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PLAY56 BC・BATTLEⅣ(Fight to The limit!)④

 ここで解説をしておこう。虎次郎が立てた作戦の全容を。


 虎次郎は(あらかじ)めここ――『デノス』についた時、彼はあるものを手に取って、もしもの時はそれを使って盾スキルを使おうとした。


 それはマンホールの蓋。


 キョウヤが派手に侵入する時、マンホールごと敵に槍の攻撃を繰り出した。あの時のマンホールである。


 それを偶然近くで見つけた虎次郎は今現在己の手にない盾の代理ができるやもしれないと思い、彼は音を立てずにそのマンホールをリュックの様に背負ってここまで来たのだ。


 しかし――そのマンホールを使って防御することは不可能と悟った。クサビとヘロリドの攻撃を受けながらヘロリドを見て思った。


 一瞬……、ほんの一瞬でもいいから隙を作れば。


 と思った時、虎次郎は背にあるものを思い出した。


 思い出して、すぐにそれを活用しようと思ったのだ。


 ――そうだ。これを使って一瞬の隙を作れば。


 そう思った虎次郎は、シェーラに自分がたてた作戦を提案した。


 内容はこうだ。


 まず――シェーラと虎次郎は二手に分かれて各々作戦を実行する。シェーラはヘロリドに向かって最初は魔法攻撃を放ち、その後で物理攻撃を繰り出す()()をする。


 シェーラが目の前にいる分――ヘロリドはそのシェーラの行動を注意深く見るであろう……。後方支援特化の所属は周りを見て行動する。それが鉄則なのだから――


 それを知っていた虎次郎は、すぐさま背に背負っていたマンホールを片手に、まるで円盤投げでもするかのような構えを取りながら、彼はシェーラが伏せようとした瞬間を見て、すぐに行動に移したのだ。


 ぐるんぐるんっと虎次郎はその場で回りながら、クサビとヘロリドは今まさにシェーラの行動を見ながら首を傾げている。


 その一瞬の隙を逃すわけにはいかない。


 そう思った虎次郎は、ゆっくりだった回転に速度を入れながら、ぐるんぐるんっと回り、そのまま勢いを殺さずに、彼はそのマンホールの蓋を、力一杯振り回して投げつけたのだ。


 ぐるぐると回転しながら飛んでいくマンホール。


 それを見ないで、ヘロリドはシェーラの行動に疑念を抱いていたが、クサビはそのマンホールが飛んでいく光景を目にして、声を発しようとしたが――


 遅かった。発しようとした瞬間、すでにその壁は壊れて、マンホールも反動で跳ね返って、虎次郎がいたところに向かって急速に飛んでいき、壁に激突する。その際――マンホールはもう寿命だったのか、壁に駅突した瞬間音を立ててガラガラと床に散らばってしまう。


 そんなマンホールの末路を見ずに、虎次郎は素早く、音を立てずにクサビに向かって駆け出し、シェーラに気を取られているクサビの懐に入り込んで……、そのまま。


 しゃりん。と――虎次郎はクサビの胴体に峰内を入れたのだ。刃がついていない方で攻撃をして、虎次郎はクサビに気付かれずに攻撃を繰り出した。


 これが――虎次郎がたてた作戦。殆ど運任せのような、虎次郎次第でその勝敗が決まってしまうような作戦を見事成功させたのだ。本当に虎次郎が(かなめ)の即興作戦である。


 それを聞いていたシェーラは内心どうなるのか不安だったが、その作戦が成功して、そしてクサビをこの場で倒して、ハンナに危険が及ぶことはなくなったと思い、彼女は安堵したということである。


 が――すぐにその安堵も消え失せ、シェーラは虎次郎のことを睨みつけながら、彼女は気付いてしまう……。


 ……正直な話、シェーラはなんとなくだが、()()()()()()()()()()()使()()()()()()()()ことに対して、些か腑に落ちない、納得いかないと思ったのは……、ここだけの話……。



 ◆     ◆



「それにしても……、よく成功したと思うわ」


 意外と……。


 シェーラは倒れて気絶しているヘロリドを見ながら言うと、それを聞いていた虎次郎は「はっはっは」と、腰に手を当てて、いつものように豪快に笑いながら彼はこう言う。


「儂もその件に関しては正直驚いておる。こんな風に成功するとは思っても見なかったからのぉ」

「一応聞くけど……、この作戦がもし失敗したときは……、どうするつもりだったの?」

「その時はその時じゃ! いやはや成功して本当に良かった良かった!」

「はぁ」


 シェーラは虎次郎の言葉を聞いて、ああ、やっぱりなと思いながら頭を垂らす。そして彼女も本当にこの作戦が失敗しなくて本当に良かったと、心の底から思った。


 彼女は確かに虎次郎のことを知っている。と同時に、虎次郎の短所も知っている。虎次郎は確かに剣の達人のような動きと技術を持っている。そこはシェーラも認めるほどの実力だ。


 が、彼には大きな欠点が二つもあった。


 一つは外来語――言わゆるカタカナが絶望的に苦手なのだ。発音はまだしも、文字にすることはできない。それはまだいい、まだいいのだが……、虎次郎の最大の欠点……それは。




 計画性が全くない。




 人間誰しも、受験勉強や色んな場面で計画を練ってから行動するであろう。虎次郎はそんなことを全くしない。すべてにおいてぶっつけ本番と言った方がいいであろう。作戦であろうと、ほとんどがその場で思いついた即興。穴がありすぎる作戦なのだ。


 もしそれで失敗したらと聞かれたら、彼は百パーセントの確率でこう答える。


 まぁ何とかなるだろう。


 とまぁ、なんとも不安要素しかない状況でよく作戦を実行するなと、シェーラは思っていた。呆れながら思っていたが、不思議なことにそれが失敗することはあまりない。運がいいのかはわからないが、それで失敗したところを見たことがないのも事実。


 そんな運の良さを垣間見ながら、シェーラは再度深い溜息を零す。零したと同時に顔に手を当てながら彼女は思った。


 ――師匠のモルグ……、あとでしっかりと見ておいたほうがいいかも……。と……。


 そんな彼女の表情を見ながら、虎次郎は首を傾げて「どうした?」と聞くが、シェーラは顔から手を離して首を横に振りながら「なんでもない」と、そっけなく答える。


 そしてシェーラは、とある男に視線を移しながら、つかつかと早足で歩んで、壁に突き刺さっている己の剣を引き抜いてからすぐにそれを元の鞘に戻して、そのあとでシェーラは、ずんずんっとその人物に向かって近付きながら歩みを進める。


 虎次郎はそんなシェーラの行動を見ながら、何も言わずに腰に手を当てながらふぅっと息を吐く。


 シェーラはそんな虎次郎の行動を無視しながら、彼女はある人物に向かって歩みを進めて、その人物の服をがしりと掴む。滑って落とさないように、彼女はしっかりとその服を掴んで――持ち上げた。


 大の男のように、上に向けることができずとも、自分の近くにもっていくことはできる。


 シェーラはその男――クサビの服を掴み上げながら、彼女は今の今まで聞きたいと思っていたことを聞こうと、目を閉じて気絶してる彼の顔に向けて、掴んでいない手を空中に向けて振り上げながら――一気に振り降ろす。


 バチィンッッ! と、クサビの頬に平手打ちする音が空間内に響いた。


 それを受けたクサビは痛みに耐えるような歪んだ顔をしてから、すぐにはっと意識を覚醒させて目の前にいるシェーラを見て再度驚いた顔をする。


 驚いた顔を見たシェーラは、掴み上げていた手に力を入れながら、クサビから手を離さないようにして彼女は聞く。鋭く睨みつけながら、彼女はクサビに聞いた。


「あんたに――聞きたいことがあるの」


「な、なんだ……? 私に、聞きたいこと……? なんだ、それは……っ」


 クサビは今の状況をいち早く理解し、己の立場を悟った。


 自分はもう意見を言う立場ではない。自分はもう敗者で、勝者の要件を聞かなければいけない。よくあることではあるが、彼はそのことを悟り、断るという選択肢をなくして、彼はシェーラの言葉を聞く。


 シェーラはこう聞いた。クサビに対して――彼女は……。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」


 その言葉に対し、クサビはシェーラのその氷のような冷たい目を見て、目を見開いて固まってしまった。


 が、すぐにそれも解けて、そっとシェーラから視線を逸らそうと、目だけをくっと動かす。


 左斜め下の方向に視線を移すと、それを見ていたシェーラは、掴み上げていたその手に力を入れて、彼の首元をきつく締め上げる。


「――っ! かふっ!」

「っ! おい()()()()


 クサビの表情を見て、さすがにこのままではまずいと思った虎次郎はシェーラの肩を掴みながら止めに入ろうとした。


 しかしシェーラはそんな虎次郎の行動を読んでいたのか、彼女は掴み上げた状態で、虎次郎のことを見ないまま彼に向かって、静かで真剣な音色を乗せた言葉でこう言った。


「大丈夫よ師匠。死なせはしないわ。そんなことは絶対にしない」

「………………………」

「私は、ただ聞きたいの。聞きたいことがあるから聞いているの。この男は吐くまで、私はやめないし、止めない。殺しはしないけど止めないわ。だから私を止めないで。師匠」


 シェーラは掴み上げていたその手を、ほんの少し緩める。緩めてもらったおかげで、クサビの気道が確保される。


 それを感じたクサビは、「ぷはっ!」っと息を一気に吐き出して、そのまま新鮮な空気を灰に送り込んで酸素を体内に取り入れる。


 そして不要な二酸化炭素を吐き出して、彼はシェーラのことを見上げながら、小さく、掠れるような声で彼はこう言った。


「こ、こん、こん……、こん。お、お前達の……、作戦が、()()()だった……ということについて、き、聞きたいのだろう……? わ、私は負けたんだ……。もう、こうなったら、自棄だ。教えてやる」


 クサビの言葉を聞いた二人は、口に溜まった唾液を飲み干すように、ごくりと喉を流しながらクサビの言葉を余すことなく聞き取ろうとする。顔を近付けて、二人はクサビの言葉を待つ。


 クサビはそんな二人の顔を見て、少ない情報を聞き出すためにこんなにも真剣になって……。こんな奴らに負けてしまったのか……、悔しいが事実。本当のことを言おう。


 どうせ――アクロマは()()()()()()()に、()()()()を実行に移すと思うからな。


 そう思いながら、彼はそっと狐の口を開けて――シェーラと虎次郎に聞かれたことを、余すことなく伝えた。嘘偽りのないことを伝え、目を見開いて驚く二人を見て、嘲笑いながら、彼は告げる。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……。彼はシェーラと虎次郎にだけ、真実を告げたのだった。



 ◆     ◆



 そんなシェーラ達の戦闘が終わった丁度その頃――キョウヤはというと……。


「『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』ッ! さっさとその男を殺せっ! 殺すんだよっっ!」

『御意』


 顔に包帯をぐるぐる巻きにした鐵が、自分の影から出てきている『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』に向かって命令を下す。


 彼はその場で立ち尽くしながら、ぎゅんっと飛ぶように向かっていく『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』を見ながら戦況を見る。


 と言っても、この戦いは始まって少し時間は経っている。下から聞こえる轟音を聞きながら、鐵は焦りながらその光景を見る。


 未だに傷一つつけることができず、己の影――『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』の攻撃を軽々と躱しながら動いている無傷のキョウヤを見て、鐵は焦りを募らせる。


 ――なんで傷一つつけれない……っ!? なんであんなに余裕な態度で避けれるんだっ!?


 鐵は焦りながら思った。思って、未だにくるん、くるんっと回りながら避けているキョウヤを睨みつけながら、彼は思った……。


 ――なんでこの僕の攻撃を……っ! 『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』の攻撃をいとも簡単に躱して、更には攻撃をしているんだぁッ!?


 その言葉通り、彼の攻撃はキョウヤに全く届かず、あろうことかキョウヤの攻撃はすべて――鐵の影……『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』に届いていた。


 はたから見れば当たり前だろう。そう思う人も数多くいるかもしれない。キョウヤは槍に関しては天賦の才を持っている。それは誰もが認めるほどだ。ジンジと同じスタイルで戦っている鐵など、相手にならないだろう。そう誰もがこの時は思っているかもしれない。


 が――鐵はそこら辺にいるプレイヤーとは違う。今の今までは噛ませ犬のような立場で何度も何度も負けてしまっていたが、彼自身は相当レベルも技術も上なのだ。俳優をやっていた経験のおかげなのか……、刀の立ち振る舞いも様になっている。


 人間性は少々残念なところがあるが、技術の方ではビギナーではなくアドバンスト。上級者レベルである。


 が――そんな上級者の彼が、キョウヤの動きを見て、どんどん焦りを募らせて、顔から噴き出る汗が包帯に染み込んでいく感覚を覚えた。キョウヤを見て、鐵は思った……。


 ――こいつ……、ただの蜥蜴交じりの人間じゃない……っ!


 そんな彼の思考と感情に、更に拍車をかけるように、キョウヤは淡々と、今まで見たことがないような冷たい目つきで、『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』に立ち向かう。


最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』が刃こぼれがひどい刀を振り下ろしても、キョウヤはそれを見ながらくるんっと横に逸れるように一回転して、そのまま回りながら『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』の腕を槍で切りつける。


 それを受けてしまった『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』は、驚きはしたがすぐに攻撃を続けるように、今度は横に薙ぐようにして、その刃毀れがひどい刀を振るう。


 ぐるんっとキョウヤがしているように、『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』も回りながらキョウヤに攻撃しようとするが、それでもキョウヤは冷静にその攻撃を見て、槍でその攻撃を防いだ後、刀を握っているその手に向けて、腰を捻りながら片足を軸にして、回転蹴りを繰り出す。


 がすんっと言う音とともに、『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』はその手の痛覚を感じて、彼は反対の手で蹴られたその手をさすさすと撫でる。


 痛みで零れてしまううめき声を上げながら。


 それを聞いていた鐵は、焦りと共に吹き出してしまう怒りを『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』に向けながら、彼は叫ぶ。


「何してるんだ『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』ッ! 少しはダメージを与えないかっ! お前は僕の影なんだろうっ!? お前は強いんだろうっ!? 少しは僕の役に立てっ! このボケッッ!」


 鐵は『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』に向かって指をさしながら怒声を吐く。


 それを聞いていた『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』は、絶対的主人である鐵の怒りを垣間見たいのか、彼はぎょっとしながら鐵の方を振り向いて『ぎょ……っ! 御意っ!』と慌てた様子で返事をした。


 その光景を見ていたキョウヤは、一旦動きを止めてから頭をがりがりと掻いて、そして呆れたかのように首を傾げてから大きくて、長い溜息を吐く。


 それを聞いていた鐵は、キョウヤのその大きな溜息を聞いて、再度苛立ちを覚えたのか、包帯越しに青筋を大きく浮かび上がらせながら、彼はキョウヤに向かってその怒りをぶつける。びしりと指をさしながら彼は怒鳴ったのだ。


「…………っ! なんなんだその態度はぁっ! お前……、一体何なんだよぉっ! 攻撃しても躱されて、そのあとで姑息に攻撃をしては僕のことを嘲笑うかのようにスキルなんて使わないでただの槍の攻撃で『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』をここまで追い込むっ! お前……、少し顔がいいからって、調子に乗らないほうがいいぞぉっ!? 僕も本気を出せば、お前なんてけちょんけちょんなんだっ! お前のような戦士上級所属、僕のような暗殺者上級所属……、雲泥の差があるんだよぉっっ! お前なんて僕が本気を出せば」



「なら――だしゃいいんじゃん」



「ん?」


 鐵はキョウヤの言葉を聞いて、一瞬こいつは何を言ったのだろうと思いながら首を傾げていると、キョウヤは再度頭を掻きながら、苛立っているような音色で「だぁかぁらぁ……」と言いながら彼は、じろりと鐵のことを睨みつけながら、キョウヤは今までハンナ達に見せたことがないような冷たい怒りを鐵に向けながらこう言った。



「お前が攻撃すればいいじゃねえかって言ったんだよ。たんだ自分の影に向かって命令するだけの甘ちゃんがよ」



「………~~~~~っ!」


 その言葉を聞いて、鐵はビキビキと包帯越しに青筋を浮き上がらせて、そこから血が噴き出そうなくらいその血管を太くしながら、怒りの沸点を超えそうなところで何とか踏みとどまりながら、鐵は言う。至って平静であるそれを見せつけながら――彼はその嘘の仮面をつけて言う。


 ここでも、彼が俳優をしていた時の技術が役に立った。鐵は己の技術に感謝して――キョウヤに向かってこう言った。


「な、何を言い出すんだ……? 僕直々に手を下さずとも、お前なんか『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』一人で充分」

「オレが言いたいことはそうじゃねえよ」

「…………………?」


 キョウヤの言った言葉に疑念を抱いた鐵はキョウヤのことを見ながら首を傾げる。


 キョウヤはそんな鐵のことを見ながら手に持っていた槍を肩に乗せて、彼は心底呆れたような表情で鐵のことを見ながらこう言った。


「あんたさ――今の今まで強い敵と戦ったことないだろ?」

「……………………………………? そ、それがどうしたんだ?」

「どうしたもこうしたも、言葉通りの意味だっつうの。お前さ……、こんな話を知っているか? 熟練者っていうのは、剣と剣を交えた瞬間、その人の技量を見極めることができるって話……、漫画のような話かもしれねえけど、オレのじいちゃんはそんな人だった。一回戦っただけで、その人の技量を見極める術を持っていた。オレに槍のことを教えてくれたじいちゃんは、オレと一戦交えただけでオレの技量を見極めた。それからすぐオレに負けた。じいちゃんは負けたのに喜びながらこう言っていたよ。『おまえは天才だ』って。持ち上げながら言ってくれたんだ。オレが小さい時のことだけど」

「……………………………」

「オレは正直そんなことまではできねぇ。ただ持っている才能を持て余しているだけの人間だし。この才能だって、本当に使いこなしているのかすら不安になってきているんだけど……、あんたを見ているとそんなこと正直どうでもよくなってきたんだよ」


 キョウヤは頭をがりがりと掻きながら言う。


 ほんの少し――突然自分の元からいなくなってしまった祖父(ししょう)のことを思い出して、寂しそうな表情を浮かべたが……、その表情を一気にかき消して、彼はすぐに鐵のことを見ながら続けてこう言った。


「あんたと戦って――いいや。あんたの影と戦いながらあんたを見てはっきり分かったことがある」


 キョウヤは鐵に向かって指をさしながら、彼は怒りを隠しきれていないような曇った表情で、怒りを見せつけながらこう言ったのだ。



「あんたはオレよりも弱い。めちゃんこ弱い。だからオレはスキルなんて使わないんだよ。無駄だって思うし。でもな、あんたのその何もできねえくせに何でもできるっていう態度がむかつくんだよ。何もできねえなら引き止めるなんて言う大役を担うんじゃねえ。弱者おっさんがよ」



 目を点にして、包帯越しでその言葉を聞いて絶句しながら、鐵は固まる。そんな光景を見ていた『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』は、少し慌てた素振りで鐵とキョウヤを交互に見ながら、彼は攻撃か援護のどちらをすればいいのか迷っていた。見た目にそぐわない慌てようだ。


 主人のためを思っているのであれば、彼は鐵に対して絶大な忠誠を誇っていると言っても過言ではないだろう。


 だが、それでもキョウヤは固まっている鐵に向かって、彼は笑みを浮かべず、真剣な表情と音色で告げた。


「オレは確かにこの才能でここまで進んできた。色んな奴と出会ってここまで来た。でもあんたのようにとことん相手任せの奴は初めてだったよ。自分じゃ何もしないで、相手にだけ汚れ役を任せる。あんたのような屑の男は生まれて初めて見た。だから思った。こんな奴に――手加減とかそんなもんはいらねえ。持っている力を使って――()()()()()極限まで戦ってみようってな。あんたに手加減なんて――ご褒美だろう?」


「――っ!」


 そんなキョウヤの言葉を聞きながら、鐵がぎりりっと歯を食いしばり、口の端から歯ぐきからこぼれ出てしまった血を垂らす。その血が顎を伝って、床に赤い点を残していく。


 それを見ながら、キョウヤは続けて彼を煽る。はっと嘲笑うように、キョウヤは鐵に向かって肩をすくめながら――


「おいおい。オレは正直なことを言っただけだぜ? 図星だったのかよ。さっきまでの余裕な態度も嘘だったってのか? あんたやっぱオレが思った通り、中身が何もない――空っぽのような人間だったんだな」

「~~~~~~~~~っっっ! こ、こいつうううううううううううっっっ!」


 キョウヤの煽りを聞いた鐵が、包帯越しで歯ぎしりをしながら、口元の包帯を赤く染めて、血走った目でキョウヤを睨みつける。


 そんな鐵の顔を見たキョウヤは、すぐにその煽る様な笑みをやめてから、彼は真剣な目で鐵を見てから――こう言った。否……提案したのだ。

 

「お前――強いんだろ? なら全力で、オレを殺す気で止めろ。自分の手を汚さないで勝つなんてことは絶対にできねえんだよ。こう言うときは隠しっこなしで挑むのが――普通だろ? その代わり――オレも本気でお前を()()()()()()()()

「――っっ!」


 ぎりぎりと言う大きな音が聞こえる。それは鐵の口元から聞こえてくる。それを聞いたキョウヤは、内心そこまで歯を食いしばるようなことかよ……。と思いながら、彼は鐵に対してこう畳みかけた。


 突きつけていたその指を下ろし、今度は肩に乗せていたその槍を持ち上げて、そのまま鐵に向けてその槍を向けて、指でも指すかのように――彼はその槍の刃を鐵に向けながらこう言った。


「それとも――勝てないと思って、逃げる算段をたてながら戦っていたのかよ? マジチキンだな。()()()()()()()()

「っっっ!!」


 不細工。その言葉は――彼が最も嫌いとする言葉で、今まさに自分もそんな状態。最もみられたくない顔。


 そう思った瞬間、鐵はぶつんっと頭の中で何かが切れる音を聞いて、すぐに行動に移したのだ。鐵はすぐに『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』のほうを向いて、彼は怒鳴りつける。びりっと口元に当たっていた包帯が引き千切れるほどの大きな口で、彼は怒鳴ったのだ。


「『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』ッ! あれをやるぞっっ!」

『っ! 御意っ!』


最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』はすぐに鐵の近くまで戻って、二人は鞘に収まっていた刀の柄をぐっと握り、そして言う――


「『常世の月に写りし静寂の刻』」


 互いが互いに、同じことを言いながら、そっと腰を落として言う。『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』は静かに唱えて、鐵はふつふつと込み上げてきたその怒りを――自分の身を屈めながら、クラウチングスタートのような構えをとっているキョウヤに向けながら、二人はキョウヤに攻撃を繰り出そうとする。


 鐵が持っている――通常詠唱を放とうとする!


「………………………ふぅー。はぁー」


 が、対照的にキョウヤは、その場で助走をつけるような体制のまま槍を構えて、蜥蜴の尻尾をしならせながら彼は深呼吸を繰り返す。


 そんな深呼吸を二回ほど繰り返した後――キョウヤは目の前で詠唱を言っている鐵と『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』を、冷たく、黒い影かかかりそうな睨みで見つめながら、彼はぐっと足と尻尾に力を入れる。


 鐡はそんな光景を見ながら、一体何をする気だ? どんなことをしても無駄だよ。と思いながら、彼はそのまま居合抜きをするように、鞘に一旦納めて……構えてから彼は思う。


 ――この詠唱は攻撃系のそれだが、肉体は攻撃しない。これは――()()()()()()()()()。つまるところ即死効果がある詠唱っ!


 ――今から放つ斬撃にちょっとでも触れたら――お前は死ぬ! 残念だったな! これで僕の勝利は確定だっ!


 そう思いながら彼はその詠唱を言う。キョウヤから目を離さずに、彼はその詠唱を言い続ける。


「『わが血濡れし名刀を以て、宿敵を絶たん』」


 と言って、鐡は鞘から刀身をすっと抜刀し……、そしてそのまま止めを刺すように、一旦瞬きをしてからその詠唱を放とうとする!


「『――『奪命(ダツメ)』…………………………………。………()()?』」


 奪命(ダツメ)。ではない。正式名称は『奪命斬(ダツメイザン)』である。


 だが、鐵はそれを言う前に、ぽかんっと、その詠唱を止めてしまったのだ。彼の場合通常詠唱なので、技の名前だけを射ればいいのだが、そのことを彼は知らない。知ろうともしなかったが、こうなってしまえば詠唱は発動しない。最初からやり直しである。


 が、そのやり直しをする暇もない。理由は簡単で、簡潔に答えを出そう。


 今まで少し遠くにいたキョウヤが、突然目の前に現れて、黒い影がかかりそうな睨みで鐵のことを睨みつけながら、彼は急接近していたのだ。




 簡単に言うと――()()()()()()()()()()




 一瞬。瞬間移動のごとく。


「――っひぃ!」


 それを見た鐵は、びくりと体を強張らせながら目の前に急接近した――()()()()()()()()()()使()()()キョウヤの素早さを垣間見て、彼は驚いて青ざめる。


 そんな顔を見ながら、キョウヤは無言で突く体制になって、握ったところから血が出るくらい握りしめていたその槍を――鐵の刀に向けて、キョウヤは攻撃を繰り出す。


 本人ではなく、攻撃手段となるその刀に向けて、力を振り絞った槍の突きを繰り出す!


 ビュンッという空気を突き破る音が聞こえたと同時に、鐵が持っていた刀が――大破した。


 いとも簡単に――ガラスが割れるような音を発しながら……、刀は大破する。


 鍔も、柄も、鞘も、刃も、ボロボロのカケラとなって床に落ちる。その槍の巻き添えを食った――血らだけで傷だらけの両手の感覚に気付いた鐵は――


「あ、あ、あ、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっっっっ!?」


 甲高い声を上げて叫びを上げる。己の傷ついた両手を見て、彼は叫ぶ。叫ぶ。叫んで……、己の懐にいたキョウヤを目だけで見ながら、彼はまた顔を青く染める。まずいと思ったからだ。


 キョウヤの攻撃は――まだ終わっていない。


 キョウヤは手に持っていた黄色い瘴輝石を握る力を強めて。彼は鐵を見上げながら、黒い怒りを零しながら、彼は低い音色でこう言った。


 鐵の攻撃を許してしまった、傷つけてしまった後悔と怒りを爆発させていた――『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』のことを無視して、キョウヤは言った。


「マナ・イグニッション――『雷轟雨盾(らいごううじゅん)』」

『う、う、う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっっ!!』


 バリィッッ! と――キョウヤの周りに降りそそいだ雷の雨。それは前に見たマリアンダが使っていた『感電(チャージング・)(ジェイル)』と同じようなものではあるが、少々違う。マリアンダは言っていた。


 この電流の檻は防御と攻撃を備えた雷の檻。触れれば感電。攻撃したとしても、結局は感電してしまう。そしてそのあとからくる電流の攻撃。二重の攻撃ができると――


 しかしキョウヤが持っていた――ライジンから託されたこの瘴輝石と比べると……、()()()()が違い過ぎた。


 まず――キョウヤが持っている瘴輝石はイグニッションクラスのもので、マリアンダが持っていたあの瘴輝石よりも硬度は上。そして――


『うおおおおおああああああああああああああああっっっ!!』


最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』は、両手でしっかりと持った刃毀れがひどい刀を一気に、キョウヤに向けて振り下ろす! 彼の体を真っ二つにするように、切り裂こうとした。が――その刀がキョウヤに当たることはなかった。その刀が当たったものは…………。


 雷。


 雷に当たった瞬間、ばりぃっと迸る電流の痛み。それを受けた二人は、体中から来るその小さな衝撃を受けて、何だと思いながら首を傾げた瞬間……。


 二人はそのキョウヤの周りに張り巡らされた電流に感電して、体中を痺れさせる。


 ばりばりと――いくつもの雷に打たれたかのように、彼らは絶叫を上げながらその電機のダメージを受ける。


 キョウヤが持っていたライジンからもらったその瘴輝石は、マリアンダが持っていたその瘴輝石と同等の効力を持っていた。が――性質がまるで違っていた。


 まずは高度。硬度はキョウヤが持っている瘴輝石が上で、その時に出る反動の攻撃も桁違いである。


 マリアンダが感電するほどの電流。そしてキョウヤが持っている瘴輝石は――


 ()()()()()()()()()()()()()()()()――即死しかける衝撃。


 それをいくつも受けてしまった『最後の落ち武者(ボウレイ・ベンケイ)』は、ドロドロと黒く変色して鐵の影に溶けて消えていく。


 そして――強烈な雷を受けてしまった鐵はぶすぶすと体を焦がしながら、そのまま後ろに向かって大の字になって倒れていく。大きな音を立てて……。


 その光景を見ていたキョウヤはそっと立ち上がり、手に持っているその瘴輝石をじっと見つめながら『若干やりすぎたかな』と言う顔をして黒焦げになって倒れている鐵を見降ろして彼は一言……。


「これ――封印だ。簡単に使ってはいけない代物だ……っ! そしてここがゲームの世界で本当に良かった。あんなのまともに受けたら即死だろうが……っ! ライジンの野郎……、なんちうもんを渡したんだ……っ!」


 キョウヤは青ざめながら一言でもない言葉を放った。


 今までイラついてて正常な思考が作動しなかったことに反省し、彼はそっとそれをポケットにしまう。絶対に使わない。そう心に誓いながら……。

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