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PLAY59 衝撃、後悔、叱咤、決意――そして帝国へ①

今日からBW編です! 楽しんでいただければ幸いです。

 突然の襲来。


 襲来した仮面の人は私達を圧倒的な力で押さえつけて、そのままアクロマを担いで逃げてしまった。


 土の盾から解放された私とボルドさんはすぐにその光景を目にして、驚いて声を発することを忘れてしまった。というか……、どう声をかければいいのかわからなかった。


 混乱する私やボルドさん。後から来たみんなも、私とボルドさんと同じように愕然としながらその光景を見てしまった。


 誰もが驚くだろう……。だって今までそんな姿、見せたことないから……。


 私も正直驚いて、どんな言葉をかければいいのかわからない状況だ。


 簡潔に言うと……、というか、この状況を簡潔に言うのは不謹慎と言われてもおかしくないけど、今の状況と照らし合わせても、あまりに情報が少なすぎる。


 なので、私はありのままの姿を見ながら思った。


 仮面の男のせいで半壊してしまった空間。その中央にへたり込んで、項垂れながら頭を抱えてしまっているキョウヤさん。


 その近くにはヘルナイトさんがいるけど、そのヘルナイトさんも声をかけることができない状況にいた。


 ううん……、声をかけてもいいのか。そんな躊躇いが見えるもしゃもしゃを放って、キョウヤさんのその悲しくて苦しくて、もう何が何だかわからないようなもしゃもしゃを出しながら、キョウヤさんは固い床に拳をぶつけていた。


 八つ当たりのようにも見えるそのぶつけ。


 でも――己の無力さを痛感して、自分に対して八つ当たりしているようにも見える。


 その光景を見ながら私は近くにいるヘルナイトさんのところに向かって、ゆっくりと歩み寄る。


 するとヘルナイトさんは私の存在に気付いたのか、はっとして私のことを見降ろして彼は聞いた。凛としているけど、どこか無理をしている。心の中で何かを隠しているような声で彼は言った。


「――ハンナか……。無事だったか。ならいいのだが……、驚いているのだろう?」


 あれを。


 ヘルナイトさんはキョウヤさんを見る。


 キョウヤさんは私の存在に気付かず、未だに床に向けて拳を打ち付けながら小さい声で何かを言っている。


 それを聞きながら私は、吹雪のように、私に向かって攻撃してくる悲しいもしゃもしゃを感じながら、私は何も言わず、ただただキョウヤさんのそのもしゃもしゃを受けていた。


 言葉をかけて慰める。そんな行動こそが最も正しいことなのかもしれない。


 でも、今のキョウヤさんにその行為は……、傷を裂くようなことだ。


 何があったのかはわからない。ヘルナイトさんも何も言わないから、何が起こったのかはわからない。だからこそ、何も知らない私達が入り込むような行為は――何も知らない人がする無意識の攻撃。


 だから私は、何も言わずにキョウヤさんのことを、見ることしかできなかった。


 みんなもそれを汲み取って、言葉を交わすことをしなかった。そして――



 □     □



 やっと落ち着きを取り戻したキョウヤさんは、少し一人になりたいと言って、今現在この場にはいない。


 今いる場所は、私達がいる場所――この空間の入り口付近。


 そこよりも少し離れた場所の、瓦礫に座りながらキョウヤさんは膝の上に肘を立てながら、口元を両手で覆って何か考えている。


 真剣な表情で考え込んでいた。


「あんなキョウヤ、初めてね。いつもはアキのことを(いさ)める突っ込みなのに」


 シェーラちゃんは驚いた顔をして言っていたけど、私はそれを聞いて、ここにキョウヤさんがいなくて本当に良かったと思ってしまった。


 ……多分だけど、それを聞いていたらキョウヤさんはきっと怒り交じりに突っ込みを入れるに違いないから……、そして今の状況でそれを聞いたらきっと、火に油を注ぐ様なものだ。


 それを思いながら、私は小さくほっと胸を撫で下ろした。聞いていないことに安堵の溜息を吐いたのだ。


 すると――


「まさか……、あんなことになるとは……思っても見なかったよ」

「だな」

「てかあの仮面野郎は何者だったんだ?」


 ボルドさんは項垂れながら言うと、それを聞いていたダディエルさんはうんうんと頷きながら、腕を組んで言う。


 ギンロさんは腰に手を当てて (ギンロさんにはちゃんと『部位(ゴア・)修復(リザレクション)』をかけたので、もう腕は元に戻っている)首を傾げながら疑問の声を上げた。


 それにはみんなも同文らしく、その言葉を聞いていたガザドラさんは腕を組みながら難しい顔をしてこう言う。


「あの者も皆と同じ冒険者だと吾輩は思うが、ただの冒険者ではない。かなりの熟練者と見える」

「その意見には同文です」


 と、ティティさんもガザドラさんの言葉に頷きながら真剣な顔でこう言った。


 ……ちゃっかりティズ君を後ろから抱きしめながら、彼女はこう言った。


「あの仮面の男は、普通の冒険者の雰囲気ではありませんでした。潜在能力……、モルグの桁が違っていた。ここにいる誰よりも高いレベルを持っていました」

「モズク……?」


 ガルーラさんはきょとんっとしながらティティさんの言葉に首を傾げていた。


 目を点にして、口元を縦楕円形にしながら、彼女は言った。


 私達はそれを聞いて、ガルーラさんを見ながら乾いた笑みを浮かべることしかできなかったけど……、クルーザァーさんは呆れたような溜息を五秒くらい長く吐いてから、彼は言った。


 因みに――Zはすでに拘束されている。私達は縄で拘束しようと思って、半壊してしまったこの場所をくまなく探した。けどどこにも縄なんてなかった。それを知ったクルーザァーさんは、先ほど勝手に帰ってしまったスライムを再度召喚して、Zの体に絡まるように、Zの四肢と胴体を拘束した。


 それを見た私は、体にべたついて気色悪いんじゃないかな……? と思いながらZを恐る恐る見ていた。


 クルーザァーさんはガルーラさんに向かって、彼が持っている冒険者免許の裏面を見せつけた。


 目の前にそれを突き付けながら、クルーザァーさんは言う。


「モルグとは俺達にステータスをレベルにしたものだ。これを見れば誰がそれに特化されているのかが一目でわかるというものだ。わかったか? 思い出したか?」

「………………んん」


 クルーザァーさんの言葉を聞いて、ガルーラさんはうーんっと首を傾げて、口元をへの字にしてから、彼女は凄く難しそうな顔をして――


「結局はステータスなんだろ? だったらモルグって言わずにステータスって言えばいいじゃねえか」

「だから……、あぁ……、いや……、言うだけ無駄だな」


 ガルーラさんの言葉を聞いて、話を聞いていないのかと言うような、少し苛立っているような表情を浮かべて、クルーザァーさんは声を荒げて反論しようとしたけど、すぐにやめた。


 きっと……、やるだけ無駄だと悟ってしまったのかもしれない。それを見たガルーラさんは、顔に手を当てて項垂れているクルーザァーさんをみて、再度首を傾げていた。頭に疑問符を浮かべながら……。


 その項垂れをやめたクルーザァーさんは、ふぅっと息を吐いて落ち着きを取り戻したところで、クルーザァーさんはティティさんを見て聞いた。


「つまり……、俺達以上の力を有している。ということでいいのか?」

「ええ。冒険者ではハンナさんの魔力が桁違いと言うところを差し引けば、誰もあの男に勝てるという見込みは……、低いです。キョウヤさんならもしかしたら、互角か、少し上か、下か……」

「どっちだよ」


 ティティさんはクルーザァーさんの言葉を聞きながら顎に手を添えて考える仕草をして真剣な音色と面持ちで言う。


 だけど最後の言葉を聞いて、メウラヴダーさんが突っ込みを入れながら、ちらりと、少し遠くにいるキョウヤさんを見る。


 私達もキョウヤさんを見るけど……、変化は無し。まだ思いつめているような雰囲気を出して、考えている。それを見た誰もが、キョウヤさんのその姿を目に一瞬焼き付けてから、すぐにキョウヤさんから目を逸らす。


 逸らす。と言う言葉はきっと嫌な言葉かもしれない。でもそうするしかないことも事実。


 今声をかけても、きっと無視か、それとも苛立ちをぶつけられるかのどちらか。ゆえに今はそっとしておこう。そうみんなで決めて、現在に至っている。


 私はキョウヤさんの方を横目で見て、すっと目を細める。不安を感じさせているであろうその顔で、私は見て思った。


 ――キョウヤさん……、大丈夫かな……。私にできること、何かないのかな……。


 と思いながら、私はそのままキョウヤさんを横目で見ていたけど、突然紅さんが舌打ちをしながら「くそ!」と毒を吐き捨てた。


 それを聞いた私ははっとして、すぐにみんなの方を向くと、紅さんは腕を組んで、右手の指で左二の腕をとんとんっと小突きながら彼女は、苛立っている表情でみんなに向かって――


「予想外の展開だな……。なんたってこんなことに……」


 と言うと、それを聞いていたアキにぃは、じっと紅さんのことを、疑うような目つきで見ていた。


 その突き刺さるような視線を感じたのか、紅さんは首を傾げながらアキにぃを見て……、「なに?」と聞くと、アキにぃは少し低い音色で「いえね……」と言いながら、アキにぃは神妙な面持ちで、紅さんのことを見ながら――こう聞いてきた。



「……なぜクビになったのに、ハンナをあんな風に苛めていたのに、ここにいるんですか? なんでこんなところでさも平然と仲間に加わっているんですか?」



「え?」


 その言葉を聞いた紅さんは、苛立っていた表情を一変して、はたっと今更気付いたような顔をして、ぶわりと顔中に脂汗を吹き出して、そのまま露天して水滴になったそれが下に向かって落ちていくように、だらだらと汗を流しながら紅さんはあたりを見回した。


「「あ」」

「あはは~」


 それを聞いていたボルドさんとクルーザァーさんは一瞬忘れていたという顔をして紅さんを見て、リンドーさんはけらけら笑いながらその光景を見ている。明らかにリンドーさんだけ違う顔だ。


 アキにぃの言葉を聞いて、シャーラちゃん、ティティさん、メウラヴダーさんとガルーラさんは、そんな彼女のことをじっと見つめながら、ガルーラさん以外の三人は疑うような目を向けている。ガルーラさんははたっと今思い出したかのように「おぉ! そう言えばそうだった! 聞き忘れていたぜ!」と、手を叩きながら言う。


 ガザドラさんは紅さんのことを見ながら「そういえばそうだな」と言って、すたすたと紅さんに歩み寄りながら、ガザドラさんは心の底から喜んでいるような雰囲気を出しながら――ガザドラさんは肩に手を置きながら、紅さんを見てこう言った。


「紅よ。どうやらお前も相当反省したのだな。己の行なった行為を悔やみ、そして反省し、それを教訓としてここまで自力で走ってきて、さぞ一人は辛かっただろう」

「あ、いや……」

「吾輩は『六芒星』に入っていたが、一人孤独に戦うことは辛いことだ。吾輩でも何度も何度も心を折る様な苦しい日々を送っていたからな。紅。貴様でも耐えられなかった。それは誰だって同じ。人は孤独には勝てないのだ」

「ちょま……」

「吾輩も今までやってこれたのは、吾輩のことを慕う部下達がいてくれた。そして貴様達がいてくれたからこそ、今の吾輩がいるのだ」

「まって……、ねぇガザドラ……?」

「紅。よくぞ戻ってきた。吾輩は貴様の帰還を、心の底から待ち望んでいたぞ……っ! よくぞ、よくぞ戻ってきた……っ! 己の弱さと向き合って、勇気を振り絞ってここまで来たのだな! そなたのその強き心に、吾輩は感動で心が震えている……っ!」

「…………ん」


 と言う風に……。


 ガザドラさんは真剣な面持ちと感動を掛け合わせたその表情で紅さんの再会を心の底から喜んでいた。


 ……一部そのことについて疑念を抱いている人もいるけど……。


 それを聞いていた紅さんは、最初こそ綿綿としながら『実は演技』ということを伝えようとしていた。けどどんどんガザドラさんの勢いにのまれ、次第に反論と言うか、そのことについて追及をしなくなった。


 もうどうでもいいか。と言うような雰囲気をだんだん表情に出して、紅さんは最後に頷く。そしてそれを見ていたダディエルさんとギンロさんは、にやにやとしながら紅さんを見ていたけど……。


 それを見ていたボルドさんが、ガザドラさんの肩を叩きながら――


「あ、あのね……。ちょっと、いいかな? みんなも聞いてほしいんだ。紅ちゃんのことについて」

「?」

『?』


 と、ガザドラさんに向けて申し訳なさそうな笑みを浮かべながら、ガザドラさんと、この場にいなかったアキにぃ達に事の顛末を語った。


 事の顛末と言うか、紅さんが発狂した真実。そして事のあらすじを伝えただけなんだけど、みんなそれを聞いて、私やティズ君と同じような驚きの表情を上げたと同時に、紅さんを睨みつけるように見る。


 紅さんは頬を指でポリポリと掻いて、明後日の方向を見ながら口笛を吹いていた。


 私はそんなみんなを見て、微かに零れだしている赤いもしゃもしゃを感じながら私はそこまで怒ることかな……? と思いながら見ていた。


 確かに騙したことに関しては驚いた。


 でもそれはアクロマを騙すために、相手に不意打ちを撃つためにした行動だった。


 あの演技は確かに鬼気迫るようなものがあったけど、本心はそんなこと思っていない。むしろみんなのことを考えての行動だった。


 なのだけど……、みんなはそう思っていないようだ。


「と言うか、そこまでして相手を騙して、私達を騙すって、どういった了見よ。ちゃんと話せばこっちだって何とか演技できたかもしれないのよ」

「う」


 シェーラちゃんの突き刺すような視線と毒の言葉に、紅さんは見えない刃に貫かれたかのような声を出して、体を強張らせる。そんな紅さんに畳み掛けるように……。


「少しハンナ(お相手)のことを考えたらいいと思いますよ。相手にとって大迷惑なことをしていますし」


 アキにぃが冷たくて黒い視線を紅さんに向けながら言って――


「心配して損したと、正直この場で初めて思ったな……」


 メウラヴダーさんが溜息を吐きながら頭を抱えて、心底呆れたような雰囲気を出しながら目をつぶり――


「やっぱり女ってのは強かでないといけないな! そして女は嘘をつく生き物だからな。仕方ねえよ。まぁそこらへんは深くえぐらねえからな」


 と言って、ガルーラさんは腰に手を当てながら豪快に笑って、そのあとで紅さんの肩をバンバン叩いて慰めているけど……、なぜだろう……。


 今、紅さん小さい声で「抉っている」って聞こえた気がしたけど、気のせい……、であってほしい……な。うん。


 更に紅さんのことをいじる様に、と言うか――まるでからかうような顔をしながらギンロさんは紅さんに向かって……。


「しっかし。お前、俺達になんの計画も伝えてねーから、俺等マジでお前が狂っちまったかと思ったぜ? まぁすぐに立ち直るとは思っていたけど、本当に立ち直って来てくれたとは思っても見なかったよ。ははは!」


 カラカラ笑いながら言った瞬間、紅さんはもう堪忍袋の緒が切れてしまったのか、ギンロさんの方を鬼の怒りが爆発したような顔で怒りのままに吠えた。



「だああきぃえええええええっっっ! もうそれ以上抉るなぁあああっっっ! おかげでこっちは黒歴史を刻んじまったよおおおおおおっっっ!」



「自業自得だ」


 紅さんは半音高く、そして発狂じみた奇声を上げながら頭を抱えて前後左右に頭を振り回す。はたから見れば異常な光景。それを見ていたダディエルさんは呆れた顔をしながら小さな声で突っ込みを入れていた。


 それを聞いていた私は、シェーラちゃんとアキにぃの服をくいくいっと軽く引っ張って、振らりが私の方を向いたと同時に、私は言った。


「あの……、紅さんは私達のために、そしてアクロマを捕まえるために、自分から悪者になったんだよ……? それに紅さんがいなかったら、多分私達負けていた。だから紅さんをそこまで怒らないでほしいな……?」


 私は控えめに微笑みながら首をコテリと傾げる。


 それを見ていたシェーラちゃんは、すっと目を細めながら私を見て、そして視線を逸らしたと同時にはぁっと溜息を吐いて、シェーラちゃんは言う。


「あんたね……。あんたが一番被害にあったのに、それで本当にいいの? 少しお灸をすえてもいいんじゃない?」

「えっと……、正直そんなこと全然思わなかったな。だって紅さんの言うことも一理あったような、なかったような……」

「どっちよ。と言うか、これキョウヤ聞いていないわよね? 後でちゃんと説明しておかないと」


 ったく。と、首を横に振りながら言うシェーラちゃん。


 少し呆れながら私の話を聞いて、そしてキョウヤさんのことを見ながら再度溜息を吐いて言う。


 私はそれを聞いて、申し訳なく思いながらシェーラちゃんに向かって「お願い」と言う。


 アキにぃはその話を聞きながら、ふぅっと息を吐いたと思ったら、すぐに紅さんの方を向いた。


 紅さんは項垂れながらため息を吐いて、その溜息と同時に魂が抜けているような雰囲気を出していた。みんなの言葉を聞いてすでに限界突破してしまったらしい……。すでに生気がない……。大丈夫、じゃない。


 そう思って私は大丈夫ですかと聞こうとした時、アキにぃは紅さんのことを見ながら――少し冷たい雰囲気を出しながら……。


「しかし、あれのおかげでこの結果ならいいですが、俺達はハンナにもちゃんと説明してください。そうでないとこっちも混乱するし、それにもし再会したら四肢部位破壊(ゴア)では済まされませんでしたから……、次からは気を付けてくださいね?」


 と言った。


 氷以上に冷たい目つきで睨みつけながら……。


 それを聞いていた紅さんは、生気がないその顔を元の顔に強制的に戻して、アキにぃのことを見ながらこくこくと高速で首を縦に振った。


 アキにぃはそれを見て、「よし――」と言いながらふぅっと一旦落ち着きを取り戻すように息を吐く。


 メウラヴダーさんはそれを見て、アキにぃのことを見ながら少し躊躇いがちに「少し言い過ぎじゃないか?」と言うけど、アキにぃはその言葉を無視して頭を抱える。


 私はそれを見て、アキにぃのもしゃもしゃを見ながら私は思った。と言うか、みんなを見て思った。


 みんな……、かなり混乱している。紅さんが話す前から、みんな混乱のもしゃもしゃが、体中を渦巻いている。顔には出さないだけで、みんな今でも混乱しているんだ。


 アクロマを助けに来た仮面の男。


 そしてキョウヤさんのあの変化。


 そして何より、あと少しで掴めそうだったアクロマの拘束が――無駄になってしまった。結局のところ……、振り出しになってしまった。


 私はそれを思い、そして胸の奥から込み上げてくる黒くて、じくじくして、何より……。




 悔しい。




 そんな感情が私の心の中をぐるぐる駆け巡っていた。


 みんなが太刀打ちできなかった存在――仮面の男。


 ヘルナイトさんは私とボルドさんを守るために、土の壁を作ってくれたおかげで、私は無傷でいられたけど、あの時、あの中にいる時、()()()()()()()


 そう思いながら、私はそっと、ヘルナイトさんを見上げる。近くにいるヘルナイトさんは、私の視線に気付いたのか、腕を組みながらヘルナイトさんは言う。


「どうした? ハンナ」

「………………………あの」


 私は、本当のことを聞き出そうと、ヘルナイトさんを見上げながら、こう聞いて見た。


「……あのとき――私とボルドさんが土の壁の中にいた時……、()()()()()()()()()?」


 ヘルナイトさんは――答えなかった。ううん。固く口を閉ざして、言いたいけど、言えないような雰囲気を出しながら、ヘルナイトさんは口を閉じていた。凛とした声を出さないで、ヘルナイトさんはキョウヤさんの方を見て、少し黙った後……、ヘルナイトさんは私のことを見降ろしながら――


「…………多分だが、これを聞いてしまえばきっと――()()()()

「? 迷う?」

「ああ、必ず迷う。選択を迷ってしまうだろう。そしてあれは、()()()()()()()()()()()()()。私達がとやかく言うことではない。そして――そのことについて質疑を問いつめる資格も、ない。だからハンナ。今はキョウヤをそっとしておいてやれ。キョウヤもキョウヤなりに、悩んでいる。藻掻いて苦しんでいる。私達にできることは、それを見守ることしかできない」


 私はヘルナイトさんの言葉を聞いて、そしていまだ追いつめているような顔をして考えているキョウヤさんを見て、私は正直、キョウヤさんの話を聞いて、少しでもその気持ちを宥めればと思っていたけど、キョウヤさんも、キョウヤさんなりに考えているその光景を見て、私はキョウヤさんやヘルナイトさんの意思を汲み取るように、頷いた。


 それを見たヘルナイトさんは、少し申し訳なさそうな音色で私の頭に手を置きながら「……無理を言って、すまない」と、頭を撫でるヘルナイトさん。私はその優しさを感じ、そしてキョウヤさんの方を見ながら、私は複雑な心境のまま俯いてしまう。


 キョウヤさんやヘルナイトさんの気持ちを汲み取って、私はその時頷いて聞かないことを選択した。でも、本音は――少し聞きたいという感情があるのも事実で、私は悶々と心の中を渦巻く感情になんだか翻弄されるように腑に落ちないような気持ちを抱いてしまう。


「ギギギギギギギギギギギギッ」

「また? というかあんたもいい加減にしなさいよ。あんなのいつものことって思えば」

「思えなギギギギギギギギギギギギッ」

「………………はぁ。そう」


 ………なんだろう。アキにぃとシェーラちゃんの会話が聞こえたけど、キョウヤさんがいないとやっぱりしっくりこないのも事実。突っ込んでやっといつもの風景と思うのに……。それが無いとなんだろう……。こう……。違和感がある。


 そう思いながら私は、再度キョウヤさんの方を見て、何とか立ち直ってほしいと願いながら、私はキョウヤさんに内心エールを送った。


 ――ファイト。と……。


 そんなことを思っていると、クルーザァーさんは頭をがりがり掻きながら……、苛立つそれを曝け出すようにしてこう言った。


「まったく……、とんでもないことになった挙句……、こんな結果になってしまったとは。アクロマを取り逃がすというとんでもない不合理。こんなこと……、起きてはいけない事態だぞ」

「確かに、あと少しってところで捕まえられたのに……」


 ボルドさんのクルーザァーさんの言葉を聞いて、ぐっと握り拳を作りながら、悔しそうに言う。


 リンドーさんやダディエルさん、ギンロさんと紅さんも、その話を聞いてすぐ――悔しそうに顔を歪ませながら俯いてしまう。ガザドラさんはそんなボルドさん達を見て、近くにいたリンドーさんの肩に手を置きながら……。


「確かに……。カルバノグの皆は、吾輩が入る前からこの作戦に力を入れていたからな……。吾輩がとやかく言う資格はない。しかし取り逃がしたことに関しては……、投げ掛ける言葉が見つからん……。すまない」


 申し訳なさそうに言うガザドラさん。


 それを聞いていたリンドーさんは、へらりと、少し無理をしている笑みを浮かべながらガザドラさんの方を見て「いいですよ。それにこんな不測の事態だってあるんですよ~」と、ガザドラさんの方を見て言う。


 ガザドラさんはそんなリンドーさんの言葉を聞いて、納得していないような複雑な顔をして「それもそうだが……」と言った瞬間……。


「しかし、こうしていつまでも後悔のことを考える続けることも不合理だ。今は臨機応変に今回の失敗を成功に結び付けることこそが得策だ」


 クルーザァーさんはちらりととある方向を見た。


 私達はクルーザァーさんが見た――と言うかクルーザァーさんは真後ろを見ただけなんだけど、私達はクルーザァーさんの背後にいる人物を見てはっと息を呑んだ。


 彼の後ろにいるのは、スライムによって拘束されているZ。


 Zは無言で、死んだ目をしながら自分の膝をじっと見つめて黙っている。最初に出会った時とは全然違う雰囲気だ。


 その光景を見たティズ君は驚いた顔をしていたけど、私はそれに気付かないままクルーザァーさんを見ると、クルーザァーさんはずんずんっと歩み寄りながらZの頭の髪の毛をぐしゃりと乱すように掴んでからクルーザァーさんは聞いた。


 ずいっと顔を近付けながら彼はZに向かって聞いた。


「お前だろう? あの男に応援要請したのは。さっさと吐け。出ないと、スライムにお前の四肢を喰わせてやるぞ」


 少し強引で、かなり悍ましい事を言っているクルーザァーさん。Zと対面した瞬間クルーザァーさんは黒と赤がどろどろと吹き出すようなもしゃもしゃを溢れさせながら、彼はZに聞く。


 私はそれを聞いて、見て……、最初見た時厳しい人と思っていたそれが一気に消えて、今になってクルーザァーさんに恐怖を覚えてしまった私だった。


 クルーザァーさんのその半ば強引な拷問 (?)を受けているZは、生気を失った光がないその目で地面を見つめながらそっと唇を動かした。

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