PLAY62 BATORAVIA BATTLE LOYAL!Ⅰ(開幕)④
長い間、私は震えていた。
苦しくなる呼吸の中、私はヘルナイトさんの腕の中で言葉を発することを放棄して聞くことに専念しながらDrの話を聞いていた。
Drは時折高揚とした笑みを浮かべて、未だに何も見えないそれの状態でDrは無表情で話したり、そして興奮した面持ちで話をしていた。
みんなのことを見て――教師のような雰囲気を出しながら彼は話していた。
でも内容は支離滅裂。
Drは感情のことに対して異常な執着を見せている。
私の怯えやセレネさん達の表情に対しても、感情に対してもDrは強い関心と興味を示していた。興味を示していることは分かった。
でも……、私は思った。
ヘルナイトさんが抱きしめて、そして背中を撫でてくれたおかげもあって私は発作の様に起きていた過呼吸がだんだん治まってきていた。
震えだけはまだ止まらなかったけど、それでも落ち着きを取り戻しつつあった。
落ち着きを取り戻し、そして何とか言葉を発するところまで行けたと思いながらヘルナイトさんの鎧を掌で叩こうとした瞬間、私は聞いてはいけないことを聞いてしまった。
ううん……、これはきっと――みんな愕然として、きっと聞いてはいけなかったと思ってしまう。
それを聞いてしまった私は目を見開いて、鎧を掌で叩く行動を寸前で止めながら私はDrの言葉に耳を傾けてしまった。
傾けて、Drの言葉を聞いて愕然と絶句……、そして、僅かに沸き上がった怒りを私は覚えた。
Drは感情に対して異常な執着を持っている人。
ゆえにDrは他人の感情をまるでモルモットを見る時のような目で凝視し、そして記憶に納める人。そう私は認識していたけど……。
それは甘かった。甘い結論だった。仮説だった。
Drは確かに感情に対して異常な執着を持っている人だ。それはわかる。けれど……、その感情が見たいがために、彼はどんなことをしても見たい。そう言った異常な人格を持っている。
見たいから悪行に簡単に手を染める。もしゃもしゃが見えないからわからないけど、きっと心の底から悪いとは思っていないだろう……。
セレネさんのことも八割そう言った感情で動いていたらしく、セレネさんはがくりと膝から崩れ落ちて茫然としてしまった。
崩れ落ちて、ルビィさんの言葉が耳に入っていないのか、セレネさんが愕然とした顔でDrの背中を見たまま固まってしまっていた。
Drはそのことに対して、自分がした過ちに対して何の悪そびれもしないでいたけど、私からしてみれば……、みんなからしてみれば……、普通の人からしてみれば……、異常な光景。異常な人格だった。
もうすでに殺人鬼としての人格が作り出されていたと言っても過言ではなかった。
この人は自分の感情の赴くがままに動いている。動いて、そして己の感情に従って悪いことを平気でする。これだともうマッドサイエンティストだ。
そんな光景を見て、聞いていた私は、絶句した面持ちでDrのことをヘルナイトさん越しに見ていた。
Drは未だに興奮した面持ちでいるけど、その話を聞いて、Drの願望を聞いた瞬間、更なる疑念を抱いた。
Drは言った。
「儂は――楽しいのぉ! いろんな感情が見れてそれはそれは楽しい! RCの研究員に入った理由もそうじゃ! このゲームには色んな犯罪者もおる! その犯罪者が魅せる感情、その犯罪者と相対した時に一般人が魅せる感情! これを見ずして儂は生涯を終えたくないっ! もっともっと見たいのじゃ! そしてもっともっと研究をしたのじゃ! 感情とその時に起きる心の想いにより、人間はどのように変わるのか! なぜ感情により人は成長するのか、それを知りたい! 儂にはないその感情の荒波を! いま! ここでぇ!」
………その言葉を聞いて、キョウヤさんは首を傾げながら「今?」と言葉を発した。
前半の言葉ではなく、キョウヤさんはその言葉に違和感を抱いたようだった。他のみんなも疑念を抱いていたらしく、さっきまで驚きの顔に包まれていたその顔を強張った疑念を抱くその顔に変えている。私もヘルナイトさんの腕の中で違和感を抱いたその顔でDrのことを見ると……。
Drは今まで微笑んでいたその表情を失ったかのように、無表情になりながらキョウヤさんのことを凝視した。私の時と同じように、じっと、頭のてっぺんからつま先まで凝視して、Drは無言で無表情の面持ちで、キョウヤさんやみんなのことを見ていた。
それを聞いて、そして汗をたらりと流してその光景を見ていたボジョレヲさんは、腕を組みながら虚勢に近い笑みを浮かべてDrに聞く。
「今……、ということは、まさか……、ここで私達に『殺し合いをしろ』とでもいうのですか? そのようなことに私達は」
「いんや――儂が今提供することは……そんな生易しいものではない。お前さんたちにそれを強要してもあまりいいものを得ることはできん。ゆえ儂はお前さんたちにあることを提供しようと思う」
「て、提供……?」
そんなDrの言葉にシェーラちゃんはよろめきながら立ち上がって、そしてDrのことを見る。
シェーラちゃんは私が過呼吸になる前、Drの殺されそうな威圧に気圧されてしまい、アキにぃと一緒に戦意を削がれてしまっていたけど、今現在彼女は汗を流しながらも凛々しさを残しつつDrに立ち向かおうとしている。
その光景を見ていた私は、安堵の息を吐きながらシェーラちゃんのことを見ていたけど、Drはそんなシェーラちゃんや、私達が抱いていた疑念を回答するように、Drは私達のことを見ながら腰に手を当てながら返答した。
この時の私達には到底想像して……、違う。ある程度戦争のようなことを想定していたけど、それを上回る様な計画とDrの泥のように粘り気を帯びて、そして底なし沼のようにそこが知れない狂気を知ったのはここからで、そしてだんだんと思い知られていくことに、この時の私は想像していなかった。
Drは言った。私達に向かって、興奮が冷めなうような面持ちで彼はこう言ってきた。
「お前さん達はこれから、儂のチームバロックワーズとアクロマ、そしてバトラヴィアの精鋭――『盾』を相手に戦ってもらう。儂らはお前さん達を本気で殺しに行くつもりじゃ。お前さん達は儂らの拘束と浄化、儂らはお前さん達を完膚なきまでに倒す……つまりはバトルロワイヤルをするということになる。題して――『バトラヴィア・バトルロワイヤル』! 通称BBじゃ! どうじゃ? この提案、お前さん達は乗るかのぉ?」
正直――本当に何を言っているのだろうと思ってしまった。
それくらい……、私はDrの言葉に対して理解に苦しんでしまった。理解ができなかったのだ。
というか、『理解しろ』と言われても理解ができない。唐突なこの展開に私は混乱を通り越して考えること一瞬放棄してしまった。
Drが言うバトルロワイヤルは、誰もが知っているバトルロワイヤルだろう……。数名で戦い、そして生き残った人が勝利と言うシンプルで私が嫌う戦い方。つまりはみんなで傷つけあうのと同じなのだ。
それを聞いた私は、そっとヘルナイトさんの鎧の胴体に手をつけて、そのまま手で押し出すようにして私はよろけながら立って、Drのことを見ながら私は、震える声でこう言った。
まだ怖いという感情はある。けれど、いつまでも怖いという感情のままで流してはいけない。そう私は自分の心に喝を入れ、そしてDrのことを見て私は言った。
勇気を振り絞って、こう言ったのだ。
「…………っ! あの……、言っていることが滅茶苦茶……だと、思います」
『っ!』
「おぉ!」
私の言葉を聞いて、アキにぃ達ははっと息を呑んで私のことを見る。アキにぃやティズ君。そして紅さんやボルドさんは私のことを見て安堵の表情と息を吐きながら私のことを見ていたけど、Drも私のことを見て再度興味津々な面持ちで私のことを凝視した。金属質の眼鏡のフレームを持ち、『かちゃり』と掛け直しながら……。
「っ!」
その顔を見た私は、あの時目に焼き付いてしまった光景を思い出し、それとともに思い出しそうなノイズ交じりの砂嵐の光景を見て、私は今度は過呼吸ではなく、恐怖のせいで全身の力が抜けてしまいそうになって、前のめりによろめきそうになった。
「あぁっ!? ハンナッッッ!?」
アキにぃの叫ぶ声が聞こえたけど、私はその言葉に対して言葉を発することができず、そのまま前のめりになって転びそうになる。そしてそうなりながら私は思った。
勇気を振り絞ったのに……、結局だめだった……っ。あの目を見た瞬間、不思議と怖いと思ってしまった……。思い出したくないって、思っちゃった……っ!
私はよろめきながら恐怖に負けてしまった自分に苛立ちを覚え、そして不甲斐なさを心に刻んで……何とか体制を整えようとする。ただ見られているだけなのに、怖がってはいけない。そう言い聞かせながら体制を整えようとするけど、体が言うことを聞かずに、そのままよろめいて、前のめりになってしまいそうになった時――
「っ! ハンナ」
ヘルナイトさんは再度来た恐怖のせいで前のめりになってしまった私のことをそっと掴んで、転ばないように私のことを優しく支えてくれた。
――ぽふりと、私のことをしっかりと支えてくれた。大きな腕で、私のことを支えてくれた。
その温もりのおかげもあって、私はほっと安堵の息を吐いて、ヘルナイトさんの腕に捕まりながらその場に座り込んでしまう。
すとん。と言う音が辺りに響いて、私は再度深い息を吐きながら、支えてくれたヘルナイトさんのことを見上げてお礼を述べた。
「あ、ありがとう……、ございます……」
その言葉を聞いて、ヘルナイトさんは私のことをしっかりと抱き寄せながら凛とした音色で――
「礼はいい。だが今は……」と言って、ヘルナイトさんは目の前にいる人物のことを睨みつけるように視界の狙いを定めた。
それを聞いた私ははっとして、再度Drのことを見る。今度はヘルナイトさんの腕を掴みながら、自分の気持ちと相談して、私はDrのことをできる限り見ようとする。
Drはそんな私とヘルナイトさんのことを見ながら、顎に手を添えて「ほほぅ」と言いながら、腰を使って振り子のように体を揺らしながら、彼は疑問が含まれたような音色でこう言った。
「お前さん――もう平気なのか? というかついさっきの言葉は一体どういうことなのかのぉ? 儂の言っていることがなぜ『滅茶苦茶』なのじゃ? 儂はただバトルロワイヤルをしようと提案しておるんじゃ。と言っても、とある闘技場で全員でわちゃわちゃと戦いようなものではないがの。なぁに殺し合いと言ってもゲーム上で起きること、現実では死にはせんのじゃぞ? なぜそんなに躊躇う必要がある?」
その言葉を聞いていた私は、ぎゅっとヘルナイトさんの腕に捕まりながらDrのことを怒りの目で見た。要は睨みつけていたのだけど、アキにぃやシェーラちゃんがやる様なそれにはかなり程遠いので、『睨みつける』と言う言葉は適していないと思って使わなかった。
それはさておき……、Drの言葉を聞いて、誰よりも早くその言葉に対して反論したのは――
「た、躊躇っているんじゃない……っ! 人として僕達は殺しなんてしたくないんだっ! 人に言われてそんなことしたくないって言っているんです……っ!」
ボルドさんだった。
ボルドさんは前に出てダディエルさんやギンロさんの驚きの声を聞かずに感情的な顔でDrのことを睨みつけながら、ボルドさんは手ぶり身振りをしながらこう言った。
「あなたの考えていることは確かにわからない。こんなところで突然話し込んで、そして感情とか言われても、僕達にとってすればわからないことだらけでもある……。そして突然バトルロワイヤルをしろと言われてする人なんていない。というか……、なんでそんなことをしなければいけないんですかっ!? そんなことをしなくても結局は戦いになるのに」
「…………まぁ、リーダーの言っていることは至極当然の言葉だよな」
ボルドさんの必至な言葉に対し、それを聞いていたダディエルさんは呆れた目でため息を吐きながら頷く。
確かに、ボルドさんの話を聞くと私もそう思ってしまう。というかそうなるだろう……。
帝国の人たちは私達の存在――というか浄化の力を持っている私のことを敵視して警戒している。今の仮初を壊されたくないから、帝国は私やヘルナイトさんのことを倒そうするだろう。それはなんとなくわかっていた。
戦うことは必須。そう思っていた。けれど、Drはそれを見越しているのか、それとも感情を優先にしているのか、Drは私達にバトルロワイヤルに参加しろと言いだしたのだ。
はっきり言って――矛盾している。
結局戦うことになるのに、そうでもしないといけない理由があるのだろうか……。そして……。
Drは一体どういった理由でただの戦いではなく、バトルロワイヤル形式で戦いたいのか、その戦いを見たいのか。そう私は内心首を傾げながらDrのことを見た。
ダディエルさんの言葉を聞いていたDrは顎を撫でながら首をゴキゴキと鳴らして、そして「ふぅむ……」と、眉を顰めながら納得がいかない。理解ができないようなくしゃり顔を見せた後、Drはダディエルさんやボルドさんのことを見て――
「確かにお前さんの言い分も分かる。しかしお前さん達はすぐにアルクレ……、おほん。アクロマを捕まえたいんじゃろう? 早く見つけて倒して捕まえたいんじゃろう?」
「う」
と言うと、ボルドさんはうっと唸りながら顔を強張らせて、そして手や顔を挙動不審の様に慌てながら辺りを見回す。
ダディエルさんはその言葉を聞いてアスカさんのことを思い出してしまったのか、俯きながら険しい顔をして、目だけでDrのことを睨みつける。
その顔をみて、Drはにやりといいものを見たかのような笑みを浮かべながら二人のその顔を目に焼き付け、そして次にDrは――紅さんに目を向けた。
「え? へ?」
紅さんは驚いた目をしてDrのことを見ていたけど、Drはそんな紅さんの顔を面白おかしく見つめながら、彼は紅さんに向かってこう言ってきたのだ。
「お前さんのことはスナッティから聞いておるよ。心をズタボロにしたにも関わらず、お前さんはここまで来てスナッティに仕返しがしたいんじゃろう。大抵の輩はそう言った思考と感情に踊らされるからのぉ」
「………………………なんか踊らされているような言い回しだけど、まぁあんたの言った通りだ……。あたしは砂に仕返しがしたい。それは変わっていない」
「ほうほう! 素直で従順! さらに言うと単純じゃ! 儂はそんなお前さんの性格が好きじゃぞっ!」
「…………褒められている気がしねぇ……っ! 馬鹿にされているような……っ!」
紅さんはDrの言葉を聞きながら、頭を掻いて納得がいかない顔をしていたけど、でも紅さんは芝居はうまいけど嘘はかなり苦手の様子で、彼女は小さな声でもにょもにょと言いながら肯定した。
渋々肯定したその声を聞いていたのか、Drはにやにやとしながら耳元に手を添えて紅さんに向かってと、それを見ていた紅さんは苛立った顔をしてDrのことを見ていた……。心なしか、額に怒りマークが……。あわわっ。
その言葉を聞いていたダイヤさんは、未だに拳銃をDrに向け、鋭く目を光らせながらダイヤさんは言った。余裕の文字がないような音色で、彼は言った。
「……どういうことだ? まさかと思うが、誰かが私達の誰かと戦いたいとか申し出ていたから、バトルロワイヤルにして最初に畳わせてあげようという優しさとでも言いたいのか?」
その言葉を聞いていたDrは紅さんからすぐにダイヤさんに向けて視線を移し、そして狂気に歪んでいる笑みでダイヤさんのことを見て、驚いて目を見開いてしまっているダイヤさんのことを――表情を目に焼き付けながら、Drは言った。
びしりと――指をさしながら、Drは興奮した面持ちでこう言ったのだ。
「左様! 儂にチームにはどうもお前さんたちの誰かと繋がりがあるようで互いに因縁がある相手を戦わせる。それこそが儂の優しやというものじゃて!」
「……優しさ? お前のようなマッドサイエンティストにか? 反吐が出る。悍ましい言葉を口にするな。」
「お仲間さんには優しいんですねー……。というか因縁って、まさかアクロマやスナッティ以外でいるんですかー……?」
Drの言葉を聞いていたダイヤさんは、マスク越しで歯を食いしばりながら怒りを露にしてDrのことを睨みつける。そして銃口の引き金に指をさし入れながら構えていると、その背後からリンドーさんが笑みを浮かべながらぬっと出てきて、Drのことを見ながら彼は質問をした。
それを見ていたギンロさんは驚いた目をして手を伸ばしながら「おい馬鹿! 早く戻れっ!」とリンドーさんに向かって制止をかけたけど、リンドーさんはその言葉に耳を傾けずにDrのことを見て、冷や汗をたらりと流していた。
それを見て、聞いていたDrは、にっと矯正の施しを受けている銀歯を私達に見せつける様な笑みを浮かべて、歯茎が見えるような笑みを浮かべながら、Drはリンドーさんに向かってこう言ってきた。
ううん……、リンドーさんだけではない。リンドーさんを含んだ、私達に向かってこう言ってきたんだ。高らかに、興奮した面持ちで――彼は言った。
「そうじゃ! 笑みですべてを隠しておるいけ好かない奴じゃが、正解じゃ! スナッティやアクロマ以外にも、お前さん達と縁を持っている輩がおる! 儂はそんな輩の意思を尊重し、最初にそ奴らと戦わせようとして計画したのが……、このバトルロワイヤル――つまりは……、帝国の領地すべてを闘技場のように見立てて、戦ってもらうっ! それこそがBB! バトラヴィアを闘技場のように見立てて各々が戦うということじゃ!」
「だからバトルロワイヤルってことか~………」
「ほぁああ……っ」
セスタさんはそれを聞いて首を傾げながら覇気のない陽気な音色で冷たい目でDrのことを見ていたけど、アクアカレンちゃんはセスタさんの足元にしがみつきながらぶるぶると体を震わせている。
その光景を見て、そして聞いていたセレネさんは、ルビィさんの支えをそっと手で制止させながら、彼女は立ち上がり、そしてDrの背後を睨みつけながらこう叫ぶ。
「何を言っている……っ! ただ誰かが戦う様を面白おかしく見るための、貴様の娯楽のようなものではないか……っ! 結局は貴様の思うつぼだっ!」
「そう思うのならば、儂のところに辿り着いて止めればいい。それですべてが終わるのじゃよ?儂さえ倒せば、浄化さえできればはいおしまいなのじゃ。それにお前さん方に拒否権などないさぁ選べ。イエス? オア……、イエス?」
セレネさんの言葉を遮るようにDrはくるりとセレネさんの方を首だけで振り向きながら、彼は言う。表情は見えないけれど、きっと冷たい目で見ているのだろう……。セレネさんの怒りに満ち溢れそうなその表情がそれを物語っている……。
Drは言った。
「ここで儂らを逃す。それは痛恨のミス。アクロマと儂らをこの場で逃すくらいなら、儂等の要求に従って儂等をコテンパンに倒せばいい。そのためにここまで来たんじゃろう?」
「っ!」
Drは言う。余裕の笑みを浮かべながら、Drは言った。
その言葉を聞いて、セレネさんは今まで溢れそうになっていた怒りを吹き出して怒りに身を任せそうになったけど、傍にいたルビィさんがセレネさんの肩を叩きながら制止をかける。
それに気付いてルビィさんのことを見上げるセレネさんは驚いた目をしていたけど、ルビィさんはそんなセレネさんのことを一瞥して見降ろしてから首を横に振り、そのあとでルビィさんはDrのことを見て、あの時と同じ冷静な面持ちでルビィさんはDrに向かってこう言った。
「確かに、ここで逃してしまえばすべてがパァ。となると……、日本のコトワザで言うところの『乗りかかった船』だったかしら? ここは好機を逃すことはお勧めできない。セレネ――ここは相手のルールに従いましょう」
「っ! ルビィッ!?」
ルビィさんの言葉に、セレネさんは驚愕のそれを顔に出しながらルビィさんのことを見上げる。
もちろん――私達だって驚いた顔でルビィさんのことを見ていたけど、ルビィさんはそれでも冷静で余裕のある笑みを浮かべながら言う。
セレネさんのことを見降ろして、そして私達のことを見ながらこう言ったのだ。
「仕方がない。と言ったらむごい選択かもしれない。でもここ戦うことを拒否したら、Drの息がかかっている兵士たちの手によってハチの巣にされるかもしれない。私達に選ぶことなんてできないのよ。というか……、拒否権がない。その言葉を言ったということは、この男が出た時点で私達に拒否権なんてものは一切ない。削ぎ落されてしまったと言っても過言ではないわ。でもこのチャンスを逃してしまえば――きっと永遠に叶うことはない。そう私の直感が囁いているの。計画っていうものはどこかで狂ってしまうのが普通のなのよ」
「それに――」
俯いて考え込んでしまうセレネさんのことを見ていたルビィさんはすっと目を細めながらとある方向を見て、彼は小さく、何かを含んでいるような音色である方向を見た。
その眼を見た私やヘルナイトさん、そしてみんながその視線を目で追うように振り向いたり、横目で見たりしてその場所にいた人物達を見る。その方向にいたのは……。
キョウヤさんとレンさんだった。
二人とも、真剣で険しい表情のままDrから目を離さずに見ている。それを見て、近くにいたノゥマさんがレンさんに向かって「レン……」と、心配そうに声をかけ、キョウヤさんの顔を見て驚いてしまったアキにぃも「どうしたんだ……?」と声をかけるけど……。二人は何も言わずに、ただただ……、Drのことを見ているだけだった。
心の奥底から湧き上がる……、いろんな明るくて熱いもしゃもしゃを出しながら――二人はじっと構えていた。逃げずに、立ち向かうように、構えていた。
それを見て、私は思い出す。
キョウヤさんは――仮面の男と話をつけたい。レンさんもきっと同じ気持ちなんだ。あの仮面の人は、レンさんのためにバロックワーズにいると言っていた。つまり……、二人にとってすれば、これはチャンスなんだ。
ううん……。二人だけではない。これは――みんなにとってすればチャンス。
ガーディアンの浄化も、帝国の野望も、Drとアクロマの拘束も……。この時を逃してしまえば絶対に尻尾を掴むことなんてできない。雲を掴むようなものだ。だから今がチャンス。
相手の計画通りになってしまったけど……、敵の思惑に乗せられたとしても、やらなければいけない。やらないといけないんだ。
それを悟ったのか、みんなのもしゃもしゃから少しずつ、本当に少しずつだけど、恐怖のそれが消えていく。更に戦おうとする決意がどんどん出てきて、互いの顔を見合わせて頷いたり、武器を構えながら戦闘態勢を整えている人もいる。
私はそれを見て、ヘルナイトさんの腕からそっと離れる。私だけが恐怖で震えていては始まらない。私も……、戦わないといけないんだ。みんなのために、戦わないと……っ!
ヘルナイトさんに支えられ、そしてゆっくりとした動作で立ち上がってキョウヤさんとレンさんを見る。
そしてルビィさんがいる方向を見ると、ルビィさんはセレネさんのことを目で見降ろしながら――問いかけていた。
「この作戦を持ち込んだのはセレネよ。みんなはもう覚悟決まったらしいし、あなたが最後は決めて」
セレネさんはルビィさんのことを見上げ、そしてみんなのことを見てから、最後に私のことを見る。私はセレネさんの……、少し不安そうな目を見て、『大丈夫』という想いを伝えるために、控えめに微笑みかける。
それを見て、セレネさんはすっと目を閉じて、すぅっと息を吸ってから吐いて、足元を見降ろしながら彼女は、両手をそっと顔の位置まで上げて……。
――ぺちんっ! と自分の頬を強く叩く。叩いてからセレネさんはDrのことを凛々しい面持ちで、少し赤くはらした頬で彼女は力強くこう言った。
これから起こることを、始まることを承諾する言葉を……。
「……わかった。こうなってしまったのなら、戦おう。だが……、私達はお前たちには負けない。帝国の野望を打ち砕き、『八神』を浄化し……。ここで貴様らもろとも……、拘束して現実の世界で法の裁きを受けてもらう」
その言葉を聞いて、誰もが頷いて決意を固めて立ち向かおうとした……。
その矢先だった。
「………………そうじゃ」と、Drは小さな小さな声で呟く。
それを聞いていたティティさんやティズ君は首を傾げながらDrのことを見て、リンドーさんはそんなDrの異変を見て首をこてりと傾げながら「何が『そーだ』何ですかー?」と聞いた瞬間……。
Drは手を広げ、私達が見た中でも最高に興奮しているような面持ちで、彼は――狂ってしまったかのように叫んだ。
「そうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそうじゃそれでいいんじゃああああああああああああああああああああああああああああああひぃいいいいやあああっはははははははははっっっっ!!」
それを聞いた私達は、一瞬身震いをし、Drから出てきた……、初めてできた混ざりに混ざってしまっているもしゃもしゃを感じながら、私は豪風の如く迫ってきたもしゃもしゃを受ける。
みんなはそれを感じていないのか、驚いた目をしているけど……、ボルドさんとレンさん、そしてダイヤさんは私と同じようにこのもしゃもしゃを受けながら耐えているような動作をする。
「………………っ!」
豪風が雪崩のように迫って、私はきつく目を閉じる。その勢いに負けないように、体に力を入れながら……。力を入れて耐えていると……。
――がちんっ!
と、腹部辺りに来た圧迫感に私は違和感と覚えて目を開けて、自分のお腹の部分を見る。見て……、「え?」と、声を零した。
私の腹部を圧迫していたのは……、大きな大きな手錠のわっかのようなもの。それは帝国がある場所まで鎖で繋がれていた。何のために繋がっているのか、この時の私にはわからなかった。けれど、私は察した。
嫌な予感を察してしまったのだ。
私の腹部を締め付けるようにがっちりと固定されているわっかを外そうとしても、びくともしない。まるでクレーンゲームの商品にされたかのような感覚。それを見て、私は未だに高笑いをしているDrの声を聞きながら、ヘルナイトさんの方を見ると……。
「――っ! これは……っ!」
「っ!」
ヘルナイトさんを見た私は、驚きを隠せずにそれを見た。
ヘルナイトさんの腕には手錠のそれがつけられており、辺りを見ると、みんなの腹部にも私と同じようなものがつけられて、みんな驚きながらそのわっかを見下ろしていた。
あ、ボルドさんはなぜか足につけられている……。なぜ……?
そう思って見ていると……、今まで正常だった視界が――一気に揺らいだ。ううん……、引っ張られていく。
「っっっ!?」
鎖で繋がれているわっかを強く引っ張るように、そのまま綱引きのように引っ張られながら、私は顔を歪ませてその衝撃に耐える。
腹部の激痛に伴って、急加速で引っ張られていく。足がつかないほどの勢いだ。
一瞬、何が起こっているのかわからなかった。けれど……。
「きゃぁっ!」
「しぇーらっっ! むぅお!」
「ちょま……っ!」
「うわあぁっ!?」
シェーラちゃんや虎次郎さん、キョウヤさんとアキにぃの声が聞こえ。
「わ」
「ティズッッ! ひひゃぁっっ!」
「おおおおおおおっ!? どうなってるんだこりゃぁ!」
「ガルーぐぇっっ!」
「っ! ぐぅっっ!」
ティズ君、ティティさん、ガルーラさんとカエルが潰れてしまったかのような声を出しているメウラヴダーさん、そして唸るクルーザァーさんの声が聞こえ。
「なんだおわああああっっ!」
「ちょちょちょ! あたしまずいんじゃ……っ!」
「見えないんでだいジョーブゥゥゥゥゥーッ!?」
「リンドーッ! ぬむおおおおおっっっ!」
「あいたたっ! 足がちぎれそうっっっ!」
「なんで足なんだよおおおおおっっっ!?」
ギンロさん、紅さん、リンドーさんとガザドラさん、そして足に繋がっているわっかのせいで痛みを訴えているボルドさん、そしてダディエルさんの声が聞こえ。
「おやおやぁっっ!?」
「わ~っ! これやばいねぇ~!」
「ほわわわああああああっっっ!」
「っ! レンッ!」
「ノゥ……、きゃぁっっ!」
ボジョレオさん、セスタさんに泣きそうな声を上げて叫んでいるアクアカレンちゃん。そして珍しく慌てているノゥマさんに叫び声を上げたレンさんの声が聞こえ。
「っ!」
「っ! セレ……っ! うぅ!」
「わっ!」
「まず……っ!」
『ヌゥウウウウウウウウウウウウウッッッ!』
セレネさんやルビィさんのガーネットさんにダイヤさんの叫びが聞こえて、フォスフォさんの唸る声が響く中……、みんなの声を拾いながら……、私は引っ張られる感覚に踊らされながらもどんどんと黒い半球体の壁の向こうの世界――バトラヴィア帝国に向かって引っ張られていく。
成す術もなく、引っ張られて行く中……。
「――ハンナッ!」
「!」
声が聞こえた。その声を聞いて、私は背後を首だけ動かしてみる。振り向いて見た瞬間、急速に引っ張られているにも関わらず、突然スローモーションのように世界が一気に遅くなったかのような感覚に陥った。
そして、背後から走って、私に向かって手を伸ばしているヘルナイトさんの手を見て、私は今持っている力を使って手を伸ばす。右手を伸ばして、そしてヘルナイトさんの手を掴もうと、精一杯掴もうとする。
ヘルナイトさんもその伸ばしている手を必死に伸ばして、私の手を掴もうとしていた。
互いが互いの手を掴もうと伸ばして、あと少しで掴めそう。掴める。そう思っていたけれど……、スローモーションの世界が元の世界に反転した瞬間……。
――ヂッッ!
と、手は触れた。けれど……、掴むことは叶うことはなかった。そのままヘルナイトさんの手に触れただけで私は鎖に引っ張られながら手を伸ばして、急加速で帝国に入る。否――招かれた。の方がいいかな……?
ヘルナイトさんは私に向けて手を伸ばしたまま私の名前を叫んでいた。
私は成す術もなく、ヘルナイトさんがいるであろうその方向に向けて手を伸ばしたまま、私はみんなと逸れてしまう。
ばらばらになってしまった私達のことを嘲笑うかのように……、Drは私達のことを狂気に満ち溢れた笑みで見ていた。こうなることを想定していたかのように。
◆ ◆
あまりも理不尽に、あまりにも唐突に始まった戦い。
これから一体どうなっていくのか。
それは誰も知らないことであり、これから刻まれることでもあった。
バトラヴィア・バトルロワイヤル――開幕。




