PLAY66 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅴ(強き者達)①
『た、た、た、大変なことが起こりましたぁ……っ! 実況をしている私もかなりてんぱっておりまして……っ! 今頭の整理をしています……! こほん……、今現在と言いますか、たった今起きたことに関してご報告いたします! 最初に『平民区の住宅街』で起きた協力者の勝利はお聞きしましたよね? これで帝国対反逆者の勝敗は――1―0! と思って最初のスタートはよかったです……っ。しかし……、『コンテナ集落』で起きていた戦闘、そして『美食広場』で起きていた我が帝国の最高幹部の一人の件ですが……。なんと、反逆者の手によって堕ちました……っ! 『コンテナ集落』にいた『バロックワーズ幹部も……。『美食広場』にいた『盾』の一人にして暗殺軍団団長……、ピステリウズさまが……、敗北してしまいました……っ! このようなことがあっていいと思いますかっ!? いいやあってはならない! これはまぐれだ! まぐれに決まっているでしょう! そう! これは敵の策略に嵌ってしまった結果と言っても過言ではない! それにまだ『盾』は五人もいる! その五人が反逆者を倒してくれるでしょう! 皆さん! どうか希望を捨てずに応援しましょう! 何もできない私達にできることはそれだけ! ただ反逆者の死を願うだけ! 救済を心の底から祈るだけ! さぁまだ『バトラヴィア・バトルロワイヤル』は始まったばかりだぁ! 皆さまどうか、どうか彼らの勝利を願い、画面越しでその勝利を祈っててください! 私も実況をしながら願っていますので、共に祈りましょう! バトラヴィア帝国の繁栄を、平和を願い、そして相手の死を願って!』
私は今の今までヘルナイトさんと同じ『12鬼士』が一人のボルケニオンからずっと逃げていた。
逃げて逃げて逃げて、戦うこと、そして傷つけることに対してすごく苦しんでいたボルケニオンを助けるために、私は走りながらその放送を聞いていた。
聞いて、私は目を見開いて、そのアナウンスを頭の中で再生しながら思い返す。
内容は戦場報告。と言うか、今のバトルロワイヤルの状況だと思う。
その放送を聞いて、私は足を止めて、心の奥底から零れ出そうになった暗いもしゃもしゃを感じてそのダムの決壊を防ぎながら思った。
――まさか……、誰かが負けた……? 誰が、負けたの? 誰かが、怪我をしているってことだよね……? でも……、勝利条件は相手の死か再起不能……。
――もしかしたら……、もしかしたら……っ!
どんどんと、どくどくと迫りくる不安と恐怖、そして悲しいもしゃもしゃを一気に体感して、そしてどんな顔をすればいいのか、どのように考えればいいのかわからないような気持ちを感じながら、私は自分のことを抱きしめて悶々と考えてしまう。
あの時のアナウンスの言葉が確かなのかはわからない。でも嘘は言わないだろう。実況と言っている時点できっと嘘偽りなどは言わないだろう。
だからこれも本当のアナウンス。
本当――つまりは誰かが負けて、重傷を負っている。苦しんでいる……。
アキにぃ、キョウヤさん、シェーラちゃん、虎次郎さん。
ボルドさん、ダディエルさん、ギンロさん、紅さん、リンドーさん、ガザドラさん。
セレネさん、ダイヤさん、ガーネットさん、ルビィさん、フォスフォさん、シノブシさん。
ボジョレオさん、セスタさん、レンさん、ノゥマさん、アクアカレンちゃん。
クルーザァーさん、ティズ君、メウラヴダーさん、ガルーラさん、ティティさん……。
色んな人の微笑みや笑顔、そして楽しそうな顔を思い出し、最後に思い浮かんだのは……、私のことを守ってくれて、この世界で最強で、そして……。
私のことを一人にしないと言ってくれた……、ヘルナイトさんのことを思い出してしまう私。
みんなの笑顔や微笑みを思い出すと同時に、どんどんとせき止めていた不安が私のことを覆いつくそうと渦巻いて行く。
あのアナウンスを聞いただけで、私は今まで大丈夫と思っていたそれがいとも簡単に崩れそうになっている。
一人で、そしてこの状況の中その不安を煽るようなアナウンスを聞くと、ここまで人は心を乱してしまうのか。
今までの私はそんなこと思わなかった。今まではみんながいたからそんな不安なんてなかった。
みんなの励ましの言葉があったからこそ、何とか気丈に持ちこたえていたんだ……。
人の力は本当にすごい。と思ったのは一瞬で、私はすぐにはっとして負傷をしてしまった人のことを思いながら辺りを見回す。
「どこにその『平民区の住宅街』があるんだろう……、早く行ってあげないといけない……。どこにその住宅街があるんだろう……。でもボルケニオンのことも心配……、だけどみんなのことも心配で……、うぅ~ん」
心の声を声に出して言うと、私はきょろきょろと辺りを見回してその場所に行こうと目論んだ。
心の声を声に出したのは不安をかき消すためにした行為でもあり、私自身声に出さないとどんどん不安や恐怖、そして最悪の想定をしてしまうので、言葉にしてその不安を紛らわそうとしたからこそ、心の声を声に出して言ったのだ。
みんなのことを助けたい。でもボルケニオンをこのまま放っておくこともできない。
やらなければいけない二つのことを天秤にかけ、私はどちらを優先にすればいいのか。甘い話だけど、そうしたら両方を助けることができるのか模索した。
悶々と模索しながらうんうん唸って考える。
「うぅ~ん……」
こんな時アキにぃ達がいてくれたらいい案が思い浮かぶのだけど、一人だと冷静な思考が定まらず、逆に不安のせいでいい案が思い浮かばない。
今思うと、一人ってこんなに苦しくて怖いものだったのか……。
そう思いながら私はみんなの存在に感謝し、そして今の状況をいち早く打破しないと。と思い、私はその平民区の住宅街に足を進めて、そこで倒れている誰か二人の回復をしてからボルケニオンのことを考えることにした。
暴走は私には止められない。でも何とかしてその暴走を止めないといけない。
ヘルナイトさんがいない今――私一人でなんとかしないといけないんだ。
そう思いながら私はぎゅっと自分と腕の中にいるナヴィちゃんのことを抱きしめて、小さな声で「よし……、やるしかない。よね」と、真剣で不安が混じった声で意気込むと……。
ナヴィちゃんもそれを聞いて、心配そうに私のことを見上げながら「きゅぅ……」と鳴いていたけど、私はそんなナヴィちゃんの頭を撫でながら控えめに微笑んで心配させないようにこう言う。
「心配しないで。大丈夫だから。大丈夫だから」
まるで自分に言い聞かせているような言葉で、私はナヴィちゃんのことを安心させようと言葉を投げかける。
自分にも言い聞かせているようで少しおかしいようなそれを感じたけど、そんな悠長なことを言っている暇も、している場合でもなかったのだ。
今の私は――絶賛逃げている真っ只中なのだから。
「――うううがああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」
「っ!」
「くぎゅきゃっ!」
突然聞こえた大声――ううん。これは怒号だ。
その声を聞いたと同時に、私は肩を震わせて小さな声を零しながら腕の中にいるナヴィちゃんのことをぎゅっと抱きしめてしまう。
思わず怖いと直感してしまい、思わずナヴィちゃんのことを力強く抱きしめてしまったので、ナヴィちゃんは蛙のような声を上げて唸り声を上げてしまった。
それを聞いた私ははっとして、慌ててナヴィちゃんのことを見降ろすと、ナヴィちゃんは圧迫されて呼吸がままならなかったのか、ふぅっと息を吐いて肺にたくさんの空気を取り入れながら「きゃーっ。きゅーっ。きゃーっ。きゅーっ」と、深呼吸をしていた。
その光景を見て、思いっきり首を絞めていたことに気付いた私はわたわたと汗を飛ばしてナヴィちゃんの頭を撫でながら――
「ご、ごめんね……、強く抱きしめすぎちゃった……」
と謝ると、ナヴィちゃんは体を横にふりふりと振りながら大丈夫と意思表示をして、すぐに私の腕から飛び降りて地面にぴょんこと降り立つと……。
ナヴィちゃんは「きゅきゅっ!」と鳴きながらぷんすこと鼻息をふかして、すぐに体を力ませながら丸くなる。
ぐぐぐぐぐっと体を丸めて、体に力を入れながらナヴィちゃんはまた体を白く発光させて、そのままその光をどんどん大きくして身体中を大きく膨張させながら、ナヴィちゃんはまた私のことを守るようにドラゴンの姿になって、私達の元に向かって走って迫っているボルケニオンに向かって――
「グァァアアアアアアアアアアアアッッッ!」
と、大きな大きな咆哮を上げながらナヴィちゃんは私のことを攻撃しようと迫りくるボルケニオンに向かって、竜特有の鉤爪を仕向ける。
猫がご主人の顔を引っ掻くように…………、と言うと可愛らしいけど、そんな生易しいものではない。ナヴィちゃんの場合……、普通の竜だったらそんなことをされたら即死か潰されて即死だと思う。
それでもナヴィちゃんはそれを本気で繰り出してボルケニオンを止めようとしていた、私のことを少しでも遠くに逃がすように。ナヴィちゃんは自ら囮になりながらボルケニオンに立ち向かっていた。
何度も何度も――立ち向かっていた。
何度も何度もドラゴンに変身して、急接近してくるボルケニオンを止めながら、ナヴィちゃんは私のことを守って戦ってくれた。
その姿はまるで、ヘルナイトさんの行動を真似しているかのように、ナヴィちゃんは果敢に立ち向かっていた。
でも――
ブワリと振り下ろされる竜の鉤爪。
それを見たボルケニオンは走っていたその動きを止めて、振り下ろされるナヴィちゃんの鉤爪を見上げ、彼は徐に点に向かって両手を上げる。万歳でもするかのように上げたと同時に――
――バスゥンッッッ!
と、ナヴィちゃんの大きな鉤爪の切り裂き……、ではなく、叩きつけが振り下ろされたのだ。切り裂いてもすごい怪我をすると思うけど、叩きつけでもこれはこれですごい大けがだ。
多分……、普通の人なら即死。だ……。
その光景を見ていた私は、ドラゴンになったナヴィちゃんのことをおずおずとした面持ちで見上げ、そしてあの時感じた不安とは違ったそれを顔に出しながら、私は言う。
ううん。言う。と言うよりも……、注意。をした。だってあれは流石にやりすぎな気がするし、今までだってこんなことしなかったから……、私はボルケニオンに対して申し訳ないと思いながらナヴィちゃんに向かって注意を促した。
「ナヴィちゃん……。やりすぎだよ……っ。さすがのボルケニオンも大けが……、ううん。これはもしかしたらということもあるから、その時は『蘇生』するからね」
「グルゥッッ!? グルルルルルルルッッッ!」
「首振ってもだめ。それに……」
私は首をぶんぶん振って駄々っ子のように唸っているナヴィちゃんのことを少し、ほんの少しきつめに否定しながら、私は言いかけた言葉を一旦区切り、言葉を整理しながら、心を整理しながら口をゆっくりと開こうとする。
ここまでくる間――私は色んなものを見て、色んな光景を見て、経験してきた。
まだまだ一部のそれだと思うそれを受けて、見て、体験した私。
人の死を、その覚悟を。
プレイヤー達の覚悟と強さを。
この世界の異常さを、そして最長老様が言っていた通りの醜さを知って……。
今まで見たことがなかった感情。体験したことがなかった裏切りと衝突を体験してきたけど……、それでも私は進まなければいけなかった。その現実を受け入れて、乗り越えてきた。
けど、私の行動一つで、私の言葉で何かが変わったかもしれない。そう思うことが度々あった。よくある過去を変えられたらよかったという願いを抱えていた。と言った方がいいかもしれない。
何もできない私だからこそ、何かをしたかった。変えられるようなことをしたかった。
何かしないとと言う焦りはそれで、何かをしないと変えられないという焦りが、私の心をかき乱し、そしてちょっとした奇行をしてしまうこともあった (奈落迷宮のあれがそれである)。
我儘な話……、私は何もできない。なのにいっちょ前に助けたいと心の底から思っていた。何もできないくせに救けたい。そう思っていたけど、どんどん先に進むにつれて、無力さを痛感してしまっていた。
だから私は思った。
もうこれ以上犠牲を出したくない。敵であろうと味方であろうと……、犠牲を出したくない。これ以上……、悲しい連鎖を引き起こしたくない。
敵を助けることはたぶん……、アキにぃ達が許さないと思う。けど……、それでも私は……。
私は………。
もう……、傷つくところを見るのは嫌だ……。
傷つくことも嫌だけど、他の人達が傷ついて壊れていく姿を見るのももっと嫌だ。
我儘な願望だけど、それでも私は傷つくところを見るくらいなら自ら前に出てその傷を癒したい。心はどうかはわからない。けど体の傷は癒せる。この力を使える時だけは、この我儘を貫きたい。
そう心に決めて、これでこそ夢物語のような目標だけど、私は進むにつれてどんどん増えていく目標を掲げながら口を開く。
浄化をする。この世界を救ける。現実の世界に帰る。そして……、もう悲しみに連鎖を出さないように……。
救けたい。
そう思って、私はナヴィちゃんに向かって、少しだけむっとした顔をして見上げて言う。
「――ナヴィちゃんもそうされたらいやでしょ? 痛いことはいやでしょ? だからナヴィちゃん。そんなことしたら駄目。いいね? めっ!」
「グルゥ……。グルル……」
めっ! と、私はその言葉だけは少しだけ強めに言い、ナヴィちゃんに向けて人差し指を突き付ける。
もうしてはダメと言う意思を込めて、私はその動作をすると、ナヴィちゃんはバツが悪そうな顔をして唸り声を上げながら私のことを見降ろしている。
でも私は首を横に振るうだけ。
今回は少し厳しく行くからねと言う意思を込めて、私は首を横に振ったのだ。ふんっ。
それを見て、ナヴィちゃんはドラゴンで威圧がすごいのに、まるで怒られてしまった子供のようにしょんぼりとしながら「グルゥ……」と唸り声を上げてその手を離そうとした瞬間……。
ごご…………。
と、どこからか音が聞こえた。その音は崩れる音でもなければ、誰かが接近してきた音でもない。強いて言うのであれば……、それは……。
何かを持ち上げる音。
「っ!?」
「グルッ! グゥ……ッ!?」
私は驚いてその音がした方向を見ると、ナヴィちゃんもそれに気付いてその方向を見たけど、その異変をいち早く察知していたナヴィちゃんは振り向いたと同時に顔を歪ませる。
痛いというもしゃもしゃを出しながらナヴィちゃんは唸って、そして振り向いた方向を痛覚で歪ませながら……、警戒した面持ちで見た。
その顔を見て私はナヴィちゃんの名前を呼ぶ。慌てて呼ぶと、音がした方向から……、声が聞けた。
「ううううううううううごおおおおおおおおおおおおおおおおおお……………っ!」
獣の唸り声……、違う。これはそれ以上に野太く、更に言うと熊とかそいう言った猛獣の声を掛け合わせたかのような野太い声だった。
その声を発していたのは――ボルケニオン。
聞き間違えることなんて絶対にない。
でも驚きのあまりに、私は震えることも、声を発することも、そして――ナヴィちゃんの注意をするという無駄な時間を過ごしてしまったことに、私は後悔していた。
ただただ後悔していた。なぜ? 理由は簡単だ。
ボルケニオンは『12鬼士』。
鬼のように強い騎士団。
魔王族の一人でヘルナイトさんと同じ所属の人。
力の差はたぶんヘルナイトさんの方が上だけど、それでもボルケニオンは強い。
だって――鬼よりも強い騎士団の一人だもの。
トリッキーマジシャンさんやデュランさん、キメラプラントさんにキクリさん、アクアカレンちゃんにシノブシさん。そしてヘルナイトさん。
みんなは『12鬼士』。簡単に倒れるほどやわではない。それを見ていなかった私は、もっと愚かだった。
振り下ろしたナヴィちゃんの竜の鉤爪を――よくアニメや漫画である大岩を盛り上げるような体制で耐えながら、ボルケニオンはナヴィちゃんの手を持ち上げていた。
未だに押し付けているであろうナヴィちゃんの手を……、持ち上げようとしていたのだ。
「グゥ……ッ! グルウウウウガアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
「ううううぬうううああああああああああああああああああああああっっっ!」
二人の咆哮と叫びが奏で合う。二重奏として奏で合い、そして辺りに響き渡らせる。
ナヴィちゃんはボルケニオンはことを潰そうとして手に力を入れているけど、その力なんて動作もないと言わんばかりに、ボルケニオンは凄い力でナヴィちゃんの力を押し出す。
力の差は歴然。その言葉が正しいような光景が私の目の前に広がって……。そして――
「――『紅蓮業火双拳連』っっ!」
と言った瞬間、ボルケニオンは上を――ナヴィちゃんの竜の掌を見上げながら――支えていた両手の内、右手だけをふっと、目にも止まらない速さで離したと思った瞬間……。
その右手の拳を、炎を纏った拳をナヴィちゃんの竜の掌に向けて『ドォンッ!』っと打ち付けた。
それを受けたナヴィちゃんは唸り声に似た痛みの鳴き声を上げて、口を開けて目をきつくつぶる。
その顔を見た私ははっとしてナヴィちゃんのことを見ようとした瞬間、私は目の端に映ってしまったそれを見て、改めてボルケニオンの強さ、そして恐ろしさを垣間見ることになる。
ボルケニオンは気合が入った声を張り上げながら、ナヴィちゃんの竜の掌に向けて、両手の拳を幾度となく打ち付けていた。
連打のように、炎を纏ったその手をナヴィちゃんの手に打ち付けながら攻撃を繰り出している。
その光景を見てしまった私は、言葉を失いながらその光景を見ることしかできなかった……。
今まで味方として見てきた『12鬼士』。でもこれが普通なのかもしれない。と……、頭の片隅でそう思ってしまう。
だってゲームの時は普通の敵で、強敵だった『12鬼士』。それは今となっては自我を持っていて、協力や一緒に旅をしてくれる心強い人達だけど……、敵になった瞬間、それは反転する。
安心から絶望、危機に切り替わって、私達の戦意を大きく大きく削ぐ。
よくある話――味方ならいいけど、敵にすると恐ろしい存在だ。それがこれである。
味方にすればきっと心強い人だけど、敵に回った瞬間その心強いという安心は消え失せ、残るのはただの恐怖だけ。
それを体感しながら、私はボルケニオンの炎の猛威をただただ見ることしかできなかった。固まった状態で……、それを見ることしか、茫然とその光景を目に焼き付けることしかできなかった。
そんな私を現実に引き戻してくれたのは……。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
「っ! な、ナヴィちゃんっ!」
ナヴィちゃんの、悲痛な叫び声。
小さい子供が転んだ時に大泣きするようなその声を上げて、ナヴィちゃんは痛みに耐えきれずに鳴いて泣いて……、そして……。
ぼふぅんっっっ!
と、体中から白い煙を放出して、ナヴィちゃんの体は白いそれに覆われてしまう。
ボルケニオンはそれを感じて唸り声を上げながら辺りを見回している。白い煙越しに見える影がそのような動作をしていたので、多分私達のことを探しているのだろう……。
そしてその白い煙を掻い潜りながら、私はナヴィちゃんを探す。わさわさと手でその煙を払いながらナヴィちゃんを探した。
さっきまでの叱りが突然消えてしまった。そして絶望が舞い込んできた。私はどれだけ絶望に好かれているのだろうと思ってしまうくらいの舞い込み方だ。
声を出してしまえば、ボルケニオンに気付かれるかもしれない。ナヴィちゃんは最後に力を振り絞って目くらましをしてくれたんだ。
ナヴィちゃんの気持ちを無駄にしたくない。その気持ちを抱えながら、私は探す。ナヴィちゃんを――小さなナヴィちゃんを……。すると――
――ぽふり。
「っ!」
突然私の左頬に来たふわふわした感触。それを感じた私は驚いた顔をして左肩に乗っているそれを見た瞬間、私ははっと息を呑んで見た。
私の肩に乗っているのは――ナヴィちゃんだった。
しかもすでにドラゴンからフワフワした可愛らしい姿になっているけど、ナヴィちゃんの体の横からは赤い血が零れ出ている……。どろどろと、私の肩の服を赤く染めていく……。
痛みでえんえんと泣いて、ぽろぽろと涙を零しているナヴィちゃんを見た私は、考えることを放棄して、ナヴィちゃんのことを優しく手で覆って腕の中に抱きしめた後――私は一目散にその場から逃げる。
ボルケニオンから逃げ出す。絶体絶命な状況で、私は逃げ出す。
走りながら、呼吸が乱れる中……、私はナヴィちゃんに『中治癒』をかけて傷を癒し、捕まらないように駆け出しながらナヴィちゃんに向かって言った。
「ごめんね……っ。ごめんねナヴィちゃん……っ! 痛かったでしょ……? ごめんね……っ!」
そんな私の後悔の言葉を聞いてか、すっかり傷の痛みがなくなって元気になったナヴィちゃんは、私の声を聞いてか目を点にして見上げている。
そんな顔をしていたナヴィちゃんだけど、すぐに私の腕の中で元気な声を上げて「きゅきゅきゃっ!」と、私のことを励ますように満面の笑みを浮かべながら鳴くナヴィちゃん。
でも――私はそれを聞いても、結局残るのは後悔だけ。
そして不安が更に大きくなってしまい、帝国の本気を垣間見た瞬間私は察した。
帝国は、バロックワーズは、本気で私を殺しに来ている。
ボルケニオンのあの攻撃を見て、そして凄まじいあの光景を見て、私は自分の身に置かれた状況を理解していなかった。甘く見ていたのかもしれない。
命を狙われる。そして殺されることがこんなに怖いことだなんて……、なんで忘れていたのだろう。最初はあんなに過敏だったのに……。
でも、それを理解したところでボルケニオンのあの苦しい顔を見てしまったら、それを放棄することなんてできない。投げ出すことなんてもうしたくない。
決めたんだ。救けるって。そう決めたんだ。
ナヴィちゃんのことは後悔した。もうあんなことにならないためにも、私はナヴィちゃんを抱えて、必死になってボルケニオンから逃げる。逃げて逃げて逃げて……、何とかしてボルケニオンを助ける方法を探る。
今は『平民区の住宅街』に向かおう。場所はわからないけど……。
絶望に好かれているこの状況を打破するために、私は負傷しているであろうその場所に向かって駆け出す。
駆け出して、ボルケニオンの攻撃を受けないように、助ける方法を探しながら必死に足を動かす。
みんなのことを信じて、私は駆け出す。
◆ ◆
絶望に好かれることはなんて不憫だと思うだろう。
だが、そんな絶望は常日頃から人の背後に巣食っている。それはある時からでもあり、その日を境にということもあるのだ。
しかし……、されどしかし……、たまにこう言う人がいる。
生まれた時からその絶望に好かれている。
そう言った人物は限られた人であり、その人物は今現在――Drと相対している人物こそがその生まれた時からその絶望に好かれている存在である。
そう……、コノハはその絶望に好かれながらも懸命に生きてきた……悲しい悲しい少女で、彼もその一人なのであった……。




