PLAY61 重い話し合い――そして決行前夜②
「そのようなことがあったのか………っ!」
「帝国の腐り具合のことはたびたび聞いていたけど、ここまで外道とは思っても見なかったわ。そしてこの技術を盗んであんなことをしようとしていた前アクアロイア王も王だけど………」
セレネさんの言葉に対して頷くように、シェーラちゃんは言った。
それを聞いていたボジョレオさんも顎に手を添えながら――
「なんと外道なことを。魔女狩りと言う行為はすべて、秘器のためということなのですね………」
「奴隷や他種族差別とかは聞いただけで胸糞悪かったけど………、これもこれでひどいと僕は思うよ」
と言うと、ノゥマさんも頷きながら言う。少し怒りを含んだその顔で言う。
私はそれを聞いて、私がいない間に起きたことや聞いたこと、そして起きたことを思い浮かべるだけで、想像するだけで嫌な気持ちになる。
私やヘルナイトさんが『奈落迷宮』に落ちている間――こんなことが起きていただなんて………。
そう思いながら私は胸の辺りに来ていた怒りを手で押さえつけるようにぐっと握りしめ、帝国の非道さにふつふつと怒りを感じながらじっと耐える。
そして駐屯医療所にいなかったことを後悔し、私は怒りと共に来た苦しいもしゃもしゃを手で押さえつけながら俯いてしまう。
「ハンナ――大丈夫か?」
ヘルナイトさんの声が聞こえ、私の肩に手を添えながら心配をしている声で聞いてきた。
それを聞いた私ははっとしてヘルナイトさんのことを見ようと顔を上げて、一瞬顔の表情を忘れてしまったかのように強張ってしまい、すぐに私は控えめに微笑みながら――
「えっと……、大丈夫です。うん……、大丈夫、です」
と、私は無理に笑ってしまったのか、ぎこちない笑みを浮かべて言ってしまった。
それを見てか、ヘルナイトさんは私のことを見降ろしたまま黙って、そしてそのまま肩に乗せていたその手を肩から離して、そしてその手を私に頭の上に置く。
そして私の頭を撫でながら、珍しく何も言わずにヘルナイトさんはそのままの体制でいた。
私はそれを感じながら今まで自分の心に燻っていた何かの痛みや苦みが少しだけ引いたような感覚を覚え、でも未だに帝国がしたことに対しての怒りやシェーラちゃん達が体験した時に、その場所にいなかったことに対しての後悔は残っている状態で私はヘルナイトさんのことを見上げる。
ヘルナイトさんはそのまま何も言わずに、セレネさん達のことをじっと見てる。
私はそんなヘルナイトさんのことを見上げ、何度も何度も体感し、そしてもう慣れているけど何度も体験したいという気持ちにさせてしまうこの優しさを噛みしめ、落ち着いた感情で気持ちを切り替えつつ、さっきの気持ちを忘れないようにしながら、私は話し合いに参加する。
「となると……、秘器はその『疑似魔女の心臓』を原動力にして、そのアンテナ変わりとなっている鬼の角を介して動かしているということか……、血や体液を利用して……。」
「外道の思考回路。滅茶苦茶」
ダイヤさんの言葉に、ガーネットさんはちっと舌打ちをしながら独特な口調で言う。
それを聞いていたルビィさんも「うーん」と唸って、顎に人差し指を添えながら首を傾げて――
「となると、やっぱりただ兵士の秘器の鎧や武器を壊したとしても、結局は負のスパイラルね」
と言って、私達のことを見ながらルビィさんは言った。
それを聞いていたティズ君は、首を傾げて「なんで?」と、ルビィさんを見ながら聞いてきた。そして続けてこう言う。
「秘器を壊したら、なんで負のスパイラルなの?」
「あぁ――それはあたしも思ったぜ。確かに秘器の製造については嫌な気持ちにされちまったけど、要はそれを壊しちまった方がいいんじゃねえか? その方が手っ取り早いし、何より戦力ダウンだ」
ティズ君の言葉に同意の意見を述べたのはガルーラさん。ガルーラさんは「そうそう」と頷きながら、近くにいたティズ君のことを見て首を傾げながら言った。
でもその言葉を聞いていたメウラヴダーさんは、そんな二人のことを、特にガルーラさんのことを見ながら、彼は溜息交じりに頭を抱えながらこう言った。
「あのなガルーラ。そんな簡単なことじゃないんだ。聞いていなかったのか? お前が今言ったことをすれば……、被害を拡大させてしまうんだぞ? 秘器を壊すことは負のスパイラルを加速させてしまうことと同じなんだ」
「あ? どういうことだ?」
メウラヴダーさんの言葉を聞いたガルーラさんは、首を傾げながら頭に疑問符を三つくらい浮かべて顔を歪ませながら疑念の表情を浮かべていた。
メウラヴダーさんはそんなガルーラさんの言葉に呆れながら、再度頭に手を抱えて、今度は深い深い溜息を零す。
その言葉を聞いていたティズ君は、首を傾げながら「どういうこと?」と言う顔をして聞いていると、近くにいたクルーザァーさんは、ティズ君のことを呼んで、そして振り向いたティズ君の顔を見ながら、彼はこう言ってきた。
みんなにもわかるように、彼は説明をした。
正直な話……、私はメウラヴダーさんの言葉を聞いた時から察していたけど、私はクルーザァーさんの言葉に耳を傾けながら、意を決してその言葉を聞く。
クルーザァーさんは言った。
「いいかティズ。秘器の動力源――つまりはガソリンは、なんだ?」
「えっと……、魔女の血と、体液……」
「そうだ。そしてその核となるものはなんだ?」
「うーんっと……、鬼の、角?」
「正解だ。最後に質問だ。『疑似魔女の心臓』は、どんな材料を使って完成させた?」
「…………魔女の、肉体」
「そうだ。それが分かればきっと、なぜ秘器を壊すことが負のスパイラルなのか、もうわかるはずだ。そしてみんなも察しているはずだ」
クルーザァーさんはティズ君を見て聞く。
ティズ君は返答していく内に、だんだんわかってきてきたようだ。
ティズ君は青ざめながら、そっとティティさんのことを見て、そして複雑な顔をしているティティさんの顔を見た瞬間、ティズ君はクルーザァーさんのことを見て、震える口で言おうとしたけど、あまりに残酷なことなのか、ティズ君は震えながら首を横に振って、俯いてしまう。
ティティさんはそんなティズ君の背を撫でながら、心配そうに彼の名前を呼んで宥めていた。
「はぁ」
クルーザァーさんは溜息を吐きながら頭を抱えて、そしてその抱えた状態でクルーザァーさんは、低くて本当に悩んでいるような音色を出しながら、彼は言う。
「本当に――負のスパイラルだな……。たとえ、秘器を壊したとしても、結局根元である『疑似魔女の心臓』を破壊しない限り、解決には至らない。どころか、その秘器を壊したとしても、結局魔女狩りをして魔女の血を摂取されてしまえば無駄に終わる……。これは厄介なことを聞いてしまったな」
そう言いながら、クルーザァーさんは、「はぁ」と大きくて長い溜息を吐いて頭を垂らす。
それはみんなもそうで、私もそれを聞いて、本当に負のスパイラルと思ってしまった。更に言うと、そのことを話したシェーラちゃんも、少し申し訳なさそうな顔をして顔を伏せている。
負のスパイラル。それは言葉通りのそれで、クルーザァーさんの言った通りのことであった。
例えば、近い内に帝国に侵入し、そして運悪く帝国の兵士に見つかり、戦闘になったとする。
戦闘になったらすぐに秘器の核を壊して先に進むだろう。進んで、そしてそのままガーディアンを浄化したとしても、秘器の中心核でもある『疑似魔女の心臓』はその帝国にある。
そしてその動力源となっている魔女の血や体液も、遠出して魔女狩りをすればすぐに手に入るものなのだ。
帝国にとってすれば、遠征に行って狩るだけの話。鬼の角はどうなのかはわからないけど、きっと帝国内にあるはずだ。
だから負のスパイラル――秘器を壊したとしても、また犠牲者が出るかもしれない。
みんなはそれに気付いて俯いてしまったのだ。私もその一人で、そのことを聞いたと同時に想い出される人達……。
マースクルーヴさん、ダンゲルさん、マティリーナさん、クルクくん、ウェーブラさん、ザンバードさん、オヴィリィさん……。
色んな出会ってきた人達のことを思い出してしまう……。その人達が秘器のために犠牲になってしまうと想像してしまうと……、お腹から何かが這い出てきそうな感覚を覚えてしまう……。
私は首をぶんぶん振りながら、口に一瞬広がった酸っぱい味をもう一度呑み込んで、みんなの話に集中する。
その話を聞いて、暗い雰囲気を出していたみんなだったけど、その話を聞いていたセレネさんは気持ちを切り替えるように手を『パァンッッッ!』と叩いて、セレネさんはみんなのことを見ながら大きな声を張り上げながらこう言った。
「確かに、今聞いた情報も十分考慮し、情報共有が終わり次第話し合おう。きっといい方法があるはずだ。ここで負のスパイラルと言って、諦めてはいけない。必ず――その心臓も何もかもを救う手立てがある。きっと、あるはずだ」
セレネさんは言う。まるで……、希望を諦めていないような光が灯った目で言う。
それを聞いていたダイヤさんも頷きながらみんなのことを見て、セレネさんの言葉に続いてこう言った。
「そうですね……。今は行き詰って不安に駆られることよりも、今は情報を提供し、今後のことを話し合う。それが今回の目的です。今はそのことで悶々と考えないでほしいとは言いません。が――この話は一旦保留にしておきましょう。そしてこれからの内容は、帝国に侵入するにあたっての話にしておきましょう。これ以上の関係のない情報を入れることは、きっと合理的ではないはずですから、今は帝国関連の話に集中しましょう。」
ダイヤさんはクルーザァーさんの方を見て続けてくれ。と促す。
それを聞いたクルーザァーさんは、項垂れていた頭を無理矢理上げて、そしてはぁっともう一度溜息を吐きながら小さい声で「………わかった」と言って、クルーザァーさんはそれから私達が戻ってきた駐屯医療所のことと、『奈落迷宮』を通って『デノス』に向かったこと。そして『デノス』で起こったことを説明しようとする。
みんなもそんなセレネさんの言葉を聞いて、今は情報共有を先決にし、終わった後でみんなで打開策を話し合うことを決めたのか、みんな沈んでいた気持ちを一旦リセットし、そして今話したことを頭の片隅に入れながら話に集中していた。
私もそんなセレネさんに背中を押され、私もさっきの言葉を頭の片隅に入れながら、話し合いに集中する。
きっと――打開策がある。そう希望を抱きながら、私は話を聞くことに専念した。
駐屯医療所から『奈落迷宮』の地下の通路を通ってから『デノス』に向かったことを話し、そしてそのあと『デノス』で『BLACK COMPANY』のプレイヤーとの死闘を繰り広げたことを、各々がそれぞれ語った。
私が知らなかったことがどんどん出てきて、その話を聞いていたセレネさんたちやボジョレオさん達も「ほうほう」と頷きながらその話を聞いていた。まるで、一つの武勇伝を聞いているかのような心の高鳴りを、私は感じていた……。
そして――最後にボルドさんが最深部でアクロマとZ、そしてカゲロウとの死闘を口頭でセレネさんたちに向かって話した。
私もいまだに記憶に新しいことであり、あまり思い出したくないことでもあった。
最初こそ、本当に最初こそ優勢だったあの立場が、アクロマの策略で見事に劣勢へと逆転してしまったのだ。
ヘルナイトさんも封魔石の力で動けなくなってしまい、アクロマは裏技の『VG』を作って、私達と出会う前にボルドさんたちの目の前でアスカさんを殺し、そのアスカさんそっくりの人を詠唱で作ってしまったのだ。
そのせいで、ダディエルさんは戦えなくなってしまっていた。みんな戦えず、私だけ残って、アクロマは私に向かって――自分と一緒に来いと言ったのだ。
はぁ……。思い出したくない。もうあんな思いはしたくないと願ってしまうけど……、きっとそれも願っても叶わないということは分かっているので、私はあんな思いはしたくないとは願わない。
そう思っていると、クルーザァーさんは私のことを見て、そしてみんなのことを見ながらこんなことを言いだしたのだ。
「だが――今の俺達がいるのは、もしかしたらここにいる小娘……、ハンナのおかげかもしれない」
と言いながら私は突然話を振られたこと、そしてクルーザァーさんの言葉、更に言うとその言葉を聞いていたみんなが一斉に私の方を向きながら驚いた目をして見ていることに、私はみんな以上に驚いて見てしまっていた。
表情もきっと目を点にして見ていたに違いない。
当たり前だろう。
突然の指名と私のおかげで今の自分達がいると言い出したクルーザァーさんの言葉に、私は混乱しながら思った。
一体なぜそう思うのかとか……、私は何もしていないのに、なぜそう思うのかとか……、ほかにもいろいろあるけど、そのくらい私は混乱して悶々と考え、頭をぐるぐる回転させながら平静を装って思ってしまったのだから。何だろう……、前にもこんなことがあったような気が……。
そう思っていると、その話を聞いていたガーネットさんは、クルーザァーさんの言葉を聞いてむすっと顔を顰めながら彼に向かってこう言ってきた。少し怒っているような、そんな音色で……。
「ありえない。こいつはメディックだろう。戦えないのに『救われた』のは大間違い。きっと記憶違いだ」
と言ったのだ。
でも私はその言葉に否定の言葉は書けなかった。と言うか正解だと思うし、私はあの時アクロマに攻撃することなんてできなかった。ただ怒鳴っただけだから救ってはいない。あの時救ったのは――紅さんだから……。
そう思いながら私は、クルーザァーさんのことを見ながらそのことを言おうとした時……、彼はそんなガーネットさんの言葉を論破するかのように、きっと彼女のことを睨みつけながらこう言った。
「記憶違いではない。確かに事実は紅が助けに来なかったら何もできなかった。しかし――お前があの時怒りを見せてくれたおかげで、アクロマは委縮していた。怖気づいていた。俺達に勝利のきっかけを作ってくれたのは――他でもないハンナだった」
「………………………………え、え、ええっと……」
驚いてみんなのことをきょろきょろと首と顔を急かしなく動かしながら、私は言う。わたわたと慌てながら手を振ってこう言った。
「え、えっと……。そんなことないですよ……。私戦っていないし、それにあの時だって、ナヴィちゃんを傷つけたアクロマがどうしても許せなくて、いろんな人を傷つけたから、何と言いますが、こう……、むしゃむしゃしてて……。にゅぅ……」
「むしゃむしゃって……。それだと何かを喰い漁っているような効果音じゃねえか。この場合なら『むしゃくしゃ』じゃねえか? 後は『むかむか』とか……」
「あ、それです」
自分でもあの時の感情を言葉に表そうとしたけど、なんだかわたわたして慌ててしまったせいで変な言葉になってしまった。
私はそれに気づいて、そしてどんどん込み上がってきた羞恥に顔を赤くさせながら俯いてしまう。
すると――それを聞いていたダディエルさんが呆れた顔で私のことを見ていたのか、溜息交じりに私が言いたかったことを推測して言ってくれた。
その言葉を聞いた私は『はっ』として顔を上げてから、ダディエルさんの方を向きながらこくこくと頷いて言う。
その話を聞いていたガザドラさんは、私のことを見ながら「ほぅほぅ」と、蜥蜴特有の顎を人撫でしながら、彼は小さい声で言う。
「そうか――怒りを露にしたのだな」
その言葉を聞いていたティズ君とティティさんは、ガザドラさんのことを見ながら首を傾げていたけど、ガザドラさんはそれ以上の言葉を口にせずにみんなの話に集中していた。
そんな中、クルーザァーさんは私の言葉を聞いて、私のことを見ながら彼はこう言ってきた。
「だが、好機のきっかけを作ってくれたのはお前だ。たったあれだけの言葉と思っていたが、相手にとってすればとんだ計算違いだったのだろう。それに、何かのために怒りを露にすることは悪いことではない。いいことでもないが悪いことでもない。言いたいことがあればはっきりと言ったほうがいいと俺は思う」
「まぁあの時かなり前からあの場所にいたんだけど……、あたしも出れないなーって思っていたら、あんたが怒ってアクロマをひるませてくれたから出てこれたんだし、結果としてはあんたが行動してくれたから勝てたんだよ」
これ――過大評価じゃなくてまじなやつね。
と言いながらクルーザァーさんの言葉に乗るように、紅さんも私の顔を覗き込むように見ながらにひっと笑みを浮かべて言う。
それを聞いていたボルドさんは「あれ?」と首を傾げながら紅さんを見ていたけど、紅さんはそんなボルドさんのことを無視して明後日の方向を向いていた……。
そして私は、その言葉を聞いて………………………、え、えっと、うーんっと……。なんだろう……。何だろうか……。初めて感じる感情に、私は戸惑いを覚えて、うんうん唸りながら首をひねって、そして腕を組んで考えていた。クルーザァーさんや紅さんが言ってくれたその言葉に対して、私が抱いた感情を。
「なるほど……。となるとあなたの行動で状況が変わった。と言うか、アクロマがあまりにも小物だった。と言うことですね。」
「あらあら。言い方がひどいわよダイヤ。でもアクロマに対してってなると、ハンナちゃんはボルちゃんよりも凛々しいのかもしれないわね。ボルちゃん怪獣のような顔をしているのにガラスハートなんだものっ」
「えぇっ! みんなして最近僕のことディスりすぎていないっ!?」
ダイヤさん、そしてルビィさん、ボルドさんの声が聞こえ、一瞬の笑いがその場所に湧き上がる中、私は悶々とその感情が何なのかと一人で悶々と考えていた。クルーザァーさんは、紅さんは、私がきっかけを作ってくれたから勝てたと言っている。でも、正直な話、そんな実感は全然なかった。
ナヴィちゃんやみんなが傷ついて倒れて、そして心から壊れていくその姿を見ることが、耐えられなかった。アクロマのその行動に怒りを覚えていた。だからそんな彼について行くことを拒んだ。心の底から拒んだ。
それだけ。それだけを思って、ただ言っただけだった。
『行かない』と――それだけなのに……。
そう思っていると、私に頭に手を置いていたヘルナイトさんが、私のことを見降ろしながら「だから言っただろう?」と、凛とした声で言ってきた。それを聞いた私ははっとして、すぐに上を見上げながらヘルナイトさんを視界一杯にいれる。
そんな私の顔を見ていたヘルナイトさんは――私の顔を見降ろしながら、凛とした音色でこう言った。
「君は――多くの人に勇気や強い想い、意思を与えている。たった一つの行動と思うが、それでも大きな前進と言う時がある。あの時――ハンナの怒りのおかげで、ハンナの行動のおかげで、絶望と思われていたあの状況を好機に傾かせてくれた。これは――私でもできないと思う所業だ」
「………………………………前進……」
その言葉を聞いたとき、私はクルーザァーさんや紅さんに言われて抱いた時の感覚を、再度味わい、そして今更ながら理解した。
心の奥底からこみあげてくるこの感情は――歓喜。
どくどくと込み上げて来るこの感情は歓喜だと認識した。喜びよりも大きくて、興奮と言えば違う。そんな感情を抱いてやっと理解した。私は――言葉にできないくらい嬉しくて、そして思った。
私でも、みんなの役に立てたんだと……。安堵と一緒に、私ははにかむように、喜びを顔に出した。
そんな顔を見てか、ヘルナイトさんは頭を撫でながら「ふふっ」と微笑む。甲冑越しで微笑むヘルナイトさん。
そんな声を聞いて、私でもみんなの役に立てることがあった。それを知った私は微笑みながらほっと胸を撫で下ろし、目を閉じて思った。
――私は、役立たずではない……。私は……、みんなのために頑張れているんだ……。
心の底からそう思いながら、私はそっと目を開けて、前を見る。すると――その話を聞いていたレンさんは「へぇー!」と驚いた声を上げて手を叩いた後……。
「ハンナちゃんは凄いガッツを持っているんだね! ボルドさんとは大違いっ!」
「レンちゃんっっっ!? なに、僕に対してのディスりって流行の遊びなのっ!? このままだと僕メンタルゼロになっちゃうよっっ!」
満面の笑みで言いながらレンさんは私に向かって言った。そしてレンさんの最後の言葉を聞いたボルドさんは、包帯顔で涙を流しながらショックを受けた顔をしてしまっているけど、レンさんは見てないのか、私の方を見て微笑みながら――
「私よりも年下なのに、アクロマに対して怒鳴りつけるだなんてできないよ! ボルドさんでも絶対にできないよ! うん!」
「レン。お前のその気持ちは確かに伝わったから。だからもうやめておけ、ボルドおっさんのライフもうゼロだから。もう『デス・カウンター』が出そうな雰囲気だから」
「?」
レンさんは満面の笑みで私に向かって言うけど、その言葉を聞いていたキョウヤさんが、彼女の肩を叩いて制止をかけながら、ボルドさんの方を指さして止まるように促す。
それを聞いたレンさんは首を傾げて、ボルドさんの方を見ると……。
「あれ? どうしたんですか? ボルドさん」
レンさんは首を傾げながら、今まさに燃え尽きてしまったかのように膝を抱えてしまったボルドさんを見る。
みんな乾いた笑みを浮かべながらレンさんを見ていたけど、レンさんはなぜこうなってしまったのか理解できずに、ボルドさんの背中を叩きながら「もしもーし」と言いながら起こそうとしていた。
その光景を見て、私は嬉しすぎて高ぶっていた感情が少しずつ落ち着きを取り戻していき、そしてボルドさんを見ながら内心……、ドンマイです。と思いながら冷や汗を流していた……。
そんな話をしていると、セレネさんがそんな雑談を一旦強制終了をさせるかのように、クルーザァーさんに向かって彼女は顎に手を添えながらこう聞いてきた。
「なるほど……。ハンナの助力もあってアクロマに黒星を入れた。それでカードキーを手に入れて、か……」
その言葉を聞いたクルーザァーさんは「ああ」と頷いて、その後クルーザァーさんは腕を組みながらこう言った。
「勝った後で、アクロマは永久監獄に投棄しようとしたかったが、その時Zがバロックワーズに応援を要請していたことに気が付かず、そのまま相手の思惑通り、アクロマは連れ去らわれてしまった。仮面をつけた男によって」
『仮面………。ソウイエバソンナモノヲツケタ男ガ帝国カラ出テ走ッテイタナ』
クルーザァーさんの言葉を聞いていたフォスフォさんは、思い出したか模様に唸って大きなドラゴンの首をダイヤさんとレンさんに向けて言うと、それを聞いていたダイヤさんは「ああ。確かにいた。」と頷いていたけど、レンさんはその言葉を聞いた瞬間、びくりと顔を強張らせた。
そして――今まで見えなかったのに、突然姿を現したレンさんの……、青いもしゃもしゃ。
それを見た私ははっとして、そしてキョウヤさんもレンさんを見て、真剣な眼差しで彼女のことを見ていた。
レンさんはその言葉を聞いて、そして震えてしまっている口を無理矢理動かしながら、彼女は小さな声で――
「え、えっと……、ごめんなさい」
と頭を垂らして、そして顔を上げて俯きながら、レンさんは申し訳なさそうにして、青くて大雨が降り注いでいるそのもしゃもしゃを出しながら、彼女は言った。
「……見て、ませんでした」
「? そうだったのか。それならすまない。」
ダイヤさんは驚いた目をしてレンさんを見てから、すぐに頭を軽く下げて謝る。謝ってからダイヤさんはクルーザァーさんのことを見て――
「だが、私の目の狂いはない。フォスフォも見たと言っているんだ。確かに仮面をつけた男が帝国から出てくるところをこの目で見たからな。」
と、はっきりとした音色で断言した。
それを聞いて、ボジョレオさんは顎に手を添えながら「なるほど」と、神妙な顔つきで唸って、そして続けてこう言う。
「それは予想外ですね。バロックワーズに伏兵がいただなんて……」
「でも今はその伏兵対策なんてしている暇なんてないじゃん。結果として、カードキーは手に入ったことは聞いたんだし、それはそれで結果オーライだよ。結果がどうであれ、これで入れる。伏兵対策やそう言ったことは後で話し合おうよ」
ボジョレオさんの神妙な顔を見ていたノゥマさんは、ふにゃりと微笑むような笑みを浮かべた後、私達の方を見て話題を変える。
その話題はカードキーを手に入れたことについて。それを聞いたティズ君はこくこくと頷いて――少し興奮しながら彼は言った。
「お、俺がに……っ! ぜ、Zを説得した!」
その言葉を聞いていた誰もが微笑ましくティズ君を見て、ティティさんはそんなティズ君のことを見て感極まるような笑みを浮かべながらティズ君の名前を呼んでいた……。
私も微笑ましくティズ君を見て、心の中でティズ君のことを褒めていると、その話を聞いて、セレネさんは「よし――」と声を上げながら私達に向かって――
「情報は以上だな?」
と、セレネさんはクルーザァーさんのことを見ながら聞くと、クルーザァーさんはすぐに「ああ」と言って頷く。
その言葉を聞いて、セレネさんはうんうん頷きながら、今までメモを取っていたルビィさんの方を見ると、ルビィさんはペンを持った手をすっと上げて、微笑みながらセレネさんに合図を送る。
セレネさんはその光景を見て、再度私達の方を見ながら凛々しい音色で彼女はこう言った。
「それでは――次に私達……、『レティシアーヌ』と『ローディウィル』が得た情報を聞いてほしい」
その言葉を聞いた私達リヴァイヴとカルバノグ、そしてワーベンドはごくりと生唾を呑みながらセレネさんの話に耳を傾けた。
始まったばかりの情報共有――セレネさんの口から一体どんな言葉が飛び込んでくるのか、私はそんな一抹の好奇心と緊張感を抱きながら、私はセレネさんの話を聞く。
そんな重い空気の中、セレネさんはふぅっと息を吐いて、一旦落ち着いてからセレネさんは徐に口をそっと開いた。




