PLAY64 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅲ(圧倒的な力)①
「ううううぬうううああああああああああああああああああっっっ!」
開始早々――ボルケニオンは突き出していた掌を張り手のように繰り出し、それを私に向けて押し出そうとしていた。
それを見た私は驚いてすぐに横に向かって走りながらその攻撃を避けようとしたけど、私が逃げようとしたと同時に、その掌は私の胸の辺りに向かっていた。
その掌を私の心臓に辺りに打ち込もうとしている。
「っ!」
私はそれを見て、まずいと思いながらその掌が私の心臓の辺りに打ち込まれる最悪の想定をしてしまう。
常人であっても多分こう考えるだろう。こんな状況に陥ったら誰だって思う。
それを考えてしまった私は即座に逃げようと横に避けることを一旦やめて、すぐに自分の前に手をかざして――
「『強固盾』ッ!」
自分が持っている盾スキルを発動させたと同時に、私の周りに出てきた半透明の半球体。
ガーネットさんの前で出した時は跡形もなく破壊されてしまったけど……、ただの掌の攻撃なら防御することだってできる。
攻撃が防がれている間に逃げれば、きっと何とかなるはず……。
そう思って私は手をかざしながら後ろに足を動かして、逃げようとした。
ナヴィちゃんもそれを見て、私に向かってぴょんこと飛び跳ねようとした瞬間……。
私は自分の判断の甘さ。そしてボルケニオンを甘く見てたことに後悔してしまう。
ボルケニオンはスキルで自分のことを守っている私のことを見ても、その掌の攻撃をやめようとしない。むしろそのまま勢いをつけながらその攻撃を繰り出そうとしている。
それを見た私は驚きはしたけど、攻撃を防げば何とかなる。そう思って私はそのまま後ろに足を動かして避けることを続行した。
ナヴィちゃんはそれを見て慌てながら飛び跳ねて私に向かって来る。そしてそのまま、ボルケニオンの掌の攻撃が『強固盾』にひたりと触れた瞬間……。
ボルケニオンは叫んだ。ううん……、スキルを放ったのだ。
「――『烈風爆拳底』っ!」
ボルケニオンは叫んだ。
叫んで、私が張った『強固盾』に向けた――というか触れたその掌から、ぶわりと風を発生させた。
ぐるぐると渦潮のように渦巻いて、そして私が張っている『強固盾』にそれを押し付けながら、彼はもう一度その掌の攻撃を……『強固盾』に向けて……。
とんっ! と、押した。軽く押しただけだった。威力がないようなそれだった……。なのに……、私は驚いた顔のまま固まって――そのまま……。
大きなガラスが割れる音と共に、私は後ろに向かって飛ばされてしまった。
「え?」
私はあまりの光景に、一瞬の出来事に頭が混乱してしまった。整理がつかなかった。の方がいいだろう……。
突然の出来事に、私は今起きた状況を理解することができずに、そのまま後ろに向かって、そして……。
――ダァンッッ!
「あうぅっっ!」
「きゃきゃっ!?」
私は変な声を上げてしまった。
背中に来た強くて固い衝撃に耐えきれず、私は咳込むような声を上げてずるずると、背後にあった壁に背を預けながら座り込んでしまう。
この痛み……、国境の村でもあった気がするけど……、この痛みは尋常ではない。あれ以上に痛いと感じてしまった。そのくらいボルケニオンの攻撃が強すぎた。
リョクシュ以上に強すぎたのだ。ううん。『12鬼士』なのだから……、この強さは前提なのかもしれない……。それでも、この痛みは異常だ。痛すぎて背中から『ジクリ』と言う悲鳴が聞こえてきた。
「いっ! ………………痛っ!」
私は座った状態から立ち上がろうとしたけど、背中に来た激痛のせいでうまく立ち上がらない。目の前にいるボルケニオンは右手の拳を突き出して、左手の拳を後ろに引いてから足幅を肩幅くらいまで開けて構えている。
あまり見たことはない。けどそれでもわかることはある。あれは――拳法の構えだ。ダンさんの時は全然見なかった (というか、ダンさんはきっと構えなんてなくても殴って戦えればそれでいいのかもしれない……)構えを見て、私はさっき起きたことを冷静に思い出す。
あの時、ボルケニオンは確かに『強固盾』に触れて、風を纏わせたその手を使って――とんっ。と押した。
それだけ……。でもそれだけだからこそ、あの衝撃を見た私は本当に驚きを隠せなかった。
ボルケニオンは確かにとんっと押しただけだった。軽い殴りのようなものだった。それなのに……、押したと同時に『強固盾』に罅が入って、硬度が高い『強固盾』がいとも簡単に壊れたと同時に風が吹き込んできて、私はそのまま風の威力に負けてしまい現在に至った……。
「ううううううっ! うううぐううううううっっ!」
ボルケニオンは拳を私に向けた状態で、獣のような唸り声を上げながら彼は荒い息を吐いて私のことを定める。狙いを定める。
血走った目で私のことを捉えて、何かに耐えるようにボルケニオンはぶるぶると、がくがくと震えていた。
それを見て、ボルケニオンの体から出ているもしゃもしゃを見た私は、痛みで顔を歪ませていたけど、そのもしゃもしゃを見て目を見開いてしまった。
ボルケニオンの体から出ているもしゃもしゃは……、苦しいということは一目でわかるような暗くて蛸のようにうねっているもしゃもしゃだった。
それを見て、私は最初の時に抱いていた……、『なんでここに『12鬼士』がいるんだろう』という疑問と、『なぜあんなに苦しんでいるんだろう』と思っていたけど、ボルケニオンから出ているもしゃもしゃを見て私は仮説を立てた。
それは曖昧なもので確証なんてもの一切なかった。
けれど、私のもしゃもしゃが外れたことは一度もなかった。
私が見ているもしゃもしゃは人の本音の感情で、嘘なんてものが一切ないものだ。
アクロマや色んな悪人の感情も見てきたからわかる。今までそんな嘘なんて見えなかったから……。
だからわかった。だから仮説を立てた。
ボルケニオンのもしゃもしゃがあんなに苦しいのは……、自分の意思じゃないから。
何かから抗っているような、こんなことしたくないのにそうされているようなそれを見た私はある仮説を立てて、そしてボルケニオンに対して私はこう決心した。
ボルケニオンは何者かに操られている。そう言う詠唱なのか、それとも何かをつけられて操られているのか……。まだわからない。
けれどボルケニオンの苦しいもしゃもしゃを見たらそれ以外考えられない。そう私は思い、そして背中の激痛に耐えながら、久し振りに見るバングルのHPのゲージを見て、もう体力が三分の一を切っているところを見た私は、一か八かの賭けに出る。
「きゅぅ! きゅきゅぅ!」
ナヴィちゃんが心配そうに跳ね寄りながら私の顔を見上げる。それを見た私は、そっとナヴィちゃんを抱えて、背中の痛みに耐えながら私は「大丈夫だよ」と言いながら頭を撫でる。
そしてボルケニオンのことを見つめながら、私はその賭けを実行に移そうと決心を固めた。
一か八かの賭け……。それは本当に賭けに近いことだった……。
体力もない。どころかあの攻撃をもう一回受けたらきっと、倒れてログアウト。つまりは死亡で……、みんなが現実に帰れる切り札を私自身の手で壊してしまうことになる。なので、その体力を回復させるために、私が私自身に回復スキルをかけて、ボルケニオンから逃げるように走る。
傷つけないように、その操っている何かを完全に取り除ける相手を探しながら走る。
あまりに無謀に近いようなそれだけど、それしかない。そう私は思っていた。戦うこともできない私には、圧倒的な差があるこの状況でできることと言えば、これしかないのだ……。
「う、う、う、う、う、う、う、う……っ! ううううぐうううううおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっ!」
ボルケニオンは叫ぶ。ついさっきまで、もしゃもしゃを見ていない時は怖いという感情があったけど、今聞くと、苦しそうな音色だ。心の底からこんなことしたくないという感情が見える。
私はぐっとナヴィちゃんを少しだけ強く抱きしめながら、私は思う。心配そうに見上げているナヴィちゃんを見ないで、私はくっと顎を引いて、覚悟を決める。
ここで戦わずに、ボルケニオンを助ける方法を見つける。そう決めた私。
「………すぅ、はぁ」
私は一旦深呼吸をして気分と心を落ち着かせながら、真っ直ぐボルケニオンを見つめながら、私は足を後ろに少しずつ、少しずつ後ずさりをしながら……、その場から逃げるように私はボルケニオンに気付かれないように、自分に向けてそっと手をかざした。
と同時だった。
「――ぬぅおおおおっっ!」
ボルケニオンは私の動きを見て、すぐに行動に移した。どんっ! と、その場でボルケニオンは私に向かって、低い跳躍をして、そのまま急加速で私に向かってきた。
突き出していたその拳を開いて、掌で私に向けて手を伸ばし、掴もうとする仕草をしながら、ボルケニオンは反対の手に力を入れながらどんどん私に近づいてくる。
それを見た私はどうにかして『小治癒』をかけようと手をかざそうとした瞬間、ボルケニオンの素早さは伊達ではなく、私に急接近して、至近距離で私の胴体にその拳をぶつけようとしていた。
歯を食いしばりながら、そんなことしたくない。そんなもしゃもしゃを出しながら、ボルケニオンは私に向かって攻撃を仕掛けようとしていた。
「…………………っ!」
私はそのまま後ろに避けて、どうにかしてこの状況を逃れないと……、そして傷つけないように、逃げることに徹しないと、このまま私が殺されてしまえば……、きっと……、ボルケニオンは後悔して絶望してしまう。
そう思った私は、すぐにその攻撃よけようとして、壊されてしまったけど、それでも一瞬の隙となるであろう『強固盾』を出そうと手をかざそうとした瞬間……。
「きゅきゅきゅきゃ~っ!」
ナヴィちゃんが叫ぶと、私の腕から飛びだして、そのまま体に力を入れながら丸くなって縮みこむ。「ぎゅううううう~っっっ!」と言う唸り声を上げて、そして私とボルケニオンの間で体を丸くさせたナヴィちゃんは……、すぐに体を眩く光らせて、そしてその光をどんどん大きくして身体中を大きく膨張させながら……、ボルケニオンに向かって大きな体で突進を繰り出したナヴィちゃん。
それを受けてしまったボルケニオンはすさまじい衝撃に耐えきれず、そのままさっきの私と同じように後方に向かって飛ばされながら唸り声を上げて、そして……。
ドガァッッ! と、私と同じ……、ううん。私の場合は壁だったけど、ボルケニオンの場合は家屋の角に当たってしまったので、ボルケニオンは激痛に耐えるような呻き声を上げながら、ずるずると地面に落ちていく。
「う……っ! ぐぅおおおお……っっ!」
痛みと衝撃によって獣のような唸り声を上げて、私達のことを睨みつけながらボルケニオンはそっと立ち上がろうとした瞬間……、ナヴィちゃんは……、ううん。今はあの小さなナヴィちゃんじゃない。今は――
「――グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
大きな大きなドラゴンに変身したナヴィちゃんは、その大きさに比例するような咆哮を上げて、ボルケニオンに向かって威嚇した。私を背にしながら、私を守るように……、ナヴィちゃんはさらに大きな声を上げて威嚇する。
威嚇という名の――声による威圧をボルケニオンに向けたナヴィちゃん。
それを受けてしまったボルケニオンは、すぐの攻撃しようとしていた動作を止めてしまい、そのままナヴィちゃんの咆哮を体で受けながら「ぐぅっ!?」と言う唸り声を上げて体を守るように手で覆い隠してしまう。
ナヴィちゃんの背後からでもわかる様なびりびりとした威圧。
それを受けて、私はその光景を茫然とした目で見ながら、口をあんぐりと開けて固まっていると……。
――とんっ。
「!」
突然、ナヴィちゃんは尻尾で私のことをぐいぐいと押してきた。私の胴体にフワフワした尻尾を押し付け、そのままぐいぐいっと私をこの場から離れさせるように、ナヴィちゃんは咆哮を上げ続けていた。
私を見ないで、そしてボルケニオンのことしか見ずに、ナヴィちゃんは咆哮を上げ続ける。
それを見て、そしてナヴィちゃんの尻尾の行動を見た私はなんとなくだけどナヴィちゃんがしたいことを察した。なんとなくだけど、それでもわかりやすい意思表示を見て、私はナヴィちゃんの背中を見上げた。
ナヴィちゃんは咆哮を上げながらも、尻尾で私のことを後ろに向けて押して、この場から少しでも遠ざけようとしている。それを受けながら、私は小さな声でナヴィちゃんを見上げながら言う……。
驚いた声で、私は言った。
「ナヴィちゃん……、もしかして――私を逃がそうとしている?」
私の言葉に、ナヴィちゃんは一旦咆哮を止めてから、ボルケニオンがその方向の威圧から解放されたと同時に駆け出そうと足を動かそうとした瞬間――
「――グゥウウウッ! グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
ナヴィちゃんは再度咆哮を上げながら、ボルケニオンの動きを止める。そして再度尻尾を使って私のことをとんとんっと後ろに押している。
私はそれを見て、ナヴィちゃんが今したいことと、今していることに気付いた。
ナヴィちゃんもナヴィちゃんで、ヘルナイトさんやアキにぃ、キョウヤさんとシェーラちゃん、虎次郎さんと同じように、私のことを守るために、私を逃がそうとしている。ボルケニオンを足止めしてくれている。
己の体を張って……、ナヴィちゃんは私のことを逃がそうとしている。
私はそれを感じ、そして今もなおボルケニオンを威圧だけで制しているナヴィちゃんを見て、私は自分の腕にその手をかざして――
「――『小治癒』」と言って、私は自分の体に水色の靄を纏わせた。
纏ったと認識すると同時に、その靄はどんどん空気に溶けてなくなり、体の痛みが嘘のようになくなった。
バングルを見ると、私の赤いゲージ――HPがすでに満タン状態に戻っていた。
――みんなが傷を受けて、そして回復を受けているときって、こんな感じなんだな……。と、私は自分ではあまり受けていないことに驚きを感じながら、その新鮮さを心に刻むと、ナヴィちゃんを見上げて私はそのまま後ろに向かって、駆け出しながら、振り向きながらこう言った。
振り向きながら私は抱きしめるようにして両手を広げ、ナヴィちゃんに向かって言った。
「ありがとう……っ! そしてもういいよ……、早く!」
そう言ったと同時に、ナヴィちゃんは私のことを横目で見て、すぐのその体から白い煙をぼふぅっ! と噴出させた。
「っ!?」
それを受けたのか、ボルケニオンの唸り声が聞こえたと同時に、ナヴィちゃん (普段見慣れているモフモフした姿)が煙の中から出てきてぴょんこぴょんこと跳びはねながら私に駆け寄って――
「きゅぅ!」と、私の胸に向かって飛び込んでくるナヴィちゃん。満面の笑みで……。
そんなナヴィちゃんを慌てながら受け止めて、私はすぐにぎゅっと抱きしめながらボルケニオンから遠ざかるようにして足を進める。
要は――逃げる。
逃げて、何とかしてボルケニオンの苦しみを解放してあげないといけない。ボルケニオンのことを操っている何かを取り除かないと、あの人の苦しみを開放することはできない。
何とかして……、何とかしてその方法を見つけないと。
そう思いながら、私はナヴィちゃんを抱えて駆け出す。背後で何か呻いて、そしてせき込んでいるボルケニオンと、そして上から聞こえるアナウンスの声に耳を傾けず、私は一心不乱に駆け出す。
打開策を練りながら駆け出す。みんなの無事を祈りながら……。
◆ ◆
『な、な、な、ななななぬなななっっっ!? なんこれはああああああああっっっ!?』
そんな光景を見て、帝国の侍女頭兼執事頭でもある側近――ネテロデディア・ミートゥド・クイッセルドは驚いた声を上げて目の前に広がる無数の映像を見ていた。
彼がいる場所は現実世界でもある放送室のようなところで、その場所には放送をするために使われる器具やマイク。
彼の周りにいくつも浮かんでいるテレビ画面のホログラム機材一式――『全世界放映具』でその光景を見ながら、彼は絶句の表情を浮かべながらその光景を目に焼き付けていた。
なぜ彼の仕事部屋にんな映像が流れているのか? それの回答はこうである。
映し出されたその映像は――帝国中を飛び回っているアクロマが作ったカメラがついた改良版ビット (Dr作)が映像を拾い、そしてそれをネテロデディアの仕事部屋に向けて直接映し出すという方法でネテロデディアは見ていた。
そうでもしないと、円滑に、そして面白おかしくこの『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』の実況ができない。更に言うとこれを提案したのがDrということは、ネテロデディアとDrしか知らないことである。
閑話休題。
ネテロデディアはその映像に映りこんでしまった……ハンナ達がいた場所に映った白くてふわふわした体毛を生やしているドラゴンを見て、彼は愕然としながらその映像を見ていた。
因みに……、最初に叫んだ言葉は誰にも聞こえていない。観客にも帝王にも聞こえていないが、それでも観客も帝王も、そしてDrもその光景を見て、驚いて固まってしまっていることは確実だった。
今の今までワイワイと楽しむ声が聞こえていたのが、突然消えてしまったのだ。
ハンナがいた場所から突然出現したドラゴンを見た瞬間――誰もが予想だにしなかったことを目の当たりにしてしまったのだ。
盛り上がるどころが急に冷めてしまった興奮と雰囲気を読んでいたネテロデディアは、マイクの頭を『ごんごんっ』と叩きながら……、不安と焦り、更には恐怖と混乱が入り混じったそれを浮かべながら、彼は思った。
――あんなドラゴンがいたのか?
――ドラゴンなんて『ボロボ空中都市』にしかいない古の聖獣……っ! 『終焉の瘴気』が出る前……、いいやアズールが生まれる以前からドラゴンの存在は確認されている。だがあんなドラゴンは見たことがない! 新種か? それとも何かが化けた姿なのか?
――どこにいた? どこに潜伏していた? あの小娘はたった一人だった! 隠す場所は……?
――いいや、それよりもなんで『12鬼士』の攻撃を受けたにも関わらず、生きているんだ?
――兵隊長が受けた時は重傷だった! 兵士として生きれるような体ではなかった! つまりは強力な攻撃だったはずだ。
――まさか……、ボルケニオンは完全に制御されていない……?
――あのくそ老いぼれめっ! まさか俺達を謀ろうとしていたのか? この帝国を乗っ取るためにあんな……、いいやいいや、それはないな。第一それをしたところでメリットも何もないだろう。まさか制御に不備があったのか……? そうとしか考えられないだろう。
――まぁいい。今はボルケニオンのことを考えることは後回しだ。見た限りあの小娘を殺すために操られているし、時間を稼ごうとしているようだが、それも時間の問題だ。
と思いながら、ネテロデディアは画面に映っているボルケニオンのことを見ながら思った。
白い煙に包まれて視界が遮られてしまったが、その煙が晴れたと同時に、ボルケニオンはハンナが逃げて行った場所に向かって駆け出している。常人よりも素早い動きで、撮影のビットでも追いつかないかもしれないような走りで帝国の街を走る。
その映像を見ながら、ネテロデディアはこほんっと咳ばらいをし、そしてマイクのボタンに向けて指を突き付けながらそのボタンの上に指を乗せ――そして……。
かちり。とそのボタンを押したと同時に――彼はすぅっと息を吸いながら、彼は己のすべきことを……、責務を全うするために、彼はそのマイクに向かって声を発した。
『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』を見ている住人の達のために、帝王のために、そして……、帝国の仮初の平和のために彼は言った。
現実世界で言うところの……、実況を始めたのだった。
『な、何ということだぁ! 開始早々こんなことがあっていいのかぁっ!? こんな事態想定してましたかぁっ!? 皆さんも目にしたでしょう、そして記憶に刻んだでしょう! あのドラゴンの姿を! あんなドラゴン見たことがない! そしてあんなドラゴンを隠し持っていたとは……っ! 帝国の敵対する組織……、一枚岩ではない! いいや一枚なんて言うものではなう! 一塊の大岩だ!』
ネテロデディアは言う。実況しながら興奮した面持ちで叫ぶ。
それを聞いた貴族や平民達は辺りを見回しながらざわざわと騒ぎだし、周りを見ながら慌てふためいていた。当たり前だろう……。今まさに起きたことに困惑することは誰だってすることだ。
一枚岩ではない反逆者。そんな反逆者を相手に帝国は勝てるのだろうか……。
一抹だったそれがどんどん積み重なって、一つの不安の山を作り出す。貴族区の者達、そして平民の者達は不安の念を顔の出しながら表情を強張らせていた。
対照的に、下民区の者達と奴隷区の者達は、そのアナウンスを聞いてこう思っていた。
――やってしまえ反逆者。そのまま帝国の者達を八つ裂きにしろ。処刑しろ。そうすれば俺達は自由になる。
誰もがそう思っていた。帝国の奴隷になり、帝国のために無理やり働かされている者達は帝国の完全崩壊を願っていた。悲願を胸に誓っていた。
だが――そんな悲願を願っているものには凶報が、不安を抱いている者達にとってすれば吉報がアナウンス越しに流れてきた。
『おぉ? おおおおっ! 皆さんおしらせです! たった今勝敗が決まったところがありました! その場所は……、平民区の住宅街! そしてその場所で勝利を制したのは――我が帝国の味方にして強力な冒険者だぁ! これで帝国対反逆者の勝敗は――1―0! 帝国一歩リィイイイイイーッドッッッ!』
アナウンスを聞いた瞬間、平民と貴族が集まる場所では安堵の声が。下民と奴隷の人達が絶望に顔を染め、アキやセレネ、ボジョレヲ、クルーザァー達が驚愕に顔を染めながらアナウンスが聞こえた場所を見上げていた。
誰かが『バロックワーズ』の誰かに倒された。そんな凶報を聞きながら……。




