PLAY63 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅱ(対戦相手)④
更に同刻。
薄暗い帝国の土地でも、アムスノームやアルテットミアにもあったような大きな広場がある。と言っても、無駄に広い土地で、その中央にあったのは台座に乗せられている木製の刃がついた何かと、周りにある石で作られた簡素な壁。その壁と地面にこびりついている黒い何かがこの空間の異常性を物語っている。
その光景を見て、上を見上げながらネテロデディアの話を聞いていた虎次郎とルビィは無言になり、その言葉を聞いて周りを見渡す。
「ここは一体……、何なのかのぉ……」
「あらら。虎次郎さん知らないの? この場所が一体どんなことをしてどんな光景を見せる場所なのか」
「知らんな。だがこの場所で悍ましいことをされていたということは分かる」
「そうね」
ルビィは目の前にある木で作られた何かを見て、ルビィは虎次郎に教えるような動作をしながらこう言った。
「あの台座に乗せられているあれは、中世の時代でよく使われていた処刑台で、『斬首刑』に使われているもの。私達の国――外国ではギロチンって呼ばれているの」
「ぎろちん……? とな?」
「ええ。でも今の時代では全然使われていないから、多分子供も知らない知識なのかもしれないわ。そして……」
ルビィはその目の前にある木製の機材――ギロチンの刃を見つつ、彼は耳朶を弄りながら (これはルビィが深く考える時にする癖のようなものだ)神妙な面持ちでその斬首刑に使われる刃を見た。
刃こぼれがひどく、錆がこびりついており……、あろうことかその刃は上の方で止まっておらず、中途半端のところで止まっているのだ。
はたから見ればもう使われていないような雰囲気を出しているそれだが、ルビィはそれを見て違和感を覚えた。
――変ね。
ルビィは刃がついているその箇所を見ながら思った。
耳朶をいじり、深く、深く考えを深めていきながら彼は腕を組んでそのギロチンを見ている虎次郎のことを無視して、すぐに違和感を目で見つけてそこを凝視する。
錆びついている刃とは対照的に、刃を固定するために使われているきれいな木目をしている木材を見てルビィは思った。
――あそこだけ……、他と比べて丁寧に手入れされている……?
そう思いながらルビィは耳朶を触ることをやめ、そのまま腕を支えるような組み方をしてそのギロチンを見る。
確かに二本の柱もボロボロに腐りかけており、土台も同じように腐りかけている。今にも折れそうだ。
刃を吊るしているロープもボロボロで、今にも切れそうなそれにも関わらず、刃を固定するために使われているそのだけは異様に真新しい。
否――新しいのだ。
そこだけ異様にきれいな木の色をしている。
それを重点的に見て、ルビィは一体どうなっているのかと思いながらそのギロチンに向かって歩みを進めた瞬間……、ルビィと虎次郎の背後から声が聞こえた。
彼らが戦う最初の対戦相手の声が、彼らの背後から聞こえてきた。
「それにふれるなぁ――ざいにぃんっ! それはおだだけのぶきなんだぁ!」
「「っ!?」」
言葉で聞くと幼稚に聞こえそうな音色を耳にした虎次郎とルビィは、今まで感じられなかった殺気に似た気配を感じて、すぐに背後を振り返りながら武器を構える二人。
が――背後には何もいなかった。誰もいなかった。
「?」
ルビィはそれを見て首を傾げながら見ていたが、虎次郎だけはすぐに振り向いていた体を元に戻し、そして真正面を見ながら彼はルビィに向かってこう叫んだ。今までの余裕が嘘のような焦りを含んだ怒声で、彼は叫んだのだ。
「――っ! 緩めるなっっ! 斬首刑のところにおるぞっっ!」
「っ!」
その声を聞いたルビィははっとして、振り向いた後すぐに真正面に向けて顔を戻し、目の前にあったギロチンに目を戻しながら振り返ると、ルビィは目を見開いてその光景を凝視してしまった。
彼らの背後にいたであろうその大男――ふくよかな胴体に腰回り。手足の贅肉も異常で、一目で太り過ぎと言われてもおかしくない体つきだが、体にちりばめられているような機械の鎧を身に纏っている。その体とは裏腹の……、少ない髪の毛を三つ編みにした黒髪に、つぶらな瞳に小さなおちょぼ唇が印象的な二メートル級の大男は、ギロチンの横に立ちながら刃がついている木材をがしりと持つ。
そして大男はその錆びついてしまった刃を固定する木材をすぅっと上に向けてするすると上げて、そしてあるところでそれを――『ガコンッ』と取り外した。
組み立てをする時と同じ音で、刃を固定する木材をギロチンから取り外す大男。
そのまま大男は片手に持ったギロチンの刃を掌で『ぐるん。ぐるん』と回しながら、大男はおちょぼ口を横に伸ばして避けているかのような唇を見せつけながら、大男は虎次郎とルビィを見ながらこう言った。
「これはおだのぶきなんだぁ。おだはこのぶきをつかってざいにんをしょけいしてきゅうさいしているんだー! このやいばでざいにんのくびを『しゅぱーんっ!』て、ごうかいにきっているんだぞぉ!」
大男は聞き取りずらい言葉を吐きながら言う。
それを聞いていたルビィはたらりと汗を流しながらその大男を見上げてから――少しだけ慎重な音色で彼はこう言う。
「そうなの……。それはいいことね。王様の言うことをちゃんと聞いてて」
「だろぉ!」
ルビィの言葉を聞いた大男はギロチンの刃を持て余しながら、彼はルビィ達のことをつぶらな瞳でじっと見据えながら、彼は「だから」と言葉の後に接続詞を加えて言葉を終わらせないようにした。
それを聞いた虎次郎は刀の柄に手を添えながらじっと大男のことを見据える。真剣で、いつ相手が動いても対応できるように、虎次郎は警戒心を解かずに身構えていた。
そんな二人を見ながら、大男は言い終わっていない言葉の続きを話そうとした瞬間――ルビィと虎次郎のことを刃を持っていない手で指をさしながら、下劣な笑みを浮かべて彼は言った。
ここに来た理由を――二人に告げたのだ。
「おだはこのばとるろわいやるのさいしょのたいせんあいてを『ざいにん』とみなして、ここでしょけいをしっこうする! ていこくにさからうやからをけし、そしてきゅうさいできる! われながらめいあん! おだはめいあんだ!」
大男は『ぐあっははは!』と哄笑しながら片手でお腹を抱えながら笑う。叫びながら笑う。
ルビィはそれを聞いて内心……、でしょうね。と納得して腰に差していた己の武器を手に取りながら輪生体制を整える。
虎次郎もがちりと刀を握り、そして大男を見ながら彼は普段と変わらないマイペースな面持ちで聞く。
「そうか、あの男が言っておった対戦相手と言うのは貴殿のことか。となればここは礼儀を重んじ、最初は名を名乗ることから始めんか? 儂らは初対面にして最初の対戦相手。ここで名乗っておかなければその名を刻むこともできん。そうじゃろう?」
「………そうだなぁ。おだおまえたちのことぜんぜんしらないからなぁ。まだかいしのあいずなっていないからいいぞ」
――案外素直なのね。いいえ、それとも仕事熱心なのかは、わからないけど……。と思いながら、ルビィは虎次郎のことを横目でちらりと一瞥しながら、内心感謝の念を込めて飛ばす。
それを向けられていることですらわかってない虎次郎は、大男のことを見上げながら彼は余裕のあるような音色でこう言った。
普段と変わらない音色で、彼は大男に向かって名乗った。
「儂は虎次郎じゃ。冒険者でぱらでぃんを務めておる。今は武器がないが故現在は無所属じゃ」
「っ!?」
その言葉を聞いたルビィはぎょっとした面持ちで虎次郎のことを振り返りながら彼は――虎次郎さんってパラディンだったのっ? てっきり武士かなとか思っていたけど、違っていたのね……。と思いながら首を振るうルビィ。
そして気持ちを切り替えながら彼は自分のことを手で指さしながら、平静と余裕を顔に出して本心をそれで塗り潰して隠しながら彼は大男を見据えながら名乗る。
「……っ。次は私ね。私はルビィよ。虎次郎さんと同じ冒険者でアルケミスト。エルフ族よ。よろしくね」
ルビィが名乗ったと同時に、大男はうんうん頷きながら腹部の贅肉をたぷたぷと動かしながら「そうかそうか!」と言って、彼は続けてこう言う。
「おぼえたぞ! こじろうとるびぃだな! ざいにんのなまえおぼえたぞ! それじゃぁおだのなまえをなのるぞ! おだは『あいあん・みーと』のひとりで、この『ざいにんしょけいじょう』のかんりにんの――しょけいぐんだんだんちょうのどぅびりてぃらくれいむ・ぱーむ! みんなはおだのことを『ぱーむ』ってよんでいる! よろしくなざいにん! そして――ていこくのためにしょけいされろっっ!」
二人のことを覚え、そして処刑対象でもあり対戦相手とみなした大男――『盾』の一人にして 処刑軍団団長――ドゥビリティラクレイム・パームは、二人のことをぐにっと下劣な笑みで見降ろしながら言った。
それを聞いたルビィと虎次郎は己の武器を手に持ちながら目の前にいる帝国の幹部――ドゥビリティラクレイムのことを真剣な顔つきで見上げながら警戒をマックスに引き上げ、戦闘態勢を整える。
狭い処刑場を舞台に、三人はお互いのことを見つめながらその時をじっと待っていた。
◆ ◆
虎次郎達が処刑場を観察していたその頃……。
帝国の西方に位置する大きなコンテナや小さなコンテナが積み重なっている――見た限りゴミ屋敷のような積み重ね方をしている場所……、通称『コンテナ集落』に案内されたガーネットとシェーラは、互いにむすくれた顔をしながらそのコンテナの頂上で優雅に座って自分達のことを見降ろしている男性のことを見上げていた。
青い目だけを隠した奇抜な仮面に、裸足で白い長髪を一つに縛っているアラビア風の服を着た耳の長い男は、古くなってしまったコンテナに足を組みながら座り、そしてシェーラ達のこと見下ろしてただじっとしていた。何もしない、ただじっとその光景を見て、傍らに置いている大槌を掴まないで彼女の達のことをじっと見降ろしていた。
まるで――二人のことをじっくりと観察しているような目で (仮面で目元は隠れているが、それでも隠しきれないよう目だった)、機械のような雰囲気を醸し出して、男はじっと……、二人のことを見降ろしていた。
その光景をじっと見つめていたシェーラは腰に手を当てて、いつまで見ているのかと苛立ちを覚えながら、彼女は思った。目の前にいるプレイヤーの男を見上げながら、彼女は思った。
――いつまで見ているのかしら……。ガーネットと一緒にここで目を覚まして起き上がったとたん、こいつはすでにいた。
――ずっとここで私達が起きるのを待っていたのだろうけど、起きてから私達に対して攻撃をしようとする仕草はない。観察……? 違うわね。
――これはきっと、あのDrが言っていた『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』が始まるのを待っているのね……。
――どこまで余裕なのかしら……、こいつと言い、あのマッドサイエンジジィは。というか、帝国もバロックワーズも、とことん私達のことを見下しているわね。
そう思いながら、シェーラはふと、帝国の中央にある金色の城を見つめ、先ほど流れたアナウンスを思い出してから彼女は脳裏に浮かんだ自分の仲間達のことを思い出す。
アキ、キョウヤ、虎次郎、ヘルナイトにハンナ。
それぞれの背中姿を思い出しながら、彼女はきっとその金色の城に向けて睨みを飛ばしながらこう思っていた。
――アナウンスが本当なら……、アキやキョウヤ、師匠は大丈夫として。ヘルナイトはもっと大丈夫だろうけど、ハンナは一人の状態で取り残されている。そうなればハンナは誰かが来るまでに一人でなんとかしなければいけない。攻撃系のスキルがないあの子にとってすればかなりの生き地獄……。
――その状況を打破するためには……、誰かが先に相手を倒して、そしてハンナのところに行かなければいけない。
――ハンナがいなければ……、ガーディアンの浄化なんてできない。クリアも絶対にできない。誰かがあの子を守らないといけないんだ。誰かが……。いいえ。
と思いながら、シェーラは頭の中で深く思案したことを一旦整理し、そして目の前で座って見下ろしている男を見ながら、彼女は決意を固めたかのような厳しさがあるその眼で彼女は思う。
やることは一つ。そう思いながら、彼女は心に誓う。誓って心の中でその言葉を念じて発しようとした瞬間……。
「――倒す。速攻」
「!」
突然聞こえたガーネットの言葉に、シェーラは驚いた目して彼女のことを横目で見る
彼女が思っていた言葉とは違っていたが、それでも、シェーラの隣にいたガーネットは目の前にいる男に向かって拳を構えながら吊り上がった目で言う。彼女の言葉を代弁してくれたかのように、ガーネットは言葉にして言ってくれた。目の前にいる男に向かって。
それを聞いていた男は、座りながら頬杖を突いて彼女たちのことを見下している。できるわけない。そう心の中で唱えているかのように、彼はシェーラ達のことを見下す。
そんな顔を見ても、ガーネットの目は……、覚悟は本物の様で、彼女は肩幅まで足を広げ、そして殴りやすい構えを取りながら、彼女はシェーラを見ずにシェーラに向かって問うた。
「お前、私と同じものを感じる」
「………………?」
ガーネットの言葉を聞いたシェーラは、首を傾げながら横目で彼女のことを見ると、ガーネットはそんなシェーラのことを見ずに、目の前にいる余裕の座りを見せている男を見上げながら彼女は言う。
独特な言葉で、彼女は言う。
「誰かを守りたい。強くなりたい。弱いままは嫌だ。私も同じ。そして、この戦いを終わらせて、守るべき人のところに行く。それは……、私も同じだ」
「……………………そうね」
ガーネットの言葉を聞いたシェーラは頷きながら、横目で彼女を見ていたがゆっくりとした動作でその視線をガーネットから男にそらして、彼女は言う。静かに、過去に起こったことを思い返しながら……、彼女は言う。
ガーネットの質問に対して――シェーラは隠すことなく言う。
「私もそうよ。守りたいし強くなりたいし、弱いままは嫌だ。それは思っていた。ずっと思っていた。あなたも、そうなの……?」
ガーネットは答えない。だがシェーラはその質問に対して答えを出してほしいと追及することはなかった。否――しなくともいいと思っていたからだ。
理由は明白。ガーネットと自分は、どことなく似ているところがある。そう思ったからシェーラはそれ以上の追及をしてこなかった。
聞いたとしても、きっと思っている言葉が返ってくる。野暮だ。そう思ったシェーラは追及をしなかった。
そんなシェーラの質問が終わったと見たガーネットは『キッ!』と目の前にいる男を睨みつけ、シェーラも睨みを利かせながら武器を構えて、ガーネットは男に向かって宣言する。
勝利をもぎ取る。希望に満ち溢れた宣言を。
「無言男。悪いがここで寝ていろ。そして降参宣言しろ。そうすれば命までは取らない。戦うのならば完膚なきまでに倒す。姫様のこと。探さないといけない」
「そうね……。こっちも暇じゃないの。開始した時点であんたをぶっ倒す気で行くけど……? どうする?」
ガーネット、シェーラの言葉を聞いていた男は、座っていたコンテナからそっと立ち上がり、そして傍らに差していた大槌をがしりと掴んで、そのままコンテナからそれを引きずり出す。
引きずり出した瞬間、その大槌を埋めるように積み重なっていたコンテナが大きな音を立てて流れ落ちていく。ガラガラガラッ! と音を立てながら落ちて、男は手に持った大槌を片手で持つ。
見えていた小さな大槌――の下につけられている身の丈以上の大槌を片手で持ちながら、彼はそれを大きく振るって、二人に狙いを定めて見据えながら、そのコンテナの山からゆっくりとした動作で降りて、そして男は言った。淡々とした、機械のような音色で、彼はこう言った。
「『バロックワーズ』――大槌士クレオ」と言ったと同時に、男――クレオは片手に持っているその大槌を大きく、大きく薙ぐように振るいながら、二人に向かって歩みを進める。
威嚇をするような動作で、二人に向かって歩みを進めるクレオ。
それを見たガーネットとシェーラは不敵にほくそ笑みながら、待っていましたと言わんばかりに武器と拳を前に突き出して――二人は気合が含まれる音色と面持ちで言う。
「「上等!」」
◆ ◆
そんな二人の気合の言葉が放たれた同時刻……。
同じく西方の『コンテナ集落』の近くにあるとある敷地内……。
その場所は下民が製造した武器や防具の最終工程をするために作られた訓練場だった。
ドゥビリティラクレイムが管理している『罪人処刑場』以上に広い空間であるその場所は、帝国の兵士達がどれを使って武器や防具の最終調整を奴隷を使って攻撃力や防御力を確かめる所でもあった。
その名も『最終調整訓練場』。
訓練場と言う名前なのにところどころに飛び散っている乾ききった赤黒い液体がその名前負けの光景を浮き彫りにする。
その敷地内の中央にいたガルーラとティティは、今まさに刃渡りがその人物ほどの長さの出刃包丁を手に持って、ガルーラとティティのことを人形のような笑みを浮かべて微笑んでいるクレオとは対照的な女性が二人のことを見ていた。
赤い目だけを隠した奇抜な仮面と、裸足で白い長髪を一つに縛っている耳の長い女は出刃包丁を片手にもって、そしてくすくすと微笑みながら二人のことをじっと観察する。
クレオとは対照的な行動と態度である。
そんなクレオの存在を知らないティティとガルーラは、そんな女のことを見ながら武器を構えて警戒をする。そしてその警戒心を維持させながら、ティティはガルーラに向かって、ガルーラを見ずにこう聞く。
「……、まさかと思いますが……、彼女はもしかしたら」
「ああ、全部言うな。あたしだってわかったさ。起きたと同時にこいつがあたしらの顔を覗き込むように見て、そして攻撃も何もしないであたしたちのことを観察していた。更にあのアナウンスは……、何なんだ?」
「理解できていないようですね。知ったかぶりはやめてください。つまりあの時Drと名乗る男が言っていた『バトラヴィア・バトルロイワイヤル』は始まろうとして、私達の最初の対戦相手は――彼女。ということになるのですよ? 理解しましたか?」
「ということは……、この女をぶっ倒せばいいってことだな?」
「……………………………えぇ」
ティティとガルーラは話をする。
警戒心を研ぎ澄ませながら話をして、あまり理解できていないガルーラに向かって、ティティはほんの少し面倒くさそうな面持ちで顔を顰めた後、彼女にもわかるようにわかりやすく説明をする。
それを聞いていたガルーラは理解したのか (本当に理解したのかはわからないが……) 、手に持っている大槌を構えながら気合を入れて言うガルーラ。その言葉を聞いていたティティは、内心……。
――そんな簡単なことじゃない。と思いながら、ティティは頭を抱えて深いため息を吐きながら頷く。単細胞のガルーラにこれ以上のことを言っても理解は難しい。
そう思ったティティは、ふと頭に思い浮かんだ己の想い人のことを思い出し、そのことを思い出したと同時に顔を苦痛に歪ませ、腰に携えている鉈を構えながら、彼女は目の前にいる女の向かってこう言った。
鉈を突き付けながら、彼女は言う。
「ということです。ルールには則りますが、私はあなたを倒す気で立ち向かいます。それと長居をさせようたってそうはいきません。何故なら」
「ティズがいるからだろう?」
「!」
突然、ガルーラはティティのことを見ずに、敵の女のことを見ながら不敵に笑って、ガルーラはティティに向かって言葉を発した。
それを聞いたティティは驚いた目をしてガルーラの方を向くが、彼女は未だに敵の女のことしか見ていない。ティティのことなど見ていないが、それでもガルーラの言葉はティティに向けられていた。ティティに対して、彼女が思うことが手に取るようにわかる様な口先で、ガルーラは言う。
「いつも『ティズティズ』って言っているからな。なんとなくだが当たっていたんだな? 確かにお前の言う通り、ここで長居はしたくねえな。あたしもティズや旦那のことが心配だし、クルーザァーもああ見えて無茶をする奴だ。長くいればわかる。だからティティ。お前の言う通り、ここで長居はしない」
ガルーラは手に持っていたその大槌を大きく振るい、そしてその振るいながらの流れで肩にそれを乗せながら、彼女は余裕の笑みを女に向けながら、力強い言葉でこう言った。
「――速攻で終わらせて、お互い心配だと思うところに行こうぜ!」
その言葉を聞いていたティティは、ガルーラのことを横目で見て、すっと目を細めながら彼女は今思った心境をガルーラに向けて語る。目の前でくすくす微笑んで――ティティ達に対して全く隙を見せない彼女のことを見ながら、ティティは聞いたのだ。
「…………速攻。それは、有言実行出来そうですか?」
「いいや。わかんね」
ガルーラは答えた。速攻で即答した。
それを聞いたティティは目を見開いてから彼女のことを見て『なんでわかんないのに速攻で終わらせるとか言ったんですか?』と、荒げながら聞こうとした時。ガルーラは仮面をつけた女のことを見ながら、無理矢理笑みをこぼしながらこう言った。
「いや……、あの女がソードマスターって言うことはなんとなく察していたが、隙が全く無いんだよ。きっとあたしらよりもレベルは高けーだろうなって思っちまってさ。でもこんなところで『無理です』なんて言えねーし、今は無理でもイエスって答えて自分に言い聞かせねえといけねえって思っちまったんだ。まぁただの強がりだけどな。というか、こんなの初めてだわ。こんな風にブルっちまうのは」
その言葉を聞いたティティは、ガルーラの無理に笑みを浮かべているその顔を見て、そして大槌を持っている手がかすかに強張っている光景を目にして、ティティはたぁっと溜息を吐きながら――
「それでも速攻で終わらせるのでしょう。ガルーラさんもメウラヴダーさんのことが心配で、私もティズのことが心配なんです。幸い……、こちらは二人。あっちは一人。勝機はこちらにあると思います。強がりでも何でもいいので、開始した時点でこの微笑み女をやっつける。それでいいんですよね?」
「! ――おぅ!」
と言って、ガルーラに気合を入れる。
それを聞いたガルーラは一瞬驚いた顔をしてティティを見てからすぐに頷いて武器を握る手に力を入れてしっかりと前を見据える。
その光景を見ていた女は、くすりと口元に手を添えながら微笑みを隠しつつ、声だけでその微笑みを証言し、片手で己の身の丈ほどの出刃包丁を掴み、そしてそれを力任せに振るいながら、彼女は言った。
「『バロックワーズ』――ソードマスターパトラ」
その言葉と共に、女――パトラはその出刃包丁をガルーラ達に突きつけながら微笑む。その微笑みを見てティティとガルーラは余裕の笑みを張りつけながらパトラのことをしっかりと見据えて目を離さないようにしてから武器を握る力をぐっと強めた。
◆ ◆
そして――ネテロデディアのアナウンスを聞いて、すぐに目の前にいる人物のことを見据えて、ニコニコとした微笑みを見せて「なるほどねー」と、リンドーは余裕の笑みを浮かべながら目の前にいる耳が長いエルフの男を見つめながら言った。
その言葉を聞いていたエルフ男は無言の状態でリンドーともう一人の人物――ガザドラのことをじっと見つめながら腰に差していた刀に手を添えた。
顔は整っており、目元にはなきホクロがある冷たい眼差しが印象的な男で、金髪の髪をオールバックにして一部を三つ編みにしている人物で、黄色と銀色が混ざった鎧を着用し騎士ではあるが腰には刀を帯刀している異様な雰囲気を持っている男を見て、リンドーは横にいる出ガザドラのことを見上げながら――
「つまりぼく達はこの人を倒さないと先に進めない。ということでいいんですね」と聞いた。
それを聞いたガザドラは背に背負っていた槍を手にし、エルフの騎士のことをじっと見つめ警戒をしながらリンドーの言葉に頷いて「そうだ。アナウンスの言葉が正しければそうなるな」と言った。
今現在――彼等がいる場所は帝国の北西部に位置する住宅地。真っ直ぐの道を隔てるように左右に煉瓦でつくられた家がぎゅうぎゅうに建てられている。いうなれば普通の住宅街に相当しているだろう……。そんな住宅街の真ん中、道の真ん中にリンドー、ガザドラ、そして『盾』の一人にして帝国住人の中でたった一人のエルフ――偵察軍団団長――レズバルダ・ウォーエン・ヴィジデッドしかいなかった。
住宅の中には人っ子一人いなかった。それはリンドーが起きてから確認しているので、住人のことを心配しないで心置きなく戦える。そうリンドーは思っていた。
「…………しかしリンドー」
ガザドラは目だけでリンドーのことを見ながら彼はこう言った。リンドーはその声を聞いてガザドラと同様に目だけでガザドラのことを見ながらリンドーは頭に疑問符を浮かべて首を傾げる。
ガザドラはそんなリンドーに向かってこう言った。真剣で警戒をしているような音色で、彼は目の前にいるレズバルダに事を見ながら、こう言った。
その言葉は――忠告に近いものだった。
「簡単に言うが、吾輩の蜥蜴人と竜の血が、野生の勘が警戒している。『あの男は危険』だと囁いている。直感ではあるが、あの男は一筋縄ではいかんだろう」
その言葉を聞いたリンドーは、笑みを浮かべていたその目を一瞬神妙なそれにして、すぐに笑みを浮かべてからレズバルダのことを一瞥する。
レズバルダは刀に手を添えながらリンドー達 のことをじっと見据えているが、それでもリンドーは勝てると勝機を確信していた。たとえ一筋縄ではいかないとわかっていても、それでも彼は負けるというネガティブな思考に行きつくことはなかった。
リンドーは思う。レズバルダの刀をじっと見つめながら、彼は思った。
――確かに、攻撃系統のスキルを持っているのはガザドラさんだけ。ぼくは持っていないけど……、それでも戦いになればぼくのスキルですぐにこっちの優勢に傾く。
――ぼくが持っているシーフゥーのスキルで、『窃盗』のスキルで相手の刀を奪って隙を作れば、すぐに再起不能にすることができる。
それが出来ればこっちの勝ちだ。
そう確信したリンドーはガザドラのことを横目で見ながら、いつもの笑みを浮かべて「大丈夫でしょー」とリンドーは言った。
「相手がどうであれ、このタックで負けたことなんてないじゃないですか。大丈夫ですよー」
「………確かにそうだが、それでも、油断は大敵だ」
ガザドラはすぐに槍を引き抜き、その槍の先をレズバルダに向けながら己の魔祖の発動準備を施す。
リンドーも手を伸ばしてスキルを発動する準備をしながら――レズバルダから目を離さずに見据える。
そんな二人の光景を見て、刀の柄をがしりと掴んで虎次郎がするような居合抜きの構えを取りながらレズバルダは開始の合図を待った。
じっと――その時を待っていた……。
※ドゥビリティラクレイムの言葉は全部平仮名なので、『読みづらい』と思った時は声に出して読んでみるといいと思います!




