PLAY58 BC・BATTLEⅥ(Pitfalls of heresy)⑤
ダディエルさんが言っていたアイテム――『魔法瓶』
それはよくファンタジーで魔法使いがよく作る魔法瓶ではなく、戦闘の時に魔物に向けて使うそれである。
曰く……、レベル一のプレイヤーやソロか小さい魔法攻撃しかできない人が良く買って使う便利にして最も需要が高いアイテム。
魔法攻撃そのものを使うことができるアイテムは――生憎MCOにはない。
『魔法瓶』の使い方はいたってシンプル。
そのアイテムを魔物に投げつけて当てた後、それと同系の魔法を使った瞬間大ダメージが与えられると言った、所謂火に油を注ぐ様な仕様である。
ただ投げただけでもダメージは与えられる。けど魔法で攻撃すれば大ダメージが与えられるので経験値を習得したい人にとってすれば喉から手が出るほど欲しいもの。
………と、メグちゃんは言っていた。
けどこんな使い方をする人はきっと……、ダディエルさんしかいないだろう。
その瓶に入っていた液体を待ち針の弾に入れて、それを敵に向けて投擲した後で魔法攻撃を繰り出す。
そして――みゅんみゅんちゃんのグレネードのように大爆発を起こす。
きっと誰もが考えそうだけど、それを実行に移す人はそう相違ない。そしてそれを実行させたダディエルさんを見た誰もが驚いて目をひん剥くだろう。
私はその光景を見て、ダディエルさんの言葉を聞いてそう思った。
□ □
轟々と燃え盛る炎の中から、ころんっと何かが転がってきた。
それは黒く焦げているけど、心臓のように赤黒い石で、キラキラと光っている。
それを見た私ははっとしてその石を見降ろした。その石は――ネクロマンサーの心臓……。
『屍魂』の瘴輝石だった。
それが床に落ちたと同時に、炎の中にいたそれは、音を立てて崩れ落ちる。
それを見ていたダディエルさんは、そっと目を閉じてからすぐに、崩れ落ちてしまったその場所に目を移す。もう迷いなんてないような、そんな真っ直ぐな目で、決心をつけた目で……、彼は見た。
紅さんとボルドさんはそれを見てにっと笑いながら、安堵の息を吐いて再度武器を構える。
私はそれを見て、複雑な心境でそれを見ていたけど、ヘルナイトさんが私の頭に手を置く。
それを感じた私は、そっとヘルナイトさんを見上げながら首を傾げていると――ヘルナイトさんは言った。
凛とした音色で――彼は言った。
「――もう大丈夫だ」
もう大丈夫。
それが一体どういう意味の大丈夫なのかは、わからない。でもはっきりと分かったことがある。
ダディエルさんは――もう大丈夫。そして……、この戦いは、私達が勝つ。
そう言ってくれているのだろう……。そう思って見ていると……。
「――ウウウウウウウグウウウウウアアアアアアアアアアアアアッッッ!」
瓦礫に埋もれていたのだろう……、カゲロウがその瓦礫から顔を出して、狼のような咆哮を上げながら彼女は、血走った眼で紅さんやダディエルさん達を睨みつけた。
それを見ていた紅さんとボルドさんは、各々武器を (ボルドさんは素手)構えながらカゲロウのことを見る。
クルーザァーさんは右手首につけているバングルを見ながら、彼は未だに何もしないでカゲロウから目を離さずに見据えている。
ダディエルさんも臨戦態勢でカゲロウのことを睨みつけていると――カゲロウは言った。
「ア、アクロマ様ヲ、アクロマ様ヲ傷ツケタ……ッ! アクロマ様ヲ傷ツケタッ! 私ノ光デモアルアクロマ様ヲ……ッ! ヨクモココマデ虚仮ニシヤガッテエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!」
その叫びと同時に、彼女はグラグラとアンバランスの体を左右に振りながら駆け出す。紅さん達に向かって駆け出す。
それを見ていたダディエルさんはすぐに手に持っていたその待ち針を口に含んで、狙いを定める。
紅さんも忍刀から苦無に得物を変えて、その苦無を逆手に持ちながら屈むように構え、ボルドさんは後ろにいるクルーザァーさんに向かってこう聞いた。
叫びながら聞いた。
「クルーザァーくんっっ! まだかいっっ!?」
「あと一分だ。持ち堪えろ――すぐに転機が来る」
「?」
まだ? あと一分?
私はその言葉を聞きながら首を傾げる。
一体何がまだなのか、一体何があと一分なのか。全然話の先が見えないような会話。それを聞きながらみんなのことを見ていると……。
「――きゅきゃぁっ!」
「!」
ナヴィちゃんの叫び声が聞こえた。
それを聞いた私はすぐにはっと現実に引き戻されながら辺りを見回そうと、私から見て左の方を見た瞬間……、はっと息を呑んだ。
私から見て、左の方から来たアクロマは、よろけた体に鞭を撃ったかのようなよたよたの走りで私に向かってきて、そのままダイブする様に、私に向けて手を伸ばしていた。
狂気と自暴自棄が混ざって、コーヒーよりも黒い色の目で私を捉え、彼は狂喜の哄笑を上げながら、こう言った。
「ひぃっっやはははははははははっっっ! もうこうなったら自棄だ! もう形振りなんて構ってられねえっっ! 親父を超えるためにはどんな手段も選ばねえ! この小娘を使って、俺は――俺はぁ! 親父をこの手で葬るんだっっっ!」
「っ!」
「きぃきゃ~っ!」
アクロマが伸ばした手が、私の左の二の腕を掴もうとする。それを見た私は、驚きながら横に体を傾けながらその手の拘束から逃れようとした。ナヴィちゃんも驚いて毛を逆立たせている。
けど……、思ったようにいかないことも事実。右に向かって傾いたけど、アクロマの手から逃れるという未来は叶わないらしい。どんどん私の二の腕を掴もうとするアクロマの手。
それを見た私は、ナヴィちゃんをぎゅっと抱きしめながら、その手から何とかして逃れようと、頭の中でどうしたら避けられるのかと、悶々考えながら、どんどん迫ってくるその手を見た私。
ここで目を瞑るという選択肢があったはずだけど、私はそうしなかった。
目を瞑ってしまったら、もしかしたらアクロマは私を捕まえた後、何かをするのかもしれない。
その何かと言うところは想像だからわからないけど……、それでも、私の腕を掴んではいおしまいではない。それだけはわかっていた。
なので私は、目を瞑らずに、何とかこの状況を打破できる策を、自分なりに考えようとした。
その時だった。
アクロマが壊れてしまったかのような笑顔を私に向けながら、伸ばした手で私に野に腕を掴もうとした瞬間――彼の手がビタリと止まったのだ。
「っ!」
「っ!?」
私はそれを見て、目を見開きながら驚き、そしてアクロマはぎょろりとした目で己の手を見る。
がっしりと、自分の手首を振るえるくらい強く掴んでいる黒いグローブをした手を見て、アクロマははっと息を呑みながら、さっきまでの笑みが嘘のように……、張り付けていたその笑みをはがして、彼はざぁっと青ざめたその顔で、自分の手を掴んできた――ヘルナイトさんを見上げる。
私も驚きながらヘルナイトさんを見上げると、ヘルナイトさんはアクロマのことを見ずに、そのままの体制でアクロマの手首を強く掴んで拘束する。ぎりぎりと音を立てながら、彼はその手を離さずにいた。
そんなヘルナイトさんを見ていたアクロマは、上ずった悲鳴を上げながら、拳銃ホルダーから『VG』を取り出して、その銃口をヘルナイトさんに向ける。
私はそれを見てはっと息を呑みながら、すぐにその銃を奪おうと足を動かそうとした。
アクロマが持っている『VG』は、プレイヤーの精神データを壊して、強制ログアウトではない完全なる死を与える危険な拳銃。
それをヘルナイトさんに向けていることに、私はなぜか慌てながら「っ! ま」と声を上げよとした時――
「ハンナ」
「!」
ヘルナイトさんは、凛とした音色で私のことを横目で見ながら、彼は言う。安心させるような音色で、彼は言ったのだ。
「――大丈夫だ」
と、はっきりと言ったヘルナイトさんに、アクロマは「っは!」と、男の人の声ではないような半音高めの声を上げながら、彼はその銃口をヘルナイトさんに突きつける。ごんっと、鎧に当てながら、彼は言った。
「なぁにが『大丈夫』だぁ! こんなコンピューターが! この銃はプレイヤーに当てれば相手の精神を壊すことができる。殺すことができるが、これは普通に拳銃として使えるんだよっ! ただプレイヤーを殺すためだけに作られたと思ったら大間違い。ちゃんと武器として使えるし……こうしてお前の首元に焦点を合わせれば……」
アクロマはヘルナイトさんの鎧に当てていたその銃をそっとずらして、ヘルナイトさんが来ている鎧のつなぎ目――首のつなぎ目にその銃口を突き付けながら、彼はこう言った。
「――お前を確実に殺せる!」
でも、ヘルナイトさんは何も答えない。
ううん、その銃口を見ながら、ヘルナイトさんは大剣を持っていたその手をするりと手放しながら、彼はその銃口に手を添えて、ぐっと握りしめる。銃口を掌で覆うように、彼はその銃を握った。
拳銃を握りながら、ヘルナイトさんは驚いているアクロマを見て――面と向かい合いながら、彼はこう言った。
凛とした音色で言った。
「――ならば、撃て」
「は、はぁ?」
「っ!?」
ヘルナイトさんの言葉から意外な言葉が飛び込んでくる。それを聞いたアクロマは首を傾げながら、『一体何を言っているんだこいつ』と言う顔をして首を傾げていたけど、私は驚愕のそれに顔を染めながらヘルナイトさんを見上げると、ヘルナイトさんはその銃口を掴んで、自分のところに持って行きながら続けてこう言う。
「お前が持っているこの銃で、私を殺せ。そうすればお前の形勢が逆転する。お前の優勢にまた逆転する。そうなればお前の勝ちは確定かもしれないな」
「あ、う、そ、そうだ! そうだよ! お前をここで殺せば、俺は」
「だが――お前にその覚悟があるのか?」
「え?」
ヘルナイトさんの言葉を聞いたアクロマは、少し半音になってしまったこえで、きょとんとしながらアクロマは見上げる。その最中、ヘルナイトさんはアクロマが持っていた『VG』の銃口を、自分の首元につきつけながら、首元の鎧の隙間にその銃口を差し入れ、少し屈みながら彼は言った。
「もう一度聞く。お前に、人を傷つける覚悟があるのか? 己の手を赤く染める覚悟があるのか?」
「…………………………っ! な、なにを……っ!?」
「はっきり言おう。お前に私は殺せない。否――ここにいる誰一人、殺すことなんてできない」
「っ!?」
ヘルナイトさんは驚いて固まってしまっているアクロマに向かって、彼はこう言った。
「お前は私達がここに来てから、一度もお前は前に出ることなどしなかった。自分から前に出て、戦うことをしなかった。攻撃は傍にいた二人と……、お前が操っているビットと言う浮遊物。お前は一回も、戦おうとしなかった。ただ観戦して、傍観者を率先しただけだった。違うか?」
「……………………………………っ」
「傍観者を徹した輩に、ただ見ていたということをしていた輩に――私を殺すどころか、小動物を殺すことなんてできるわけがない。確実に殺せる? そんなことは口先だけで何とでも言える。だが、そんなことすらしたことがない輩が言う資格などない」
「う、う、うううううううっっ!」
ヘルナイトさんの言葉を聞きながら、アクロマはぎりぎりと歯軋りをしながらヘルナイトさんのことを睨みつけて、掴まれている拳銃をがっしりと両手で掴んだ後、彼はふーっ! ふーっ! と言う荒い息使いでヘルナイトさんを見上げながら、その引き金に指をさし入れた。
そして――
彼はすぐに引き金を引こうとした。引こうとしたけど……、引けなかった。
かちかちと震えながら、彼はがくがくと体を震わせながら、ヘルナイトさんに向けているその銃の引き金を引くことができなかった。
ううん……、引き金を引くことを躊躇っているかのような、そんな震え方をして、怯え方をして、アクロマは引き金を引く行為を一向にしなかった。
私はそれを見て、ヘルナイトさんが言っていたことを……ようやく理解した。
アクロマは今まで自分の手を汚したことがない。いつも他人に任せて行動していた。いつもアクロマだけは、綺麗な手をして相手に任せっきりだった。
仕事も、殺しも、そして戦いも、全部人任せだったんだ。
研究だけにしか手を出していないかのような、何にも傷ついていない手。私の手と同じで、アクロマは男の人なのにすごくきれいな手をしていた。
ただ手のことを褒めているわけではない。私が言いたいことはこうだ……。この人は、今まで出会ってきた人の中でも、特に心が弱い人だったのだ。
エンドーのように、カイルのように、ネルセスのように……、彼らは目的のためなら己の手を汚してでも完遂させようとしていた。必死になっていた。
でも……、アクロマはそんな自分の手を汚すなんてことを一切していない。
だからヘルナイトさんは言ったんだ。
私を殺してみろ。
今度は自分の手で、この状況を変えろ。
作戦なんていらない。
お前がその手を汚して、この状況をひっくり返してみろ。
己の手で殺す覚悟もないのに、自分より非力な人にしか傷つけることができない弱いあなたに、その銃を撃つことはできない。
お前の覚悟は、そんなものだ。
そうヘルナイトさんは言いたかったんだ。きっと……。私から見た見解なので、絶対そうだとは言えない。けど、アクロマはカタカタと銃を持ったまま手を震わせて身構えていると、彼は荒々しい息使いでヘルナイトさんを見上げて、その震えを強制的に止めてから、意を決したかのように……。
その銃口を突き付けた。がちんっと言う鉄の音を出しながら、彼はその銃口をヘルナイトさんの首元に突きつけた。
静寂。一瞬の静寂が――長いようで短い静寂が……、辺りを包み込む。互いが互いの顔を睨みつけるように見つめながら、殺気を放ちながら彼らはそのままの状態で身構える。
ヘルナイトさんは堂々としてその銃口が引かれる瞬間を待ちながら。
アクロマは殺した振るえと葛藤しているのか、顔中から脂汗を流しながら銃の引き金を引こうとしている。
私はそれを、固唾をのみながら、ヘルナイトさんの言葉を信じて見守る。ナヴィちゃんもおどおどとしながら見ていると……。
アクロマは、張り詰めていたその表情を、一瞬、歪ませた。
諦めのそれに歪ませたと同時に、それがどんどん膨張して、首元に突きつけていたその銃を、ゆっくり、ゆっくり、本当に、ゆっくりとした動作で――降ろしていくと……。
「――アクロマッッ!」
「「「!」」」
遠くから声が聞こえた。その声を聞いた私は『はっ』としてその方向を見ると……、今までティズ君と取っ組み合いをしていたZが、私達に向かって慌てた様子で駆け出していたのだ。
ティズ君を突き飛ばしたのか、ティズ君はふらつきながら立ち上がって、Zと私達を交互に見た瞬間彼は叫んだ。
クルーザァーさんに向かって、ティズ君は叫んだ。
「クルーザァー! あれ使うけど、いいっ!?」
それを聞いたクルーザァーさんはバングルを見て、頷きながら「ああ」と言って、ティズ君のほうを見ながら――彼は言った。
「外すなよ!」
それを聞いたティズ君はぐっと顎を引いて、そして自分が持っている日本のナイフをくるくると己の手の中で回しながら、そのナイフの頭同士を『がちんっ!』とくっつけ合わせる。
それを見た私は、一体何をするつもりなのだろうと思いながら見ていると、ティズ君はその頭どうした合わせた状態で言う。
「さぁさ集まれ闇の聖霊よ――我に力を貸せ。我は常世に染まりし棍棒を操るもの也」
と言ったと同時に、頭を合わせたそのナイフがふわりと、ティズ君の手から離れるように宙に浮いた。そしてそれを見上げながら、ティズ君は手をかざして、その合わさって浮いているナイフに向かって、彼は言う。
言い続けた。
「我思う――そなたは漆黒の世界を行き交う狩人の牙。我願う――そなたの力を我に、暗き世界を照らす一閃の矛と成れ」
そう言い終えた瞬間――ティズ君の手や顔から黒い刺青が浮き上がってくる。
それはしょーちゃんと同じだけど、少し違う模様のそれで、その刺青の模様がどんどん黒いすすとなって漏れ出し、頭どうし合わせたナイフに向かって集まってくる。
黒い小さな球体となって、ナイフを包んだと同時に、バァンっと爆ぜて、黒いすすによって縋を消していたそれが姿を現した。
私はそれを見て、驚きを隠せず、「え?」と言う声を漏らしながらそれを見た。
それはナイフではない。もうナイフの姿ではないと言ったほうがいいだろう……、今そのナイフの姿は、別のものになっており、黒い翼のようなデザインのくの字に曲がった武器……ブーメランとなって姿を現した。
ティズ君はそれを手に取って、そのままブーメランをZに向けて狙いを定めた後、彼はすぅっと大きく息を吸いながら、彼はその吸った空気を声と共に吐き出すようにして――こう叫ぶ。
自分が持っている特殊詠唱を叫んだ。
「――『常闇ノ飛去来器』ッッ!」
叫ぶと同時に、ティズ君はそのブーメランを勢いよく……。
自分の足元に投げつけた。ぶんっと、空気を裂くような音をたてて、彼はそのブーメランを自分の足元に投げつけた。
「……………………………っ!? え?」
私はそれを見て、一瞬目を点にして、すぐになんで地面に向けて。と思っていると、私は首を傾げてティズ君の手を見た。
ブーメランを持っていた手を見たけど、その手にブーメランはなく、ティズ君の手には何も持っていなかった。さっきまであったのに、まるで手品のように、そのブーメランが消えていたのだ。
床に向けて投げつけた状態で止まっているティズ君。
と同時に、ティズ君はそっと顔を上げて、振り下ろして止めていたその手をすぅっとゆったりとした動きで上げながら、私達に向かって走っているZに向けて指を突き刺し、そして――
くいっと、その手を上に向けて、上に向けて指をさした。
と同時だった。
Zの真下から何かが飛んできて、その一瞬の気配に気づいて驚くZの顎めがけて、突っ込んできた。ばぎぃっという殴る音を出しながら。
「――っ!? かふ!」
Zは口から微量の血をぱたたっと吐き出して、下から殴られてしまったかのように、がくがくと震えながら、背中から仰向けになって倒れそうになることを強制的に止めながら、彼はその衝撃に耐えていた。
けど、クルーザーぁーさんはそれを見て……、即座に行動する。手をかざしながら、クルーザァーさんはこう言った。
「術式召喚魔法――『召喚:スライム』」
と言ったと同時に、彼の前に大きな魔法陣が出てきて、まばゆい光を放ちながらその魔方陣からぬるりと、水色の粘着性を盛った何かが出てきた。
それは私達やみんながよく知っているモンスター界最弱のモンスター。
スライム。
体積はきっとクルーザァーさんと同格の大きさで、うねうねと動きながらそのスライムはクルーザァーさんの足元に寄り添いなあらうごうごと動いていた。それを見たクルーザァーさんは、すぐにスライムに向かってこう命令する。
「あいつを拘束しろ。食べてはだめだからな」
そう言ったと同時に、スライムはぽよぉんっと跳び上がって、そのまま倒れそうになって踏みとどまっているZに向かって跳んで、そのまま彼の背後から突進する!
「あ、がぁ!」と、Zの叫びと同時に、Zとスライムはそのまま床に突っ伏してしまい、スライムが彼の背中にどっしりと座りながら拘束している。どろどろと、彼を拘束しながら、身構えていた。
Zはそれを感じて、すぐに逃げようとしたけど、足も拘束されているのか、思うように体が動けないらしい。それを見たクルーザァーさんは、ふんっと鼻で胸を張りながらこう言った。
「逃げれると思うな――お前にはやってもらいたいことがたくさんあるんだ」
「っ!」
唸るZ。悔しそうに唸るZ。それを見ていた私は、一体何がどうなっているのか、理解が追い付けなかった。スライムはともかく、さっきの攻撃を見て、一体どうなっているのか理解が追い付かなかった。
追いつけなかったけど、周りを、特に上のほうを見た私は、Zの顎を攻撃したそれを見つけて、それを目で追う。
それとは――ティズ君の詠唱のブーメラン。
ブーメランはひゅんひゅんっと音を立てながら大きく旋回して、この空間内を飛んでいく。そして、次の瞬間……。私は目を疑った。
そのブーメランがあるところに向かって言った瞬間、普通なら壁に当たって落ちるのが普通だろう。けど、ティズ君のブーメランはそうとはいかなかった。
そのブーメランは湖に入り込むカエルのように、そのまま壁に向かって吸い込まれて行く。とぷんっと音を立てて、その中に入ってしまったのだ。
そしてすぐにティズ君は上に向けいたその指先と視線を、私から見て左の方向に向けてから、ティズ君はその指先をアクロマにくいっと向けた。私はそれを見てすぐに左の方を見た瞬間、薄暗くなってしまって、影ができているとことから――ずるりと、そのブーメランが顔を出したのだ。
はたから見ればホラーのようなそれだけど、それでもそのブーメランは、その影からずずずっと出たと同時に、急加速でぶんぶんっと回りながら、アクロマの、それも拳銃を持っている手に向かって飛んでいく!
「!」
ヘルナイトさんはそれを見て、すぐにそれが何なのかを認知したのか、そのまま体を後ろにそらして、そのブーメランの攻撃を避ける。
アクロマはそれを見て、「え?」と言う呆けた声と呆けた顔でそれを見た瞬間……。
ばちぃ! と、拳銃にそれが当たってしまい、アクロマはその衝撃に驚きながら「いぃぃっっ!?」という声にならないような叫びを上げる。と同時に、手に持っていた拳銃がするりとアクロマの手から離れ、そのまま音を立てて床に落ちる。
「っ!」
アクロマはその拳銃を取り戻そうと手を伸ばすけど、ヘルナイトさんはその行動を見ていたかのように、アクロマを見ないで伸ばしたその手をがしりと掴む。
それに気付いたアクロマは、声にならないような叫びを上げながらそのヘルナイトさんの手を反対の手で殴りながら、その拘束を解こうと必死になる。がんがんっと殴る。
「っ」
私はそれを見て、手を伸ばしてアクロマの行動をやめさせようとした。やめさせようと前に足を踏み入れた瞬間――ヘルナイトさんは凛とした声でこう言った。
「覚悟もないなら――その銃を手に取るな」
「っ!」
「!」
ヘルナイトさんの言葉を聞いたアクロマと私は、驚いた目でへルナイトさんを見上げる。ヘルナイトさんはアクロマのことを見降ろしながら、拳銃の方を見て、彼はこう言う。
「覚悟も何もない。ただの怨恨と己の欲望で人間を傷つけ。己よりも弱い人を甚振る様なお前が、その銃を握る資格などない。あれを握る権利を持っているものは、あの銃の重さを、あの銃の恐ろしさを知っているものだけだ。だがな……、私も、お前も、誰もその資格を持っていない。ゆえに誰もあれを持つ資格も、撃つ資格もない。否、あの銃はここで消えるべきものなんだ。何の覚悟もない貴様が、人の心を弄ぶようなお前に……、あの銃を持つ資格などない」
「っ!」
その言葉を聞いていた私は、きゅっと握り拳を胸の辺りで作って、ヘルナイトさんの言葉を聞いて、私は心の中で、ヘルナイトさんの言葉を復唱した。そして思い出す。
アクロマに対して言った言葉。それは生半可な覚悟と弱者をいたぶる様な姑息な心に対して、ヘルナイトさんは弱いと認識して悟らせようとして言ったそれであり、そんな雰囲気を見ていた私は、今まで見てきた人達の顔を思い出しながら、アクロマのことを見て思った。
アクロマは――確かに狂気に身を委ねている怖い人だ。けど……、ほかの人よりも己の手を汚さない。リョクシュのように、私みたいな弱い人を甚振る。己よりも弱い人間を傷つけることでしか己の手を汚さない……汚い人。そして……。
エンドー、カイル、ネルセスよりも、心が弱すぎる人。そう私は思った。
ヘルナイトさんはアクロマの顔を見降ろしながら、彼はこう言った。
「貴様の敗因は、何だと思う?」
「は、はい、いん?」
ああ。と、ヘルナイトさんは言う。言うと同時に――背後からまた声が聞こえた。その声はZではない。この声は……。
「アクロマ様アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァーッッッ!」
カゲロウがアクロマのその状況を見て、絶望のその表情を浮かべながら彼女は体から出ているその蔦をヘルナイトさんと私に向けた。シュルシュルシュルッッ! と迫りくるいくつもの蔦。それを見た私ははっとして身構えていると――
「遅いよ」
ティズ君のブーメランが向かう先に指をさした状態で言う声が聞こえたと同時に、迫りくる蔦をぶつぶつと切り裂いて、私達を助ける。それを受けたカゲロウは激痛を受けてしまった咆哮を上げながら、彼女はずたん! ずたんっと地団駄を踏んでよろよろと足踏みをする。
それを見て、私はそんな彼女の背後にいたティズ君を見て、安堵の表情を浮かべながら私は彼の名を呼んだ。するとティズ君はそれを聞いて――
「今だよ――紅」と言うと、それを聞いていた紅さんはすぐに駆け出して、カゲロウの背後から迫って、逆手に持った苦無を振り上げながら、彼女は跳躍する。
「ッ!?」
カゲロウは紅さんの気配を感じたのか、すぐに振り向いて攻撃に転じようとしたけど、振り向いた瞬間、彼女の体が突然震えた。
びりりっと、電流にうたれたかのように震えだして、びくびくと体を震わす。それを見た私は、はっとしてすぐにダディエルさんの方を向くと、ダディエルさんは指先をカゲロウに向けながら構えてて、その真正面にいて、カゲロウを挟み撃ちにした状態で立っていたボルドさんを見た彼は、こくりと頷いて、続けてこう言う。
「――『氷塊』!」
ダディエルさんはその言葉と同時にその手を床につけて、その手がついたところからバキバキと氷が盛り上がる。
まるで――シェーラちゃんの詠唱のように、床がどんどん凍り付いて、そして固まってしまっているカゲロウに向かって迫っていく。
それを見たボルドさんは、いつの間にかフードから出ていた大人の女性姿のこゆきちゃんを見上げて、彼はこう言う。
「こゆきちゃん――あの人の足元を凍らせて」
と言うと、それを聞いたこゆきちゃんは「ふぅ」と頷きながら、すぅっと息を吸って、そしてそのまま唇に手を添えながら、その息をふぅーっと吐く。
すると、ダディエルさんと同じように、床がどんどん凍っていき、そしてカゲロウに向かっていく二つの氷結の波。
それを見たカゲロウは、すぐに逃げようとしたけど、体が痺れているのか思うように体が動かない。びきびきと体を動かしている間に、彼女の足元が氷によって凍らされ、彼女は拘束されてしまう。
驚くカゲロウを見たダディエルさんは、すぐに紅さんに向かって――
「いけぇっ!」
と叫ぶと同時に、彼女は振り上げた苦無を、一気に彼女の背中に突き刺すように、降ろす!
――ざすっ! と言う音と共に、彼女はすぐにその場所から離れて、彼女はカゲロウの背中に刺さったその二本の苦無をみる。
カゲロウは一体何がどうなっているのか理解できずに、わたわたとしながら紅さんの方を見ようとした瞬間、彼女は、叫んだ。
「――『忍法・鬼灯爆裂歌』っっ!」
紅さんが叫んだと同時に、突き刺した二本の苦無が突然、かっと光りだしたのだ。
それを見たカゲロウは、ぎょっとしながらすぐにその苦無を引き抜こうとした時には、もう遅かった。
かっと光ったと同時に、大きな大きな爆発音はカゲロウのところからどんどん広がって耳に入って行く。そこを中心とした大爆発が連続で彼女の体に炎による大ダメージを与え続けていたのだ。
化け物のような声を上げてその衝撃を受けるカゲロウ。
Zはよろけながら膝をついて倒れそうになり。
アクロマは絶句しながらその光景を目に焼き付けて、己の敗北を胸に刻んでいた。
みんながその勝利を確信し、じわじわとくるその勝利を体で体感しながらほっと安堵の息を吐いていた。ヘルナイトさんはそんなアクロマを見降ろしながらこう言う。
「先程、私は貴様に聞いていたな? お前の敗因は何なのか。お前が作ってしまった落とし穴は何だと思う? 簡単な話だ。侮り、そして――私怨のために動いたことが原因だ」
そう言ったヘルナイトさんの言葉に、アクロマはぎりっと歯を食いしばりながらヘルナイトさんや私、そしてみんなのことを睨みつけていた……。




