PLAY65 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅳ(戦う理由)④
回想……。
今回は二人の回想を一人ずつ語っていこうと思う。
今回紹介するのはセスタと、ボジョレヲの物語。
現実の世界では、セスタとルーダ・フラッカスの物語。
二人とも接点どころかお互いの存在すら知らなかった二人。
出身国も生まれも育ちも何もかもが違う存在。
どこかで見たことがある? という接点など彼等にはなかったほど、彼等はこの事件が起きなければ出会うことなどありえない存在だった。
だがこの事件――アップデートの監禁事件が起こると同時に出会ってしまった。
互いのことなど全然知らない。こんな事態になって初めて知ったという、稀な出会いを果たした二人。
そして知ってしまう。
この人は自分と同じ思いを抱えてここまで来たんだ。と――
一体何を抱えてここまで来たのか……。それを読み解かない限りは二人のことを知ることはできない。ゆえに回想として語ろうと思う。
最初に語る人物はセスタ。
セスタと言う存在は殆どの記憶がないと言っても過言ではない存在だった。
今現在の彼の年齢は……、大体二十四歳。
これは本人が言っている大体の年齢。
つまりは確証もないような曖昧な年齢であるということだ。名前も自分でつけただけの名前で、親からもらった名前など覚えていない。むしろ……、その親の顔すら覚えていない。
つまるところ、彼の記憶が正常に機能したのは――彼がおよそ十二歳の時。それ以前の記憶など、頭の中からすべて消去されていた。
本当の自分の名前、親のこと、住んでいた場所、生まれた故郷、更に言うと対人関係や友人関係諸々……、彼は覚えていない。
が――覚えてないとわかっても、セスタは悲しいと思ったことは一度もなかった。
むしろ記憶が形成され始めた瞬間から八年間――彼は幸せだった。
幸せと言う明るい色で彩られた彼の人生は、親と言う記憶がなくとも本当に幸せな毎日だった。
彼の記憶が彩り始めたのは十二歳になる前の十一歳十ヶ月の時。
彼はアメリカのとあることろにある修道院の前にじっと立っていた。
ボロボロの服を着て、修道院のドアを見ながらじっと立っていた。
立ったままそのドアに手をつけず、ただセスタはそのドアをじっと見つめ見上げているだけだった。
何をするのかもわからない。
何をしようと言う意思もない状態で、セスタはボロボロの布切れのような服を着て、皮と骨だけになってしまった子供とは思えない細くなってしまったからだ。
カサカサになってしまった足の裏に、ボロボロになってしまった爪。ぼさぼさの髪の毛で彼は虚ろな目で修道院を見上げていた。
無言のまま見上げるセスタ。茫然と、光がない目でその修道院を見上げるセスタ。
一体何があったかなど覚えていない彼にとってすれば、なぜこの修道院に来ているのか、なぜこんなところに自分はいるのか、ここはどこなのか。そして自分はいったい何者なのか……。
そんなことを思いながら、思い出せないことを必死に思い出しながら、セスタは修道院を見上げていた。
不幸なのか、その時の暦は十一月。雪も降っている年月だった。
ボロボロの服しか身に着けていないセスタにとって、寒いその場所は牢獄以上の地獄のような空間だった。
がくがくと震える足が温かさを求めるように悲鳴を上げる。
体中が悲鳴を上げて、温かさなど全くないような体の温もりを感じながら、セスタは震える体で修道院のドアに向けて手を伸ばした瞬間――
彼の記憶に、色が滴り落ちた。
「あら? ねぇケビン……。あの子……」
「ん? あれ……? なんであんなところに子供……って! おいおいおいおい! そこの君っ!」
「?」
セスタは震えながら自分に駆け寄ってくる人物を見た。
その人物は二人で、一人は整った顔立ちで暖かそうなジャンバーにジーパン、そして滑り止め付きのスニーカーを履いている首元にチョーカーをつけている金色と茶色が混ざった短髪の男性。鍛えた体が服越しでも伝わる様な筋肉の付き具合だ。
もう一人は女性で、黒と青が混ざった日系の顔立ちの女性だった。黒いダッフルコートに少し長めのスカート、茶色の編み上げブーツを履いている清楚系の女性だった。
手には大きなカサカサ袋に入ったリンゴやフランスパンが顔を出しているそれを手に持って、セスタの背丈に合わせるように女性はしゃがんで聞いた。
「あなた大丈夫? こんな寒そうなじきにそんな薄着で……」
「お前なんでそんな恰好でほっつき歩いているんだっ? お母さんとかお父さんとかが心配するだろう?」
「おとーさん。おかーさん………?」
セスタの言葉に、そうそうっ! と言いながら頷く男性。
女性はセスタの冷え切った頬に触れながら、少しでも温かくしようと己の体温をセスタに共有する。そしてセスタの話を心配そうに聞くと……、女性はこう言った。
「おうちはどこ? すぐにその場所に」
「………ない」
「え?」
セスタの言葉がよく聞こえなかったのか、女性は首を傾げて聞き返すと、セスタは俯いて、女性の手の温もりに甘えるように、顔を手の方向に傾げながら、彼はこう言った。
今覚えていることを言った。
「わからない。どこにあるのか。どこにいるのか。どんなひとなのか。わからない。おれのなまえも……、わからないんだ」
それを聞いた二人は、言葉を失いながらセスタのことを見降ろし、そして二人は一旦セスタを修道院の中に入れてから事情を聞いた。
何も覚えていないセスタに聞いたところで、帰る場所も何もわからない子だ。それを聞いた二人は絶句して、修道院を管理している院長にセスタのことについて話した。
もちろん、あの子を家族にできないかと言うことを伝えながら……。
その修道院は形は修道院に見えるが、実はそうではない。
この修道院は孤児院であり、シェーラ達が住んでいたあの孤児院とは違って、この孤児院は町の寄付で生計を立てているのだ。
使われなくなった跡地を改築して、その修道院を孤児院として使っている。そして今でもその修道院の孤児院は昔のまま使われているのだ。
孤児院にいる子供達はシェーラ達が住んでいた孤児院よりも少ない。人数で言うと十人。そして孤児院を管理している院長を含めると――十一人だけの孤児院なのだ。
年齢はばらばらだが、それでもみんな大切な家族として生活をしている。身寄りがいない子供も、幼いまま両親を失ってしまった子など……様々な理由を抱えた子がこの孤児院に集まってつつましく暮らしている。
その修道院の孤児院に――セスタが来た。それをセスタのことを見つけたケビンとナリアの話を聞いた院長は、少し考えてから寝ているセスタのことを見降ろしながら、ある決断をした。
簡単にして当たり前で、いつもしている決断。
身寄りがなく、帰る場所がないのなら――ここを家にすればいい。つまり……。
「ケビン。ナリア……。話してくれてありがとう。この子を一人にさせるのは酷なことだ。確かに親のことも何も覚えていないことに関しては驚いたが……、それでもこの子は生きようとしていたんだろう。服や体にできた切り傷。そしてボロボロの足の裏がそれを証明してくれている。二人が言う前に、私は決めていた差。あの子を新しい家族として迎えよう。明日みんなに伝えることにする。いいね?」
「「はいっっ!」」
院長の優しく、そして心に残るような言葉を聞いたケビンとナリアは、満面の笑みで頷いて答える。
それから次の日――セスタは修道孤児院の家族の一人となった。
院長はセスタの背中に手を添えながらセスタの目の前にいる肌の色も髪の色も背の高さも違う男の子と女の子、そしてケビンとナリアのことを見ながら、みんなのセスタのことを話した。
彼らは――修道孤児院の子供達は、セスタのことを喜んで歓迎した。
わっと子供らしい声を上げて喜びながらセスタに駆け寄って、セスタが着ているケビンから貰ったお下がりの服を引っ張りながら「おなまえは?」や、「あそぼう!」や「外であそぼうぜ!」と、皆が主張をしながらセスタを中心にして集まっていた。
「? ??」
セスタは突然のことで驚きながら、周りにいる子供達のことを見ながら目を点にしていたが、近くにいた院長が、セスタの肩を叩きながら優しい音色でこう言ってきた。
「ここはもう君の家だ。そしてここにいる子供達は、みんな家族なんだ。ケビンとナリアから聞いたよ。家族の記憶、そして自分の名前がわからないんだって。辛かっただろう。怖かっただろう……。だからもう怖がらなくてもいい。怯えなくてもいい。ここが新しい家だ。みんな君の家族だ。だから………、そうだな。君の名前は、そうだ。セスタがいい。これから君の名前は――セスタだ」
「せす……た?」
「そうだ。今思いついたんだが……、どうかな? もしかして、いやだったかい……?」
院長は申し訳なさそうにしてセスタのことを見たが、セスタはそんな院長の顔を見て首をぶんぶんっと振りながら、セスタは昨日まで灯っていなかった目を灯らせながら、彼は言った。
「おれ……、は……、そのなまえ……すき。おれ、せすたでい、いいの?」
その言葉を聞いたケビンとナリアは、喜びに打ちひしがれてセスタのことを見降ろし、院長もそんなセスタのことを見て優しく微笑みながら頷いて――
「ああ、セスタ。今日からよろしく。そしてようこそ――」
院長はセスタに向けて手を伸ばして言った。
それを聞いたセスタは院長の手を握って、ぎこちなく笑みを浮かべながら、彼の新しく楽しい幸せな毎日が始まった。
修道孤児院での生活はいたって普通の生活だった。
家族の子供達と院長と一緒にご飯を食べる。
もちろん神様に祈りを捧げて、食べられることを感謝しながら大切に食べて、そのあとみんなで家事などの仕事を分担して、午後の一時間は遊ぶ時間。学校に行く子供もいたが、セスタはまだそこまでの知識はなかったので、彼だけは院長先生の知り合いでもある教師と一緒に勉強に勤しんでいた。
そのあと午後の四時から三十分間――院長による神の教えの時間。
その神の教えの時間は聖書を読んで音読するだけのそれだが、それでも生きることに感謝し、そして幸せの日々に感謝しながら、そのせいを送ってくれた神に感謝して生活をするように。そのような教えを説きながら、院長は孤児院の子供達に教えを説いていた。
それが終わったら夕食。そしてみんなで片づけをした後で、みんなと一緒に就寝。
これが一日。それを八年間過ごして、セスタはある程度の感情を得た。
人間らしい笑みや怒り、そして悲しさや楽しさ、してはいけないこととしていいこと、善行と悪行。色んなことを学んだ。そして特に楽しみにしていること――『ハロウィン』が待ち遠しいと思うなど、感情が豊かになってきた。自分でもよく笑顔が増えたなと思ったくらい……、豊かになってきた。
もともと備わっているものを得たセスタは十八歳になった時――あることを体験する。
それは――別れ。
セスタは初めて、記憶が刻まれ始めたころ……、彼はケビンとナリアの別れを家族の子供たちと院長と一緒に体験した。
他の孤児院の子達はケビンとナリアの別れを惜しみ、泣き崩れたり、『行かないで』と最後のわがままを言う子もいた。二人はそれを聞いて、涙をぐっとこらえながら子供達のことを抱きしめたり頭を撫でたりしていた。
セスタはそれを聞いて、そして見て、体験しながら、院長に聞いた。
「二人はどうしたの? どこかに行くの?」と聞くと、それを聞いた院長は、寂しそうに、そして優しさを忘れないような笑みを浮かべながら、院長は言った。
「二人とはここでお別れなんだ」
「おわかれ……?」
「ああ、二人はもう大人。一人で生きていける年齢にまで育った。私ができることはここまでだ。ケビンとナリアとはここでお別れをする。ずっとここにいることできるが、これは二人が決めたことなんだ……。セスタ。わかってくれ」
セスタはそれを聞いて、そして涙を流しながら最後の会話をしているケビンとナリアのことを見る。初めて出会った時――二人は十六歳。そして別れの時は二十四歳。自立しても大丈夫な年齢だ。
この修道孤児院で暮らすという選択肢もあったが、それでも二人は別の人生を選んだ。
最初こそ修道院で働くと決めていた二人だったが、それを拒んだのは院長だった。
『修道院のためにいなくてもいい。もう大人なんだ。好きなように生きてもいいんだ』
と言う……、院長の言葉を汲み取った二人は……、修道孤児院から出て、別々の人生を歩む。そう決めたのだ。
自分の人生を悔いなく全うするために――生きるために。
セスタはそれをなんとなくだが知って、そして茫然としながらケビンとナリアのことを見た。
ここでのお別れが嘘であってほしい。そう思いながら、彼は二人のことを見ると、ケビンとナリアはセスタのことを見て、最後に二人はセスタに駆け寄りながら、溜まっていた涙がこぼれるような笑みで、こう言った。
「明日からお前とナックがこの孤児院の最年長だ。そんなこの世の終わりみたいな顔すんなっ! これで永遠の別れじゃねえんだからさ!」
「二人でみんなのことを守るんだよ。手紙もちゃんと出すから。これでお別れじゃないからね。みんなのこと頼むわね」
「……わかった」
そんな二人の言葉を受け取り、セスタは頷いて二人の別れを体に、そして心に刻んだ。
別れを体感したとき、セスタは楽しい以外の感情を抱いた。苦しくて、悲しくて、そして不安や希望などのいろんな感情と、楽しい記憶が込み上げてきて、セスタは二人と別れた後、一人で静かに泣いていたことを今でも覚えている。そして――
それ以来――二人と再会することも、二人から手紙とある日を境に途切れたことも、鮮明に覚えていた。
二人がいなくなってからは週に一回は手紙が来ていた。院長と子供達全員に宛てた手紙が来ていた。が……、三ヶ月した後、その手紙もぱたりと来なくなってしまった。
院長も最初こそ疑念を抱いていた。手紙の内容に不審なところもなかったので、きっと生活で大変なんだろうと解釈してそれ以上の追及はなかった。子供たちはきっと楽しすぎ書くことを忘れている。まとめてくるかもしれないと、逆に楽しみにしていた。
が――セスタと同年齢の黒人――ナックだけは違った。大人と子供の境界に立たされている年齢だからこそなのか……、二人はケビンとナリアのことが心配になった。何かが起きてしまったのかと思いながら、何もできない無力感に打ちひしがれながら、数ヶ月の時が経ったある日……。
それは突然来た。突然と言えば突然で、強いて言うのであれば当たり前の中に紛れた突然のそれだった。
孤児院にある手紙が来たのだ。それを見た院長は、年長者でもあるセスタとナックを院長の部屋に案内して、三人っきりになりながら院長は二人に向かって聞いた。
「二人とも……、もう薄々分かっているかもしれないが、ケビンとナリアの手紙が突然来なくなってしまったことに関して、二人はどう思っている?」
「「?」」
意味深な言葉。その言葉を聞いたナックは腕を組んで、院長のことを見ながら彼はこう言った。
「突然来なくなってしまったことに関しては、俺も変だと思っていたさ。ああ見えて手紙だけはちゃんと週一出していたケビン兄ちゃん。真面目なナリア姉ちゃんならもっとだ。何か理由があってそうなったのかなって思っていたけど……」
「おれもそんな感じだったな~……。二人ともきっと、仕事とかで忙しいのかなって」
「…………私もそう思っていたよ」
ナックとセスタの言葉を聞いた院長は難しい顔をさらに険しくさせ、顔を顰めながら院長は、苦しそうな声でこう言った。手紙を見せつけながら、差出人が書かれていないその手紙を見せつけながら、院長は言った。
「だが――それが嘘で……、二人がもうこの世にいない存在であったのならば……、二人はどう思う……?」
その言葉を聞いた瞬間、セスタとナックは院長が持っていた手紙を見て、院長に見せてほしいと願うと、院長はそれを聞いてその手紙を二人に差し出しながら頭を抱えてしまう。
まるで――このようなことがあっていいのかと、髪に問い詰めるように、彼は頭を抱えてしまった。
そんな院長の変貌を見て、ただ事ではないと確信した二人は――その手紙の内容を頭の記憶に刻んで心の声で音読した。書かれていることに言葉を失いながら、二人は読んだ。
◆ ◆
それと同時期……。ロシアでは、ある人物がその手紙を手に取り、セスタと同じように絶句してそれを読んでいた。
ロシアのとある町にある武術教室の師範の息子として生まれた少年――ルーダ・フラッカスは、日々鍛錬修練に打ち込みながら生活をしていた。
彼の父はロシア人で元軍人で、長い間所属していた経歴がある人。そして母は日本から来た女性で、祖国では柔道をやっていたという経歴を持つ……、正真正銘の武闘一家なのである。
ルーダはそんな親の元で生まれた日本人とロシア人の血が混じったハーフ。そしてそんな親の元で武術の稽古をしながら生活をしていた。
ロシアの軍人が使う武術。そして日本の武術を極めながら、ルーダは何不自由なく体を酷使し、極め、そして教えを心に刻みながら彼は鍛えて生きてきた。
もちろん門下生も何人かいた。その中に混じりながら、彼は平等に稽古を受けていた。死ぬかもしれないと何度も思いながら受けてきた……。
そんな中――ルーダは親に向かってこんなことを聞いた。
「父さん。母さん……。僕の武術教室の教訓にも書かれていることって、誰が考えたの?」
それを聞いたルーダの親は、ルーダのことを見て、凛々しく厳しい面持ちでルーダのことを見降ろした。常に厳しいことは認知していたので、ルーダはそのような面持ちで見られても動じはしなかった。
……稽古をしている時の方がもっと厳しく、殺されるかもしれないと思わなかったことは一度もないからだ……。
そんな厳しい目を向けている親のことを見上げるルーダに、二人は凛々しくも厳しい面持ちでこう言った。最初に言ったのは――否……、聞いたのは、父だ。
「ルーダよ……。一つ聞こう。我が武術の教訓のことを覚えているか?」
「…………はい」
ルーダは普段のそれを消し、武術を極める者としての人格を顔に出し、引き締まった顔をしながら彼は言う。師範代でもある父に向かって、彼は教訓を言った。
なお、この教訓はロシア語で書かれているので、この時の教訓を日本語訳すると、こうなる。
「『己が技術――ボウに振るわず。シュに使え』」
「………………、そうだ」
父は静かに首を縦に振りながら言うと、それを聞いていた母は凛々しい面持ちでルーダのことを見ながら、凛々しい音色でこう言った。
「ルーダ。あなたはその教訓の意味。わかりますか?」
「え?」
「『え?』ではありません。わかりますか? と、私は聞いたのです。二度目はありません。答えなさい」
「………………わかりません」
「………………そうですね」
ルーダの母は凛々しい面持ちでルーダのことを見ながら、こう言った。
「この言葉はきっと……、今のあなたにはわからない。そうするように書いたのですから、きっとわからないでしょう」
「しかし――お前がこの教訓の意味を知るときは必ず来る」
父は母の言葉を繋げるようにして続けてこう言った。
ルーダの小さな胸に、傷だらけの拳を『とんっ』と打ち付けながら、父は言った。
「この言葉を知った時、お前はこう思うだろう。『簡単な言葉だが、それをなすことは難しいかもしれない』と、それでも……、己の力で磨いた力を間違った道に使うな」
その言葉を聞いたルーダは頷いて、その話は終わりとなった。
そして――真実を聞く前に……、二人は事故に遭い、帰らぬ人となってしまった。
その時ルーダは学校に通っており、偶然その事故に遭わずにいたのだ。事故というのは……、交通事故であり、不慮の事故でもあった。それを聞かされたルーダは十八歳。もう自立はできるが、突然の両親の死に対して、受け入れるということができずにいた。
突然の不幸に、ルーダは静かに悲しみに暮れたが、こんな顔をいつまでも晒してはいけないと思い、彼はその悲しみを背負いながら、厳格な両親の後を引き継ぐように、武術教室を継いだ。
受け入れてはいない。しかし犯人は罪を認めている。それ以上の追及はできるが、それを親が快く喜ぶのか、そう思ったルーダは、罪を認めているのであれば、あとはその罪を償ってほしいと願いながら、彼は日々の生活を過ごした。
その悲しさを吹き飛ばすように、武術に勤しみながら……。門下生もたったの二、三名しかいない中で、彼は教えながら、教訓の意味のことも知らないまま彼は日々を過ごしていた。
そんな時――彼の元にある手紙が届いた。その手紙を見て、ルーダは首を傾げた。
差出人が書かれていなかったのだ。
ルーダはそれを見て、疑問を抱いた。が、彼はなんとなくだが、その手紙の封をそっと開いた。何故開いたのかはわからないが、彼は直感した。この手紙は――読まなければいけないと。そう思ったからこそ、彼はその手紙に封を開いて、そして内容を目で追いながら読むと……。
「………………っ!?」
ルーダは、言葉を失った。
その手紙は奇しくも、別の場所で呼んでいたセスタと同じような文章で、まるで彼らを誘うかのような文面でこんなことが書かれていた。
『突然のお手紙申し訳ございません。しかしながら私はあなた達の親しい者達の突然の不在・そして不慮の事故の件に関しまして、私はあることを知っています。今はそれしか言えません。ですが、私の言葉を信じてください。あなた達の人生を変えてしまった張本人は――日本と言う国にある会社……、RCが裏で手を引いている可能性があります。RCのことを知りたいのであれば……、RCが作ったVRゲームにログインしてください。そこならばきっと……、あなた達が知りたかったことがわかると思います。嘘と思うのであれば……、やってみてください。
追伸:これは宣伝ではありません。これを信じるか信じないかは、あなた達次第です』
突拍子もない。そして非日常的な言葉だった。
ルーダもセスタもそれを見て一体何なんだと思いながらその文面を見ていた。
セスタと一緒に見ていたナックはそれを見て怒りを露にしながら「なんだよこれ……っ! こんなことありえねえだろうが……っ! 院長! これはいたずらだって! こんなの信じちゃいけないよ!」と、院長のことを宥めながらナックはその文面を信じないでいた。
確かに、普通なら信じないで捨てることが普通かもしれない。
が――セスタは、ロシアにいたルーダは、その文面を見て嘘ではないと不確かなものだが確信を抱いていた。その字に、嘘と言うものが感じられなかったからだ。
二人はそれを知り、そしてその真相を確かめたいと思った時、二人の運命の歯車は重なり合い、同時に回りだしたのだ。一つの機械を動かすために、二人の歯車はその一つの機械のために組み込まれ、そして現在に繋がって動き出す。
セスタはそれを知った後、院長と話をつけて二十歳になった後すぐ――修道孤児院を後にした。
ケビンとナリアのことを探すために、真実を突き出そうとするために戦うことを決意しながら……、セスタは今までお世話になった修道孤児院を後にしたのだ。
今までいた家族と、新しくできた家族と別れを惜しみ、ケビンとナリアもこのような気持ちだったのかと思いながら悲しみをぐっと堪えながら、セスタはセスタの分まで頑張ろうと決心して、背中を押して、残ると決心してくれたナックに修道孤児院のことを任せると、それを聞いていた院長はセスタに向かってこう言った。
「セスタ――無理だけはしないでくれ。これ以上家族を失うのは私も怖いんだ。だがセスタ。お前が決めたのならばそれはそれでいい。だがこれだけは守ってくれ。終わったら必ず……、家に帰ることを、約束してくれ」
その言葉を聞いたセスタは、ニコリと微笑みながら――マイペースな顔でこう言った。否――誓った。
「うん~。わかったよ~。絶対にこれが終わったら家に帰るよ~。ケビン兄ちゃんとナリア姉ちゃんと一緒に~!」
その言葉を聞いた院長はセスタのことをぐっと抱きしめ、別れを惜しむようにして、己の行為を後悔しながら、院長はセスタを見ないで、セスタに向かってこう言った。
「…………約束……、だぞ……っ!」
「……うん。行ってきます」
その言葉を胸に刻み、そして何が何でも死なないと誓ったセスタは、自分のことを育て、そして大切にしてくれた修道孤児院を後にし、彼はRCが開発したVRの世界へと足を踏み入れる。何か有益な情報が知れることを信じて。
そしてルーダも、そのことを知ってすぐ――行動に移した。
あまりに信じられないことではあった。しかしそれでもルーダは不審を抱いていた。常に自分に厳しく、そして不慮の事故であろうと生き残りそうな父が亡くなった。母も亡くなった。そんなことありえない。そう思いながらルーダもルーダで、ロシアでも流行っていたVRゲームを知ろうと、ロシア支部のRCに問い合わせてみた。しかし結局は門前払い。
成果など埃と同然だった。が――それは最初だけだった。
ボジョレヲはRCに頼んで、MCOの監視者として仕事をし、そして情報を探りながら父と母の自己のことについて深いところまで潜り込んで言った。少しずつ。少しずつ……。もしかしたら嘘なのかもしれないと思いながら彼は徒労ともいえるような情報を収集していた。
キョウヤと同じように真相を探すようにしながら、ルーダは少しずつ、本当に少しずつ情報を探り、そして核心に迫りそうなところで、あることが起こった――
アップロードが起こり、ゲームの世界に閉じ込められてしまったのだ。
ルーダもといボジョレヲは驚いた顔をしてその光景とリアルな世界。そして混乱している最中……、彼はこれからのことを思案した。こうなってしまったことに関しては不運だった。しかしこのままでは出ることも叶わない。監視者としてのそれもなくなってしまったこの状況の中、どうしたらRCと通信ができるのかと思い、ここから出る打開策を練ろうとした時……。
「あんのぉ~。ちょっといいですか~?」
ボジョレヲの背後にぬっと現れ、そしてボジョレヲに向かって鎌を持った青年――セスタはニコニコとした笑みでこう話しかけてきたのだ。
「もしかして一人ですか~。だったらおれと一緒に行動しませんか~? 今一人で行動するのは危ないだろうし、それにおれも一人だと心細かったから、よかったら一緒に行動してもいいですか~?」
「……………………ええ、構いません」
ボジョレヲは頷いて、セスタの要求を呑んだ。
「ちょうど私もそんなことを思っていたところでしてね」
半分本当、半分嘘のようなことを言って、二人は相対し、そして同じチームとして行動することになる。
これが……、セスタとボジョレヲの初めての邂逅。
偶然が重なりあった出会いを果たした二人はゲームの世界に閉じ込められてから一緒に行動し、お互いのことを知らない二人だったが同じ何かを感じながら行動を共にし、そして現在に至った。
そして二人は知ることになる。同じ文章で届けられた手紙のことを、その手紙に導かれるように、二人はVRの世界に足を踏み入れたことを、ボジョレヲが監視者と言うことを、二人は共に行動しながら次第に交流を深めていく中で話をした。
セスタはボジョレヲにケビンとナリアのことを聞いたが、ボジョレヲはそのことに関しては首を横に振ることしかできなかった。わからない。それが彼の返答であった。
セスタはそれを聞いて落胆してしまったが、ボジョレヲはすぐにセスタに向かってこの言葉を投げかけた。
「確かに悔やむことではあります。ですが私のほかにも何人もの監視者がいます。その中には社長と深いかかわりを持っている人もいます。その人にあなたの親しい人のことを聞けば、何かわかるかもしれません。諦めてはいけません。きっと何かヒントが転がっているはずです」
そう自分に言い聞かせるように、ボジョレヲはセスタに向かって言った。
セスタはボジョレヲの言葉を聞いて再度決心を固めてから、ボジョレヲにお礼を述べる。その言葉に関して、ボジョレヲは「いいえ」とやんわりと返す。
それから二人は監視者を探しながら日々を送り、レンとノゥマ、アクアカレンと出会い、レティシアーヌ一同と出会い、監視者の一人でもあるDrのことを聞いて、ボジョレヲは皆の意見を聞いてから協力を承諾したのだ。
少しでも情報を聞き出すためにセスタは二人の家族のことを想い、ボジョレヲは家の教訓を胸に刻みながら――戦いに身を投じる。
二人が生きる理由。戦う理由――それは……。
真実を聞くために二人は戦う。各々が誓ったことを胸に刻みながら、真実を知るために――二人は、戦う。
回想終了――現在に戻る。




