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PLAY03 エストゥガにて④

 エストゥガギルド。ギルド長の間。


 そこは私が最初に来たギルドとは違い、ソファもなければテーブルなどもない。そこはまるで民族風のそれだった。


 土で作られた床にはカラフルな薄い絨毯が敷かれ、壁にはあのマースクルーヴギルド長さんのギルドにもあった赤い旗と、またもカラフルな布。石で造られた戸棚や机。薄暗い世界は薄黄色の鉱物を使って電球代わりにして、天井からぶら下げていた。


 その鉱物が一体どのような原理で光っているのかはわからないけど、それでもその光のおかげで、洞窟のような薄暗さが地下通路の様な明るさになっている光景を見て、私は不思議と安心感を感じていた。


 マースクルーヴさんの自室とは対極の石造りの空間。何故かこの石造りの空間の中にいると、なんだか安心感が込み上げてくる。


 これはもしかしたら……、私達の遠い遠い先祖がこんな暮らしをしていたからこんなに安心しているのか、それとも薄黄色の鉱物が安心と言うものを出しているのか……。


 わからないけど最初の緊張より幾分か安心が大きいのは事実。


 そんな空間で――あのギルド長室よりも広い空間に、私達六人と、先ほどの三人。ギルド長……ダンゲルさんが座っていた。


 あ、なぜ最初の時はギルド長だけだったのかと言うと、名前が長すぎるというだけではない。ただ単に、ギルド長が一人と、私が認識してしまって、そのマースさんだけをギルド長と言っただけだった。


 要は――何人もいるとは思わなかった。それだけ。


 私達はあの後、門番であろう鉱石族(ドワーフ)の人に、「冒険者免許を見せろ」と言われ、それを見せた。


 六人分全員。表裏全部見て……、最後に私のカードを見た瞬間……。門番と、近くにいた鉱石族(ドワーフ)。そして族長であるダンゲルさんの顔色が、驚愕に変わり、現在に至る。


「改めまして、ようこそエストゥガへ」


 ぱんっと、胡坐をかいたダンゲルさんは豪快な音色で言う。それを見た私は――


「は、初めまして……っ」と、座りながら深々と頭を下げる。


 それを見たダンゲルさんは「っふぉっふぉっふぉ」と、笑いながら――


「いやいや、頭を上げてくだされ。マースから聞いています。あなた様があの詠唱を取得した天族様だと」


 その言葉と共に、私はふと思い出される。


 唯一の希望。と――


 その言葉が本当なのか、嘘なのかまことなのか……定かじゃなくなってきている……。


 本当に、私は選ばれたのか……?


 そんな疑問が、頭を一瞬支配したけど……。私はそれを掻き消すかのように、頭を上げて私は言う。


「その、それは違うと言ったのだけど……」

「いいえ。あなた様方の冒険者免許を見ましたが……、マースの先見の明は、伊達ではありませんでしたな」


 あいつは儂より五十歳若いのに……。と、小さく言って、ダンゲルさんは私を見て、まるで安心。と言う言葉が正しいような目で、私を見て言った。


「あなた様が、このアズールの希望なのですな」


 私は、首をひねって――違うと思うんだけどなぁ。と思った。


 前にも話した通り――こう言うのはきっと……。


「あの――」


 突然私の右横にいたアキにぃが、ダンゲルさんに対して、鋭い目つきで言った。


「さっきから聞いて思ったんですけど、ハンナが何故、希望なのですか?」


 その言葉にアキにぃの右隣のエレンさんとダンさん。私の左隣のモナさんとララティラさんはぎょっと驚いた顔をして、前のめりになってアキにぃを見た。私もアキにぃを見上げる。


 怒ったアキにぃを見て、はらはらと心臓がせかしなく焦っている感じが伝わってきた。


 正直――心配になってきたのだ……。


 アキにぃは聞く。


「希望なら、そんじょそこらにいる人に、任せればいいんじゃないんですか?」

「いいや、それはできません。『終焉の瘴気』のこと、聞いてないのですかな?」

「聞いています。あれは未知のなにか。だったら女の子一人に全てを任せるなんてことをせず、誰か力のある人に任せればいいと、俺は思っています」

「それが出来れば――そうしたい。正直な所……、この国の英雄であり、鬼士でもある『12鬼士』も消息を絶ち、『八神』様方も理性を失う。それは――『終焉の瘴気』の、その邪悪な瘴気の所為でもあるのです」

「それなら、エクリスターの『浄化』スキルでも使えば……」

「それでは駄目なのです」


 と言うか――と、ダンゲルさんが言おうとした時……。



「お前――馬鹿かよ」



 小さく、鋭く、そして威圧が込められた声が聞こえた。


 その声がしたのは――私から見て左の、ダンゲルさんが座っているところの、少し離れた場所で、胡坐をかいて、頬杖をついていたシノビ装束の人だった。


 それを聞いたアキにぃは、じろっとその人を睨む……、事はしないで、黒い笑みを作った状態で……。


「何がですか?」


 と、穏やかに聞く。私はそれを見て、何とかしないと……っ! と思いながら、わたわたとアキにぃとその人を見る。


「コウガどの――」


 ダンゲルさんはその忍びの人――コウガさんと言う人を見て、少し申し訳なさそうに言った。でもコウガさんと言う人は、そのダンゲルさんの顔など見ないで、アキにぃだけを見て言う。


「聞いてねえのか? その勝機はその餓鬼が持っているんだよ。勝利の鍵をな」

「ハンナです」

「どっちだっていいだろうが。その餓鬼が持っているそれでしか、浄化が出来ねえ」


 コウガさんは私を見て言う。じろっと睨んだ目をして。




「――お前が切り札なんだよ」




 ……その言葉は直接的で、私の心に『ずしんっ』と重くのしかかる。


 それを聞いて私は俯いてしまう。モナさんが私の肩に手を置いている。それを感じながら、そっと顔を上げて、私はコウガさんを見る。


「あの……」


「聞かなくてもわかるだろうが――」と言って、コウガさんは右手を上げる。そこには……白いバングル。よく見ると、蜥蜴の人と、巨人族の人の腕にも、白いバングルが。


 それが指すこと、それは――この人達もプレイヤーなのだと。改めて同じ境遇の人と出会ったことで、私は安心してほっと胸を撫で下ろす。


「まぁギルド長さんよぉ」


 今度は巨人族の人が、ダンゲルさんに話しかけてきた。ダンゲルさんは巨人族の人を見て――「グレグルどのもか……」とその人を見て言う。


 巨人族の人――グレグルさんは私達を見て、蜥蜴の人の背後から手をスッと回し、コウガさんの頭をぐっと掴んだ後――そのまま。


 ゴッスッ! 


「あぶっ!」


 と……、コウガさんを無理やり地面にめり込ませた。


 蜥蜴の人も巻き添えを喰らい、「ぶびゅっ!」という蛙が潰れたかのような声を上げて、コウガさんと同じように地面にめり込む。


「こいつ等の無礼を許してやってくれ。礼儀がなってないもんでな」

「うーむ……」


 そんな地面にめり込んだ二人を見て、ダンゲルさんは顎に手を当てて考える仕草をする。


 ……というか……、大丈夫なのかな……?


 そう思い、私はダンゲルさんに向かって「すみません……」と謝ってからすっと立ち上がって、地面にめり込んだ蜥蜴の人とコウガさんに近付く。


 その人達の前に、手をかざして……、私は唱える。


 えっと、これくらいなら……。



「『小治癒(キュアラ)』」



 私の手から、水色の靄が出てきて、コウガさんと蜥蜴の人の身体に纏わりつき、次第に消えていく。そして――


「――あ?」


 コウガさんが起き上がった。手をついて、自分の頭を撫でつつ、目の前にいた私をじっと見た。


 私はそれに対し、ただ控えめに微笑むことしかできなかったけど……。隣にいた蜥蜴の人は――ばんっと手を着いた後、勢いよく起き上がる。


「――っだぁっっっ!」


 その光景を見た私は、びくっと身体を強張らせた。


 その視界の端に写ったララティラさん達を見ると、同じように目を点にして驚いている。ダンさんはそれを見ても、首を傾げているだけだった。


「……くぅおらぁグレグルゥ! お前何回も何回も俺を巻き込むなってっ! 俺残機いくつあっても足りないからっ!」


 そう言いながら私のことが見えていないのか、その人はグレグルさんに向かって指をさしながら怒りを露わにして怒鳴る。それを聞いたグレグルさんは――


「いや、大丈夫だろう? ブラドよぉ……お前、毎回毎回やっても、そんなすぐには死ななかったしな」

「限度っ! 限度考えようっ!? お前タイタン! 俺魔人族! スペックとか体のつくりも違う! 理解しようっ! なぁ!?」


 熱く弁解と言うか、何とも理解してほしいという気持ちが伝わってくる。


 涙目になってグレグルさんに近付いて力説する蜥蜴の人――ブラドさん。


 それを見て、グレグルさんは溜息を吐いて――


「なんで溜息っ? 俺間違ったこと言っていないっ!」

「お前も礼儀ってもんを考えろよ」

「それ俺のセリフで、お前が言うセリフじゃない。そしてそのセリフそっくりそのまま返すぜ?」


 と言っている最中、グレグルさんはそっと私を指差す。グレグルさんは「あ?」と言いながら振り返って、私を見た瞬間……。


 表情豊かだった顔が、一気に凍り付いて――


 恐怖そのものを見る目で、私を見ていた。


「?」


 私……、何かしたのかな……?


 そう思いながら私はブラドさんに近付こうとした。その時だった。


 ざざっと、ブラドさんはその場から離れ、そして入口の所にいて……焦りながら手を上げて言った。


「そ、それじゃっ! 俺は街のパトロールにでも行くわっっ!」


 まるでその場所から一目散に退却するように……、そそくさと返事も聞かずに、行ってしまった……。


 それを見ていた私だったけど、後ろにいたコウガさんが小さい声で「餓鬼でもかよ……」と言いながら、私に向かって言った。


「あいつ女が苦手なんだ。気にすんな」


 そう言われた私は、コウガさんを見るために振り返る。すると、コウガさんははたっと、一瞬目を見開いて驚いていたけど……、すぐにちらっととあるところを見て……。


「ギルド長さんよぉ。済まねえな。話を折っちまって」と言った。


 私はハッとしてダンゲルさんを見ると……、ダンゲルさんは「っふぉっふぉっふぉ」と笑いながら怒ってない様子で――


「いいやいいや。気にせんでもいい」


 と、胡坐をかいた膝に向けて手をパァンッと叩いた。そして続けて……。


「若いのは元気があってこその若さだからな。この二百五十の老いぼれにはない元気だからな」


 笑いながら言っていたけど……、ちらりと私はアキにぃ達を見る。


 エレンさんとララティラさんは、驚愕の真実を聞いたような目になり、青ざめている。


 ダンさんは「へぇー」と、ただその言葉に対して興味がないように返事をし。


 モナさんは「うはーっ! すごいですねぇ!」と素直に驚いた顔をした。


 アキにぃはただコウガさんとダンゲルさんを見るだけだった。冷たい目で……。


 私はどちらかと言うと、エレンさん達と同じそれだ。


 なぜなら年齢二百五十……。完全に人間の寿命を優に超しているから……。


「さてさて……」


 ダンゲルさんは胡坐を少し直して、私は元に位置に戻ってコウガさんも座って話を聞く体制になる。


「さて……話の続きでは、エクリスターの『浄化』スキルを使えばいい」


 その言葉にアキにぃはぴくりと膝に乗せていた指を動かす。





「――それでしたら、()()()()()()()()()()()()()




 ……笑顔で言われた唐突な言葉。真実。


「しかし――それも無駄で、何もできなかった」


 その言葉にはどことなく信憑性がある。そう私は確信めいたそれを思うと……、ダンゲルさんはおほんっと口元に握り拳を近付けてえづき――「それでは」と、開口を開いた。


「――少し、昔話をしましょう」

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