PLAY04 ダンジョンへ⑥
「――とか言われてもよぉ」
大剣を持った状態のブラドさんが剣をぶんぶん振り回しながら少し苛立っているのか、それともうんざりしているのかわからないけど嫌々な音色で言った。
それを見ていたコウガさんは「振り回すな。あぶねぇ」と毒を吐く。
アキにぃも後ろを見て「なに振り回してんですか。置いて行きますか?」と、冷たい音色で突き放すように言う。
それを聞いたブラドさんは「やめてくれー。俺一人はいやだー」と駄々をこねているように言って、ブラドさんは面倒くさそうに唇を尖らせながらで言った。
「そのサラマンダーって強いのか? そもそもそこにいる嬢ちゃんの力でちゃちゃーっと浄化しちまえばいいんじゃね? よくありがちなチートのように」
「ははは、チートね……」
一番前を歩いて、敵がいるか探っているエレンさんが半分乾いた笑いを零す。
それを聞いてか、エレンさんの後ろを歩いていたエンドーさんがこっちを振り向いて言った。
ちなみに――今私達は鉱焔洞宮の中を歩いている。
じりじりとくる熱気に、ところどころから吹き出す溶岩。
それに注意して歩いているけど、靴底もだんだん焦げているのか、少し焦げ臭い臭いが鼻腔を刺す。
嗅いだことはないけど、きっとプラスチックかゴムの焦げた臭い……。多分だけど、もうこれっきりの臭いにしてほしいと思ったのは、言うまでもない……。
薄暗いけど、溶岩の明るさのおかげで、足元はよく見える。今のところ魔物にも出くわしていない。なので安心だ。
順番は前からエレンさん、エンドーさん、ララティラさん、キョウヤさん、アキにぃ、私、コウガさん、ブラドさん、ダンさんという順番。
「チートかぁ。よく聞くよね? あれって現実でもあればいいと僕は常々思っているよ」
そんな中、ブラドさんは手で首元を仰ぎながら、暑苦しそうに言った。
「そうそう! そんでラスボスとかもデコピンでパーンッ! って感じで、俺は倒したい」
「スカッとしてぇからか?」
「そうそう! わかったキョウヤ! スカッとしねえか? ゲームのラスボスとかはすげーめんどくせぇし。楽して勝ちたい」
「この場で言ってはいけない言葉ランキング一位を、そんな軽々と……」
最後の『楽して勝ちたい』という、ブラドさんの本音めいたそれを聞いて、キョウヤさんはぎょっと驚いた顔をしてみていた。
それは、確かにそうかもしれない。
メグちゃんもゲーマーで、よくラスボスのことを話していた。
そして最後に一言。
『あーあ、裏ワザとか使って、楽して勝ちたーい! でも壊れるからできなーいっ!』
駄々をこねていた……。
そういえば、メグちゃん達大丈夫かなぁ……。
そう思った時だった。
突然だった。
――ドオオオォォォォォォォンッ!
『っ!?』
ダンジョンが揺れるくらいの地震と、轟音、そして次に聞こえた――
『グオオオオオォォォォォォォォッッッ!!』
『っ!?』
耳を塞いで、やっと緩和できるくらいの――獣の叫び。
それを聞いた私達は、その五月蠅さに驚きながらも耳を塞いで、その声から見身を守る。
なんだろう……。この声……、すごく、苦しい……声。
そう私は思った。本当に、苦しそうに叫んでいる。そう思ったのだ……。
そう思った時、すぐに次が来た。
「っ! まずいっっ!」
エレンさんが叫ぶ。それは僅かに聞こえたくらいで、殆どの人が耳を塞いでいた。私はそっと目を開けてみる。まだ轟音は止んでいない。だから耳を塞いだ状態でそれを見た瞬間……。
「――っ!」
私はすぐに耳から手を放して手をかざした。
そう。目の前には――魔物が数体こっちに走ってきたのだ。
炎に焼かれた体で来た骸骨。鎧を着ているその魔物は――アンデット系の『ボーンアンデッド(炎)』だった。見た限り十五体くらい。
そして私は――
「『浄化』ッ!」
と言った瞬間、そのボーンアンデッド(炎)の周りに、白い柱が出てきて、その魔物を取り囲むように出たと思った瞬間、シュワァァァっという音と共に、ボーンアンデッド(炎)は、光の粒子となって消えてしまった。
それを見ていたエレンさんが私の方を向いて……、呆けた顔のまま私に言った。
「お、おぉ……、ありがとう……」
「いいえ……」
私はお礼を言われ、少し戸惑いながらも首を横に振った。
あの轟音はもう止んでいたらしい……。
エレンさんは私を見て、手を下しながら「スゲーな……」と口を零す。
すると、耳を塞いでいたアキにぃははっとして私を見ると、慌てた様子で私の視線になるようにしゃがんで――
「大丈夫かっ!? どこもケガしていないのかっ!?」と言ってきた。私はそれを聞いて、頷く。
それを見たアキにぃはほっと胸を撫で下ろした。けど……、すぐに次の展開が来た。
「うぉっ! 今度は『ファイアー・デモン』! と……、『焔暴牛』までっ!?」
「石に化ける『お化け石』。それにスライム(炎)まで……」
ブラドさんとコウガさんが驚きながら、その魔物を見て言った。武器を構えつつ、言ったのだ。
あのボーンアンデッドの後ろから出るように、炎の槍を持ってきた悪魔のような形相の魔物――『ファイアー・デモン』
紅く、燃えているような姿で現れて走っている、一際大きい角が大きい牛――『焔暴牛』
溶岩石に化けているかのように、ゴロゴロと転がってきた『お化け石』
そして赤い半透明の体に、頭には炎が出ているグネグネしている魔物――『スライム(炎)』
それが総計四十五体以上がこっちに来ていた。
「いくらなんでも、こんな狭い道じゃ戦えんっ!」
そう言いながら杖を構えて、慌てて言うララティラさん。
そうだ。
この道はすごく狭い、横一列は無理な状態でみんな後ろからついてくるというスタイルで歩いてきたのだ。
これでは――戦えない。
「俺はごり押しで」
「お前俺達を巻き添えにするつもりかっ!?」
「大丈夫だ――気を付けて戦うっ!」
「あー駄目だ! 俺ジエンド! ジ・エンド! 冒険の書が燃やされるぅ!」
「んなこと言っている場合かよっ!」
ダンさんとブラドさんの言葉が飛び交う中、キョウヤさんがそんな口論に区切りをつけるように怒鳴る。
私は何とかしないとと思い、魔導液晶地図を開こうとした時……。
「そ、それではっ! 少し戻った道に曲がり道がありましたっ! 見た限りそこは開けていますっ! そこに向かって戦いましょうっ!」
「え?」
エンドーさんが慌てた様子で言う。私は驚いて声を漏らしてしまう。それを聞いたエレンさんが少し考えた素振りを見せて、首を振ってから踵を返すように私達に言った。
「――すぐに方向転換っ! エンドー! 道案内を!」
「わ、わかりましたっ!」
今度はダンさんが先頭になってしまったけど、エンドーさんを先に行かせ、エンドーさんが先頭になってその場所に向かって案内しながら走る。
「こっちですっ!」
私達はそれを聞いて、走ってついていく。
私はそんなエンドーさんの背中を見て、違和感がだんだん疑問に変わっていくのを感じた。
それはなんだか、踊らされている……? ううん、もっと、なんだろう。
よくわからんないけど、言葉にできないような疑問を抱いて私はアキにぃと一緒に走る。
そんなエンドーさんの背中をまるで怨念めいた眼で睨んでいたコウガさんのことなど、私は知らなかった。