PLAY05 殺人鬼と天賦の回想①
現在進行形で絶賛追われ中でもある私達は懸命に追いつかれないように走っていた。エンドーさんが走ってきた道を逆走しながら駆け出して――
足がもう痛いとか、そんなことどうでもいいというか、今は追いつかれないように懸命に走っていたので、そんな痛いとか疲れたとかそんなことは微塵も感じなかった。
今にして思うと、なんで思わなかったのかと思ってしまい、人間の不思議なところだなとか変なことを頭の中で思っていた時……。
「あ! ここですっ!」
一番先頭を走っていたエンドーさんが目の前のとあるところを指さす。私から見て右に道があり、その道に向けてエンドーさんは指を指していた。
エンドーさんはその道に向かって走り、そして曲がって――
「こっちです! さぁ、早くっ!」
と私達に向けて叫び、そしてその言葉を言いながら走って行ってしまった。
それを見たララティラさんは小さい声で……、「何であんなところに……?」と言葉を零す。
アキにぃは私の手を引きながら走って「早くいかないとっ!」と言って、ふと、アキにぃは何かを思い出したかのように、はっとして、ララティラさんを見た。
突然自分のことを見たララティラさんはアキにぃのことを見てぎょっと目をひん剥かせると、それを無視して、走りながらアキにぃは聞く。
「そういえばっ! あの蜘蛛がドロップしたもの、ありましたよねっ!?」
「え? ああ……」
ララティラさんは呆けた声を出していたけど、すぐに思い出したのか、腰にぶら下げていたポーチのボタンをとる。そしてその中から二つの紙筒を取り出した。
「なんだそりゃ?」
コウガさんが後ろを向いて、それを見て走りながら聞く。それに対し、私は答えた。
「あれ――詠唱結合書っていうんですけど、必殺技だってマースさんが言っていました」
「ひぃっ! ふぅっ! ヒッサツワザ! はぁ! はぁ! うぇっ! かっけぇっっ!」
「かっこいいけどよ……、今それ覚えることができるのか? てかブラドうるせぇ」
「俺は元々インドアなんだよっっ!」
キョウヤさんはそれを聞いて、少し半信半疑に言うと、ブラドさんは汗をだらだら流しながら、息を荒くして走りながら言う。
でもキョウヤさんはそれを見て、「うげ」という顔をして見ていたのに対し、ブラドさんは残った体力で怒りを露にした。
そんな中――コウガさんは言う。
「なら――早くしろ」
「でも」
「なんだ? まだ何かあるのか?」
その圧を込めた言葉に私は一瞬言葉をしまう。それを見ていたアキにぃはコウガさんを睨みつけて走っていた。コウガさんも負けじと睨んで……、溜息を吐き……。
「悪かった。何か他に言いたいことがあるのか?」
少し優しめに言って溜息を再度吐いた。
それを聞いた私は、ほっと胸をなでおろしながら――頷いて。
「その、その詠唱は、誰でも使えるわけじゃないんです……」
「マジかよぉおおおおおっっっ!」
ブラドさんが上を見上げて叫ぶ。目いっぱい叫ぶ。それを見ていたのか、後ろにいたエレンさんの声が聞こえた。
「忙しい人だ……」と。
それを見て驚きつつも続ける。
「その、使える人は――紙筒を縛っている紐が、白く見えるそうです。それが、その詠唱が使える合図というか……」
「あ――これ白いで」
ララティラさんははたっと気付いたかのように言う。そしてアキにぃが振り向いて、目を疑うような表情で、ララティラさんが持っている紙筒を見た……、そのあとすぐに――
「お、俺も、紐が白く見えた」
「っ!」
アキにぃの言葉に、私は確信する。
それは――あの髑髏蜘蛛がドロップした詠唱結合書は、アキにぃとララティラさんが使える。それがわかった瞬間、私は小さく声を荒げる。
「アキにぃ、ララティラさん……っ! すぐにその詠唱結合書の紐を解いてっ!」
「「っ!?」」
その言葉を聞いたララティラさんとアキにぃは驚いた。でもアキにぃはすぐに行動に移して、ララティラさんが持っている紙筒の一つに手を伸ばした。
それを見て、ララティラさんは自分が白く見えているそれを先にしまって、もう一つをアキにぃ手渡した。
ぱしんっと、まるでリレーのバトンのように。
「――着きますっ!」
エンドーさんの言葉に、私達は前を向く。
狭い通路から出た瞬間――そこは本当に開けた場所だった。
あの泥炭窟の開けた場所よりも、三倍は広い場所で、あんなに扱った体温も、今では少し涼しいくらいになっていた。きっと、密度がありすぎて熱くなりすぎていたのだろう……。
そう思っていると、エレンさんが叫んだ。
「――追ってきたっ!」
エレンさんの叫びを合図に、私達は振り返って、武器を構える(私はない)。
アキにぃはライフル銃を。
ララティラさんは杖を。
コウガさんは短い刀――忍刀を両手に持ち。
ブラドさんは大剣を。
キョウヤさんは槍を。
ダンさんは拳を。
エンドーさんは薄水色の水晶を手に持って――
エレンさんは弓矢を。
みんな――背後から追ってきた魔物と対峙する。
と、私も何とかしようとした時……。背後に気を取られていたのか……、私から見て背後から足音。それもさっき聞いたような音だ。
私はそっと振り返ると――そこにいた魔物を見て、ぎょっと驚いてしまった。
そこにいたのは――倒したはずのボーンアンデッド(炎)だった。
しかも十体も。
「わっ。きたっ!」
私は驚いて手をかざす。そして手に持っていた獲物――錆びたような剣を持って襲いかかってくるボーンアンデッド(炎)達。
私はすぐに――
「『浄化』ッ!」
スキルを使った瞬間、また白い柱に入ったボーンアンデッド(炎)は、シュワァァァっと白い光となって消えてしまう。
私はそれを見てほっと胸をなでおろす。
「え!? なんなんっ!?」
ララティラさんは驚いて声を上げた。
私はその声に反応するかのように振り返ると、みんな魔物と闘いながらも私のことを見て驚いている。
「だ、大丈夫です……。さっきと同じ魔物で」
「いや、それはわかるけ」
ララティラさんが言った瞬間、ララティラさんは私を見ていたので背後を見ていなかった。だから、ララティラさんは背後から来たファイアー・デモンに気づいていない。
私はそれを見て――すぐに手をかざし……、ファイアー・デモンが持っていた槍を振り下ろす瞬間――
「『炎盾』ッ!」
ガキィンッと、私はララティラさんの背後に赤い盾を張る。その盾に直撃したファイアー・デモンは、ぎょっと驚きながら私を見ていた。盾はすぐに赤い塵となって散布する。
ララティラさんはそれを聞いて、背後を見てすぐに――
「っ! 『水』ッ!」
杖の先から大きな水の球を放った。
それはファイアー・デモンに直撃し、ファイアー・デモンは体中から黒い靄を吹き出しながら「キシャアアアアアッ!」と叫んで、そのまま体中を黒く変色させて……、ぼふぅんっと消滅した。
「ファイアー・デモンは任せときっ!」
ララティラさんはそう言って、近くに飛んでいるファイアー・デモンに向かって水の魔法連射をお見舞いする。
それを見たエレンさんも加勢するように、弓に矢を装填して――弦をしならせてから、矢の先に水を纏わせ……叫ぶ。
「『ウォタアロォー』ッ!」
パシュッと放たれた水の矢は、辺りをうろついていたスライム(炎)に当たり、じゅぅっと蒸発するような音を立てて、消えてなくなってしまった。
それを見て、エレンさんはそれを連射する。
私はまた来たボーンアンデッド(炎)十体に、また『浄化』をかける。
そんな中、ゴッと鈍い音が聞こえた。
「あいってっ!」
「なにしてんだ蜥蜴っ!」
「蜥蜴ヤメテ! 俺ブラドッ!」
「っ!」
ブラドさんとコウガさんの声。
私はその声がした方向を見る。そこには――
一際大きい、そしてさっき追われている時はいなかった……、大きなゴブリンがそこにいた。
腰巻に長い鼻。そして手には大きな棍棒が握られてて、筋骨隆々姿の長身ゴブリンがそこにいた。それと対峙しているのは――コウガさんとブラドさん。
ブラドさんは肩を掴みながら痛がっていて、コウガさんも足をけがしているのか、そこから赤い血が流れていた。
私はすぐに二人に手をかざして――また来たボーンアンデッド(炎)にも手をかざして……。
「『浄化』! そして……、『集団少治癒』ッ!」
浄化の音とブラドさんとコウガさんを覆うように、水色の淡い光が二人を包み込む。そして押さえていたところや、血が出ていたところを見た二人は……。
「マジか――治ってるっ!」
「一瞬で、かよ……」
喜んでいたり、驚きのままその傷ができていた箇所を見ていた。
でも、大きなゴブリンはそんな二人を待ってはくれない。
それを見た二人は――
「まぁ。これは――」
「俺らじゃ不向きだな」
コウガさんとブラドさんは言って、すっと、後ろに下がって――
とんっと、後ろに跳んだ。
「「任せた――」」という言葉を残して……。
すぐに、二人と入れ替わるように現れたのは――
「任された」
キョウヤさん。
キョウヤさんは姿勢を低くしつつ、その巨大なゴブリンに向かって走る。
槍を持ち、そのまま足を突き刺そうとした時、ゴブリンはそれを見てぐわんっとその狙っていた足を後ろに引いて、そして――
ブンッという音と共に、キョウヤさんを蹴り上げようとした。
それはまるで、サッカーのように。
「っ! 『強盾』ッ!」
ゴブリンの足の前に、『強盾』を出した私だけど、その前に、キョウヤさんはすでに別の行動に移していた。
キョウヤさんは走っていたのに、なぜか後ろに跳び退いていたのだ。
がんっと当たる『強盾』。そしてびきびきと亀裂が入る。
ゴブリンはそれを見て、「ごぉっ?」と声を上げるけど、その前にキョウヤさんは『ばしんっ』という音と共にキョウヤさんを目で追っている間にすでにキョウヤさんは地面を踏んでいる足の近くにいて、そのままゴブリンの足を――アキレス腱を切り落とすように、槍で斬った。
斬った瞬間、足のところから黒い血が噴き出す。
それを見て感じたゴブリンは、痛がって片方の足を上げてそこを押さえる。
ズンッという足音を立てて、もう片方の足でバランスを取りつつ出血を抑えていた。
でも、キョウヤさんはすぐにもう片方の足の腱も切る。
ゴブリンは痛がるそぶりを見せるけど、キョウヤさんはそんな隙も与えないかのように――
『!』
ざしゅっ! ゴブリンの脇腹を斬り、背中を斬り、それを何回も繰り返す。
ざしゅっ! しゅっ! ジャキンッ! ザシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュシュ。と――
ゴブリンの体を斬りに斬りつける。
ゴブリンは唸り声を上げて叫ぶ。対照的にキョウヤさんはまるで踊っているかのように、槍をもっては回してを繰り返し、動いて、それはまるで曲芸のような、舞踏のように踊りながら斬っていた。
まるで動く芸術のように……。
私はまた来たボーンアンデッド(炎)に、またまた『浄化』をかける。
アキにぃはお化け石に向かって『ウォタショット』を撃っているけど、増え続けるそれを見て、アキにぃは何かを取り出した。それは――詠唱結合書。
お化け石とスライム(炎)が、アキにぃに向かって襲いかかってきた。それを見た私は、すぐにアキにぃに加勢する。
「『炎盾』ッ!」
紅い盾が出たと同時に、スライム(炎)とお化け石はべこんっとそれに突っ込んでずるっと落ちてしまった。それを見てアキにぃは、私を見ずに「ありがとう」とお礼を述べて――しゅるっと詠唱結合書の紐を解いた。
すると、開かれた紙は、そのままアキにぃのバングルに吸い込まれるように入って、一瞬アキにぃはぼーっとしてしまった。でも、スライム(炎)達は、前に躍り出たダンさんの気迫の押されて、少しずつ後退していた……。
「なんだぁ? 来いよ……。来いよっとぉおぉぉぉぉおおおおおおっっっっ!」
ダンさんは叫びながら溶岩に化けているお化け石を掴み上げ、そのままぶんっと振り回して、そして回転しながら叫んでいた。それを見たエレンさんは「あいつ本当に馬鹿だ……」と頭を抱えていた。
そんな中、ダンさんは「うわははははははははははははははっ!」と笑いながら回転しては、魔物を寄せ付けずにいる。本人は戦いたいのかもしれないけど、それだと、逆効果なのでは……?
そう私は思いながら、ダンさんに『小治癒』をかける。
「みなさん! 離れてっ!」
アキにぃはみんなに聞こえるように叫ぶ。それを聞いたエレンさんが、ダンさんを足払いしてダンさんをよろめかせて、倒してから、そのまま首根っこを掴んで引きずる。
アキにぃは銃を構える。
そして、少し遠くにいた焔暴牛に銃口をむけて、狙いを定めた。
焔暴牛はガッガッと蹄を打ち鳴らし、アキにぃに向けて角を突き付けて――走る体制になっている。
アキにぃが危ない。そう私は思い、すぐに手をかざしたけど……。
「幾年の時の泉で守りし森の妖精たちよ」
その言葉を言った瞬間、空気が変わった。アキにぃはそのまま銃を突きつけたまま、言葉を唱える。
「我ら森人に、すべてを射抜く力を――守る力を与え給え」
アキにぃは呪文のように唱えた瞬間、焔暴牛はだんっと、アキにぃに向かって駆け出して、その角を突き付けて走ってくる。
でも、アキにぃは逃げない。その代り……。銃の引き金を引いた。
「――『必中の狙撃』ッ!」
と同時に、パァンッとそれは一際大きく響いた。そしてその一直線に飛んだ銃弾は、焔暴牛の額めがけてどっと突き刺さり、そして――
貫通した。
バシュッと吹き出る血。
そして『ブモォォォォオオオオオオオオオッ!』と鳴いた焔暴牛は叫んだ状態で、そのまま黒く変色し、そしてぼふぅんっと消滅した。
それを見ていたアキにぃは、銃を見て驚きながらも……、「これが、詠唱……」とつぶやいていた。
私も、そしてエレンさん達もそれを見て驚いていると……、すぐ近くで響いた叫び声。
その方向を見ると、また私は驚いてしまった。
さっきまで切り刻まれていたゴブリンだったけど、なぜだろうか、自分に向けて武器を当てて、痛がっている。すると――その目の前にいたのは、エンドーさん。
「あらら? ひょっとして驚いています? このゴブリンは」
と言いながら、微笑んだ笑みを崩さず、エンドーさんは言った。
「僕のシャーマーのスキル……、占星魔法――『反射鏡』に向かって走るなんて、頭が悪ですね。さすがは姑息でオーソドックスのモンスターだ」
コウガさんとブラドさんを見て呼ぶ。
すると、二人は走りこんで――ゴブリンに向かって武器を構える。
ゴブリンは叫んで――そしてそのままだんっと跳んで、二人を押しつぶそうとしていた。
それでも――
コウガさんは手に持っていた忍刀をしまい、すぐに懐から出した――手一杯の苦無を、ゴブリンの顔、胴体に向けてシュシュシュッと放った。
その姿はまるで、本物の忍者のように。
「忍法武術『桜吹雪』」
そう言い放ったと同時に、ゴブリンの顔や胴に突き刺さった苦無。そこから吹き出す血。
ゴブリンは痛みで顔をゆがめていたけど、その隙をついてなのか――ブラドさんがその胴体めがけて、大剣を横に薙ぐ。
「『スラッシュエッジ』ッ!」
ずっと入った大剣はゴブリンの胴体をまるで大根の輪切りにするように、ざしゅっと、ゴブリンの上半身と下半身に分けて、斬った。
そしてすぐに――ゴブリンの体も黒く変色して、ぼふぅんと消滅した。
消滅したと同時に、ぼとんっとアイテムが落ちる。
よく見ると、ところどころにドロップアイテムがわんさか落ちていた。
アイテムが落ちて、そして魔物が来ない。それは……、私たちが勝った。ということだ。
「いよっしゃっ! 勝ったぜ!」
こぶしを振り上げて喜んでいたブラドさん。あんな細い体で、よくあの体験を振り回していたなぁっと思っていると、それを持ていたキョウヤさんは肩に槍を置いて――
「ナイスフィニッシュ」と手を上げる。それを持てブラドさんは手を上げてパァンッとハイタッチをした。
コウガさんにもハイタッチを促していたけど、コウガさんは無視してそっぽを向いていた。
「アキにぃ」
私はアキにぃに近づいて、アキにぃを呼ぶ。するとアキにぃは私を見降ろし、「どうしたの?」と聞いてきた。私は聞く。
「さっきの……、詠唱?」
そう聞くと、アキにぃは少し黙っていたけど、ニコッと微笑んで――
「そうだね。あれは俺の詠唱だ」と言った。
「そうなんだ……。なんだか、格好いいね」
「そ、そうかな……?」
私の言葉に、アキにぃは照れながら鼻のてっぺんを指で掻く。
いつもアキにぃは、照れたりする時、鼻のてっぺんを指で掻く癖がある。だから私は、それを見て少し安心した。
あの時と変わらない、アキにぃだと……。
今まで様子がおかしいアキにぃしか見ていなかったから、不安だったけど、アキにぃは変わっていない。それだけ分かれば、安心だ。
そう思っていると……。
「……しかし」
エレンさんは私を見て、少し恐ろしいという目で見て、こう言った。
「ハンナちゃん、なんか手馴れていたな……」
「?」
いったい何のことだろう。そう思っていると、そんなエレンさんの言葉に同意の声を上げたのが――
「ああ、確かにな」
コウガさんだった。
コウガさんは私を見降ろしながら、驚いた表情を隠さずに、コウガさんは私を見て言った。
「あの時反対側からボーンアンデッドが来ていた。にも関わらず、お前は浄化をしつつ、俺たちへの支援も手を抜かずにやっていた。しかも俺達が受けていたダメージは蓄積されていた体力も三桁だったが、このガキは初級の『小治癒』だけ使って、全回復させやがった。あろうことは同時スキル発動もしていた。あとお前、あんなにスキル使ったら、もうMP残ってねえはずなのに……。お前……」
コウガさんは私を見降ろして聞いた。
「――いったいどんな奴と一緒にいたんだ……?」
その言葉と同時に、みんなの視線が私に集まる。
私は「えっと」と少し言葉を整理しながら少し視線をそらして……、そして面と向かって言った。
「実は……」
なぜだろう……。
ゴクリという音が聞こえた気がする……。
でも私は言葉を続けた。
「前までいたチームで、一人大怪我を何回もしてしまう人がいて……、その人は、すごく無鉄砲なところがあって、それで私は、いつも回復をしていたんです。でもすぐに立ち向かって、即死しそうなくらい危なくて、だから攻撃を受けた瞬間、すぐに回復するように心がけて、回復スキルを最初に覚えて、今では『蘇生』までできます。よくその友達は『ゴア』もしていたので、『部位修復』もできます。同時に放たないと、その子本当に危なくて……。MPの方は安心してください。四万もあります……」
そう説明を終えると、誰もがぽかんっとして聞いていた。
私が言っていた危ない子は――しょーちゃんだ。
しょーちゃんはいつも無鉄砲に突っ込んで、死んでは生き返り。死んでは生き返りを繰り返していた。
そんなこともあって、私は一番最初に回復スキルを高めていき……、今では回復スキルマックスとなっている。
そう言って、私は視界に移った光を見て、久し振りのバングルを見る。
バングルには――HPゲージとMPゲージの画面を遮るような大きなアイコンが出ていた。それにはこう書かれていた。
『レベルアップ! 45から46! SP2。スキル画面は画面の左端に』
……それを見た私は、すぐにみんなを見て言う。
「あの……、レベルアップ、しました」
その言葉に、みんながはたっとして、そして――
「あ! 俺もレベルアップッ!」と、遠くで喜ぶ声を上げているブラドさんがいた。
ブラドさんもバングルを私達に見せながら、喜んだ顔をして「俺レベル六十! はははっ! もう五十越えだぜ!」と言ってぴょんぴょんと飛び跳ねながらはしゃいでいた。
それを見ていたキョウヤさんが、まるで小さい子供の自慢を聞いている大人のように、肩を竦め、そしてブラドさんの気に障らないように笑みを作っていった。
「おお、おお。ヨカッタナ」
「そんな風に言わないで。逆に悲しいわ。てか喜べやこのぅ」
それを見てブラドさんは指をさして冷静に突っ込む。私はブラドさんに近付きながら「す、すごいです」と言ったけど、ブラドさんはすごい速さでコウガさんの背に隠れながら――
「あ、あ、あ、うん! そうだねっっ!」と、私を見て恐ろしいものでも見たかのような顔で私の顔を覗き込んでいる。
それを見て私ははっと思い出す。
ブラドさんは女の人が苦手だということに。
「す、すみません……」
「しばらくは近付かんよ。安心せぇ」
私は頭を下げて謝る。ララティラさんも女としてブラドさんの気持ちを汲み取って近付かないと宣言する。それを聞いたブラドさんは小さい声で「わりぃ」と謝った。
「……どうやら、みんなレベルアップしたみたいだし、体力回復も兼ねて五分くらい休憩しよう。休憩が終わり次第――地下三層に向かう。それでいいな?」
エレンさんは持ち前のリーダーシップで私達に提案する。その提案に私達は頷く。
「俺は今すぐ行きてぇっ!」
「お前だけは違う。これは強要です」
「おぉぉぉぅ……」
ダンさんはそれを聞いてガクンッと項垂れてショックを受けていた……。