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PLAY03 エストゥガにて⑤

 今から二百五十年前のお話し。


 この地、アズールは四つの種族によって造られた大地でした。


 四つの種族――それは、この世界の基盤を作った存在とも言われていました。


 聖霊族。悪魔族。魔王族。天族。


 彼等がこのアズールを作り上げた種族でした。


 その四つの種族を称え、人類は営みを、生活を、そして文明を作り上げ……、人々は種族の頂点に君臨していた天族・サリアフィアを信仰し、『サリア教』を作り上げました。


 天族を守る種族――魔王族は彼等を守るために、十二人の魔王族の英傑を鬼神の如く強き力を持つ者と揶揄し……、とある名前を与えた。




『紅き闘獣』――紅蓮魔王族・ボルケニオン。


『新緑の森妖精』――混合魔王族・キメラプラント。


『煌きの奇才』――煌雅(こうが)魔王族・トリッキーマジシャン。


『深海の人魚』――海王魔王族・アクアカレン。


『死地の誘い人』――幽鬼(ゆうき)魔王族・デュラン。


『桃源の巫女』――天魔魔王族・キクリ。


紺焔(こんえん)の影人』――幻影魔王族・シノブシ。


『氷河の武士』――豪傑(ごうけつ)魔王族・ユキノヘイ。


『慈愛の聖霊』――聖霊魔王族・ディーバ。


『猛毒の女帝』――呪腐(じゅふ)魔王族・クイーンメレブ。


『終焉の厄災』――鎮魂魔王族・ジエンド。


『地獄の武神』――退魔魔王族・ヘルナイト。




 彼等十二人は、サリアフィア様を守る英傑――『12鬼士』として、サリアフィア様を守ってきました。


 彼女に使える神獣『八神』も、アズールのためにその土地を守っていました。


 しかしそれは唐突に、闇に呑みこまれたのです。


 突如現れた黒い雨雲。


 雨雲は意志を持っているかのように人を飲み……、魂を喰らい。


 生物を取り入れ、魔物へと姿を変える。


 聖霊族の命から汚れた命も湧き出て、その命は生きている者すべてに手をかけ、赤い世界に変えたのです。


 黒い雨雲から生まれた邪悪な魂――人はその種族を、黒い雨雲の従者……、死霊族・ネクロマンサーと呼びました。


 黒い雨雲は死霊族(ネクロマンサー)に力を与え、世界は恐怖と絶望のどん底に落とされかけました。


 今から二百年前。『12鬼士』は立ち向かいました。しかし成す術もなく、彼らはその黒い靄を抑えることしかできませんでした。


 それから月日が経った百五十年前――『八神』も封印しようと立ち向かいましたが、彼らはその雨雲に取り込まれて、操られてしまいました。


 そして百年前。天族サリアフィアは、自らの命を犠牲に――その雨雲を封印したのです。


しかしその封印も未完成で、抑えることしかできませんでした。


 人々は力を合わせて、その雨雲を倒そうとしました。しかしできなかったのです。


 それは、人でも、物でも、機械でもない……。


 未知のなにかだったからです。


 サリアフィア様が残した唯一の希望――詠唱結合書を残し、今でもサリアフィア様は黒い雨雲……。後に『終焉の瘴気』を封印するために、戦っているのです……。



 □     □



「――これが、『終焉の瘴気』が生まれた伝説。それからが儂が知っている五十年前、浄化士百五十名の『浄化』スキルを使った浄化作戦が実行された……。ですが、サラマンダー様にかけても、効果はなかった。それどころか……、瘴気に侵されたサラマンダー様は、その浄化士百五十名に躊躇なく手をかけた……」


 誰もが会話に挟めないような……、スケールのでかい歴史。


 誰も昔話を語っていたダンゲルさんの話を、固唾を飲んだり、そして神妙な顔つきで真剣に聞いていた。割り込むこともせずに――誰もがその昔話に食い入る様に聞いていた。


 私もその一人で、ダンゲルさんの話を聞き終えた後、私は小さく溜息を吐いた。


 こんなことを考えた當間理事長は一体、何が目的でこんなことをしたのか理事長の頭の中が知りたい。それになんでこんなアップデートを……。


 今までリアルに歩いたり、戦ったりしている私達だけど……。これはゲームなのだ。そう頭で理解していたのだけど、それがだんだん頭から離れていく……。


 それは――慣れだろう……。


 そんな中ダンゲルさんは「天族様?」と、私を呼んだ。


 私は顔を上げて、「は。はい……っ」と声を上げた。


 それを聞いたダンゲルさんは……、胡坐をかきながら、それでも頬杖を突いて私を見る。品定めの様に、じっと――見てから、静かに口を開いた。


「ここに来た。それが指すことは……、サラマンダー様の浄化、でいいのですかな……?」


 ダンゲルさんの真剣だけど、ほんのり低い音色が槍の様に突き刺さる様なその言葉に、私はぐっと、言葉を詰まらせた。


 その詰まらせは……、ただ単にダンゲルさんのことを見て怖かったからではない。


 不安や恐怖、そして出来なかったらどうしようという……、被害妄想。


 負の感情がぐるぐると私の頭を行き来している。


 本当に、私が希望なの……?


 普通の人なら、きっと頑張るぞと、奮起するだろうけど……、今までの私は、そんなことはなかった。


 只普通に過ごして、ただ普通に生きて来ただけ。


 それが、なんでこんなことになって、私が希望なのだろう。きっと、メンタルが低い人なら、投げ出していた。


 ――いやだ。私はこんなことで死にたくない。だからスローライフを楽しむ。


 後半の言葉は、無いかな……?


 でも、きっと死にたくないから、投げ出すと思う。


 でもでも。だ――。


 私は隣にいるアキにぃ。モナさん、エレンさんにダンさんにララティラさんを見る。


 みんなが私の視線に気づいて、頷いたり、微笑んだり、モナさんに限っては笑ってサムズアップしてきた。


 私はそれを見て……、すぅっと、落ち着かせるために、息を吸って……、吐いて……。


 ダンゲルさんを見て――私は言った。顎を引いて、私は、ダンゲルさんを見る。


「はい――」


 その言葉に、ダンゲルさんはにっと――口元に弧を描いて……。またパァンッと膝を叩いた。


 近くに置いていた石の大剣を持ったダンゲルさんは、「よっこらせ」と立ち上がる。


 そして――杖を突くように、ダンゲルさんはのそのそと歩き、そしてこつこつと大きな音を立てながら、私の前まで歩み寄る。


 そして、ぶんっと、石の大剣を持った手を上げて、それを思いっきり振り下ろす。


 私の頭を――かち割るように。


 それを見たアキにぃは、すぐに私を庇おうと前に出ようとした。


 でも、私はそれを制する。アキにぃの腕を、優しく掴んで……、私は控えめに微笑む。アキにぃはそれを見て、驚いた顔をしていたけど……。その顔を見る暇さえも与えないように――


 石の大剣は――



 ぶんっと、私の頭上で、止まった。




 静寂が私達を包む。そんな静寂とは正反対に、振り下ろされた瞬間私の前に吹き荒れる突風が辺りを包んで、みんなの服や髪の毛を靡かせると……、少ししてその風も止み、あたりに再度静寂が包まれた。


 ダンゲルさんは、私を見下ろしたまま。動かない。私も、ダンゲルさんを見上げたまま、動かなかった。むしろ――その目を離さなかった。


 アキにぃ達はそれを見て、驚いていて……。


 コウガさんも、一瞬まずいと思ったのだろう……。前に身を乗り出していた。


 私はそれを見て、ダンゲルさんを見上げると――ダンゲルさんは静かにこう言った。


「――逃げなかったな」

「はい」

「……普通、こんなふうにされたら、誰だって逃げる。己の命欲しさに」


 ダンゲルさんは続けてこう言った。


「――こう言う選択は、いつどこでも自分の身勝手で、身勝手な選択で命を落とすことだってある。それは今なおも、だ――。儂の癪に触って、そのまま儂の身勝手で殺されるという末路になるやもしれん。それでも天族様は、浄化とおっしゃるのですかな……?」

「……だと思います」


 その言葉に、私は頷いた。


 逃げることは決して悪いことではない。


 今だって逃げればいいのでは?  そう言いたいのかは解らない。


 でも、その恐怖は、自然と溶けていった。


 アキにぃ達の顔を見て……、自然と恐怖が消えた。


 あの安心する背中を見たおかげなのか……。できないと思っていた感情が消えた。完全じゃないけど……消えていった。


 やってみよう。


 大袈裟だけど……。それが、私に課せられた――運命。


「……でも、私は浄化をします。たとえ、一人になっても――それが、私の運命です。後悔は、ありません」


 そう言って、私は控えめに微笑む。半分ウソも含んでいるけど……。それでも、私は言った。


 それを見ていたダンゲルさんは……、っふ。と――小さく笑って……。


 石の大剣を上げてから降ろした。がぁんっと、地面がめり込んで割れる。それを見たララティラさんとエレンさんが。ぎょっと驚いたかのように、青ざめた表情でそれを見ていた。


 ダンゲルさんは、くつくつと笑って……。天井を見上げて――


「っふぉっふぉっふぉ……、ふぉっふぉっくっくっくくくく……っ!」


 震える身体で、豪快に――



「はーっはははははははっっ!! あーっはははははははははっ!!」



「「「「「っ!?」」」」」

「「っ!」」

「?」


 豪快に笑った……。


『っふぉっふぉっふぉ』ではなく……、あっはっはっはと、ゲラゲラ笑いながら……。


 それを見ていた誰もが驚いて、私はそれを見て、ぱちくりとした目で見ることしかできなかった。


 ダンゲルさんはひーっひーっと言いながら目に溜まった涙を拭って――


「カマをかけても臆さない屈強な意志! なるほどなるほどっ! マースの言う通り……、あなた様こそがそうであるという証明っ!」

「? ??」


 未だに笑いながら、まるで独り言のように言うダンゲルさん。それを聞いてララティラさんが「え? 何これ?」と、困惑しながら言って、エレンさんも同じように「どゆこと?」と、困惑してみていた。


「いやはや、少しばかり嫌がらせをしてしまい――申し訳ございません」


 やっと笑いを止めたダンゲルさんは、私達を見下ろし、頭を下げながら、ダンゲルさんは言った。


「やはり――詠唱結合書に狂いなどなし。そして……解りましたぞっ!」


 だぁんっと、石の大剣を再度――地面に突き刺す。


 その振動と衝撃は、私達が座っていても、少し浮くくらいの衝撃だった。驚きながらも私はダンゲルさんを見上げる。


 ダンゲルさんは豪快な笑みと共に――


「サラマンダーの浄化――こちらも全力でサポートいたしますぞっ!」


 と言った。


 私はそれを聞いて、私は一瞬驚いてしまう。しかしそれでも私が決めたこと……。


 逃げたりしない。それが――私に課せられた。指名であり、運命。


 私は頭を下げてダンゲルさんに言った。


「――よろしく、お願いします」


「うむ!」と豪快に返事をしたダンゲルさん。


 私は顔を上げてダンゲルさんを見ると、ダンゲルさんは早速と言わんばかりに、コウガさんを見た。


「彼らもサラマンダーの浄化に協力してくれる冒険者です。我々はサラマンダーの案内。そして物資の提供などなどをいたしますっ! そしてこれからの全面協力も致しますぞ!」


 それを聞いたコウガさんは、手を上げてそっぽを向いてしまう。グレグルさんは「よろしくな」と、冷静に笑って私達に言った。


「っだぁー! 緊張したぁ……」


 はり付けていた緊張から解かれたエレンさんは、腰を伸ばして天井を見上げながら言う。


 ララティラさんもほっと胸を撫で下ろして溜息を吐く。


 モナさんはララティラさんを見て、「大丈夫ですか?」と聞いてダンさんは――


「………………………ん? 終わったのか?」

「聞いてなかったのかよぉっっっ!」


 ……聞いていなかったらしく、きょとんっとして私達を見ていた。エレンさんはそんなゲンさんに対して突っ込みを繰り出す。


「…………………」


 私はそっとアキにぃを見る。アキにぃは何も言わないし、何の表情もない。強いて言うなら――少し怒っている顔だった。


 私はアキにぃのポンチョを引っ張る。でもアキにぃは反応しない。


 アキにぃは自分が納得していない時はいつもこうなのだ。無言で少し怒っているのだけど、それでも順応しようと頷く。


 典型的な納得していないそれ。


 それを見た私は、アキにぃを呼ぼうとした時だった……。



「お? もう話し終わったのか?」



 声が入り口から聞こえた。


 その声はブラドさんではない。別の男の人の声だ。


 私はその声がした方向に振り向く。


 みんな同じで、みんながその入口の方を向いていた。でもグレグルさんだけは「おおっ!」と待ってましたと言わんばかりに明るい声で言った。


「キョウヤか! 遅かったなっ!」

「また餓鬼に絡まれたか?」


 コウガさんもやれやれと言わんばかりに言っていた。その人は――


 薄黄色の髪で、後ろで少し長くなっている髪をゴムで縛っている。ベストや服装はカウボーイのような、少しふわふわしたそれに、水色のジーパンに白いブーツに稲妻模様があるそれだ。背中には少し長めの槍に、耳や頬には薄黄緑色の鱗がついている。よく見ると……腰のところに少し細めの尻尾が生えている人だった。


 その尻尾は……。


「おっ!? 蜥蜴の尻尾かっ!」

「蜥蜴人って言ってくれれば嬉しかったよ……」


 ダンさんの言葉に、エレンさんが虚しく突っ込む声が聞こえた。


 それを聞いた私はその人の尻尾を見て、蜥蜴人ということはわかった。


 その人――グレグルさん曰く、キョウヤさんと言っていた。キョウヤさんはグレグルさんとコウガさんの言葉に肩を竦めて疲れた顔をして笑い飛ばす。


「絡まれてねーよ。今日だって溶岩の岩吹き飛ばすのに必死だったんだぜー?」


 キョウヤさんは私を認識して近付いて来る。


 すたすたと近付き、キョウヤさんはそっとしゃがんで私とモナさんを見た後――


「えっと……、どっちが、ハンナって女の子なんだ……?」と、頬を指で掻きながら申し訳なさそうに私達に聞いた……。

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