PLAY59 衝撃、後悔、叱咤、決意――そして帝国へ⑤
「お、ど、Dr……ッ!」
アクロマはDrのことを睨みつけ、よろけながら立ち上がった。
それを見ていたDrは「ふむ」と言いながらアクロマを見て彼はこう言う。
「どうした? 儂の質問に答えられんのか? 儂は貴様に対して『無傷で負けた』のかと聞いておるのだが?」
アクロマはそんなDrの言葉を聞き、ぐっと顔を少し顰めながらDrのことを見降ろす。
対照的にそんな彼のことを見上げるDr。
見上げてるのに見降ろされている。見下されているかのような雰囲気を感じたアクロマ。正直、彼とは一緒にいたくなかった。
彼と一緒にいた理由――
それは己の父でもあるDrをこの手で葬るために一緒にいただけ。ただそれだけのために、アクロマは仕方なくDrの傍にいた。
信頼も尊敬も、家族の絆なんてものは一切ない。
薄っぺらな半紙のような関係。少し力を入れただけでびりびりと引き裂かれてしまいそうな関係。そんな関係だからこそ、己の存在を知らないで生きてきた天才だからこそ……。
アクロマは躊躇いもなくDrを殺せる。そう思ったからこそ、Zと一緒に『VG』を制作したのだ。
そんな殺したい相手に、隙なんて見せたくない。
そして不甲斐ないところを見せたくない。
そんな気持ちを抱いたアクロマはDrの言う通りHP満タンの状態だったが、彼はそのことを伏せつつ、アクロマはDrのことを見降ろしながらこう言う。
そっと視線を、アクロマから見て右斜め下に向けながら彼は言った。
嘘を――言った。
「………いや、少し怪我をした。不意を突かれた。と言った方がいいな……。負けたことに関しては詫びを入れ」
「いいや――貴様は無傷で負けた。そうじゃろう?」
「っ?」
アクロマの言葉を聞いたDrは真っ直ぐ彼のことを見上げながら、機械質の眼鏡から覗く血走った目で彼ははっきりと淡々とした音色で言った。
それを聞いたアクロマは驚いた目をしてDrのことを見降ろす。その顔を見たDrは、口元を隠している髭をゆるゆると撫で、その毛先を整えながら――彼は言う。
計算し終えた機械のように、感情がないようなその音色で彼は言った。
「人間はな、嘘と言うその場しのぎの行為をする時普段は見られないが嘘をつく時だけ出してしまう小さな小さな癖があるじゃ。少し大きな動作は……、そうじゃの……。髪をかき上げる癖。耳朶を触る癖。大きい行動で言えば後ろを振り向いてできるだけ表情を悟らせないように大きな声を上げて言うやつもおる。じゃが――そんなものを注意深く見ずとも、目元を見るだけで嘘と本当が見分けられるんじゃ。本当なら真っ直ぐ見つめるが、嘘をつくときは瞳孔がかすかに動くか、大きく動く者もおる。お前さんは嘘をつく時――少しばかり目を伏せて右斜め下を見る癖があるじゃろう。つまりその言葉は嘘。ということになる。お前さんもとうとう黒星を塗られたか。いいや……、やっと黒星を塗ったと言えばよいのかのぉ……」
Drのすべてにおいて観察するような生気などない目で見られ、あろうことかウソまでも見抜かれてしまったアクロマは、内心Drのことを化け物かと思いながら平然とした顔でDrのことを見降ろす。
そしてDrの言葉に対して、彼はこう反論した。
「そんな言いがかりはよしてくれよ。第一そんな動作一つで嘘と見抜かれては困る。もしかしたら本当と言う可能性もあるだろう? 第一なぜ俺が嘘をつく必要が」
「唐突に聞こう。お前さんは確か……、『ビット』と言う機械を使って攻撃をするんじゃろう?」
「!」
Drはまたもやアクロマの言葉を遮りながら、彼は聞いた。言葉通り――本当に唐突である。
そんなDrが唐突に聞いてきたことは……、アクロマの武器で、オーダーウェポンでもあるビットのことであった。
確かにあのビットはアクロマの武器で、遠近ともども有効に使え、飛行しながら攻撃し、素早い動きをするのでそう簡単に壊せない。
それを得りにしていた。
しかし、その得りもヘルナイトの前では無意味だった。
ビット五機すべてを閉じ込めてしまうような巨大な粘液によって、ビットの動き、回避、攻撃が完全に殺されてしまい、あろうことか完全破壊されてしまったのだ。
ヘルナイトの手によって――破壊された。
故に今現在アクロマは無防備の状態でいる。
更に言うと――Drを殺すために使おうとしていた『VG』も、ティズの手によって手放してしまい、今現在ない状態だ。
――最悪だ。そんなことを思いながらアクロマはDrの言葉を聞いて「ああ」と頷きながら、彼は肩を竦めてこう言った。
「俺のオーダーウェポンは飛行しながら攻撃する特性を持ち、回避能力も伊達ではない。更に言うとそのビットも全部で五機。ビットの核となるオーダーウェポンはその五機のどれかに入って、そいつを倒さない限りは停止しないようになっている。どうだ? すごいだろう? 俺にしか考えられない。俺しか作ったことがないオーダーウェポンだ。剣や杖に装着するようなワンパターンではない。俺にしか想像することができない、世界でたった一つの」
「あぁわかったわかった。そんなことを聞きたいがために聞いたのではない」
アクロマの自慢話めいたこと (アクロマ本人はそう音は思っていない)を聞いていたDrは、露骨に嫌そうな顔をしてアクロマのことを見ながら首を横に振るう。
それを見て、聞いたアクロマは、Drのその聞きたくないオーラを察し、彼は心の中で舌打ちをしながらぎこちない笑みを浮かべて――「そ……、そうか」と、一旦その話を止める。
そんなアクロマの行動を見て、Drはふぅっと息を吐いてから、彼はアクロマのことを見上げながらこう言った。
否――告げた。の方が正しかった。
「はっきり言おう。お前さんは弱い。弱すぎたからこそ負けたんじゃ」
「どういうことだ……?」
びきりと、Drの言葉を聞いたアクロマは、今まで押し殺していた怒りと殺意を溜めた箱の蓋を少し開け、それを体内から体外へと排出する様に表情と雰囲気で出しながら、彼は聞いた。
それを聞いていたDrは、そんない怒りと殺意に当てられたにも関わらず、彼は平然とした顔で「まぁ落ち着け。本題はここからじゃ」と、落ち着いた面持ちでアクロマのことを諫めながら、彼は言った。
老人らしい長い話を。老人らしくない面持ちで、彼はアクロマに向かって告げた。
「いいか? お前さんのそのビットは、確かに性能もよく、飛行能力を駆使してすばしっこく飛び、そして攻防にも適しておる。だがお前さん……、それはお前さんのことを守るためだけに作られたただの鉄の玉じゃろう。お前さんはそれを操縦するだけで、動かずともお前さんは敵を倒せる。自らの手を汚さずに倒せる。いうなれば倒しているのはビットの性能。お前さんの力ではない。研究者としては怠慢な思考で動き、そして汚れ役を仲間と言い張っている使い捨てに任せて、お前さんは安全な場所でその光景を傍観する。己の手を汚すことができない愚か者と言うことじゃ」
「傍観……。愚か……もの……。覚悟なんてない……、傍観者」
Drの言葉を聞いたアクロマは、奇しくもヘルナイトと少しばかり同じことを言っているそれを聞いて、虫唾が走る様なむず痒さ、そして苛立ちを覚えながら、彼はDrのことを見降ろしながら睨みつける。
そんな彼の顔を見たDrは――
「――図星じゃろう」
と……、にっと彼は歯が見えるような笑みを浮かべた。すべての歯につけられた銀歯と、矯正の器具がつけられているその歯を見て、アクロマはうっと唸り声を上げながらDrの顔を見降ろす。
Drはそんなアクロマの表情の変化を見過ごすことなく、彼はアクロマの顔を凝視して、ぐにっと歪んだ笑みを浮かべながら、彼は言った。
「お前さんは儂からしてみればただの弱虫。ただの気の弱いマセガキじゃ。偉大な研究者のように、己のことを犠牲にしても成し遂げる覚悟もない、たんだ努力して勝ち進もうとし、そしてその努力で天才になろうとする。なぜそこまで天才に執着するのかはわからんが、お前さんのそんな中途半端な覚悟では、どんな天才にも追いつけん。結局――凡人は凡人なんじゃ。お前さんの考えていることも、結局は『怪我したくない』という理由で作ったのじゃろう? ひゃは、ひゃは、ひゃは、ひゃは! そんなことだろうとは思っておった」
「…………さっきから聞いてりゃ……、べらべらと人の悪口を……」
「?」
Drはげらげらと笑いながらアクロマのことを見て、更に指をさしながら小馬鹿にするように言う。それを聞いていたスナッティ達も、くすくすと笑みを殺しながら笑いを上げている。
そんな光景を見ていたアクロマは、その光景を見、そして天才である父にさんざんな言われようをされ、彼の心は、ズタボロになりつつあった。
ヘルナイトに言われたことと、『BLACK COMPANY』がたった一日で知名度などないような徒党のチームに惨敗したことと、そして今目の前にいる父であるDrを殺すことができず、あろうことか己の真意を見抜かれ、数名の前で恥をかくという仕打ちを受けてしまったことで、今まで張りつめて保っていた心が、どんどんすり減って崩れ落ちる。
すでに彼の心は刃こぼれがひどすぎるギザギザのハートである。
そんな状態にされ、アクロマはぶちぶちと引きちぎれるような音を頭の中で聞いて、そしてどんどん湧き上がる熱に踊らされ、その激情に身を任せながら、彼は言葉を放ったのだ。
それを聞いたDrは、首を傾げながらアクロマを見上げ――「何か言ったか?」と聞くと、アクロマはDrの胸ぐらの服を力一杯掴んで、「おぉ」と驚くDrを自分の身に引き寄せながら、彼は鬼でも逃げてしまっような怒りの形相で、彼はDrに顔を近づけてからこう言った。
怒鳴った――の方が正しい。彼はDrに向かって怒鳴った。
「何が気の小さいマセガキだ? なにが覚悟もない凡人だ? 何が弱虫だぁっ!? 下手に出ればいい気になりやがって、このおいぼれがぁっっ!」
「なんじゃ? まさか今の話を聞いて怒ったのか? おかしいのぉ。儂はお前さんの行動や感情の揺れを見て、ただ結果を言っただけなのにのぉ……? なぜそこまで怒るのか、理解が出来ん」
「お前に何がわかるんだ……っ!? 今まで積み重ねてきた苦労や努力が無駄に終わり、あろうことか己の人格までも侮辱されるこの気持ち――天才で何の苦労もしていないお前にはわからないだろうなっ?」
「わからんのぉ。儂は今までそつなくこなしてきたからのぉ……。そう言った……。苦労? や、あとは努力と言う言葉は知っておるが、そう言った行動をしたことも、経験もしたことがない。ゆえにお前さんの言う通り、儂はわからないという結果になってしまう。珍しくお前さんの見解が当たったのぉ。ひゃは。ひゃは。ひゃは」
「そんなことどうでもいいんだよっ! お前に俺の気持ちがわかるのか……っ? 途中まで計画通りに進んだ策略が、とあることをきっかけにおじゃんになって、挙句の果てには俺が築き上げてきたパーティーが一日で……、いいや、半日で崩壊してしまう気持ちがっ! お前にわかるのかっ!? えぇっっ!?」
怒鳴りながらアクロマは思い出す。
目の前にいるDrを屠るために、彼は己の持てる力をを振り絞り、緻密に計画し、実行に移すために長い間計画を積み重ねてきた。もちろん――現実と仮想空間別々の計画を立てながら……。立てたのだが……、一時は成功したと思ったが、それも全て泡となって消えたかのように、無駄に終わってしまった。
水の泡となってしまったのだ。
アスカのチーム――カルバノグと手を組んだワーベンドと、ENPC『地獄の武神』でもあるヘルナイトを引き連れた集団――リヴァイヴの登場により、彼の計画は大きく傾き、そして崩壊の一途を辿った。
傾いた機転を作ったのは、演技をしていた紅だったのだが、それがきっかけとなり、アクロマの計画がどんどん崩れ落ちてしまい、そして――半日と言う短時間で『BLACK COMPANY』を崩壊に導いたのだ。
サラマンダーの浄化に一日かかったそれよりも早い崩壊。
そんな屈辱を背負わされ、アクロマはプライドでさえもズタボロにされてしまった。挙句の果てには一人だけここに連れてこられ、父であるDrの馬鹿にするような言葉を聞く。
罰ゲーム以上の屈辱だ。
そうアクロマは思った。そしてアクロマはぐっとDrの服を掴み上げながら、彼は怒鳴りながら聞く。
「お前――なんで俺をここに連れてきたんだっ!? ただ馬鹿にするためだけに俺を連れてきたのかっ? それとも情けとして『俺のチームに入れ』とか言うんじゃないだろうな?」
「そんなことせんよ。儂は馬鹿にしておらんし、お前さんを儂のバロックワーズに入れるわけないじゃろうが。儂はお前さんのことを分析して出た結果を口頭で話しただけじゃし、お前さんが入っても人数的にもう定員オーバーじゃ。そんなことも分からんのか? やはりお前さんは天才の皮をかぶった凡人……、いいや。愚民と言ったほうがいいのかもしれんのぉ」
「うるせぇくそじじぃっっ! さっさと吐きやがれっっ! なんで俺をここに」
と言った瞬間だった。
本当に、刹那。と言ったほうが正しいような、一瞬の出来事だった。
「え?」
アクロマは呆けた声を出す。
出して、今自分が置かれた状況に驚きを隠せず、彼はいつの間にか何者かの手によって室内の床に突っ伏されてしまっているこの状況に混乱を隠せなかった。
しかも背中にかかる重み。
それを感じたアクロマは、「うぐっ」と唸りながら、背筋に来る重みの正体が何なのかと思いながら彼は震える首と瞳孔で、己の背中にいる何かを確認する。
ぐぐぐっと、震えながら振り向くと、そこにいたのは――アクロマの背中にどっしりと座り込んで構えていたのは――鎧を着た男だった。
男は何も言わず、ただじっと腰を下ろして手に持っていた長刀を手に持ちながらアクロマを拘束する。
座るだけの拘束ではあるが、それでも十分拘束できている。
人間の背中は急所の一つ。その箇所を中心に強く押し付けられると、人間は身動きが取れなくなってしまう。それを使って、鎧姿の男はアクロマの背中に座って簡易ではあるが絶対に逃れられない拘束をしたということだ。
アクロマはそんな男を見上げながら、ジタバタと手足を動かしながら「うぎぃ! ぐぅ! くそっ!」と吠えながら、彼は己の上でふんずりかえっている男に向かってこう怒鳴った。
「おいっ! 離れろ! 俺はここにいるリーダーの知り合いで、お前達の部下だっ! 一体何の真似だっ! 早く」
「おいおい。儂はお前さんのことを知り合いと思ったことなど、一度もないぞ?」
アクロマの言葉を三度目の遮りによってそれ以上の言葉を紡ぐことを制してしまったDr。Drは暴れていたその動きを、ビタリと止めてしまったアクロマに向かって、己のことを驚いた目で見上げている悪ロアに向かって歩みを進めながら――彼は言う。
なぜ――アクロマだけをここに連れてきたのか。それを説明するために、彼はこう言った。
「お前さんだけをここに連れてきたのは――何のこともない。ただ人数が足りなかっただけでな。いいや、こっちはすでに精鋭五人揃っておるのじゃが……、これから始まることに人数が足りなくなったのじゃ。それだけのためにお前さんだけを――有能と言うことだけが取り柄のお前さんを誘拐……、おっと言い方がひどかったの。お前さんだけを連れて来いと、儂はハクシュダに命令したのじゃ」
Drは背後にいる仮面の男――ハクシュダのことを見るために振り返った。
ハクシュダはそんなDrのことを見ても、ふぃっとそっぽを向くだけで何の言葉をかけることなどなかった。感謝も、嫌味もない。無言のそれをDrに向けた。
Drはそれを見て、すぐにアクロマのことを見降ろした後、続けてこう言った。
「命令し、そしてお前さんが戻ってきたところで、儂らとバトラヴィア帝国はあることを実行に移そうと思う」
「……………な、なんだ? 何をする気なんだ?」
アクロマは混乱して、困惑する表情で彼はDrに聞いた。
簡単な話……、そのあることについてまったく彼は聞かされていない。何をするのかすらわからないのだ。当たり前な話、聞いていないのだからわかるわけがない。彼が『デノス』に向かったのは数週間前。その間アクロマはずっとDrと一緒にいた。
いたくなかったが一緒にいた。一緒にいたからこそ、アクロマはこう思った。
――その時までは何もなかったはず。
――ならなぜ……、Drは、親父は俺をわざわざ連れ戻したのだろうか……。
――俺がいなくてもこの天才ならできるはずだ。なのになぜ……、この男は俺を……?
疑念が更なる疑念を呼び、そしてアクロマを混乱の渦に呑み込んでいく。呑み込まれていくその姿を見ていたDrは、ふぅっと息を吐きながら彼は――
「まだ理解できんのか? まぁ凡人ならばその顔は至極当然と言えば当然やもしれんな。まぁお前さんを連れてきた理由はたった一つ――お前さんも儂等の戦いに参加しろと言うことじゃ」と言いながら、彼は突っ伏しているアクロマに向かって、彼は言った。
これから起きることを、これからすることを彼は何も知らないアクロマに向かって――告げる。
国の存亡を、威厳を懸けた大きな戦いの宣告を、彼はしたのだ。
「この国に来るであろう浄化の力を持った輩の完全排除のために、儂らバロックワーズは、バトラヴィアの精鋭――『盾』と共に戦争を――いいや、ゲームと称して奴らを抹消する。これから儂らは、バトルロワイヤルをするということになる。題して――『バトラヴィア・バトルロワイヤル』! 通称BB! どうじゃ。この方がゲーム性高いじゃろう?」
「――っっ!?」
アクロマは混乱した。一部分かったが、一部分からないところがあった。
完全排除。末梢。これは自分に対して多大なる屈辱を与えたカルバノグ、ワーベンド、リヴァイヴと、帝国の近くにいる二つのパーティー徒党の完全末梢のことをさすのだろう。
だが……、理解できなかったのはこの後――彼はその末梢を、ゲームのようにしようと言い出し、帝国の幹部たちを巻き込んで、彼はバトルロワイヤルをしようと企てていた。
その名も『バトラヴィア・バトルロワイヤル』。通称BB。ありきたりなのは仕方がない。
もう意味が分からない。そのためだけに、自分はこ子に連れ戻されたということなのか……? そうとなればあまりに身勝手な理由だ。
あまりに衝撃的で身勝手なことを聞かされたアクロマは、絶句し、言葉を失いながらDrのことを見上げ、瞳孔が開いたその眼でDrのことを捉えながら、彼は言った。
慌てながらこう言った。
「ば、バトルロワイヤル……ッ!? 何言ってやがるんだ……っ!? 今まで兵士にやらせてばっかだったのに……っ! この帝国の総力をもってあいつらを倒すっていうのかっ!?」
「ああそうじゃ。彼奴等はすでに『デノス』まで来ていることは、ハクシュダの報告ですでに聞いておる。何より今までの見解が甘すぎたんじゃ。彼奴等の中にはENPC最強の『最強の鬼神』ヘルナイトがおる。そして聞くに監視者の虎次郎までおるからの。彼奴は居合の達人ともいわれておる。ゆえに今まで気を抜いていたのが大間違いだったのじゃよ。儂の忠告を聞かずにいた帝国の者たちもとことん頭が悪い。今回の『デノス』の一件で、どうやら目を覚ましたらしい。ここにあの一行が入ってきた瞬間、ゲームを開始する。もう王の了解を得ておる」
Drは背後にいる五人と、アクロマの背中に座っている鎧服の男を見て、彼は言った。
「お前さんたちもしっかり働け。今回の計画でもし、負けたり失敗などすれば――儂がお前たちの命を奪うことになるからな。そこのところはしっかり胸に刻んげおけ」と言い、Drはすっと目だけでその人物達を見て、そして彼らの名を呼ぶ。
「スナッティ」
「いつでもいいけど、私はカルバノグかワーベンドの誰かと戦わせてね。まだ苛立ちが収まっていないから」
スナッティは肩をすくめながら、引きつって怒りを無理に押し殺している笑みで彼女は言った。
Drの視線が彼女に隣にいるメガネをかけた傷だらけの男に向けられる。
「レパーダ」
「仰せのままに」
メガネをかけた傷だらけの男――レパーダはすっと丁寧に会釈をしながら落ち着いた面持ちと雰囲気で彼の意思に従う意思を見せる。
Drはそれを見て、聞いて「うむ」と頷きながら――
「クレオ、パトラ」
「「委細承知いたしました」」
同じ服と髪型をしている男女――青い仮面をつけた男クレオと、赤い仮面をつけた女パトラは、Drの言葉を聞いたと同時に、二人はその場で足を折り、膝をつきながら固い忠誠心を見せつけるかのように、頭を下げる。
Drは「うむうむ」と言いながら、彼らの忠誠心に嘘などないことを確認してから、次に彼はその二人の隣にいる……。ハクシュダを見た。
「ハクシュダも頼むぞ。お前さんは儂らのチームの最大火力じゃ。たくさん勝ってくれ」
その言葉に、ハクシュダは頷くことはなかった。が、今回の戦いを棄権するという意思もなかった。否――できなかったのかもしれない……。ハクシュダは無言の肯定をしたくなかったが、する以外の選択肢がない故、それをすることしかできなかった。
Drはその無言を肯定と見解して、そしてアクロマの背に乗っている鎧男を見て――彼は言った。
「お前さんは儂の護衛に回れ。颯」
「承る」
魔人族の彼――颯は頷きながらすっと、細い目でアクロマのことを見降ろしながら――彼は聞いた。
「ところで……、この男も参加させるのであれば……、あれをするのでしょう?」
「…………………っ!?」
あれ。
それを聞いたアクロマは内心理解ができない思考で、何とかそれが何なのかと理解しようと奮起するが、焦りのせいで冷静な理解ができない。
アクロマは思った。
――あれ? あれってなんだ? 俺がいた時はそんなこと言っていなかった……っ!
――一体あれとはなんなんだっ!?
そう思ったアクロマだったが、颯の言葉を聞いたDrは、はたりと思い出したかのような顔をして「おぉ。そうじゃったそうじゃった」と言いながら、Drはアクロマに近づいてくる。すたすたと歩みながら、驚いてDrのことを見上げているアクロマに向かって、Drは言った。
「お前さんがこれを聞いたところで、『はいわかりました』だなんて言わんじゃろう。『意味が分からない』。『俺でも枯れなかったんだ。勝てるわけがない』と言って逃げ出す。そう儂は思っておる。じゃが――帝国は今の帝国の繁栄を、支配を壊したくないが故、儂らと協力して浄化の奴を己の手で抹消すると決めた。儂はそれに協力して、そしていろんなデータを手に入れたいと思っておるのでな。この戦い……、逃げるわけにはいかん。そしてお前さんは今処刑されてしまったガルディガルと言う男の代わりとは言え、重大な戦力。こんなところで逃がすわけにはいかない」
Drはアクロマの右手首に手を添えた。アクロマの右腕につけられているバングルに手を添えたのだ。両手を添えて、彼はアクロマのバングルに触れた。
「っ!? おい、何をする気だ……っ!? まさか、俺のバングルを壊す気でいるのか……? 壊さないことを条件に、俺をこき使おうと……」
「いいや。そんなことではだめじゃ。お前さんのような男なら、ちょっとの命の危機でも、隙を突けばすたこらと逃げおおせる。じゃから――儂はその退路も作らせない」
Drは喋る。
アクロマのバングルをさわり、さわりと何かを探すように触れながら、彼は言った。その触れ方や行動を見ていたアクロマは、とうとう彼が何をしようとしているのかが理解できず、Drの言葉を聞いた瞬間「はぁ……?」と、素っ頓狂な声を上げた瞬間、Drはとあるところに指を入れて、そのまま棒菓子を折るように、指に力を入れながら――アクロマのバングルを……。
パキンッ。と……、腕輪の様に外した。
「――へ?」
絶句からの呆けた声。暴れることを忘れてしまいそうな衝撃の光景。
その呆けた声を出したのはアクロマで、アクロマは茫然として、見開かれた目で、今まで右手首にあった自分のバングルが――浮き彫りになった命が……、Drの手に収まっているその光景を目に焼き付けながら、青ざめたその表情と目の色で、アクロマはDrを見た。
Drはそんなアクロマの顔を見て、そして彼のバングルを己の手元に納めながら、彼は言った。
「研究者は常に探求し、追及し、解読せし者。儂はこの世界に来て一日目。儂は己の手元にあったバングルを調べた。ここに来てからこのようなものがついておれば、調べるのが定石じゃろう。体の隅々を見るように、儂は己のバングルを隅々まで調べた。結果――このバングルは取り外しが可能ということが分かった! これは儂しか知らない事実にして切り札っ! この方法を使えばどんな奴も儂の言いなりと言うことじゃ。おぉ。こやつらは例外じゃ。こやつらは儂に忠誠を誓っておる。お前さんのように、言葉巧みに動かしている駒ではない。ここにいる奴らは、全員一人の人間として見ておる」
アクロマは答えない。否――答えることすらできないくらい、彼は絶望してしまったのだ。
バングル――己の浮彫の命が、あっけなく憎き父の手中に収まってしまい、自分でも疑念を射咲かなかったことをして、その裏技を知り、あろうことか己の手中にいれることで相手の退路を断つ。そして無理矢理の忠誠心を植え付けた。
天才と凡人。結局――この差を埋めることは不可能と、彼は認めざるおえなかった。アクロマは認めるしかなかった。選択肢がなかった。
不廃天才に……勝てるわけない。
その事実を、認める選択しかなかった。
アクロマは茫然としながら、すでに彼の背中から颯が降りているにもかかわらず、彼はそのまま突っ伏した状態で、アクロマは茫然とDrの足をじっと見つめてるだけだった。そんなアクロマを見ていたDrは、すっと目を細めながら、ゆったりとした足取りで彼に近づいて――近付きながらある場所に向かって歩みを進めながら――彼は言った。
アクロマに向かって――彼は告げた。
「お前さんの武器は新しく調達しておる。拳銃が得意じゃったのだろう? 儂を殺すためにわざわざ凡人が果てしない努力をしたものじゃ。父である儂を殺して、何の得があるのか」
茫然から愕然にその表情を変え、アクロマはすぐに起き上がる。そして尻餅をついた状態で彼は、己の横を通り過ぎ、そのまま歩みを進めているDrと、Drに忠誠を誓っている集団を見た。
そんな状態を見たDrは、歩みを止める。
Drは歩みを止めたと同時に、Drは背後にいるアクロマの方を振り向いてから、彼はこう言った。
ぐにっと、矯正されている銀歯のその歯を見せびらかすように、彼は黒く彩られた笑みを浮かべながらこう言った。
「まさか――本当に知らないとでも思っておったのか? そんなことないじゃろう。儂はお前のこと一目見た瞬間、お前が儂の息子だということは気付いておった。じゃがお前のような凡人じゃ。お前が何かのきっかけで儂と同等……、または儂よりは劣るが優秀な存在になれるとみて、儂はわざとお前に嘘を教えた。『お前のことなど知らない』と言って、お前さんの感情に火をつけたんじゃ。人間は感情の流れと連動して行動を変える。そして常人では到底想像できないような奇跡を起こす。儂はそれが見たくて、お前さんにわざと嘘をついたのじゃよ。そして儂を殺すことも知っておった。全部儂のことを慕う輩が全部話してくれたぞ。逐一すべて――な」
「……………………………………っ!」
「まさかそんなことも知らないで、貴様は今の今まで儂のことを恨んでおったのか? それはご苦労なことじゃ! お前さんは今の今まで儂の手の中で踊っておった! 無駄な努力とはこのことじゃな。ひゃは! ひゃは! ひゃは! ひゃは……。ひぃっやははははははははっっっっ!」
「…………………………………っ! あ、あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああ…………………………っっっ!」
アクロマは――歩みを止めていたDrの進行が再会したところを見て、彼は手を伸ばして、どんどん遠ざかっていくバロックワーズの面々を見ながら、彼は悟る。
結局、無駄だった。
Zを引き入れても、結局その天才を操作することができなかった。
そして弱い集団だと思っていたその集団に完膚なきまで惨敗され、あろうことか、己の命そのものでもあるバングルを奪われ、そして計画も、すべて知られていた。
結局――アクロマがしてきたことは、無駄だった。
無駄になり、無駄のまま進行して、そして無駄に無残に砕け散ったのだ。
すべてを知っていたDrの手によって――天才の手によって、凡人が計画した完璧な作戦は見るも無残に砕け散ったのだ。
アクロマは悟った。そして――絶望し……、希望を失い……、雲泥の差を思い知らされて……。
「あ、あ、あ、あ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!!」
彼は叫んだ。あらんかぎり叫んで、彼は悟る。
――敵わない。諦めよう。もう、考えることも……、努力することも……、疲れた。
◆ ◆
これを機に――これから巻き起こる帝国とバロックワーズ対五つの徒党による小さな戦闘の狼煙が、今舞い上がった。
その狼煙は風に乗りながら、噂となって帝国中に知れ渡った。
この戦いが一体どんな結果になるのか。それは誰もが知りえない。
帝国の王や貴族層平民層の者達は、勿論帝国が勝ってほしいと願い、下民や奴隷は徒党の者達が勝ってほしい願っている。
たとえ王を殺してでもこの戦争に勝利を収めてほしい。そう願いながら彼らはハンナ達が辿り着くのを待っている。
その願いが届いているかのように、Zの懐にしまい込んでいたカードキーを手に入れたハンナ達は急いで帝国へと足を急がせる。
走って走って――走って。
この地に光を灯すために、彼らはボルド達とクルーザァー達が協力体制で結んで帝国の近くで待機をしている二つのチームのところに急いで向かう。
この地を巡る戦いも、佳境に近付いて行く――




