PLAY63 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅱ(対戦相手)③
ネテロデディアのアナウンスは、帝国中に響き渡っていた。
帝宮の観戦ルームで見ている貴族や帝宮区域から見ている平民達にも聞こえており、下民区にいた者達は急かしなく帝国の帝宮内に入って下仕事に勤しんでいた。
つまり――下民と奴隷の人達にはこのことは知らされていない。知っているのは帝王と『バロックワーズ』、そして帝王直属の騎士――『盾』そしてたった今ルールを知ったアキ達だった。
ハンナはたった一人 (ナヴィがいるのだが、それでもナヴィは人数のカウントされないので事実上ハンナ一人ということになる。ナヴィ自身は戦ってもいいのだが……)でその説明を聞いて驚愕と不安に狩られながら聞いている最中、その話を聞いて最も帝宮に近い存在の二人はその話を聞きながら……ネテロデディアの説明を聞いていた。
そして……。
「舐めた真似しやがって……っ! 即刻ぶっ倒す」
「優しい言葉に言い換えているが、お前の気持ちはすでに暗殺者のような目だろう。目がお前の気持ちを代弁してくれているぞ。」
「じゃかあしゃぁっっ!」
「大図星。オオズボシ。」
「うるせえ! うまくねぇんだよっっ!」
「心もかなり荒んでいるな。うんうん。」
帝宮の近く――住宅地ではなく、ほとんどの隔てが城壁だけという場所で、帝宮に入る『階段トンネル』の近くでその光景を見て聞いていたアキとダイヤは話していた。
その映像を恨めしく、そして遠くからでもわかる様な感情感知がなくても分かる様な負の感情を蛸の足のようにうねらせながら放っているアキ。
血走った目でぎりぎりと歯を食いしばりながらその光景を目に焼き付け、最初の相手をネテロデディアにしようと思った矢先、その光景を見ていたダイヤは呆れながら溜息交じりに言う。
アキを見ながら淡々とした面持ちで冗談交じりの言葉を言いながらアキのことをいじるダイヤ。
大変失礼ではあるが、内心面白いと思いながらダイヤはアキに向かって片方の手で肩を竦めながらこう聞いてきた。
「それで? あのようなことを聞かされたが、お前はどうするつもりだ? 行くのか? それともこのまま相手の意思に従うのか?」
「バカかぁ! 従うなんて言う愚かなことはしない! 俺はハンナを探して相手を倒ぉすっ!」
そんなアキの言葉を聞き、ダイヤはすっと目を細めながら彼のことを見、片手だけで腰に手を当てながらダイヤは淡々としているが、Drのような無表情のそれではない。
ダイヤは淡々としているが少しだけ真剣さ、そして羨望の色が含まれている音色で、彼はアキに向かってこう言った。
「お前は……、本当に妹のことを第一に考えているんだな。」
「? 当たり前だろ。兄妹なんだから……」
「兄妹であっても、そんな風に発狂して、死ぬ気で妹のことを守る様なシスコンはお前くらいだろう。シスコン過ぎて鬱陶しいようなそれも見えるが、そんなことお構いなしにお前は動く。誰かのことを第一に考えるその意思は俺たちよりもすごいかもしれないな。」
「……褒められている気がしないのは俺だけかな……? というかそんなこと当たり前だろう? 大切な人を何としてでも守りたいっていう気持ちに嘘なんてないし、俺は俺のことを照らしてくれたハンナには恩義を感じている。というか、守ることに資格とかあるのか?」
ダイヤの言葉にアキは少しばかりの棘を感じながらダイヤのことを見て聞く。
若干顔がやつれているようにも見えるが、それでもアキはダイヤに向かって聞く。
守ることに対して、それをするにあたって資格やそれを持っていないと守ることができないのか。そうアキはダイヤに向かって聞いた。
率直であるが曖昧ではっきりとしない質問。
普通ならば『わからない』と言う言葉が正しいだろう。日常生活において、誰かを守って戦うということはあまりないだろう。中世の騎士でもなければ、多分多くの人が経験などしていないことだ。
ここにヘルナイトやシノブシがいたらいい答えを出すかもしれない。しかしアキはダイヤに聞いた。率直な疑問をダイヤに向けて――
それを聞いていたダイヤはふぅっと溜息を吐きながら腰に当てていた手をそっと下し、アキのことを真剣な眼差しで見ながら、彼はマスクで隠れた口をそっと開いて、言葉を発する。
「俺から答えを出すのならば――守ることに対して答えなんてない。資格もそう言った義務も分からない。己が思うのであればそれでいいと、俺は思う。」
「………曖昧だなぁ」
「お前の質問が曖昧なんだ。だが……。」
ダイヤはすっと目を細くさせ、アキのことをじっと見つめながら彼は真剣な目つきでこう言ってきた。
「お前が思っている守ると言う言葉と思いは、相手にとって必要とされていることなのか?」
「は?」
ダイヤの言葉を聞いたアキは、顔を顰めつつ冷静さを維持しながら、彼はダイヤのことを見ながら聞く。このような状況ではあるが、幸いまだ戦闘開始に合図はされていない。ゆえに彼らは余裕の気持ちを持っていたのかもしれない。
もしくは――ここに敵がいないことを認知しての会話なのかもしれないが、それは誰にもわからない。わかるのは……、この場にいるアキとダイヤだけ。
アキはダイヤのことを見つめながらこう聞いた。
「……どういうことですか? まさかと思いますけど、俺がいなくても妹は大丈夫とか言いたいんですか?」
アキはダイヤに向かって言う。少し棘のあるようなため口からの敬語言葉で、仕返し交じりの言葉を発しながら言うアキ。
それを聞いていたダイヤは――すぐに首を横に振りながら「そうじゃない。」と言って、彼はアキのことを見つめながら、真剣で、まるで自分もそうであったかのような顔つきでアキのことを見ながらこう言ったのだ。
「お前がいなくても妹は大丈夫とは言ってない。俺が言いたいのは、守ることに固執しすぎると大切なものを自分の手で壊してしまうと言っているんだ。俺もそうだったからな。」
「!」
ダイヤはアキに向かって言いながら、隻腕となっている部位を残っている腕でしっかりと握りしめながら苦しそうに告げる。
それを聞いたアキは、はっと息を呑んで、そして前にも聞いたことがある言葉を彼は脳内で再生した。
録画していた音声を巻き戻して、そして再生するように、彼は思い出す。
その言葉は――アクアロイアに入ったばかりの時に聞いた忠告。その言葉があったからこそ、アキは一時的に己を見失いかけていた。ゆえにアキにとってすれば、思い出したくないことでもあったが……、アキは思い出す。
あの時――聖霊の緒で出会った死霊族の女……、ベガの言葉を。
――そう言えば、あなたはなんですか?――
――あなたからは……、異様な何かを感じますの。わたくしの勘ですが……――
――進言しますわ――
――今すぐ、あの天族の少女から離れなさい。さもないと……――
――一番傷つけたくないあの子を……、精神的に、肉体的にも苦しめ、傷つけてしまいますわ――
それを思い出したアキは、険しい顔を隠してはいるが隠し切れないような歪んだ顔でダイヤのことを見る。ダイヤはそんなアキのことを見て、隻腕の個所を握ることをやめてその手を離しながら、彼は冷静で淡々としている音色でこう言ってきた。
「お前が妹と言う大切なものを守りたい。失いたくない気持ちはよくわかる。だが、そんな少なすぎる情報の中で動くことは愚策だ。クルーザァーが言うところの不合理だ。今は合理的なことをすることが優先事項だ。俺も姫様のことが心配だが、あの人なら私に向かってこう言うだろう。『今は己がすべきこと、できることをしろ。それをせずに私のところに来ることは許されない』とな。だから俺は姫様の思うが儘に動く。そして己で考えて行動しようと決めたんだ。」
だから――今はその行動をするべきではない。
そうはっきりとした音色でダイヤはアキに向かって、アキの目を見て言う。
アキはその言葉を聞きながら、勘ではあるがダイヤの言葉に現実味を感じつつ、ぐっと目を閉じてから――「はぁ」と深い溜息を吐いて、アキは頭をがりがりと掻きながらダイヤに向かって投げやり交じりの言葉を投げかける。
「分かりました……。でもすぐに終わらせてハンナのところに行きますからね」と、一応念を押すように言うアキ。それを聞いていたダイヤはくつくつと笑いを堪えながら「あぁ。わかったわかった。」と、零れる笑みを隠そうとしないで言って、そして目の前にある薄暗い階段の通路を見ながら、ダイヤは言った。
「まずはこの先を通るか、幸いここに人は」
と言いかけた瞬間……、びりっと空気が凍り付いた。突然来た冷気によって水面が凍り付くような感覚を感じて、アキとダイヤは微笑ましかった空気をかき消し、警戒神を研ぎ澄ませながら互いの背中を合わせ、死角を無くしながら彼らは周りを見る。
周りを見て、二人は奇しくも同じことを思いながら――懐に入れていた己の武器に向けて手をそっと伸ばす。伸ばしながら彼らは思った。
――ここに、人がいる。と……。
そう思った瞬間だった。否――刹那、のほうがいいだろう。
彼らがそう思った時、すでに相手の不意打ちが作動していたのだ。彼らの死角となる――真上から急降下して……、背中からずるりと長いカクカクとした何かを出しながら、その人物はアキたちの頭に攻撃を仕掛けようとした。
即死レベルの攻撃を――!
だが……、二人はそれを見ずとも、背中合わせとなっていたその体制をすぐに解除して、互いに別々の方向に向かって全速力で走って離れる。まるで――上から来た何かを察知していたかのような動きだ。
それを見て落ちてくる人物は、目元を歪ませて驚きの表情を浮かべながら、二人がいたであろうその場所に向かって――
――ドガァッッ! という豪快な音を立てて落ちた。土煙を立てながら落ちてきたのだ。
否――攻撃をしながら落ちた。の方がいいだろう。
なにせ、体から出ていた長い長い何かが地面に深く突き刺さりながらうねっているのだから、ただ落ちただけではないのだ。
その光景を走りながら後ろを振り向いてみたアキは、はっと息を呑んで、その攻撃の衝撃と見たことがある人物を見て、すぐに小さく跳躍してくるりと後ろを向きながらライフル銃――『グレンヘレーナ』改め『クレナティーヌ』を手に持ちながら、彼はその銃口を突然上から降って攻撃しようとしてきた人物に向ける。
ダイヤも片手に拳銃を持ちながら構えると……、上から降ってきた人物は「っほっほっほ」とくつくつ笑いながら、ずぼりと突き刺さっていたそれを無理矢理引っこ抜いて、土煙が立ち込めるその空間を仰いでかき消すように、その長い何かを大きく振り回しながら、その人物はアキたちを視認したと同時に再度「っほっほっほ!」と特徴的な高笑いを浮かべながら、アキに向かってこう言ってきた。
うねうねと……、マントの中から出ている機械質の尻尾をうねらせながら、彼は言った。
「おぉ! 貴様は確か……、駐屯医療所で儂のことをさんざん虚仮にした小僧ではないか。その赤髪とエルフ耳。おぉ、おぉ……っ! どんどんふつふつぐつぐつと怒りの感情が沸点を超えていきそうじゃぁ……っ!」
両手両足を広げ、黒もが歩くような体制になりながら、腰から出ているその蠍のような尻尾をうねらせながら老人は言った。
つるりとした丸坊主の頭に白い顎髭を生やし、両目には機械で作られた眼鏡をかけている。マントで体を覆い隠した腰を曲げた小柄な老人――三宝軍団団長兼秘器開発最高責任者。グゥドゥレィは、アキに向かって言うと、それを聞いていたアキは苛立つ顔を浮かべながら大きく舌打ちをして――
「あんのくそじじぃかよ……っ! こんな時に……」と、顔を苛立ちで歪ませながら低い音色で言ったのだった。そしてダイヤも警戒のレベルを上げつつ、拳銃を構えながら目の前の敵――『盾』の一人と相対することに勤しむ。
狂気の笑みを浮かべてるグゥドゥレィのことを見ながら……。彼らは威嚇行為を向けたのだった。
◆ ◆
同じ時……、ネテロデディアの放送を見ていた紅とセレネは、アキ達とは対照的に遠い場所に案内されれていた。
その場所は帝国内の中でも最も遠い場所――方角からして南西の方角で、二人が案内された場所は何も置かれていない空き地のような場所だった。
異様に広い空き地の中央にはセレネと紅。そして――
「まさかお前が最初の対戦相手ってことか……」
紅はいやいやとした雰囲気で頭をがりがりと掻き、そして目の前にいるインディアノ服装を着ている弓矢を持った顔見知りにしていつかは仕返しがしたいと思っていた人物を――じろりと睨みつけた。
その言葉を聞いてか、目の前にいる女性は鼻でくれないこのことを嘲笑いながら、顎を上げて見下すようにして、彼女は紅に向かってこう言った。
「対戦相手っていうか、私はあんたに対して異常な劣等感しかないね。なにせ頭すんごく悪いくせにいいような待遇されてむかついていたし、ここでぶっ殺せば私の気分も晴れるってもんだ。あの時ぴーぴー泣いていたバカ女を今度は息の根を止めることができるんだから」
紅に向かって下劣な笑みを浮かべるインディアの女――スナッティ。
そんなスナッティを見て、紅は頬の筋肉をこわばらせ、そして目を細めながら彼女は思い出す。
いつぞやか、否――ここに閉じ込められる前に活動していた時のことを、自分のことを嫌々だったが従っているスナッティのことを思い出し、そして互いに笑い合いながら仕事をしている風景を思い出しながら彼女は目の前にいる――スナッティをギンッ! と睨みつけ、そして……。
「そうだね。あたしもあんたのことをこの手で数千万回はぶん殴りたかったよ」
と言いながら、彼女は右拳を己の目の前まで上げ、握っていたその手に更に力を入れる。
ぎりりっと、林檎を握り潰すかもしれないような音を立てながら、彼女はスナッティを細くした目で睨みつけ、そして低い音色で彼女は続けてこう言った。
「顔面崩壊させたいくらい殴りたかったからな」
「………それって、私のことを倒しちゃうっていう意思表示? あはは! 無理に決まってるじゃん! 私はアーチャー。あんたはシノビ! 遠距離を保てばあんたの攻撃なんて当たりっこないっ! 近距離しか取り柄の無いあんたと私だとどっちが有利だと思う? 答えなんて考えずともわかる! 私が有利に決まってるじゃん! 殴る前にあんたのことを倒しちゃうかもねっ!」
けらけらけらけらけらけらけらけら。
スナッティは笑う。
笑いながら腹部を抱えて、そしてひーひーっと荒い深呼吸をしながら眼に溜まっていた液体を指で拭う。笑いを浮かべているスナッティを見て、紅は未だに怒りが込められた目でスナッティのその姿を目に焼き付け、そして小さく舌打ちをしながら拳を下ろす。
怒りの目は消えていない状態で。
そんな光景を見て、セレネはびりびりとくる殺気に似た威圧を感じながら、彼女は思った。
――スナッティ……、最初に会った時はあんなにも溌溂としていた面影が全くない。今となってみれば狂気の沙汰。異常な顔つきだ。
――紅の身に何が起きたのかはわからない。が、これだけはわかる。この戦いに、私が加勢する隙などない。加勢すればきっと……、巻き添えを食うだろう……。
そう思いながら、彼女は足元をちらりと見降ろす。スナッティに気付かれないように、彼女は足元を見降ろす。じっと見降ろしていると……。
ぐにゃり。と――
セレネの影が意志を持ったかのように揺らいだ。
それを見て、セレネは内心――よし! と思いながら頷き、そして腰に差していた細い剣を素早く抜刀し、そしてその剣先を紅の背中に向けながら、彼女は唱える。
「付加強化魔法――『全強化』!」
と言った瞬間、紅の体を纏うようにオレンジの靄が体を包んで、そしてすぐに消える。
それを感じた紅ははっとして自分の手を見て、微かに光って消えていくオレンジの光のしずくを見ながらすぐに背後にいるセレネのことを見て――
「な、なにやっているんだ姫さんっ! あたしのことはいいから、早くDrがいるあの成金の城に」
「いいや――」
「っ!?」
紅は焦りの面持ちでセレネに向かって言った。凛々しい声で彼女は剣先を紅に向けて突きつけながら言う。驚いて目をひん剥かせている紅をしり目に――
「ルールを聞いていたか? バトルロワイヤルのルールは二対一で戦うこと。勝ちを獲得した後でバラバラになれると。最初は私もこの場から離れられない。ゆえに私は、紅――お前のサポートに回る」
「いや……、そんなことをしたらDrのところ」
「安心しろ――勝てばいいんだ。再起不能にすればいいんだ。それに、この場所に紅だけを残してはいけない。そのようなことは――私に気位に反する! ならば今は――戦おう! ともに!」
紅はそんな凛々しく、そしてまっすぐで曇りは僅かにあるも、それでもその意思に曇りがないような目を見て、紅は溜息を吐きながら腰に差し入れていた苦無八本を指の間に挟め、そしてすでに弓に矢を装填している狂喜のスナッティを見据えながら、彼女は言う。
先ほどの殺気が入り混じっていた音色を消し、普段と変わらない力強い音色で、彼女はこう言った。
「ならば――その御意思に従いますよ。お・ひ・め・さ・ま!」
「ああ! できる限り助力しよう!」
セレネも頷き、剣先を紅に向けながら言う。そんな会話を聞いていたスナッティは、矢を構えながら小さく、本当に小さく舌打ち交じりの音色で彼女はこう言った。
「うざ」
と……、スナッティは苛立ちを交えた音色を紅とセレネに向け、矢を引く力をより一層強めながら焦点を紅の胸からセレネの胸元に差し替えながら、彼女は言った。
◆ ◆
紅達の戦闘がすぐに始まりそうな予感を醸し出していたその頃……。
ボルドとダディエルはとある住宅街の路地裏にいた。
しかも彼らの背後はお約束なのかはわからないが、行き止まり。つまりは八方ふさがりの状態に陥っていた。ハンナがいた場所以上に薄暗く、あたりに散乱しているごみが異様な刺激臭を放っている。そんな状態で、そして彼らは目が覚めたと同時にすでに戦闘開始の合図が鳴ってもおかしくないような事態に陥ったにも関わらず、彼らはほくそ笑みを浮かべながら武器を構えていた。ボルドに至っては素手の拳。
そんな状態で、ダディエルはボルドに向かってはっと鼻でこの状況を笑いながらこう言った。
「なぁリーダー。さっきのアナウンス……、聞いていたか?」
「うん……。聞いていたよ」
ボルドはそんなダディエルの言葉に肯定し、そして頷きながら目の前にいる人物を見据える。
薄暗い世界のせいと路地裏の出口から差し込むわずかな光の逆光のせいでシルエットしか見えない状況ではあるが、そのシルエットを見て、ボルドはダディエルに向かってダディエルを見ずに聞く。
「僕達は、一番最初に彼を倒さないといけないんだね」
「神様って本当にいるのか? って思っちまったよ。なにせ……、俺達の相手がまさかのあいつだなんてな」
ダディエルは逆光でよく見えないその人物のことを見て、そして手に無数の針を構えながら言う。その言葉に対して、ボルドは即答のごとく頷く。
そんな二人の会話を聞きながら、逆光で黒く染まっていた人物は、ゆっくりとした足取りで、彼らに向かって歩みを進め、近付いて来る。
ゆらり。カツン……。
ゆらり。カツン……。
覚束ない足取りで彼らに近付く存在は虚ろな目で体を揺らしながら片手に拳銃と、『デノス』で見せていた白い機械質の目――ビットを二機を自分の周りに浮かべながら、その人物は歩み寄ってくる。
どんどん黒いシルエットに色づきが見え始め、彼らの目でもわかる様な人物像が浮かび上がる。否――目が覚めた時からわかっていたことだが、改めてその人物を見た二人は……、心が一つになったかのような心境を浮かべていた。
――ずいぶんな変わりようだ。と……。
ボルドとダディエルは目の前にいる人物――一度は取り逃がしてしまった『BLACK COMPANY』のリーダーにしてDrの息子アクロマのことを見ながら、彼らは思った。
あの時見せた狂気の覇気がすでに亡くなっており、虚ろな目が彼らのことを捉えているだけの生きている人形を思わせるような面持ちで、アクロマは二人に向かって近付いて来る。
袋小路と言う言葉が正しいようなシュチュエーション。
そんな状態で、背中と壁がぴたりと合わさりながらも、ボルドとダディエルは笑みを消さずにアクロマのことを見て、最初にボルドがダディエルに向かって言う。
「でも、なんとなくだけど、感謝したいね……。神様に」
「したくねぇな俺は、俺はそう言った神様に対しての信仰心ないしな。それにコレは俺達の運がよかったって思えばいい」
「そう言われるとそうかもしれないね。あの時は取り逃がした。でも今は――目の前にアクロマがいる」
そう言いながらボルドは拳を掲げ、ダディエルは三本の針を口に含んで、そして両手にある少し長めの針を構えながら、目の前から来るアクロマのことに狙いを定める。
対照的に、アクロマは虚ろな目でボルド達のことを見て、そして拳銃を持っていない手を力なく上に上げて、そしてだらんっと気怠く下ろしたと同時に――二機のビットがボルド達に向かって急速な勢いで襲い掛かろうとする。
ぎょろっとしている機械質の目を光らせながら、そのビットはボルド達を焼き切ろうと狙いを定める。
定めてから二機のビットはダディエルとボルドに向かって急接近する。
突進をするように急接近し、その突進をしながら目を光らせて、その眼から何かを発射しようと攻撃を繰り出そうとする。
が――それを見ながらボルドは言った。ぐわりと自分に迫りくるビットに向かって大きな手を差し向けながら、彼は言った。
「何が一体どうなっているのかはわからなくもない。けど――」と言ったと同時に、ボルドは迫り来るビットフォルムをがしりと掴む。
びきびきと音を鳴らしながらビットを掴んだボルド。
そのまま指に力を入れて……、ビットから出る火花を無視して、ボルドはそのまま――
――メシャリッ! と、アクロマが操るビットをそのまま握り潰したのだ。
「っ!?」
その光景を見ていたアクロマは、虚ろな目に僅かに光を宿しながら驚愕のそれを浮かべる。
ばらばらとボルドの足元に落ちるビットの残骸を見ながら、ダディエルは『ヒュゥ!』と口笛を吹くと同時に口に含んでいた針を一気に発射する。
アクロマに向かってそれを「――ップ!」と発射したと同時に、アクロマはそれを見てすぐに横に避ける。
アクロマの姿を見て、再度彼に向けて武器と拳を構えた二人は気合を入れるかのように見据えながらこう言った。
「今は――アクロマに勝ってから拘束、そして煌びやかなあのお城に向かって走る!」
「見張りは俺に任せな。リーダー」
それを聞いていたアクロマは虚ろな目をすっと細め、厄介だと言わんばかりの表情を浮かべながら手に持っていた拳銃をボルド達に向けながら構えた。




