PLAY58 BC・BATTLEⅥ(Pitfalls of heresy)⑥
※この物語には、展開上後味の悪い展開が含まれます。ご注意ください。
アクロマが悔しそうに私達のことを見ていた時、爆発と燃える炎に焼かれているカゲロウは植物の体を焦がしながらよろけて、そのままとさりと床に倒れ込む。
背中から倒れて仰向けになりながら、彼女は植物の体から元のエルフの女の姿に戻っていく。
その姿に戻っても、黒焦げに変わりはないけど……。
Zはよろけながら肘をついて立ち上がろうとして、私達のことを睨みつけている。
その光景を見ながら本当に勝てたのか。そしてこれで本当にいいのか。更に言うと、このままこの三人と他の人達を永久監獄に投獄させるのかと思うと……。何だろう……。
勝てて嬉しいはずなのに、なんだが腑に落ちない。
コテンパンに倒して勝つ方がいいわけではないけど……、それでも私は、その先にある未来がそうなっていくのが全然予想できなかった。
ボルドさん達はアクロマを拘束して永久監獄に投獄させると言って、あと………。あれ? なんだか何かを忘れているような……。まぁ、後で思い出そう。今は目の前のことを何とかしないと。
そう思った私はそっとアクロマのことを見降ろして、私達のところに来たクルーザァーさんを見上げると、クルーザァーさんはふぅっと溜息を吐きながらアクロマのことを見降ろし、心底呆れたような音色と、心の底から疲れたかのような音色を合わせたような声でこう言った。
「しかし……。予想以上のてこずりだった。そして紅来るのが遅すぎる。もう少し早めに来い」
「えっ!? なんであたし怒られないといけないのっ!? あたし一応MVPみたいなもんじゃん! 大目に見てくれてもいいんじゃんよぉ!」
「大目もくそもない。というかこれはお前の作戦通りに行った結果だ、約束を破ったのはそっちだ。ゆえに大目になんぞ見ない」
「えぇ~……?」
紅さんはカゲロウの上にのしかかるようにして全体重で拘束しながら彼女は言う。
ZもスライムがZの背中から降りて自然消滅したと同時に、何とか動こうとしていた。
けど……、突然背後から来たダディエルさんに腕を掴まれて床に叩きつけられてしまいながら、彼は唸り声を上げてダディエルさんを見上げていた。
それはさながら――刑事ドラマでよく見る拘束風景である。
のしかかった時、カゲロウとZの唸り声が聞こえた気がしたけど……、多分聞き間違い。だと思う。多分、うん……。
そんなことを考えていると……ボルドさんはティズ君と一緒に、私の元に駆け寄りながらそっとしゃがんで――慌てながら心配した様子でこう聞く。
「大丈夫? 怪我とかは……、って、見た限りないね。あ、でも、どこか痛むところとかある? そう言った場合って打撲かちょっとした骨折って可能性が」
「……少し鬱陶しいぞ。ボルド」
でも、ボルドさんのその言葉を聞いていたクルーザァーさんは、ゴーグル越しに眉間にしわを寄せながらちっと舌打ちをして言葉を零す。その言葉にも鬱陶しいという感情がこぼれていた。
それを聞いて、ボルドさんはショックを受けたかのような顔をしながらクルーザァーさんのことを見て、「ひどいよぉ!」と、包帯の顔で涙を流していた。
そんな光景を見て、私はボルドさんのことを見ながら控えめに微笑んでこう言う。
「えっと、大丈夫です。どこも痛くないですよ」
その言葉を聞いていたボルドさんは、泣きべそをかきながらほっと胸を撫で下ろして「よかったぁ……」と、安堵の息を吐く。
するとそれを聞いていたティズ君が私の元に駆け寄りながら開口――
「すごいね」と言って、私のことを見ながらティズ君はこう言った。
「あの時――アクロマに対してあんなことを言うなんて、想像できなかった。やっぱり怒っていたんだね」
「うーん……。えっと、正直初めて怒ったから、何だろう……。よくわからないの」
「そうなんだ。ふーん……。ん? 初めて?」
ティズ君は、と言うかボルドさん達は私に言葉を聞いてぎょっと目をひん剥かせながら驚きの表情を浮かべる。紅さんとダディエルさんも……。
それを見て私は首を傾げながらみんなを見て、なんであんなに驚いているのだろうと思っていると、私は戦いが終わったことで少し余裕の気持ちだったのか、ふととあることを思い出して、私はティズ君のことを呼びながら聞いた。
「そういえばティズ君。ティズ君の詠唱……、あれ、どんな仕組みであんな風になっているの?」
「? それって……、『常闇ノ飛去来器』のこと?」
その言葉に、私は頷く。だって、あの絶望的な譲許をひっくり返したのは、紅さんの登場と、ダディエルさんの決意、そして――ティズ君の詠唱があってこそ、私達は今もこうして生きている。
紅さんのことやダディエルさんのことはすでに聞いているけど、ティズ君の詠唱だけはどういう仕組みであんなことになっているのか、少し気になっていたので聞いて見た。
するとティズ君は指で頬をポリポリと掻きながら、彼は自分が持っている黒いナイフを見降ろしながら彼はこう言った。
「えっと……、『常闇ノ飛去来器』は、文字通り黒いブーメランで、うーんっと、なんていえばいいのかな……? えーっと」
「影と同化したブーメランを使って、そこら中に広がっている影の中に入りながら、闇と光のはざまを行き来して、不意打ちじみた攻撃ができる詠唱。だ。つまりは影の中に入って、人の影や物の影から出てきて攻撃ができるということだ。もともと暗闇で活用するものなんだが、影だけでもかなりの力だ」
結局……。
ティズ君がもにょもにょと言いながら必死になって説明をしようとしていたけど、結局クルーザァーさんが腕を組んで、呆れながら答えるという結果になってしまった。
それを聞いたティズ君は、クルーザァーさんのことを指さしながら「そう! それだ」と、思い出したかのように言うけど、クルーザァーさんはじっとティズ君のことを見降ろしながら――
「……少しは己が持っている詠唱の理解くらいしろ。それだと宝の持ち腐れじゃないか」
「う」
注意をするクルーザァーさんを見て、ティズ君は返す言葉がないような顔の歪め方をして、唸り声で言葉を返す。
その光景を見て、そしてクルーザァーさんが言っていた言葉を私なりに理解してわかりやすくした結果……、ティズ君の詠唱は、その時にできた影に入り込んで、別の影から姿を現して不意打ちに近い攻撃を繰り出すことができる。ってことでいいんだよね……?
だからあの時、月の光で影になっていたZの影から飛び出て、そして影の影に入ってからアクロマに向かって飛んできた。
とてもシンプルな攻撃方法だけど、その攻撃手段となっている武器を見失ってしまえば、誰だって慌てて探して、そして不意打ち攻撃のチャンスを作ってしまう。
それがティズ君の詠唱なんだ。
「………ふふ」
私は目の前で彩られている勝利した余裕の笑みやもしゃもしゃを見て、私は再度、心から痛感する。勝ったのだ。見た目の質で言うと、これで本当に勝ったのかは不安だ。でも結果は結果。
苦労はした。絶望してもうだめだと思っていたけど、勝ったのだ。
それを確信した私は、安堵の息を吐きながら胸を撫で下ろして、再度みんなを見た時――
「――くそがああああああああああああああああああああああああああっっっっ!」
「っっ!?」
突然張り上げた大声に驚きながら、私はヘルナイトさんの方を見る。みんなも見て、そしてヘルナイトさんの手によって羽交い絞めにされている激昂の表情のアクロマを見ながら、私はどきどきと驚きながらアクロマを見る。
みんなはそんなアクロマの声を聞いて、さっきまで漂っていた余裕のもしゃもしゃを一気にかき消して、ぴりっと張り詰めたもしゃもしゃを出しながら、みんなは武器を構えてアクロマのことを睨みつけた。
そんな緊張感やみんなの警戒を無視して、ううん。それをまるで気付いていない様子で、彼は叫んで、羽交い絞めにしているヘルナイトさんのことを踵や拳で叩いて攻撃しながら、彼は言った。
がむしゃらに、己の思うが儘に、彼は言った。
「なんでこうも俺の思い通りにいかないんだっっ! 計画は完ぺきだった! お前達をここで消して、そしてそこにいる橋本華を連行して理事長と交渉したら、そのあとで俺はこのゲームの世界を脱することができるはずだった! そのあとでくっずり寝ている親父の頭に銃弾を打ち込もうとしていたのに……っ! 全部台無しだ……っ! 全部全部全部台無しになっちまった! 退路も脱出路も……、全部塞がっちまった! お前達の所為で塞がっちまった! どうしてくれんだっ! このままじゃ偽物の思惑通りになっちまうぞっっ! 出たいんだろうっ!? この世界から! 帰りたいんだろう!? 元の世界に! その手助けをしてやったんだぞっ!? なんで自らその道を絶ったんだっ!? お前達はこんな世界で暮らしたいのかっ!? えぇっっ!?」
みんなはその言葉を聞いて黙る。ただ表情だけはもう決まっているかのような顔で、誰もアクロマの言葉に耳を傾けて、悪いことをしたかなと言う罪悪感なんてこれっぽっちも見れなかった。
私もその一人。
ヘルナイトさんはその言葉を聞いて首を傾げていた。当たり前だけど、ヘルナイトさんと私達は住む世界が違うから、きっと温度差があるかもしれない。でも、そうであってもなくても、私は絶対にアクロマの提案に反対していた。
あの時も言ったけど、アクロマの外道に目を瞑って、そのままみんなと別れて現実に戻るくらいなら、この場所で負けて悔しい想いをした方がまだいい。
なので後悔なんてしていない。全然していない。そんなことを思いながら、私はきゅっと唇を噤んでから、意を決してアクロマに向かって歩みを進めながら、私は言う。アクロマの驚いた顔を見ながら、私は言った。
「何度も言います。私はあなたの提案には乗りません。あなたのような外道と一緒にいるくらいなら、みんなと一緒にいたほうがいいと言ったはずです。私はもう決めたんです。心に決めたんです。ちゃんとした道に進みながら、この世界の災いを消します。『終焉の瘴気』にのまれてしまった『八神』の浄化を。そして『終焉の瘴気』の浄化をします。強い人に任せて、一抜けただなんてできません。みんなと一緒に一抜けたをする。これが――私が選んだ道です」
「――っっ!」
その言葉を聞いたアクロマは、ぎりっと歯を食いしばりながら私のことを睨みつけていたけど、私はその睨みに臆することなく面と向かって見つめる。
それを聞いていたヘルナイトさんは、私の顔を見て何を思っていたのかはわからない。でも、ヘルナイトさんは私を見て、こくりと頷いていた。表情はきっと――安堵しているのか、それともそれでいい、と言うような顔なのかはわからない。でもヘルナイトさんは頷いて、そのままアクロマのことを羽交い絞めにしていた。
そして――
「――よく言った」
クルーザァーさんは私に顔を見降ろしながら言った。
それを聞いた私は、クルーザァーさんの顔を見上げて首を傾げていると、クルーザァーさんはこう言った。私に事をじっと見降ろして、彼は言った。少しむすっとしている顔だったけど、それでももしゃもしゃは怒っていない。さらさらと吹く靡く風のように、彼の心は穏やかに流れていた。
クルーザァーさんは言う。
「アクロマのいうことなんぞ、聞かない方が吉だ。こんな屑の言うことを聞いても、結局はだめな人間になってしまうのかオチだ。それに……、お前はかなり人のことを優先にして、己のことなどないがしろにするような女だ」
「う」
私は図星を突かれたかのような顔をしてクルーザァーさんを見上げると、クルーザァーさんは続けてこう言う。
「それはつまり――自己犠牲が大きすぎるただのドエムだ」
「ど………………っ!?」
あ、あんまりな言葉……っ! 私はクルーザァーさんの言葉を聞いて、頭から大岩が降ってきたかのような衝撃に驚いて、ショックを受ける。
そんな私のことを無視して、クルーザァーさんは続けてこう言った。
「だが、お前はわがままを言わない。紅やリンドーもお前を見習ってほしいくらいの確固たる意志を持っている。『救う』と言う志を強く持っている。ゆえにお前は、俺達のことを考えて自ら犠牲になろうとしたが、お前はそれを捻じ曲げた。己の意志で捻じ曲げた」
「…………………………………」
「そう言った本音も、時には必要だ。己の思うが儘に口にし、そして相手に本心を伝える。それは――人間の口からしか言えないことだ。テレパシーでも、意思疎通でもない。声に出して伝えることが、最も分かりやすく、そして表しやすい。わかりやすく言うと――」
時には正直に言え。だ――
と、クルーザァーさんは言った。
それを聞いた私は、さっきの怒りと言葉を思い出し、そしてその決断に、後悔も何もない。むしろ心が軽くなったかのような感覚を思い出しながら、私はクルーザァーさん向かってお礼を言う。
この選択をしたことを後悔していない。そんな顔で控えめに微笑みながら――
「はい。ありがとうございます」と言った。
それを聞いたクルーザァーさんは、頭を抱えて重くて深いため息を吐きながら、彼は言う。
「………………お礼なんていらないだろう。ったく」
「あ、クルーザァー照れてる」
そんなクルーザァーさんを見ていたティズ君は覗き込むようにしてクルーザァーさんの顔を見上げると、クルーザァーさんは無表情の顔で自分の顔を覗き込んでいるティズ君に向けて……。
正拳を脳天に打ち込んだ。ごちんっ! と――
それを受けたティズ君は驚いていたけど、痛みはないらしく……、頭をさすりながら首を傾げてクルーザァーさんのことを見上げていた。
その光景を見て、私はくすっと微笑ましく見ていると――
「ハンナァァァァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
「!」
私達が入ってきた扉の向こうから声が聞こえた。
その声を聞いて、私やみんなは驚いた顔をしてその方向に顔を向けると、そこにいたのは――ここに来るまでに刺客の人達の相手をして、私達を先に行かせたみんなが、ボロボロになりながらそこに………………、って、キョウヤさんだけ無傷……。キョウヤさんだけ異質な存在になっている……。
そう思っていると、先頭を走っていたアキにぃが、私に向かって一直線に突っ走ってきて、私の近くで急ブレーキをかけながら止まってすぐ、私の肩を掴んでアキにぃは――
「大丈夫だった? 何か変なことされていないか? あとは骨とかどこか折れていないよな? 顔の怪我はないし、ほかに変なところとかないか?」
まるでマシンガンのような質問の弾丸が私に襲い掛かってきて、それを聞いていた私はアキにぃのこの光景に懐かしさを感じながら首を横に振って――
「髪を掴まれたけど、全然怪我なんて」
「……髪掴んだ奴どいつだ? 正直に言えば四肢部位破壊で許してやる。言わないとそのまま脳天ぶち抜く。そこに転がっている三人、どいつだ? 今すぐ」
「――怪我ねえんだからいいだろうがっっ! 髪の毛だけで公開処刑かよっっ!」
と言った瞬間、アキにぃはアクロマやZ達のことを睨みつけながら、懐にしまい込んでいた拳銃を取り出そうとしていた時、アキにぃの手を掴んでその行動を阻止したキョウヤさん。
慌てながら掴むその光景を見ていた私は、内心こんな穏やかな空気は久しぶりだな。と思いながらその光景を見ていた。
そして私の元に歩み寄りながら、腕を組んでいたシェーラちゃんは凛々しい音色で「ふん」と言いながら――
「どうやら、アクロマは捕まえたようね」と聞いてきた。私はそれを聞いてうんっと頷きながらヘルナイトさんに羽交い絞めにされているアクロマを見る。アクロマはいまだにぎりぎりと歯ぎしりをしながら私のことを睨みつけている。その光景を見ていたシェーラちゃんは、腕を組んで、アクロマのことを品定めする様に見つめたまま……、彼女は「………………ふぅん……。なるほどね」と、なぜだろうか、一人で納得したような顔をして頷いていた。
私はそれを見て、なにが『なるほど』なのだろうと思いながら見ていると……。
「しかし……、リーダー達だけでよくもまぁこの三人をぶっ飛ばしたな」
「リーダーにしては珍しいことです」
「あ、ギンロ君にリンドー君っ! よかったと言いたいけど、さりげなく僕のことディスっているね……? そんなことをしていると女の子にモテないよ」
「僕は結婚する気はないのでご安心をー」
腕を負傷しているのか、もう片方の手で折れてしまった手を押さえながら駆け寄るギンロさん。リンドーさんもけらけら笑いな柄ボルドさんに言うと、ボルドさんはそれを聞いてがくりと項垂れてリンドーさんに言う。けど本人にはあまりダメージが与えられていないようだ……。
「しかし――ここだけ異常な損壊じゃな」
「別になくなってもいいです。こんなところ、さっさと撤去してほしいです。豚王の悔しがる様を見てみたいものですから」
「……ティティ殿よ。邪な感情と怒りが混ざっていないか……?」
虎次郎さんがこの空間の惨状を見て、珍しい呆気にとられたかのような顔をして見上げ、その光景を見ていたティティさんが、ティズ君に抱き着きながら黒い顔で黒い音色で言う。それを聞いていたガザドラさんは、少し怯えるような仕草をしてからティティさんに言う。
その光景を見て、私は再認識する。
みんなは――勝った。そして私達も勝ちを会得した。確かに結果としては、なんだかあっけないそれだったけど、それでも結果は結果。犠牲者が出なかったことは本当に良かったと思っているから、私的にはこの勝ちこそが目指している勝ちと言っても過言ではなかった。
だから――この勝ちの方がいい。そう思った時……。
「あ。紅じゃねえか! なんでこんなところにいるんだ?」
ガルーラさんが首にタオルを……、って! ガルーラさんが巻いている包帯から血がどろどろと出ている……っ!?
その光景を目にしてしまった私は、大慌てになりながらガルーラさんに向けて手をかざして『中治癒』をかける。視界の端で、メウラヴダーさんが私にグーサインを出していたけど、ガルーラさんはそれに気付かないで紅さんに向かって歩み寄りながら、彼女は聞いた。
「お前――なんでこんなところにいるんだ? 首になって」
「あぁ。実は――」
紅さんがからからと笑いながら、ガルーラさんやみんなに向かって今回の演技のことについて話そうとした。
まさにその時だった。
みんな、アクロマを捕まえた。これでひと段落着いた。そう思っていたからこそ緊張していた気が緩んでいた。
一瞬の気の緩みがあった。
そんな私達の気の緩みの間をすり抜けるように、その人は私達のところにいた。
強いて言うのなら、ダディエルさんの背後に、その人物はいた。
『っ!?』
誰もが驚く。
一番驚いているのは――ダディエルさん。
ダディエルさんは自分の背後にいるその人物を見ながら、ぎょっと目を見開いてその人を見る。見上げる。
薄紫色の髪で、前髪に一部が少し長い。そして癖がひどくて少しぼさぼさしている。服装はキチンっとしている服装ではなかった。ボロボロだけど汚れていない灰色のローブに、赤黒いズボンにブーツ。両手首には重そうな機械をつけて、それと連結されているのか、指先に固そうな指嵌めをつけている、黒いバツ印の仮面をつけた白いバングルをつけた男は、ダディエルさんを見降ろしながらそっと右手を上げる。腰に辺りまで上げる。
それを見たダディエルさんは、身構えながらもZを拘束して、相手を見据える。決して警戒をつかないように、彼はぎりっと歯を食いしばりながら男を見上げると――
ぐぅんっっ! とダディエルさんは吹き飛ばされた。男は何もしていない。ただ腕を上げただけ。上げただけなのに、ダディエルさんはそのままステージに向かって吹き飛ばされた。
「え?」と、誰がが言った。でも、それがだれなのかはわからない。ただわかることは……、ダディエルさんが吹き飛ばされた。と同時に――アクロマがヘルナイトさんの手から離れて、そのまま宙を飛んでいく。
無理矢理引っ張られたかのように、アクロマはそのまま宙に向かって飛んでいく。
「ううううおおおあああああああっっっ!?」
アクロマが驚きながらその光景を、私達を見降ろしながら叫ぶと、そのまま空中で放物線を描きながら急に現れた男に腕の中に納まる。
どずんっと、その男の腕の中にダイブしたと同時に、ダディエルさんはその動きに逆らえず、中央にあったステージに突っ込んでしまう。
めしゃりと、音を立てながら……。
「ダディエル君っっっ!」
ボルドさんが叫ぶと同時に、みんなが駆け出す。残り少ない力を出し切るように、みんなが駆け出す。
でも、男はそのまま腰まで上げていたその手を、肩のところまで上げたと同時に――
ぐぅん! っと、駆け出したみんな――シェーラちゃん、虎次郎さん、ガルーラさん、メウラヴダーさん、ティティさんとティズ君を……、吹き飛ばした。
みんな驚いた顔をして壁に向かって吹き飛ばされる。ううん……。これは、吹き飛ばされていない。みんなの服の一部が伸びてて、それに引っかかってみんな引っ張られているんだ。
私はそれを見て、みんながどんどん壁に向かって、ダディエルさんのように突っ込んでいく光景を見て、すぐに私はあの子に言った。
「ナヴィちゃんっっ!」
ナヴィちゃんは私の肩からぴょんこと跳び下りて、そのままぐぐぐっと体を縮こませながら力みだし、そして――その体をまばゆく発光させる。
誰もがそれを見て、驚きの顔でナヴィちゃんを見ただろう。私はそれを見て、どんどん大きくなるナヴィちゃんを見ると、大きくなり、元のドラゴンの姿となったナヴィちゃんは、どすんどすんっと言う音と共にそのままみんなが突っ込まれる壁に向かって駆け出して、そのまま自分がみんな背後に立って、クッションのように身構える。翼をばさりと広げて――辺りにある機械を倒しながら。
みんなはそれを見て、その流れに逆らえない状態で、そのままフワフワしているナヴィちゃんの体にダイブする。「わぷっ!」という、シェーラちゃんのくぐもった声が聞こえ、みんながどんどんナヴィちゃんの胴体に当たったと同時に、ぽすぽすとナヴィちゃんの手の中に納まるように落ちていく。
みんなの無事を見た私は、ほっとして胸を撫で下ろしてから、再度仮面の男を見る。仮面の男は腕に収まっているアクロマは肩に担ぎながら、私達を見ている。そんな最中、アクロマはその仮面の男に向かって――
「お、おぉ! お前かっ! 俺のことを助けに、俺達のことを助けに来たんだな! よし、いいぞ! このままこいつらを……、? …………………。はぁ?」
アクロマは担がれながら、そんなぎょっとした声を上げる。それを聞いていた私は、首を傾げながらどうしたのだろうと思って見ていたけど、他の人達はその言葉を聞く余裕などなかったらしい……。
「っ!」
ヘルナイトさんが大剣を持って駆け出し、それについて行くように、キョウヤさんも駆け出して、目の前にいる男に向けて、武器を向けた。
アクロマは担がれた状態で、しかも私達の方向が見えないような体制にされているのでヘルナイトさんとキョウヤさんが迫ってきていることに気付いていない様子で「おい! どいうことだ……っ!? 答えろ!」と怒鳴っていたけど、仮面の男はそれを無視して――
大きく振るったヘルナイトさんの大剣を、後ろに跳び退きながら避けた。
しゅっと――服と一緒に自分の体を掠めてしまい、そこから微量の血が出る。
「――っ」
仮面の男はそれを受けながら、傷ついた個所を押さえずに、そのままヘルナイトさんに向かって駆け出す。ヘルナイトさんはその体制で、大剣を腰に添え、居合抜きをするような構えを取りながら――彼は言う。
「――『居合・氷室』」
と言ったと同時に、ヘルナイトさんはその大剣を『しゃりんっ!』と抜刀する。もう抜刀はしているけど、それでもヘルナイトさんは抜刀して、あの時マドゥードナでした攻撃を、仮面の男に向けた。
けど――仮面の男はそのまま駆け出して、アクロマを担いで押さえている手とは反対の手を、自分の上空に向けて――そのままぐぃんっと、上に向かって飛ぶ。
ううん、引っ張られていく。
「っ!」
それを見たヘルナイトさんは、驚いて上を見上げる。氷系の攻撃はそのまま壁に向かって突っ込んで、そして激突したと同時に、その場所からばきばきと氷漬けになっていく。
私はそれを見て、そして上を見上げて、仮面の男が使っているそれを目にする。
仮面の男は、空中を浮いていた――のではない。彼は吊るされていたのだ。上に向けてあげた手に仕込んでいた何かによって、彼は空中に吊るされていたのだ。
月の光に反射してようやくわかった――手とその機械から出ている細いワイヤーに捕まって、彼は空中に逃げたのだ。
「糸、か……」
ヘルナイトさんがそれを見上げながら、すぐに大剣に手を添えて、次の攻撃を繰り出そうとした時――
「糸なら俺が狙う! 光っているから十分狙える!」
「俺も加勢するぜ! リンドー! 支え!」
「あとで五万Lお支払いですよー」
「えぐいし抜け目ねぇ!」
「吾輩も手を貸そう!」
「仕方ない。不合理だが加勢する」
アキにぃがライフル銃を構え、それに便乗するかのように、ギンロさんがリンドーさんと協力して、重いミニガンを抱えてもらい (お金のことを聞いた瞬間ギンロさんはぎょっとしながらリンドーさんを見ていたけど、今はスルーしておく) 、ガザドラさんも手に持っていた数々の武器を使って仮面の男に向けて応戦しようとしていた。クルーザァーさんもやれやれと言わんばかりに首を振っていたけど、手をかざして臨戦態勢である。私はそれを見て、ボルドさんと一緒に加勢しようとした。
その時だった――
ぷつんっと、仮面の男は宙吊りから一気に地面に向かって落ちていく。まるで――アキにぃ達の攻撃を受けないように、自ら切って最悪の想定を回避したかのような動きだ。
それを見ていた私は、首を傾げて「え?」と声を上げたけど、紅さんはそれを見て「よし!」とガッツポーズを出してからみんなに向かってこう言った。
「よっしゃ行け! 後は任せた!」
「お前も戦え」
……紅さんの行動に、クルーザァーさんは鶴の一声に等しい舌剣を与える。どんどん床に向かって落ちてくる仮面の男。でも、落ちている最中、男は開いている手をぐっと握りしめ、そして握ったと同時にぶわりと出る無数のワイヤーを己の手にギュルギュルギュルギュル! と巻き付けながら、男はその手を軽く振るう。落ちながら振るう。
ワイヤーによって固められたその手――ワイヤーグローブを。
そしてそのまま床に落ちてすぐ、仮面の男はダっと駆け出す! みんなに向かって駆け出し、アクロマを抱えたまま彼は駆け出した。ヘルナイトさんの横を通り過ぎ、アキにぃ達に向かって――
「わ! 来ましたぁ!」
リンドーさんが驚いて叫ぶと、それを見ていたアキにぃは銃口を仮面の男に向けて構えながら、アキにぃはこう言った。
「大丈夫――いくらワイヤーで守りを強くしたところで、俺の詠唱ならきっと……、破壊できる。その隙にみんなで攻撃を」
「「「「おぉ!」」」」
アキにぃの言葉に、みんなが声を上げる。仮面の男はそのまま駆け出して、ワイヤーで固めた手をぐっと、殴る体制にする。それを見たアキにぃは、冷静に、落ち着きながら銃の引き金を――
その時だった。
誰もが、驚きを隠せなかった。誰もが、仮面の男の横からキョウヤさんが鬼の形相で迫りくるその光景を見て、誰もが驚きを隠せなかった。
仮面の男ははっと息を呑んだのか、殴る体制からすぐに、私達に向けて手をかざす。目いっぱい腕を伸ばして、私達にその掌を向けた瞬間。
ひゅんひゅんっっ! と、何か空気を切る音が聞こえ、そして――
――ばかぁんっっ! と、天井や壁に切り傷ができ、そのまま崩落のように崩れ落ちてくる。
「「「うそぉっ!」」」
アキにぃとリンドーさん、そしてギンロさんが驚いて。
「ガザドラ!」
クルーザァーさんが慌てて叫んで。
「心得た!」
ガザドラさんは手に持っていたその武器の形をグネリと変えて、落ちて来る瓦礫からアキにぃ達や紅さんたちを守る。
「うそでしょ……っ!」
シェーラちゃん達もそれを見て、驚きの声を上げたと同時に、ナヴィちゃんがその大きな巨体を使って、みんなを守るように覆い被さり、そのまま崩落を翼や体で受け止めてしまう。
「あぁ……っ! みんな! ナヴィちゃ……」
「ハンナッッ!」
「!」
私はそれを見て、すぐにみんなの元に行こうとしたけど、ボルドさんに止められてしまい動けずにいた瞬間、ヘルナイトさんが私に元に駆け出して、そしてすぐに――
「――『地母神の岩窟盾』ッ!」
と叫ぶと、私達のことを覆うように床を突き破って、地面が私達を守る。ボルドさんと私のことを――
◆ ◆
ハンナとボルドを覆った地面を見て、ヘルナイトはほっと胸を撫で下ろしてから辺りを見回す。
アキたちのところはガザドラの魔祖のおかげもあって、皆が無事だ。ガザドラが放った鉄の液体が瓦礫を受け止め、ぺしゃんこになることを回避した。紅もちゃっかりとダディエルとカゲロウを抱えて身を潜めている。
抜け目ない。
シェーラの方はナヴィが身を挺して守ってくれたおかげで、殆どの人が無傷だ。ナヴィも殆ど無傷でその場所にいた。
――皆、無事だな。そう思いながら彼は、残っている人物がいるその場所に目を向けた。その人物は仮面の男に槍を突き付けながら、射殺すのような目つきで仮面の男を睨んでいた。
そして――キョウヤは言った。
「なんでだよ」
仮面の男は答えない。だが、キョウヤは言い続ける。槍を握る力を強めながら、彼は聞いた。仮面の男に向かって、知り合いのような口ぶりで、彼はこう言った。
「なぁ……、なんでこんなところにいるんだよ……。お前、なんでそいつを助けるんだよ……? そいつは、敵なんだぜ? お前なら絶対に許せないような人物なのに、なんでそいつを助けるんだよ……っ! なぁ! 答えろって!」
張り詰めていた感情が、今まで会いたいと思っていた、でもこんな形で再会してしまったことに、キョウヤは後悔しながら、そして憤慨を覚えながら、彼は仮面の男に向かって、睨みつけながら彼はこう言った。
「なんでレンと一緒にいねえんだっ! なんでお前ひとりでここにいるんだよ! 答えろ――ハクッッッ!!」
まるで、知り合いであるような口ぶり。それを聞いていたヘルナイトは、キョウヤのことを見て、そして仮面の男を見て、加勢しないとと思い、すぐに足を踏み出そうとした時……。
仮面の男は一歩、後ろに下がった。下がって――キョウヤから距離をとった。
それを見たキョウヤは、意味が分からない。それが顔に出ている表情と音色で「はぁ?」と言うと、仮面の男は、初めてこの場所で、口を開いた。少し離れた場所で倒れているZを見て、彼は言った。
「お前には――わからねえよ。俺がこいつらと一緒にいる理由なんて」
「………………何言って」
「俺は――レンのためにここにいるんだ」
と言った瞬間、仮面の男は上に手を掲げて、その越しの先から細い糸をしゅっと出して、五指に嵌められていた指嵌めを天井に深く突き刺してから、彼はそのまま空中に向かって引っ張られていく。
ゆっくりとではない。急速な速さで、彼はその場から脱出する!
「―――――」
キョウヤはそれに向けて手を伸ばした。
必死に抗うように、彼は掴もうとする。
が――仮面の男はその手を見ても、手を伸ばそうとしない。むしろ――無視するかのようにその場から脱出する。
キョウヤの手が――空を握る。
届かなかった手を見て、キョウヤは上に向かって跳んで、逃げている仮面の男を見上げて――彼は、その場で、膝をついた。
槍をがらんっと、手から手放して、彼はその半月を見上げながら、ぎりぎりと歯を食いしばり――
声にならないような叫びを、魂の叫びを――上げた。
それを見ていたヘルナイトは、上を見上げ、そしてキョウヤを見てから、彼はぐっと握り拳を作る。悔しさなのか、それとも決意の表れなのかはわからない。が――わかることがある。
彼らの計画は――作戦は……一部成功、一部失敗に終わってしまった。
それだけが、事実として深く刻まれてしまった。
だが、彼らに後悔する時間などない。もう『デノス』に来れば、あとは帝国に向かって浄化をするのみなのだ。そんな現実が、彼らの悲しみや後悔を飲み込んで、彼らの心をかき乱し、そして苦しめる。
こうして――長い長い『BLACK COMPANY』の戦いに幕が降ろされた。
完全敗北でもない。完全勝利でもない。正真正銘、不完全燃焼の決着となってしまった。
◆ ◆
BC編――完。
BW編に続く。
これでBC編終了です。なんとも嫌な終わり方となってしまいましたが、ご理解いただければ幸いです。
因みに今回のタイトルの和訳は『外道の落とし穴』です。




