PLAY57 BC・BATTLEⅤ(Ploy of heresy)④
アクロマは言った。
第一段階突破と――
それを聞いた瞬間、私は怯えるように……、ヘルナイトさんの傍から離れないようにしながら予想してしまった。
予想してはいけないのに、予想してしまった。
ティズ君もダディエルさんもそれを聞いて、絶句しながらアクロマとZ、そしてヘルナイトさん、ボルドさん、クルーザァーさんを拘束しているカゲロウのことを見ながらきっと思ったんだろう……。
まだ――これは序の口なんだ。
まだ――絶望が残っている。まだ……、作戦が始まったばかりなんだと……。
ヘルナイトさんも動けない。
ボルドさんやクルーザァーさんも動けない。
そしてみんなもまだ来ない中……、もうこれ以上の絶望なんていらないのに、アクロマは邪悪な笑みを浮かべながらげらげらと私達のことを見てお腹を抱えて大笑いをする。
それを見た私は、ぞっと顔の血が真っ青にしながら、その光景を恐ろしい目で見ていた。
すると……。
「う……っ!」
「!」
倒れて動けない状態にいるヘルナイトさんがぶるぶると、まるで『麻痺』にかかっているような震え方をして、ヘルナイトさんは私のことを見上げながら、苦しそうな雰囲気でこう言った。
震える口で、ヘルナイトさんはこう言った。
「………に、げろっ!」
「っ!? え……?」
私はその言葉を聞いた瞬間、予想外なことを聞いたかのように、驚愕に顔を染めながら、私は近くにあったヘルナイトさんの手をぎゅっと掴みながら耳を傾ける。
拘束されているので、私がその手に自分の手を重ねているのだけど……、私はヘルナイトさんの手をぎゅっと握りながら、震える口で、慌てている音色で、不安の音色を放ちながら声を荒げた。
国境の村の時と同じ状況だけと、私は不安に押し潰される様な感覚を抱えながら……、私は荒げる声で言った。
「へ、ヘルナイトさん……っ? ヘルナイトさんっ!」
私は震えながらヘルナイトさんの名を何度も呼ぶ。
この不安が少しでも和らいでほしいと思いながら、私は必死にヘルナイトさんの名を呼ぶ。
それを見ていたのか……、突然その人物は大きく高笑いを上げ――私のその光景を見ながら、ヘルナイトさんの底の姿を見ながら、彼はこう言った。
「ひぃやっははははははははははっっっっ!! すごいなっ! すごい効き目だぞっっ! これが封魔石っていう鉱物かっ! 本当にENPCの力が半減したぞっ! あのお強いヘルナイトが、今ではゾウリムシだっ! いいや……、今となってはアリンコのように地面に突っ伏しているっっ! いいぞ! いいぞ!」
「………………っ!?」
その言葉を聞いた瞬間、私はすぐにアクロマの方を見ながら、私は小さな声でその鉱物の名を口にする。
「ふ、フウマセキ……?」
「なんだそりゃ……っ! お前何かしたのかっ!?」
それを聞いていたティズ君とダディエルさんも、不安のもしゃもしゃを出しているけど、武器を構える姿勢を解かないで彼らはアクロマにその敵意を突き付けている。そしてアクロマに向かって張り詰めるような質問をした。
でも、アクロマはそんな二人の敵意を無視し、ぐりんっ! と、血走ったぎょろ目で私のことを見ながら、アクロマは言った。
その目を見て、びくぅっと肩を大袈裟に震わせている私のことを嘲笑いながら、彼はこう言った。
「あぁ。言っていなかったな。封魔石っていうのは――魔王族の血が流れている人物がその鉱物がついている装飾品をつけると、魔王族の力を封じてしまうっていう特別な鉱物だ」
そう。私もそれを聞いた。
その事実を知ったのは、国境の村で、リョクシュが言っていた。リョクシュはヘルナイトさんにその封魔石がついている装飾品をつけて、今と同じように動きを封じたんだ。
そう。これはその時と全く同じような光景……。絶体絶命の状況!
そんな私の心境など全く見向きもしないで、アクロマはけたけたと笑いながら、私と倒れているヘルナイトさんに向かって、つかつかと歩み寄りながら彼は言う。
「そしてこの鉱物は純粋な魔王族にとってすれば弱点! つまりそこにいるヘルナイトもその封魔石の前では無力な鉄塊ってことさ! なにせ、指先に乗っかる程度の石のサイズでもこんなざまだっっ! とっておいたかいがあった! これで厄介な奴が消えたってことだ!」
「………………………っ!? とっておいた……?」
その言葉を聞いた瞬間、私ははっとして、アクロマのことを見ながら、私は忘れてはいけないことを今思い出した。
忘れてしまったその記憶を思い出したおかげで、なぜこうなっているのかがつながったのだ。
あの時――駐屯医療所で、ジュウゴさんはこう言っていた。何日か前のことだと言っていた……。
その場所を根城にしている奴が、『デノス』を覆うように大きくて高い壁を作ってしまったらしいんだよ。
と――
「まさか………」
私は震える声で、震える顔でアクロマを見上げると、アクロマはそんな私の顔を見て、更に狂喜に笑みを深く彫りながら、彼は「んにひぃ」と、口元を口裂け女のように浮かべながら、彼は言った。
正解。そう言わんばかりに――彼は言った。
「そうそう! あのときあの似非魔女が言っていた言葉通り、このデノスの周りを壁で覆ったのは俺! 俺の命令でこうしたってこと! 魔王族は封魔石が苦手ってことは知っていた! だから実験しようと思ったんだ!」
アクロマはすっと私の位置からカゲロウが見えるように、彼は私の視線から外れるようにその場から一歩私から見て左に避けながら、アクロマは言った。
未だにボルドさんとクルーザァーさんを宙吊りにしているカゲロウを指さしながら……。
「お前の言った通り――カゲロウはヒューマ・レシアの魔獣族! その魔獣の蔦に封魔石の欠片をそっと忍ばせて拘束した。結果ちょこっと触れただけでこの男はまるで力が出ない英雄になってしまった!」
と言って、アクロマはずんずんっとヘルナイトさんに向かって歩み寄りながら、ヘルナイトさんの頭のところに自分の足を乗せた。
がすんっ! と言う音が出るような勢いのある踏み付けをしたのだ。
それを受けてしまったヘルナイトさんは「ぐっっ!」と唸り声を上げながら、その衝撃に耐える。私はそれを見て愕然としながらヘルナイトさんの名前を呼ぶと、ヘルナイトさんは私のことを横目で見ながら――震える声で……。
「だ、大丈夫だ……っ! すぐ、動け」
「ないんですよねえええええええええ~っ!?」
「っ!」
ヘルナイトさんの言葉を遮りながら、アクロマはぐりっとヘルナイトさんの頭を強く踏みつける。ぐりぐりとヘルナイトさんの頭を踏みつけながら、アクロマは馬鹿にするような邪悪で歪んだ顔を浮かべてから、ヘルナイトさんの見下ろしながらこう言った。
私の慌てるさまを栄養源にして、アクロマはどんどん邪悪さに潤いが出ているかのように、彼はこう言った。
「魔王族にとってその石はもう凶器! 爆弾! 地雷なんだよっっ! そんなもんを抱えながらどうやって戦うんですかぁ? えぇっ? 地獄の武神にして最強の鬼神さまぁああああああああ~~~っ?」
「っ! ぐ」
アクロマはヘルナイトさんに向かって馬鹿にするように屈みながら、彼はヘルナイトさんの顔に自分の顔を近付けながら言う。
それを見ていた私は、すぐにヘルナイトさんの体を守るように覆い被さりながら、私は叫んだ。
「やめてっ! お願いっ!」
一心不乱に、私は叫んだ。それを聞いていたボルドさんは、ぶら下がりながら慌てた様子で私に向かってこう叫んでいた。
「だ、だめだハンナちゃんっっ! その男に近付いては――って! いたたたたたたたたたたたっっっ! 足が取れるっっ! とれちゃうからぁ!」
「っ! うぐううううううううううううっっっ!?」
ボルドさんとクルーザァーさんはぶら下がりながら激痛に耐える表情を浮かべて、吊るされてしまっている足に手を伸ばしながら痛みを訴えていた。
私はそれを聞いてボルドさんとクルーザァーさんのカゲロウの蔦が絡まっているところを見ると、二人の足を絡めている蔦はどうやら力を入れながら、二人の足を切断しようとしているらしい、力いっぱい締め付けながら、そのままねじり切るように、カゲロウは蔦に力を入れていた。
その力に驚いて、二人は痛みに耐えながら唸り声を上げていた。大きな動物の唸り声のようなそれを上げていた。それを見上げていたティズ君ははっと息を呑みながら――
「ボルドッ! クルーザァーッ!」と、ティズ君は自分が持っている短剣をすぐにナイフ投げのように構えて投擲しようとした時――
「――よそ見すんなこのくそ弟があああああああああああああっっ!」
「っ! わ! っとぉっ!?」
Zがティズ君に向かって機械の拳を振り上げながら鬼のような形相で走りながら迫ってきていた。それを見たティズ君は、ぎょっとしながらZを見て、ナイフ投げの行為をすぐにやめてからZから距離を置くために後ろに跳び退く。
でもZは、そんなティズ君を血眼で追いながら、彼はぶんっ! ぶんっ! と鉄の拳を振るいに振るって攻撃を繰り出そうとしていた。
ティズ君はその攻撃を見ながら、さっきよりも冷静さは欠いているけど、それでも落ち着きを保ち、跳びながら避けることに専念している。専念してても、Zの猛攻が止まることはない。むしろ加速してティズ君を執拗に追う。
それを見ていたダディエルさんは大きく舌打ちを声で出しながら、私のほうを見て声を荒げながら彼は言った。
「嬢ちゃんっっ! その男からすぐに離れろっっ! 後は俺が何とかする! 今はとにかく安全なところに」
「なぁに言っちゃっているのかなぁ? 暗殺者さんは」
ダディエルさんの言葉を遮りながら、アクロマはぐりんっとダディエルさんの方に顔を向けながら彼はべろんっと突き出した真っ赤な舌を見せながら、彼は言う。
それを聞いていたダディエルさんは、アクロマのその黒い笑みを見てぎょっと顔を驚きで染めていたけど、すぐにアクロマのことを睨みつけるような顔をしながら、彼はアクロマに向かってこう言った。
「何が言いたいんだ……っ!? 俺はこう見えても暗殺者だ。お前を倒すテクニックくらい熟知している。素手でお前を殺すことくらい」
「でもなぁー。お前だけだと俺を殺すことは不可能だと思うぞぉ? 何せここに来たのがボルドではなくリンドーだったらよかったのに。なんでガルディガルのところで立ちふさがってしまったのかなぁ?」
その言葉を聞いた瞬間、私とダディエルさんは、目を点にして、頭の間かが一瞬真っ白になる様な感覚に陥った。
アクロマの言葉を聞いて、違和感を抱いたから。
今のアクロマの言葉に、疑念を抱いたのだ。
アクロマは言った。ここに来るのがボルドさんではなくリンドーさんだったらよかったのに。と――
そしてこうも言った。なんでガルディガルのところに止まって立ちふさがってしまうのか。
はたから聞けば何の不審なところが――大あり過ぎた。
まず――アクロマはここに来る人がボルドさんではなく、最初はリンドーさんだということに気付いていた。しかもそのリンドーさんがここに来る前の空間で立ち塞がっていたガルディガルのところにいることを知っていた。見ていないのに。
よくよく考えれば……、ここに来てから不審なことがあった。機動隊のような服を着た人達や、マリアンが言っていた言葉をもう少し深く考えるべきだった。そう思いながら私は、今更ながら後悔してしまった。
簡単に言うと――私達の作戦が漏れていた。スナッティさんがいなかったのに、全部が駄々洩れだった。これは由々しき事態。そしてあってはならないことだった。
アクロマはそんな私達のことを見ながら、彼は肩を竦めながら「そうか。もしかして知らないでここまで来たのか? それはそれでおめでたい奴だなぁ」と言いながら、アクロマは私と踏みつけているヘルナイトさん、そしてダディエルさんとぶら下がっている二人に向かって――大きな声を張り上げながらこう説明した。
「よぉし! それではお前達に教えよう! なんでお前達の作戦が駄々洩れだったのか! それは全部聞いていたからだ! ずっと、ずっと! ずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとずっとぉ! お前達が俺達のところに来ることも、下水道を通ってくることも、どんな奴が仲間になったのかも! そしてぇ! 紅の裏切りエルフの里の出来事、駐屯医療所での出来事も全部全部! この目でしっかりと焼き付けながらみていたのさぁっっ!」
アクロマは自分の目元に指を突き付けながら言う。自慢げに、狂喜の笑みを浮かべながら、彼は言う。血走った目を指さしながら言う。
それを聞いていた私は、未だに理解ができないような困惑した顔でアクロマのことを見上げていた。
その気持ちはダディエルさんも同じで、困惑した面持ちで固まっている。
すると――それを聞いていたクルーザァーさんはぶら下がりながら、頭に血が上っているかのような顔をして、彼は精一杯声を張り上げながらアクロマのことを見上げて聞いた。
「っ! 説明になっていないっ! 俺達が聞きたいのは――なぜお前が俺達の作戦を知っていたのかだ! 答えろアクロマッ!」
「んん?」
アクロマはクルーザァーさんのことを見上げながら、彼はにたりと、本当に口裂け女のような笑みを浮かべて、黒い影を深く刻みながら彼は大きな声で、少し半音が高いような音色で――私達にとって衝撃的なことを口走ったのだ。
「知っていた理由? そんなの簡単――ティズが教えてくれたからさ」
「え?
私は、その言葉を口にすることなく、心の声でその言葉を呟いて、そのあとで錆ついてしまった人形のような首周りをしながら、ゆっくりと、ゆっくりと……、ティズ君の方を見た。みんな――ティズ君の方を見た。
当の本人は、そんなみんなの視線とアクロマの言葉に驚いた顔をして、ナイフを持ったまま直立になってしまい、構えをとることも忘れた茫然とした顔で、彼は言った。
「え?」と……。
ティズ君はまるで理解ができない。一体何がどうなっている? 本当に濡れ衣を着せられてしまったかのような困惑した顔で私達とアクロマのことを見ていた。それを見ていた私は、注意深くティズ君のもしゃもしゃを見る。
ティズ君はもやもやと、まるで雨雲のようにそのもしゃもしゃを覆いつくしてしまっている。自分でも混乱しているようで、私達の言葉などきっと上手に受け答えできないだろう……。そう私は思った。そしてそのもしゃもしゃの色は――
私はそのもしゃもしゃを見て、すぐにアクロマのことを見上げながら、私は自分の心に鞭を打って鼓舞させながらこう言った。
「――違う。ティズ君は、私達のこと裏切っていない」
その言葉を聞いたアクロマは今までけらけらと笑っていたその笑みを壊したかのように無表情になって、その無表情な顔で私のことを見降ろした。
その顔を見た私は思わずびくりと体を震わせてしまった。けど……、私は完全にアクロマに屈服されたわけではない。まだ――自分を保てていた。
ヘルナイトさんは私が握りしめたその手を、弱々しく握り返していたから、その優しさとぬくもりのおかげで、私は私でいられた。
私はぎゅっとヘルナイトさんの手を握りしめながら、アクロマのことを見上げる。
アクロマはそんな私の顔が気に食わないのか、彼はすぐにティズ君の方を見ながらヘルナイトさんの頭からその足をどかして、今度はティズ君の向かって歩みを進めた。
早足で、ずんずんと歩み寄りながら――彼ははぁっと溜息を吐きながらこう言った。
「っち。はったりは無理ってことか。だかな…………もう一度だけ言おう。俺はすべての情報を知っている。それはなぜか? もう見せたはずなのにお前たちはそれを深く考えずに見ていた。もう俺は答えを出してるのになぁ?」
ずんずんと、どんどんと――ティズ君に向かって歩みを進めているアクロマ。
アクロマは近くにいたZに向かって首で『あっちへ行け』と促すと、Zはそれを見て、いったん黙っていたけど、すぐにティズ君から離れて距離をとる。ティズ君のことを睨みつけながら。離れたZに驚きながら、ティズ君はすぐに彼の後を追おうとしたけど、そんなティズ君の足に己の足を引っかけるように前に突き出したアクロマ。
それに気付かずに、ティズ君はすぐにそのアクロマの足に自分の足を引っかけて、盛大に転んでしまう。ごちんっと、頭から突っ伏して。その際――手に持っていたナイフ二本が『カランッ』と、手から零れ落ちた。
それを見ていたクルーザァーさんは、見上げながらその下の光景を目の当たりにして、彼はティズ君の名前を張り上げながら叫ぶ。
その声を聞いて、彼自身『ロスト・ペイン』のおかげもあってか、すぐに顔を上げて手を離してしまったそのナイフを釣り戻そうと手を伸ばした。瞬間――
――ごりっっ!
「っ!」
ティズ君が伸ばした右手を力一杯踏みつけるアクロマ。かかとで踏みつけながら、アクロマは零れてしまったそのナイフを手に取ってから、彼は言った。
踏まれているという違和感で顔を歪ませているティズ君を無視しながら、彼は私達のほうを見て、そのナイフの刃をぱしりと、自分の手を傷つけないように、アクロマはそのナイフをちゃんと掴みながら、彼は言ったのだ。
下劣に、微笑みながら――
「まぁ確かに、お前の言う通り、ティズは何もしていないが、俺はこのことをすべて知っていた。全部筒抜け状態で見ていた! なぜか知っているか? これはスナッティの内通もあってだが、ほとんどはあるもののおかげで、お前達の情報は全部筒抜けだったってことだ」
「あるもの……っ? なんだそれはっ! 答えろアクロマッ!」
その言葉を聞いていた私達は、ようようもう理解できないような顔でアクロマを見ていたけど、クルーザァーさんはそんなアクロマの言葉を聞いて、疑念を抱きながら怒りを露にしたような音色で聞くと、その言葉を聞いていたカゲロウが、ぎょろりと花粉があるところの目をぎょろつかせながらクルーザァーさんのことを見上げて……。
「アクロマ様ニ命令スルナァアアアアアアァーッッッッ!」
と、さっきまでの流暢なそれが消えて、今となっては片言のような人語を拙く話す他種族のように、カゲロウは男なのか女なのかもわからないような声を出して、クルーザァーさんを拘束していた蔦をぶぅんっと振り上げた。その動かし方はまるで――鞭を地面に叩きつけるような要領。
「っ!」
その風圧を、動きを体で感じ取ったクルーザァーさんはそのままカゲロウのされるがままに……、固い硬い床に向けてばしぃんっ! と叩きつけられてしまう。
かふりと――口から血を吐いてしまうクルーザァーさん。それを見たティズ君は驚愕と思いがけない異常な光景を目にしたその顔でクルーザァーさんの名前を呼ぶ。
ボルドさんも、ダディエルさんもクルーザァーさんの名前を呼ぶ。私はその光景を見て、びくりっ! と……、肩を震わせてしまう。
叫ぶことも、声を上げることもできず、私はその光景を信じられない。そんな気持ちでいっぱいの顔でその光景をただ見つめることしかできなかった……。
もう――ここに突入したときの意気込みなど無意味に等しいような絶体絶命を、私は今味わっている。
アクロマのたった一つの作戦。しかもまだ第一段階のそれで、私達の戦況が大きく崩れてしまった。
そんな光景を見ていたアクロマは、更に私達に大きな絶望を与えようと、ティズ君が持っていたナイフを指で突き付けるように動かしながら、彼は言った。
「もう俺は答えを出しているじゃないか。お前たちの前に、もういるじゃないか」
と言った瞬間、彼は自分の目の前にいるカゲロウのことを見ながら彼は言った。
カゲロウはそんなアクロマの言葉を聞いて、そっと頭 (花弁かな……?)を下げながら深く会釈をする。無言でする。アクロマはそんな彼女のことを見ながらこう言った。
「よくやったぞカゲロウ。お前のおかげでことがスムーズにいけた。感謝するぞ」
「アリガタキ幸セデス……ッ!」
カゲロウはそんなアクロマの言葉を聞いて、肩を震わせながら喜びに満ち溢れている。何だろうか、目から透明な何かを零しているような気がする……。
それを見た誰もが、一瞬こいつは何を言っているの妥当と思いながら見ていたけど、ヘルナイトさんが何かに気付いたようで、それを聞いた瞬間ヘルナイトさんは小さな声で「まさか……っ!」と言った瞬間……。
「そうさっ!」
アクロマはヘルナイトさんの言葉を聞いて、予想通りの反応を見せてくれたかのような喜びと狂気が入り混じった笑みで、高らかにこう言ったのだ。
「カゲロウが持っているスキルを使って、ヒューマ・レシアの根を砂の国全体に張り巡らせて、砂漠地帯や下水道に生えた草木や苔で、お前達のことを見ていたのさっ! だから俺は今の今まで準備をしてきたんだ! そしてここまで来てくれたお前達は、全部知っている俺達に対して戦いを挑んできた! ネタバレを見ている俺に、何も知らないお前達が挑んできた! 最高に面白かったなぁ! 笑いを堪えるので必死だったぜぇ?」
クルーザァーさんは傷だらけになりながらも、アクロマのことを睨みつけながらぎりっと歯を食いしばる。そんなクルーザァーさんの顔を見たアクロマは、「およよ?」と首を傾げながら、ピエロのような笑みを浮かべて彼はこう言う。
「え? そんなの聞いていない? だって教えなかったもんっっ! 切り札っていうのは――相手に悟らせないように使うのがコツなんだよ。ぶぁああああああああっっっかっっ! ひゃははははは!」
私は、その言葉を聞いて……思った。簡単にこう思った。
この男は――異常だ。今まで出会ってきたエンドー、カイル、ネルセス、前アクアロイア王以上に……、この男は異常な人格を持っている。そう私は思った。思ったと同時に、口に溜まっていた唾液をごくりと飲み込んで、弱々しく握っていたヘルナイトさんの手を、更に強く、そして弱々しく、震えながら掴む。
縋るように――私はその手を握った。
初めて来た恐怖――ううん。この恐怖はあの時……、サラマンダーさんに食べられる時よりも、スカル・スパーダに襲われそうになった時とは比べ物にならない。この恐怖は……、私達の人格を蝕む特殊な恐怖だ。
そう思った瞬間……、ダディエルさんはそれを聞いて、ちっと舌打ちをし、手に持っていた少し長めの針を指と指の間に挟めながら、彼は強がりを浮かべながら、彼は言った。アクロマに向かってこう言った。
「つまり……、お前は仲間の力を使って、俺達の動向やいろんなことを知った。そして俺達を完膚なきまでに潰そうとして、こんなことをしたってことか? 一体何のために……?」
その言葉を聞いたアクロマは「はぁ?」と、素っ頓狂な声を上げて、ごきりと首を傾げながら、彼は馬鹿にするような顔で彼はこう言った。
「何のため? そんなの――俺の力を試すためにだよ。それ以外に理由なんて……、ないだろう?」
「?」
試す? 試すって……、何をする気なの? アクロマの言葉を聞いた私は、恐怖の中から這い出てきた疑問に、私は首を傾げてしまう。みんなはそんなアクロマの言葉に疑念なんて持っていないかのような顔で見ていたけど、ダディエルさんだけはその言葉を聞いてすぐ――「そうかい……」と言いながら、ダディエルさんは手に持っていた長い針を逆手に掴んで、そのままアクロマのところに向かって、だっ! と、風のように……、風よりも早く駆け出して迫る!
「なら――その試すことが出来ねえように、ここで動きを止めて」
ダディエルさんは目でも微かに捉えることしかできないような速さで駆け出して、アクロマに向かってジグザグに動いて迫りながら言うと、それを聞いていたアクロマは……、そっとティズ君のナイフを持っていた手を上げて、彼はカゲロウの方を見ながらこう言った。
「――第二段階突破。次は第三段階だ」と言った瞬間、カゲロウはこくりと頷いてから、葉っぱの手に持っていたあるものを――
かちりと押した。
押した瞬間、私達が入ってきた入り口の左側から音が聞こえた。『ゴゴゴゴッ』と言う、機械のドアが開くような鈍い音が。
その音を聞いた私達は、すぐにその音がする方向を見て、ダディエルさんも走りながらそれを見ていたのだろう。見て――そして……。
ダディエルさんは、足を止めてしまった。突然、足を止めて、そのあとその開いたドアの向こうを見ながら、彼は……。小さい声で何かを言っていた。
手に持っていたその針を地面に落として、茫然とした表情でそのドアの向こうにいる何かを、じっと、見つめていた。
ティズ君と私、そしてヘルナイトさんは、その光景を見て驚愕に顔を染めたけど、そんな表情をしているのがダディエルさんだけではないことに気付いた。
ボルドさんも、クルーザァーさんも、ドアの向こうから来る人物を見て、まるで信じられない。こんなことありえないような目をしてドアの向こうから来る人物を凝視していた。
そのドアの向こうから来た人物は……、ひたり、ひたりと歩みを進めながら、暗い暗いその向こうからゆったりとした歩みでこっちに近付いて来るその人物に向かってアクロマはこう言った。
「さぁ――感動の再会だ」
~補足~
アクロマは『切り札』のことを『トランプ』と言います。
カードのトランプではなく、切り札を英語にした言葉ですのでご注意ください。




