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PLAY32 激闘! ネルセス・シュローサⅤ(本当の強さ)⑤

「さぁ――肩の力を抜いてくれ。私はそなたとただ話がしたいと思っただけだ」


 そう言われましても……、正直な話……、私は王子様と面と向かいながら、紅茶を啜る度胸などない。


 今でも緊張のあまりに視界がぐるぐると回って、おかしくなってしまいそうになっていた。


 今現在……、私は王子様とワンツーマンで話を……、違う。大臣さんが王子の傍で立ち尽くしていた。


 まるで執事のようにじっと立ったまま、私と王子様のその光景を見ていた。


 私は最初、前アムスノーム国王が新しいアクアロイア王になったので、みんなと一緒に謁見の前に向かおうとしていたのだけど、突然大臣さんに呼ばれて、お客人と一緒にお茶を飲んで話す場所に連れてこられて……、現在に至っている。


 豪華そうな壺や青を基準とした壁。その中央に置かれたフワフワというか、ふかふかの水色の応接椅子ではない豪華そうな椅子。そして装飾がきめ細やかで、宝石が埋め込まれているガラス製の横長テーブル。


 全部がファンタジーの貴族達が話すシーンで出てきそうな豪華さと優雅さを基準とした家具だらけだった……。


 全部でいくらするのだろう……。


 そんな少しばかり汚いようなことを思いながら、緊張する気持ちを何とか和らげようと模索していると……。


「どうした?」

「っは!」


 イェーガー王子は私を見て聞く。


 私は現実に引き戻された拍子に『びくんっ』と肩を震わせて王子を見ると……、王子は私の前に置かれているティーカップに手をすっと出してこう言った。


 にこっと気品ある微笑みで――


「それは大臣が淹れた紅茶だ。緊張しているのならば、それを飲んでからでもいい。落ち着くまで、私は待つことにしよう」


 そう言われ、私は目の前に置かれたティーカップに入った飲み物を見る。


 カップの中で揺らめくオレンジ色の紅茶。鼻腔をさす仄かなフルーティーな香り。それを嗅いだ私はゆっくりとした動作でその紅茶が入ったカップを、両手で落とさないように慎重に手に取る。



 そのティーカップも豪華なもので、ところどころに金色の何かが塗られているところを見た瞬間、壊してしまったらうん十万……、ううん。何百万と言う弁償請求が来るかもしれない……!


 そのくらい今私が持っているティーカップは豪華なもので、私は震える手でなんとかそのカップを口の前に持っていき……、その紅茶に口をつけて――こくりと少しだけ喉に通すと……。


「………おいしい」


 カップを持ったまま、私はその紅茶の美味しさに驚いて、思ったことをそのまま感想にして言う。それを聞いて、王子はくすっと微笑んだ後――


「気に入ってもらえたか?」


 と聞いてきた。


 それを聞いた私は「はい」と言って――


「すごくお口に合います。とってもおいしくて、ほのかに甘くて……、大人でも飲めそうな紅茶です。冷たくしてもおいしいと思います」


 と、思った感想を口にして、そしてはっとしてから王子を見て私は慌てて頭を下げて謝った。


「ご、ごめんなひゃい……っ。その、王子様の前で……っ!」

「いや、よい。それよりも、幾分か落ち着いたか?」


 そう聞かれて、私は顔を真っ赤にして、さっき噛んだことを思い出して更に顔を赤くしながら……、小さい声で「は、はい……」と言う。


 それを聞いた王子はにこっと微笑みながら「そうか」と言って――


「これ小娘っ!」


 と横に立っていた大臣さんが、私を指さしてぷんぷん怒りながら私に向かってこう怒鳴った。


 怒っているのはいいのだけど……、大臣さんは背が小さい……。大体百センチの背なので、怒っても何も凄みとかそういうのはない……。すごく申し訳ないけど……。


 それでも、大臣さんはぷんぷんっと怒りながらこう怒鳴った。


「貴様イェーガー王子の前で何たる不躾な発言をっ! 確かにその紅茶は私が作ったイェーガー王子専用の紅茶、ゆえにイェーガー王子のお口に合う史上最高のお紅茶なのじゃぞっ! それを一介の、ましてや冒険者風情が知ったかぶりのような発言をする出ないわっ!」


 それを聞いてか、王子は大臣さんの方を振り向き――


「よい。大臣。そなたは大臣としての役目、そして私の専属執事をしている身であるが……、私はそなたのその献身さには感服しておる。そして……、冒険者の肩が申した通り、私もそなたが淹れてくれた紅茶は冷たくてもおいしいものだ」


 大臣さんはその言葉に感動したのか……、ぶるぶる震えながら泣きだして、懐から出した白いハンカチを持ち……、「お、王子……っ!」と言いながら目元を拭いた。


 その光景を見ながら、私はその二人の仲の良さを見て……。


「お二人は、とても信頼し合っているんですね」と、控えめに微笑みながら言った。それを聞いた王子は私の言葉に、一瞬驚いた顔をしたけど、すぐに微笑んで「ああ」と言い――


「大臣には迷惑ばかりをかけている。私も、大臣に恩を返したい気持ちなのだが……。それもあまりできなくてな」と、申し訳なさそうに言った。


 それを聞いて大臣さんはハンカチを持ったまま泣き出して――


「何をおっしゃいますか王子ッ! 王子が健全で息災なく生きていることこそが……っ! 私の生きる糧であり……っ!王子が私に与えている恩返しですぞおおおおいおいおい……っ!」


 あぁ……、最後には顔をハンカチで覆って泣いてしまった……。


 それを見て、私は大臣さんに大丈夫なのかなと手を伸ばすけど……、王子はそれを見て、慣れたような動作で手を上げて、私に向かってこう言った。


「すまない……、大臣は少々涙腺が緩くてな」

「………はぁ」


 涙腺が緩んでいる……? 大臣さんの足元は、既に大きな水溜りができているけど……、それでも、涙腺が緩んでいるという理由で留めるのかな……?


 こんな時、キョウヤさんがいてくれたら、的確な突っ込みを入れてくれると思うけど……。


 私はそんなことを考えながら、少しだけ緊張が和らいだことで、王子と面と向かって話を聞くことに専念した。


「さて――此度のリヴァイアサンの浄化に関して、アズールの代表として、私から礼を言わせてくれ」


 そう言った王子は、座りながらだけど――すっと頭を下げた。


 私はそれを見て、慌てて手を振りながら「あぁ……、そんな、頭を上げてください」と言った。


 しかし王子は頭を上げずにそのままの状態で――


「……この二百五十年もの間。アズールの猛者達は『終焉の瘴気』を打ち払おうと奮起していた」

「!」


 王子は言った。


「だが……、そんな私達の行動を、意思を、培ってきた力を嘲笑うかのように、『終焉の瘴気』はすべてを飲み込んだ。戦う意思を飲み込み、猛者達を飲み込んで……、結果として、アズール全土にその瘴気が蔓延してしまった」

「………それは」


 その言葉を聞いた私は、何も言えない状態で膝に乗せていた手をぎゅっと握りしめ、少しだけ私も俯いてしまう。


『終焉の瘴気』は……、私達プレイヤーにとってすれば……、ラスボス。


 でも、ここの世界の人達にとってすれば……、自然の脅威であり、止まることを知らない厄災。



 恐怖なんだ。



 王子はすっと顔を上げて、真剣な目で私を捉えて――こう言う。


「しかしだ……。今回の件はそれ以前の問題だった」

「それは、アクアロイアの件で、ですか?」


 その言葉に王子は頷く。そして続ける。


「アクアロイアのことに関して言うと、これは私達王都の人間に原因がある。昔の話ではあるが、私の父の代より六代前の王は、他国との商業で裏の手引きをしていたと聞く。異常なくらいまでに富を優先にする王であった。王都はアズールを束ねる存在。アズールを束ねることができるのならば……、その王の力をもって無理矢理もみ消すこともできる。アクアロイアの件もきっと……。その六代先の王が当時のアクアロイア王から何かを受け取り、無理矢理もみ消した」


「………自分の、利益のために?」

「あぁ。これはいわゆる……。アズールの民(私達)が引き起こしてしまった罰だ」


 王子は言った。


 すっと前かがみになって、そして膝の上に肘を乗せ、その前に手を絡めながら、王子は私を見て言う。


「これは、私達が解決するべきことだった。だが手が出せなかったのも事実……、アクアロイアは貧富の差が激しい国で、あろうことか国民が狂いに狂い、現状を把握することができなかった……。その手を煩わせてしまい……、大変申し訳なく思う」


 それを聞いて、私は最長老様が言っていたことを、ふと思い出した。



 このアクアロイアは狂っておる。腐っておる。



 その言葉を思い出し、私は王子に聞いた。


「あの……、アクアロイアは前までは、緑豊かな国だったんですよね……?」

「? あぁ」


 王子は言うそれを聞いた大臣さんは「これっ!」と、ハンカチを片手に持ったまま、大臣さんは涙声になりながら私に向かって怒鳴る。


「王子に向かって」

「いや……、よい」


 王子が手を上げて制止をかけると、大臣さんはうっと唸りながら、口をそっと閉ざす。すごく申し訳なさそうな顔をして。それを見て、私は王子を見ると、王子は私の質問に答えた。


「確かに……、アクアロイアは創世記までは、緑豊かな『緑の大地』と呼ばれていた。しかし、今となっては、砂と水に隔てができてしまった」

「……確か、些細な喧嘩だと聞きました。そうなった理由が」

「……、些細な。確かに、私も文献でしか見たことがないが……、本当に些細な理由だった」

「何なのですか……?」

「聞きたいか? もしかしたら、そなたが幻滅してしまうかもしれないような内容だぞ」


 その言葉を聞いたとしても、この事態になってしまったのだ。今更引けないと、私は思い――頷いて「それでも……聞きたいです」と真剣に答える。それを聞いた王子は、すっと目を伏せ、そして考えるように絡めた手を額にこつんっとつけて――重い口を開けるようにこう言った。


「――些細な喧嘩は、『()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()に、この国を……、アクアロイアを二つに分けて、各々の国の者で品定めをしたのだ」

「アズールを……、統べる……?」


 その言葉に、私は首を傾げながら王子に聞いた。王子はその私の疑問に対してこう答えた。


「前アクアロイア王とバトラヴィア帝王は……、大昔喧嘩違いになった()()()()()と言われている」

「……えっ!?」


 それを聞いた私は、驚きを隠せなかった。なにせ、あのアクアロイア王と、会ったことはないけど、バトラヴィア帝国の王様が、遠い世代の兄弟の子孫……つまり……。


「それは……、もしかして」

「ああ。そのまさかだ。些細な喧嘩、誰がアズールを統べるに値するかと言うことに対し、兄は現国バトラヴィアを、弟は現国アクアロイアを、己が思うが儘の国に作り上げた結果……こうなってしまったのだ。己らが思う国……。砂の国の王は王たる素質のために税を多く徴収し、貧富の差を大きくさせ、魔女と言う異端児を消すために、魔女狩りを作り上げてしまった。水の国の王は王たる素質のために、魔法兵器――今でいう魔導具の生成、そして領土拡大を企て、とある種族を言いくるめ、厄介とみなした『獣人里』を滅ぼした。それが今回の結果を招いてしまった」


 どうだ? 


 王子は私に聞いた。そして続けてこう聞く。


「滑稽だろう……、そなた達異国の者にとってすれば……、私達、アズールの民が起こしたことは、幼稚で、身勝手で、愚かに見えるだろう。その犠牲となってしまった闇森人には……謝罪の言葉しかない。なにせ、王の命令により、彼らは嵌められてしまい、滅亡録に記されてしまった……。これは闇森人のせいではない。その時統べていたアクアロイア王の身勝手により……、こうなってしまった……。愚かに見えるだろう? このような話を聞けば……」


 その言葉に、私は――何も返すことができなかった……。


 確かに、その話を聞いた私は最初――なんで、ただアズールを統べたいがために、そんなことをするのだろう……。そう最初は思った。でも……、後から考えたら……、それは王様になる人ならば、考えてしまうことなのかもしれない。アズールの『創成王』になることは、アズールのすべてを統べる。それは偉大なこと。偉大になりたいから……、誰もがその地位を掴み取ろうとする。


 だから……、アクアロイア帝国の兄弟は、その地位を一早く掴みたかったから、自分はすごいこんなことができるいことを言いたかったんだ……。


 認めてもらいたかったんだ……。


 ただ……、認めてもらいたい気持ちが先走って……、間違えてしまった。


 道を……踏み外してしまったんだ。


「……私は……」

「?」


 私は口を開く。


 王子は私を見て首を傾げた時、私の顔を見て、言葉を聞いて……驚いたかのように目を見開いた。


 それは大臣さんも同じで、私の言葉はきっと意外なものだったのだろう……。


 私が放った言葉は――これだ。



「私は、ただ……、悲しいと思いました」



 その言葉を聞いて、王子と大臣さんは、目を点にして言葉を失って驚いていた。それを見た私は――王子達に向かって、「えっと……」と言ってから、こう続ける。


「確かに……、その御兄弟がしたことはひどくて、許されることではありません。もし、もしもです……。その道が過った道ならば、もっと平和的な道があったのでは? もしかしたら、その道に進んでいれば……、もしかしたら、こうはならなかったのでは……? そう思って……、いたんです。もし正しい道があれば……、その道に進んでいれば……、未来は変わっていたのかなって思って……。だから、悲しいって思ったんです。こんな運命……、誰も通りたくないと思うから……」


 最後だけは、だんだん声が小さくなってしまったので、私は俯きながら言葉を続けた。


 それを聞いて、王子はただ……、私の話を聞いていた。大臣さんも話を聞いていた。


 だから……私が言った後、しぃんっとその場が静まり返った。


 私は内心――何を言っているのだろうと思いながら、顔を抑えながら赤くなった顔を見せないようにして俯いていた。


 今にして思うと……、恥ずかしいことを言ったと思ってしまったから……。


 思ったことを言うって、本当はすごく恥ずかしいことだったんだ……、齢十七歳にして学んだ私。そう思いながら顔を隠し、顔の熱が収まるのを待っていると……。


「運命か……。確かに、そなたの言うことも正しい」と、王子は言った。


 それを聞いた私はそっと顔を上げて王子の顔を見た。王子は私の顔を見たまま、ふっと笑みを零すけど……、その笑みはどことなく、悲しいけど、受け入れているような、そんな笑みだった。


 王子はそっと前髪をかき分けながらこう言った。


「しかし……、運命は誰にも変えることができないものもあれば、変えることができる運命もある。だが今回はそうではなかった。変えることができない運命であり、受け入れなければいけない運命だったと、私は思う」


 そして、私に曝け出された額を見せた王子。大臣さんはその額を見て、大慌てでハンカチ端っこを持ったまま「王子っ! そ、そのような姿を」と隠そうとした。


 でも王子はその手を阻んで……。大臣さんに向かって「いいんだ。私がそうしたいと思ったのだ。止めるな」と言った。


 それを聞いて、大臣さんはしゅんっとしながら「さ、左様ですか……」と小さい声を放ちながら後退する。


 私は、王子の額を見て……、目を疑った。


 その額には……、縦一文字に、数字の一のような傷があったのだ。痛々しく、でも前髪で隠せるような傷が、そこにあった。


 それを見た私は……、王子のその額を見て聞く。恐る恐る聞く……。


「そ、その傷は……」


 すると王子は――



「私は人間族ではない。私は……、その()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()だ」



「……鬼?」


 聞いたことがない言葉に、私は首を傾げてしまう。それを見てか、王子は「聞いたことがないか」と言って、前髪を戻しながら説明してくれた。


「鬼とは、魔女の原点と言われている存在だ。鬼は体内に魔力を有し、魔法を駆使して人間達に貢献していた。聖霊族のようなものだな。常人よりも倍の力を有している鬼は、崇拝の対象であり、災いを呼ぶ忌族と呼ばれていた。ゆえに、創世記の時、鬼は滅亡録に記され――滅ぼされた。人間族がまいた噂と、その力を欲した者達の策略により――鬼は滅ぼされてしまった。鬼の魔力の集合体である。角を奪いたいがために……」


 それを聞いた私は、ただ口元を抑えて……、悲しい気持ちを抑えることしかできなかった。


 そんな身勝手な理由で……、一つの一族を……。


 そう思っていると、王子はそんな私を見て……、ふっと微笑んだ後……。


「なぜ――そなたが悲しむのだ?」


 その言葉を聞いて、私は思ったことを口にした。


「だって……、そんな身勝手な理由で……。力が欲しいって理由で……、一つの種族を滅ぼすなんて、そんなこと、考えられなくて、苦しくて、痛くて……」


 それを聞いてなのか、ぎゅうっと自分の胸の前で握り締めていた手に、ふっと重みが加わった。それに気付いてその重みの正体を探って、周りを見ると……。


 大臣さんはハンカチを床に落として、愕然とした目でその光景を見ていた。その視線を追うと……。


 私も、驚いて言葉を失ってしまった。


 なぜ? 理由は簡単。


 王子が、私の手にその大きくて暖かい手を重ねていたから。近くにいて私の右横で、しゃがんで膝をついて……、私の傍にいたから。


 目を点にしてその光景を見ていると……、王子は言った。私の眼を見て、私を見て……言った。


「確かに、そなたの言う通り……、身勝手な理由と思っただろう。私もその運命を呪った。しかし……、私はここにいる。父である『創成王』の気まぐれかもしれないが、私の角を折り、そして人間として――今もこうして生きている」

「だったら、恨んでも」

「しかしだ。私は恨んでいない。むしろ……、この運命を受け入れている。そして、前に進もうとして、曲がりくねっている道を進んでいる」

「……………………」

「そなたの言う通り、それが悲しい運命であるのならば、私はそれを受け入れたい。私は父に拾われたことを心から感謝している。そして、この力を、いつか民のために使いたい。このアズールの、明るい未来のために」


 私は思った。王子のもしゃもしゃを見て……、思った。


 この人は……、心の底から、悲しんでいない。心の底から……、その運命を受け入れて、生きている。忘れているわけじゃなくてその悲しい運命を加味したうえで、生きているんだ。


 この人は――心も体も……、強い人だ。


 そう思い、その人の手を見て――私は聞いた。


「運命があるのならば……」

「?」


 私は言う。一幕おいて……、私は王子の顔を見て言った。



「私が――浄化の力に選ばれたのは、運命ですか……?」



 王子はその言葉を聞いて一瞬口を開けて何かを言おうとしたけど、すぐに口を閉ざし、すっと立ち上がって――私の眼を真剣な目で見てこう言った。


「運命であるのならば、私はそう思いたい。しかし……、その運命に耐えられなければ……、身が壊れそうになれば……、私はそなた達の力になろう。それで心が休まれば、心の重みが楽になるのならば――私はそなた達の力になろう」


 その言葉の意味はきっと……、一人の人に対しての言葉なのか。それとも一国の王子としての威厳であるのかは……、分からないけど、それでも私は、その言葉に対して、こう答えた。


「……ごめんなさい。気持ちだけでも、受け取ります。弱音を吐いてしまってごめんなさい。これは、『大天使の息吹』を授かった私の運命です。だから……、お手を煩わせるようなことはしません。これからも、浄化の旅を続けます。みんなと、一緒に……」


 そうだ。これは、私の運命。他人に迷惑をかけてはいけない。これは――私にしかできないこと。


 脅迫しているようだけど、なんとなくそうだと認識してきた。だから続けるんだ。


 ゲームクリアのために。


 アキにぃと、キョウヤさんと……。そして――



 ヘルナイトさんと……。一緒に――



「………そうか」


 王子はその言葉を聞いて納得したのか、すっともう一度しゃがんで……、あれ? なんで顔を近付けいるの? というか近い……っ! え?


 私に顔に――と言うか額にどんどん顔を近付けていく王子はそのまま額のところで止まって……、手を掴んだまま――




「そなたの運命に――幸あらんことを。そして、旅の無事を、祈る」




 そう言って――とんっと額に当たる……。


 柔らかくて、温かくて、それでいて……首元が至近距離の……。


 思考が停止して、王子はそのまま離れる。さも平然と私を見下ろし、ふっと微笑んで――


「では。()()()()()


 それだけ言ってすたすたとその場を後にする王子……。大臣さんも茫然と白目をむいたまま固まっていたけど、はっと現実に戻って「お、お、お、お、お、おうじぃぃぃ~~っ!」と早足で後を追った。


 私は一人その場所に残され、そっと額に指先を押し当てる……。


 王子はさっき、私に何をした……?


 言わなくても分かると思うけど……、今、私……、額に……。


 そう思い、顔に集まった熱を冷やそうと手で仰ぎながら大体十分くらいはそこに座っていた……。アキにぃと合流できずに、さっきの行動を思い出しては冷ましてを繰り返して――

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