PLAY65 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅳ(戦う理由)⑤
回想が終わったところで、場面を切り替えよう。
ボジョレヲとセスタの戦いも気になるところではあるが、今はその前に生まれていた疑問についての答えを提示しなければいけない。
それはガーネットとシェーラの対戦相手でもあるクレオの言葉だ。
クレオは淡々として、無表情に似たそれで彼は女性二人に聞いてきた。
その言葉を聞いて――開口口を開いたのは……、シェーラだった。
「何のために、戦う? 何を言っているの……っ!? そんなの簡単じゃないっ! この世界から出るために、ラスボス『終焉の瘴気』を倒す! クリアをするために戦っているのっ! 切り札となる二人がいないとクリアできない……、だから私達はあの娘を守らないといけないのよ。………鬼士の方は助けなくても大丈夫だと思うけど」
シェーラは疑問を提示したクレオに向かって問い詰めた。
最後の方だけはそっぽを向いて小さな声で言ったが、それを聞いていたガーネットは納得がいかない顔をしてシェーラの話を聞いていた。
それを聞いていたガーネットも怪訝そうな顔をしてクレオのことを見ていたが、クレオは淡々とした顔と口調で二人のことを完全に見下しながらこう言った。
「『何を言っている』? 俺は普通に言って、普通の意見を述べたまでだ。なぜそこまで必死になって戦い、死ぬ気で勝ちを獲得して、そして正式のルートでクリアしようとしているんだ? 俺にはてんで理解ができない」
クレオは溜息を吐きながら腰に手を当て、口に溜めていた息を吐き出しながら続けてこう言う。
手に持っている大槌を『ごんごんっ』っとコンテナに打ち付けながら言った。
「この世界は確かにリアルに近いような五感に痛覚。現実とさほど変わらない空間で面白い世界だ。お前達は本当になんのために戦っているのかがてんで理解できない。クリアしたいがために戦う? それだと面白くないじゃないか」
「何を言っている? 貴様」
クレオの言葉を聞いたガーネットはクレオのことを『じろり……』と睨みつけながら質問に質問で返すと、その言葉を聞いたクレオは肩を竦めながら溜息交じりに「質問に質問で返すか……」と、オウム返しされたかのような感覚ではあるが、それでもクレオは言った。
呆れながらガーネット達のことを完全に見下しながら彼は言う。己の頭を指の先で『こつこつ』と小突きながら、彼はこう言う。
「『何を言っている』? ハイ二度目。本当に知能指数が低い輩は面倒くさいし話をすることすら面倒くさくなる」
「………お前のその言動がむかつくぞ。私は」
「吠えてろ」
ガーネットの言葉を流すように、クレオはシェーラとガーネットのことを見下し、戦闘の真っただ中にも関わらず、彼はその場で座りながら、胡坐をかいて二人のことを見降ろしながら言う。
余裕の雰囲気を出しながら、彼はこの状況でも勝てると打算しているかのような面持ちで言ったのだ。
「いいか。この世界はゲームの世界だ。それは誰でも周知の上で、俺や妹、他の人もDrも知っている事実で隔離さえれていることは誰もが理解している。Drもその一人だ」
「そんな当たり前なことを言って、何が言いたいの? なんでそんな誰だってわかることをわざわざ……?」
シェーラは聞く。クレオのことを見上げながら意味が分からないような顔を浮かべて言うと、それを聞いたクレオはシェーラのことを見降ろして――
「わざわざ? わざわざ言わないとお前達はこんな居心地のいい世界を壊してしまうだろう?」
当たり前なことを宣言したかのように、彼は無表情の裏に隠れた驚きをシェーラ達に見せた。張りのある声で、なぜそんなことを言うんだという驚きを見せながら……。
無表情の裏に隠れた驚きとは対照的に、二人はその言葉を聞いてぎょっとした目でクレオのこと見上げながら「「は……はぁっ!?」」と、二人は素っ頓狂な声を上げてしまった。
無理もないだろう。
クレオははっきりとした音色で言ったのだ。現実世界とは全然違う対照的な異世界のゲームの世界を……。
理事長によって監禁され、死にはしないが、それでも死と隣り合わせのような日々を送らされ、強制ログアウトになった途端にRCのいいように使われる日々を送らされる。
仮想世界にいても、現実世界に帰れたとしても……、結局は地獄。
地獄のような世界を生き抜くことですら不安を抱いているにも関わらず、クレオはこの世界に対してこのように例えた。
居心地のいい世界だと。彼は言ったのだ。はっきりと大きな声で言ったのだ。
それを聞いたシェーラは、心の中でクレオのことを『頭がおかしいいかれた馬鹿なのか……?』と思ってしまった。本心で正直に素直にそう思ってしまった。
彼女は途中からハンナ達と一緒に行動を共にしているが、ハンナ達のこれまでの旅を振り返ると……、これまで出会ってきたプレイヤーの殆どは、帰りたい一心で戦っている者が多かった。
まだ新しい記憶で言うとろざんぬがそれである。
が……、一部だけ例外がいるとすれば……、エストゥガで出会った『音フェチ』の快楽殺人鬼エンドー。
アムスノームを牛耳ろうとし、そのあとで世界を手に入れて自分だけの世界を作り上げようと目論んでいたオヴリヴィオンのリーダー・カイル。
そして厳密に帰りたくない人物を上げるのであれば……、エストゥガでエンドーと手を組んでいたデスペンド。顔がぐしゃぐしゃになっていまい、せっかくの美貌が台無しになってしまった鐵。そしてDr。
他にもいるかもしれないが、これが帰りたくない人達である。
現状として――帰りたい人と受け入れながら模索する人と、帰りたくない人の比は……。
7:2:1と言う比である。明らかに帰りたいと言う人が多い。そしてその中に入らない人物こそがハンナ達と言うことである。
閑話休題。
クレオの言葉を聞いて、シェーラは驚いた面持ちでクレオのことを見上げていたが、ガーネットはそんなクレオのことを見上げて、驚きを怒りに変換して、彼女は右足を前に出して……、『だんっ!』と、地面に足を踏みつける。
大きな音を立てるように、ヒールの音を大きく響かせながら、彼女はクレオに向かって叫んだ。
「居心地がいい……? 胸やけがするの間違い……、異常になるの間違い……っ! お前の頭は異常! それは確定しているっ! お前は異常だ! この状況で何を言っているっ!」
ガーネットは叫んだ。クレオのことを見上げながら叫んだ。血走った目で、そして怒りの矛先を彼の喉元に突きつけるようにして、彼女は言った。
なぜここまで怒りを露にしているのか、それは本人がよく知っていた。理解できた。
似ていたからだ。雰囲気が、どことなく他人の苦しむ姿を嘲笑うあの異常なマッドサイエンティストと、クレオは似ていた。似すぎていたのだ。
クレオはそんなガーネットのことを見降ろし、仮面越しで目をすっと細めながら、彼は無表情の音色で言葉を発した。
シェーラとガーネットのことを見降ろしながら、彼は言葉を発した。
「はい三度目の『何を言っている』いただきました。だが、お前達のようなことを考えている輩なんて殆どいない。むしろお前達のように必死になってクリアを目指そう。全クリしてエンディング見ようと思っている輩はいない。力があってもなくても、誰もがお前達にすべてを任せて、自分達は命欲しさに、自分可愛さにのうのうと生きている。お前達のように必死こいて戦っている奴は――大抵知能指数が低い。いうなれば大馬鹿野郎だ」
「大馬鹿でも結構よ」
シェーラはクレオの言葉を遮るように、声を張り上げながら言った。
その言葉を聞いたクレオは、仮面越しにシェーラのことを見降ろし、ガーネットもそんな彼女のことを見るために振り向くと、シェーラはクレオのことを見上げて、凛々しい音色と面持ちで彼女は言う。クレオの言葉に反論する様に、彼女は言った。
「私はそんな他人にすべてを擦り付けることはしたくない。自分にもできるかもしれないのに、死にたくない。殺されたくないから相手に擦り付けて、そしてできなかったら相手を罵倒する。そんな弱い人間になりたくないの。戦えるのに戦おうとしない。そんなこと私は絶対にしたくないの。しなかった後で後悔なんてもうしたくない。できることなら何でもする。それが大馬鹿と言うのであればそれでいいわ。私はそれでも戦うことをやめたくないからね。そうでもしないとあの子はとことん無茶をするから、私や妹溺愛の兄、そしてそんな兄を止める仲裁役に師匠がいないと困るのよ。そう言って私の戦意を削ぐことは――不可能だから」
もう決めたことだし、覚悟も決まったことなのよ。
シェーラはにっと笑みを浮かべながらクレオのことを見上げる。
それを聞いたガーネットは、驚いた目をしてシェーラのことを振り向きながら見て、そしてガーネットはシェーラのことを見てこう思った。
やっぱり――似ている。自分と……。と……。
しかし――その話を聞いていたクレオは呆れたように肩を竦めながら、シェーラのことを見降ろしてこう言ってきた。
「……ふぅん。たかがゲームでそんなに必死になるのかよ」
彼は愚痴る様な音色で、初めて彼は面倒くさそうな顔をした。
それを見たシェーラはそんな彼の面倒くさそうな顔を見上げて苛立ちを覚えたのか、シェーラはクレオに向かって言う。今まで起きたことを話しながら、彼女は言った。
苛立ちを怒りにレベルアップさせて、彼女はクレオに向かって叫んだ。
「たかが……? たかがゲームだから、そんなに必死にならなくてもいいってことっ? ふざけるんじゃないわよ……っ! ふざけるなっ! この世界に監禁されて、いろんな人達が苦しい思いをしているのよ? ハンナから聞いたけど、初めてのモンスターを狩るとき、その人達は心に大きな傷を抱えて精神崩壊を起こした! 仮想世界では弱小であってもこうなったらそんなの関係ないのっ! ここでは戦うことは死と隣り合わせのことなのよっ! 『たかが』で片付てしまうような小さいことじゃないのよっ!?」
「いやいや……、お前何言っているんだ?」
クレオはシェーラの怒りを一蹴するように見下して言いながら、彼は肩をすくめ、そして手を広げながら彼は淡々とした口調でこう言った。
「この世界はゲームの世界だろう? 誰がいなくなっても誰も悲しまない世界なんだ。どうなってもいいだろうが」
既視感。
シェーラはクレオの言葉を聞いた瞬間、そう直感が囁き、そして記憶の箪笥にしまっていた最も思い出したくない記憶のノートの内の一冊を取り出して、それをぱらりと開いた。
思い出したくない記憶のノート。それは彼女が最も思い出したくない記憶で……、孤児院の崩壊や師匠の別れなどの、彼女が最も思い出したくない一ページ。それ以降は復讐のために生きてきたので、その記憶のノートに新しい一ページが記入されることはなかった。が……。
最近になり……、その一ページに新しい記述が記されてしまったのだ。
それは――駐屯医療所で起きたこと、厳密には、スナッティの裏切りが判明したときに聞いた言葉だ。最も思い出したくないことを、シェーラは思い出す。苦い経験をしたかのように顔を歪ませながら、彼女は思い出す。
この世界ゲームだから、イベントとして見ればそんなに止まなくてもいい。
ゲームとして客観的に見ればそれはそれでいい。
ログアウトも退場として見て、この世界のことも設定として見ないといけだろう。
イベントとして見ればいい。そんなのイベントスキップする様に見ないふりすればいい。
スナッティはそんなことを言っていた。
今現在彼女も『バロックワーズ』の一員として敵対し、紅とセレネを相手に戦っている。
今はどうなっているのかはわからないが、それでもシェーラはそのことを思い出して、クレオのことを見上げながら、表情こそない彼のことを見てこう思った。
――この男は……、あのバカ女と同等の考えを持っている無情な奴だ。と……。そう思った。
そんなシェーラの思考など読めるはずもない。クレオは驚いているシェーラやいまだに怒りを露にしているガーネットのことを見下しながら、彼は言った。
「別に感情移入に対して口を挟むようなことはしない。が……、俺はその思考に対してはっきりと変だと思っている。現実であればそう言った思考が芽生えるかもしれない。が……、今ここは仮想の空間。作られた人格に作られた世界観。全てにおいて作られたもの。人によって作られた物なんだ。作られたものに人生なんてものはない。この世界は俺達のために作られたフィールドなんだ。フィールドで何をしようが何もしないでいようが関係ない。頑張らなくてもいいし作られたものを破壊しても誰も……って、今は攻撃できないNCP殺しはご法度何だっけ……。でもここにいる兵士達は殺してもOKな奴らだから安心しろ。話を戻すと、壊しても誰も怒らないんだ。壊しても誰も悲しまないし、どうしようが俺達の勝手なんだよ。ゲームの世界っていうのは、そのゲームをしている人が主人公なんだからな。俺はこの世界で生きたいからこそ、戦っているんだよ。他なんて知ったこっちゃない。俺は自分が主人公になるためなら、どんなことだってする。それが俺が生きる理由戦う理由で、そして人生を謳歌する理由だ」
クレオの言葉を聞いていた二人は無言になりながらクレオのことを見上げ、そして武器を持たずにいると、その光景を見ていたクレオは、内心二人のことを見下して嘲笑いながらこう思った。
――そうだよ。主人公は俺達プレイヤーなんだ。他なんてそれを目立たせるための駒。
――NPCは駒なんだ。
――俺は現実世界でも主人公のような存在だった。いろんな奴が俺のことを羨ましがっていた。勉強も運動もゲームも、どれもできた。どれも他人よりも優れてできた。
――親も、学友も、教師も、妹だって俺の存在に跪く。誰もが主人公を輝かせるための駒。俺を輝かせるための駒なんだ。
――そんな優越感とは対照的につまんないという感情も大きくなってしまったけど、それでも俺はこの上なく楽しい人生を送っていた。つまんないことを取り除いたら、どれだけいい人生だったか……。
――そんな時に起きてしまったアップロードの監禁。でもその監禁こそが、俺のつまんないを壊してくれた起因であり、俺を今の俺に作り上げてくれたきっかけでもあった。
――この世界はゲームの世界。つまりはそのゲームをしている奴が主人公。ほかの奴らはその主人公をクリアに導くためのキャラクター。俺は完全なる主人公としての切符を手に入れたんだ。『バロックワーズ』に入った理由だってそんなゲームの世界の青春を謳歌するためのただの気まぐれ。
――忠誠心さえ与えておけばあのジジィは俺達に対して簡単に心を許す。
――俺は、この世界でラスボスを……、倒さないでこの世界で俺は主人公生活を謳歌する!
――こんないい世界他にはない! 現実のつまらない世界に帰ることなんてまっぴらごめんだっ! 俺はこの世界で人生を謳歌し続ける。死なないように、この世界を生きて生きて生き続ける。
――それが俺の戦う意味。
――俺の主人公の立場を妨げる障害を壊して、主人公ライフを再度満喫する! 現実世界に帰りたくない。俺はこの世界で、人生を謳歌する! それが俺の戦う意味で、理由だ!
要するに……。己の理想にして優位意義な世界から出たくないがために、彼は戦い、そしてこの世界で人生を謳歌する。
理解できない。そして意味不明な理由ではあるが、彼の思考はいたって正常。正常と己が認識しているので、否定しても無駄なことであった。
シェーラはそれを聞いて、怒りと共に合併してしまう頭痛に悩まされながら、彼女は唸って頭を抱える。
――こんな自分勝手な男、初めて見た……。そう改めてクレオと言う男の異常性とイカレ具合を見て、彼女は思ったが、ガーネットだけは、その言葉を聞いて……、黙ってしまっている。
無言で、クレオのことを見上げながら――静かな怒りを『コポコポ』と沸騰させながら、ガーネットはゆっくりと口を開いて、そしてクレオのことを見てからこう言った。
「………………生きる? この世界で……? 大切な人がいない世界で、生きる? 楽しいのか? それでいいのか? それが戦う理由? それでいいのか? それが……、正解なのか……?」
「…………………………疑問符多っ。そうだな。俺はそれが戦う理由だ。この世界で生きたい。この世界で人生を謳歌したいからこそ、俺はここから出たくない。だからお前達を倒すんだ。クリアさせないように戦うことも理由の一つだな」
ガーネットの言葉を聞いて、最初こそぷっと噴き出して笑っていたが、すぐに話題を変えて彼は言う。
そんなクレオの言葉を聞いたガーネットは、ぎりっと握りこぶしを作り、その握った個所から赤い液体を出すのではないかと言うくらい握りこぶしを作ると、彼女はクレオのことを『ギロリ』と睨みつけた。
しかしその睨みつきを横目で見たシェーラは、はっとしてガーネットのことを見る。彼女の目に怒りはあったものの、その怒りの感情に隠れた決意が見えたのだ。光を宿すその目が教えてくれた。
それを見て、シェーラも同じようにクレオのことを見上げながら、しっかりとした凛々しい目で睨みつける。
ガーネットが言っていた……、『同じ』。その言葉を心の声でもう一度口ずさみながら……。
ガーネットは言った。独特な言葉で、彼女はこう言った。
「そんな理由――紙きれ同然」
「……………………………あ? 何それ」
「つまりはちっぽけ。そんな理由。戦う理由に該当しない。結局はわがまま」
「んだと?」
初めてクレオは、仮面越しに苛立ちを見せた。ピクリと頬の筋肉をこわばらせて、彼はそっと立ち上がりながらガーネットのことを見降ろす。
ガーネットはそんなクレオのことを見上げ、構えることも攻撃もしないで、仁王立ちになりながら続けてこう言う。
「私が戦う理由――それは姫様。姫様は私の希望。希望のために私は戦う。私のような汚い存在に、親無しの私に手を伸ばしてくれた……。だから戦う。亡き主のために、姫様のために」
ガーネットは己の胸に手を当てながら、はっきりとした音色で言い切る。
「この命を使って、私は戦う。姫様のためならば、どんなことだってする。快く受け入れる。この命――姫様のためにある! だから強くならないといけない。どんな屈強なやつよりも、私は強くなる。それが――姫様を守るために必要な力だから! 何もできなかった私ができる――唯一の償いだからっ!」
ガーネットの言葉――彼女の戦う理由を聞いたシェーラは目をだんだん見開かせ、そして彼女のことを見ながら思った。
――『同じ』だ。と……。
シェーラも相手を倒すために強くなろうと思っていた。
しかし体が強くとも、心は全く強くなっていなかった。
心が弱かった。
弱いせいで、シェーラはハンナやみんなを巻き込んでしまった。
だからこそシェーラは決めたのだ。
体だけではない。心も強くなり、本当の強さを見つけようと。そう思った。
強さに対しての固執。
そこは――ガーネットと類似しているとことがあった。だからガーネットは言ったのだ。似ていると……。
ガーネットは姫様を――セレネを守るために強くなる。身も心も。何もできなかった自分を壊して強くなろうと思っている。
シェーラも見も心も強くなろうと思っている。強さを見つけるために、そして……、初めてできたハンナを守るために。アキ達と一緒に戦う力を身につけて……、彼女は弱かった自分を背負いながら強くなろうと思っている。
似ている。本当に似ていた。そうシェーラは思った。ほくそ笑んでいることすら知らずに、彼女は思った。
己の弱さを知っているからこそ、より一層強さへの執着は、固執は大きいと……。そう彼女は思った。そして……。微笑んでいたその笑みを切り崩し、彼女は元の凛々しいきつめのにらみを利かせながら今まさに苛立って我を忘れかけているクレオのことを睨みつけた。
クレオはそんな二人のことを仮面越しで血走った目で見降ろし睨みつけ、大槌をがしりと掴んだ後、それを大きく、大きく振り回した後、彼は「こんのアマどもがああああああああっっっ!」と、怒声を上げながら再度あの攻撃を二人に繰り出そうとした。
コンテナを使った攻撃――彼からして見れば……、シューティングゲームのような攻撃を繰り出したのだ。
「女だからって、調子こくんじゃねえぞぉおおっっっ!」
クレオは近くにあった銀色のコンテナに向けて大槌の攻撃を打ち付ける。横のスィングの攻撃を繰り出し、『ゴォンッッ!』と言う金属特有の鈍い音を出しながら、彼はそのコンテナを二人に向けた。
それを見たガーネットは、すぐに拳を構えようとしたが、そんな彼女の前に立ったシェーラ。シェーラに手には二本の剣があり、それを掴んで構えながら、彼女は迫りくるコンテナに立ち向かおうとした。
「っ!? おい何を……っ!」
ガーネットはシェーラの行動に驚きながら前に躍り出ようとしたが、それを手で制し、そしてとうせんぼをするように片手を上げてから、シェーラは小さな声で、ガーネットのことを見ずに言う。
「私に任せて。いい考えがあるわ。いい? ――――――――――」
「…………………………? っ!」
本当に、二人にしか聞こえない声で繰り広げられる作戦の内容。それはクレオでさえ聞こえない声量で、クレオはそんな二人の光景を見て苛立ちを更に加速させながら大きく舌打ちをして、すぐにもう一つのコンテナを使って攻撃しようとした瞬間……。
「属性剣技魔法――『豪炎剣』」
シェーラのスキル発動の声が響き渡ったと同時に、シェーラ達のことを潰そうとしていたコンテナに、日本の横一文字の赤い線が『ガシュッ!』、『ガリュッ!』と、金属が切れるような音を出して突然浮き出てきた。
否――熔かすように斬った。の方が正しい。
「っ!」
その光景を見て、驚いて目を見開いたクレオだったが、すぐにその顔を押し殺して、コンテナを切ったシェーラのことを見た。見ようとしたが、シェーラは切られたコンテナをカーテンのように姿をくらましながら、彼女はコンテナ越しに剣を鞭のようにしならせて――次のスキルを発動させる。
ぐるんぐるんっと、剣の鞭を回しながら、円を描くように彼女は回りながらこう言った。
「属性剣技魔法――『竜巻鞭』!」
剣の鞭に纏い始める小さな風の渦。それは彼女が回ると同時に周りに向かって飛んで行き、あたりに散らばっていたコンテナの破片を巻き込みながら、シェーラは回り続ける。
ララティラのような竜巻は起こせないが、それでも彼女は威力のある竜巻を起こす。障害物を巻き込んだ竜巻を起こして――!
「っ! くそっ! あたりにあったコンテナの瓦礫を使って、俺の目を欺こうとしてんのか……っ!? んなことさせるか……っ!」
「やってみなさい。私はそんなことでは折れないわ」
私は決めたの。誓ったの。と、シェーラは回りながら、凛々しい音色で言う。しっかりと――クレオのことを睨みつけながら、彼女は回りながら言う。
「私は誓ったの。本当の強さを知って、そして……、守ると誓ったの。友達を守るって。無茶ばかりするあの子のことを守るって」
「~っ!」
クレオはそんなシェーラの言葉を聞いてぎりっと歯を食いしばったが、すぐに……。
にっと笑みを浮かべた。その笑みは――勝ちを確信した笑みだ。
――なああああんてっ! お前たちの計画なんて聞こえなくても打算済みなんだよぉ! と、クレオは周りを飛び交うコンテナの破片を見ながら思った。その瓦礫一つ一つを、注意深く見ながら、彼はシェーラたちがしようとしていることを計算する。
――簡単な攪乱だ。あの魔人の女はあたりにあるコンテナの破片を竜巻に乗せながら飛び回らせているが、それを使って攻撃することが本命ではない。
――本当の目的……、それは。
と思った瞬間、クレオは視界の端に入ったあるコンテナの瓦礫を見て、そしてにっと勝ち誇った笑みを口裂け女のように浮かべながら、彼はその瓦礫がある方向に向かって駆け出した。
その場所にいることを放棄して、彼は一目散に駆け出して、驚くシェーラのことを横目で確認しながら、彼は打算する。
――本当の目的は、俺の目の前にあるコンテナの破片にしがみついている女に攻撃のチャンスを与えること!
――破片を使っての攻撃は――フェイク! 結局モブが考えることは単調! 俺はその先を見据えている! 主人公はこんなところでくたばらない。俺は主人公!
――俺は、この世界で生きる! 俺は、主人公だから!
「王手だあああああっっっ!」
クレオは己の目の前にある少し大きめの、そして人一人が隠れられそうなコンテナの破片に向かって、大槌のスィングを繰り出す。野球のバットのように振り回して、彼はコンテナの後ろにいるガーネットごと破壊しようとした。
驚いて声が出せないシェーラを横目で焼き付けて、彼はガーネットが隠れているであろうそのコンテナに向かって――
――バガァアアアアアアンッッッ! と、大きな穴が開くような威力の攻撃を繰り出した。
「――っ!」
クレオは確信した。勝ったと。
手応えもあった。つまりは彼の読み通り、ガーネットはコンテナの背後に――
『グォォォォォ……………ッ!』
「っ!?」
――いなかった。
いたとすれば、それは人ではない――獣だった。
黒く、ところどころ赤い液体がこびりついてしまっている体毛。五本の長い爪は鋭く尖っており、目だけで測っても十五センチくらいはあるそれを黒く光らせ、白い目は空を見上げている。右目だけ切り裂かれたせいで深い傷でふさがれている……、見た限りツキノワグマのような姿をした筋骨隆々の熊がそこにいた。
その熊は呻き声を上げながらどんどんその体を黒くさせ、そしてドロドロとした黒い液体と化して消えていく。
それを見て、クレオは驚いた目をしてその光景を見た後――彼は感じた。背後から感じた強い殺気を。
背後の人物は言った。
「ごめん。貪熊』。そしてありがとう」
背後の人物は言った。クレオに背後に回り、そして力強く握りしめた拳の力を溜め込みながら――ガーネットは張り上げる声で叫ぶ。
「『暗鬼拳――『破壊拳』』ッッッ!!」
クレオの背後から、クレオの両腕と両足に目掛けてスキルを放つ。慌てて狼狽しているクレオに向かって、ガーネットはその拳を繰り出そうとした。
その瞬間――シェーラは聞こえていないであろうクレオに向かって、彼女は回ることとスキル発動をやめてこう言った。
結局は――独り言となってしまったそれだが、それでもシェーラは言った。
「そう来ると思っていたけど、本当にそう来るとは思っても見なかったわ。自分のことを主人公とかほざいてるから先の先まで読んでいなかった。これはあなたの絶対なる敗因よ。さっき私が驚いていたのは――そこまで忠実に来るとは思っても見なくて、呆れと馬鹿だと思いながらその光景を見て驚いていたの。モブと思って挑んだのが間違いなのよ。あんたは私達のことを完全に見下していた。私のように、守りたい人のために、一緒に戦う人達のために戦う。本当の強さを見つけるために……。そんな戦う理由を持っていないやつに、私が――私達が負けるわけないでしょうが」
この自惚れ。そうシェーラが言い放った瞬間。
ガーネットは音速とも云えるような剛拳を、クレオの両腕と両足にめがけて放つ。
ドドドドッッッ!! と、釘を打ち付けるようにそれを放つ!
それを受けて、両手両足が四肢部位破壊されてしまったクレオは『がふり』と吐血し、そのまま激痛に耐えきれず失神してしまい、彼はコンテナの山に埋もれるように突っ伏してしまった。
その光景を見て、二人はふぅっと張り詰めていた緊張を一時ほぐすように息を吐き、そのままびくびくと痙攣しているクレオのことを見降ろしながら二人ははっきりとした音色で言った。
似たもの同士なのかはわからないが、それでも二人は声を揃えてこう言ったのだ。
「「女でモブと思ったら――痛い目見るぞ。こんの噛ませ犬が」」
◆ ◆
シェーラ&ガーネットVSクレオ。
勝者――シェーラ&ガーネット。




