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PLAY04 ダンジョンへ③

 ん?


「? どうした?」


 少しの間フリーズしてしまった私。


 それもそうだろう。


 ヘルナイトの言葉に、私は一瞬頭の中が真っ白になったのだから。


 その言葉は――




 君は、その素敵な笑顔を――私や他のみんなに見せるのか?




 私はその場で頬に手を当てた。そして自分のほっぺの体温を感じる。


 ぽかぽかと熱い……。そしてその温かさは暑さとなり……、私の体温を少しずつ上昇させる……。もう私の体がポットのように急激に沸騰しているような……、そんな熱さ。


 何だろう。これ……。


 何なんだろうこれ……。


 なんでこんなに、熱くなっているの……? これは一体、どういうことなの……? 私に一体、何をしたんだろう……、この人は……っ。


「どうした? 何かあったのか?」


 ヘルナイトの声を聞いても、私は答えることができない。発端でもあり、きっかけを作ったヘルナイトがこれだ。きっと意図としてやっているわけではない……。だからこそ、ずるい……、んんん?


 さっきまで込み上げてきた温かさが、沸騰したお湯のようになっていく……っ。コポコポとなっていたそれが、どんどんとごぼごぼとなってお湯が暴走をはじめそうになっている……。まるでお湯の噴火がすぐ迫っているような、そんな気持ち……。


 どうしよう……。


 ぐるぐるとまわる視界。思考を濁す蒸気。顔や体全体を熱くさせる何か……。


 これは……、一体……っ。



「お? 何してんだ?」

「にゃぁっ!」

「っ!?」



 突然背後から声がして、私は少し跳んで変な声を上げて驚いてしまった。それを見たヘルナイトがぎょっと驚いた……気がした。


 私は驚いて、胸に手を当てながらちらっと後ろを見る。


 そこにいたのは……。


「あ……」

「よぉ! 何してんだ?」


 ダンさんが手を上げてニカッと笑いながら、私達が門の所にいるのなら、その少し向こうにいて、歩み寄りながら来た。


「ダンさん……」

「お前は、確か泥炭窟で……」


 ヘルナイトも気付いたらしく、ダンさんを見て言うと、ダンさんはヘルナイトを見て「お?」と言いながら――


「お前あの時の! がはは! そういやあの時は急いでて何も言えなかったなっ!」


 と言って、ダンさんはヘルナイトを見ても、何の臆することもなく笑いながら――


「あんときはサンキューな!」

「……さん、きゅー?」

「ベンキューだよ! ベンキュー! ありがとさんだって! サンキューベリーマッチョッ! だ!」


 ダンさんは豪快に笑いながらヘルナイトの肩のところをバンバン叩いて言う。


 ダンさんの身長はヘルナイトよりも大きい。だからダンさんはヘルナイトを見下ろす形で笑いながらヘルナイトの肩を叩いていた。


 でもダンさんの言うサンキューのところは……、サンクスの方が分かりやすいと私は思う……。そう思って、私はあれっと首を傾げた。


 私はダンさんに聞く。


「ダンさん」

「お?」

「なんでこんなところに……?」


 それを聞いた瞬間、ダンさんはハッと思い出した顔になって――私を見て聞いた。


「そうだった! なぁハンナ! ギルドってどっちだ?」

「……え?」


 私はその言葉を聞いて、はたっと頭の頭上に疑問符を浮かべた。私も知らないというそれではない。ただ、あまりにも変なことを聞いていることに、少し驚いてしまっていたのだ。


 私は言う。門を背にした――真直ぐの道を。


「門を背にして、ここから真直ぐ行ったらギルドですよ……?」

「なにぃ!?」


 ダンさんは驚きながら背後を振り返って、そして私を見て、驚いた顔をして言った。


「そんな簡単な道だったのかっ!?」

「相当入り組んではいないはず……」


 ダンさんの言葉を聞いたヘルナイトはそっと頭を抑えながら言う。その音色には苦痛が混じっていた。


 それでも、ダンさんは私とヘルナイト、そしてまっすぐの道を交互に見て驚きながら――


「なんだそりゃっ! 俺ずっと()()()()()()()()()をぐるぐるとまわっていたってのか!? なぁ、ギルドに行く道の途中に、熱湯温泉とか、あと餓鬼の遊び場みたいなものあったか!? それと鍛冶屋とか石器の食器みたいなものが置いてあるところとかっっ!」

「なかったと、思います……」


 ダンさんの言葉を聞きながら、私は言葉を返す。内心……、エストゥガの方が短いのに、なぜ長い方を正式名称として覚えてしまうのだろうと思いながら……。


 私は記憶のタンスを探ってみる。でも、ギルドに行く道に、お店やそう言った名所(?)みたいなものはなかった。あったとすれば……。


 …………、鉄の棒でできた……、バリケード……?


 それを言った瞬間、ダンさんは「嘘だろーっっ!?」と頭を抱えながら首を捻ったり、そして向こうを見て「えーっ!?」と驚いた声を上げる。


 それを聞いて、私はヘルナイトを見ると……。


 ヘルナイトは、未だに頭を抱えている。


 その仕草はまるで……。



「いいいいぃぃぃぃぃぃぃたああああぁぁぁーっ!」

「ダアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!」



「「!」」

「おぅ?」


 遠くから声。その声を聞いた私はギルドに続く道を見る。そこからこっちに向かって走ってくる人物達がいた。その人物達は……。


「おぉ! エレンにティラッ!」


 そう、すごいスピードで走ってきて、すごい形相で来たエレンさん。その背後から追って走ってきたララティラさんがいた。二人とも、すごい汗を流して走っている。


 それを見た私は、ぎょっと驚きながらそれを見てしまった。


 ヘルナイトも驚いたらしく、指がわずかに動いた気がした。


 ダンさんは陽気に声を上げて、大きな手をぶんぶん振りながら「おぉーい! 二人とも遅かったなぁっ!」と、こっちだこっち! と言う感じで手を振っていた。


 それを見たエレンさんは……、私達のところまで来た瞬間止まり……、そして、ぐりんっと顔を上げる。怒りと疲れが混ざったその顔で……。エレンさんはダンさんの心臓の位置をとんとんっと強めに小突いて怒鳴った。


「お前なぁっ! 少しは黙るってこと覚えろよっ! 俺はお前の保護者じゃねえんだっ! 大体お前もう三十五越えてるだろっ? なんで今でも方向音痴なんだっ!?」

「俺の血統がそうだからな」

「血統云々の問題じゃねえぞっっっ!?」


 ダンさんはエレンさんの指突き (トトトトトトトトッと、啄木鳥(キツツキ)のように突いている感じ)をものともしないで、豪快に笑いながらエレンさんを見下ろす。


 それを見ていたララティラさんも追いついて、疲れてしまったのか、汗をかきながら両ひざに手をついて、荒い息を整えて言う。


 私は自分の象徴を見る。そしてララティラさんのそれも見る……。


 正直……、すごいと、思ってしまった……。うぬぅ……。


「はぁ、はぁ……。ダン~。あんた戦えなかったからって、ぜぇ。毎度毎度ほいほいとどっかに行くんやめてほしいんやけど……」

「いやだってよぉ……」

「でもも、くそも、あらへん……っ!」


 まるで子供のように唇を尖らせて言うダンさんに、ララティラさんは苛立った口調で言う。私はララティラさんの言葉を聞いて、思い出した。


「あ、あの……っ」

「? あれ? ハンナちゃ……っ! って! なんでこないな所にヘルナイトがっ!」

「あ……」


 私はララティラさんにとあることを聞こうとした瞬間、ララティラさんは私の背後にいたヘルナイトに気付いて杖を構えた。


 その構えはきっと……敵意……。


 私はすぐに弁解しようとした。


「あ、待って、くださ」

「――ハンナっ!」

「!」


 また声。その声は来たことがあるそれで、聞き覚えなどと言うそれでは済まされない声。


 私は声がした、エレンさん達が走ってきた道を見た。そこから走ってこっちに来ているのは――


「あ、アキ、にぃ」


 アキにぃだった。


 アキにぃは驚愕のそれで走ってきて、私のところまで来た瞬間――アキにぃは私の手を掴んで引っ張る。アキにぃの所に近付き、対照的にヘルナイトから遠ざける様に……。


 後ろ姿だけど、アキにぃはヘルナイトに向かって――


「お前――っ! 妹に、何をしたんだ……っ!」


 怒りなど通り越して、憤怒、ううん。今までの怒りを爆発させたかのような……。八つ当たりめいたそれだった。


 アキにぃはそんな感情を含んだ音色でヘルナイトを見て言う。それを聞いたエレンさんもぎょっと顔を強張らせてアキにぃを見ている。後ろを見ると、ララティラさんも驚いてみていたけど、すぐに立ち上がって杖の構えを解かず……、ヘルナイトを見ていた。


「ね、ねぇ……。聞いてアキにぃ」

「解っている。危ない処だったんだよね?」

「ち、違う……」


 違う。そうじゃない。


 アキにぃは私の言葉を聞かず、ヘルナイトを睨んでいる。後ろ姿で、どんな顔をしているのかわからないけど……、それでも今のアキにぃは、正常じゃない。それは、解った。


 その正常じゃないということは――ヘルナイトもわかったらしく……。



「……何もしていないが……、どうやら邪見(じゃけん)されているようだな」



 え? 


 と言いながら、ヘルナイトはそのまま踵を返すように、門に向かって歩みを進める。


 私は思わず、アキにぃを間に手を伸ばしてしまう。


 たった一瞬だったけど、なんとなくだけど……、ヘルナイトは前のENPCとは違う。そう直感したから私は……我儘で。



 ――あの言葉の答え、伝えたい。



 そう思った。思ったのに……。


「……すまないな」


 それだけ言って、行ってしまった……。


 誰も見ないで、一人で行ってしまった……。


 それを見た私は、とくとくとなっていた心音が、ずくんっと、痛覚に変わっていく感覚を覚える。私は胸に手を当てるけど、そこには傷などなかった。


 でも――


 今でも、小さくずくずくと来る……。


「ハンナ――大丈夫だったか? 何もされてないか?」

「!」


 突然アキにぃが私の視線と同じになるように屈んで私を見る。その顔は心配と言う言葉が正しいそれで、いつものアキにぃだった。


 私は、今なおずくずくとくる痛みのことを隠しつつ……、私はアキにぃに――


「――うん。何もされてない、よ……」と、ぎこちない笑みで、言った。


 それを見たアキにぃは、一瞬すっと目を細めたけど――すぐに笑みに変わって「そうか」と言った。


「なんだよぉ。あいつスゲー良い人そうだったぜ?」


 ダンさんがアキにぃを見下ろして言うと、エレンさんはそんなダンさんを見上げ――


「ダン。今は言うな」と口元に指を添えた。それを聞いたダンさんは頭に疑問符を浮かべながら「おぅ?」と声を上げる。


「おーうぃ!」

「!」


 するとまた声。振り返ると、またギルドに続く道からモナさんとキョウヤさん達が走ってきた。


 モナさんは一番最初に着いて、次にキョウヤさん、コウガさんにエンドーさんとグレグルさん。最後にブラドさんが着いた……。


 ブラドさんはぜぇぜぇっと胸に手を当てて、ゆっくりと深呼吸をして青ざめていた……。


「ふぅ……。ハンナちゃんここにいたんだねっ。何かあったの?」


 そう笑顔で聞くモナさん。モナさんの言葉を聞いたアキにぃは――少し考えた後……。


「ちょっと……、ね」と言葉を濁して誤魔化した。


 それを聞いて私は少し――ずくっと心臓が痛んだ……。


「……ふーん?」とモナさんはそれ以上は聞かず、そして私を見てハッと思い出したかのようにこう言った。


「あ! そうだハンナちゃん!」

「?」

「ついさっなんだけど、見つかったよ!」

「……?」


 一体何がだろうか。そう思っているとモナさんは慌てた様子でこう言う。




「――ゴーレスさん達! 生きていたんだよっ!」




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