表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
31/830

PLAY05 殺人鬼と天賦の回想③

「え、エンドー……さん」


 私はエンドーさんを見て、驚きながらも頭の片隅で違うと唱えながら見た。


 違うという言葉は簡単な話――こんなことありえないという時に使う違うというもので、私は今目の前で起きている状況を、こんなことありえない。こんなの絶対におかしい。夢だ。そんな夢物語のようなテンプレの言葉を並べて頭の中で今の状況を否定する。


 でも、その違うという言葉も、言葉や医師とは裏腹に、現実と言う名の絶対的力の所為でだんだんかき消されていく……。


 結局のところ――今起きているこの現実が本当の現実。つまりは夢だと思っていることこそが現実逃避でもあるのだけど、その決定打になったのは、モナさんの言葉だ。


 エンドーさんと二人っきりになってはだめ。


 その言葉が一体どういった意味を成しているのか、最初は疑問だった。


 でもだんだんと疑問はパズルのピースのようにぱちりとはまっていく。


 ゴーレスさんの件でも鉱石族(ドワーフ)の人達は私達を見て、初めて別のところから来た冒険者と認知していた。


 私達の前にゴーレスさんが来ている。あの時まで私は、もうだめなのでは……。と、最悪のケースを想定していて、そんな深く考えなかった。


 でも、モナさんがゴーレスさんが生きていると教えてくれた。


 そしてそのあと、ダンゲルさんは私達の行動を見て、首を傾げていた。


 あの時私は、きっと何かあったのだろうと思っていたのだろうとその時は思っていた。


 でも、違和感があった。それは――



 ダンゲルさんは……、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



 たったそれだけだけど、モナさんの言葉も相まって……、私は違うという言葉を消した。


 そしてエンドーさんを見る。


 きっとその時の私の顔は、怖い顔だったのだろう。


 エンドーさんは私を見て、にやりと不気味なそれを浮かべながら陽気そうな声音でこう言ってきたのだ。


「あららぁ? そんなこわぁい顔しないでくださいな。その可愛らしくて、肉つきがよく、そしていい音が鳴りそうな顔が台無しだぁ」

「っ」


 にやりと黒い笑みで言うエンドーさん。


 私はそれを見て、エンドーさんから感じる黒くて、黄色いもしゃもしゃを感じた。私はすぐにぞくっと背中を這う悪寒を肌で感じて、自分を抱きしめる。


「あっはぁぁああああああっ! 可愛いねぇ可愛いねぇ! そんな風に怖がらなくてもいいんだよぉ? 僕はちゃんと、君を大事に」

「おい――」


 エンドーさんの力説を遮るかのように、コウガさんが苦無を構えながら、冷たく聞いた。


 集中を切らさないように、じっと見て――


「ちょっと、オレの後ろに」

「! あ」


 キョウヤさんはすっと立ち上がって、蜥蜴の尻尾で自分の背後を指さす。


 私はそれを見て、キョウヤさんの顔を窺うと、キョウヤさんは尻尾を使って、私の左手首に巻きつき――少し強引に私の手を引っ張る。


「いいからこっち」


 強引に引っ張られ、私はキョウヤさんの背後に。


 その最中でも、コウガさんとエンドーさんの話は続いていた。


「お前、何が目的なんだ?」

「あれれぇ? なんでコウガくんはそんなに怒っているのかな? 僕には皆目見当がつかないし、それに僕と君は」

「初対面……って、言いてえんだろう?」

「うわーぉっ! テレパシィーッ!?」


 コウガさんの言葉に、エンドーさんはぎょっと驚いた顔をして、大袈裟に驚いていた。それを見て、キョウヤさんは苛立った口調で「――うぜぇ」とこぼす。


 私はそれを聞いて、うざいはないと思う。と思ってしまった。


 しかし――


「うぜぇ」


 コウガさんも、キョウヤさんと同じように、冷たく言い放った。


 同じことを思っていた……っ!


 そう私は、心で静かに突っ込んだ……。


 それを聞いたエンドーさんは、「あらぁ」と残念そうにしょぼくれてしまった。


 でも、コウガさんはそんなエンドーさんにこう言い放った。


「俺はお前とは初対面じゃねえ。俺はお前個人に因縁があるんだ」

「ん? 因縁?」


 エンドーさんははて? と首を傾げ……。


「因縁、因縁、いんねん、インネン、因縁?」


 と、ぶつぶつ言いながら思い出す仕草をしつつ、彼は――「あ」と呆けた声を出して……、狂気の笑顔でコウガさんを指指して……、エンドーさんは言った。


「あぁ! 思い出しましたっ! コウガさん、あなた……、周防(すおう)高鹿(こうが)さんですねっ!」


「……え?」


 その言葉を聞いて、ドクッと心臓が脈打った。その脈打つ音は……、不安の音。


 本来現実の名前はゲームの時は秘匿とされている。それは当り前だろうけど、エンドーさんはコウガさんを指さしながら、コウガさんに対し、コウガさんの名前らしき言葉を発した。


「……はぁ? 何言ってんだ?」と、キョウヤさんも知らなかったような雰囲気で、驚きながら後姿のコウガさんに聞く。


「お、おい……コウガ」


 と言った瞬間だった。





「――『()()』」





「はぁ?」

「?」


 コウガさんの口から、聞いたことがないような単語が聞こえた。


 箱。確かにそう言った。それを聞いた私は、コウガさんの背中を、キョウヤさん越しに見た。


 コウガさんは、冷静に、そして燻っていた感情を吐き出すかのように……、私達に話した。


「『ハコ』ってのは、俺達がそう呼んでいるだけで、正式名称は『最重要(さいじゅうよう)更生牢獄(こうせいろうごく)』っていうんだ」


 コウガさんは続ける。


「俺はやグレグル、そしてブラドは、そこで社会に復帰できるように更生されてきた……」

「……更生」


 私は呟く。するとその言葉にエンドーさんはくすくすと笑いながら言った。


「知っていますよ。それって、何回も犯罪を起こした人しか入らない場所だって。いうなれば、社会に適応できない人達の豚箱ってねっ」

「え?」


 その言葉を聞いて私は驚きを隠せなかった。キョウヤさんを見ると、キョウヤさんも驚いた顔をしていた。それでもエンドーさんは嘲笑うかのように続けた。


「そうだよ! 思い出した……っ! あの時、たしか……、十二年前かな? 君は家族を殺した罪で逮捕された。でも君は否認し続けていたよね? まだ否認し続けるのかい? 否定しても自分が空しくなるだけだと僕は思うよ? 認めようよ。君は抑圧されて生きてきたんだから、そこは要領よく……」

「……そのセリフ、そっくりそのまま返すぜ」

「?」


 コウガさんは、エンドーさんの言葉を遮って、コウガさんはエンドーさんをしっかり見て言った。


「俺は確かに、家柄の関係上――厳しい親だったが、俺にとっちゃ優しい親だった」


 自分の過去を語りながら……話した。


「俺が十一の時、親がいない女の餓鬼を連れてきて、親父はそいつを家族に迎え入れた。まぁそこそこ順風満帆ってやつか? 血は繋がってないが、それでも面が怖い俺のことを慕ってくれるいい妹だった」


 その話を聞く限り、親を殺すなんて言うことはしないと、私は思ってしまった。


 でも。コウガさんは「だが、それはいとも簡単に壊された」と、低く、そして怨恨を込めた音色で、エンドーさんを見て言ったコウガさん。


()()()()()でな……っ! エンドーっ!」



 エンドーさんに対する、コウガさんももしゃもしゃは――赤くて黒が勝っているそれだった。それを感じた私は、ふと、黒と黄色だったエンドーさんのもしゃもしゃが、黄色さが増すのを感じた……。


 そして、私はいやな予感を感じた……。


「こ、コウガさん……っ! 逃げて……っ!」


 そう私は叫ぶ。けど――


「あぁ? 逃げるなんてできねえだろうが! やっとここまで来たんだ。追いつめたんだっ! ここで」


 コウガさんは苦無を構えた時だった。


 エンドーさんはくすっと、狂気の笑みで微笑みながら言った。


「そうだよねぇ……。ハコには精神的に異常な人が多い……」


 ゆっくりとエンドーさんは近付く。コウガさんに近付きながらエンドーさんは言う。


「グレグルさんは、ああ見えて暴力的だから、暴力罪が多すぎて逮捕。ブラド君は女性恐怖症なのに、女の人を傷つけて逮捕。それで、僕もあの二人と同じって言いたいのかな……?」

「……そうとは言ってねぇ。あいつらは、お前とは違う。お前は――」


 近付いて来るエンドーさんに、コウガさんは素早く苦無を投擲した。


「お前は――ド異常野郎だっっっ!」


 苦無は一直線にエンドーさんの蟀谷めがけて飛んでいき……、そして――


 ドシュッと、刺さった拍子に、エンドーさんの顔が天を向いてしまう。そして苦無が刺さっているところからぴゅっと、液体が出た。


 私はそれを見てぎゅっと目を瞑って背いてしまう。キョウヤさんはそんな私の頭に手を添えて――コウガさん言った。


「……どう、なった……?」


 コウガさんは何も言わない。でもキョウヤさんは驚いた声で声を張り上げた。


「……おい、これ……、ウソだろっ?」

「ああ」


 その驚きを知ったのか、コウガさんも頷いた声を上げる。


 私はそっと目を開けて、意を決してキョウヤさん越しにエンドーさんを見た。そして目を疑った。


 理事長が言っていた言葉を思い出す。


 私達プレイヤーは、HPがゼロになっても、『デス・カウンター』がゼロになるまえに、蘇生スキルを使えば生き返ると。


 でも、エンドーさんの頭の上に……。



『デス・カウンター』は、()()()()()



 どころか――


 ぐあっと、まるで首だけ機能していないまま起き上がった人形のように、エンドーさんの体はコウガさんを取り押さえる。そのままコウガさんを押し倒して、エンドーさんはコウガさんの上に跨って馬乗りになる。これではまるで……、ホラーだ……。


「んなっっ!? 気持ち悪ぃんだよっっ!」

「コウガさ……っ!」

「来んな馬鹿野郎っ!」

「っ」


 コウガさんが、声を荒げながら、エンドーさんの両手を押さえながら叫んだ。


「これは俺の問題だっ! 俺の人生を滅茶苦茶にしたこいつをぶん殴って、豚箱にぶち込むまでは……、手を出すんじゃねぇっ!」


 その声は、怒りそのものだったけど、真剣さ、まっすぐな思いと、憎しみが含まれていた。


 コウガさんはエンドーさんの両手を掴んだまま、ぐぐっと、ゆっくりとした動作でエンドーさんの手をクロスさせる……。


 私は手を伸ばしたけど、キョウヤさんは私の腰に尻尾を巻きつけて、私の肩を掴んだ。


 まるでそれは――行くなと言っているようで。


「キョ、キョウヤさん……っ!」


 キョウヤさんを見ると、私の視線になるようにしゃがんで、真剣な目つきで止めて、エンドーさんとコウガさんを見ていた。


「このままだと」



「あははははははははははははっ! あーっははははははははははははははははっ!」



「「っ!?」」


 すると、エンドーさんの笑い声が、狭い空間に木霊して、反響し合って、私達に耳を壊す勢いで叫んで笑っていた。


 私は耳を塞いで目を開けると、そこには――信じられない光景が目に映った。


 エンドーさんは、胴体を後ろに引いて、ぐんっと前に向かって揺らす。すると、ブランブランっとしていた首が歪な音を立てて前に来た。そして――


 頭に苦無が刺さった状態で……、エンドーさんは。


「イタイイタイなぁ……。でも、いい音ぉ……だったなぁ……っ。はぁっ」


 頭から血を流しているにもかかわらず、まるで口裂け女のように口元に弧を描いて、コウガさんを見降ろして、笑っていた。


「っ! っそ!」


 コウガさんはすぐにエンドーさんの手元を見たけど、エンドーさんは頭から血を流した状態で……。


「あぁー。無駄ですよ。無駄無駄」と言いながら、エンドーさんは頭の苦無をずぼっと引き抜く。そこから微量の鮮血がこぼれだしたけど、そのあとが問題だった。


 エンドーさんの頭の出血は、すぐに止まって、そして、刺さったところから湯気が出てきて、エンドーさんの額の傷は、出ていた血を残しながら、傷は――()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「あ。はぁっ!?」

「え……、なに、あれ……」


 コウガさんと私が驚く中、エンドーさんはにこっとした今までと変わらない笑みで言った。


「言ってませんでしたっけ? 僕は吸血鬼の亜人。御伽話に出てくる吸血鬼は、杭を打つか、日光に当たると死ぬって。それと同じ原理で……」と言って、エンドーさんはすぐに、狂気の笑みで言った。


「僕は――一回では死にませんよ?」


 それを聞いた私は思い出す。メグちゃんが言っていた……あの言葉を。


『HPゼロになったらログアウトなのはわかったでしょ? 実はね……、このゲームにはとあるチート級のスペックを持っている種族がいるの。それは悪魔族と吸血鬼、そしてアンデッド。アンデッドは死んでいるから、HPがゼロになっても、一回踏ん張るっていう種族上のスキルを持っているの。悪魔族は論理上どうなっているのかわからないけど、三回死んでも、生き返るシステムなの。一回死んでも生き返る吸血鬼もいるけど、プレイヤー対プレイヤーの時は、絶対に悪魔族とかアンデッド、あと吸血鬼とは戦わないこと。そうなると、絶対に何回か本気で殺さないといけないもの。めんどくさいったらありゃしない』


 ……何気に物騒なことを言っていたので、私はそれを聞き流すように聞いていた記憶がある。


 でも、今私達は、その吸血鬼と対峙している。


 エンドーさんは吸血鬼。一回死んだとしても、また生き返る。


 そんな特殊なものを持ってるエンドーさん。エンドーさんは頭に刺さっていた苦無を逆手に持って、それをコウガさんの心臓めがけてそれを、力強く突き刺そうとした。


 コウガさんはそれを見て、すぐに持っていた苦無で受け止めようとした。


 しかし――


 ギャリリリッと、苦無と苦無は交わらず、コウガさんは左手の逆手で持っていて、苦無の腹を右手で支えるようにしていた。しかしエンドーさんの苦無はその苦無からずれるように、刃はコウガさんに向けられていた。


 その状態で、一番力が入れやすいエンドーさんは、そのままぐっと力を入れて、ニタニタと、「ふひひひっ」と笑いながら……、コウガさんにその刃を突き刺そうとしていた。


「っ!」


 このままでは危ない。そう思った私は、すぐに手をかざして――


「『(シェ)

「占星魔法――『(マジック)反射鏡(リフレクト・ミラー)』」


 でも、エンドーさんはすぐにスキルを発動して、私の『盾』を相殺した。


 ……違う。


 かざした手からまるで空気の反射が来るように、ぶわっと私はそれを直で受けて――


「っ! うぁっ! きゃぅ!」


 どてんっと尻餅をついてしまった。


「ハンナッ!?」


 キョウヤさんが私に気付いて駆け寄ってくれた。


「大丈夫か?」

「は、はい……」


 駆け寄りながら私の背に尻尾を回して起き上がらせてくれた。


 それに対し、私はお礼を述べる。すると……。



「あっはああああああああああああああああああああああああああああああっっっ!」



「「っ!?」」


 エンドーさんは、ぶるぶる震えながら悶えだした。


 上を向いている顔はどうなっているのかわからない。でも、口から涎を流しているのはわかった。少し粘着性を帯びていたそれを口から垂れ流して、エンドーさんは叫ぶ。

「そう、そう! 『バリィン』! 『スザァッ』! 『ギャリリィ』に、『ぐしゅっ』!? あああああああっ! なんて甘美な響きっ! なんていい響きで奏でてくれるんだあぁああああぃぃいっっっ!」


 ぶるぶる震えだしたエンドーさん。


 それを見たキョウヤさんはうげっという顔をして青ざめ……、「なんだ、ありゃ」と声を漏らす。


 私もそれを見てエンドーさんから感じる薄い黒の中に黄色いもしゃもしゃが更に強くなっているのを感じだ。


 エンドーさんは悶えて荒い息使いで震えていると、エンドーさんはぐんっとコウガさんを見降ろして言った。叫んだ。その表情ももはや異常に見える。


 血走った目に歪みに歪んで見開かれた瞳孔。そして一部垂れていた前髪が上に跳ね、ギラギラした目つきで彼はコウガさんの心臓の位置に苦無を突き刺さそうとして彼は言った。


「ああぁ! もっと聞かせてっ! んもっと奏でてっ! 『ぐしゅ』っ! 『ぶしゅぅ』っ! 『ぶしゃぁ』に『どちゃぁ』! 全部全部言聞きたい! 全部この耳に残したいっ! ああ、なんていい音なんだっ! 早く早く早く早く! 聞きたいよぉっっっ!」


 完全によくわからないことを叫んで……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ