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PLAY32 激闘! ネルセス・シュローサⅤ(本当の強さ)⑥

「お、お、お、王子ぃ~~~~っ! 一体全体どうされたのですかっ!」


 そう叫びながらアクアロイアの王宮の通路を歩いている大臣と、その前を歩いて腕を組んでいるイェーガー王子。


 大臣はトコトコと歩きながらイェーガー王子の後を追い、わたわたと手を振りながら聞く。


「なぜあのようなことをしたのですかっ!? それに一介の冒険者に素性を明かすなど、どうされたのですっ!? そ、それにあの行為は……鬼の一族にとってすれば……」


 そう聞く大臣に、イェーガー王子はぴたりと足を止めて――


「大臣」と聞く。


 その声を聞き、大臣は「はい……?」と、自分も足を止めて彼を見上げた。


 心配そうに見上げた大臣だったが、イェーガー王子は己の手を見て――大臣に背を向けたままこう聞いた。


「あの時、私はなぜ、あの少女の手を握ったのだろう……?」


「ほあ……?」


 その言葉を聞いて大臣は素っ頓狂な声を上げ、口を大きく縦の楕円形にして驚きの顔をした。


 イェーガー王子は確かに美貌王子と呼ばれているが、彼自身そのような性格で女をかどわかしているわけではない。


 ただその美貌に惚れる女性が多く、勝手にそのような言葉がついただけなのだ。


 決して女好きではない。どちらかと言うと硬派である。


 更に言うと世間的に疎いところがある。


 そして恋愛に関しては鈍過ぎる。


 だがイェーガー王子は……、先ほどの行動に対して自分でも理解できないような混乱を起こしていた。


「私は、ただあの少女の言葉や行動を見て……、ただ、儚いと思った。儚く、消えてしまいそうな光。脆く割れそうなその少女を見、私はなぜかあの言葉を口にした。なぜあの言葉を言ったのかはわからない。父である『創成王』にも、母であるあのお方にも感じなかった感情だ」


「私はあの冒険者を……。いや、()()()()()()()()()と、心から感じた。心の底からそう思った。この手で、儚く消えてしまいそうな少女を守ろうと、そう思った。これは――」


 一旦区切りをつけるように口を閉ざした後……、イェーガー王子は大臣がいるその方向を見て彼は口を開く。


 己の感情に驚きながらも、悪くないその感情に振り回されそうになりながらも彼は言った。



「これは……何なのだ? 私は、病気なってしまったのか……?」



 その言葉を聞いて、大臣は嗚咽を吐きながら……、彼はイェーガー王子をみて、ボロボロと滝のような涙を流して……。



「祝杯じゃあああーっっっ!!」



「っ!?」


 と叫んだ。


 それを聞いたイェーガー王子はぎょっと驚きながら大臣を見たが、大臣は感極まるその感動の表情で走り出し、新しいアクアロイアの兵士に言いふらすのではないかと、心配になるその表情と行動で大臣は叫びながらこう言っていた。


「王子が、王子がおうじがオウジがおおおおおおおおおおおおおおおおおおっっっっ!」


 もうすでに混乱しているのか、大臣は泣きながら小さな手足を振るいに振るい、走り出してどこかへ行ってしまった。


 シュタタタタタッ! と言う音と小さく舞い上がる埃をまき散らしながら。


 イェーガー王子はそれを見て、首を傾げながら大きな窓から見える空を見る。そしてそのまま胸に手を当てると……、まだその気持ちは残っている。否――それ以上に大きくなっている気がした。


 イェーガー王子はその気持ちに気付くこともなく……、時間が過ぎていく。


 そして大臣に粋な計らい――ではなく余計なお世話と言わんばかりのひと騒動に、ハンナとイェーガー王子は巻き込まれることになったのは……、まだまだ先の話である。



 □     □



「うぅ……」


 夜になって、私はお城の寝室で寝ていたけど、あの事を思い出してしまい、少し頭を冷やそうと廊下を歩いていた。


 たしかアクアロイアの王宮には、見晴らしがいいバルコニーがあると聞いたので、そこに行って頭を冷やそう。そう思って、今現在――私はその場所に向かっている。


 あの時のこともあって、私は少しの間あの場で悶々としていた。


 そしてアキにぃ達と合流したのは、三十分も経過した後だった。


 王子は何で……、なんであんなことをしたのだろう……。


 ましてや、一国の王子が下民 (?) である私に、あんなことをするとは……、あんな、額にキス……。


「~~~~~~~~っっっ!」


 そのことを思い出し、私は熱を逃がすようにぶんぶんッと顔を振った。


 この光景は、アキにぃ達と合流してからも、何度も何度も思い出してしまったくらい……、脳裏に焼き付いてしまった記憶だ。


 それを見ていたロフィーゼさんは、ニマニマしながら「なにかあったのぉ~?」と聞いてきたけど、私は首をぶんぶん振りながら、何も言えずにいた。


 すごく恥ずかしい……、はずかしいぃ……!


 あの後私は、顔を赤くさせながらも新しくアクアロイア王となった元アムスノーム国王の話を聞いた。


 一つはリヴァイアサンの浄化のことについて。


 これはもう王子から聞いた話……。あぁ! また顔が熱くなったっ! もぅ!


 アクアロイア王はそのことについてお礼を述べていた。でもまだアクアロイアの国自体は狂っているままだとも言っていた。


 現に、匿っていた『六芒星』は予測をしていたかのように逃げたらしく……、すでにアクアロイアからはいなくなっていた。なので砂の国で『六芒星』と接触することはないだろうと言っていた。


 でも、ある意味不法地帯の砂の国は、貧富の差が激しく、力のない人は真っ先に淘汰されてしまう場所でもあり、その場所はネクロマンサーが数人根城にしているダンジョンもあるらしい。


 ネクロマンサーは元々、一つの根城に集団で隠れて暮らしているらしいけど、砂の国は弱肉強食のような世界で、帝国に抵抗しないか。あるいは貢献した人、お金を渡した人に対して、帝国は敵味方無差別に匿うらしい。


 なので、そういった特殊なネクロマンサーは、帝国に仇名す人を倒して、帝国に貢献しているので、好きなように居座っているらしい。


 バトラヴィア帝国には、ネクロマンサーとバトラヴィア帝国精鋭兵士。そして……


 バトラヴィア帝国に味方する集団……、つまりは冒険者がいる。それも……、パーティーで二チーム。


 一つはバトラヴィア帝国と深い親密がある――バロックワーズ。


 そして……、そのバロックワーズの参加パーティーで、複数の徒党で構成されている……。


『BLACK COMPANY』が、バトラヴィア帝国に手を貸しているらしい。シェーラちゃんが知っていると言っていたパーティー名だ。


 後でシェーラちゃんに聞いて……。あ。


 と言ったところで、私は思い出してしまった。そして……、ふと寂しさを感じてしまった。



 そう言えば、シェーラちゃんとの約束は……、もう果たされちゃった……。



 そう思い、私は思い出す。そう――シェーラちゃんとはこんな契約をしたのだ。


 アクアロイアに着くまで、一緒に行動してほしい。


 本当は……、『ネルセス・シュローサ』を壊滅したくて一緒に行動していただけ……、何だけど……。


 なんだろう……、これからも一緒だろうなと思っていたけど、突然あんなことになって、それで突然『ネルセス・シュローサ』に戦いを挑んで、リヴァさんを浄化して……。


 アクアロイアに来てからずっと一緒だったから……、キョウヤさんみたいにずっと一緒にいてくれる。まだ大丈夫だって思っていたけど……、別れは、突然来るんだ……。


「なんだか……、寂しい」

「なにが?」

「ほえっ!?」


 突然声がしたので、私は肩を震わせてしまった。そして声がした方を見ると、すでにそこはバルコニーで、アクアロイアの夜の風景を一望できる……、その景色を独り占めできそうな風景が目に映った。


 それを見て、そのバルコニーの手すりに寄りかかって、私を見ていた――


「シェーラちゃん……」


 私は彼女の名前を呼ぶ。その音色には、寂しさが含まれている。自分でもそう思った。と言うか……、事実そう思ったから、声に出てしまったのだろう。シェーラちゃんはそんな私を見て鼻で笑ってから――


「なんて顔してんのよ。さっきの悶々とした顔じゃないわね」とクスッと笑いながら言う。その悶々というのはきっと、王子のことを思い出していた私だろう……。それを聞いた私ははっとして、手を振りながら顔を赤くして――


「ち、違うよ……っ! あれはその……」と、何とか弁解しようとしたけど、シェーラちゃんはそれを聞いて肩を竦めながら「はいはい」と言っていた。


 それを聞いて、私はバルコニーに近付きながら、シェーラちゃんに聞いた。


「なんでここに?」


 そう聞くとシェーラちゃんはバルコニーに上半身を預けるように突っ伏して――アクアロイアの夜の景色を見ながらこう言った。


「ちょっとね……、考え事をしていたの」

「やっぱり……、この後のこと?」


 それを聞いた瞬間、シェーラちゃんは口を閉ざした。


 私はそのままバルコニーから見える景色を見て……、そしてシェーラちゃんの言葉を待った。


 すると、シェーラちゃんは言った。


「この後のことを聞いて、あんたはどうするつもり?」

「……私は」


 私は少し間を開けた後、シェーラちゃんの横顔を見ながら控えめに微笑んでこう言った。


「私は、明日くらいになったらバトラヴィア帝国に向かうよ。バトラヴィア帝国にも、『八神』様いると思うし、シェーラちゃんとはここでお別れだけ」

「なんでそう決めつけるのよ」


 シェーラちゃんは少しとげのあるような言い方をして、私を見ないで、私に向かってそう言ってきた。シェーラちゃんは少し怒った音色でこう言ってきた。


「私は確かに、あなた達とは利害の一致のような関係で関わってきたわ」

「うん」

「そして両方の目的が達成した」

「うん」

「あなた達はリヴァイアサンを浄化することができた……。けど」


 シェーラちゃんはすっと背筋を伸ばすようにバルコニーから離れて……、そして私のを見て、怒っているけど……、どことなく苦しいもしゃもしゃが感じられるような……、そんな気持ちと表情で、彼女はこう言った。


「私は――あんた達に……、()()()()()()()()()、ネルセスに剣を向けることができた」

「………それは、えっと」


 と言って、私は首を傾げながら理解できないような顔をする。するとシェーラちゃんはずいっと私に顔を近づけて、むすっとした顔でこう言ってきたのだ。



「つまり……、私は何もできなかった。弱かったから何もできなかった。事実上――」


 あんた達の力があったから……『ネルセス・シュローサ』は壊滅した。



 結果的に言うと、あなた達がしてしまった。



 そうシェーラちゃんは凛々しく、はっきりとした音色で言った。


 それを聞いた私はぎょっとして、わたわたと手を振って慌てながら「ち、違うよ……。だってネルセスを倒したのはシェーラちゃん」と言うと、シェーラちゃんは流れるような動作で、私の手を掴んで、そしてこう言った。


 その手を見せるように、私の目の前にその握った手を持って行き――


「こうやって――してくれたから、私はできた」


 シェーラちゃんは続けてこう言った。凛々しいけど、なんだか納得したような、そんな音色で、気持ちで、シェーラちゃんは言った。


「結局、私は弱かった。弱くて、一人じゃ何もできなかった。でも理解しただけ。師匠が何で、私に剣を……カタナを持たせなかったのか、私が子供だからっていう理由が明白な理由だと思う。でも……、なんとなくだけど……。剣を持つ、武器を持つにあたり……、ただただ力を強くするだけじゃダメ。心も体も、両立して強くしていかなければいけない。私には、そんな心の強さはなかった。だから師匠は私に剣を持たせなかった。見せるだけだったのよ」

「………なんで」

「?」

「なんで、シェーラちゃんは、そんなに強さに固執するの……?」

「…………………………」

「あっ! ごめんね……っ。そんな悪い意味で聞いたわけじゃ……」


 そう言って、私はもう一度謝ろうとした時……、シェーラちゃんはふぅっと息を吐いて、そして思い出すように、アクアロイアの空を眺めながらこう言った。


 夜空を眺めて、そしてすっと目を細めながら、彼女は言った。


「私の両親……、離婚したって言ったでしょ? 両方浮気して」

「……うん」

「その浮気を最初にしたのは……、気弱で貧弱で、何より何に対しても『うん』とかしか言わなかった弱虫な父なの。父は酒に溺れている時だけは強気なのに、それ以外はチキンで屑」


 チキンで屑は……、流石にお父さんには言いすぎなんじゃ……ないかな?


 そう思っていると、シェーラちゃんは話を続けてこう言った。


「そんな父に、母は愛想をつかした。父が浮気した理由はね……。『自分のことを守って甘やかしてくれる人が良かった』って言っていたわ。でも浮気相手も父に愛想をつかして再婚しなかった。母は凛々しくて、そんな父のことを守ろうって努力していたんだけど、疲れから他の男に惚れてしまったってこと。だから私は……、そんな父になりたくないって思って、強くなろうって気持ちが強かったのよ」


 シェーラちゃんは……、ずっとお父さんになりたくないって思って、強くなろうと思ったんだ。


 だからお師匠様に剣を教わって、強くなろうと思ったんだ……。


 そう思って私は両手でシェーラちゃんの手を握った。包み込むように握った瞬間、シェーラちゃんはぎょっとして驚くと、私はシェーラちゃんを見て、控えめに微笑みながらこう言った。



「シェーラちゃんは強いよ。ネルセスを相手に、一人で戦ったんだもん。私を守ろうとしてくれた。それだけでも、すごい勇気がいると思うし……、すごいと思うよ。シェーラちゃんは――強いくてかっこいいよ」



 それを聞いたシェーラちゃんは、一幕間を置いた後……、大きくため息を吐く。それを聞いた私は、ぎょっとしてなぜ溜息を吐くのかと思い疑問を抱く。


「……あんた、自分がしたことに対しては評価しないのね……」

「?」


 今、シェーラちゃんぼそりと何か言った? そう思いながら顔を覗こうとしたとき、シェーラちゃんは「まぁ――()()()()もできたからね……。()()()()()()()()()()」と肩をすくめて、そっけなく言う。


 それを聞いて……、ん? 目的? 長い付き合い? 


 私は目を点にしてシェーラちゃんの顔を見ると、シェーラちゃんは私を見て――


「……実はね……。あの普通そうな男から聞いたの」

「……普通……?」

「エレンってやつよ」

「あ、あぁ……」


 私が首を傾げた瞬間、シェーラちゃんは呆れながらエレンさんの名前を言うと、私は思い出すかのように斜め上を見上げて言う。


 と言うか……、シェーラちゃん……。エレンさん=普通って……、いくら何でも……。 


 そう思っていると、シェーラちゃんは言った。


「ネルセスの隠し部屋に、彼女の日記があって……、その紙と紙の間に……、とある情報があったらしいの」

「情報……?」


 シェーラちゃんは言った。


 ネルセスはエレンさんにこんなことを言っていた。


 ネルセスは部下達を使って、何とかしてでも理事長の情報を調べようと探していた。


 ここはデータの世界。


 ゆえに情報となる欠片が転がっているに違いないと踏んで探した結果……。何個か見つかったことが分かった。


 エレンさんはアルテットミアに戻って、その欠片があるかクエストがてら探すことにするらしい。情報が入ったら手紙で伝えるとシェーラちゃんから聞いた。


 ……エレンさんが知った、ネルセスが掴んだ情報は三つ。


 一つ――私達をここに閉じ込めた理事長は、『魂のコピー』ということをしていたらしい……。その概要はわからないけど、ネルセスは体験談をもとに推測をして、理事長は何かになろうとしていることを突き止めたとか……。でもその情報だけはそれだけだったとか……。


 そして二つ――私達精神データの基盤を作った人達も監視者で、その人達は親子で、このMCOだけではなく……、VRMMOの基盤を作り上げたすごい人だということが分かった。


 その親子も、監視者としてここにいる可能性が高いと踏んだらしい。


 最後に三つ――ここからがシェーラちゃんにとって、重要な情報だった。


「監視者の中に……、私の顔見知りがいたの」

「……え?」


 その言葉を聞いて、私は驚きを隠せずに、シェーラちゃんに誰なのかと聞くと、シェーラちゃんは、小さく「っは……」と言った後……、自嘲気味な笑みで、彼女はこう言った。


 笑みが止まらないとは……、このことだ。シェーラちゃんは怒っているのか、喜んでいるのか、はたまたはばかばかしくなって笑っているのか――それが混ざったような表情で、彼女はこう言った。




「――()()()()()()()()()()()()()()()……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()……っ!」




 あんのくそ師匠……っ!


 そう言うシェーラちゃんの言葉に、私は――


「……それって……」


 私は込み上げて来る喜びを隠せずに、ふにゃっと笑みを零して聞くと……、シェーラちゃんは手を離して――


「ええ……。結局このまま続行……。じゃないわね。あなたたちだけだと不安だから、私が一緒に行ってあげるっって言っているの。魔導士系統の所属は必要不可欠でしょ? それに、強くなりたい気持ちは変わらないわ。これからは、心も、体も強くする。誰かを守れるくらい。勇気を分け与えられるくらい。強くね」


 そう言って、シェーラちゃんはにっと笑みをこぼして、ぱちりとウィンクを向ける。


 私はそれを見て、聞いて……、何の迷いもなく頷いて――


「――これからも、よろしくね」


 私は新しい仲間のシェーラちゃんに言う。


 それを見て、シェーラちゃんは柔らかい笑みで――


「ええ。よろしくね――ハンナ」と言った。


 私達の横でその光景を見守るように照らしてくれるその大きな三日月は、まるでエストゥガを思い出させるような、大きな三日月だった……。


 こうして……、私達に新たな仲間――シェーラちゃんが正式に加わることになった。


 そして翌日――……。



 □     □



「「えええぇぇぇーっ!?」」


 謁見の間についたキョウヤさん達は、シェーラちゃんのその髪型を見て驚いて目を丸くした。シェーラちゃんはそんなアキにぃとキョウヤさんを見て、顔を赤くさせてそっぽを向きながら……「な。なによ……、変?」と、唇を尖らせながら照れながら聞いた。


 そう。砂の国に行くということもあり、心機一転で、シェーラちゃんは昨日のうちにアクアロイアの出店でアクセサリーを買い、髪を二つに結んで、少しゆるふわっとしたツインテールの状態にしたのだ。


 髪飾りはサンゴ礁や貝殻のアクセサリーに、あとは鯱のアクセサリーもつけていて、水族館が大好きと言っていたシェーラちゃんにとって、そのアクセサリーはお似合いのものだった。


 キョウヤさんはそれを見て――「いやいや! イメチェンしたのか! 見間違えた……っ」と頷きながら納得して……。



「逆に違和感」と、アキにぃがそっけなく答えた瞬間……。



 ――バギャンッッ!



「あべしっ!」


 アキにぃは横から来た殴鐘の餌食となって、そのままぶっ飛んでしまった。なぜだろう……、なんぜがーディさんを思い出したのだろう……。デジャヴ?


 そう思いながら殴鐘が放たれた方向を見ると……。そこにいたのは……。


「女の子にその言葉が心なぁい……。もっと別の言い方があったはずよね……?」


 黒い笑みでアキにぃを見ていたロフィーゼさん。その背後で震えているシイナさんにブラドさん。ブラドさんたちが探していた相手であるセイントさんは、さくら丸君を抱えて宥めている。そして……。


「あれ……、なんで()()()もここにいるの……?」


 キョウヤさんがびくびくしながらシイナさんたちの背後にいた――ジルバさんに聞くと、ジルバさんは「いやネー」と言って、頭を掻きながら飄々とした笑みでこう言った。


「実はシイナ君からネー。『お願いします。おれだけだと捌けないところがあるので、その持ち前のリーダーシップでまとめてください……っ!』って嘆願されちゃって」


 両手を握って祈る仕草をしてジルバさんは言った。それを聞いたキョウヤさんはブラドさんを見て――


「お前年上だろうがっ! 少しは先輩として威厳を保てっ!」


 怒りながら突っ込んだ。しかしブラドさんは昨日から泣いているのか、目元を赤くして――また泣きながら……。


「保ってたよっ! 保っていたけどなんでこうなったのかわからんっ! 俺も理解不能! ここまで来れたのって、俺の苦労もあってなのにぃ!」と言っていたけど……。シイナさんの眼が、座っている……。


 ブラドさんを見る目が、どことなく冷たいものを感じた……。


「そうよねぇ……、あれでそう言えるのかしらぁ……」

「ロフィまでっ!」


 あぁ。ロフィーゼさんまで……っ!


「そういうことだから……、昨日からジルバは私達のリーダーってことになったの。名前の申請はこの後するとして、()()()()()()()()()()()()、少しの間お世話になるわ。団長さん」

「? 一時期?」


 キクリさんとヘルナイトさんの声が聞こえたけど、それを聞いていたシェーラちゃんはジルバさんを見て……、少しだけ浮かない顔をしていた。


 それを見て、私は声をかけようとした時――


 ――ギギィイイイ。


『!』


 大きなドアが開く音が聞こえ、私達はすぐに前を向くと、謁見の前の王様が座るところに、新しく王となったアクアロイア王がすっと座り――


「うむ。全員いるな」


 と言って、私達を見下ろしながら王は言った。


「そなた達。昨日のリヴァイアサンの件。大変ご苦労であった。大義であった」


 そう言って、王様は続けてこう言う。


「余がこの国の王……、『改革(かいかく)導王(みちびきおう)』として、今日をもって王の座に就く。就くことに関してはまだ確定ではないが、この国のことを束ねるにあたってやらねばならぬことがある。それはギルドの数だ。この国にはギルドの数が少なすぎる。そなた達に協力するにあたってこれでは少なすぎると思い、『亜人の郷』のクルクと最長老の二人で、『亜人の郷』に新しいギルドを一つ作り上げるにあたり……そなた達に――鬼神卿一行に、余から直属クエストを言い渡そうと思う。これは……『極』クエストに値する重大な任務である!」


 その言葉に、私達の周りに緊張が走る。ブラドさん達は私達を見て驚きの顔をしていた。


 キョウヤさんから聞いた話――私がいない間にクルク君が来て、あのことについては最長老様が言うことを聞いたけど……、クルク君達が来た理由はこのことだったんだ。


 それを思い出しながら私は王様の言葉に耳を傾ける。


 王様は大きな声でこう言った。


「砂の国を守る『土のガーディアン』を浄化するにあたりその砂の国にいる魔女を見つけ、この五つの書状を渡してほしい。書状の内容は見るな。そして魔女の居場所は魔女しか知らん。魔女の居場所は魔女に聞いて向かい、この『極』クエストを完遂するのだっ! 報酬はのちに話すことにする。まず最初に向かう場所は――『蜥蜴人の集落』にいる、『樹』を操る魔女に会うのだ」


 ……こうして、私は新しい仲間シェーラちゃんと共に新しい国である不法地帯……。


 バトラヴィア帝国に足を踏み入れることになった。


 次に浄化する『八神』は……、土のガーディアン。


 それを聞いた私はぐっと顎を引いて、気持ちを引き締める。


 その姿を見ていたヘルナイトさんはそんな私を見て、どこか不安げな表情を浮かべていただなんて、その時の私には知る由もなかった。

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