PLAY64 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅲ(圧倒的な力)②
凶報が報じられた瞬間、誰もが――反逆者と見なされているアキ達は驚愕な表情を浮かべながらそれを聞いていた。
ハンナだけは凄まじい攻撃力を誇っているボルケニオンから逃げていたので、それを知ったのはみんなよりも少し時間が経った後であった。
誰がいたのかはわからない。だが事実は残酷だった。
結果として――最悪のそれを迎えてしまった。
仲間の誰か二人が『バロックワーズ』の一人に負けた。出だしは最悪だった。
なぜこうなってしまったのか……、それを知るためには少し時間を遡らせなければいけない。
遡ること――『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』が始まった直後。
平民の住宅が密集している場所で、メウラヴダーとギンロは仮面の男……、ハクシュダを前にして逃げの体制から前を見て武器を構えながら攻撃の態勢に切り替え、二人は瓦礫の上に立っているハクシュダを見上げた。
ハクシュダはそんな二人を見降ろし、指に糸を括りつけて操り人形を操るように『ひゅんひゅん』と動かしながらハクシュダは二人のことを見降ろしていた。
それを見ていたメウラヴダーは両手に二本の黒い刃の剣を手に持ち、身構え、『デノス』で起きたことを思い出しながらこう思った。
――あの時、こいつは『デノス』の壁……。と言うか建物の一部をいとも簡単に切った。切った……、の方がいいのかはわからないが、それでもこの仮面の男は剣で切れないものを切ってしまった。
――単なる偶然かと思っていたが、そうじゃない。
――あの住宅の破壊行動と破壊力を見れば一目瞭然だ。この仮面の男は――やばい。
メウラヴダーはそう思い、剣を握る力を強張らせ、口に溜まってしまった唾液を飲み干す音を出しながら彼は思った。直感でこう思った。
――この男は……、違う。俺たちとは全然違う種族のような雰囲気を出している……。
――ティティのようなそれでもなければ、ガザドラのようなそれでもない。強いて言うなら……、そうだ。この雰囲気はまるで……、あの武神の……。いや……、それと同等のような雰囲気が……。
そう思ったメウラヴダーは、脳裏に一瞬浮かんだ『最強の鬼神』の背中を思い浮かべてしまう。
が、すぐに首を横に振りながらまさかと自分に言い聞かせて落ち着きを取り戻そうと一回深呼吸をする。
こう言った直感は女性の方が鋭いという情報があるが、ガルーラとメウラヴダーの場合は……、メウラヴダーの方がそのような勘が優れている。
その話をガルーラにした時彼女はカラカラ笑いながら「女々しいな!」と言っていたが、今回ばかりはその勘に感謝するメウラヴダー。
今その勘を研ぎ澄ませないで仮面の男――ハクシュダに迎え撃とうとしたら、少なからず彼の体はズタボロだろう。そのくらいハクシュダは強い。と、メウラヴダーは直感した。
レベルの話でも、モルグの話でもない。
ハクシュダの純粋な強さに対して、メウラヴダーは警戒心を強めてハクシュダを見上げていたのだ。
そんな光景を見ていたギンロは珍しく神妙な面持ちを顔に出しながら、彼はメウラヴダーに向かって聞いた。
頬を伝う脂汗を拭わずに彼は聞いた。
「で? どうするんだ?」
「どうする? そんなことを聞いてどうするんだ? まさか逃げようとか考えているのか? 無駄だと思え。最初の対戦で『逃げることはオーケー』と言うルールはないだろう……。それに相手の強さを考えれば、逃げることなんて無謀だ」
「いやいやっ。俺が聞きたいことはそう言ったチキンなことじゃねえっ! 俺が言いたいのは……、あいつに勝つためには、どうすればいいって聞こうと思ったんだよ」
えらく神妙に、真剣に聞くギンロ。
それを聞いたメウラヴダーは呆れた顔をして溜息交じりに言うと、ギンロは慌てて首を横に振りながらびしりと指をさした。
ハクシュダに向けてその指をさした彼は、メウラヴダーのことを真剣な目で見て聞く。それを見ていたメウラヴダーはゴーグル越しに見えるギンロの目を見て、その心意が本当だということを知ってから、彼は横目でハクシュダを見て、そのままの状態で彼は言った。
小さな声で、そして真剣な音色で彼は言った。
「――知らん。と言うか勝てる見込みがあるかどうかもわからない状態だ」
「うぉい絶体絶命じゃねえかっ! どうするんだよこの状況! 俺達これからどうなるんだよっ!」
聞きたくなかったというよりも、そんな言葉が飛び込んでくること自体が衝撃的だったのか、ギンロは唇を尖らせながらメウラヴダーに向けて怒鳴りつけると、それを聞いていたメウラヴダーは「仕方ないだろう」と、ギンロの言葉に対して苛立ちを覚えたのか、顰めた顔を向けて彼は言う。
「俺達は運悪くこの男と組まれた。それだけなんだ。要は運の無さが決め手だっただけだ」
「そんな『運も実力の内さ』みたいなこと言うんじゃねえってっ! だあああああああぅ! どうしよう! 俺どうしよう! 頭悪い俺どうしようっ! あぁあああっっ! ダディ、紅、リンドーにガザドラカムバーックッッッ!」
「おいおい……、ボルド忘れているぞ……。っと」
呆れながら突っ込んで、メウラヴダーは再度ハクシュダを見る。
この行動はメウラヴダーの身長差が露見した行動と言っても過言ではなかった。この会話の隙に攻撃されないように、メウラヴダーはハクシュダのことを見てその場にいるかどうか確認をしようとしたのだ。
横目でハクシュダがそこにいるかどうかを確認しようとした瞬間…………。
「?」
メウラヴダーは、驚いた目をしてその光景を――ハクシュダを見た。
ハクシュダはその場から、動いていなかったのだ。ただ余裕のある様な雰囲気ではない。その雰囲気はまるで……、懐かしんでいるかのような雰囲気で自分たちのことを見ていたのだ。
それを見ていたメウラヴダーは内心首を傾げながらどうなっているんだ……? と思っていたが、ギンロは今の今まであーだうーだと唸って頭を抱えながら狼狽していたが、すぐに大きな声を上げて彼はハクシュダの方を見ながら、手に持っていたミニガンの狙いを定めながら、彼は怒り任せに、怒りを声に乗せながらこう言った。
「くそぉおおおおっっ! こうなったらやけくそじゃああああっ! おらあああああああっっっ!」
「あ!」
ギンロの行動に驚きながら、メウラヴダーはすぐにギンロのことを止めようと手を伸ばしたが、時すでに遅しであった。否――すでに遅かったのだ。
ギンロが言い終わったと同時に、彼は手に持っていたミニガンの引き金を強く引くと……、ミニガンから無数の弾丸が射出された。
バルバルバルバルバルバルッッ! と言う音を立てながら、弾丸はハクシュダの下の瓦礫にに向かって放たれる。瓦礫を壊してハクシュダの動きを止めようという作戦だ。
安直ではあるがギンロからすればかなり考えた結果でもあった……。
それを見ていたハクシュダはギンロが考えていることを察してしまったのか……、すぐさまその瓦礫の上から後ろに向かって跳躍しながら退いて行く。そして……、瓦礫の向こうから『ヒュンヒュンッ!』という空気を切る音と、『ジャキンジャキンッ!』と言う何かが切れる音が二人の鼓膜を揺らした。
「「っ!」」
聞こえた。そう二人は何度も何度も聞いた音を聞いて、そしてそのまま後ろに向かって逃げる態勢を作ろうとする。ギンロに至っては撃ちながら次にくる行動を予測してすぐに撃つことをやめれるように身構えた。
鵜足がその体制を作ろうとした瞬間、彼らの目の前にあった瓦礫から……、ついさっきまでハクシュダがいた瓦礫から、『シュパンッ!』と言う何かが切れる音が聞こえてすぐ、瓦礫はひとりでに粉々に、ばらばらに刻まれてしまった。
さいころと同等の大きさに刻まれて、瓦礫は地面に向かって落ちていく。落ちていくと同時に、放たれたミニガンの弾丸がその刻まれた瓦礫に向かって行く。
ガガガガガガガガガガガガガガガガガッ! と――
弾丸は瓦礫に当たりながら小さくなってしまった破片と衝突した衝撃でチリと化してしまう瓦礫の砂埃
その砂埃は辺りに立ち込め、空中内をフヨフヨと浮きながら、ゆっくりとした動きで地面に落ちていく。しかしそれがいくつも重なっていくとどうなるのだろうか……。
「馬鹿! やめろギンロッッ!」
メウラヴダーは打ち続けているギンロに向かって慌てて叫んだ。今の状況を見てまずいと確信してしまったからだ。だからこそメウラヴダーは声を荒げながらギンロに向かって怒鳴ったのだ。
しかし……ギンロがそれを聞いて、そして気付いた時には、もう遅かった……。
「あ! やべっ!」
「~~~~~っ! こんのおバカっ!」
「うっせぇっ! お馬鹿っていうやつがお馬鹿なんだよ!」
それに気付いたギンロははっと気を呑んで、銃の引き金を戻してから彼は……、まずったっ! と言う顔をして青ざめてしまう。
メウラヴダーはギンロに向かってやらかしたことを責めるように言うと、ギンロはびきりと頭に青筋を浮き上がらせてから、彼は怒りの表情を浮かべて怒鳴り返した。
だが……、これはギンロのせいと言っても過言ではないようなそれだった。
ギンロが放った弾丸はばらばらにさいころサイズに切り刻まれてしまった瓦礫の破片に当たって、そのまま爆ぜるように小さな瓦礫は少量の砂煙とさらに小さくなってしまった瓦礫へと変貌を遂げる。
地面に落ちた瓦礫は今の時点ではどうでもいい要素。しかし問題は……。
空気よりも軽い砂埃は、辺りを飛び交いながらギンロとメウラヴダーの視界の妨げを引き起こしていた。さながら……、茶色い霧である。しかも埃っぽいというおまけつきのであった。
それを見ていたメウラヴダーは、あたりをぐるりと一周して見渡しながら、埃っぽいそれを嗅がないように口元に手を添えながら彼は思った。
――くそっ! 瓦礫の破片が空気に飛散してしまっている……っ! こんな暗い空間だ……、目を凝らしてもあまりよくわからない……っ!
――霧が白かったらこんな暗い空間でもわかったはずなんだが、これじゃぁ悪循環じゃないかっ! ミリオタクめっ!
と思いながら、メウラヴダーはギンロのことをじろりと睨みつける。そんな顔を横目で見たギンロは、若干顔を青くさせて肩を震わせながら上ずった声を上げて萎縮してしまっていた。
心の中で……、俺、やっぱり悪いことしちゃったかな……? と、遅まきながら罪悪感を抱いて……。
そんなギンロの心境など理解する暇もないメウラヴダーは、砂煙によって視界が遮られているこの空間を見渡す。きょろきょろと、辺りを見回しながらハクシュダを目で探した。
砂埃の中をきっと走ってくるであろうハクシュダの影を探しながら、彼は神経を研ぎ澄ませながら辺りを見回す。
見回すメウラヴダー。しかし……、砂埃の流れは未だに一定で、乱れる形跡は一切見えなかった。と言うよりも、ハクシュダが来る気配すら感じとれなかった。
常人ではそのような気配を感じることはできないが、足音をかすかに聞き取ることは可能である。
だが、その音ですら聞こえなかった。聞こえたとすれば……。
『ヒュンヒュンッッ!』という、空気を切る音だけ。それを聞いた瞬間、メウラヴダーとギンロはすぐに後ろに向かって飛ぼうとした瞬間、彼らの足元から何かが切れる音が鳴ったと同時に……、二人がいた足場が……。
――ばかぁんっ! と、ひとりでに――否、ハクシュダの攻撃によって内側から爆ぜるようにして盛り上がった。要は、足場が崩れてしまった。の方がいいだろう。
「うぉっ!」
「っ!」
それを受けた二人はその足場に足を取られないように避けて、そしてそのまま大きく後ろに向かって跳んで逃げる。盛り上がってしまった地面ではない……、通常の平坦な地面に向かって着地をしようとした瞬間……。
背後から感じる気配。
それを感じたメウラヴダーは、背筋を這う悪寒を感じ、そして命が刈り取られるような想定を思い浮かべてしまい、彼はすぐに背後を跳び退きながら見る。ギンロも感じてしまったのか……、顰めた顔で歯を食いしばりながら己の背後を跳び退きながら振り返った。
振り返って――二人は絶句しながらその光景を見てしまった。
彼らの背後――砂煙からかなり離れた場所に……、ハクシュダは両手を広げた状態で待ち構えていたのだ。さっきまでとは正反対の場所に、メウラヴダーが唯一見下ろしていた背後に、彼はいたのだ。かなり遠くに、彼はいた。
――うっそだろっ! なんでこんな遠くに! と言うかさっきの攻撃の音……、目の前から聞こえていたはず……っ! どうやって……っ!
と思いながら、さっきの攻撃と情景、そして背後にいるハクシュダのことを見ながら、彼は事の状況の辻褄が合わない事態に泥気を隠せず、そのまま彼は片手に持っていた黒い刀身の剣を振り向きざまに回し、そのままハクシュダの胴体を切りつけるようにして振り回した。
ぐぅんっ! と、大きく振り回して、ハクシュダに傷を一つでも入れようとしたメウラヴダー。ギンロも思いミニガンを振り回そうと、全身の力を酷使しながら振り向こうとした。
が……。
それを見たハクシュダは驚きも恐怖も抱かないような面持ちで広げていた両手の内――右手を己の胸の辺りまで持っていき、そのままぐっと握り拳を作った瞬間、メウラヴダーの耳に『ひゅんっ!』と言う音が聞こえた。
と同時に、メウラヴダーの動きが止まってしまった。金縛りになったかのように、がちがちになりながら、動こうとぶるぶると震えながら、彼は「う……っ! ぐぅ……っ!?」と唸って歯を食いしばりながら動こうとしていた。
が、動かない。否――動けない。
「お、おっさんっっ!?」
驚いて動きを止めてしまったギンロ。その光景を見ていたメウラヴダーはギンロのことを目で見ながら食いしばった顔と声で彼は「よそ見……するな……っ!」と、苦し紛れに吐き捨てる。
吐き捨てた声を聞いたと同時に、ギンロは振り向きながら背後にいるハクシュダを見る。
ハクシュダが右手を握り拳にしながら再度その手を広げ、対照的に左手をぐっと握りしめたと同時に、ぶわりと出る無数のワイヤーを己の手にギュルギュルギュルギュル! と巻き付けながら、ハクシュダは左手にワイヤーグローブを即興装着する。
そしてそのまま振り向きながら迫って来ているギンロの背中に向けて――ワイヤーで攻撃力、防御力を上げたその手に力を入れ、引きながら彼は――
渾身の力を入れながらそれを打ち付ける!
――どがぁっ! と、コンクリートが飛んできたかのような衝撃を受け、内側から何かがきしむ音を聞きながら、ギンロは浅く息を吐き、そして口から微量の赤い液体を吐いてしまう。
「――がふっ!」
全身に行き渡る激痛と衝撃、振動が、彼の体を歪ませる。
ぱたたっと地面に赤い点を残していく。それを受けながらも、ギンロはすぐに行動しようと、彼は震える手で己の胸元に入れていたあるものを取り出そうとする。そしてそれに触れた瞬間、ギンロはそれを勢いよく引き抜き、そしてそれをハクシュダの額に突きつけた。
「――っへ!」
彼は口の端から零れる血を拭わずに、不敵な笑みを浮かべながら彼は言った。仮面越しで驚いているハクシュダを見ながら、彼は言った。
手に持っている奥の手――至って普通の拳銃のように見えるが、彼が持っているものはドイツで生産された通称『H&K HK四五』をモデルとした『コバージュ』と言う銃である。
それを見せつけてその引き金に指をさし入れながら、彼は言った。ハクシュダのことを見てこう思いながら……。
――こいつはやべぇ! それはもう十分理解できた! てか身をもって知った! 痛てぇしいまだにじくじくしてくる! 背骨折れていませんように! そしてこいつの攻撃はマジで厄介だ!
――糸を伸ばして切って破壊しての遠距離、そして拳のその位置を纏わせての近距離! 遠近両用の攻撃ができるとかあり……、えるな……。シェーラがそうだったし……。
――そんなお得な武器を持ってる、そしてこの威力を持っていたとしても! 至近距離で放たれる拳銃の弾を避けることはできねえっ! これで掠めれば一瞬隙ができる! そのすきに俺の『デスバード』でハチの巣にしてやる! 掠めずに当たればなおよし!
――この奥の手に、俺は賭ける!
「奥の手ってもんは――隠してこそ真価を発揮するんだぜ?」
ギンロは名セリフを吐きながら引き金に差し入れていた指を強く引いた! こ
――これで終わりってわけじゃねえけど、それでもこれで一瞬隙ができれば……、俺達の勝ちだ!
そう思いながらギンロはその拳銃の引き金を引き、銃口から『ドォンッ!』という音と共に弾丸が飛び出す。
スローモーションのような光景。
回転しながら飛んで行く弾丸。
それを見ていたハクシュダはあまりの驚きに避けれないようだ。
至近距離ではあるが、それでも避けれない様な距離ではない。そう思いながらギンロは内心勝った。と思ってにっと口元に弧を描いた。
が――その笑みが突然消えてしまった。
消えた。理由としてあげるのであれば……、ギンロは今まさに起きた情景を見て、彼は呆けた声を上げながら「え?」と言って、固まってしまったのだ。
ハクシュダに放った弾丸は、確かに回転しながら飛んで行った。もちろん当たる寸前だった。しかしその寸前のところで、弾丸は三つに輪切りにされてしまったのだ。何もされていない、何もない状態で、弾丸は切れてしまった。
ハクシュダの目の前で、ギンロの背中に打ち付けている状態で、彼は切ったのだ。
弾丸を、否――ギンロが持っていた奥の手の拳銃を、その拳銃を持っていた手を巻き添えにしながら、彼は糸の攻撃で弾丸を切り、拳銃を切り、そしてギンロの片手をきつく縛り付けながら、ハクシュダは微動だにしなかった。
――カツンッカツンッ。と、仮面に変わり果ててしまった弾丸が当たり、何のダメージも、何の隙も生まれないという最悪の事態を生んで、更なる最悪の事態を生もうとしていた。
「あ、ぐぅ……っ! いででっ! だああああああああああああっっっ!」
ぎりぎりと軋む骨。巻き付けられたワイヤーのせいで、ギンロの腕が悲鳴を上げる。そしてその気持ちを代弁するように、彼も悲鳴を上げながら歯を食いしばってその光景を見て思った。
――おいおいおいおいおいおいおい! どうなっていやがるんだっ!? なんで弾丸が切れた!? なんでこうなった!? もうワイヤーなんてないだろうっ!? メウラヴダーのおっさんを止めるために、俺を殴るために使っただろうっ!?
――なんで俺の腕にも巻き付いていやがるっ!? まさか足? は、ねぇ! 口を吐いている状態でできるかってぇのっ!
――じゃぁなんでこうなった!? なんで糸あるんだよっ! なんで! なん………。
「マジか」
ギンロはある光景を見た瞬間、血の気が引いてしまった顔でそれを見て、力を失ってしまった音色で彼は呟いてしまう。不覚にも笑みが零れてしまう。
この笑みは……、ただの笑みではない。
諦めと言うよりも、これは負けた。と言う自嘲気味の笑みであった。
ギンロが見た、見てしまった光景――それは……、ハクシュダの右手だった。
広げてメウラヴダーの体を拘束していたその手だが、その手を見てしまったギンロにとってすれば絶望の二文字が脳裏によぎって、こいつにはかなわないという先入観が彼の思考を支配してしまったのだ。
メウラヴダーは未だに動けずにいるが、正確には一部の指しか拘束していない。右手の人差し指と親指だけで、メウラヴダーの体を拘束していたのだ。残りの三本の指で、ギンロの腕と弾丸、そして拳銃を攻撃したのだ。
それを見てギンロは確信してしまったのだ。無理だと、勝てないと。
――遠近両用の攻撃に拘束、そしてばらけた攻撃が可能とか……、チートかよ……っ!
そう悔しさで顔を染めても遅かった。ギンロの腕に巻き付くそれが更に強くなり、ぎりぎりと音を鳴らしていたそこからは微量の血が流れ出す。
「っ!」
それを受けてしまったギンロは痛みで顔を歪ませて顰めてしまうと、ハクシュダはギンロの腕を拘束していたであろう右手の小指だけを器用に折り曲げる。
くぃ! と折り曲げたと同時に――ギンロの腕に巻き付いていたそれが一気に収縮して、ギンロの腕を部位破壊した。
地面を染める赤とメウラヴダーの声がギンロの思考を正常にしていく。正常と同時に、彼の手に力が入らなくなり、ギンロは片手に持っていたそのミニガンを手放しそうになるが、ハクシュダは追い打ちをかけるように右手の矢指と人差し指を動かして、メウラヴダーの拘束をほどく。
ひゅるんっ! と言う音と共に、メウラヴダーは解放された拍子に地面に手をついて驚きの声を上げる。と同時に、ハクシュダは、右手の五指を使ってギンロの体にそのワイヤーを巻き付けながら、それを大きく振りかぶる。
ハンドボールを投げるかのように、腰を使って、巻き付けたギンロを急速に飛ばした。
「――っ!」
突然の猛威に驚いて声が出せなかったギンロ。急速な勢いで視界が揺らぐ中、彼はどうすればあの男に勝てるのかと思案しようとした時には、すでに彼の敗北は決まってしまった。
ギンロが投げられた場所にあったのは、倒壊せずに残っていた住宅の外壁。ただそれだけで柔らかいものなど一切ないような場所に投げつけられたギンロ。メウラヴダーはそれを見て息を呑んで驚愕のそれを浮かべながらギンロの名を叫んだ。
「――ギンロ上を見ろ!」
「んあ?」
メウラヴダーの声を聞いたギンロは、飛ばされながらへんてこりんな声を上げてしまった。そしてそのへんてこりんな声が彼の敗北の一言と化してしまった。
――どがぁっ!
と、頭から衝突してしまうギンロ。
それを見て愕然としてしまうメウラヴダーに、そんな光景を仮面越しに見ていたハクシュダ。対照的な表情が彼の姿を捉え、そして状況の悪化を知らせてくれる。メウラヴダーにとっての悪化を……。
固い外壁に向かって頭から衝突させられたギンロは、ガラガラと崩れ落ちる瓦礫と共に、そのまま地面に向かって『ドサリ』と落ちてしまう。ボロボロの状態で、彼は気絶をしてしまった。
厳密に言うところの――再起不能であった。
それを見て、メウラヴダーは切りっと歯を食いしばり、そして手に持っていた剣をハクシュダに向け、そして足に力を入れながら、彼は二本の剣を振るって二本の剣を構えながら、ぼわりと――その剣に赤い炎を纏わせて、轟々と燃える剣を二本同時に、横に薙ぐような体制になって、彼はその炎の剣を振るう。
怒りの眼でハクシュダのことを睨みつけて、彼は攻撃を繰り出そうとした!
「――『烈火斬』ッ!」
と言いかけた瞬間、厳密には言い終わる前に、ハクシュダはすでに次の一手をメウラヴダーに向けていた。
左手を覆っていたワイヤーを『ひゅるんっ』とほどき、そしてそのまま手首をしならせるようにして左手の握りを解いて、そのまま彼は手首をしならせながら、ぐっと左手を握りしめた。
空を握ったと同時に――
「っ!?」
びしりとメウラヴダーの動きがまた止まってしまい、そしてすぐに迫ってきたのは……。
激痛、赤い液体。そして。手足の喪失感。
「っ!」
それを一つしかない身体で受けて、メウラヴダーは持っていた手の力が抜けてしまったかのように、しっかりと持っていた炎を纏った剣を『ガシャガシャッ』と落とし、支える足に力が抜けてしまったかのように、地面に膝をつき、メウラヴダーは支える手でさえも動かせない状態で、彼は地面に額を強く打ち付けるように、突っ伏してしまった。
がすんっ! と額を地面に打ち付けて、メウラヴダーは唸り声を上げながら、ハクシュダの手によって部位破壊されてしまった手足を動かそうとするが、動く気配がない。否――動けない。
事実上の――再起不能となってしまった……。
「う、ぐ………っ!」
動けない身体に鞭を入れても、部位破壊されてしまえば骨折と同じ。否――切断と同じように使えなくなってしまう。そんなことメウラヴダーは理解していた。していたが、それでも僅かな希望でさえも捨てたくない。負けてはだめだ。そう思いながら彼は無理に立ち上がろうとしたが……。
『おぉ? おおおおっ! 皆さんおしらせです! たった今勝敗が決まったところがありました! その場所は……、平民区の住宅街! そしてその場所で勝利を制したのは――我が帝国の味方にして強力な冒険者だぁ! これで帝国対反逆者の勝敗は――1―0! 帝国一歩リィイイイイイーッドッッッ!』
「う、そ……、だろ?」
メウラヴダーは顔面を蒼白に染めて、血が抜けてしまったかのようなを浮かべながら彼は茫然とその言葉を聞いていた。
その言葉が響いた。それが指すこの戦いの勝敗は――ハクシュダの勝利に決まってしまった。
奥の手を使っても、詠唱を使っても、何をしても倒せなかった。
どころか……、傷一つ負わせることができなかった。その現実がメウラヴダーの心をひどく衰退……いや、ひどく衰弱させていく……。
メウラヴダーはその事実を記憶に刻み、何もできなかった無力さを痛感しながら彼は地面に突っ伏して小さな声でこう呟く。
畜生。と…………。




