PLAY64 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅲ(圧倒的な力)⑥
「うううううぐうううううううっっっっ! しごとどうぐはこわされる……っ! おだのぷらいどずたぼろぉ……っ! なんぜこうなった……? なんでおだまけかけているんだ……? なんでおだこんなひどいめにあっているの……? おだすんごくむかむかするぞぉ……っ! うぐぐぐううううぎいいいいいいいいいっっっっ」
ドゥビリティラクレイムはぎりぎりと歯を食いしばり、贅肉が付着している腕で膝を『だんっ! だんっ!』と鈍痛のように響くような叩きつけをしながら怒りを露にしていた。
がすっ。がすっ。がすっ。がすっ。
何度も何度も大きな手を膝に向けて殴りつけているドゥビリティラクレイム。
その光景を見ていた虎次郎は、構えを解いてドゥビリティラクレイムを見る。
しかし刀を掴む手だけは解除しない。
いざと言う時にその刀を持っている手を離していては、突然奇襲に来るかもしれないドゥビリティラクレイムの攻撃を防ぐことなどできない。
ゆえに彼は構えを解いたとしても警戒を解くことはない。
敵を目の前にして警戒を解くことは、人間を喰らう獣に背中を晒すような愚行であるから。
それを何度も体験した虎次郎は、その心構えを貫き通し、どんな敵であっても警戒を最後まで解くという行為をしない。
そう心に誓い、そして虎次郎は今現在刀に手を添えながらドゥビリティラクレイムの光景を見て――
「………あれでは、どでかい駄々っ子じゃな」と、呆れた顔と音色で彼は呟いた。
その光景を見ていたのか、ルビィはフックショットを装着しながら虎次郎の元に駆け寄り――彼もまたドゥビリティラクレイムの駄々っ子のような光景を見て呆れた目をして溜息交じりの音色でこう言った。
「確かに、あれじゃぁわがままな負けず嫌いな男の子ね」
「男の子……か。お前さんも変わった目であの男を見る……。普通ならば変な男で一括りになると思うのだがのぉ。まぁ儂から見たらあの男も子供と同等。ゆえに駄々っ子で言い包めておるがの」
「あら――そう言った視点もありってことね。虎次郎さんって本当に歳いくつ? 失礼なことを言うけど、とてもご老人には見えないわよ。普通に五十代くらいかそれ以下かしら」
「世辞はよい。こう見えても儂は六十八歳。しかしまだまだ若いもんには負けておれんよ! わっはっはっは!」
虎次郎とルビィは張り詰めていた緊張を僅かに解すかのように、未だに己の体に怒りをぶつけているドゥビリティラクレイムを横目で見ながら会話を弾ませていた。
その最中――ルビィは内心聞いてはいけないことを聞いてしまったかのような顔つきで、虎次郎のことをじっと見つめていた……。
若干、青ざめた顔で……、引きつった笑みを浮かべながら、彼はがすがすと己の膝に拳を打ち付けているドゥビリティラクレイムを横目で捉えながら、彼は虎次郎の耳元に唇を近付けて、小さな声でこう耳打ちをした。
「会話は終わりかもしれないわ」
「?」
会話は終わり。
その言葉を聞いた虎次郎は、首を傾げながらルビィを見て、そして頭に疑問符を浮かべながら彼はルビィの顔がある方向に向けながら、彼もまた小さな声でこう言った。
「どういうことじゃ? 会話を振ってきたのはお前さんじゃろう? 人生に始まりがあり終わりがあるように、会話も始まりがあれば終わりもあるのじゃ。そんな当たり前な」
「~~っっ! そう言う人生論は後で聞くわっ。じゃなくて私が言いたいのはそう言うことじゃないの」
虎次郎から離れ、今度は真正面を見て言いながら、ルビィはぶつぶつと何かを呟いて膝に拳を打ち付けているドゥビリティラクレイムに向けて指をさしながら、彼は虎次郎の耳元で荒々しいがそれでも静かな音色で、彼は言う。
「私が言いたいのはここからが本番って言いたいだけ。最初のあの戦いも、相手にとってすれば仕事だった。相手はきっと本気を出していないの。わかるかしら?」
「うううむ……。本気ではない雰囲気は出していなかったな。むしろ常に本気のようなそんな雰囲気じゃったな。うむ」
ルビィは指を額に添えながら頭を抱える。蟀谷に皺ができ、そのあとができそうなくらい、彼は頭を抱えた。
虎次郎の言い分も確かに理解するところはある。しかしドゥビリティラクレイムは『盾』。そして処刑軍団団長。ゲームで言うところの中ボスと認識しても過言ではない。むしろ中ボス以上の力を有している。
秘器を使わない状態であれば、何とか勝てるかもしれない存在であり、何とか勝てるかもしれない力量でもあった。実際――ギロチンを見ていたドゥビリティラクレイムは、かなり強いとみなしていた。
虎次郎も、ルビィも……。
そんなかなり強い相手に勝てたのはよかった。が――まだまだ不安は取り除かれていない。
まだ――秘器が残っているのだ。
今までの兵士たちは、ガルディガルは秘器を使っていた。そして拷問軍団団長であり、現在進行形でティズとクルーザァーを嬲っているセシリティウムも遅まきながら秘器を使っていた。
誰もが知っていることではあるが、秘器を使った瞬間の兵士達は厄介にして強力な力を得る。恐怖すらも取り除ける狂戦士を作ってしまうほど、秘器は恐ろしく……強い兵器だ。
ゆえにルビィは警戒を強めていた。
ドゥビリティラクレイムのような男でも、ギロチンを振り回していただけであの強さ。秘器が加わると一体どうなってしまうのか……?
「~~~~っっ!」
ルビィは今まで思考を巡らせていたそれを強制的の閉門し、そして首を横にぶんぶんっと振りながら、彼は再度正常な思考で額に指を添えながら眉間にしわを寄せる。
こうなればもう皺など関係ないであろう……。そう思いながら、ルビィは未だに膝に向けて拳を叩きつけているドゥビリティラクレイムを見ながら、彼は思った。
――この状況で、私達の優劣は断然劣勢! つまるところの相手側の有利! それは確かで、そしていまだにその状況は変わっていない。ドゥビリティラクレイム……でいいのね? なんだか聞き取りにくいような言葉を発してしたけど、あの男のご機嫌は超斜め。ご機嫌斜めってことで、きっと相手も今度こそ本気で行くはず。
――いまだに駄々をこねているのが幸運だった。
――このまま駄々をこねらせている間に、両腕と両足を部位破壊して……、ここから出るしかない!
結論確定。思考が整ったルビィは額から指をそっと離し、そして鋭い眼光でドゥビリティラクレイムのことを見つめようとした瞬間、ことはすでに劣勢以上のそれに絡むいていた。
「?」
ルビィは首を傾げながら、状況の一変を察知した。
否――一変を真っ先に察知したのは虎次郎だ。ついさっきまで構えをほどいていた体制をすぐさま元に戻し、姿勢を低くしたままの状態で虎次郎は構える。構えながら目の前を鋭い眼光で睨みつけていた。
ルビィはおろか、きっとシェーラでさえも見たことがない鋭さ。大袈裟に言えば熊であろうと逃げてしまうような鋭さだと、ルビィは驚いた目で見ていると……。
「――やめた!」
「え?」
ルビィは呆けた声を出して、虎次郎は低くしていた姿勢を更に低くして――突然の宣言をしたドゥビリティラクレイムのことを見た。
『やめた』宣言をしたドゥビリティラクレイムは、今までの怒りが嘘のような清々しい……、とは程遠い、目を点にし、もう何もかも考えることを放棄してしまったかのような顔をして、彼は仁王立ちになって、俯きながら独り言を口にした。
ぶつぶつと呟きながら、彼は腹部から流れ出ている己の寿命に事など無視して、彼は呟いた。
無心で、無情で、怠け者のように腕を上げながら、彼は呟く。
「やめたやめた! もうおだしごとやめた! おだおうさまのためなら、ていおうのためならなんだってする! ざいにんのしょけいおだすきだ。しょけいをすればていおうはほめてくれる! はくしゅしておだのことをほめてくれる。だからおだもっともっとほめてほしいからいろんなやつらしょけいした。いろんなやつらしょけいした。おだほめられたいからしごとたのしくやった。たのしくやればていおうほめてくれる。かみさまのかごあたえられるから、おだはやった。でもいまは『ばとらびあ・ばとるろわいやる』っていうたたかい。しごとゆうせんにしてころせばほめてもらえるだろうとおもっていたけど、もうおだしごとどうぐつかってたたかうこと、やめる」
いちじてきに――おだはしごとやめる。
ナマケモノのように振り上げていたその手を頭上で、真上で止めるドゥビリティラクレイム。
その光景をじっと見ていたルビィと虎次郎は、ドゥビリティラクレイムの行動を見ながら身構える。
構えながら、攻撃できる隙を見出そうとしながら、全神経を目に集中させて、隙を伺う。
隙を伺っている理由としてだが、それは状況の一変もある。なにより今までのドゥビリティラクレイム人行とは違う何かを感じたのだ。
それは――殺気。
今までも殺気らしいものは感じられた。自分達を処刑する時の狂喜に満ちた殺気。仕事だからこそなしえる異常な精神の表れと言ってもいいだろう。
しかし……、今しがた感じた殺気は、それとは別格の殺気。狂喜のそれが準備運動のようなまがまがしい殺気を察知した虎次郎とルビィは、己の武器を構えてドゥビリティラクレイムの行動を慎重にみていたのだ。
彼の体から漏れ出している、ハンナで言うところの赤と黒のもしゃもしゃ――怒りがもう恨みに変わりつつあるようなもしゃもしゃを出しながら、ドゥビリティラクレイムは両手を上にあげて、そして万歳をするような動作で微動だにしなかった。
ルビィも、虎次郎も、ドゥビリティラクレイムも動かない。そして口を動かさない。それは一種の緊張の空間を察知しての静寂なのであろう。
ぴりぴりくるその威圧に、虎次郎とルビィは迸る何かを感じた。感じて、二人は察する。ドゥビリティラクレイムを見て二人は心が一つになったかのように、ドゥビリティラクレイムを見ながらこう思った。
――この男は……、危険だ。
――今まで殺気なんて比でもない。この殺気は、この男の今の状態は……、危険だ。
噴き出る赤と黒のもしゃもしゃが――彼の殺気が噴火のごとくの威力で吹き出すそれを感じた二人は、口の中に溜まってしまった唾液を一気に喉に通し、そしてごくりと言う音を鳴らしながら顔の皮膚から出てきた汗が頬を伝って、顎に到達したところで地面に向かって落下する。
そのくらい、この空間は淀み、そして張り詰める緊張感で気がおかしくなりそうなのだ。
それを何とか持ちこたえながら、彼らはドゥビリティラクレイムをみる。
肝心のドゥビリティラクレイムは、未だに万歳をした状態で微動だにしなかったが、彼はどろどろとした殺気を放った状態で、低く、そして血走った目で虎次郎たちのことを捉えながら――
彼は……、本気を出した。
「あーつ――『まきし・ましん』」
と言った瞬間、万歳の様に上げていたその両手をぐっと握りしめ、ドゥビリティラクレイムはそのまま上げていた手を下に向けて――己の肩にその両手を落とすような勢いで、その両手を下ろした。握った状態――グーの状態で。
その状態を見ていた二人は一瞬――何をしてるのかが理解できなかった。が――すぐにそれを理解するときが来たのだ。
ドゥビリティラクレイムは振り下ろした両手を己の肩に向けて振り下ろし、そのまま肩についている僅かな秘器に叩きつけるように、その拳を押し付けた。
否――クイズ番組のように、それを押した。の方がいいだろう。
押したと同時に、肩から何か小さな音が出て、そのあとドゥビリティラクレイムは、だらりと押し付けていたその手を下ろした。否――い殻を失ったかのように、気絶をしたかのように、ぶらりと振り子のように落ちた。
その光景を見ていたルビィは首を傾げながら内心――何をしているの? と思いながらフックショットを下げて、俯いて手をぶらぶらさせているドゥビリティラクレイムを見ようとした瞬間……。
「――武器を下げるでないっ!」
虎次郎は珍しく、怒声の声をルビィに浴びせた。しつける様な声ではない。その声は本気で怒っている声だった。
「え?」
その声を聞いて、ルビィはぎょっとした顔をして虎次郎のことを見て、降ろしていたそのフックショットを止めた瞬間――
ガバリと――ドゥビリティラクレイムは顔を上げた。そして二人はその顔を見た瞬間、全身の血の温度が急激に下がり、更には体温が三十五度になったかのような寒気を感じ、目を見開いてその光景を――ドゥビリティラクレイムを見た。
両肩の秘器を押した瞬間、ドゥビリティラクレイムは力を失ったかのように、機能を停止したかのように腕をぶら下げ、そして頭を下げた。
が、すぐに顔を上げたが、その顔は今まで見たことがないような異常な顔を浮き上がらせて、そして二人に見せつけていた。
つぶらな瞳に小さなおちょぼ唇が印象的な顔はすでに半壊しており、血走った目に顔中を青筋を浮き上げ、ぶるぶると顔を震わせ、膨大な汗の量と共に口からドロドロと零れだす涎を拭わないままドゥビリティラクレイムは「ふーっ! ふーっ!」と、獣のような唸り声を上げながら荒い呼吸を繰り返していた。二人のことを睨みつけながら……、彼は唸る。
ぼたぼたと地面に汗と涎の後を残しながら……。
そして――体の方を見ると、二人は絶句してドゥビリティラクレイムの体を見た。
ふくよかな胴体に腰回り、手足の贅肉が異常で印象的で、太りすぎと言われてもかしくないような体つきだったドゥビリティラクレイムの体は、だぱだぱと汗を流しながら痙攣に近いような震えを出していた。指の先を、腕を、肩を、そして贅肉がこびりついた腹部を揺らしながら、彼は痙攣していた。
睨みつけながら、痙攣していた。
体中にちりばめられていた秘器からは水蒸気のようなものを一気に噴出し、辺りに白い煙をばらまき、ドゥビリティラクレイムの体を包み込もうとしているが、空気よりも重いのか、その水蒸気はどんどん地面に向かって落ちて、彼を隠すということをなさなかった。
と言うよりも、この場合は隠してくれた方がよかったのかもしれない。
演出上の問題ではなく、隠してくれればドゥビリティラクレイムの異常を間近で、そして目に焼き付けることもなかったかもしれないのだから。きっと普通の人がそれを見たら、あまりの光景に腰を抜かしてしまうかもしれないからだ。
二人はその光景を見ながら、ルビィは虎次郎に言われた通り武器を構えながらドゥビリティラクレイムを見て、虎次郎も警戒しながらドゥビリティラクレイムを見た。
そして――水蒸気に隠れようとしているのだが隠れ切れていないドゥビリティラクレイムは、ぶるぶると体を震わせながらヒグマのような唸り声を上げながら己の体を反り返える。がくがくとエビ反りになりながら、体を震わせていると……。
――べこんっっ! と、贅肉でダブダブしていた腹部が、一瞬のうちに氷のように凝縮されたのだ。否、引き締まった。の方がいいだろうか……。
「「っ!?」」
反り返っていたその光景を見て、二人は目を疑うような異常な光景を目にしてしまい、言葉を失いながら二人はその光景を――ドゥビリティラクレイムの劇的な変化を目の当たりにした。
――べこんっ! べこんっ! と、人間の体からは絶対に発生しない音を出しながら、ドゥビリティラクレイムの体は――贅肉であったその体がどんどんそうでない何かに変貌を遂げていく。
変貌を遂げていく中で、ルビィはある個所を見ながら、彼は絶句の表情でそれを見てしまう。
ある個所――それはべこべこと音を鳴らしている腹部のところ。
臍があるところなのだが、そこを見た瞬間ルビィは驚きの声を上げそうになったが、それよりも絶句が勝っていたらしく、思うように驚きの声を上げることができなかった。
ドゥビリティラクレイムの体は贅肉と言うそれをこびりつかせていた。その腹部にはすでに贅肉などなく、逆に浮き出ていたものは――筋肉。
筋骨隆々の腹部と胸元、そして二の腕や手の平、足も……どんどん贅肉がこびりついていたそれを失って、ドゥビリティラクレイムではない筋肉質――いうなればマッチョのような体が形成されていく。
ベコベコと体の中から音を出し、贅肉のそれからどんどんボディービルダーのような体格へと変貌を遂げていく中、秘器もその体に合わせるように、機械音を出しながらドゥビリティラクレイムの体に纏わりつく。
ドゥビリティラクレイムの唸り声がどんどん大きくなり、そして足の指だけで己の体のエビそりを維持しているその光景を見て虎次郎は思った。
自分の性格に似合わず、こう思ってしまった。
――勝てるのかわからん状況になってしまった。この男は、危険じゃ。こうなってしまえば、儂らは逃げることを許されん。
そう思いながら、虎次郎は頬を伝う何かを感じながら、ごくりと生唾を呑む。
ルビィは未だにその光景を見て絶句しているが、心の中はおしゃべりと言われてもおかしくないような流暢具合であった。ルビィは思った。
――何なのよあれ! こんなの想定していなかったわっ。なんなのよあれはっ。
――肩のボタンを押したら突然力がなくなったかのように項垂れて、あろうことかエビ反りになって、そのあとぽっちゃりさんだったその体がどんどんマッチョに変化していく……っ!?
――どういうことよこれ……っ! 人間どれだけ肉体改造をしてもこうはならない! こんなのコミックの特殊能力じゃない! ありえないわっ!
――ありえない……、でも……。
と思いながら、ルビィは混乱思考の中、彼はあるところをちらりと見てから、少し考えるようにぐっと目を閉じて、そしてすぐに開けてから、彼は思った。
確信。そう言った感情が見えるような顔で、彼は思った。結論に至った。
――いいえ、ありえるわね……っ! と……。そう思ってしまった。
ルビィがそう思った理由は、彼が身に纏っている秘器にあった。それを見て、ルビィは混乱している思考の中、なぜドゥビリティラクレイムがこうなってしまったのかということを思い出しながら彼は思った。
冷静に考えれば、至極簡単な答えだったと、少し落ち着きを取り戻したルビィは思った。
そしてこう推測をした。
――彼がああなったのは、ぽっちゃりさんがああなってしまったのは……、彼が突然秘器のボタンを押したから。押した瞬間、彼は豹変したかのように、自我を失ったかのようにこうなってしまった。
――十中八九、あの鎧……、秘器の力を使った結果があれということになるわね。
――つまりところの強化特化の秘器。今まで見てきた秘器は武器のようなそれだったけど、こいつは凄くシンプルですごく厄介な秘器……。
と思いながら、ルビィはぶるぶると体を震わせ、贅肉まみれだったその体をごつごつとしたそれに変えてくドゥビリティラクレイムを見ながら、彼は思った。
ドゥビリティラクレイムが今使っている秘器のことについて、彼はこう見解したのだ。
――彼が使う秘器は……、己の体を作り替えてパワーアップした体で戦う接近戦の秘器。つまるところの拳で戦うようなモンク系の…………………。
と思った瞬間、ドゥビリティラクレイムは反り返っていたその体をすぐに元に戻して、そしてそのまま二人のことを見降ろしながら、ゴキゴキと指の関節を軽く鳴らして、ふーっ! と口から出る白い煙を吐き出しながら、ドゥビリティラクレイムは……、否――ドゥビリティラクレイムなのかどうかすらわからないような人物は、二人のことを見降ろしていた。
ぎらつく目で、二人のことを見降ろし、じっくりと観察していた。
「げ」
「っ」
ルビィと虎次郎は、そんなドゥビリティラクレイムの生まれ変わった姿を目の当りにし、絶句し、青ざめながら二人は見上げた状態で、息をすることも忘れて固まってしまった。
事態は……、急変してしまったのだ。ドゥビリティラクレイムのこの一行動により……、二人に残された道が二つだけになってしまったのだ。
二つだけの道。それは簡単な単語で究極の選択めいた道だった。それは……。
一つ目は戦うこと。そしてもう一つの道は……。
死。
この二択だけだった。究極の選択とは、まさにこのこと。
戦わないと死ぬだけなのは嫌だが、今この状況で戦うことは――屍になる勢いを持って戦えと言っているのと同じだ。つまりは死ぬかもしれないが戦わないよりはましだ、戦え。
そう天から告げられたかのように、二人は愕然と、茫然と、絶句しながら、顔を青ざめて、ドゥビリティラクレイムの姿を少しずつ、本当に少しずつ見上げながら、二人はその姿を目に焼き付けた。
秘器を使ったドゥビリティラクレイムは、二人が知っているドゥビリティラクレイムではなくなっていた。
贅肉によってぶよぶよだったその体も贅肉の『ゼ』と言う字が全く見えないほど、ムキムキにしてがっちりとした体格に完成していた。筋肉のトレーニングをしたのかと言うようなぼこぼこしている胴体。なんでも身と上がりそうな太い腕とバンバンに膨れ上がった足。顔の贅肉も取れて、あの時見たつぶらな瞳も、小さなおちょぼのような口も嘘のようなそれに変わっており、瞳は狼のような目元で二人のことを睨みつけており、小さなおちょぼ口もぎりぎりと歯を食いしばりながら大きな音を立てて小ささを壊しにかかっている。その姿を見た瞬間……、ルビィは大きな声を上げて、ドゥビリティラクレイムのことを見上げながらこう叫んだ。
「――別人じゃないっ! 明らかに異常よっ!」
そんなルビィの叫びを聞いていないのか……、二人のことを忘れてしまったかのように、否――二人のことをもはや得物としか見てないかのような目で、ドゥビリティラクレイムは「ううううううううう」と唸りながら二人のことを見降ろしていた。
そんな唸り声を聞いていた二人は自分達のことを見降ろして、獲物のように補足しているドゥビリティラクレイムのことを見上げ、攻撃する素振りがないその光景を見ながらルビィと虎次郎はすぐさま攻撃の行動に移そうとした。
やるならば――今しかない。そう思いながら、二人は動こうとした。動こうとした瞬間……。
「ウウウウウウウウウウウウウウアアアアアアアアアアアアアアアアアアガアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!」
ドゥビリティラクレイムは上を見上げながら叫んだ。大声で、声が嗄れるかもしれない声を上げて、腹から出ているであろうその声を――空に向けて放ったのだ。
「「っっ!?」」
ルビィと虎次郎はその声を聞いたと同時に迫り来る威圧と大声の音波、そしてドゥビリティラクレイムの殺気によって動こうとしていたその腕を止めて、ぐわんぐわんと耳に攻撃するその声を聞かないように二人は武器から手を離して耳を塞いだ。
ドゥビリティラクレイムの叫びが終わるまで、二人はびりびり来るその振動に耐えながら終わるのを待った。
攻撃などできない。防御もできない状況の中、二人は轟音と化しているドゥビリティラクレイムの声から耳を守ることに専念して、目を閉じずに変わり果ててしまったドゥビリティラクレイムの姿を見た。
秘器――『鋼鉄肉体超改造』で姿を変えた……、ドゥビリティラクレイムのことを見ながら……。
※ドゥビリティラクレイムのセリフで『バトラヴィア・バトルロワイヤル』のところが『ばとらびあ・ばとるろわいやる』となっていますが、これは間違いではありません。




