PLAY05 殺人鬼と天賦の回想②
その開けた場所で、みんなが座って体力を回復(HPではない。スタミナの問題)させていた。
私はけがをしている人の回復をしながら円を描くように歩く。
でも怪我をしている人なんて、さっき私が回復を何度もしていたから、そんな重傷な人はいなかった。
結局心配し過ぎ。行動して損をしたという結果。
「ふぅ」
そのような行動し損をし終えた後、結局動いただけだな……。と思いながら小さく溜息を零し、私は一人――少し離れたところですとんっと体育座りをすると、私はそのまま視線をみんなに向ける。眼だけでその光景を見ながら……。
……みんなを見ると、誰も死んでいない。
誰も、犠牲になっていない……。そう――ここまで私達は犠牲もないまま魔物を倒した。従来のゲームと同様に魔物をみんなで倒した。これは小さな達成感で終わるのが普通なんだけど、この世界に入ってから二回目の戦闘。しかも勝利と言う結果で終わったため、その達成感はたとえ小さくても質的に大きなものに感じたのも事実。
でもこれは二回目。一回目は不完全燃焼だった。私達は……。
泥炭窟のゴーレスさん達はたった一回の戦闘で、初めての戦闘で……たくさんの犠牲をたくさんの傷を作って、エストゥガに逃げてきた。
そう思うと、心が居た堪れない。私達は無事で、ゴーレスさん達は絶望。こんなの不公平に感じてしまいそうな事態で、もし、もしあの時……、私が一緒にいれば……、もしかしたら。
「よぉ」
「!」
そんなことを考えていると、上から声が聞こえた。
私は上を見上げる。そこには――キョウヤさんがいた。
キョウヤさんはニカッと笑みを作って――「ちょっと隣、いいか?」と聞いてきた。
私は頷いて、どうぞと促す。
キョウヤさんは「さんきゅ」と手を上げてお礼を言うと、私の少し離れたところに座った。
そして、座ってからすぐに――キョウヤさんは私に聞いた。
「ハンナは――なんでこんなところに来たんだ?」
「………………」
「いや、俺の率直な疑問だよ。こんな危ないバケモンがいるところに、わざわざ歩いてくるなんてことはないと思っていたし、なんか事情がない限り、こんなところに来ないだろう? だから聞いてみただけだ」
言いたくなかったらいいんだけど。と、キョウヤさんは私を見ないで言う。そんな横顔を見た私は、少し考えてからマースさんのところであったことを話す。
その話をしている間、キョウヤさんは何も言わずに、ただ耳を傾けているだけだった。
そして私の話が終わった時、キョウヤさんはただ……。
「選ばれた人間……ねぇ」とごちり……、そして私を見ないで――
「でもさ、選ばれたからって、それを全部抱えて全うするって……、逆に辛くねえの?」
私の顔を見て疑問の表情で聞くキョウヤさん。
私はそれを聞いて、うーんっとうなってから……。
「辛い……、と思うんですけど、運命として受け止めていれば」
「いや、それこそ逆に自分を追い込んでねぇか?」
私の言葉を遮って、キョウヤさんは真剣に、私のことを見て言った。
「実は。オレこのゲームに二人友達と一緒に参加してきたんだけど、あんなことがあって、俺が最初にエストゥガに飛ばされちまったんだ」
「キョウヤ、さんも?」
「おぅ」
キョウヤさんの言葉に驚きながら、私はキョウヤさんの話を聞く。キョウヤさんは私から視線を逸らして、そして上を見上げながら言った。
自分の過去の一部を、語った。
「その友達の一人が、スゲー位めんどくさくて、俺中学校の時からの親友なんだけど……。めんどくせぇのなんのって、自分で決めたことはもう曲げたくねぇ性格なんだよ。頑固野郎でな……。犯罪現場を見たらすぐに駆け出して、犯人とっ捕まえる的な」
すごい人だ。そう思いながら私はキョウヤさんの話を聞く。
「んで、辛くて苦しんでいる奴がいたら、助けないと男が廃る的なことも言っててよ。それが自分の運命とか言っている奴だったんだよ」
だから、同じなんだ。そうキョウヤさんは言って、私を見て言った。
「自分で自分を追い込んで、苦しくねえの?」
そう言われ、私はヘルナイトの言葉を思い出す。
私の気持ちをくみ取ってくれたあの言葉を……。
優しいあの言葉。
それはきっと、苦しそうに見えたから――あんな言葉を言って、励まそうとしてくれたんだ。
それを聞いて、私は――
「……そんな、つもりはありませんでした」と、正直に、今まで気付いていなかったことを言った。
それを聞いたキョウヤさんはぎょっ驚きながら――
「うっそ! 無自覚こっわっっっ!」
そう言って青ざめながら、自分を抱きしめるキョウヤさん。でも、それはすぐにやめた。
キョウヤさんははぁっと溜息を吐いて……。頭をガジガジと掻きながら、キョウヤさんは言った。
「でも、自分でも限界だーって思ったら、すぐにお兄さんやモナとか、あと心から信頼できると思う人に言えよ。でないと……、自分で自分を壊しちまうぞ」
これ大人の忠告。
そうキョウヤさんは言った。私の頭に手を置いて――
それを聞いて、そして感じて……、私はこくりと頷くと、キョウヤさんは頭をぐりぐりと撫でながら「よし! わかったのならそれでいいっ!」とにひひっと笑いながら言った。
髪の毛をくしゃくしゃにするくらい……、乱暴に撫でながら……。
ああぁ。髪の毛が乱れる。
そう思いながら、されるがまま(止めたらキョウヤさんに失礼だと思ったから)になっていると――
「よし! それじゃ――行こうか」
エレンさんの声が聞こえた。
「お、もうか」と言って、キョウヤさんは立ち上がる。
「んじゃま、行くか」
「あ、はい」
キョウヤさんに言われ、私も立ち上がった。
その時だった――
それは唐突に、それも私達が驚く暇もなく……。
開けた場所の地面が、突然まばゆく光りだしたのだ。
それを見た私達はあまりに唐突なことで、足を動かすことを忘れていた。
だから反応に遅れた。
視界いっぱいに広がる光は、私達の視界を包んで……。
◆ ◆
「……っ! っは!?」
真っ暗な世界で金縛りにあっていたかのような感覚から、一気に覚醒するように目を開けたエレン。
エレンの視界に広がる光景は、先ほどまでいた開けた場所ではない。
狭く、そして蒸し暑さが立ち込める……奥から光が差し込んでいる通路だった。
エレンはその光景を見て、すぐに魔導液晶地図を開く。
そして自分達がいる場所をタップすると……。
自分達がいる場所はF1ではない。今自分達がいる場所は……。
B2。
最下層だった。
それを見たエレンは驚きながら辺りを見回して思考を巡らす。記憶を辿る。
――さっき何が起こった?
――俺達はさっきまであの場所で休憩を取っていた。
――そして、いざ行こうとしたとき、視界いっぱいに広がった光。
――そして、目が覚めたらこれだ……。
――こんなの、あのゲームにあったか?
――いいやない。
――他のゲームの転移ってやつならあるけど、MCOにはなかった。
――アップデートで付け加えたのか?
――くそっ! 情報が足りない。
そう思っていると、後ろから声が聞こえた。
「う、うぅ……」
女の声だ。その声を聴いたエレンは後ろを勢いよく振り返る。そこにいたのは――
頭を抱えて起き上がった……、ララティラとアキ。ダンにブラドだった。
「み、みん……」とエレンははっと気付いた。
否、この場合なら、もうとっくに気付いた方がいいのかもしれない。
思案しすぎたせいで発見に遅れた。
「あ、エレン……? ほわ? ここは……?」
「なんだココ……?」
「うがぁぁぁ……、めがぁ……めがぁ……」
ララティラとダンは頭を抱えながらうなって声を出す。ブラドは目を押さえながらゴロゴロと地面を転がっていたが、ここは火山地帯のようなダンジョン。すぐに熱が体を刺激し、ブラドは火傷しかけた体を仰いで騒いでいた。
アキはすぐに辺りを見回し……、そしてエレンを見上げて、声を荒げて聞いた。
「ハンナはっ!?」
その言葉に、エレンは――首を横に振ることしかできなかった。
それを見たエレンは、ぐあっと彼の胸ぐらを掴もうとした時。エレンはアキの手を止める。
ララティラとダンがそれを見て、驚いた顔をしていたが、アキはそんな二人を無視して、エレンに聞いた。
どすの利いた音色で、そして怨恨の眼で、彼はエレンを見て聞いたのだ。
「なんで……、なんでわからないんですか……っ!」
「それは俺が知りたいくらいだ」
そう言ったエレンは、あたりを見回す。そして――
「キョウヤくん。コウガ、そして、エンドーがいない」
その言葉に、アキははっと気付いて、辺りを見ると、本当にその三人はいなかった。
ララティラも見て、ダンはブラドを心配しながらエレンを見た。
「え? まさか……」
「そのまさかだ」
ララティラの言葉に、エレンは確信を込めた音色で言った。
「――俺達は、別々の場所に、転移されたんだ」
……その言葉が合図のように、『グオオオオオオオオオオオオオォォォッッッ!』という雄叫びが通路内で木霊した……。
□ □
真っ白になった世界が一気に黒くなる。
私はそっと目を開けると、その場所を視認することができた。
周りにあるのは木箱と、その中に入っている鉱物。そして鉱物を掘る時に使う道具。スコップもある。
その近くにはランタンがあり、私はそれを見てすぐにここがあの場所とは違う場所と認知した。
「いってぇ……」
「!」
すると、背後から声。
私はすぐに振り返ると、そこにいたのは――
「キョウヤさんっ!?」
「お、おぉ……」
たははっと笑いながら、キョウヤさんは私を抱えながら尻餅をついている。
私は慌ててキョウヤさんに聞いた。
「だ、大丈夫ですか……っ!?」
「おう。ダイジョーブだ。これくらいは屁でもねえ」
「ああ、今はな……」
「「!」」
と、もう一つの声。
その声を辿って見てみると、そこにいたのは――苦無を逆手に持って構えているコウガさんだった。
「お? コウガ?」
「ど、どうしたんですか……?」
「ああ? てめえら」
「決まってるじゃないですかぁぁぁぁ~?」
と、この場にいる三人とは違う、なんというのだろう。
私の体中を長い長い舌で舐めに舐めて、目の前で大きな大きな口を開けて捕食するような……、まるで蛇に睨まれた蛙のように……。
急に来た恐怖が私を襲ったのだ。
私はそっと声がした――コウガさんの前にいる人を見る……。
そして――モナさんが言っていたことがわかった。
更に疑問だったことが……、すべて合致した。
コウガさんは苦無を構えながら聞く。
「……何のつもりだ? てめえ」
「ふふ、ふふふ」
「……答える気ねえんだな……? なら、単刀直入で聞くぜ」
コウガさんはすぅっと息を吸って――目の前にいる人に……、聞いた。
「なんでお前のような殺人鬼が、ここでニタニタと人間品定めんしてんだ――」
「――エンドーッ!!」
その言葉に目の前で狂気の笑みを浮かべて、エンドーさんは微笑んだ……。