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PLAY64 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅲ(圧倒的な力)③

 アナウンスは無情にも帝国のことを応援するように響き渡る。


 彼らの心境など無視し、帝国側の人間は帝国の勝利を願って反逆者の根絶やしを望み、応援に勤しむ。


 対照的に奴隷や下民の者達はそれを聞いて、先ほどまであった希望の念をかき消し、欲望と失望、そして反逆者に対して彼等は心でこう念じていた。


 ――何してんだ。しっかりやれよ。


 ――何のために来たんだ。お前達が負けたら俺達はどうなるんだ? しっかり働け。


 ………はたから聞けば図々しいという声が飛び交うだろう。


 はたから聞けばお前達が何とかすればよかったんじゃないか? 


 はたから聞けば……、何もしていないくせになんでそんなに偉そうなんだろう? 


 少しは勇気を振り絞ればいいんじゃないか? 誰もがそう思うだろう……。


 だが……、できないのだ。彼等は。


 彼等も一度だけ反旗を翻し、帝王に向かって反乱を繰り出そうとした。


 しかしその反乱は起きる前に収束してしまったのだ。


 帝王を守る『(たて)』……。『(アイアン・ミート)』の存在と力に、彼等は負けてしまった。


 完膚なきまでに、蹂躙(じゅうりん)と言われてもおかしくないほど、彼等は見も心もズタボロにされてしまった。


 帝国の最強の秘器(アーツ)使いにして帝国の要――


 今は亡き者ではあるが故、今となっては元と言う存在である彼――元・掃討軍団団長ガルディガル・ディレイス・グオーガン。


 暗殺軍団団長――ピステリウズ・ペトライア。


 処刑軍団団長――ドゥビリティラクレイム・パーム。


 養成軍団団長――ブルフェイス・イラーガル。


 拷問軍団団長――セシリティウム・アラ・ペティシーヌ。


 三宝軍団団長兼秘器開発最高責任者――グゥドゥレィ。


 偵察軍団団長――レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッド。


 この七人の力に屈服されてしまったのだ。


 奴隷区の者達と下民区の者達は……、秘器(アーツ)の力をその身に宿し、その力を我が物のように扱う『(アイアン・ミート)』の圧倒的な力によって屈服されてしまったのだ。

 

 ゆえに彼等は立ち向かうことをやめてしまった。戦うことを諦めてしまった。現実的な理由を付け加えて、彼等は戦うことをしなくなってしまったのだ。


 現実的な理由……、それは本当に現実的なことで、あまりに他力本願な雰囲気を漂わせるような……、言い訳に近いようなそれだった。


 ――自分達は戦わない……、犠牲を出したくないから。そして戦う力がない自分達には到底できないことだから、従う他はない。


 ……と言う理由で、彼等は戦わなくなってしまった。が……、自由になりたいという願望だけはあるという矛盾を抱えている。


 でも戦えない。だからこそ――強い人がこの国を壊してくれたら、きっと自由になれる。そう思ってしまい、そして現在に至ってしまった。


 国にいたせいなのか、はたまたはその人格が伝染してしまったのかはわからない。


 だが確実にわかることはある。


 奴隷区と下民区の人達はハンナ達に希望を抱いているが、対照的に帝国の者達を根絶やしにしてほしい。と言う願いを抱えて仕事をしている。


 歪んだ希望を抱きながら彼らは願う。


 ――帝国の陥落を。



 ◆     ◆



 ハクシュダの勝ち。


 そしてメウラヴダーとギンロの敗北が帝国内に響き渡った時、無傷で勝利を収めたハクシュダは突っ伏して動けない状態でいるメウラヴダーと、気絶してしまっているギンロを見ながら内心……、心に大きなしこりが出来てしまったかのような不快感を覚えた。


「くそ」


 ハクシュダは憎々しげに言葉を吐き捨てた。自分に対して、己の弱さを嘆きながら……、彼は己に叱咤した。


『バロックワーズ』のやり方も然りだが、帝国の傲慢さ、そして幼稚にして残虐な行為を目にあたりにし、更には守るために使うはずだった力を傷つけるために使ったという事実に、ハクシュダは自分に対して苛立ちを覚えていた。


 なんでこうなったのか。なぜこんな運命を辿ることになってしまったのか。後悔しかないような一部の半生を思い浮かべるハクシュダ。その原因は自分でもよく理解していた。


 自分のことを縛り付けている男の存在が、彼と、そして命令に従わなければ――レンに危害を加える。


 それを思い浮かべて、男の邪悪な笑みを思い出したハクシュダは、首を横に振ってその邪悪な笑みをかき消しながら、彼は思った。


 思いながら、倒れたメウラヴダーとギンロを住宅街にあったロープを使って一緒に拘束しながら、彼は思う。


 ――今は後悔している暇はねぇ。後悔ならあとからいくらでもできる。謝罪もあとからする。今はまず――この場所にはきっと、レンがいるはずだ。


 脳裏に浮かぶレンの後姿。そして振り向きながら、ハクシュダに向かって、微笑む彼女。


 幸せそうで、はにかんだその姿を思い……、否。思い出しながら、彼はぎゅっと、ロープをきつく固結びする。

 

 そして彼はその場で立ち上がり、ボロボロになってしまった彼らの傍らに回復薬をそっと二本地面に置く。


『コトリ』と言う音を立てて置くと彼はその場から姿を消すように、駆け出して離れる。心の中で二人にした非礼を詫びながら、彼は駆け出した。


 駆け出しながら、彼はある場所に向かって走る。走りながら彼は心で願う。自分が最も大切と想っている人の安否を願いながら……。彼は心の声で言った。


 ――無事でいてくれ……、麗奈っ!


 そう思いながら、願いながら、彼は走る速度を上げて麗奈が――レンがいるであろうその場所に向かって走る。


 しかしここで疑問が頭に浮かぶであろう。なぜハクシュダはレンがいるであろうその場所を把握しているのか。理由は至極簡単だ。


 Drがあの時言っていたことを覚えているだろうか?


 因縁のある者達がいるから、その者達と因縁がある者同士を最初に戦わせたいと。そんなことを言っていたことを覚えているであろうか?


 それはハクシュダ達も知っており、それを踏まえてDrはハンナ達にあんな大掛かりな案内めいたことをしたということなのだ。少しばかり武力行使なところがあるが……。


 閑話休題。


 それを考えながら、ハクシュダは()()()()()()()()()()を真っ先に思い浮かべ、彼は全速力である方向に向かって走る速度を上げた。


 北に向かって――彼は全力で走る。レンの無事を祈りながら、彼は帝国の道を走り抜ける。



 ◆     ◆


 

 その頃、誰かが『バロックワーズ』の一人に負けてしまった凶報を聞いていたティズとクルーザァーは、驚いた顔をしてその凶報を聞き、二人は迫りくる奴隷九万人を相手にし、二人は何とか傷つけないように奴隷達の攻撃を捌きながらティズはクルーザァーに向かって戸惑いながら聞いた。


 体は迫りくる奴隷達の攻撃をうまく捌いて躱しながら、彼はクルーザァーに向かってこう聞いた。


「ね、ねぇ……、今の」

「ああ。聞いた通りのことが起きてしまったな」


 ティズの言葉を聞いたクルーザァーは呆れながら溜息を吐いて、背後から襲い掛かろうと振り下ろした――斧を持った奴隷の攻撃をひらりと躱し、そのまま斧の柄をがしりと掴むと、手首をしならせながら釣りをする要領で大きく地面に向けて叩きつける。


 ――どちゃり! と、背中から強い衝撃を受けてしまった奴隷の一人は激痛に耐えるような顔をして「いってぇ……っ!」と唸りながらクルーザァーのことを見上げるが、彼はそんな奴隷に構う暇もないまま、彼はティズの方を見ながら言う。


 クルーザァーの右の方向から――大きく振りかぶって剣を振り回している奴隷の攻撃を見ずに、彼は言う。


「合理的に考えればレベルで言えば俺たちの方がわずかに低いだろう。しかしこの世界はすでに現実に近いようなそれだ。実力と経験があれば倒せるであろう相手だと、そう思っていた」


 彼は振りかぶって攻撃してきた剣を持った奴隷の男の手に向けて、手刀を勢いよく振り下ろす。


 バシィンッ! と言う音が鳴ったと同時に、剣を持った奴隷の男は痛みを訴えながらよろけてその場から離れると同時に、入れ替わるように別の奴隷の女が手に持っているナイフを手に持って、クルーザァー……、ではなくティズに向かってそのナイフを背中に向けて突き刺そうとして駆け出して行く。


 その光景を見ずに、気配を感じ取れない状況でティズは、クルーザァーのことを見ながら――


「『思っていた』って……。確かにそうかもしれないけど……、でもそれが正しければもしかして……」


 ティズは不安そうな表情を浮かべながらクルーザァーのことを見て言う……。


 瞬間、彼の背中に向けてナイフを突き刺そうとしていた奴隷の女が、彼の背中にぶつかりながらも己が持っている武器でティズに引かい傷を負わせる。


 ――ざすり! と、背中からそのナイフを突き刺しながら、奴隷の女は荒い息を吐いて突き刺した個所を見る。


 どろりと、ティズが来ている布を赤く染めていく光景を見て、彼女はわなわなと震える顔を浮かべて顔中の血の気を引きながら、彼女は恐る恐るティズのことを見上げる。


 痛がっていないだろうか、そんな罪悪感をわずかに抱きながら、奴隷の女は顔を上げて、ティズの顔を見た瞬間……。


「相手も相当強いってことだよね? 大丈夫なの? 死んでいないよね?」


 背中からどくどくと流れる血を全く気にも留めていない……、否、むしろ気付いていないのか、ティズの平然として不安を抱いているその顔を見た女は髪の毛が逆立つような衝撃と恐怖を抱いて、すぐさまティズから離れて己を抱きしめながら震えてしまう。


 己の今の状況を理解していないティズを見て、クルーザァーは呆れながらため息交じりに「そうだな……」と言って――続けてこう言う。


「死んでいないことを願うのは普通かもしれないが、実力で負けたのならばそいつのことをいちいち気にすることは合理的なやり方ではない。思考の支障に繋がる。現にお前の背中に刺さっているそのナイフが証拠だ。注意力散漫だ。常人なら激痛で身をよじるぞ」

「? あ、本当だ」


 ティズは背中に刺さっている短剣に今更気付いて、そのナイフの柄を掴んで、何のためらいもなく彼はそれをズボリと引き抜く。


 引き抜いて、それをぽいっと誰もいないところに捨てながら、背後から感じる気配に気づいて、ティズは背後を振り向きながら見る。

 

 背後を見た瞬間、ティズは「あ」と声を漏らしながら、自分のことを見ている奴隷たちの目を見て、一瞬驚き、そして察して、複雑な表情を浮かべながら彼らを見た。


 ティズを見ている奴隷達の目は――畏怖そのものの目。怯えている目だった。


 ティズの姿を見て、ティズの異常な光景を見て、誰もがこう思ったに違いないだろう。


 変だ。痛みを感じていないだなんて、変だ。化け物だ。


 そう言った目でティズを見ている奇異と畏怖が混ざった目は、ティズの心をどんどんかき乱していく。今までもこのようなことはあった。ティズが『ロスト・ペイン』になってしまった後も、そのようなことは多々あった。


 しかし――今回の目は異常で、ティズの病気を知らない彼らにとって、ティズと言う存在がおぞましい何かと言う認識が強く残ってしまった瞬間だった。


 その顔を見て、ティズはぐっと胃の奥から込み上げて来る酸っぱいなにかを感じながら、ティズは握っている短剣を握りしめながら顎を引いて、口をきつく、きつく噤んだ。

 

 と同時に――


「――よそ見するな」

「っ!」


 彼の横からクルーザァーの声が聞こえた。そしてすぐに、ティズの左から何かがはじけ飛ぶ音と男の声が聞こえた。


 ティズははっとして左の方向を見ると、彼の足元には、己の足を掴みながら痛みで唸り声を上げている奴隷の男が寝っ転がっており、ティズの背後から足音と共に、クルーザァーの声が彼の耳に響き渡った。


 クルーザァーは言った。ため息を吐きながら彼は言う。


「相手の目を見て戸惑うな。お前は普通なんだ。ただ痛みがないだけで、お前は普通の人間なんだ」


 何度も言ったはずだ。忘れたのか? 


 クルーザァーはティズの背後から近づいて歩み寄りながら聞くと、それを聞いて、ティズはクルーザァーの方を振り向きながら、少しだけ強張っている表情を浮かべて首を横に振る。


 その光景を見たクルーザァーは少しだけ苛立った音色で――


「なら少しは頭を働かせろ。痛みがなくても脳は正常に機能する。思考を怠るな」と言った。


 その言葉を聞いたティズは内心青ざめながらクルーザァーのことを見て、何度も思っていることを心の声で呟いた。


 ――相変わらずのスパルタ……ッ! 怖い……。


 そう思いながらティズは周りにいる奴隷八万九千六百三十二人……、の向こうにいる『(アイアン・ミート)』の一人にして紅一点の女団長にして拷問軍団団長――セシリティウム・アラ・ペティシーヌのことを視界にとらえる。


 セシリティウムは戦いが始まった直後から今現在まで……、彼女は一度も戦いに参加していない。奴隷の背中に足を組んで優雅に座りながら、彼女はティズ達の戦いを観戦しているだけだった。


 彼女の元にいる奴隷の大男は、彼女の前で四つん這いになって体を小さく丸めながら、セシリティウムの椅子となってその身を捧げながら何かに耐えているかのように歯を食いしばり、そんな男の背中に座りながらセシリティウムはくすくすと微笑みながら、ティズ達のことを見ながら、声を張り上げながらこう言ってきた。


「あらあらぁっ。『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』が始まって早々の脱落者! その脱落者はあなた方のお仲間ではありませんかっ。ワタクシの奴隷達はすでに三百六十七人脱落しておりますが……、それでもまだ八万九千六百三十二人も残っておりますし、ワタクシもおりますし、絶対にして圧倒的な力を持っている(帝王)もいますわっ!」


 セシリティウムは両手を勢い良く広げながら続けて言う。


 ティズとクルーザァーのことを見ずに、彼女は二人に向かってこう言った。優雅に聞こえる覇気のある声で、彼女は言った。


「つまりは! あなた方がしていることは無謀に等しい行為! 神であり圧倒的な力を持っている帝王の前では足元にいる蟻と同等の力なのですっ! ワタシクの秘器(アーツ)――『電光瞬轢(サンダー・ショー)』を使うこともありませんわね。あっけないものですわ。ここで負けを認めていただければ痛いことはしませんわ。永久的にワタクシの奴隷として、じっくり……、ねっとり……、そしてドロドロになるくらいまで可愛がってあげますわ……っ! うふふふふっ!」


 くすくすくすっ! と、彼女は狂喜の笑みを浮かべながらくつくつ喉を鳴らす。ティズとクルーザァーの変わり果てた姿を想像しながら、彼女は楽しみにしながら二人のことを見る。次なる脱落者を見降ろすセシリティウム。


 はたから見ればドエスのそれである。


 そんな彼女の顔を見ながら、クルーザァーは……。


「………ならば、負けは絶対に認めたくないな」


 セシリティウムの言葉を聞いたクルーザァーは、周りを取り囲んでいる奴隷達を見ながらセシリティウムの言葉に対して反論すると、それを聞いたセシリティウムは高揚とした笑みをふっと消し、無表情に近い表情でクルーザァーのことを見降ろしながら彼女は言う。低い音色でこう言った。


「あら……? そんなこと言ってもいいのかしら……? あなた達今絶体絶命じゃない? 勝った相手は『バロックワーズ』であったとしても、今現在あなた達はかなり劣勢なのよ? 勝てるわけ」

「確かに負けた。が――それだけで俺達の劣勢が完全に決まったわけじゃない」


 クルーザァーははっきりとした音色でセシリティウムの言葉を論破した。


 それを聞いていたセシリティウムは、目元を僅かにぴくりと動かしながら、クルーザァーのことを見降ろして小さな声で「……何ですって?」と言う。


 その声に続くように、彼女は吊り上がった目でクルーザァーのことを見つめながらこう聞いてきた。


「どういうことかしら……? 見た限りあなた達は劣勢そのものですわ。()()()()()()()()()()()をもってすれば、あなた達なんて」




()()()()()()()()()()()




「あ?」


 突然だった。


 突然、クルーザァーとセシリティウムの言葉に割り込むように入ってきたティズは、眉を顰めて、少しだけ怒りが現れているその顔でセシリティウムの顔を見て、そして睨みつけながら彼は彼女に向かってこう言ってきた。


「あんたが持っている力なんて、ただの恐怖によって植え付けた支配力じゃないか。この地を歪ませて納めているダメ帝王と同じだ。あんたの力じゃなくて、恐怖で縛り付けたそれだ」

「…………………………………っ!」

「『ワタクシが持っている力』って言ってもさ、あんた何もしていない。何もしていないくせに他人の力を自分の力と思って(おご)るなよっ。()()()()!」

「っっっ!」


 今までの顔が嘘のような怒りの顔を見せて、セシリティウムに向かって指を突き付けるティズ。そんなティズの行動と言葉を聞いたセシリティウムは、びきびきと額に青筋を立てながらわなわなと顔を赤くして怒りに震える。


 その光景を見て、そしてティズの言葉に同意の表情を浮かべながらクルーザァーは、自分達を取り囲んで取り押さえようとしている残りの奴隷達を一瞥しながら、クルーザァーはセシリティウムに向かってこう言った。


 淡々としているが、それでも希望を捨てていないような音色でこう言ってきた。


 己の正面に両手をかざしながら、彼は言う。


「そうだな。お前は何もしていないじゃない。ただ部下に任せて自分は高みの見物をしているだけの命令しかしない上司だ。今の帝王と全く同じじゃないか。俺達の戦いを高みの見物をしながら果実を頬張り、肉を貪って贅を肥やす。王としても失格だが、それに使えるお前達も騎士団長として失格だな」


 だからこの国は狂っているんだ。根元が腐っているからこそ、お前達も腐って、国民も腐っているんだ。すべては王の所為……、ということだ。


 と、彼は彼らしい暴言じみた合理的な発言をすると、それを聞いていたセシリティウムは……。




「ひぅぎぅんぎぃぃぃぃぃぃぃぃぃ~~っっっっ!!」


 言葉にならないような甲高い声を上げて、ギリギリギリッ! と歯を食いしばりながら彼女は秘器の足を地面に向けて踏みつけた。




 否――突き刺した……。の方がいいだろう。彼女は番っている秘器(アーツ)の足を地面に『ザスザスッ!』と突き刺しながら、苛立ちを露にしながら彼女は、絶対なる忠誠を誓い、自分のことを見てくれる圧倒的な帝王の暴挙を行ったクルーザァーとティズに向かって、彼女はびしりと指をさしながら叫んだ。


 椅子となっている大男のことを突き刺していない秘器(アーツ)の足で傷つけながら、彼女は怒りの眼で叫んだ。


「神である帝王の暴言! そして我が騎士団に対しての暴言! この行為は『バトラヴィア帝国法』に記載され大罪……『侮辱罪』に匹敵する言葉! ゆえにこの場でお前たちを奴隷にすることを取りやめ、即刻貴様らの四肢をばらばらにして極刑に処す! ワタクシの手で処刑してやるぅ!」


 セシリティウムは叫ぶ。叫びながらティ図たちの処刑を宣告すると、それを聞いていたクルーザァーは呆れた溜息を吐いて……、そしてかざした手に力を入れながら彼は言う。


「最初からそうしろ。俺達はいつでも全力なんだ。奴隷を使って高みの見物をする輩に、俺達が負けるはずはないだろう?」


 クルーザァーは続けてこう言った。今まさに、セシリティウムに向かって走ろうとしているティズのことを横目で見ながら彼は言った。


「俺達は二人だ。一つの脳味噌と二つの脳味噌、知恵が二倍ある。力が二倍あるんだ。もとよりこの状況を見れば、誰だってお前の方が劣勢に見えると思うが?」

「っ!? 何を言って」


 セシリティウムは怒りの表情のままクルーザァーのことを睨みつけて聞くと、彼はかざした両手と同時に、彼の足元に出た()()()()()()を見ながら、彼はスキルを放つ。


術式召喚(サモナーバインド・)魔法(スペル)――『二重(ツインズ・)召喚(バインド)』:女夢魔(サキュバス)! 男夢魔(インキュバス)!』」


 クルーザァーが叫ぶと同時に、彼の足元にあった二つの魔法陣が眩く光り出し、そしてその魔方陣から這い出るように現れたのは――二匹の悪魔だった。


 左から出てきた男姿の悪魔は、上半身は人間に近いそれで、足が人間の物ではなく……、獣の蹄を持ち、そして茶色い体毛で覆われた姿をしている。そして上半身の肌が青く、黒い長髪に頭から二本の羊の角を生やした容姿端麗な魅入られそうな姿をしている悪魔。


 そして右から出てきた女性の悪魔は、人間の姿に悪魔の黒い翼と尻尾。そして薄桃色のショートヘアーに黒い角を生やした妖艶な服を着ている容姿端麗でこちらも魅入られそうな姿をしている悪魔だった。


 男の悪魔がインキュバス。


 女の悪魔がサキュバス。


 そうクルーザァーは言っていた。


 そしてその姿を見ていた奴隷たちやセシリティウムは、そんな悪魔二体の姿を見た瞬間、呆けた顔をして見上げて、攻撃することをやめてしまっていた。


 見惚れてしまったかのように、それぞれが異性となる悪魔を見つめていた。


 その光景を見てクルーザァーはティズのことを見て頷くと、ティズもそんなクルーザァーの行動を見て頷き返すと、ティズはすぐにセシリティウムに向かって駆け出し、クルーザァーも二匹の悪魔に向かって命令を下した。


女夢魔(サキュバス)! 男夢魔(インキュバス)! 『幸せのユメセカイへ』を発動させろ! 奴隷達に向かってだ!」


 その言葉を聞いた二匹の悪魔は、こくりとクルーザァーの命令に従順になって従い、周りにいる奴隷とセシリティウムの椅子となっている大男の奴隷に向かって、それぞれ異性となる者達に向けて、悪魔たちは行動を開始した。


 二匹は懐に入れていた赤い小瓶のふたを開け、それを手に取りながら二匹は赤い液体を近くにいる奴隷たちに向けて、飛び散るように飛ばしたのだ。


『ピチチッ!』と、奴隷達の顔や服にこびりつくように、その液体を飛ばした二匹。


「うわっ!」

「何だこれっ! 血かっ!?」


 それを受けた一部の奴隷達は、受けた衝撃に驚きながら、服や顔に付いてしまった液体を拭こうとした瞬間……。


「いや……、鉄臭くないかにゃ………、あにゃ……? なんなやがねむくほりゃなにゃらぺ……?」


 臭いを嗅いだ一人の奴隷が地ではないことを認識したとたん、ふらりと体を揺らし、へんてこな言葉を口ずさんだと同時に、そのまま地面に向かって……、ばたり! と、倒れこんでしまう。


 規則正しい寝息を立てながら……。それにつられるように、一部の顔や服についてしまった液体を嗅いでしまった者達は、そのまま幸せそうな寝息を立てて寝てしまったのだ。


「っ!?」

「え、ええっ!?」

「何だこれ! どうなって……」

「ふあぁ……、あれ? なんだこれ……」

「なんだが、眠く……」


 その光景を見ていた後ろにいた奴隷達は、驚きながらそれを見ていたが、次第に目や表情がトロンッとして視点が定まっていない目になって首を揺らしながらふらつき始める。


 その行動が伝染していくかのように……、否。()()()()()()()()()()()()、奴隷達はどんどん倒れて眠りの世界に向かって行く。


 その光景を見て、セシリティウムはクルーザァー達の思惑に気付いて、急いで口を塞いで赤い液体の臭いを嗅がないように息を止める。


 クルーザァーはそんなセシリティウムの姿を見ながら「よくわかったな」と言い、彼は左右にいる二匹の悪魔のことを交互に見ながら、彼はこう言った。種明かしをしたのだ。


「こいつらは夢魔と言うもので、相手を眠らせて攻撃をすることが最も得意な魔物だ。さっきの技は『幸せのユメセカイへ』と言うもので、文字通り相手を幸せの夢の世界へ誘ってから攻撃をする技だ。つまりこいつらは『眠り』状態。嗅がなかったお前は無理だったが、それでいい。これで――」


 この奴隷の人達を傷つけることはなくなった。


 と言った瞬間――セシリティウムの椅子となっていた大男が地面に顔をくっつけるように、突っ伏してしまった。支えていた足と腕を睡魔のせいで伸ばしてしまい、そのまま大男の奴隷はセシリティウムを乗せたまま寝てしまったのだ。


 どすんっ! と言う衝撃音が聞こえたと同時に、セシリティウムは驚いた顔をして下にいる大男の奴隷を見ようとした瞬間、目の前に急速な勢いで現れ、そしてセシリティウムに向かって短剣で体に傷をつけようと振るっていたティズを見て――セシリティウムははっとしてその場から後ろに向かって避けた。


 ティズの振るいを紙一重で避けるように、彼女はその場で跳躍して後転し、彼女はそのまま後ろに向かって飛び跳ねてくるくる回りながら逃げる。


 そしてあるところで止まってティズ達のことをぎろりと睨みつけながら、セシリティウムはよろけて立ち上がる。


 セシリティウムのその姿と焦り様を見て、攻撃をしてきたティズは、手に持っていた短剣を逆手に持って構えながら吊り上がった目で彼女のことを睨みつけながら言う。


「あとはお前だけだ――()()()()

「っ!」


 その言葉を聞いたセシリティウムは、ビキキッ! と、苛立つ表情を顔に出しながらティズとクルーザァーのことを睨みつけ、秘器の足に力を入れる。


 ティズはそれを見て、視線を低く、そして前屈みになりながらセシリティウムに向かって駆け出す。目で追っても、素早いことがわかる様な動きで彼はセシリティウムに向かって急速な勢いで近付く!


「これで終わりだ」と、ティズは言いながら逆手に持った短剣を振るおうとした。


 急接近して来たセシリティウムに向かって振るおうとした。


 が――


 そんなティズを見て、セシリティウムはくすりと微笑みながら小さな唇を震わせて……ある言葉を唱える。


 まだ終わりではない。そう心の声で嘲笑いながら彼女は言った。




       「秘器(アーツ)――『電光瞬轢(サンダー・ショー)』」




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