PLAY56 BC・BATTLEⅣ(Fight to The limit!)②
※ストーリー上、重い展開となっています。ご注意ください。
――とは言ったものの……。全然対策できないのが今の現状なのよね……。
そう思いながらシェーラはクサビ達から目を離さず、そのまま己の背後の壁に突き刺さっているそれを引っこ抜きながら彼女は思案する。
久し振りの一人の思案を、彼女はする。
――今現在、私と師匠の攻撃は全く通用しない。いいえ。この場合は全部跳ね返されて自分に戻ってきてしまう。
――攻撃全て自分に返ってきてしまう。あろうことか味方の攻撃ですら跳ね返ってしまうから、相手は私達の方向に攻撃を繰り出せば、当たり前だけど私達に跳ね返ってしまう。
――相手は攻撃し放題。
――こっちは防戦一方。
――このままじゃ……、何もできずに終わってしまう。
そう思いながらシェーラは思案を続け、二本の剣を両手でしっかりと持った状態で、手をかざしているヘロリドと、未だにくつくつと笑って自分達のことを嘲っているクサビを見ながら、シェーラは思う。
――攻撃はあのくそ狐。そんな狐をサポートをしているのがあの気持ち悪い女装男なんだけど……。
と思いながら、彼女はちらりと横目でヘロリドを見る。ヘロリドは独特なペイントでべろんっと舌を突き出しながら、シェーラ達のことを見て小馬鹿にするように「ばぁ~」と言葉を発している。
それを見ていたシェーラは、そんなヘロリドのことを見て一瞬――なんでこんな男に私は苦戦を強いられているのかしら……? と思いながら、心の奥底からくる怒りをふつふつと込み上げていくが、それをどうにかして沈下させてから彼女は再度ヘロリドを見て、こう思った。
――あいつが使っているスキルから察するに……、シャーマー。
――シャーマーには確か三つのスキルポイントがある。
――一つはカウンター系のスキルポイント。二つ目は属性耐性……。エンチャンターのような攻撃力アップやそう言ったステータスに特化されたものではなく、ただ属性の耐性を上げるだけのスキル。
――そして三つ目は武器にその属性を付加させるスキル。ただ武器を振るっただけで、その属性攻撃ができる。これは……、シャーマーにしかできないこと。
――そしてこの男は……。
と思いながら、シェーラはヘロリドを見ながら続けてこう思った。否――結論付けた。
――この男は、カウンター系統の上級スキルを使った。つまりこの男を最初に倒さないと厄介。
――最初にこの男を倒さないと、自分の攻撃に自滅してしまうことになる。それだけは避けたい。そしてこの状況を打破して、そしてあのくそ狐に吐いてもらう。あのことについて吐いてもらわないと……。
そう思ったシェーラは虎次郎の方を見ながら、小さな声でシェーラは聞く。
「師匠」
「ん? なんじゃ?」
虎次郎はシェーラの言葉を聞いて、その音量と同等の声量で彼は聞く。その言葉を聞いたシェーラは、ぼそぼそと、虎次郎にしか聞こえない音色で彼女は聞いた。
「師匠に聞きたいことがあるの。師匠は確か――パラディンなんでしょ?」
「うむ。しかし今現在盾はないが故、防御など一切できない攻撃しかできないぱらでぃんと思ってほしい」
「………それ、完全完璧に名前負けしているじゃない……。と言うかなんで盾を紛失するのよ……。なんで盾壊してしまうのよ……っ」
「それをしたのはきょうやじゃ。ゆえにそのことについて責めるのであればきょうやにしろ。と言いたいのじゃが、人に責める行為はあまり好まなしくない。ゆえにそのことについて何時までもいらいらして考えることはやめい。こじわが増えるぞ」
「こじわとか言わないで。一応私十八歳なのよ。しわなんてないぴちぴちなの。と言うか誰がイライラしているのよ」
「お前しかおらん」
「私はイライラしていない。ただなんでこんな奴らと相対さないといけないのかしらって思っていただけよ。と言うかあいつらの言葉を聞いた時から、何か引っかかるような感覚を覚えたわ」
「そうじゃのぉ……」
虎次郎は目の前にいるクサビとヘロリドを見て、顎の髭を一撫でしながら、彼は「ふむ……」と言う声を上げてからこう言う。未だに二人のことを見て余裕の笑みを浮かべてるクサビとヘロリドを見ながら虎次郎は言った。
その二人は自分達から攻撃する様子はない。どころか、来るのを待っているかのような余裕のそぶり。
それを見ていた虎次郎は――ずいぶんと余裕の態度じゃのぉ……。と思いながら、彼はシェーラの方をちらりと目だけで見降ろしながらこう言ったのだ。
「引っかかる。それは儂も思ったことじゃ。あの者達だけではない。と言うかここに来てから儂は違和感を覚えておったよ」
「そう、ね……」
虎次郎の言葉を聞いたシェーラは、その言葉を聞いて再度この状況の深刻さを知った。
彼女と虎次郎が知ったその深刻な問題。
それは――クルーザァーが敢えて素通りして、普通なら考えることなどできないこの状況でも、二人はあることを聞いた瞬間、何か違和感を覚えていたのだ。
それは――この『デノス』に来てからのことである。最初にその違和感に気付いたのは――シェーラ。そのあとでハンナも何か違和感を感じていたのだが、シェーラはそれ以上に、その違和感に敏感に感じたのだ。
シェーラはあの時、『奈落迷宮』から『デノス』に続くマンホールから出た時、とあることを聞いたのだ。些細で、誰もはその言葉を聞き逃してしまうような……。本当に些細な言葉。その言葉とは……。あの時近くにいた機動隊に服を着た男達が言っていた言葉である。
――お、おいこいつ等侵入者だ! ガーディアンを浄化しようとしている輩の一派だ!――
――しかもあのアクロマが言っていた通りの人相達だ。今は一人いないから戦力も落ちているはず――あの小娘を先に捕まえろっ!――
この言葉を聞いたシェーラは、首を傾げながら思ったのだ。
――何で知っているんだ? と……。
それはハンナも疑念を抱いていたことだが、すぐにそれはかき消されてしまった。マリアンの登場でかき消されてしまい、ハンナはそれ以上のことを考えることをやめてしまっていた。が――
シェーラは考えていた。そして冷静に考えれば考えるほど……。
おかしい。そう思ってしまったのだ。虎次郎も同じことを思っていた。
普通――奇襲を許してしまったのであれば、当然慌てるのが定石であろう。そうでないこともあるかもしれないが、大半は慌ててしまうであろう。
が……、今回の『デノス』の侵入は、確かに登場は派手だったかもしれない。が……、マリアンも、ろざんぬも、ジンジもメルヘラも、目の前にいるクサビもヘロリドも……、慌てる素振りなどなく、逆にこうなることを想定……、否。
上から通達されていたかのような落ち着きと余裕を見せていた。
あからさまに。お前達の作戦など筒抜けだと言わんばかりのそれであった。
それを仮定したとき、シェーラは新たに生まれた疑念を抱いたのだ。その疑念は簡単に出てきたものではあった。
だからこそ……、なんでなのだろうと思ってしまうような疑念だった。
その疑念とは――いったいどこでその情報が漏れたのか。ということである。
内通者でもあったスナッティはもういない。いないのになぜか、下水道内で話された内容が駄々洩れだったのだ。
まだ誰かが内通者なのか? それともどこかでスナッティが見ていたのか? まさかまさか……、相手の方に索敵のプロがいるのか? など……。シェーラは悶々と考えながらこの戦いに挑んでいたのだ。
虎次郎は逆に、今は戦いに集中して、そのあとでゆっくり考える方がいいと思い、今はそんなことはあまり考えていなかった。
シェーラは虎次郎の言葉を聞いて、そして目の前にいるクサビを見ながら、彼女は思う。
――こいつの言葉にも私達のことを知っているようなキーワードが紛れていた。考えすぎかと思っていたけど……、ここに来てからのことを思うと、そうでないような気がしてくる……。
――確証を得るためにも、この戦いに勝って、無理強いでもいいから吐かせてやるっ!
シェーラは意気込んで、再度二本の剣を構えながら彼女はクサビ達をじろりと見据えた。
その目を見て、クサビは大袈裟にわざとらしく「おぉ。おぉ」と、後ずさるように二、三歩後ろに下がりながら彼は――
「怖い。怖い」と、恐ろしいものでも見たかのような顔で怖がる演技をしながら、更にこう言う。
「最近の女と言うものは本当に怖いものだ。私は年相応の女性よりも、お前やあの小娘のような整った顔立ちのほうが好きだな。年齢なんて関係ない。顔がよければ私はそれでいい。あ、だが欲を言えば強気な女は嫌だな。こん、こん。一応言っておくが――私はそう言った趣味の持ち主ではない。これは私の他人に対する美しさの基準と言っておこうかな? しかし今となってはそれも関係ないな」
「………どっちにしても、私はあなたのことを屑として認定したわ。光栄に思うなりなんなり隙にしなさいな」
「それはそれは――顔がよくともお前のような強気な女はどうも好きになれない。顔がよくても性格が黒ければ黒いほど、その美貌は損なわれてしまう。私はそれで失敗してね……。まぁよくある女に裏切られて人生をぶち壊されてしまった憐れな男とでも言っておこうかな?」
「簡潔な自己紹介どうも」
日常的な会話のような流れで話をしていくクサビとシェーラ。
こんな状況でこんな話をするのはあまりにも空気を呼んでいない行為に聞こえるだろう。
しかしクサビはそんな会話をしながら、彼はシェーラのことを見て、そして彼女の近くにある床を見降ろしながらクサビは「こん」と鳴きながら、続けて言葉を続ける。
「しかし……、こうなると……、私はアクロマに少々嫉妬を覚えてしまうな。男なのに女々しいと思う。だが私はアクロマのことを初めて」
ずるい。と思ってしまった。
その言葉を聞いた瞬間、シェーラと虎次郎は首を傾げながらクサビの言葉に耳を傾けた。
耳を――傾けてしまった。
ヘロリドもそれを聞いて、クサビのことを見ながら怒りを表した表情でクサビのことを見ながら、初めて言葉を発した。
「な、なに言っているんだぁっ!? クサビィ~! アクロマさんはぁ、居場所をなくしてしまった俺達に手を差し伸べてくれた人じゃないかぁっ!? 恩義だってあるんだぁ! なんでお前――アクロマさんのことをずるいと思ったんだぁっ!?」
その言葉を聞いていたクサビは、そっとヘロリドの方を向き、彼は平然と、当たり前のような表情を浮かべながらこう言う。
「当り前だ。あんな非力で可憐な少女を独り占めするなんて、ずるいと思わないでなんだと言うんだ」
「はぁ?」
はぁ?
そう言葉を発したのは――シェーラだった。
ヘロリドと虎次郎は、クサビの言葉を聞いた瞬間……、理解できないような顔の歪め方をして、今まさに己の想像の世界に入ってしまっているクサビのことを見ながら、二人は奇しくもこんなことを思っていた。同じことを思いながら二人は――
――なんなんだ? こいつは。と、思ってしまった。そして対照的にシェーラは、そんなクサビのことを見ながらこう思った。
――こいつは、危険だ。と……。
――ハンナをこんなところに長居させないという私の勘は……、間違っていなかった。
そうシェーラは思った。
そんな彼女の思いとは対照的に、クサビは演説でもするかのように両手を広げながら彼はこう言う。己の主張を曝け出すかのように彼は言った。
「言っただろう? 私は前に女に騙されて人生めちゃくちゃになった過去があると。私はそれ以来女がいやでいやで仕方がなかった。女性恐怖症ではないが、それでも女と言う存在を信じることができなくなっていった。前まであった愛おしさを感じることができなくなったのだよ。しかし――」
クサビはがしりっ! と、二の腕を強く強く握りしめて、そのまま指を二の腕の肉に食い込ませるかのように握りしめながら己を強く強く抱きしめながらクサビは言う。
まるで――天使を見つけたかのような表情で微笑みながら、彼は言う。
「私はね……。あの少女を見てから、あの少女をこの身を挺して守ろうと誓ったのだよ。これは愛だ。私は本当の愛を知ったのだよ」
「愛……? 大人のくせに何を言っているのかしら……? 少し頭を冷やしたらどう?」
シェーラは低い音色で言葉を発しながら、目の前にいるクサビに向かって聞くと、クサビはそんなシェーラの言葉を聞いてなのか、「冷やす? 何を言っているんだっ! 私は本気だよ」と言いながら、彼はシェーラと虎次郎に向かってこう言った。
否――羨ましい。そんな感情を剥き出しにしながら、彼はこう言ったのだ。
「私は、いうなれば――恋をした。一目惚れだ。あの少女に恋をしたのだ。愛に年齢なんて関係ない。恋愛に通ずるものはそう言ったことが多い。私はこう見えて十九歳」
「え?」
その言葉を聞いた瞬間、シェーラはぎょっとしながらクサビを見る。見えない。そんな心の声が聞こえそうな青ざめた目でクサビを見ていると、虎次郎もヘロリドもその年齢を聞いて驚いた目をしてクサビを見ていた。クサビはそんな三人を見ながら肩をすくめて「無理もないさ」と言いながら彼は続ける。
「私のこの姿を見れば、年齢なんてわからないことが普通なのさ。だがね……、愛に年齢の隔てなどない。私はただただただただただ、愛がほしいのではなく、私は与えたいのだ。与えられる愛ではなく、私自身が与える愛を彼女に与えよう。私は彼女のことを守ろう。身を挺して、あの女の近くにいた騎士のように、私は彼女のことを守って強い絆で結ばれたい。そして愛を誓い合いたいのだ」
「それは、本気なのか……っ!? 今貴様が言っていることは支離滅裂とした言葉じゃ」
もう理解などできない。
そんなことを思っていた虎次郎は我慢の限界でもあるかのようにクサビに向かって異議を唱えた。
するとそれを聞いていたクサビは演説のように語っていたその言葉と高鳴った感情を――一気に鎮静化させてから話の邪魔をした虎次郎のことを……。
じろりと……、睨みつける。
それを見た虎次郎はぎょっとしながらクサビのことを見て、目を離さずに見ていると、クサビはそんな虎次郎のことを睨みつけながら――低い音色でこう言う。
「黙れじじぃ。私の言葉に口を挟めるな」と言った瞬間、クサビは指に溜めていた小さくも密度が高い風を、虎次郎に向けて『ピンッ』と、デコピンでもするかのように指をはじきながら――彼はスキルを放った。
「『竜巻』」
すると――空中をフヨフヨと浮きながらゆったりとしたスピードで虎次郎に向かっていたその風の密集体は、クサビの言葉に呼応して、小さかったその密集体は突然、内側から爆発する様にぼんっと膨れ上がる。
「っ! ぬぅおおおおおっっっ!?」
虎次郎に向かって急加速する竜巻。それを見た虎次郎は、驚きながら横に避けようとしたが……、一瞬、ほんの一瞬だったが、遅かった。虎次郎は確かに左側に向かって避けていたが、その時地面を蹴った足が風に巻き込まれてしまい、そのまま体ごと洗濯機のようにぐるんぐるんっと回りながら、虎次郎は風の刃で体中に切り傷を作る。
「あぁっ! 師匠っっ!」
それを見たシェーラは、慌てた様子で虎次郎のことを見て、懐からヘルナイトから預かった瘴輝石の一つを取り出す。そしてどんどん上に向かっていく虎次郎を巻き込んだ竜巻を見上げながら、シェーラは叫んだ。
上に向かって行った風はうねうねと動きながら小さくなっていき、最終的には今いる場所の空気となって消えていく。そして――巻きこんだ虎次郎を無下に手放して……、そのまま――
――ずたぁんっっ! と、固い床に叩きつける。
「がはっ!」
「っっっ!! 師匠っっ!」
がふっと口から吐かれた鮮血。
背中から聞こえた何かが折れる音を聞いたシェーラはすぐに床に叩きつけられた虎次郎の元に駆け寄りながら、彼女は手に持っていた瘴輝石を使って虎次郎を癒す。
「ま、マナ・エリクシル――『癒琴』ッ!」
彼女は手に持っていたその瘴輝石を使って、虎次郎の傷を応急処置で癒す。「うぅ……っ!」と唸っていた虎次郎だったが、どんどん体の痛みが少しだけだが引いて行くのを感じて、彼は痛みに耐えるような起き上がり方をして、じくりときた痛みに耐えるように、胴体に手を添えながら唸り声を上げる。
それを見たシェーラは、珍しく慌てた顔で虎次郎のことを見ながら彼の安否を気にして狼狽してしまう。
それを見た虎次郎は、シェーラの肩をポンポンっと、宥めるように叩きながら「はははっ」と、彼は力なく笑ってこう言った。
「なぁに。これくらいでは儂は死なんよ。そんなに怯えるな」
そう言われたシェーラだったが、未だに心を揺さぶる不安だけは取り除かれていない。
理由は簡単。
もう孤児院のようなことになってほしくない。生きていたとしても、あの時は死んだと思っていた、ゆえにシェーラは、虎次郎が死ぬかもしれないと思ったからこそ、ここまで狼狽して、いつもの凛々しい顔が嘘のような悲しい顔を浮かべてしまったのだ。
もしかしたら本当に死ぬかも、そんな不安が――彼女を襲う。
その光景を見ていたクサビは、虎次郎とシェーラのことを見ながら、彼は歩みを進めず、その場所で佇みながら、口元に手を当てて、笑みをせず、無表情の目で彼は二人を見下してこう言う。
「お前達に何がわかるというのだ? 私はこんなにもあの子のことを愛しているんだ。これは運命の赤い糸に繋がれた運命的な出会いなんだ」
「「っ!」」
その言葉を聞いたシェーラと虎次郎は、そんなクサビのことを見ながら、警戒と臨戦を解かずに、二人はクサビのことを睨みつける。そんな二人の目が気に食わなかったのか――クサビはちっと、大きく舌打ちをして、もう一度手を広げながら、天井を見上げて彼は高らかにこう言った。
近くにいるヘロリドのことを無視して、彼は高らかに――己の想いを伝える。
己が惹かれた女性がいない空間で、彼は叫んだ。
「私は一刻も早くあの少女に会って、あの子のためにこの命を捧げたい。いいや! 私は彼女と強い絆で結ばれて、そして永遠の愛を誓いあいたいっ! 今までの愛とは比べ物にならないほどの温かくて愛おしい想い。そうだ。私はこんな愛を欲していたんだっ! ゆえに貴様らをここで殺して、あの子の傍であの子のことを守りたいっ! あの子のことをもっと知りたいっ! あの子の隣はあのエルフの男でも、蜥蜴の男でも、貴様のような半魚人でもない。貴様のようなじじぃでもない! そしてぇ! あのコンピューターの騎士でもないんだっ! あの子の隣は、私がふさわしいんだ。私は、私は、私は、私は――あの子の騎士になって、結ばれたいのだよっっっ! 非力で無力で、愛おしいあの子のことを――守りたいんだよっっっ!!」
シェーラはクサビの言葉を聞いて、彼の本性を少しばかりだが把握した。
彼は――愛に飢えている。
飢え過ぎておかしくなっているのだ。簡単に言うと、愛がほしいのだ。
飴玉が欲しい。何かが欲しいっといった欲求と同等に、彼は愛がほしくてほしくてたまらなかったのだ。
彼の言葉から察するに、彼は今まで女の愛を受け止めることしかしなかった。が――そのせいで彼は散々な日々を送った。ゆえに彼は、女からの愛を受け止めることをやめた。人間嫌なことを経験すると、もう二度としないという固定観念が生まれて、二度と同じ過ちを繰り返さないように行動する。
だが、そんなクサビは、とある人物を見た瞬間、その愛が溢れに溢れてしまったのだ。枯渇していたその愛の湖を、己で生成して蘇らせたのだ。
己が守りたいと、愛したいと思った人物――ハンナに対して、彼はその愛を与えようと思ったのだ。
一種の愛情表現。愛情思考なのかもしれないが、シェーラはそれを聞いて、胸の奥からこみあげてくる気色悪さを感じた。
簡単に言うと――胸糞悪い。
クサビがハンナに対する愛情は、異常だ。
異常すぎて最悪どうなってしまうのかが容易に想像できてしまう。シェーラはそれを感じながら、込み上げて来る吐き気をぐっと押さえつけながら、未だにその愛に飢えて体を揺らしているクサビを見る。
――こんな奴を行かせてはいけない。
――こいつはだめ。行かせたらハンナが危ない。
そう思いながら、シェーラは虎次郎と一緒にクサビを見る。クサビの背後にいたヘロリドは、クサビの本性を垣間見たせいで、気持ち悪いという顔を露見しながら、後ずさって彼から距離を置く。
が――クサビはそんなヘロリドの行動を……、許すことなどしなかった。
彼はヘロリドがいるその方向を見ずに、彼はびたりと動きを止めながらヘロリドに向かって――
「逃げるな」と、冷たく、そして低い音色で、彼はヘロリドを止める。
それを聞いたヘロリドは、びくぅっっ! と大袈裟に肩を震わせ、がくがくと震える顔でクサビを見ながら、彼はかちかちと歯を鳴らす。
クサビはそんなヘロリドの顔を横の目でじっと見ながら――彼は低い音色でこう言った。
「こんなところでちんたらしていると、もしかしたらアクロマの手に渡ってしまうかもしれない。か弱くて可憐で、そして何より美しいあの子は私と一緒にいる方がいいんだ。私の方が相応しいんだ。なんにもできない彼女のこと守るのは――私の役目なんだ。私は、彼女のために、愛のためにこの二人を殺す! 手伝えヘロリドッ! 時間がないんだっ! すぐに殺すぞっっ!」
「っく!」
虎次郎はよろめきながら立ち上がり、居合抜きの構えを取りながら……、虎次郎は目の前にいるクサビとヘロリドを睨みつける。
――このままではまずいな……。そんなことを頭の片隅で思いながら、彼は戦闘態勢をとる。
が――
シェーラだけはクサビの言葉を聞いて、目を点にして無表情のままでクサビのことを聞いていた。そして……、彼女はすぐに立ち上がってから……。
「っふ」と、シェーラは鼻でクサビのことを嘲笑い、無表情のそれに笑みを刻み入れた。




