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PLAY63 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅱ(対戦相手)⑤

 その頃、あるところでは激戦と化してしまうような雰囲気の中、とある二人は狭い路地裏を走っていた。


 帝国の北東部にあるあまり知られていない場所で、その場所は下民区に住んでいるものにとってすればつかの間の憩いの場でもあった。


 その路地裏はただの路地裏ではない。下民区で働いている人達が帝国の兵士の目を盗んで休息をとる隠れ休憩場のようなものがいくつも設置されている長い長い路地裏だった。


 路地裏の道を走っていると、いくつもの椅子や小さな木箱が置かれており、その場所を使って下民の者達はつかの間の休息を楽しんでいたのだろう。


 だが――そんなつかの間の路地裏も、突然来た侵入者のせいですべてが半壊か破壊か、またはそのまま蹴られてどこかへ行ってしまうような事態になっていく。


 いうなれば散乱させてしまっているのだ。


 ――ガシャンッッ! バリィン! バキッ! ドカッ! バカンッ! 


 と言う音を豪快に出しながらその二人は――ノゥマとアクアカレンは足を動かす。


 急かしなく動かして走る。


「はぁ! はぁ! 大丈夫?」

「ほぁああああっっっ! 何故セスタと逸れてしまうのじゃああ! おわああああっっ! セエエエスウウウウタアアアアアッッッ!」

「泣くことは後でいっぱいできるけど、今は逃げることを最優先にして。今逃げないと泣くことも叫ぶこともセスタと再会してハグすることもできなくなるかもしれない。生きたかったら走る。これ戦場での鉄則。ヘルナイト達から学ばなかったの?」

「生きたかったら強くなって戦えと言われておったぞぉおおおおっっ!」

「それならすぐに走って見晴らしのいいところに出る」

「わかったぞぉおおおっっっ!」


 ノゥマは平然と疲れていないような足取りで走りながら、アクアカレンの手を握って彼女のことを導くように走る。


 狭い路地裏を縦に並ぶように走りながら、足元に細心の注意を払ってノゥマとアクアカレンは走る。


 泣きながら走るアクアカレンを励ますように淡々としているが慌てているような顔をして走るノゥマ。


 手をぐっと握り、彼女のことを話さないように走り、前を見ながら狭い路地裏を左に曲がって、今度は右に曲がって、また右と言うように……、迷路のように入り組んでいる路地裏を走りながら、ノゥマは駆け出しながらちらりと背後を見る。


 背後には何もない。


 ただ蹴って壊してしまった椅子や木箱、そしてところどころに破損してしまったから瓶などが散乱しており、それを見ながらノゥマはその向こうの世界――暗がりのせいでその先が見えない路地裏を見て、ノゥマはその後ろの世界を見ながらこう思った。


 ――あのアナウンスは本当だ。現に、僕達が目を覚まして、そしてアナウンスを一時的に聞き終えた後、それを見計らったかのように現れた()()()……。


 ――こうなることを予測していなければできないことだ。


 ――更に言うと、この場所は()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。狭すぎるし何より僕が持っている銃だとこんな狭いところでこれを使うことはできない。


 そう思いながらノゥマは背中に背負っている己の銃――昔フランスの会社で作られた全長千三百八十ミリの対物ライフル銃『PGMへカートⅡ』をモデルにして作られた『フェンリーヌ』を見る。


 この銃はノゥマが最も使いやすいと胸を張って言える代物で、ノゥマにとってすればこの狙撃銃は相棒のようなものだ。


 他にも所持している銃はあるが、最も使いやすいのはこの『フェンリーヌ』である。


 それを見ながらノゥマは思う。アクアカレンの手を引いて走りながら、ノゥマは思った。


 ――完全に詰んだ。こんな場所に案内して僕達のことを嬲ろうとしているのかもしれないけど、こんなことができるのは、僕のことを前から知っている人物でないとできない。僕が持っている銃のことを知っている人物でないと、こんな周到な方法はできない。


 そう思いながら、ノゥマはアクアカレンの手を引きながらノゥマはうねうねと入り組んでいる路地裏の迷路をジグザグに走りながらこう言う。


「とにかく、今は広いところに出よう。そうなれば僕らの勝ちが大きく跳ね上がる。それまでは走ろう。いいね?」

「う、うむ……っ! 妾も『12鬼士』の端くれじゃ……っ! 不安じゃが……、頑張るぞっ!」

「よろしい」


 アクアカレンはふんっと鼻息を馬のようにふかしながら言う。目元の涙目だけは拭えなかったが、彼女の意思は本物だと認識したノゥマはニコリと微笑んで頷きながら言って、再度前を見据えて入り組んでいる路地裏からの脱出を試みる。


 早くレンのところに戻ろうと心に決めながら、ノゥマは走った。アクアカレンの手を引きながら走る。


 走って、そして――



『カカッ』と――


 

 異様な機械質な声が聞こえた。しかもその声は――ノゥマ達の前から聞こえてきたのだ。当然……、その人物のこともしっかりと視認した。


 ノゥマの目の前に現れた男は、前髪で片目が隠せるくらいの長さの、腰まである白髪に青い瞳。一見してみれば美形と言われてもおかしくない。


 あのイェーガー王子と比べたらきっと負けず劣らずの鮮麗の美貌を持っている男性だったが……、残念なところがある。それは彼の口元が、あまりにも機械の口で、がちがちと音を立てながら機械のマスクをつけている男。そしてその腕も機械の腕で、細身の体ではあるが剛腕の腕のせいでアンバランスである。そんな腕を組みながら、その男は仁王立ちになってアクアカレンとノゥマのことを見降ろしていた。


 無機質。


 そう言われてもおかしくないような面持ちで、彼は二人のことを見降ろし、そして機械の口を『ガパリ』と開ける。

 

 その口の中は大砲を撃つような発射口となっており、その中から『ギュルルルル』と、何かが稼働している音が聞こえた。


 それを聞いたノゥマは、すぐに走ることを中断して、前に向けていたその足をすぐにせき止めながら、ノゥマはアクアカレンの手を力一杯引いて、そして己の腕の中に閉じ込めながら (突然のことで、アクアカレンは驚いていたが、ノゥマはそんなことで突っ込む余裕などなかった) ノゥマは『とんっ』と前に進んでいたその進路を退路に切り替えて、目の前にいる男――養成軍団団長――ブルフェイス・イラーガルから、ノゥマは逃げる。


 その光景を見ていたブルフェイスは口腔内の発射口から聞こえる稼働音を大きく加速させて、彼は身を低くか屈めて、そしてその発射口をノゥマ達に向けながら、彼は――


『――カァッッ!』


 奇声交じりの雄叫びを上げながらその口から()()()()()()()()()()()()()()()!』()()()()()


「――っ!?」

「ほあっっ!?」


 驚きの声を上げてしまうノゥマとアクアカレン。しかし二人の反応は至極当然のそれだとここで告げておこう。


 いくら秘器(アーツ)を装備しているとはいえ、人間の口……、ではないのだが、それでも二人はブルフェイスの口から吐き出された火の玉を見て、人間業ではないことを知り、そしてその火の玉は急加速でノゥマ達に向かってどんどんどんどん急接近してくる。


 ギュルギュルと回転をしながら、ちりちりと辺りに火の粉をまき散らしながら、火の玉はノゥマの顔面に向かって突き進む。


 それを見て、ノゥマは即座に行動に移そうと、間に合わない中でもノゥマは可能性を信じながら、懐に入れていた拳銃――アメリカで製造された回転式のリボルバー――コルトM一八五一を、この世界の名称で言うと『シリンシ』を取り出そうと手を伸ばそうとした瞬間……。


「――『氷柱弾(アイス・シューター)』ッ!」


 アクアカレンは小さな手をノゥマの腕の中でかざしながら魔法を発動させる。


 その言葉を言ったと同時に、ノゥマ達の周りから『パキパキ』と言う音を立てながら、二人の周りに五本の鋭く尖った氷柱を作り出した。大きく、そして体に突き刺しさえすれば小さな風穴が開くような太い氷柱を作り出すアクアカレン。


 それを見ていたブルフェイスは、驚いた目をしてそれを見て、そっと立ち上がりながらその光景を目に焼き付ける。


 ノゥマもそれを見ながら驚きそれを見上げる。


 そんなノゥマのことを見ずに、今までのおどおどとした表情が嘘のような真剣な目で――目の前に迫っていた火の玉に向けてふっと手を下ろすアクアカレン。


 彼女が手を下ろしたと同時に、空中に浮いていたその氷柱は意思を持ったかのように、高速な勢いでブルフェイスが放った火の玉に向かって飛んで行き、そのままぶつかるように飛来する。


 どんどん氷柱と火の玉が近づき、そして互いに反りが合わない性質をもつ者同士が激突しようとした瞬間――



 ――ジュウウウウッッ! バタタタッ!



 火の玉と五つの氷柱は原形を留めることができず、互いを殺し合いながら混ざり合い、水となって地面に滴り落ちた。


「……………………っ」


 その光景を見て、今まで『12鬼士』としての風格が感じられなかったアクアカレンに、一抹の恐怖と大きな安心感を感じたノゥマ。顔には出さないが内心そう思った。


「ほぉっ。これで安心じゃな。妾も安心したぞ」


 そんなノゥマとは対照的に、アクアカレンは額に浮かんでいた汗を腕で拭いながら安堵の息を吐いて心の底から一安心していた。


 一瞬来た襲撃を防御したことに安堵していた。


 そんな光景を見て、ブルフェイスは顔を筋肉を引くつかせて、頬の辺りびきりと青筋を浮き上がらせてから、彼は剛腕の秘器(アーツ)の腕を『ガコココッ』と動かしながら、その腕から蒸気を一気に噴出させる。


 ――ボシュウウウウウッッ! という、蒸気船とは違った音を出しながらブルフェイスはノゥマとアクアカレンをギッと睨みつける。


 ノゥマはその光景を見て、懐から取り出していた『シリンシ』をブルフェイスに向け、アクアカレンを地面に下ろしながら不敵な笑みを浮かべて――ノゥマはこう言った。アクアカレンに向かってこう言った。


「さっきは助けてくれてありがとう。いきなりで驚いていたけど、結局はその機械の口から何かを出すってだけ。避ければ何でもない。避けながら逃げればなんてことはない。このまま逆走するけど、それでもいいかな?」

「まだまだ魔力は残っておる! 妾は大丈夫じゃ!」


 ノゥマの言葉に、アクアカレンはふんすこと鼻息をふかしながら言うと、それを横目で見て微笑んだノゥマは「よし――」と言って頷いてから、目の前でノゥマ達のことを得物として見ているブルフェイスに狙いを定めながら、ノゥマは言った。


「僕が先に行くから、迎撃お願い」

「了解じゃ!」

『カカッ』


 ノゥマとアクアカレンの会話を聞いていたブルフェイスは、内心そんなことはさせないと心に決め、ここで一気に仕留めようと固く、帝王に誓いを立てながら口元の秘器(アーツ)を蟻の口のようにかちかちと動かしながら、二人のことを得物のような目で睨みつけた。



 ◆     ◆



 ノゥマ達の逃走劇が始まろうとしていたその頃……。


 帝国の中央部の近くにある食事を嗜む場所――多くの平民たちが集う広場……『美食広場』には、ボジョレヲとセスタがあたりを見回しながらアナウンスを聞いていた。


『美食広場』の風景は外国の風景と同じようなもので、丸くて豪華な装飾がされている小さなテーブルに白いデザインの手の込んだ椅子。そしてそんな椅子とテーブルが置かれている場所の背後には『BUFFET』と書かれた看板と緑を基準とした店内風景がその場所の賑わいを醸し出していた。


 他にも『COFFEE』と書かれた看板にコーヒーカップの絵が描かれている立て札。その周りには黒い四角いテーブルと椅子。他にも一瞬見ただけではわからないような飲食の店が縦一列に道を挟むようにしてずらりと並んで立っていた。煌びやかに輝く帝宮に向かって。


 その光景を見て、そして周りを見ていたボジョレヲは、その風景を見ながらふぅっと小さなため息を吐きながら彼はこう言った。


「……この風景は、とても賑わっていることがよくわかる風景ですね」

「だね~。おれもそう思ったよ」


 ボジョレヲの言葉を聞いていたセスタはけらけらと笑みを浮かべながら腕を頭に組んで、そして手に持っている左右に刃がついているまるで三日月のような形をした鎌を器用に持ちながら、彼は言う。


 笑みを浮かべながら、音色だけは真剣なそれで彼はこう言う。


「でもさ~。ここに案内されて、ボジョと一緒にいるってことは~……」

「ええ。そのまさかでしょうね。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 と言った瞬間だった。


 ボジョレヲはその言葉を言いながら目を閉じていた。


 セスタも同じように陽気な顔で頭に手をやり、そして鎌を器用に持ちながら体をふらふらと揺らしていたが、警戒だけは、気配を辿ることだけは怠ることはなかった。


 だからこそ二人は感じた。器用にその気配を隠し、殺気だけは僅かに漏れ出し、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に気付いたのだ。


 だからこそ――二人は驚かなかった。


 はじけるようなガラスの破壊音と共に、コーヒー店のガラス戸を破壊しながらボジョレヲ達に向かって奇襲を仕掛けようとする男のことを横目で冷静に見ながら、ボジョレヲはその男の真正面に顔を向ける。


 ふっと、左手を持ち上げながら、彼は奇襲を仕掛けてくる男に狙いを定める。


 皮と骨だけしかない顔立ちで、縦長に長い。いうなれば顔はひょろながと言ったほうがいいだろう。そんな顔立ちの壮年の男は、黒くて若芽(わかめ)のような髪の毛を肩まで伸ばして、浮き彫りになった薄気味悪い目元を見せながら、黒いマントで体全体を覆って、「ふひひ」と笑みを浮かべてから男はマントで覆っていたその手を『ジャキリ』とボジョレヲたちに見せつける。


 その手に嵌められていたものは秘器(アーツ)で作られたグローブで、そのグローブの手の先……、つまりは爪のところに嵌められていたのは、黒い鉱石で作られた爪だった。


 その爪は通常では伸ばすことすら不可能に等しいような長さで、見た限りで言うと十センチはある鋭利で尖っている爪だった。


 その爪を出しながら、若芽髪の男はボジョレヲ達に向かって姿勢を低くしながら風を切るように駆け出す。両手につけられた秘器(アーツ)の手を後ろに引きながら、その手を鋭く尖らせるような貫手にして、素早い動きで加速しながら、若芽髪の男はボジョレヲに向かってその貫手を繰り出す。


 ぼっ! と、空気が裂けるような音を出しながら、彼はその攻撃を繰り出した!


 が――


「………単調にして単純な動きです」


 ボジョレヲは何の苦もなく、なんの力を加えずに、彼は繰り出された貫手の手首をそっと袖で隠された手で優しく、すぐに引きはがせるような握り方で持ちながら、そのままボジョレヲはくるんっと回りながら、彼はその攻撃を躱す。


 意図的に、何の力を入れずに、僅かな体力を使わずに、彼は若芽男の攻撃を()()()


 若芽髪の男の手を掴んで、その流れの手助けをするように、更に加速させるように、ボジョレヲは力の流れに従ってその攻撃を受け流したのだ。


「――っ!? っ!」


 その流しを受けてしまった若芽髪の男は、目を見開いてボジョレヲのことを横目で驚いた面持ちで見て、すぐに体制を整えようとした瞬間……。



 ――ごぉんっっ!



「っ!?」


 突然、後頭部に来た衝撃と共に、若芽髪の男の視界が砂嵐になり、そして視界が鮮明に戻った瞬間、彼は飲食店の椅子やテーブルが並んでいるところに突っ込んでいた。『バカァッッ!』と言う耳をつんざくような音を聞きながら、彼は体中に痛みに耐えて崩れてきた椅子やテーブルを押しのけて起き上がる。


 唸り声を上げながら、若芽髪の男は背を向けて若芽髪の男のことを見ているボジョレヲと鎌を手に持って、それを片手で華麗に手で回しながら余裕の笑みで己のことを見ているセスタを見る。


 二人は緊迫した面持ちで見ていない。むしろ――迎え撃って返り討ちにしてやる。そんな目の色を見せながら……、若芽髪の男――『(アイアン・ミート)』の一人にして暗殺軍団団長――ピステリウズ・ペトライアはぎりっと歯を食いしばりながらその場から立ち上がって……。


「帝王のために……っ! お前達を殺す! 暗殺軍団の名に懸けて……っ!」


 と、二人に向かって激怒を含んだ表情で唸りながら言うと、それを聞いていたセスタはくるりと大きな鎌を回しながら、陽気な音色でこう言った。


「おれ達も急いでいるから手短に倒すよ~」

「ええ。早急に片しましょう」


 そんなセスタの言葉を聞きながら、ボジョレヲもピステリウズのことを見ながら前を向いて、仁王立ちになりながら彼は言う。余裕のある笑みを浮かべながら……。



 ◆     ◆



 その頃……、誰よりも帝宮から最も遠い場所で、真後ろが出口の門と言う場所にいるのは――ティズとクルーザァーだった。


 彼らがいる場所は帝国で最も有名な場所で、遠征や帰還時によく使われる場所だった。


 その場所には家屋や出店という建物らしきものが一切ない場所で、ただあるのは丁寧に整備された道。ただ真っ直ぐで帝宮に向かって伸びている道しかない。


 一言で言うところの道路だけの地形だった。


 草も気もない。ただだだっ広く、そして長い道路のような世界が、ティズとクルーザァーの視界に広がっていたが……。


「お初にお目にかかりますわ。反逆者。ワタクシは帝王に選ばれし者であり『(アイアン・ミート)』の名を賜っております……拷問軍団団長――セシリティウム・アラ・ペティシーヌと申しますわ。以後、よろしくお見知りおきを」


 女性は目の前にいるティズとクルーザァーに向かって深く会釈をしながら自己紹介をした。


 女性は紫のショートヘアーに鎧性の首輪。そして……、服など着ていない。鎧しか着ていないその服装で、露出も高い。下半身の――両足の太腿から下の足が足ではない。いつぞやか見たネルセスのような、足の先が尖っている節足の足の秘器(アーツ)をつけている女性ではあったが、彼女の周りに……、否――ティズ達のことを取り囲むように……、大勢の手錠と足錠をつけられたボロボロの服を着た人達が、各々武器を持ってティズ達に威嚇をしていた。


 武器を持って、がくがくと震えながら恐怖を植え付けようと必死になりながら、彼等は強張る表情でティズ達のことを見ていた。


「………この人達は」


 ティズはその人達のことを、そしてくすりと優雅に微笑みを取り繕っているセシリティウムのことを見ながらクルーザァーに向かって聞く。


 それを聞いていたクルーザァーは心底胸糞が悪くなると思いながら、彼は顔を顰めてその光景を目に焼き付けてから、彼はティズのことを見ずに「ああ」と気怠く答え、そして――続けてこう言った。


「こいつらはきっと奴隷だ。俺達のことを足止めしながらじわりじわりと嬲り殺す気なのかもしれない。何とも性格が悪く、そして性根が腐った女だ」

「あらあらぁ……。反逆者に言われる筋合いはありませんわ。それにそんな余裕な気持ちでいてもいいのですか? 私は拷問軍団団長にして、奴隷達の女王なのですよ? この奴隷共にはこう言い聞かせておきましたわ。『反逆者が来る。その時お前達の誰かが反逆者の首を狩れば……、お前達を自由にしてやる』と、つまり――あなた達は『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』が始まったと同時に()()()()()の戦闘をしなければいけないのです。それが嫌なら、今すぐ私の軍服……、いいえ。帝国の更なる発展のために、奴隷になることをお勧めしますわ」


 うふふ。と微笑みながら言うセシリティウムは言った。


 それを聞いていたクルーザァーは内心こんなことを思いながら理解し、そして冷静になりながら状況を確認する。心の中でそれを確認した。


 ――九万一……。つまり俺達の敵は――対戦相手はこの性悪女と九万の奴隷。


 ――いや、奴隷はオプションのようなものだ。きっとこの女は奴隷達の心を操りながら俺達のことを殺そうと目論んでいるだろう。


 ――目に見えてわかる。こいつは躍起になっている。成果を何とかしてあげようと躍起になっている。


 ――哀れな女だな。


 そう思いながら、クルーザァーは傍らでじっと立っているティズのことを横目で見降ろしながら、彼は言葉を発しようとした瞬間、クルーザァーははっとしてティズのことを見た。


 驚いた顔を一瞬浮かべて、そして元の顔に戻しながらティズのことを見降ろすクルーザァー。

 

 ティズはその光景を――特に奴隷の人達を見て、彼は目を見開いて無表情のまま彼はその奴隷達を見ていた。クルーザァーはそんなティズの視線を目で追い、そしてある奴隷のところで目が留まったクルーザァーは、すぐにティズの感情とその原因を知った。


 奴隷の中に紛れている金髪の男――その男の腕には、クルーザァー達と同じものが嵌められていた。


 泥によってその色は失われつつあるが、それでもその形を見た瞬間、クルーザァーは察した。


 その泥によって汚れたそれが()()()()()()()()()であることを知った瞬間、ティズはセシリティウムのことを怒りの眼で睨みつけながら、彼は言った。


「生憎……、俺はあんたの奴隷にはならないし、俺はこのまま先に進みたいし、そして……、この国で苦しんでいる人達を助けたいと思っている」

「?」


 ティズの夢のような結果論――否、この場合はわがままを聞いたセシリティウムは、きょとんッとした顔つきで首を傾げながらティズのことを見る。ティズはそんなセシリティウムをぎっと睨みつけて、そしてティズは手に持っていた二本の短剣を逆手に持ちながら、彼は言った。


 面と向かい合うように、彼は意を決してセシリティウムに向かってこう言い放った。


「あんたのような人と一緒にいたら、こっちの身がもたない。奴隷になるくらいなら、あんたを倒して自由を手にしてやる。わかったらとっととその人達のことを後ろに下がらせなよ――()()()()

「ふふっ」


 セシリティウムはティズのことを見て、口元に手を添えながら彼女はくすりと微笑む。口元を微笑ませながら、目は無表情のそれにして彼女は微笑む。

 

 くすくすと微笑んで。


 うふふふと微笑んで。


 くつくつと微笑んでいた。


 それを見ていたクルーザァーは、内心ティズの言葉に対して頭を抱えて……、一体何を言っているんだ。馬鹿がと思いながらも気持ちを切り替えて戦う姿勢を示すように、クルーザァーは溜息交じりに手をかざす。


 ティズの合理的な話をしろと怒鳴っても無理だろう。そう思いながら……。


 そんな話を聞いていたセシリティウムはくつくつくつくつと微笑んでいたその笑みをふっとかき消し、そしてティズやクルーザァーのことを見降ろしながら彼女はだらりと降ろしていたその右手をふっと上げて人差し指を天井に向けて指さすと……、すぐにそれを下ろし、ティズ達を指さすようにしてから彼女は鬼と言われても同意の声が聞こえるような形相で、彼女は奴隷達に向かって無言の命令を下す。


 ――いけ。と念じながら、彼女は叫ぶ。




「――調子こくんじゃねええよおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!!」




 その怒声が響き渡ったと同時に、その場に集まっていた奴隷達は血眼になりながらもティズ達向かって駆け出す。


 武器を手に持ち、己の自由のために、ティズ達の息の根を止めるために彼等は駆け出す。


 その光景を見て二人は敵意をセシリティウムに向けながら戦闘態勢を整える。奴隷の人達には傷をつけない。そう心に誓いながら……。

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