PLAY04 ダンジョンへ⑤
モナさんの忠告を聞いた私は、すぐにみんなのところに戻ってアキにぃ達に謝る。でも誰も怒っていなかった。あのコウガさんでさえもびっくり。
そしてダンゲルさんの案内の元――最初の目的地でもある鉱焔洞宮の入り口に着いた私達。
その洞窟……、ダンジョン、なのかな……?
洞窟からは凄い熱気が私達を襲い、中に入っていないのに、すごい熱が私達の体温を上げて、汗を流すように促している。
上を見上げると、活火山のような山がせり上がっていて、そこからこぷんっと溶岩のような液体が吹出している……。
「………溶岩だよね?」
「そうだな」
後ろにいたブラドさんとキョウヤさんが小さく言うと、ブラドさんは回れ右をして……。
「それじゃ――俺はギルドの警護を」
「馬鹿来い」
……すぐにコウガさんに止められた。
「でも、ここで立ち止まっても仕方がない」
といいながら、エレンさんは私を見て言った。
「ハンナちゃん。魔導液晶地図を」
「は、はい……」
エレンさんに言われるがままに、私は魔導液晶地図を開いた。
開いた瞬間、画面にはこのエストゥガの簡易的な地図と、私の場所は黄色く点滅していて、目の前には『鉱焔洞宮』とアイコンがふられていた。
私はそのアイコンをタップする。すると――
すぐにダンジョンの見取り図が出てきた。
全部で三層あり、一層目は一階――いうなればF1である。その階から下に向かって三層の広い空間に、白い点滅マークが出ていた。
詳細もわかりやすいダンジョン。それを見たみんなが私の魔導液晶地図を見て――
「へぇー、ダンジョンも丸わかりなんだ」
「マッピング要らずだな」
「と言うかこれだと分かりやすいわね」
「早く行こうぜっ!」
「すごいですねー。こんな技術があるだなんて」
「タブレットじゃねえか……」
「そこは言っちゃいけねえよ思うよっ! 俺は!」
みんながこれを見て色んな感想を述べている(ダンさんは違うし、コウガさんは私が言った通りのことを口にしている……)。するとキョウヤさんははたっと『鉱焔洞宮』を見て、「あ」と声を漏らした。
私達はその声を聞いて、前を向くと――そこから出てくる人……。鉱石族。
その鉱石族の人はダンゲルさんとは違うけど、他の鉱石族の人と同じように、半裸で腰布を巻いているだけのそれだった。でも体中に、そしてのど元にも傷をつけて、腰にはズタ袋を括り付けて、その袋一杯に、何かを詰め込んでいるようにも見える。その人は私達を見た瞬間。
ずんっ。ずんっと、重い足取りで私達に近づく。
私達はそれを見て、たじろきながらその人を見た。
その人は私達の前で立ち止まって、ある物をすっと見せた。
それは――白が勝ったかのような灰色の鉱石。ダイヤモンドとは違った透明度で、石英のような不純物など入っていない。そんな石だった。人工的につくられたかのようなそれを、その人は目の前にいたアキにぃを見て、無理矢理アキにぃの手を掴んで、それをぽんっと手渡した。
そしてそのまま、ずんっ。ずんっ。と――どこかへ行ってしまった。
『…………………………………………』
誰もがそれを見て、きっとこう思っただろう。
――なんだったんだろう。と……。
すると、その人が見えなくなったと同時に、入れ違いとなってダンゲルさんが来た。
ダンゲルさんは後ろを向きながら「冒険者の方々」と言って――
「先ほどグドゥードランとすれ違ったのですが……、何かあったのでしょうかな?」
そう聞いてきたダンゲルさん……。
と言うか、あの人グドゥードランさんって言うんだ……。
アキにぃは手渡されたそれを見せて……。「さっきの人、この石を」と言うと……、ダンゲルさんはそれを見た瞬間「おぉっ!」と喜びの声を上げた。そしてその石を持っているアキにぃに近づいて、そして石を凝視しながら興奮した面持ちで言った。
「これは――瘴輝石ではありませんかっ!」
『しょーきせき?』
聞いたことがない言葉に、私達は首を傾げる。するとダンゲルさんは「知らないのかっ!?」といいながら、ダンッと石の大剣を地面にめり込むくらい突き刺した。
それを見たブラドさんが、ビクッと体を強張らせていた。
興奮冷め止まぬ状態で、ダンゲルさんはアキにぃが持っている石を指差して叫ぶ。
「この石は、魔力の塊――いうなれば魔法やスキルが出せる鉱物! アズールにしかない、魔力を持っていない我等にとってこの瘴輝石は魔法やスキルと同じ! 手放せない代物ですぞぃ!」
「………魔力を持っていない……?」
その言葉に、エレンさんがはて? と言った感じで首を傾げ、腕を組んでその言葉に対いしてこう疑問を投げかけた。
「何言ってるんだ? 俺達はスキルを使っているのに、なんでダンゲルさんは持っていないんだ? あの魔導液晶だって魔法みたいなもので作られていると思うんだけど……」
「あなた方と儂らでは体のつくりが根本的に違うんですぞ。その魔導液晶も、元々は瘴輝石で造られたもの。そんな魔法やスキルをホイホイと出せるものなら、とっくに出していますじゃ」
「そう。か」
エレンさんは、それ以上は言わなかったけど――少し視線をそらして頷いた。
ダンゲルさんの言う――体のつくりはきっと、プレイヤーとそうではないという決定的な違いなのだろう。
ダンゲルさんは、NPC……。
その言葉が頭に浮かんだ私は、ふと、あのENPCのことを思い出し……。
「はいはい。今はそう言った無駄話はやめておきましょう」
エンドーさんは手を叩きながら、崩さない笑みでダンゲルさんに聞く。
「ところで、これはどういった方法で使用するんですか?」
ダンゲルさんはそれを聞いて、ニカッとダンさんとは違った豪快な笑みを浮かべ――「簡単ですぞぃっ!」と言って、ぐっと石の大剣を持っていない手を私達の前に出して……、ジェスチャーをしてくれた。
「こうして、持っている石をぐっと握るっ! そして叫んで唱えるっ! 以上!」
「うわー。アバウトかよ……」
それを聞いたブラドさんが力なく突っ込むと、ダンゲルさんはブラドさんのことをギッと睨みつけて――
「簡単であろうが!」と、ブラドさんに怒鳴りつける。それはもう墨で描かれた鬼のような顔で。それを見て、そして驚いたブラドさんは両手で顔をガードしながら「うぎゃああああっ! すみませんっ! すんませんっ!」と、必死に謝っていた。
その話を聞いた私は、「あ」と声を零し、そしてダンゲルさんのことを見て私は今思い出したことを口にした。握り拳で右掌に向けてポンっと叩く動作をして、閃いたっ! というか、思い出した! という動作をしながら私は聞いたのだ。
「も、もしかしてですけど……、あの薄黄色の鉱物も……」
「おぉ! 御明察ですぞっ! あれも瘴輝石で、『陽だまり焔』と言うもので、あの光を浴びた者は緊張感が一気に解れるという代物ですぞっ! 長旅の緊張感をほぐしてもらおうと設置したのですが、どうやら効果があったようで何より!」
「はい、ありがとうございます。おかげで気持ちが少しだけ楽になりました」
「それはよかった良かった!」
私はダンゲルさんに聞く。するとダンゲルさんはうんうんっと頷きつつなんだか聞いてくれて感謝しているような顔をしながらさっきの薄黄色の鉱物のことについて話をしだす。よっぽど言いたかったのか、すごく嬉しそうな顔で……。
きっと誰かに話したかったんだろうなと頭の片隅で思いつつ、でもあの光を見ていたら安心感もあって、少しだけ緊張がほぐれたから、私はダンゲルさんに向けて感謝の言葉をかけると、ダンゲルさんはよしよしと言わんばかりに頷き、そして何度も何度も『よかった』を連呼していた。
本当に聞いてくれて嬉しかったんだなぁ……。と思った時、私はふとあることを思い出すと、とある方向に視線を向けて――
「でも……」
私はそのグドゥードランさんが行ってしまった方向を見て、小さく言った。
「一言言えば、それでよかったんじゃ……」
嬉しそうな顔を一旦心にしまい込むように表情を真剣なものに変え、私のその言葉を聞いてか、ダンゲルさんは私を見てなのか――「それは無理じゃな」と、まるで会話になっているかのような言葉を返したのだ(私自身、独り言として言っていたので)。
私はそれを聞いて、「え?」と声を出してしまい、そしてダンゲルさんを見た。
ダンゲルさんはそのグドゥードランさんが行ってしまった方角を見て――さっきとは違った静かな音色で言った。
「あ奴はもう――言葉など発することが出来ん。否、喉など潰れてしまっとる」
その言葉に、私はおろか、誰もが驚いてそれを聞いた。
「何でなん? なんでそんなことに?」ララティラさんが聞くと、ダンゲルさんは言った。
それはまるで、これは運命だから仕方がないような、そんな言い回しでダンゲルさんは言った。
「この『鉱焔洞宮』は、活火山の中に無防備で入るようなもの。我々鉱石族は鉱石の採掘を家計としている種族。今まではそんじょそこらにあったものだが、サラマンダー様がああなって、瘴輝石はおろか、安い鉱物も取れなくなっている。ここ何年かで、死者が出た。満身創痍の奴もいた。それでも、グドゥードランは諦めなかった結果、あいつは何年か前にサラマンダー様が眠っているあの最深部で、僅かな鉱物と瘴輝石を手に、そのまま目が覚めたサラマンダー様のお怒りを買い、失った」
だからこそだ。と、ダンゲルさんはだんっと、石の大剣を地面に叩きつける。そして両の手でその石の大剣を掴んで――大声で言った。
「これ以上の犠牲は出したくない。一時も、一刻も早く……、浄化をしてほしい」
ダンゲルさんは私を見て面と向かい合うように立った後、すっと流れるように――
頭を下げた。
それを見て驚いた私だけど、ダンゲルさんは頭を下げたままこう言った。
「どうか――どうか、サラマンダー様を……」
それを聞いて、私はヘルナイトから聞いた真実を言うことができなかった。
それは今ここで希望を託そうとしている人に無慈悲な言葉をかけることはきっと酷なことだろうと思ったからだ。
正直に言えば、何かが変わるのでは?
そう思ったこともあった。
でも、私はきっと、ううん。完全なる甘ったれだ。
私はくっと顎を引いて、そして――
「――わかり、ました……」
そう、答えることしかできなかった……。