PLAY55 BC・BATTLEⅢ(Powerful mind)⑤
グラッカード夫妻の回想――第二幕開演。
新しい家族に恵まれた二人は、今まで以上に働いて子供を養うために毎日を過ごしていた。
今まで貧しい暮らしの中で二人はそれでも幸せを噛みしめながら暮らしていたが、今回は違う。否――これからは違う。
家族が一人増え、更に増えた幸せを守るために養わなければいけないのだ。
まだまだ小さいゼクスのために、二人は昼夜問わず働いた。
まだ小さかったゼクスをあやし、仕事が長引く時だけはガリラの親に預けてからお金を稼いで日々の生活を送っていた。
今まで以上に働いている分……、かなりの労働力と体力を消耗する。
それでも二人は、愛する子供のために己の体を酷使しながら働いた。
もちろん、疲れない身体ではない。
普通に疲れて、普通にへとへとになって帰ってくるが……、そんな疲れも小さいゼクスの顔を見れば吹き飛んでしまう。
本当に吹き飛んでしまうほど、愛おしかった。
そんな可愛い子供のために、二人は日夜己の体が悲鳴を上げるくらいまで働き続けていた。働き続けて早七年。ゼクスが七歳の時……、二人は二度目の幸せの絶頂を味わった。
ゼクスの下の兄弟が芽生えたのだ。
二人はそれを聞いた瞬間、もう天国に行っても悔いはないような喜びを分かち合った。ゼクスと一緒に喜びを分かち合ったのだ。またもや子供のようにはしゃいで、二人はゼクスと一緒に新たな命が生まれる時を待ち望んでいた。
が……、ゼクスはその時、心の底から嬉しいと感じられなかったのだ。
弟か、妹ができることは嬉しいことだった。
しかし、今現在の彼にとってすれば、その幸せも学校に言った瞬間にかき消されてしまうほど苦しいものだったので、ちょうどプラスマイナスゼロの比率で、彼の感情は日に日に乏しいものになっていく。
夫婦はゼクスの雰囲気が変わっていることには薄々察していた。
最初にガリラがそのことについて聞くと、ゼクスはそのことに対して固く口を閉ざしてしまい、聞き出すことができなかった。メッシュートも聞いたが、同じ結果に終わり、結局デノスから一体何があったのかということを聞き出すことができなかった。
再度聞くという選択肢もあったが、それもかなわなかった。否――できなかったのだ。理由は明白だ。
二人目の子供――ティズが生まれたからだ。
二人は二人目の子供を優しく受け入れた。
が――対照的にゼクスは新しく生まれた命に対して、あまり芳しくない感情を表に出していた。
それからだった。
この四人の家族が……、どんどん不幸の水に浸かっていたのは……。ここからだったのだ。ガリラとメッシュート、ゼクスとティズの運命が、どんどん絶望に傾いて行ったのは……。ここからだったのだ。
二人目の子供、ティズが生まれてから、二人はゼクスが生まれた時以上に働いた。
ガリラはティズとゼクスの面倒を見るため、彼女は一旦仕事を休んだ。育児休暇のようなものだ。それを使いながら、彼女はティズと七歳になるゼクスの面倒を見ながら家事に勤しむ。
そしてメッシュートは残業や徹夜の仕事をこなしながら、体の悲鳴を聞きながらも一生懸命働いてお金を稼いだ。
二人の子供と一緒に、何不自由なく笑って暮らせるように……、彼はその願いを胸に誓いながら、一生懸命働いた。たまに、本当にたまに貰える休暇を子供達やガリラのために使い、家族サービスとして、彼は家族の愛を一日中堪能した。
ガリラ自身、たまにしか帰ってこないメッシュートがいない寂しさもあったが、子供のためにその気持ちを一生懸命殺して、彼女は育児に勤しみながら暮らしていた。
忙しくとも、子供達と一緒にいられるその日々が何よりの幸せ。もので分かり合える幸せもあるが、今のガリラとメッシュートにとって、この当たり前の日常こそが、最上級の幸せの形だった。
しかし……、その幸せの形に、その時幸せと思っていた日々に……、ぴしりと罅が入った瞬間があった。その日こそが、幸せが壊れ、そして家族が崩壊する引き金となった運命の日だったのだ。
とある秋風が冷たい日のことだった。
ガリラは九歳になるゼクスに違和感を覚えていた。その違和感とは、ゼクスに対してである。
簡単な話――何か悩んでいる顔をして、秋の空を見上げながら頬杖を突いている。その空を見上げている顔は、どことなく元気のない顔だ。そんな顔を見ていたガリラは、腕の中にいる一歳になるティズをあやしながら、ガリラはゼクスに近付いて――こう聞いたのだ。
「何かあったのか?」
その言葉に対して、ゼクスは答えない。無言で、ガリラの言葉を無視するかのように空を見上げながら黄昏ている。それを見て、ガリラは無視するとはいい度胸だなと思いながらも、自分は大人と思いながら、その怒りの気持ちを抑えつけて、叱る気持ちを一旦落ち着かせながら、彼女は再度ゼクスに聞いた。
「ゼクス。そんな風に一人で塞ぎ込んでいたら駄目だ。あたし達に話しな。少しだけど力にはなれると思うから」
ガリラはゼクスに向かって、ニコリとほほ笑みながらいうと、それを聞いていたゼクスは、空を見ることをやめて、ガリラの顔を見上げて、彼はガリラに向かって――
見上げているのに、見降ろしているような目つきで、彼はガリラに向かってこう言った。
「なれないよ。お母さんに言っても、絶対に力になれないことだから」
その言葉を聞いた瞬間……、ガリラの心が大きく揺れた。ぐらんぐらんっと……、天秤のように大きく揺れた。揺れたと同時に、家の外から大きな風の音が聞こえ、窓のガラスをガタガタと叩く。
その風に当たって音を立てるその窓の音がまるで、ガリラの心境を表しているかのように聞こえ、ガリラは目を見開いて、自分のことを見下すかのように見上げているゼクスを見て、彼女は聞いた。
いたって平然とした顔で、内心汗をだらだらと流しながら、ゼクスに恐怖を抱きながら……、彼女は聞いて思った。
「な、なんで絶対に力になれないって言うんだ? そんなの、やってみないとわからないだろう……?」
――まだ八歳なのに、なんて冷たい目をしているんだ……。
――なんでゼクスは、こんなにも冷たい目で、あたしを見上げて見下しているんだ……っ?
――まるで……、目の前にいる息子が息子ではないような雰囲気だ……っ!
そう思いながらも彼女は平静を装いながらゼクスを見降ろしてにこっと凛々しく微笑むと、その話を聞いていたゼクスは少しむっとした顔でガリラを見上げて……、彼はガリラに向かって、ゼクスの言葉通りのような答えを彼女に突きつけたのだ。
「わかるよ」
と、ゼクスは子供のようにぷくっと頬を膨らませながら、むすっとした顔で彼は言う。
ガリラにとって、メッシュートにとって残酷で、現実的なことを突き付けたのだ。
「だって――うちお金ないじゃん」
お金がない。至極まっとうで至極現実的な課題。
それを突き付けられたガリラは、ぎゅっと己の腕の中ですぅすぅと寝ているティズを抱きしめる。その温もりを中和剤のように抱きしめながら、彼女にしては珍しく、震える音色でゼクスに聞いた。
「お、お金がないのと、今のこの状況とどう関係があるんだ……?」
「みんなによく言われるんだ」
と、ゼクスは再度窓の外の世界を見上げながら、彼は八歳とは思えないような言葉で、ガリラに向かって言って、ガリラの心を揺さぶっていく。
ゼクスはむすっとした顔でこう言った。
「スクールの子達によく言われるんだ。『お前の家お金ないんだろう?』って、最初はそんなこと気にはしなかったんだけど、どんどんお金がないからっていじめられる日が続いていたんだ。『お金ないくせに学校に来るやつ』とか……、『ただで勉強受けれるなんていい度胸だ』とか言われて、靴とかリュックとかが泥水に捨てられていることも結構あった」
ゼクスから放たれた言葉を聞いたガリラは、言葉を失いながら――茫然とゼクスを見降ろしていた。
もうわかってもいいだろう。そして現実から目を背けるな。そう自分のもう一つの本心が自分に対してしかりつけている声が聞こえた気がしたが、それは紛れもなく、自分の本心だ……。その言葉を聞いていたガリラはゼクスを見降ろして、彼女はゼクスに向かって、告げる。
「まさか、お前……、いじめられているのか……?」
その言葉を聞いたゼクスは、無表情の顔でこくりと頷いた。その行動一つで、ガリラは一気に思わぬ現実に直面した。
息子のいじめ。それを知った時には誰もが言葉を失うだろう。ガリラはその事態を知り、更に聞いてはいけないことを聞いてしまう。
「……いつからだ?」
「一年か……二年前。スクールに入学してすぐ。先生も知らないよ。だって俺――話していないし」
つまるところ――ティズがガリラの体に宿ってすぐの時、あの時の違和感の時から、ゼクスはいじめられていたということになる。
それを知ったガリラは、茫然としながらゼクスを見降ろしていたが、ゼクスはそんな母の顔を見上げながら、ふっと……、子供の笑みとは思えないような笑みを浮かべて、彼はガリラのことを見上げながらこう言った。
「でも――俺はもう平気だよ。と言うか……、すぐに終わるから」
「?」
息子の言葉を聞いたガリラは、茫然とした世界から脱出して、ゼクスのことを見た瞬間――絶句してゼクスを見た。そして思った――
――この子は……、だれ? と。
ゼクスは――否、ゼクスであってゼクスではないその子は、にっこりと、日本で言うところの小学生とは思えないような、大人びた笑みで、彼はこう言ったのだ。
「すぐに終わるから」
その言葉を金切りに、ゼクスからいじめのことに関しての供述は一切なくなった。なくなったのはいいことかもしれない。が、同時にゼクスは一人で出かけることが多くなっていった。
どこに出かけたのかはわからない。だがメッシュートにこのことをやゼクスがいじめにあっていたことを告げると、彼はゼクスと話をした。その時のゼクスはいたって平然としてて、「大丈夫。もうすぐ終わるから」と言って取り合ってくれなかった。
スクールにも電話をしたのだが、そのようないじめはないと一点張りにされてしまったのだ。ゼクスは言っていた。話していないと。ゆえに教師の目を盗んでいじめの主犯格達はゼクスをいじめているのだ。
現実でよくある謝罪問題だろう。それを聞いたメッシュートはそう思った。いっそのこと学校側に直訴でもするかと思っていたが……、事実、ゼクスをいじめている子供達の言うことは正しい……。
と言うか、彼らは世間的に言えば疎まれる立場にあり、誰も彼らと交流を深めることはしなかった。理由としては――子供達の言っていることと同じ……。
お金がないくせに、よくもまぁスクールに通えるわね。とのことである。
そのこともあってか、彼等に対して見な消極的な態度なのである。今でいう……、否、昔でよく言うところの村八分である。
何もできない。ゼクスの言う通りだ。
それを知った時、ガリラはどうすればいいのかと頭を使って対策を練っていた。メッシュートもそんな彼女のことを励まし、そして無情にも、時がどんどんと過ぎ、さらに二年が経過したある日のこと……。
突然だった。
突然――ゼクスをいじめていたそのいじめグループの四人が、突然入院をしたのだ。それと同時にゼクスのいじめもぱったりとなくなったのだ。
それを目の当たりにした二人は、大きくなった三歳のティズと一緒に安堵の息を吐いた。
杞憂だったのかもしれない。本当に、ゼクスの言うとおり終わったのかもしれない。それを知った後、夫婦はほっとして、今まで張りつめていた緊張の糸をほどいた。
しかし――それこそが絶望への架け橋だった。その架け橋を二人……、否。ティズと二人はその架け橋がある道を歩んでいたのだ。ゼクスが……、否。ゼクス達が作った道を歩んでいることに、まだ気付いていなかったのだ。
気付いた時には、もう遅かった。否――もう起きていたのに、気付けなかったのだ。
その異変……、それは、ティズ七歳。ゼクス十五歳の時。ゼクスは腹いせともいえるような暴力を、まだ小さいティズに向けて振るったのだ。それを受けていたティズは、わんわん泣きながらその行為を受けて、亀の甲羅のように身を縮こませながら泣いて助けを求めていた。
その光景を見たガリラは、一瞬にして血の気が引いた顔でその光景を目に焼き付けてから……。
「ティズッッッ! 何してんだゼクス!」
と言って、ゼクスの行動を手で払いのけながら大泣きして彼女にしがみつくと同時に、ガリラはゼクスを見た。
ゼクスは今の時期特有の反抗期さながらの顔でそっぽを向いて舌打ちをしたと同時に……。
「ち」と舌打ちを吐く。
それが気に食わなかったのかはわからない。
だがガリラはその行動に対して、今まで張りつめていたストレスが爆発したかのように、彼女は手を振り上げて、そのまま――
バチィンッッッ! と、ゼクスのことを殴った。グーで、初めて殴ったのだ。
それを受けて、殴られた箇所を手で押さえながらゼクスはガリラのことをじろりと睨みつけたが、ガリラはそんなゼクスを見て、ティズのことを強く、守るように抱きしめながら彼女は――何も言わずにその場を去った。
それからだった。ゼクスはティズに対して躾と称して幾度となく暴力を振るっていた。それを何度もガリラヤメッシュートが制して、均衡を保っていた。しかしそれも長くは続かず、暴力発覚から五ヶ月後――
ゼクスは煙のようにガリラ達の前から姿を消した。
そしてティズの体に異変が生じた。痛みも何も感じない身体になってしまい、その痛みがないせいか、暴力によるストレスの所為か、はたまたは合併症なのかはわからないが、ティズの感情がなくなってしまった。
ガリラとメッシュートはゼクスの時以来の苦難にさいなまれていた。
何か重い病気なのかもしれない。病院に連れて行こうか。しかしお金がない。無いから連れて行けない。どうなっているんだ。
不安、絶望、苦悩、断念、そして――途方もない怒りと疑念。
どうしてこうなったのか。なんでこうなってしまったのか――全く理解できなかった。できなかったからこそ……。夫婦はまず一番にすべきこと……、ティズの入院先確保のために、お金を貯めようと行動に移そうとした時だった……。
「ごめん下さい」と、突然声が聞こえた。
その声を聞いて、ガリラはその人物を見た瞬間、茫然としながらその人を見て「――誰、ですか?」と聞いた。するとその人は、ニコリとほほ笑みながら、こう言ったのだ。
黒いスーツに金髪と三つ編みが印象的な穏やかそうな青年は、ガリラたちを見てこう言った。
「お……、じゃない。私はとある秘密機関の物でして、あ、怪しいものではないんです。私は電脳特殊部隊『CA』の者です。『cyber agent』と言う電脳関連の秘密結社と思ってください。突然で申し訳ないですが、ティズ君をこちらに預けてもらえませんか? 誘拐とかそんなものではなく、こちらで最新鋭の技術で、必ずティズ君の病気を治して見せます。お金入りません。お金よりも命のほうが大事です。その命が失われることはしたくない……。心苦しいかもしれませんが……、もう一度言います。ティズ君をこちらに預けてもらえませんか?」
無理強いはしません。
その言葉を聞いた二人だったが、ティズのことを本当に救いたい。その気持ちはちゃんと伝わった。
そしてそれでティズが救えるなら、それでいい。もう一度、元気なティズに会えるのであれば……。
そう思った二人は、ティズにこのことを告げず、二人はティズに『ちょっと長い入院になるみたいだ。しっかりと病院にいる人の言うことを聞くんだぞ』と、メッシュートは言って、ガリラはそんなティズのことをぎゅっと抱きしめながら――『いい子にしているんだぞ』と言って、二人はティズをその人に預けた。
二人は言った。必ず治してほしいと。その言葉を聞いた男は頷いて、首を傾げているティズの顔を見降ろしながら、にこっと微笑んで――必ず治します。と言って、その場を後にしようとした時……。男は二人のあることを告げた。
「……言っておきますが、息子さんがこうなってしまったのは……、あなた方の息子さんがばらまいたある薬のせいでこうなってしまったのです」
「「………………………………………」」
「薬まではわかりませんが、ティズ君はきっと、もう一人の息子のせいでこうなってしまったのだと思います。そのもう一人の息子さんは今――今巷で流行っているVR関連の仕事に就いています」
男はそれだけ告げると、ティズの手を引いてゆったりとした足取りで帰路に向かった。
その背中を見て、二人は再度、どんどん小さくなってくるティズの背中を見て……、言葉を失った。そして、ふつふつとこみ上げてくる感情に驚きながらも、それを受け入れていった。
驚くことに、その感情をすんなりと受け入れて、二人はすぐに行動に移した。行動――それは……。
「すまないっ! やっぱりさっきの話は無しだっ!」
と、メッシュートはガリラと共に一歩前に歩みを進めて、男に向かって叫ぶ。それを聞いた男は、驚きながら振り向いて、首を傾げながら「へ?」と、素っ頓狂な声を上げたが、二人のその目を見て、彼は悟った。
二人は――本気なのだと。
そんな驚いている男を見て、二人はこう言った。
「「俺達を (あたし達を) 連れて行ってくれっっ! 金は要らないっ! ただあんた達のところで雇ってほしいっっ!」」
それを聞いた男は、うーんっと頭をひねりながら唸ったが、少しして男は二人を見て――ティズのことを見降ろしてこう言った。
「子供のために、ですか……。そうなると断ることが出来なさそうですね……。なんだか羨ましいです。その感情……」
「「?」」
男の言っている意味が分からなかった二人だが、男は気持ちを切り替えるように咳ばらいをしながら、彼は二人を見て、ティズの手をぎゅっと握りしめながらこう言った。
「分かりました。上には私から話しておきます。そしてお金の件ですが、ちゃんと給料は支払います。こっちも人員が増えることは大変うれしいことです。ですが――この仕事はどの仕事よりもハードです。それでも?」
と聞いた男だったが、二人はその言葉を聞いても心を折ることは決してしなかった。そして――二人は言う。
「「――もちろんっ!」」
それからだった。二人は男が所属している機関で雑用をして働きながら情報を探った。
そして後悔もしながら仕事に没頭していた。
息子の未来のために、息子の間違いを正すために、彼らはずっとずっと……、後悔を胸に歩みを進めていた。
もし、あの時息子がやろうとしていることに気付けば。
もし、あの時息子の考えていることに気付けたら。
もし……、ゼクスの闇を知って、そしてその時にきつく止めていれば、何かが変わっていたかもしれない。
全部全部――後悔の連続だ。数えきれないほど後悔することがありすぎる。ゆえに彼らは――暴力のせいでおぼろげになってしまったかもしれないティズのために、二人は息子と再会して、けじめをつけようと思ったのだ。
迷惑をかけた分。そしてティズの心を壊した報い。そして――自分達の罪滅ぼしのために……。
そして月日は流れて現在――二人はとある調査のため、あの時話を持ち掛けた男の命令で、最初はガリラだけだったのだが、ガリラがメッシュートを無理矢理誘ってその命令を受けた。
それは――今流行のVRゲーム『MCO』の内部調査。
一応ティズの治療にもこのシステムを使っていることもあって、男は二人に『ティズの護衛』を命じた。彼が所属している部署の部下と一緒に、ティズを守るように命じられた。
……アバターを変えて、親だということを悟らせないように。二人はガルーラとメウラヴダーとして、ティズと一緒に行動を共にした。いずれ相対するであろう……、ゼクスの身元を探りながら、二人はティズのことを陰ながら見守っていた。ティズには悟らせないため、外見を変えて彼らはティズの傍にいた。親の責務を……、果たすために。
ずっと、ずっと……、ティズのことを守っていた。親として、自分たちのことを雇ってくれた人の命令で、二人はずっと――ティズのことを守っていた。姿を変えたとしても、二人の子供ティズのために、今度は間違いを犯さない。
今度こそ――ティズを守り、そしてゼクスの暴走を止める。そう二人は誓った。夫婦にしかできない確固たる誓いを立てたのだった……。
回想終了。
◆ ◆
長い長い夢から覚めたかのように、二人はそっと目を開けて、思い返す。
思えば長い道のりだった。今現在――ティズは十四歳。ゼクスはきっと二十二歳だろう。ゼクスがああなってしまった原因は――全部自分達にあると、二人は思っていた。
ゼクスはきっと、いじめを受けたせいで壊れてしまったのだと。それに気付けなかった自分たちは、親失格なのだと、そしてその問題を解決しようとしなかった自分たちは……、人間失格なのだと。そう思っていた。
だから。だからこそ。と、二人は思う。
今度は――間違えない。今度は――もう後悔しないような行動をする。
そう二人は思って、目の前にいるメメトリとジンジを睨みつける。じろりと……。メメトリとジンジを睨みつけた。
「っ! ううううううっっっ!」
「っ! ら、『壊滅殺人兵器』ッッ!」
その睨みつけを見た二人は、さっきとは違う威圧を感じながら、メルヘラはぐわりと手の刃を振り上げて、それをガルーラに向けて、勢いをつけて振り下ろす!
ジンジは『壊滅殺人兵器』に向かって「さっさと殺せぇっっ!」と命令しながら指をさす。それを聞いた『壊滅殺人兵器』は叫びを上げながらメウラヴダーを早く食べようとぐぱりと口を開けて近づいていく。
しかし――メウラヴダーはそんな『壊滅殺人兵器』を見ても、ガルーラはそんな光景を見ても、逃げも、隠れもしなかった。むしろ……。
がしりと――ガルーラはそれをしっかりと掴んで、その刃の攻撃を受け止め。
肩に突き刺していたその剣を引き抜いて、メウラヴダーはその剣を大きく振るって、斜め下から上に向けて――『壊滅殺人兵器』の顔に深い切り傷を入れるようにして、ざしゅっと斬ったのだ。
それを受けたメルヘラはぎょっとしてその光景を見て、顔に傷をつけられた『壊滅殺人兵器』は、『ぐぎゃあああああああああああああああっっっっ!!』と声を上げながら大きなその手で顔を覆い隠して、痛みで顔を振るう。
それを見ていたジンジはぎょっとしながらもメウラヴダーを見て、彼はやっぱり。と思いながら、メウラヴダーと、背後にいるガルーラを見て――こう思った。
――こいつら、雰囲気を変えやがったっ! と……。
そんなジンジの心の声を聞いていたかのように、メウラヴダーはジンジを見ないで、ジンジに向かってこう聞いた。
「そういえば――お前も家族いたんだよな?」
「っ!」
その言葉を聞いたジンジは、びくりと、さっきまで負けそうだった人物に対して、恐怖を覚えながら、彼はメウラヴダーのほうを見る。それを横目で見たメウラヴダーは、さっきとは違った顔だな。と思いながら、メウラヴダーは目の前にいる『壊滅殺人兵器』に向かって、もう一本の剣をずるっと引き抜きながら彼は言った。
「家族は確かにいいものだ。最愛の妻や息子たちがいるだけで、本当に心が現れる。疲れた心を癒してくれるような……。そんな心地よさがあった」
「でもな――」
メウラヴダーの言葉を聞いていたガルーラは、刃を手で掴んでしまったせいで、そこから血がどくどくと出て、その地面に赤い点を残していく中――ガルーラはメメトリに向かってこう言った。
「それだけじゃダメだったんだ。ただ幸せってだけじゃ――ダメだった。子供の気持ちに、真摯に向き合わないといけなかった。そのせいで――あたし達は大きな間違いを犯した」
と言った瞬間だった。ガルーラは掴んでいたその黒い蟷螂の刃を、ばぎりと握り潰した。素手で、彼女はその刃を握り潰したのだ。
それを受けたメメトリは「あああああああああああああああああっっっ!」と叫び、砕けて使えなくなってしまった刃の手を見ながら彼女は叫ぶ。
泣きながら叫ぶ。
痛みで彼女は叫ぶ。
それを見ていたガルーラは、片方の手で持っていたその大槌を手に、彼女はぐるんっと腰を使って回りながら、隙を見せたメメトリに向かって――
詠唱を放つ!
「――『大槌・乱撃舞踏』っっ!」
ガルーラはそのまま大槌を振るって、片手で振るいながら――狼狽していたメメトリに向かって、ごんっ! がぁんっ! だぁんっ! どぉんっ! と言う音を出して叩きながら、何度も何度も何度も何度もメメトリの蟷螂の装甲を叩いて壊すように、ガルーラは攻撃を続ける。
その姿はまるで――ヘルナイトの『影剣・黒桜華』と同じような連撃。
踊っているかのように彼女は大槌を片手で振るい、メメトリに向けて確実にダメージを与える。
「おおおおおおらあああああああああああっっっっ!」
咆哮を上げながら、ガルーラは攻撃をし続ける。メメトリのその変身が解けるまで、彼女は攻撃を続ける。それを見ていたジンジは、はっとしてメメトリの名を呼ぼうとした瞬間、メウラヴダーはその一瞬の隙を突いて――自分も二本の剣を構えながら、ぼわりと――その剣に赤い炎を纏わせて、彼は轟々と燃える剣を、『壊滅殺人兵器』に向けて、二本同時に、横に薙ぐような体制になって、彼はその炎の剣を振るう!
「――『烈火斬』ッ!」
メウラヴダーは、その炎を纏った剣を『壊滅殺人兵器』に向けて、斜め上から切りつけるように、ざしゅしゅっと斬る。最初こそ――その二つの攻撃に、驚いて声が出なかった『壊滅殺人兵器』だった。しかしすぐに、その切り口からぼわりと出る熱と炎。
『?』と、『壊滅殺人兵器』は何だと思いながら、その傷口を見ようとした瞬間……。
その切り口からブワリと出た炎。轟々と燃えて、『壊滅殺人兵器』の体を燃やし尽くす勢いで燃え続ける炎。
それを受けた『壊滅殺人兵器』は甲高い叫びを上げながら、あたりを飛び回りながらその火を消そうと奮起する。ばしばしと手で叩きながら消化しようとしたが、それもできない。それを見ていたメウラヴダーはこう言う。剣をそっと鞘に納めながら、彼は言う。どんどん黒い影と化して消えていく『壊滅殺人兵器』を見て、横目で――尻餅をついて絶句して、戦意喪失してしまったジンジを見て、彼は言う。
「無駄だ。その詠唱は切った後も攻撃が継続される詠唱。つまるところのじわりじわりとダメージを受けてしまう。炎の毒のようなものだ。一定時間経ったら消えるが……、すぐに消えるだろうな」
と言った瞬間――『壊滅殺人兵器』は黒い液体と化してドロドロと熔けて消えていく。叫びながら消えて、そしてジンジの影に入って行く。それを見てメウラヴダーはジンジを見降ろす。
「うひぃぃっっ!」
ジンジは泣きそうな顔でメウラヴダーを見ながら狼狽えると、近くで『ずしんっ』と言う大きな音が聞こえ、その音がした方向を見たメウラヴダーはふぅっと息を吐き、安堵と呆れが混じった顔でその光景を見て言う。
「お前――本当に豪快だな」
その言葉にガルーラは『がちんっ』と大槌を肩に担ぎ、自分の足元で白目を剥いて人の姿に戻って倒れているメメトリを見ながらガルーラはすぐにメウラヴダーを見て、凛々しい笑みを浮かべると強い心を持っている最愛の人に向かってこう言った。
「なぁに――いつものことだ。それに、そんな豪快な女に惚れたのは誰だ?」
「………ああ、俺だな」
メウラヴダーはいつでも強かな心を重んじているガルーラに向かって、ふっと微笑みながら言った。
※タイトル和訳:強かな心
戦況 (勝敗:現在0-2 ハンナチーム優勢)
マリアン&ろざんぬ× vs アキ&ギンロ〇
ジンジ&メメトリ× vs メウラヴダー&ガルーラ〇
クサビ&ヘロリド vs シェーラ&虎次郎
クロガネ vs キョウヤ
ガルディガル vs リンドー&ガザドラ&ティティ
ハンナ、ヘルナイト、ボルド、ダディエル、クルーザァー、ティズ――今現在アクロマのところに進行中。




