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PLAY06 初陣決戦③

「逃がすなんてぇ……、君も罪なことをするね……。キョウヤくん」


 エンドーは半分笑った狂気の笑みで、キョウヤを見上げる。


 キョウヤはそれを見て、すっと目を細めたかと思うと、拘束していた槍をそっとどかしたのだ。


「?」


 エンドーはゆったりとした動作で起き上がり、狂気に歪んでしまったその目でキョウヤを見る。


(何か策でもあるのかな?)


 そうエンドーは思った。


 己の中にある野生の勘が囁いたのか、それとも別なの何かなのかはわからない。


 しかしエンドー自身わかっていた。


 これは自分の警戒の念であると。


 己が危険を察知した防衛本能であるにも関わらず、エンドーはその念をすぐに消し、己の欲望の念へと転換したのだ。


 己の快感に忠実な男――それがエンドーなのだ。


(まぁいいや! これで心置きなくキョウヤくんの肉の音を堪能できる! 僕だけで独り占めできる! うふふ!)


 エンドーはウキウキランランと言わんばかりの雰囲気と気持ちで内心浮かれながらキョウヤを見ると、キョウヤは流れる動作で槍を元の定位置――背中に戻したのだ。


 エンドーはそれを見て首を傾げつつも、ドキドキと高鳴る心音にも感じながらニマニマと見ている。


(何をするのかな? 何をするのかな?)


 文字の最後に音符が出そうな軽快なリズムを叩いているエンドーの心の声。


 エンドーはキョウヤの行動を逐一見つめながら、何をするのかと思いじっくりと観察していた。


 が――


 キョウヤは地面に転がっていたあるものに目を付けた。


 それを手に持ち、そのままぐっと持ち上げる。


「……ふぅん。これは、鉄のハンマーか? 重そうだな……。ってか、鉱石族(ドワーフ)ってこんなもん片手ぶん回してるのか……? オレには無理だな。重いし……」


 そんなことをぶつぶつと言いながら、キョウヤは手にしていた鉄のハンマーをドンッと置いて、そして木の部分と槌となっている鉄の部分に足を乗せて、そのまま樹と鉄を、別々にするようにへし折る。


 べきっといい音が鳴った。しかしエンドーの快感はこれでは満たされない。どころか……、一気に沈下していく……。


 キョウヤはその木の持ち手のところを持って、ぶんっと振ってから納得したかのように頷いて――


「これでいいかな?」


 キョウヤは木の棒と化したそれを、エンドーに向けた。折れたところは木の繊維のせいか、ぼそぼそになって危ないところがある。しかしそれでいいのだ。


 キョウヤにとって、これが()()()()()()()()なのだ。


「………………なんだよ、それ」


 エンドーは、小さく言った。


 その音色には、高揚も、快感もない。冷たく、低い音色のそれで、エンドーはキョウヤを睨みつけながら言った。


「そんな棒っきれで、僕を倒そうっていうのかい? 冗談が過ぎるぞ……?」

「いんや」


 ぶんっと、それをエンドーに向けたキョウヤ。そして――彼はいたって冷静に、そして、当たり前だといわんばかりの笑みで、こう言ったのだ。


「これでいいんだ。お前には特に――これが、今のオレの最強武器」


 なんちって。


 と言った瞬間だった。


 キョウヤはその木の棒を片手に駆け出す。持っている槍よりも短いそれだ。エンドーはそれを見て、すぐに水晶玉を持ってスキルを使う。


占星魔法(シャーマー・スペル)――『反射(カウンター・)(ミラー)』ッ!」


 パキンッと、エンドーの前に現れた半透明の鏡の壁。


 それはオーソドックスなスキルで、いうなればカウンターができるものだ。


 その壁に触れた瞬間、攻撃しても相手はノーダメージなのだが、代わりに攻撃した本人に攻撃がそっくりそのまま帰ってくるというスキル。


 エンドーがよく使っているスキルで、このスキルが一番使いやすいのだ。


(これで攻撃できまいっ!)


 エンドーは怒りのままに、目の前に来ているキョウヤを睨みつけながら、彼は思った。


(君には失望したよっ! 僕でも君でもいいけど、あの甘美な肉の音を堪能しないという選択をした君には、僕からの誠意を込めて……、ここでバラバラ模型になってもらうよっ! 肉の音を、堪能してから、ね……)


 内心あくどい笑みだっただろう。


 エンドーは一瞬の隙が許されないこの状況で、どうすれば彼を倒せるかを思案していた。


 思案し、思案し、思案し……。


「ん?」


 エンドーは走ってくるキョウヤの、尻尾を見て、何かが変だと思った。


 尻尾のところが、異様に明るいのだ。


 明るい、それは――人工的なものではない。


 それは、火花みたいなもので……。


「――っ!」


 エンドーはすぐに気付いた。が、遅かった。


 キョウヤは己の尻尾を使って、それを『反射鏡(カウンター・ミラー)』に向けて、投擲したのだ。


 尻尾に持たせていたのは……、ぱちぱちと火花を散らしている、小さな火薬のおもちゃ。


 花火だ。花火と言っても、それは――MCOでは違う目的で使うものだった。


 キョウヤはそれを見て、にっと緩やかに口元に弧を描く。


 エンドーは心の中でキョウヤを「くそやろう」と揶揄した。


 次の、投擲したそれから、火花がふっと消えた瞬間……。


 ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! ぱん! と――


 火花を散らして爆ぜた!


「うっくっ!?」


 エンドーは思わず目を隠してしまった。薄暗い世界で、突然光が姿を現したのだ。目が暗闇になれた時に急に来るこれは、流石に目を細めてしまうだろう。


 キョウヤが投げたそれは……。


「そんなことしていいのかよ?」

「っ? っっっ!」


 キョウヤはすでに、とんっと――走ってきたにも関わらず、そのまま後ろに跳躍して、くるんっと一回転してしまったのだ。


 その間でも、戦況はキョウヤの方が一歩上手。否――


 すでに、()()()()()()()()()()()()()()()


 キョウヤがくるんっと空中で一回転をしている間に、狭い小道から走る音。


 その音を聞いたエンドーは、コウガ達が逃げた方向を慌ててみる。


 その狭い小道から――


「――っ!」


 手に不格好な棍棒を持って現れた――身長百十センチのゴブリンが現れたのだ。


 ゴブリンは手にしていた武器で、エンドーに向かって棍棒を振り上げる。


「あ! まって! まてぇ!」


 叫んで止めようとするエンドー。


 しかし……。ゴブリンの人の言葉など理解できない。ゆえに、エンドーが発動した『反射鏡(カウンター・ミラー)』めがけて、棍棒を振り下ろした。


 ガンッと当たり、そのまま攻撃が跳ね返る――キョウヤではなく、ゴブリンに!


 ごんっと強烈な一撃が、ゴブリンを襲う。


 そして、打ち所が悪かったのか、ゴブリンは体中を黒く変色させて、黒い煙を出して塵と化した。


 ぼとんっとドロップアイテムが出たが、エンドーはそんなものを見る余裕などない。


 エンドーの目の前に張っていた『反射鏡(カウンター・ミラー)』は、効力を失ってしまい、消えてしまう。一回しか効力がないそれは、消えてしまえば丸裸と同じ。


「……『引き寄せ花火』が、ここで役に立つとはな」

「っ!」


 そう。先ほどの花火は――アイテム『引き寄せ花火』というもので、それを使うとランダムでモンスターが現れるというものだ。


 キョウヤはそれをMCOの時から、使い道がないと思い、使う機会がないまま、ずっとポケットにしまっていたのだ。


 ――ついさっき思い出して、火を点けておいてよかったぜ。


 そう思いながら、たんっと地面に降り立って、キョウヤは蜥蜴の尻尾をしゅるんっとうねらせ、驚いているエンドーに向けて狙いを定め、そのまま、一直線に――


 ――バシンッッッ!!


 と、走ると同時に、尻尾を地面に斜めに叩きつけ、そのまま滑空で走りこむ。エンドーにとって、それは一瞬。


 その一瞬で、キョウヤはエンドーに懐に入り込んで、そして、ぐっと引きに引いていた木の棒を、まるで槍のように掴んで(槍より短いので、キョウヤにとってすれば掴みにくい)、それを――


 力いっぱい、突く!


 突く!


「あぶ!」


 突く!


「おぶ!」



 突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く――突きまくるキョウヤ。



 それを腕、胴体、足、顔、体全体でビキビキとなる音を聞きながらエンドーは快感など感じず、ただ痛みがあるという感触だけを堪能……、否。体感し、彼はやられにやられまくっていた。


 声すら出ない。


 音速に見えるようなその木の棒の突きは、エンドーのHPを徐々に減らしていく。


(なんだ、この痛みは!)


 痛みに耐えながら、エンドーはキョウヤを見て思った。


 エンドーの目に映るその顔は、まさに……。


(こいつは……、僕が思っていたものじゃないっ! こんなやられ方――僕は望んでいないっ! それに、こいつはスキルなんて使ってないっ! ただの突きだけでこんなダメージがっ! あぁ! イタイイタイ! なんだよこいつっ! 今僕の目の前にいるこいつは……っ!)



 ――人間じゃ、ない……っ! 獣っ! いや、戦乱のケダモノッ!――



 エンドーの言うとおり、キョウヤはスキルは使っていない。


 いうなれば通常攻撃。


 ハンナが言っていたチートと比べれば、華がないそれだが、れっきとした力。


 ただの通常攻撃で、エンドーの一万越え――モルグ10カンストしていたHPはすでに五百にまで減り、キョウヤはエンドーのバングルを見て、すぐに突きの連撃を止め、最後の突きを。


 がぽっと、エンドーの呆然と開けていた無防備の口に突っ込む!


「ふごぉっ!?」


 エンドーは驚いてキョウヤを見たが、すでに世界は回転していた。


 当たり前な話。


 キョウヤはただ、右回転軸にエンドーを地面に叩きつけただけ。


 今度は、頭を最初にして。


 めしゃりとめり込んだエンドーの頭。そして、少しばかり宙に浮いていた体は、重力に従って、べちゃっと、何とも間の抜けた音を立てて、倒れる。



 キョウヤはそっと、エンドーの顔を見た。


 エンドーは瞳孔を上にし、涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔で口に木の棒を突っ込んだまま――気絶していた。


 キョウヤはエンドーのバングルを見る。


 幸いだったのか、計算通りなのか……、HPはゼロになっていない。丁度百で止まっていた。


「……ふぅ」


 安堵の息を零すキョウヤ。そして手にしていた木の棒を引く。


 ずるるっと唾液を含ませた先が出て、エンドーがゲホッと咳込む。


 ――気絶くらいでいいかな? まぁ殺したらコウガに悪いし、あとは……。


 と思いながら辺りに縛れるものがあるか探すキョウヤ。


 丁度サルベージ用の鉄のロープがあった。それを手にして、キョウヤは気絶しているエンドーの体に巻きつけようとした時……、ふと、目にしてしまった汚れた木の棒……。



 それを見たキョウヤは……。


 その木の棒を柱に見立て、そしてそれにエンドーを鉄のロープでくくりつける。


 ……言っておくが、彼はそれが汚いから、処分に困っただけであり、別にサディスティックな思考を持っているわけではない……。


「これで良し――」


 キョウヤは一仕事終えた大工のように、両手についた埃をパンパンッと掃う。


 そして、横穴に視線を写し、足を動かす。


 ちらりと、縛られているエンドーを見て……。すぐに前に戻してから、彼は思った。


 ――後でダンゲルのおっさんに言っておこう。オレ一人じゃ、運べる自信がねェ……。というか、運びたくねえ……っ!



 □     □



 私達は、それを見て、絶句してしまった。


 出た先は、ちょうど壁にできた横穴となっていて、少し高い。


 でも、出た瞬間、そこは別世界。


 熱かった世界の原点のように、ところどころから溶岩が岩の天井から零れだし、どろどろと流れている。


 広さがスポーツドームよりも少し広いその場所は、中央に溶岩が溜まっていて、まるで底なし沼……、この場合は底なし溶岩なのかな? そんなことは、今はどうでもよかった。


 幸い岩の足場と地面があるところで先に来ていたアキにぃ、エレンさん、ダンさん、ララティラさん、ブラドさんが少し服を焦がしながら戦っている。


 戦っているそれは――まさに怪物。


 背中にちりばめられた赤や青、色んな色の鉱物が背中一面に、頭一面に埋め込まれているかのようになっている。四本の足に爬虫類特有の三角状の口。尻尾の先には大きな大きな鉄球みたいなものがついている……。蜥蜴。体中を黒い靄で覆っている。でも、そのでかさが尋常じゃなかった。


 でかい。それでは甘い。でかすぎるのだ。


 私が何百人……、何千人いるかという大きさ。


『八神』と謳われる存在。それは神様だから、ちょっと大きいあれで奉られているのかと思っていた自分が甘く見える……。


 私は察してしまった。


 今目の前で、大きな口をぐぱぁっと開けて――



「グオオオオオォォォォォォォォッッッ!!」



 大きな大きな咆哮を上げたそれこそが……。


 サラマンダーだということに……。

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