PLAY57 BC・BATTLEⅤ(Ploy of heresy)①
アクロマは視界に映る映像を見て目を見開きながらその映像を凝視していた。
なぜ言ったその室内から出たアクロマがこんなところにいるのか、それは単純な理由。戦況を見るために一旦戻ってきたのだ。それだけだった。
一旦監視カメラの映像が流れている室内に戻って、もう一度今現在の戦況を確認しようとした時、彼は目を疑うようなその光景を見て、目を見開いて固まっていた。
固まって――凝視していた。
簡単な話――今の戦況はこっちが惨敗だ。
相手に多少のダメージを与えているにも関わらず、誰もその相手チームに対して、大きなダメージを与えずに終わってしまっている。
マリアンとろざんぬは四肢部位破壊され、煙突に括り付けられながら拘束されている光景が映っており。
ジンジとメメトリは気絶した状態でこれもまた括り付けられている。
クサビとヘロリドに至っては――ヘロリドはうつ伏せになりながら気を失って、クサビは壁に寄りかかりながら明後日の方向を見ている。
鐵は相手に傷一つつけることすら出来ずに敗退。
ガルディガルは、言わなくても分かる結果。
そんな光景を見ていたアクロマは、後から来たカゲロウの心配の声など聞こえていないかのようにその映像に食いつかんばかりに凝視して、彼は大きく舌打ちをしてから……。
「役立たず」
と、小さく、黒い音色で彼はその映像を見て、敗北した人物達が映りこんでいるその映像に向けて、机に置いてあったボールペンを手に取って、それをぶんっ。とダーツのように投げる。
こんっと、液晶に当たっては突き刺さらずに落ちていくボールペン。
からからと音を鳴らしながら落ちたそれを無言で見降ろすアクロマ。黒い影かかかってしまったかのような顔で、彼はそのボールペンを見降ろして、再度大きな舌打ちを出しながら彼はしゃがむ。
それをすぐに拾って、アクロマはそれを何回も、何回も何回も何回も何回も何回も何回も何回も繰り返しながら言葉を発する。
見開かれた眼光で、彼はつい先ほどまで見せていた余裕のそれをかき消して、無表情に、イラついているような音色で彼は言った。
「なんでこんな弱っちそうな奴らに負けてしまうんだ? 戦争オタクやオカマ、蟷螂女と発狂野郎はまだいい」
こんっ。からん……。こんっ。からん……。
「だが、だが――あの包帯男はかなり強かったはずだ……。即死効果を持っている詠唱だって持っていた」
こんっ。からん……。こんっ! からから……。こんっ! からんからんっ。
「なのに負けたっ。なんで負けた? 相手が強かったから? いいや、あいつらが弱かったからだ。だがだが……、あいつらは負けてもいい。あいつらはレベルが平均七十五で、包帯男が最強クラスだった。それは言い。それはいいが――」
ごんっ! ころんころん……。ごんっ! ころんころんっとん。
何度の何度も、液晶画面に傷がつくくらいアクロマはボールペンを投げつけては言葉を発しながら、それを繰り返し、繰り返し投げつけ、彼は心にほんの少し溜まってしまったストレスを吐き出し、液晶画面に向かって八つ当たりをしていた。
それを見ていたカゲロウは、その光景を見て気味が悪い…………、と言う感情は一切なく、ただ彼女はそれを見て、お労しいと思いながら、ぎゅうっと握り拳を作ってアクロマのことを心の底から心配していた。
そんな彼女の気持ちなどつゆ知らず、アクロマはいまだにそれを投げつけながら、彼は言葉を発する。先ほどよりも強く、そして荒い口調で、彼はどんどん苛立ちを露にしながら彼は言った。
「帝国から派遣されたあの男は何でぼろ負けしてんだよっ。強いんじゃないのか? えぇ? なんで俺の思い通りに事が運ばねんだよっ。どいつもこいつも俺の言うことを全く聞きもしない! 特にあのクサビはなんであんな風に負けておいて俺の加勢に来ないんだよ! 相手はちゃんと加勢しに行こうとして走っているじゃないかっ!」
何度目かになるボールペンの投擲をした瞬間、ボールペンはもう耐えきれないと叫んでいたのか、放って液晶画面にぶつかった途端、ぱりんっと音を立てて壊れて、地面に散らばりながらその一生を終える。
それを見たアクロマは、ぎりりっと歯を食いしばり、そして口の端から零れる何かと鉄の味を感じながら、彼は机に置かれていた分厚い本を手に持って、それを液晶画面に向けながら彼は――
「もっと俺のために働けや屑どもぉっ!」
と、発狂じみた叫びを上げながら、彼はその本を液晶画面にぶつけていく。
ごん、ばささっと地面に落ちていく本。
アクロマはその落ちてしまった本を拾わずに、すぐさま机に置かれてる本を掴んでは投げつけるといった感情のぶつけを繰り出していた。
未だにその映像が映っている液晶画面に向けて、彼は発狂じみた叫びを上げながら、何度も何度もそれを繰り返す。
「くそが。くそが。くそが。くそが!」
がん、ごん、こん、どん。ばさぁっと、次々と液晶画面に向けて本をぶつけていく。ぶつけながらアクロマは己の感情をぶつけながら、どんどん思い出してきたあの日々を鬱陶しそうな顔をして顔を歪ませ、彼は歯ぎしりをしながら――
「くそがくそかくそがくそがくそがくそがくそがくそかくそがくそがくそがくそがくそがくそかくそがくそがくそがくそがくそがくそがくそかくそがくそがくそがくそがっっっ!」
アクロマは思い出す。
自分以上に優れている人物の背中を思い浮かべ、その人物を超えるために、彼は努力を惜しまずに日々を過ごしてきた。楽しいなど一切ない。ただただ悔しい、妬ましい、苦しい。そんな日々を過ごしながら、アクロマは己の短所と相手の長所を重ね合わせて生きてきた。ずっと――生きずらかった。
ゆえに――生きやすい……、居心地のいい場所が欲しかった。欲しかったから彼は……、ずっとずっとずっと……、超えようとしてたのかもしれない。が、それももう長い間続けているせいで、どうしてそんなことをしているのか、よくわからなくなってきていた。
だが、今でもわかることがある。
このままでは――またあの人物に馬鹿にされると。
「ぐっぅ! うがぁ! ああああっっ! きぃやぁ! きぃぃいええええっっ!」
「あ、あく、アクロマさま……っ! アクロマさま落ち着いてください……っ!」
一心不乱に本を投げつけ、液晶画面に罅が入った瞬間、カゲロウはこのままではだめだと思い、アクロマの名を呼んで制止をかけようとした時……、机にあった最後の一冊を手に持って、アクロマはそれを力一杯振りかぶって、投げつける。
投げつけて、その本の角がひび割れたその箇所に強く触れた瞬間……。
――バリィンッッ! と、液晶画面が割れて、黒い画面に変わってしまった。
バチッ。ばちりと……、その割れた液晶画面から小さな電流の火花が飛び散る。それを見ていたカゲロウは、肩を揺らしながらゆっくりと呼吸を繰り返しているアクロマの背中を見る。カゲロウは震える声で、怯えながら彼女は聞いた。
「あ、あくろ、ま……さま」
「ああ、ああ、ああ。もういい。もういい」
アクロマはふっと顔を上げながら、彼は気怠そうにぶつぶつと呟きながら独り言をごちる。カゲロウの声など、聴く耳を持たずに。
アクロマは独り言をごちった。
「いや、あいつらは倒れても倒れなくても、こっちでなんとかすればいいんだ。そうだ。そのためのあの計画を実行しようとしたんだ。所詮は捨て駒。捨て駒だからいいんだ。こっちでなんとかすればそれでいいんだ。俺とカゲロウ、Zがいればそれでいい。それでいいんだ」
ぶつぶつ、ぶつぶつと呟きながら、アクロマは言う。
その言葉を聞きながら、カゲロウは心配そうに悪路魔の背中を見ていたが、アクロマはそんな彼女の気配を今更ながら気づいて――くるりと振り返りながら、彼はいつもの子供のような無邪気な笑みでこう言う。
「おぉ、カゲロウすまないな。無駄な時間を喰った」
「アクロマさま……。容体は?」
「容体? なんだそれは、まるで俺が変な病気にかかっているような言い方じゃないか。俺は正常だ。きっと血圧正常値の健康優良児並みの正常値だぞ」
「そ、そうですか……」
カゲロウはそれ以上の追及をしなかった。追求したかったが、先ほどの鬼気迫るそのアクロマの姿は異常だと、彼女は悟ったのだ。だからそれ以上の追及はきっと地雷だ。そう思った彼女は、アクロマの言葉に頷いてしまったのだ。
アクロマはそれを聞いて「そうかそうか」と言いながら、壊れてしまった液晶画面を見ながら……、小さな声で「これは修理だな」と言いながら、踵を返して彼はその部屋から出ようと歩みを進める。
そして入り口付近でカゲロウとすれ違いながら、彼は小さな声で、カゲロウの耳元で――囁く。
「絶対にあの作戦を実行するぞ。そうしないと――俺たちは完全に敗北する。その要は……お前と俺のあのスキルだ。いいな? 失敗は許されない。い、い、な?」
「………………はっ」
カゲロウはそんなアクロマの言葉を聞いて、胸に刻みながら彼女はアクロマの後を追うように、早足で向かう。彼の狂気を知ってもなお、彼女は彼の元で彼の忠誠を誓う。
自分を救ってくれたアクロマのために、彼女は彼に命を捧げると誓った。ゆえに彼女の意思に揺らぎなどもうない。今はアクロマとZと一緒に……、アクロマに仇名す輩を――排除する。
それが……、彼女にできるアクロマに対しての唯一の恩返しである。
――アクロマさま。このカゲロウ。あなた様のためなら……、どんな手を使ってでも、あなたさまの役に立ちます。私はあなた様に救われた身。
――身寄りもない私を救ってくださったあなた様のために、私は尽力を尽くします。それこそが私からあなた様への恩返し。そして私の悲願。
そう思いながらカゲロウはそっと顔を上げて、目の前を見据えながら歩みを進めて行く。Zが待っている最深部へ、彼女はアクロマと一緒に歩みながら進む。恩を返すために、そして――忠誠を誓った主……、アクロマのために、彼女は決意を固めてその場所へと足を進める。
最深部に来る人物達を迎え撃つために……。
□ □
長い長い階段を下りながら、私達はみんなのことを信じて暗くなってくる階段を下りていく。
一番先頭はクルーザァーさんで、その後に続いて階段を下りているボルドさん、ダディエルさん、ティズ君に私とヘルナイトさん。
さっき――リンドーさん達と別れて少しの間ボルドさんは後悔しながら俯いていたけど、ダディエルさんの言葉を聞いて、何とか持ちこたえてくれた。
それからすぐに私達は階段を下りながら走っているのだけど、どれだけ時間が経ったのだろう……。もうかれこれ五分以上は走って降りている気がする……。だんだん……、地味にだけど足がもつれてきた気がする。
走りすぎて呼吸も荒くなっている気がする。そう思って私は走りながら階段を下りて、ティズ君のほうを見た私は、その疲れを紛らわすようにこう聞いた。
「……て、ティズ君……、大丈夫? 疲れていない?」
ティズ君は首を横に振りながら平然とした顔で「全然だよ」と言い、そして続けてこう言う。
「こう言ったことはクルーザァーにかなりしごかれているから、平気だよ」と、淡々とした音色で、平坦な表情で言うティズ君。
私はそれを聞いて冷や汗を掻きながら、今ティズ君の言葉から何か聞いてはいけないことを聞いてしまったような……? と思いながら、ティズ君の顔を心配そうに見てしまう。ティズ君はそんな私の顔を見て、首を傾げながら頭に疑問符を浮かべていた。
そんな話をしていると――前から……。
「未成年二人! そんなところで雑談なんてするな。もう最深部は近いんだ。気を引き締めろっ」
「「あ、はいっ!」」
クルーザァーさんの鶴の一声が耳に飛び込んで来て、私達はびくりと体を震わせながら顔を引き締めて走りに集中する。
そんな言葉を聞いていたダディエルさんは呆れた音色と表情でクルーザァーさんを見ながら、まるで小馬鹿にするようにこう言った。
「おーおーおー。怖いねぇ。職場の男お局は、新人いびりがひどいねぇ」
「それ以上の暴言は上司に対しての陰口とみなすぞ。それでもいいのか?」
「はいはい、お局の目に触れないように精進しますって」
「…………………~~~~~っっっ!」
「二人ともぉ……、ちょっとは緊張感を持ちなよ。後ろにいる二人がこっちをじっと見ているんだから、ね?」
ダディエルさんはクルーザァーさんに言うと、それを聞いていたのは、クルーザァーさんは振り向かずにダディエルさんに向かって注意をするけど、当の本人はそれを聞く耳を持たずに肩をすくめてしまっている。
そんな光景を見ていたボルドさんはおどおどと女の子が喧嘩の仲裁に入る様な面持ちで二人の間に入りながら制止を促していた。
そんな光景を見ながら、私はなんだか……、不安を抱いていた。
この光景を見ていると、どんどん心の奥底からこみあげてくる不安が姿を現してくる。よくある拭っても拭っても拭いきれない不安。
嵐の前の静けさ。
メグちゃんやつーちゃんはよくしょーちゃんもこんな『自分はこうならない』的なことを言って痛い目を見ていたそれを『お笑いの基本』や、『フラグ回収』と言っていたような空気だけど、それとは比べ物にならないような不安だった。
どろどろと私に降りかかってくる不安。
それを感じながら、下に行くにつれてその粘り気と濃さ、そして密度を増していく何か。
私はそれを感じながら、そのどろどろとしている何かを感じながら、私は走りながら口元に手を当てる。
理由として――一つはそのドロドロとした何かを口から、鼻から吸いたくないという拒絶……。
もう一つは込み上げてくる何かを止めるためにそうしている。
「…………大丈夫?」
ティズ君が心配そうに私の顔を見ながら聞くと、私は口元に手を当てながら控えめに心配させないように微笑みながら口に手を当ててこう言う。
「大丈夫……。うん、大丈夫だよ」
「……………そう? でも、吐きそうな顔をしているから……、無理はしない方がいいよ?」
「…………………むり、は、しない。よ……?」
私は無理に笑ってごまかす。それを見ていたティズ君は、少し納得がいってない、でもその言葉を尊重するような面持ちで、ティズ君はそれ以上の追及をしなくなった。そして走って降りることに専念した。
私はそんなティズ君を見て、心の中でごめんねと言うと、私は口元を押さえてしまっては心配をかけてしまうと思い、そのまま口に当てていたその手をどかそうとした時――
「ハンナ――」
「!」
突然だった。突然凛とした音色で――ヘルナイトさんは私の名前を呼んだのだ。私はそれを聞いて、振り向きながらヘルナイトさんを見上げると……、ヘルナイトさんは私を見降ろしながら走ってこう言った。
「無理は禁物だ。そうでもしなければいけないのなら、気分がよくなるまでそうした方がいい。今の私やみんなでは、ハンナのその苦しみを請け負うことはできない」
と言いながら、走りながらヘルナイトさんは私の背に手を添えて、そのままゆるゆると撫でながら続けてこう言う。
「だからハンナ――無理をして虚勢を張るのはだめだ。着いたらすぐに私の背後に回れ。少しでも和らげればいいのだが…………」
その言葉を聞きながら、私はヘルナイトさんの言葉の優しさ、背中に感じる温もりを感じながら、私はヘルナイトさんの優しさに感謝して、口元に添えていた手をそっと戻しながら、控えめに微笑んでこくりと頷く。
それを見たヘルナイトさんは、「よし」と言いながら、背中をさすっていたその手を離す。そして走ることに専念しながら下へと降りていく。私達の背後で、殿を務めながら……。
背中にあった温もりがなくなったせいで、私は少しだけ残念だという気持ちになってしまったけど、今はそんなことを考えている暇はない。
そう思いながら私は駆け出す。
口元に手を添えながら、さっきまで感じていたどろどろとした何かを体で受けながら、私は駆け出す。
どんどんとだけど、下に向かっていくうちに理解していく。このどろどろとしたものは――
もしゃもしゃだ。
それも黒いものと一緒に、色んな負のもしゃもしゃが入り混じって、私達を煙で殺すように渦巻いているんだ。いろんな負の感情。いろんな劣等を抱いた感情。
みんなは感じてない……。ううん。ボルドさんも感じているらしく、自分の目の前を覆う何かを手で払いのけるように掻い潜りながら走っている。
それを見た私はやっぱりもしゃもしゃなのだと理解して、一歩一歩走りながら降りていく。
そのもしゃもしゃを放っているのがだれなのかはわからない。でもなんとなくだけどそのもしゃもしゃを放っている人物がだれなのかは、仮定できる。
その人物はきっと……………。
「あったぞ! 最深部だ」
『!』
一番前にいたクルーザァーさんが声を上げた。
それを聞いた私達はすぐに顔を上げて、黒いもしゃもしゃで覆われているけど、僅かに光が差し込んでいるその場所を見た。
私にはそう見えるけど、きっとみんなには階段の終わり――次の空間への入り口に光が見えるのだろう。
その言葉を聞いたみんなは、どんどん走りを加速させてその場所に向かおうとしているクルーザァーさんの後を追うように走る速度を上げる。
私とティズ君、そしてヘルナイトさんもそれを聞いて、互いの顔を見ながら頷き合って、すぐにみんなの後を追うと……。
「! あ」
私はその空間に出た途端、口元を押さえていたその手をそっと離して、その空間内を見た。
その空間は今までのドーム状の空間とは別格の広さと高さを誇っている。なにせ、ここは地上からかなり離れた場所……と言うか、深さがあるのに……、暗くない、ほんのり薄暗いような空間だった。
なんで電気もないのに、ほんのり薄暗いのかな……?
と思って上を見上げると……、その答えがすぐに見つかった。
一番高い天井には透明なガラスが張られていたのだ。
その天井のガラスから見える大きな半月が顔を出しているおかげで、辺りが暗くないのだ。これがもし朝だったらきっと日の光を浴びてこの空間は地下なのに明るい世界になっているだろう……。きっとだけど……。
そしてその光を受けるようにその空間の真ん中にはちょっと高めのステージみたいなものがある。
シェーラちゃんやキョウヤさん、そしてリンドーさん達と別れた場所とは違って、その場所には色んな機械が置かれて、壁には電気自動式の…………見た限り五メートル以上ある大きな自動ドアがいくつもついていた。
その箇所だけ薄暗く、電気なんて一個もついていない。
それらを見回しながら私はいつの間にか消えているもしゃもしゃに気付いて、辺りを見回して見る。
どこにも人がいない。
私達以外の人がいない。
「ここは……、何なんだ?」
「僕も知らないよ……。それに何をするところなんだろう……」
「てか、こんなところに本当にアクロマがいるのか?」
クルーザァーさんも、ボルドさんも、そしてダディエルさんもその光景を見ながら、あたりに自分たち以外の刃部違いないことに戸惑いを感じているらしい。ティズ君も短剣を引き抜きながら険しい表情で待機をしている。
私も辺りを見回しながら、誰かいないのかと思いながら見ていると――ふっと、私の目の前に影が差し込んだかのように、薄暗くなる。ちょうど月の光を前にしていたので、その光が突然消えたかのように暗くなった私は、すぐに前を向く。
前を向いた瞬間、私の目の前に広がったのは、大きな背中とマント。
そう――ヘルナイトさんが私の前に立って体験を構えながらあたりを見回していたのだ。あの時、階段の時に言っていたことを、さっそく行動に移したのだろう……。
そんなヘルナイトさんの優しさを再度確認して、私はすぐに辺りを見回しながら、さっきまで放っていたどろどろのもしゃもしゃを感じていると……。
かっ!
と、ステージのようなところを目映く照らすようなライトが照らされ、突然来たその光を見ながら、私達は驚きと困惑が混じった顔でそのステージがある方向を見た。その場所には、今までいなかったのに三人の人物がそこにいて、一人はそのステージに腰かけながら私達を見ていた。
ステージの前でじっと、私達のことを見ながら仁王立ちになっている男の人と女の人は、ただ私達のことをじっと、冷たい眼で見ていた。
男の人は白衣を身に纏ったジャージ姿の黒髪の青年。肩まである髪の毛。そして常にへの字にしている口元、吊り上がった目を見て私は、どことなくティズ君に似ていると思いながら、黒いジャージに白衣。靴は緑色のプラスチック製のサンダルといった簡素な服を着ているその人を見た。そしてティズ君照らし合わせるために、ヘルナイトさんの後ろからティズ君のほうを見た時――私は驚いた目をしてティズ君を見た。
ティズ君は、さっきまで兵器そうだった顔を一気に青く染めて、ぶるぶると震えながら恐怖のもしゃもしゃを噴出させて身構えていた。
だらだらと出る汗を拭わず、ティズ君はその人のことをじっと見ながら、何かに耐えていたように見えた。
対照的に、その黒髪の人はティズ君のことを認識したとたん、ちっと大きく舌打ちをしてから白衣のポケットに手を突っ込んで、前のめりになりながらティズ君を睨みつけていた。さながらやくざのような目つきで……。
そしてもう一人の女性は――褐色の肌に吊り上がった銀色の目と長い耳が印象的な人。エルフに見えると私は思い、そしてマスクをしてても分かる様な綺麗な顔をした人で、長髪をツインテールにしている。服装は黒一色の忍装束で、袖が切り取られていると言った一風変わったデザインのそれであり、隠れやすい服装ではなく、動きやすさを重視した服装になっていることは私でもわかった。足袋も靴も履いていない。砂利だとすぐに傷つきそうな素足の状態でいる。口元にマスクをつけた女性で、その人は私達のことを見て、ただ観察する様に見ていた。ボルドさんはその人を見て首を傾げながら――「あの人……誰だろう」と、小さく呟きながら言うと、突然ボルドさんやみんなに向かって――最後の一人がそっとステージの上に立ちながら、両手を勢い良く広げてこう言ったのだ。
白衣を着て、見たことがないようなデザインのスーツを着て、肩から拳銃ホルダーを下げている。革製の白い靴を履いて――金色のメッシュを入れた黒髪の、吊り上がった目をして、眼鏡をかけたその人は――体から出ている黒くてどろどろとしたそのもしゃもしゃを出しながら、その声に反応する様に、うねうねしていたそのもしゃもしゃも活発に蠢きだした瞬間――男は言った。
「ようこそ侵入者!」
と言った瞬間――彼を取り巻いていた黒くてどろどろとしたもしゃもしゃは、ぶわっとまるで何が押し寄せてくるような動きをして私達に覆い被さろうとする。これでは――粘り気を帯びた大波だ。
それを見上げた私は、驚いて反射的にヘルナイトさんのマントにしがみついて抱き着いてしまう。
ヘルナイトさんの驚きの声が聞こえたけど、ヘルナイトさんは私に事を守るようにただじっと前を――言葉を放っている男の顔を見て動かないでいてくれた。
そのおかげで――私はその黒いそれをかぶることはなかった。
息を殺すように止めて、その臭いと感覚を吸わないように堪えていると、メガネの男は私達に向かって――まるで演劇でよくやるオーバーな演出をしながら、くるり。くるりと回りながら彼は続けてこう言った。
「ここは『デノス』ッ! バトラヴィア帝国の中核にして第一の核である! この場所に到達したこと――褒めておこう! そして勇敢なるお前達に敬意を称しようではないかっ! お前達の強さ、そして何物にも恐れないその勇気! この私でも、貴様らのその何物にも恐れない有機には感服したと同時に、哀れと思ったぞ! なぜって? 貴様らはこの私に倒されるのだからなぁ!」
「っ」
メガネの男は言いながら、月を見上げて高笑いでもするかのように言う。でも……、私は違和感を抱いた。
なんだか――演技臭いような……。そんな雰囲気を感じていると、男は突然、広げていた手をだらんっと下ろして、そのままふぅっと、夜空を見上げながら息を吐いた。
まるで何かを終えてすっきりしたようなそんな溜息。それを聞いて、私はヘルナイトさん越しにその男を見ると、男は私達のことをちゃんと、目を見て見降ろしてから彼は――
「と、従来のゲームに出てくる大ボスのセリフはここまでだ」
と言いながら男はかつんっと、白い靴の靴底を強く床に叩きつけて音を鳴らしながら男は………、きっとだけど、私は直感した。
ううん。さっきの予想が当たったと言った方がいいだろう……。
その人――黒いもしゃもしゃの正体でもあるアクロマは私達を見て、嘲笑うような笑みで見降ろしながらこう言った。
「改めまして――『デノス』へようこそ。俺はアクロマ。そしてこっちにいる男はZ。そして女はカゲロウ。お前達の目的はもう知っている。帝国に入るためのカードキー。そして……、俺に対しての仇討ちだろう? 紅の裏切りもあったのにすごい気持ちの切り替わり方だ。そしてリンドーじゃなくてボルドが変わって来たのは驚いた。そして……、俺が持っている裏技の銃を奪うために、永久監獄に投獄させるためにここまで来たことには褒めておこう。はいはいご苦労様」
アクロマはぱちぱちと拍手しながら白衣を着た男――Zと、忍び装束を着た女――カゲロウを指さしながら彼は続けて言う。
その言葉に私達は驚きを隠せずに固まっていると、アクロマはそれを嘲笑いながら「ははは」と肩を震わせて、犬歯が見えるような笑みを浮かべていた。
私やヘルナイトさんでも知らないようなことも知って、あろうことか作戦の内容まで知っているような……、まるで予知していたかのような言葉を聞いて、私は混乱しながら未だに邪悪に笑っているアクロマを見上げることしかできなかった……。
全部見ていたかのようなその言葉に、私は驚きを隠せずにヘルナイトさんの背中越しでその光景を見ることしかできなかった……。




