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PLAY06 初陣決戦⑤

 来てくれたヘルナイトさんに、私は嬉しさのあまり『へたんっ』と尻餅をついて腰を抜かしてしまった。


「あ、ハンナ……ッ!?」


 アキにぃが腰を抜かした私を心配して駆け寄ってきたけど、私はそれよりもヘルナイトさんが来てくれたことに嬉しくなって、変に笑みが綻んでしまった……。


 ヘルナイトさんは私を一瞥し、そしてサラマンダーを見て大剣を構えた。


「あれって……!」

「ヘルナイトか……」

「おおおぉ! 加勢サンキュー!」

「敵ですっ! アレ敵! ヴィ、ラ、ンッ!」


 ララティラさんとコウガさん、ダンさんとブラドさんの声を聞いても、ヘルナイトさんは――


「――やはり、流石は『八神」が一体」


 と呟いた後……、エレンさん達を見て彼は言った。


「ここは私に任せろ。お前達では勝てない」


 きっぱりと言わんばかりに――はっきりと言った。


 それに対し反論したのは――


「何言ってんだ! 敵のくせに、誰が信じるかっ!」


 アキにぃだった。私はアキにぃを見る。


 アキにぃは今まで見たことがないような怒りをぶちまけて、ヘルナイトさんにぶつけていた。


 それを見た私はそっとアキにぃのポンチョを優しく引っ張る。


 アキにぃはそれに気付いて、私を見降ろした。


「アキにぃ……、任せて?」


 それだけ言って、私はそっと立ち上がる。


 アキにぃの呆けた声と、理解できないような複雑な表情を見て、私は内心謝りながら横穴から出る。そしてヘルナイトさんを見て、頷いた。


 不安が勝るその顔を見て、あなたはどう思ったのだろう……。でも、ヘルナイトさんは私を見て、ただ……。


「――私の合図が出たら、すぐに唱えてくれ」


 と言って、次にヘルナイトさんはエレンさん達を見て――


「そこにウィザードの女性も、お願いできるか?」

「へ? え?」


 ララティラさんを見て、ヘルナイトさんは言った。


 それを聞いて、ララティラさんは素っ頓狂な声を上げつつ、自分を指さして、何で私? と言った感じでヘルナイトさんを見ていた。


「お前から、水の魔力を感じたからだ。何か持っているのだろう?」

「あ」


 ララティラさんはヘルナイトさんに言われ、何かを思い出す。


 それを見たエレンさん達は「え? なに?」と言った感じでララティラさんを見ていたけど、ヘルナイトさんは頷いて……。


「そちらに合図を送ったら、唱えてくれ」


 そう言うと同時に、サラマンダーがヘルナイトさんを見て、前足の踏み付けを仕掛けてきた。


 でも、ヘルナイトさんはそれを見て、ただ大剣を、横に振った。


 すると――サラマンダーの足の指が切れて、ぼとんぼとんっと斬り落とされていく。


「グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」


 叫ぶサラマンダーをしり目に、ヘルナイトさんはなんの疲れもなく、ただ切ったそれをブンッと振るって、サラマンダーの血が付いたそれを振り落した。


「あれ……? 斬れた?」

「溶けてねえな……」


 ブラドさんとコウガさんの声が聞こえる中……。


「ウィザード!」


 と、ヘルナイトさんは叫ぶ。


 それを聞いたララティラさんは、ぐっと杖をサラマンダーに向けて、そのまますぅっと息を吸った。杖の先に……、小さい水の球が出てきた。と同時に……。


「さぁさ姿を見せよ。水の聖霊よ」


 ララティラさんが唱えると同時に、杖の先にあった水が、どんどん質量を多くして、ごぽごぽと音を立てながら大きく、形を成していく。


 その間に、ヘルナイトさんはサラマンダーの鉄球の攻撃を大剣の腹で受け流す。


「そなたたちに問う。我思うは我ら生命の原水。我願うは我らに水の加護を」


 そしてその鉄球がついたところに、思いっきり大剣の柄を強く打ちこむ。ごぉんっという音と共に、鉄球はいとも簡単に、破壊してしまった。


「ええええええっ!?」

「壊れやがったっ!」


 エレンさんとダンさんが驚く中、ララティラさんの詠唱は続いている。


 杖に集まっていた水は、すでにサラマンダーと同じくらいの大きなとなって、私達が見たことがあるようなそれに姿を変えていく……。


 ヘルナイトさんは大剣を持ったまま、サラマンダーに駆け出して近付き、サラマンダーの隙をついて残っている足に切り傷を、指を切り裂いて、尻尾も根っこの方から切り落とした。


 サラマンダーは大きな痛みの咆哮を更に大きくし、どぼんっとマグマに浸かった。それはまるで、お風呂のように。


「彼らに自然の力を、食らわせん」


 と言って、ララティラさんはぐんっと杖を振り上げて……、そのまま一気に――


「離れてろ」

「「「「え?」」」」


 ヘルナイトさんの言葉を聞いて、エレンさん、ダンさん、ブラドさん、コウガさんが何がという顔をして、首を傾げていた。


 アキにぃは私を担いで、少し高い岩場に飛び移った。


「?」


 私もきょとんっとして見ると……、ララティラさんが作ったそれは、サラマンダーに目を向けて……。



「――『鯨の(ホエール・)大暴れ(ダルダイウェイブ)』ッ!」



 ブンッという音が出るように振り下ろしたと同時に、ララティラさんが作った水の鯨は、サラマンダーに向かって、まるで海の飛び込むように落ちていく。


 サラマンダーはそれを見てすぐに上がろうとしたけど……、時すでに遅し。回復もまだ滞ってない状態での攻撃。それをサラマンダーは、受ける他なかったのかもしれない。


 その水の鯨は、サラマンダーを飲み込んで、あろうことか逃げ遅れてしまったエレンさん達を巻き込んで、その場所一帯を水の世界に変えてしまったのだ。


「「「「うぎゃあああああああああああああああああああああああああっっっっ!?」」」」


 四人の叫びがその場で木霊する。それを聞いた私達は……。



 無言のまま、呆然として見ていた私達兄妹。そしてヘルナイトさんは少し高めの岩場に乗って、そのまま待機している。


 渦を巻いて、私がいた横穴から水が抜けていく。


 マグマ地帯だったそこは、急激に冷やされたせいで地面と化していた。ところどころで、エレンさん達がびしょびしょの状態で倒れていた。


 ララティラさんも驚いてそれを見ているだけだった……。


 ……、大丈夫かな……。


 そう思っていると、直撃して、その中央にいたサラマンダーは、ひどく衰退していて、そしてぶるぶる震えながらその場で蹲っていた。マグマに浸かっていたせいで、足も抜けなくなっている。


 文字通り……、手足も出ない。


 それを見たヘルナイトさんは、地面に降り立って――大剣をしまい、腰に差していた短剣を手に持つ。


 サラマンダーは震えながらなんとかもがいて抜け出そうとした。


 でも抜けなかった。


 かなり深く入れていたせいで、抜くのに時間がかかっているようだ。


 するとその時――



「――ぉぉぉぉぉおおおおおオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッッ!!」



 上から声がした。私は上を見上げる。アキにぃも、ヘルナイトさんも、ララティラさんも。


 そこには――


 今まで見たことがないような、赤くて、大きな刃がついている槍を持って、落ちてきて構えているキョウヤさん。


「キョウヤさんっ!」


 私は叫んだ。でもキョウヤさんの視線はサラマンダーで、サラマンダーの胴目掛けて、その大きくなった槍を軽々と振り回し、そして一気に、急降下して――



「――『殲滅槍(せんめつそう)』っ!」



 ぐんっとやり投げのように投げて、そのままサラマンダーを。


 ドズゥッと串刺しにした。貫通はしていない。ただ背中に急に来た重みで、ひしゃげているように見えただけだ。


 それを受けて、サラマンダーはまた痛みの叫びを上げる。それを聞いていた私はこれが終わったら、治癒できるかな……? と、アキにぃに担がれて、地面に降ろされながら思った。


「ハンナ」

「!」


 ヘルナイトさんが短剣を手に持って、もう片方の手でその剣を隠すように手を添える。


 私は祈るように、流れる動作で、自分の手を重ねて、指を絡めるようにして……。唱えた。


「此の世を統べし八百万の神々よ」

「この世を総べる万物の神々たちよ」


 まるでそれは、何かの儀式のように見えた。


 ヘルナイトさんは短剣をそっと引き抜く。すると――黒い刀身だったそれが、淡く白く光りだしている。


 私は詠唱を続け、ヘルナイトさんも続ける。


「我はこの世の厄災を浄化せし天の使い也」

「我はこの世の厄災を断ち切る魔の王也」


 その言葉は、まるでこの二つは一つの詠唱として謳われているかのような内容だ。


「我思うは癒しの光。我願うはこの世の平和と光」

「我思うは闇を断ち切る光。我願うはこの世の安息と秩序、そして永劫の泰平(たいへい)


 ヘルナイトさんの短剣の刀身が白く光り、あろうことか短剣よりも長くなっていくそれを見て、私は詠唱を唱えながら、驚きを隠せなかった。その刀身を見て、だ。


 すらりと抜かれたその短剣は、刀のようなものではなく、よく勇者が使うような剣。白く淡い光を纏っているその剣は。ヘルナイトさんが持っているその剣はまるで……。


 正真正銘の、退魔の剣に――見えてしまった。


 かちりと、それを片手で握って、ヘルナイトさんはぐっと足に力を入れ、一気に、身動きが取れなくなったサラマンダーに向かって走る。


 そして――私と一緒に、詠唱を唱える。


「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の息吹を、天の息吹を以て――浄化せん」

「この世を滅ぼさんとする黒き厄災の刃を、我が退魔の剣を以て――鉄槌を食らわす」


 ヘルナイトさんはその剣を持って、すぅっと、剣の軌道に沿うように……、流れるように……。



「――『断罪(だんざい)晩餐(ばんさん)』」



 スパンッ!


 と、大きい斬る音が聞こえた。でも、ヘルナイトさんが斬ったのは……、サラマンダーではない。その周りをうようよと浮いていた……、黒い靄だ。


 ヘルナイトさんはそれを、斬る。斬る。斬る。斬る。斬る。斬る!


 斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくる。


 そして、ずばぁんっという音が、サラマンダーの銅を切り裂くような音が響いたと同時に、ヘルナイトさんは私を見た。


「今だっ!」


 私は頷いて、すぅっと息を吸って――目の前に手で作った簡易な風を流すそれを作る。


 そして、私は、最後の言葉を唱えた。



「――『大天使(だいてんし)息吹(いぶき)』」



 ふぅっと息を吹きかけると、私の吐息から、白い気体が出てきた。


 よく見る風が吹き抜けるような、そんな流れる風。


 その風はひとりでにサラマンダーに向かって、そして包み込むように周りを回る。


 くるくると、それは意志を持っているかのように。ううん。意志はある。


 なぜなら――


 私が吹きかけた吐息は、形を変えて、慈愛溢れる聖女に姿を変えて、私がしたのと同じように、サラマンダーの頭上で、ふぅっと――光輝く吐息をかけたのだ。


 キラキラ輝くそれは、サラマンダーを包んで……。


 痛みと暴走している咆哮を上げて、サラマンダーはその光に包まれてしまった。


 それを目を凝らして見ていた私達。


 ヘルナイトさんだけは、それを見ているだけだったけど、そっと頭を押さえてることには、誰も気付かなかった。


 その光は少しして光を失い……、あの慈悲深い女の人は風と共に消える。そして残ったのは……、寝ているかのように蹲っているサラマンダー。


 私はそれを見て、もしかして……、と罪悪感を思えた時……、ヘルナイトさんは私を見て近付き……。


 凛とした声で言った。


「――大丈夫だ」


 それを聞いて、なぜかその言葉に、信用性があると感じた。


 信用できる。信じられるというそれだけど……。


 この感覚……、どこかで……。


 そう思っていると、ずんっという大きな音。


 それを聞いた私は音がした方向を向くと、目を疑った。


 サラマンダーが、地面から足を抜いて……這い上がってきたのだ。


「あ……っ!」

「ウソ、だろ……っ!」

「おいおいおい……っ!」


 アキにぃとキョウヤさんが驚く中、ヘルナイトさんはそれを見て何も言わない。強いて言うなら、見ているだけだった。


「な、なにしとるんや! はよ助けんとっ!」


 ララティラさんの言葉を聞かないかのように、それを見ているヘルナイトさん。


 サラマンダーは、ずん、ずんっと……ゆったりとした足取りで私達に近付く。近くにいたアキにぃは銃を構えて、銃口をサラマンダーに向ける。



 びりっと、一気に緊張が走る……。


 そしてサラマンダーはずんっと、あと三歩で私を食べれるというところで足を止めた。


「……へ?」


 アキにぃの呆けた声。銃を降ろしてそれを見る。


 私はそれを見ると、サラマンダーが私を見て……。



 ――ありがとう。小さき天の使いよ。そして退魔魔王族よ――



「!」

「? どうした?」


 野太い声。


 これは……サラマンダーの声だ。


 サラマンダーは脳に直接響く声で、大きな頭を下げて言った。


 ――ようやく、纏わり憑いていた瘴気が取り除かれた。礼を言う――


 その言葉がさすこと……、それは。


「……成功したんだ……」

「へ?」

「お?」


 アキにぃとキョウヤさんが私の言葉に疑問を持って聞く。


 私はぎこちなく笑みを浮かべて綻んだ緊張を解き放つように小さく、それでいて『できた』という安堵と喜びを打ち明ける。


「――浄化、できたよ……っ!」


 初めての浄化。それが私の誓いの第一歩でもあった。



 □     □



『八神』――炎のサラマンダー。浄化成功。


 残り――七体。

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