促すことはなかった。
リンドーもガザドラもメウラヴダーのことが心配ではある。しかし促されない。それは強要ではないが、それでも見ない方がいいという雰囲気が空間内を支配していた。
見ない方がいいという空気は、見ることを後悔してしまうという合図。
それを察した二人はそれ以上の視認をすることを心でセーブした。
事実――奥の部屋で寝ているメウラヴダーは両手両足にボロボロの包帯を巻いて、規則正しい寝息を立てて寝ている。はたから見れば痛々しい光景ではある。見ない方がいい。それは正論行動でもあった。
「それで……三人か」
と言いながら、ガザドラはリンドーとギンロを見る。ギンロは腕を振り上げて、「おう!」と言ってにっと笑みを浮かべる。そしてギンロは二人に向かって言う。
一瞬込み上げてきた不安をかき消すような、陽気で、そしていつも励ましの中心となっているギンロらしい言葉で、彼はこう言った。
「なぁに! あのおっさんかなりタフみたいだったし――腕の治療もされたんだ。生きていることが何よりの幸運だった。だからよ……。今は俺たちに――敗者にしかできねえことをしようぜ! まぁできることと言っても陰ながらって感じだけど」
「………まぁ、ギンロさんだとなんだかあっという間にばれそうで」
「ちょちょちょまった! それ以上はフラグが成立しそうで怖いからそれ以上は言わないでっっ!」
ギンロの言葉を聞いて、その言葉を信じたのかはわからない。だがリンドーはいつもの笑みを浮かべながらギンロに向かってふざけ半分の言葉を言うと、その言葉を聞いていたギンロははっと息を呑んで慌てながらその口を塞ごうとする。
その光景を見て、ガザドラはそんな二人のことを見ながら内心安心した笑みを浮かべて――いつも通りのそれだな。と思いながら二人を見ていた。
確かに――メウラヴダーのことは気になる。しかし今現在寝ている。それを起こしてしまうと体の回復に支障が出てしまうかもしれない。
正直なところ――心配なのが普通ではある。だが今はこの場所で立ち尽くすよりも、動いて何かをする方がいいかもしれない。きっとメウラヴダーが起きていれば、そうしろと命令口調で言うかもしれない。
否――絶対に言う。
足がある。動ける。元気があるならば……、何かをしなければいけない。そうでもしないと、この国を変えることはできない。
変えたくば――変えるために体を、命を酷使しろ。
そう言ってメウラヴダーは三人を行かせるだろう。ゆえにガザドラも、ギンロも、リンドーも足を動かそうとする。カカララマの要求を呑んで、地下に向かうことを心に決める。
「――そろそろよろしいでしょうか?」
「「「!」」」
レズバルダは三人に向かって言うと、それを聞いていた三人ははっとしてレズバルダを見ると、レズバルダは土とのドアに向かって歩みを進めながら三人を見ないで、三人のことを見ながら彼はこう言った。
「私はこれから外に出ます。ゆえに次に出会った時には敵同士です。このことは内密に……。そして、地下の件……。任せます」
どうか。
と言って、レズバルダは一旦口をきつく閉じ、僅かに、本当に僅かに唇を震わせると、彼は足を止めて、そして背後にいるであろう三人に向かって――カカララマと同じ願いを、そして自分ではできなかったことを任せるように、彼は言う。
低く、そしてこんなことを頼んでしまって申し訳ないと思いながら――彼は言う。
「どうか――この国を、変えてください」
と言って、レズバルダは家屋のドアに手をやり、そして流れるようにその場から姿を消していく。古ぼけたドアの音を鳴らしながら、レズバルダは三人の声を聞かずにその場を去っていく。
一人の忠実な側近から――『盾』の一人にして偵察団団長として、彼は歩みを進める。
その姿を、背中姿を見た三人は次に足元にいるカカララマのことを見降ろしながら、意を決したかのような顔をする。
その顔を見て、カカララマは頷いて「うむ」と言うと――彼女は家屋の別の部屋の奥の方を白い木の杖で指さしながら彼女は言う。命運を無理矢理背負わせるように彼女は言った。
「この先に地下に繋がる穴を掘っておいた。その穴から工場施設に向かってくれ――頼んだぞ」
◆ ◆
運命は常に誰の味方ではない。気まぐれに味方を変える者。
今回は気まぐれにリンドー達の……、否――カカララマとレズバルダの願いに応えるために運命の糸を巡り合わせたのだろう。
二人願い。
それは……、エルフの里を守るため。
そして砂の国の歪みを取り除き、瘴気が満ちる前の――狂っていない国を取り戻したい。その願いを叶えようと、気まぐれに運命は味方した。
それだけなのだが、それがきっかけになり、帝国の歪みがどんどん修正されて行くことを――誰も知る由もなかった。




