CHIPS シイナから見たブラドさん
今回はシイナ視点で描かれいる番外編です。
ご注意ください。
どうもこんにちは。
おれは犬人の亜人で、『ドラッカー』と言うきっと殆どの人が所属として扱ってないマイナー所属のプレイヤー……、シイナです。
吃音症を抱えているおれですけど……、こう言った場面ではちゃんと流暢に話せます。口ではなく心の中で話しているので。
そしてロフィさんやブラドさん、キクリさんが優しいこともあってか……、段々ですけどつっかえがなくなってきました。
ロフィさんはお母さんのように優しくて、少しおっとりしているけど、怒らせてはいけないとおれは思ってます。
だって……、怒って殴られたブラドさんを見て、バングルを見た瞬間目が飛び出そうなくらいHPが減っていたから……っ!
キクリさんはすごく自分のペースを守っている人と言うか……、何というかマイペース過ぎるところがあります……。でも流石は『12鬼士』。戦いになったらすごい戦闘能力だった。
あれで回復要因なのか……? と思うくらい。それはもうすごかったです。
ブラドさんはすごくテンションの波が激しくて、ロフィさんやキクリさんに対してすごく恐怖意識を持っています……。いいえ。多分すべての女性に対してだろう……。
でもブラドさんはすごく兄貴分のいい人だと思っていました。ロフィさんを鳥の敵から助ける時……、あれがあったから勝てたんだとおれは思っています。
しかし……、されどしかしです……。
そのブラドさんのことに関してです……。今回話すことは……。
おれ達は最初アムスノームに戻って、ロフィさんが探していたシュレディンガーと言う人がもういないことを伝えました。
その件についてはその時いたツグミ君から聞いて知ったことで、正直それを聞いた瞬間知り合いでもないのに、なんだか心にぽっかりと穴が開いたような衝撃があったのは今でも覚えている。
きっと……、ロフィさんはおれ以上の何かを受けただろうな。何も言わないけど……。
それを聞いて、アムスノーム王はただ一言……。
「そうか」としか言わなかった。
あまりプレイヤー、あ、違う。この世界では冒険者だった。きっと冒険者の諸事象には干渉しない人なのか……。
それを聞いて、それから何日か……おれ達はアムスノームのギルドでクエストがあるかを探していた。
ロフィさんは四人でなんとかできるクエストを探していると……。
ブラドさんはおれにしがみついたまま離れませんでした。理由は簡単。
ブラドさんはじっと警戒するように……、マティリーナさんを見ていた。ブラドさんは女性に恐怖心を持っているからと言って……、すべての女性が苦手なのか、一回聞いたことがある。
するとブラドさんはきっぱりと――
「あったりまえだろうがぁ! 女なんて化けの皮を被ったバケモンだろうがぁっっ!」
と言った瞬間……。
マティリーナさんとロフィさんの正拳が、ブラドさんの両頬に飛んできたことに関しては、言わなくても分かることだと思います……。
その後ロフィさんはとある大金と詠唱結合書が報酬のクエストを見つけた。
内容はこうだ。
『とある人を探しています。その人は鎧を着て所狭しと『正義』を口ずさんでいる人で、小さい子犬を連れています。名前は『SK』と書いてセイント・クラインです。探してください。報酬は書いた通りで、場所は砂の国の国境の村でお会いしましょう。絶対に連れてきてくださいね』
………なんだか簡単そうだけど、人探しなんて珍しいな……。
普通ならただの魔物討伐が多いのに、人探しだなんて……。
一体どんな人なんだろう……。そんな疑問と、少しばかりの好奇心がおれの心をざわつかせていると……。
「なんだかすごいわねぇ。報酬は詠唱結合書と……、八十万Lゥッ!? 高いし簡単そうなクエストぉ!」
ロフィさんも興奮しているのか、口元に手を当てて目を丸くさせていた。
おれも驚きのあまりに口をぽっかりと開けてしまった。
でもブラドさんは……。
「これ……、女の名前だよな……」と、ポツリと言った。
それを聞いたロフィさんは、驚きの顔をすっと引いて……、目を細めながらブラドさんに聞いた。
「まさか……、依頼人が女でもだめなの……?」
「――っ!」
あぁっ! すごく怒っているっ! ロフィさんは伸ばしたような声でない時は真剣になっているか、マジ怒りの時しかああなりません……っ!
ゆえにブラドさんのその女の人が依頼人で、もしかしたらそれだけを理由で断るのではないか? そう思っての蔑みの眼でロフィさんは見ていたのだろう……、しかしブラドさんは、その空気を読む力がないのか……。
はたまたはKYなのか……。
ブラドさんはカッと目を見開いて――
「嫌とは言ってねえけど、いかにも怪しいだろうがっ! 絶対に詐欺にあう可能性があるってっ!」
おれはブラドさんの言葉を聞いて思った。
ブラドさんって、絶対にそう言った勧誘に騙されないタイプだと……。
それを聞いてロフィさんももう一度そのクエストを見て……、うーんっと唸りながらこう言った。
「確かにぃ……、この依頼人はプレイヤーで……、そんなにお金がないような気がするわぁ。それにここから遠い場所、それにたったこれだけの情報でねぇ……」
そう言いながらロフィさんは、頬に手を添えてどうしようかと迷った顔をした。
おれはおれで「あ、あの……、おれは受けたいとお、思います。だって……、ひ、人を探しているのならば……、ですし」と言うと、ロフィさんはおれの頭を撫でながら「そうよねぇ……」と言って悩んでしまった。しかし……。
なぜおれの頭を撫でるんですか……? しかもキクリさんにも撫でられて、それがしょっちゅう……。
しかしそんなおれ達の疑問に、マティリーナさんは「心配ないよ」と言って……。
「ギルドに来るクエストは、その依頼主がその依頼内容を提示して、それに見合った報酬か、それ以上の報酬を手にもって、申請する。ギルドもそんな不正があれば申請しないよ。全部王都の中央ギルド協会に流して、それをクエストにするかしないかの合否をして、合格を貰って初めてクエストになるんだ。ここにあるのは全部信頼できるクエストだよ」
と続けて言った。
それを聞いて、ロフィさんはそのクエストを手にして納得しながら「そうなのぉ。すごい勉強になったぁ」と言った瞬間――
――ぱしり。
「「あ」」
ブラドさんはそれを手に取って、さっきの不安を吹き飛ばすかのように……。
「んじゃまこれお願いしまーす……」
「はいよ。って言いたいんだけど……、なんでそんなへっぴり腰なんだい……?」
「それは聞かないで……、はよ……っ! はよとってっ!」
「はいはい……」
不安がなくなった途端にこれ……。さっきのあれは何だったのだろう……。
そう思いながらロフィさんを見ると……、あれ? なんだかむすっとしながら見ている……っ! と言うか怒っているっ!
おれはブラドさんを見ながら弱腰になって、マティリーナさんにそれを手渡そうとしているブラドさんを見て、あんな風にグレグルさんにしがみついていたけど……、それでも治そうと努力しているんだなぁ……。ロフィさんにも少し触れたし……。
おれの中で、ブラドさんの評価が数段上がった瞬間だった。そして三段くらい下がった。さっきのあの言葉と、きっとお金の眼がくらんで、マティリーナさんの言葉を信じて率先して受けたのを見ての、呆れでもあった……。
それからは人探しと言う名の……無駄に近い徒労だった。
アルテットミア中を歩いて歩いて歩いて……。歩いたけど……、どこにもその人はいない。もちろん人にも話しかけてみたけど……、それでも見つからない。
アルテットミアのエストゥガでも話を聞いても見つからなくて、あ。その時グレグルさんにまた泣きついていたけど……、ロフィさんはそんなブラドさんに――
ごちんっ! と拳骨をくらわしたこと、すっごく覚えています。そしてリアルに腫れていました……。ブラドさんは落ち込みながら泣いてて、かわいそうでした……。
おれも受けないようにしよう……。うん。怒らせないようにしよう……。
ブラドさんの行動があってか、おれはブラドさんを反面教師として見ていた。それからアルテットミアを歩いて探してはを繰り返し、結局――
首都であるアルテットミアに着いたブラドさんは言った。
「アルテットミアにはいねえから――アクアロイアに行こう!」
ブラドさんは言った。それを聞いたロフィさんは――
「なんでアクアロイアにぃ? あそこにいるって保証はあるのぉ?」と聞くと、ブラドさんはその言葉に対して――腰に手を当てて、胸を張って――
「いや、もうここらへんは探したし、もういねえだろうってことだよ。な? キクリ」と聞くとキクリさんはフワフワ浮きながら扇子をくるくる回して――
「そうね……。私が知っている限り、アルテットミアはもう探しつくしたわ。ダンジョンもいろいろ……」
「そのせいで俺らすごいボロボロだしな……、回復要因最強。ありがとうございます」
「あらありがとう」
キクリさんに対してもこんな風に話しかけれるようになったブラドさん。
ブラドさんは小心者だけど……、すごく努力家でもあったんだなぁ……。
その時のおれはブラドさんを尊敬の眼で見て、和んで見ていた。
この時までは……。
アクアロイアに行くためには海路を通っていく。つまりは船に乗る。
ショーマ君たちも、もうアクロイアに向かったのかな……。そう思いながら船を持っている人に話しかけていたおれ達。
でも……。
「だめ」
「無理だね」
「諦めな」
「あの国だけはいかないよ」
「むぃりぃだぁねぇ」
「物好きだねあんた達も……、でも行かない」
と言った感じで……。アクアロイアに行く人がいないことに、頭を悩まされてしまいました。
それを聞いたキクリさんは、何かを思い出したかのように頭を抱えて……。
「そういえば……、アクアロイアって、今すごく混乱しているって聞いた気がする……。治安的にも悪いって……」
そ言う言葉を聞いたロフィさんは頬に手を添えながら「そうなのぉ?」と言い、おれを見て――
「シイナくぅん。これからどうしましょうかぁ……」と、困ったように聞いてきた。
おれ自身も何とか考えて、そしてどうにかしようと思ったのだけど……アクアロイアの現状を聞いて、ここはあまり難しくないクエストを受け直す手もある。
幸いアルテットミアの城にはギルドがある。
そこで取り消しさえすれば簡単だと思い、おれはロフィさんにそのことを言おうとした時……。
「まぁ――こういう場合は、俺に任せておけ」
ブラドさんはそんな困ったおれ達を見兼ねて、親指で自分を指さして言った。
それを見てロフィさんは「大丈夫なのぉ?」と首を傾げていたけど、ブラドさんはこの時、ロフィさんに触れるくらいまで成長してて、ブラドさんはロフィさんの背中をバンバン叩きながらわははっと笑って――
「大丈夫だって! 俺に任せろ! 大抵の人はこれで折れるから!」
と言って、ずんずんっと船に乗ろうとしている漁師さんに歩みを進めて話しかけようとしているブラドさん。
おれ達三人はその光景を見守っていた。
ブラドさんはその漁師さんに近付き、そしてもう一度……。
「すんませーん。やっぱり乗せてもらえないんですか?」と、冷静な対応で聞いてきた。
それを見たロフィさんは驚きながら「あらぁ。すごく大人対応」と言っていた……。
少々失礼な気がするけど……。ブラドさんを見て、おれ達は固唾を呑んで見守る。
「ダメったらだめだな。あそこはもうだめだ。人も産業も壊れちまっているし」
漁師さんの言葉に引っかかる言葉があった気がするけど、ブラドさんはそれでも折れないで――
「そこを何とか」
「ダメだね」
「いや俺ら冒険者ですし……」
「ダメだ」
「妹がいるんです!」
「それでもだめだ!」
今妹って嘘をついた? おれは驚きながらもブラドさんの話を聞く……。二人の視線がなんだか痛いけど……。
「冒険者特権として!」
「何回も言うけどだめだね!」
「クエストで弟に会うんです!」
「今弟って言ったか? 妹じゃねえのか!?」
「弟と妹がいるんです! だから乗せてくださいっ!」
「ダメったらダメったらだめだっ!」
今度は弟って嘘をついた! もう滅茶苦茶だ……っ!
ロフィさんとキクリさんの眼がどんどん座っていく。それを見ていたおれはブラドさんを見て、ブラドさんの作戦が見えてきた気がした。
そう。それは――
何回かお願いして、何とか折れて貰おうというものだろう。
すごく引っかからなさそうなそれだけど、漁師さんはブラドさんに呆れてしまったのか、手でしっしっと仰ぎながら「とっとと行け、仕事の邪魔だ」と言われてしまう始末。
もうダメかな……。
そう思いながらおれはロフィさんにクエストのことを言おうとした時……。
「あら?」
キクリさんが声を上げた。
それを聞いて、おれ達もその方向を見ると……。
ブラドさんはすっと流れるようにしゃがんで、そして石造りの地面に手を付けた後……、そのまま頭を勢いよく振り下ろして――
ごちんっ!
「っ!?」
「「?」」
「!」
額を地面に叩きつけるようにブラドさんは――
「どうかこの通りぃいいいいいいいいっっっ!」と……。
土下座をした。
おれは青ざめて、口をあんぐりと開けたまま硬直した。
ロフィさんとキクリさんはそれを見て目を点にしていたけど……、おれはあまりにも恥ずかしい光景を見て、穴があったら入りたい気持ちを膨らませた。
なにせ……、目の前でブラドさんはあんな恥ずかしいことを公衆の面前でしたのだから……、恥ずかしくなって他人のふりをしたいのは当然だろう……。
漁師さんもそれを見て驚きながら慌てだし……、何とか顔を上げてもらおうと周りを気にしながらわたわたしていた。
しかしブラドさんは――
「許可をいただくまでは顔を上げない次第ですっっ!」
いや、そんなど根性をここで見せないでくださいぃ!
そんなおれの心の叫びを無視して、ブラドさんは頭を下げたまま――土下座をしたまま懇願した。
それを見た漁師さんは……。
「ああああ! わかったわかったぁ! 乗せる! 乗せるからやめてくれ!」
え?
うそ……。と、おれは驚いて目を点にした。
ロフィさんとキクリさんもそれを見て、呆気にとられて、目を点にしていた。
ブラドさんはすっと頭を上げて立ち上がった時、そのまま頭を下げて「ありがとうございまーす!」とお礼を述べていた。すごく明るい笑顔で。
そしてそのまま俺達にところに戻ってきたブラドさんは、にっと笑って――
「どうだ! 大抵の人は土下座すれば許してくれるんだよ! 俺が働いていた会社じゃ……、こんなことが毎日あって、上司に毎回毎回土下座したもんだぜ! お茶の味が変でも土下座したから、土下座だけはプロ並みだぜ! 殴られたくねえから土下座だけは完璧だぜ!」
へへっと。鼻なのかな……。そこを指の背で撫でなあら、ブラドさんは自慢げに言う。
しかしそれを聞いたロフィさんは……、真剣な目で、真剣な音色で、心配そうな表情で……。
「あなた――そこ退職した方がいいわ」と言った。
それを聞いたブラドさんはぎょっとしながら「なんでっ!?」と言っていたけど……、おれも同文です。
それきっと……、ブラック企業です。
あれ以来だったとおれは思う。
ブラドさんは確かに小心者のような性格だけど……、おれ達のことを考えて行動してくれる兄貴のような人。でも小心者は変わってないらしく……。
先頭になっても強い敵と遭遇しても逃げていて、俺とロフィさんに任せるようなことが結構あった。
本人はリーダーだと思っているみたいだけど……、正直リーダーの素養がない気がする……。大変失礼なことだけど、本当である。
だからだろうか……、アクアロイアに着いた後も、マドゥードナと言うところでその人を探しながら歩きながら、偶然アルテットミアで会った女の子達と出会い、そして流れのままリヴァイアサンと言うモンスターを浄化して……。おれは決心した。その日の夜に、おれはその人にこう話を持ち掛けた。
勧誘だった。
「お願いします。おれだけだと捌けないところがあるので、その持ち前のリーダーシップでまとめてください……っ!」
おれは目の前にいる顔に傷がある人に話をした。
正直……、ブラドさんのその小心者行動にはすごく手を焼いてて、おれも死にかけたこともある。ロフィさんとキクリさんはおれの頭を撫でて、誰も止めてくれない。
ゆえに助けを求めてしまった。
赤の他人でもあるその人に……。
しかし案外その人は飄々としてこう答えた。
「いいヨ~。俺も一人は心細いと思ったからネ。君達すごく楽しそうだから、新参者でありリーダーである俺だけど、ヨろしくネ~」
俺ジルバだヨ~。と、飄々としながらそう答えてくれたジルバさん。
おれはそれを聞いて、もう一度頭下げて「よろしくお願いしますっ!」と言った。
正直な話。
おれはブラドさんに感謝しているし尊敬もしている。一部を除いては……、ロフィさんにはすごく感謝している……。でも……。
あのキャラが濃い人達を捌くことは、おれには無理があった。
今更ながらそう思ってしまった。
ジルバさんが新しく仲間のなってくれたことで、おれは内心胸を撫で下ろしていた……。
でもあんな二人でも……、おれはそこから抜けるという選択肢はなかった。
だって二人は……。
おれの命の恩人でもあり、おれの見方を、生き方を変えてくれた恩人だから……。
そうそう変わることはない。そうそう抜けたくない。
そう思っている。今でも――
……ブラドさんのあの土下座を見て、少し折れかけたけど……。