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PLAY66 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅴ(強き者達)④

 ガザドラは――見てしまった。


 レズバルダに向けてナイフを振り下ろそうとした時、彼は見てしまったのだ。


 逆転したと思っていたその光景がまやかしの様に消え、レズバルダの優勢の状態が維持されていたことに気付いた時には遅かった。


 レズバルダはリンドーの方を見ながら驚いた顔をしていた。ガザドラは背後しか見ていないが、雰囲気と声がそれを知らせてくれたので疑う余地などなかった。


 だからこそ、逆手に持ったナイフを使ってレズバルダの肩にそれを深く突き刺し、両腕を使えなくさせる。


 その後で両足の腱を切ればすべてが終わり、一勝を獲得してそのまま仲間達のところに行く……。はずだった。


 が――


「っ!?」


 ガザドラは――見てしまった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()を。


 そしてそれを振り向き様に掴み、そのままレズバルダは茫然として何かを見降ろしているリンドーに向けて、それを大きく斜めに振るった。


 ざしゅっっ! と言う切り裂く音が聞こえたと同時に、リンドーの体から、斬られた箇所からどろりと出るそれを見て、地面に倒れてしまったリンドーを見た瞬間、ガザドラは叫んだ。


 リンドーの名を叫び、動きを止めて、更に彼はリンドーが見て固まってしまったものを見てしまった。

 

 それは――リンドーが持っていたレズバルダが持っていた刀……。


 ()()


 ()()()()


 そしてその傍らに転がっている銀色の液体がこびりついている刀の鍔と柄。それだけ。そしてそれを見た瞬間、ガザドラは目の前にいるレズバルダを見る。


 レズバルダの姿は背中しか見えていない状態ではあった。しかしそれでも彼は――()()()()()()()()()()


 長く、そして両刃のそれではない。片方にしか刃がなく、四角い鍔と柄。そして真っ黒い刀身にその姿を包んだ――日本でよく見るその剣を……。


 真っ赤な血で濡らした刀を手に持ちながら――彼は振り上げていた。斜め下から斜め上に向けてそれを振り上げていたのだ。


 よくあるその構えを見て、ガザドラは一瞬、理解を放棄した。


 否――理解してしまうとだめだと直感が囁いたのか、ガザドラは考えないようにしようとしていた。しかし人間は――知性を持っているものは常に考える生き物。その性からは逃れられない。


 ゆえにガザドラは――理解してしまった。理解したくないことを――理解してしまった。


 リンドーは確かにレズバルダの武器を奪った。


 奪ったのはいい。そこまではよかった。


 そのまま武器をリンドーが手に持ち、そしてそのままガザドラが攻撃に転じていれば、それはそれでよかったのかもしれない。


 が――


 それは相手が何もせずにいたらと言う話で、結局何かをしていたらいとも簡単に崩れてしまうそれだった。そのことについて、ガザドラとリンドーは考えていなかった。頭の片隅に入れていなかった。


 疲れのせいか、それとも焦りのせいかはわからない。しかしそれでも――二人は頭に入れておけばよかったのかもしれない。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 ガザドラはどくどくと太鼓のように鳴り響く心音を体の芯で感じ、そして震わせながらその光景を見て、言葉を失いながらその光景を、倒れているリンドーのことをそっと見降ろしながら、彼はレズバルダを見る。


 レズバルダはそんなガザドラの視線に気付いたのか、刀を持ったまま彼は勢いをつけた回転と刀の振るいの加速をつけて、彼は体に纏わりついたそれを一気に吹き飛ばすように、レズバルダはそれを一気に振るった。


 ブゥゥゥゥンッッ! という空気を切るように、彼はその刀を振るった。


 振るうと同時に纏わりついていた液体が当たりに飛び散り、近くにある建物や地面、そしてガザドラにも降り注ぐように飛び散っていく。銀色と赤の液体がところどころに飛び散って、そのまま建物やガザドラを汚していく。


 リンドーの血と共に汚し、先程の驚愕が嘘のような顔でレズバルダは刀を地面に向けてひゅんっっ! と、刀を振るって付着していたそれを振り払う。


 涼しい顔でガザドラのことを見ながら。


 ガザドラとレズバルダは互いの顔を見ながら無言を徹し、そしてお互いのことを見つめながら二人は武器を握る力を強める。そして――


「言っておきます」


 レズバルダは言った。


 驚いてぎょっとしたガザドラのことを見ながら、レズバルダは言った。


「あなた達の敗北は決定しています。理由は簡単です」


 レズバルダは手に持っていた得物をすぅーっとガザドラに突きつけるようにして構えながら、彼は言う。


 涼しい顔でガザドラのことを見ながら、彼は言った。


「私の手にはこの秘器(アーツ)があります。ゆえにあなた方の敗北は既に決定しているも同然なのです。と言えばいいでしょうかね」

「………一つ、問う」


 ガザドラは震える口で言葉を発しながら、彼はレズバルダに聞く。


 敵にこのようなことを聞くのはあまり見たことがないが、それでもガザドラはレズバルダに聞いた。何故武器を持っていなかった彼が武器を持っているのか。その証明をするためにガザドラは聞いた。


「なぜ……、貴様の手元に武器がある? 秘器(アーツ)があるのだ? あの時――確かにリンドーは」

「ああ、これですか?」


 レズバルダはガザドラの問いに応えるようにして、彼はこう言った。刀型の秘器(アーツ)を見せながら彼は言う。


「これは私が持っている秘器です。そしてあなたが言いたいことはなぜ彼の手元にあった刀が私に手元になるのか。ということを聞きたいのでしょう。答えは至極簡単」


 レズバルダは背後にいるリンドーのことを――微かに息をしているリンドーのことを振り向いて、横目で見ながら彼はこう言う。


 事の……至極簡単な顛末を――彼は言ったのだ。


「あなた達が最後に拘束をしようとした時、私はそれを避けました。避けたと同時に抜刀していたのですよ。そしてそのあと――秘器(アーツ)の刀身を上に向けて投げ、予め持っていた偽物の柄を差し入れて構えた。悟られないように本気で抜き取る体制をとりながら私はあなた達が来るのをじっと待ち、そして落ちてくるのをずっと待っていた。それだけです。予想通り来てくれてありがたかったですが、少々驚いてしまい、あろうことか鞘を奪われてしまったことには正直慌ててしまいました」


 なにせ、あの少年ではなく――あなたのような『六芒星』が来たのですからね。


 と言いながら、レズバルダは言う。冷静に、涼しい顔をしながら彼は言った。


 それを聞いていたガザドラはぐっと歯を食いしばりながらレズバルダのことを見て、そして倒れているリンドーを見る。


 リンドーの頭上にはまだ死の予告を示す『デス・カウンター』は出ていない。


 それはガザドラやこの世界の人達には見えていないものではあるが、ガザドラは『六芒星』の勘と野生の勘を使って、リンドーが死んでいないことを察知する。


 ガザドラはぎっと目の前にいるレズバルダを見て、逆手に持ったナイフをしっかりと握りしめながら彼は思った。警戒を強め、そして魔力がない今――彼は細心の注意を払いながら彼は思う。


 今まで強敵と言う立場であったレズバルダのことを、強大な敵と認識しながら、彼は思った。


 ――この男は侮れない……っ! いいや、俺の野生の勘は正しかった……っ!


 ――この男は危険! もしかすると、帝国で一番強い存在やもしれない!


 ――リンドーのことも心配だ。息はしているが、それでも放っておくと死んでしまう可能性が高い……っ! ここは早急に……っ! と言いたいところだが、俺もすでに魔力がそこを尽きてしまった……。もうこのナイフの形を変えるほどの魔力も残っていない……っ!


 ――ここは己の手でなんとかしないといけない。


 ――この男の手足を切ることは諦めよう。今はこの男を気絶させ、そしていち早くリンドーを担いで回復魔法が使えるボルド、レン、ダイヤ、そしてあの女……ハンナの元に急がねばっっ!


「……………くっ!」


 ガザドラは余裕のない緊張した顔を浮かべて、逆手に持ったナイフを構えながらレズバルダを見る。レズバルダはそんなガザドラのことを見て秘器の刀を構えながら、彼は言う。


 くるりと踵を返し、リンドーの元に……、否、リンドーが持っていた己の鞘の元に向かいながら、彼は言う。


「更に言っておきます。彼は生きていますし、それほど重症ではありません。少しだけ体に切り傷を入れただけで、致命傷には行き届いていません。死にはしないです。出血もそんなにひどくはないです。それに――回復要因のところに行く前にすべて終わります」

「…………そのような言葉、信じられるとでも思うのか?」

「ですよね。あなたは『六芒星』。元とはいえあなたは国の在り方を疑念に思い、そして革命に手を染めたものの元一員。しかし……、そのお気持ちは察します。よくわかります」

「? ……、貴様はこの国の人間……、ではないな。エルフであろう? なぜそのようなことを」

「――至極簡単です」


 と言った瞬間、彼はリンドーの傍に置いていた己の秘器(アーツ)の鞘を手に取り、そしてその鞘に刀を納めてから、彼は冷静な音色でこう言った。


 かちり――という納める音を響かせながら、彼はそっと、ガザドラの方を横目で振り向いて、こう言った。




()()()()()()()()()()()()()()――()()()()()()()()()()()()()()()




 と言った瞬間だった。


 ガザドラは目を見開いてレズバルダを見た。


 見たのだが……、瞬きをした瞬間、その場所に彼はいなかった。いたのは――ガザドラの真横。右にいて、その横を通り過ぎるように、彼は『カツンッ』と、歩みを進めていた。


 素早く歩いた。音速のように。などと言うことは全くなく、レズバルダは歩みを進めながら、ゆっくりと歩みを進めながら、ガザドラの横を通り過ぎた。


 ガザドラは目を点にして、その通り過ぎる感覚を鱗でおおわれた肌で感じ、彼が通り過ぎたときに靡いた髪の毛を目で捉え、彼は一瞬の時の停止を感じてしまった。


 停止。


 それは人間がよく感じる現象であり、よくあるスローモーションになる。時間がゆっくりになると言ったそれであり、それはある時にしか発生しないもの。




 それは――命の危険に晒された時。




 それを感じることもなく、ガザドラは真っ直ぐ――リンドーの倒れている姿を視認してから、彼はどんどん()()()()()()()()()()()()()()()を感じて、彼はその腹部を見ようと、その熱がある個所を手で触れようとした瞬間――


 彼は――その熱に溺れるように、否――もう溺れてしまったかのように、ガザドラも後ろに向かってバランスを崩した。


 触れようとした手に生暖かい感触を残し、腹部から来る激痛と熱を感じながら……、元・『六芒星』幹部にしてカルバノグのガザドラは、『ズタァンッッ!』と地面に背中をつけてしまった。


 腹部からドロドロと流れる己の液体を流しながら、()()()()()()()()()()()()()()()状況でガザドラは……。


「――ぼほっ」


 口から赤いそれを吐き捨てる。


 リンドーと同じように仰向けになり、彼は震える瞳孔でレズバルダを見た。そして目を疑う。


 彼は一旦鞘に納めたであろうその刀をもう一度鞘に納めるような動作をして、レズバルダは静かな音色で――耳に残すような音色で言う。

 

 いつ抜刀したのかすらわからなかった。そしていつ攻撃したのかすらわからなかった状況の中、レズバルダは『すぅーっ』と、その刀型の秘器(アーツ)を鞘に納めながら、涼しく、そして耳に残る様な澄んだ声で、彼は言った。





秘器(アーツ)――『一閃刀(ヒトタチ)』」





 その言葉と刀を鞘に納める音を鳴らした瞬間――ガザドラとリンドーの敗北が決定し、アナウンスと共にその事実が知らされる。


 一分と経たずに知れ渡り――そして…………。



 ◆     ◆



『おぉ……? おおおぉぉぉっっ? おおおおおぉぉぉぉぉっっっ!? おおおぉぉぉぉぉぉーっっっ! 皆様朗報です! たった今勝負がついたところがありました! しかも勝ちを獲得したのは……、我が帝国の幹部――『(アイアン・ミート)』の一人が反逆者を倒したぞぉおおおおおっっっ!』


 ――オオオオオオォォォォォォォォォッッッッ!――


 興奮した面持ちでマイクに向かって叫んでいたのは――帝国の侍女頭兼帝王執事頭ネテロデディア・ミートゥド・クイッセルドは、つい先ほどまで胸騒ぎを覚えていたが、いきなりの吉報を目にして、それを貴族区や平民区の人達にいち早く伝えるために、彼は声を張り上げながら興奮した面持ちで叫ぶように実況を――報告をした。


 実況……。それは実況とは呼べないような中途半端なそれである。


 彼は確かに実況はしていた。だがそれは『バトラヴィア・バトルロワイヤル』を見ている貴族や平民に限ったことで、下民、奴隷、そしてハンナ達には実況の声などあてていない。


 実況は余興。


 このバトルロワイヤルも結局は余興なのだ。


 貴族、王族、そして平民の暇潰しとして成り立っている。ゆえにそれを盛り上げるためにネテロデディアは実況をしているのだ。


 因みに……。


 戦いながらその実況の声を当てようと提案した時、それを聞いていたレズバルダにきつく、冷静な音色で『集中できないからやめてほしい』と言われてしまったので、戦っている人達に実況が聞こえないようにしている。


 そして状況報告だけは帝国中に聞こえるように当てているのだ。


 閑話休題。


 ネテロデディアは報告を続ける。


 ざわめき、そして歓喜に震えている貴族平民達(ギャラリー)に向かって――


『しかも喜んでください! その『(アイアン・ミート)』は我が国において指折りの屈強の者! 最も帝王に近い存在と揶揄されている! 異端ではあるが王に対しての忠誠は絶対! 『(アイアン・ミート)』の中でもグゥドゥレィさまと同格の男――偵察軍団団長……、レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッドさまだぁああああっっっ!』


 ――オオオオオォォォォォォッッッ!――


 観客の熱が膨張し、そして膨発してその熱が当たりに飛び散る。花粉のように飛び散りながら風邪のように伝播していき、辺りの興奮を高めていく。


 そして観戦していた人達からぽろぽろと声がこぼれていく。


「あの偵察団団長か!」

「まぁ――やっぱりすごいわっ! 流石は帝国の幹部! そして()()()()()()っ!」

「やはりあのお方のお力は凄まじいな……」

「他の『(アイアン・ミート)』とは大違いねっ! 信頼も実力も計り知れないっ!」

「エルフだからと思って見ていたが、そんなことを忘れてしまいそうな実力!」

「さすがですわレズバルダ様っ! 毎度のごとく見惚れてしまいそう……っ!」

「まぁ――()()()()()()()だからな……。一番の古株と言ったら偵察団団長様なのかもしれないが……、それでも短時間で……っ! もうあのお方に任せてもいいのかもしれんな」

「そうね。グゥドゥレィさまは別として、ピステリウズさまも倒されてしまったものね……。忠誠心だけ大きくても結局国を守る力がないと信頼なんてできないもの……」

「そうよっ! やっぱりレズバルダさまは凄いのよ! それに反逆者は『六芒星』っ! 魔力を持っているものをいとも簡単に! どんなことがあったとしても、やっぱりレズバルダさまは凄いわ……っ!」


 男性陣の納得、一部聞こえたレズバルダのこともあったが、レズバルダのことを大きく支持している女性人の声によってかき消されていく。


 信頼や実力も申し分なく、エルフと言う異端児であろうと、貴族と平民、ネテロデディアは彼のことを大きく、そして過大に評価した。


 過大評価。否――そうではない。()()なのだ。


 結果こそが大事。実力がものを言う。


 そう。貴族達の言う通り、レズバルダは強いのだ。だからこそ彼らはレズバルダのことを信用している。絶対の信頼を、絶対の勝利を彼がもぎ取ってくれるであろうと確信している。願っている。


『さぁさぁさぁ! 白熱してきたぞぉ盛り上がってきたぞぉそして私の実況にも熱が入ってきたぞぉ! このまま帝国勝利モードが加速することを願いながら実況を続けていこうと思います! 皆様もどうか願ってください! 帝国が! レズバルダさまが、グゥドゥレィさまが、そして他の『(アイアン・ミート)』達と『バロックワーズ』の勝利を願って下さりますよう、お願い申し上げます! 現在勝敗は敵二! 帝国二と言う五分五分ではありますが、今一度帝国勝利を願って――!』


 ネテロデディアと観客は願う。


 引きこもってしまっている帝王をしり目に、帝国に入って来た侵入者をしり目に、彼らは願う。帝国の勝利を、そして明るい未来を信じて……。


 更に付け足しておこう。レズバルダのことについて。


 彼は確かにエルフではあるが、帝国の住民から深い信頼を得ている人格者。歪みに歪んでしまっている『(アイアン・ミート)』の中でも破綻していない人格を持っている。真っ当なエルフ。真っ当にして普通の人格を持った人種。


 レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッド。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()――グゥドゥレィと同格の実力……、秘器(アーツ)を使わずとも同格の力を持っている実力者。


 彼は現在――現帝王の『(アイアン・ミート)』として、『(アイアン・ミート)』の屈強者として君臨する強き者。


 なぜそのようなことを言わなかったのか? 何故強いと言わなかったのか? 理由は簡単だ。


 強いからと言って最強ではない。最強の肩書は彼にはふさわしくない。否――彼では実力不足なのだ。


 最強は――()()()()()()()。この地に蔓延る瘴気を打ち滅ぼそうとしている魔王の鬼士が……。



 ◆     ◆



「ふぅ」


 同時刻――ネテロデディアの報告を聞いたレズバルダは、呆れながら溜息を吐いて、首を横に振りながら彼は思った。


 いやいやこう思った。


 ――帝国勝利モード……。そんなのない。そしてこんなことをして楽しんでいる方々の顔を拝んでみたいものだ……。


 ――ただ己の裕福を壊されたくないから、私達のような戦えるものにすべてを丸投げする。


「反吐が出る」


 レズバルダは毒を吐き捨てる。痰を吐くように吐き出す。


 こうではない。昔はこんな国ではなかった。そう思い、そして自分が好きで、そして心の底から守りたいと思っていた国の光を見ながら、彼は思い出し、そして続けてこう思う。


 ――この国はおかしくなっている。おかしくなっているからこそ、変えないといけないのだ。変えないとダメなんだ。と……。


 レズバルダは虫の息と化しているガザドラ、そしてリンドーのことを目の端で一瞥し、そして刀型の秘器(アーツ)を腰に差し入れながら、彼は歩みを進める。


 歩みを進めながら、彼は腰のポケットに手を突っ込んで、あるものをそっと取り出しながら、彼はリンドーの元に歩み寄る。


 そして、無言で見降ろして静かにしゃがむ。


 その光景を天を仰ぐように見て、残りの力を振り絞りながらガザドラは起き上がろうと、がくがくと震える体に鞭を撃って地面に肘をつける。少しでもレズバルダを睨みつけるように、そして――


「ま……、待て……っ! この、帝国の、従者が……っ!」


 嫌味交じりに (ガザドラはあまり嫌味を言わないがゆえ、多少変なところがあるが大目に見てほしい)言うと、それを聞いていたレズバルダは起き上がろうとしているガザドラのことを見ながら、彼は涼しい顔でこう言った。


「私はエルフです。取って食うなどということはしません」

「な、何をするつもりだ……っ!」

「何をするつもり……。ですか。そうですね」


 彼はポケットから取り出したそれをゆっくりとした動作でガザドラに見せつけながら、彼は言う。


 まるで――奥の手を見せつけるかのように、彼はそれを見せた。驚いて目を見開いているガザドラのことを見ながら、彼はそれを見せたのだ。




 七色の光輝く液体を入れた小瓶――MCOでは高額で売り付けられている、HPとMPが完全回復する万能薬……、『()()()()()()』を見せつけたのだ。




「………な? けふっ!」


 ガザドラはその高額アイテムを見て素っ頓狂な声を上げながら、血液交じりの咳込みをする。


 その光景を見ていたレズバルダは、手に持っていた『最高級回復薬』をガザドラに向けて手を振り、『ぽいっ』と――投げる。


「飲んでください。それを飲めば傷も消えて魔力も回復します」と付け加えて言いながら。


 それを聞いたガザドラは、激痛により体の動きが芳しくない様子だが、それでも最高級の回復薬を大人内容に、必死になってそれを両手でしっかりとキャッチして受け止める。ゆらりと瓶の中の七色の液体が波打つのを見たガザドラは――


「どういうことなのだ……? 理解が全くできん」


 と小さくごちると、レズバルダはもう一個ポケットから『最高級回復薬』を取り出すと、その瓶の蓋を『きゅぽんっ』と開けながら彼は言った。


 涼しい顔で、そしてリンドーの口にその瓶の口を無理矢理『ズボリッッ!』と突っ込みながら――


「話はあとでします。負けてしまったのであればあなた方のことを見ることはない。監視の目を欺くために遠回りをしますので、付いて来てください」と言うレズバルダ。


 無理矢理口に突っ込まれ、驚きと突然流し込まれる何かに驚きながら、リンドーはくぐもった声を上げて体を痙攣させているところを見ながら、ガザドラは再度リンドーの名を叫んだ。


 そして……。


 何とか命をもらったリンドーとガザドラは敵でもあるレズバルダの言葉に従いながら、暗い暗い路地裏を歩きながら足を進める。


 一体何が起きているのか。そしてなぜ敵であろう自分達に回復薬を手渡して何をしようとしているのか。


 もう何が一体どうなっているのか、てんで理解ができなかった。そして一体レズバルダは何を考えているのか、全く理解ができなかった。共感できなかった。共有すらできないと思っている二人。


「うぅ……。流し込まれた時、一瞬川が見えました……。おえ……」


 ガザドラは未だに警戒しながら歩みを進め、リンドーは体が回復したと同時に、無理矢理突っ込まれた液体のせいで見てはいけないものを見てしまったかのような気怠さを感じながら、青ざめた顔で舌を突き出す。


 そんなリンドーの言葉を聞きながら、レズバルダは二人を見ずに歩みを進めながら、路地裏を歩きながら彼は言った。


「すみません。ああでもしないとだめだと()()()()()()()ので。それに……、私は今現在『盾』の一人として、あなた方を殺さないといけない存在。致命傷を避けつつあなた方を戦闘不能に見せるのは大変だったのですから」

「………言われて、だと? それはまさか……、帝王に、か?」


 ガザドラは目元をぴくつかせながら警戒の目で見て言うと、それを聞いていたレズバルダは進めていた歩みをぴたりと止める。


 二人も止まってレズバルダを見ると――レズバルダは彼から見て右の方向を見る。そして涼しい顔で、冷静な音色で彼は言った。


「――着きました。こちらへ」


 彼は右の方向を手で差しながら言う。


 二人はその方向に首を動かし、顔を向けると――そこにあったのは……、腐りかけの木造の家だった。


 屋根や壁はしっかりと残っているが、ところどころの壁には白蟻に食べられてしまったかのような穴がいくつも残っている。更に言うと苔もこびりついている――長い間使われていないような雰囲気を醸し出していた。


 その家を見て、リンドーは「うげっ」と、心底はいることを嫌がるような顔をして見上げていたが、ガザドラはその家を見上げながら彼は横目レズバルダに向かってこう聞く。


「この家屋に、帝王がいるのか?」


 レズバルダは答えない。無言でその家屋を見上げながら黙ってしまっている。


 ガザドラはそんなレズバルダのことを見て、一度「なんとか言え」と言おうとした。


 言おうとした瞬間――


「ぎゃんぎゃん騒ぐな。全く……、若いもんはこれだから嫌なんじゃ」と、家屋の中から女の――否、老婆の声が聞こえた。


 その声を聞いたレズバルダは、すっと家屋に向かって深い会釈をしてから言う。


「申し訳ございません。()()()()。てこずってしまいまして」

「「え?」」


 レズバルダの言葉を聞いたガザドラとリンドーは、目を点にしながらレズバルダを見ると、その声を聞いてか家屋の中にいるであろう老婆の声は「ふんっ」と、鼻息をふかしながら古ぼけてしまったドアを開けてきた。


 ドアを開け、驚いて目を見開いて見降ろしている二人をしり目に、老婆はガザドラ達の前に姿を現す。


 真っ白でしわくちゃな肌。そして白くて地面に引きずるほどの長髪の髪の毛を三つ編みにして、ところどころに小さな色がついた石――瘴輝石をちりばめながら編み込んで、服装も白い髪と統一させるように白い足が隠れてしまうようなスカートのような服装で、大きな白い木のような杖を持ちながら小さい……、本当に小さくもいかつい顔をした耳が長い老婆は歩みをちょこちょこと進める。


 身長は大体九十センチもあるかないかと言うほどの身長だ。その身長の低さに驚きながら二人は見降ろす。目を点にして見降ろして……。


「まぁいいじゃろうな。改めて初めましてじゃな。儂の名はカカララマ・ヌーマデント。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。よろしくの。おバカにして勇敢な反逆者」


 と言い、前帝王にして現在は『癒し』の魔女でもある――ハンナ達が探している最後の魔女はフンっと鼻息をふかし、目を見開いて飛び出るのではないかと言うくらい驚いているガザドラとリンドーに向かって言った。

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